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IPEの風 6/16/08
アメリカの農業に欠かせない、受粉を担ってくれるミツバチが大量失踪している、というNHKクローズアップ現代の内容に興味を持ちました。
失踪の原因はまだ確定しませんが、アメリカ農業の大規模単一栽培は、ミツバチにも過酷な労働と移動を強いています。偏った食糧、強まるストレス、さらに、農薬として散布される新しい強力な予防薬や害虫駆除の薬品がミツバチの体内にも蓄積されます。ミツバチたちの免疫システムが破壊され、あるいは、方向感覚を失わせます。
これは人間に対しても、特に、子供たちに対して、強い警告とならないのでしょうか?
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忙しい就職活動の合間に集まってくれる4年生たちと、世界銀行に関する章を読むのに、その要点がつかめません。世銀のホームページを観ました。世界銀行はブレトンウッズ体制としてIMFと同時に成立しながら軽視されてきました。詳しく研究していないのですが、債務危機の国を新興市場として証券化する、また、多国籍企業の直接投資をもっと重視する、という1980年代の後半から、その役割を転換しつつ重要性を増したように思います。
ロバート・B・ゼーリック世界銀行総裁の演説(2008年4月、世銀東京事務所HPより)「現下の世界経済運営における政治的課題」を読みました。興味深い内容です。彼は世銀のビジョンを、「貧困を克服し、環境に配慮した形で成長を促進し、個人に機会と希望を与えようというものでした」と述べています。
ゼーリックは、ワシントン生え抜きの官僚であると思います。「スワスモア大学を1975年に卒業し、ハーバード大学法科大学院で法律学博士号(JD)を、1981年にはケネディ行政大学院から公共政策学修士号(MPP)を取得。1980年には特別研究員として香港に居住した」と経歴が載っています。その後、彼は財務長官ジェームズ・ベーカー3世の下で働き、財務省、国務省、ホワイトハウスでも次々と要職を務めました。ライス国務長官が彼を副長官に引き抜きましたが、1年後、ウォルフォヴィッツの辞任を受けて世銀総裁になりました。
さらに関心を引く点は、住宅金融機関のファニー・メイにおいて執行副会長を、またゴールドマン・サックスの副会長も務め、その意味で、サブプライム融資問題に深く関与しています。また2001-05年、米国通商代表を務め、WTOのドーハ・ラウンド立ち上げにアメリカを代表して参加し、中国や台湾のWTO加盟を推進、ベトナムやロシアとの参加交渉も担いました。その後、アメリカのFTAを5倍に拡大した、と世銀HPは紹介しています。
外交問題評議会にも属し、ドイツの東西統一に貢献したことで勲章を授与されています。
パックス・アメリカーナの管理部長、もしくは、総支配人という印象です。私はゼーリックの演説を読んで、偉いな、と感じました。彼はアメリカが世界の金融不安を招いたことを率直に認めた後で、こう述べています。「このような、一見、人間的でないような諸力に対して、人々が対応するために苦しむ姿をわれわれは見た。」 そして、目先の脅威を退けるだけでなく、「将来の成長と革新の源になるグローバリゼーションを、持続可能で、より多くの者を包み込むものとし、ショックや不況に対処するために協力して、すべての者に最大の機会と希望を与える必要がある。」
ゼーリックの演説が面白いのは、彼が学習する姿勢を強調し、その影響力と知識、能力を駆使して、現実の変化を促そうとするからです。世界的な食糧「ニューディール政策」、国連のミレニアム開発目標、弱い立場にある人々を直接に支援するプロジェクト、子供たちの就学や自助努力を通じる資金援助、アフリカの零細農家を「貧困の悪循環」から脱出させる試み、干ばつなどの天候に対するリスクを金融市場の革新的手段でヘッジする、科学技術へのアクセス、農民たちが必要としながら民間銀行が提供していない様々なサービスや仲介・助言、農産物貿易システムの自由化、貿易の公正さを実感できるような制度の近代化、「石油の呪い」を解く採掘産業の透明性イニシアティブ、貧困諸国への直接投資を促し、政府系投資信託にも「1%のソリューション」へ参加を求める、・・・そうすれば、アフリカが中国やインドのようになる、と訴えます。
国境や政治体制の違いを超えて、世界銀行は貧困の解消に努めます。グローバル・ガバナンスの実現は、まだまだ、多くの危機や政治家の力量、そして何より、指導的な地位にある個人の創造性や影響力、その管理能力と理想に依存しているのです。
演説の最後にはビスマルクの名言が登場します。運命が通り過ぎようとするとき、その襟をつかむのが本当の政治家である、と。古い政治経済の構造は崩壊し、新しい経済的なパワーの源泉が登場しつつあります。商業的な<帝国>を築く企業や資産家たちの興亡に目を奪われて、変化の本質を見失ってはいけません。世界銀行は、貧困の解消、中進諸国の安定化、アラブ世界も含めた開放型市場への参加、温暖化防止などのグローバルな公共財供給において、その責任を果たしたい、とゼーリック総裁は主張します。
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