******************************
IPEの風 5/12/08
グローバリゼーションへの疑念や不満,不安が強まっています.各地で,グローバリゼーションとナショナリズムが衝突しています.
アメリカ・・・民主党の大統領候補指名争いが続く中,金融危機から不況が迫り,グローバリゼーションへの不満が労働者たちの間で強まっている.
日本・・・ガソリン価格の変動や後期高齢者医療保険制度が深刻な政治不信を招き,中国との領土問題や映画「靖国」の上映,胡錦涛主席の来日より,女子高校生殺人事件や硫化水素自殺に関心を寄せる.政治的な真空状態のまま過ごし,その将来は?
イスラエルとパレスチナ・・・建国・民族離散の60周年を,さらなる入植地拡大とロケット攻撃で迎え,ガザ地区の封鎖も解けないまま,和平の国際仲介は実らない.
中国・・・オリンピックの祝賀が攻撃的ナショナリズムの噴出へ変わり,世界の中国人留学生や中華街まで巻き込んで,チャイニーズ・レッドの国旗が国境を超えて波のように広がる.また,世代間の異質なイデオロギー,地域格差・所得格差,ホッブス的な弱肉強食の市場,環境破壊型成長への依存を,迷いながらも維持するしかない.
ロシア・・・秘密警察国家を築きあげたプーチンに指名され,リベラルなインテリ家庭の雰囲気を伝える新大統領はヨーロッパと和解できるのか? 権力の二頭制とナショナリズムがエネルギー大国の将来に不安を強める.
・・・ドイモイ後の急速な市場型成長を定着させるベトナム,・・・グローバルな超富裕層が赤い市長を見捨てたロンドン,・・・ハリケーンに襲われた国民を無視して憲法による保証を求める軍事政権の下,僧侶たちは忘れられ国民は苦しみ続けるミャンマー,・・・
J.A.フリーデンやJ.ラギーを読みながら,同じような国際秩序の危機と再建が,第一次大戦の前にも,第二次大戦中と直後にも,熱心に議論されていたと知りました.
「その時代は繁栄をもたらして印象深いが,そこには問題と緊張があった.新興の経済・軍事大国が大いに狼狽をもたらした.ヨーロッパ,アメリカ,日本の植民地拡大は,発展途上世界の多くの人々の主権と民族的アイデンティティを脅かした.エスニックな対立がバルカン半島や中東を苦しめた.」(J. A. Frieden, Will Global Capitalism Fall Again? ) ・・・20世紀の初め,反グローバリゼーションの心情が広まって,自由貿易や金本位制,国際移民は反対されるようになったのです.特に,急速に成長する新興地域から流入する安価な農産物は,旧工業地域の農民たちの生活を破壊し,政治情勢を悪化させました.
フリーデンは,グローバリゼーションを崩壊させた最重要な要因を,経済よりもまず政治の問題,国内の制度改革と国際的な協調を指導できなかった政治の限界に見ています.
今も,ようやく,L.サマーズやA.ブラインダーが新しいニュー・ディールや新しいブレトン・ウッズを主張し,アメリカの新しい大統領を動かす可能性があります.イギリスやヨーロッパからは(イラク戦争に懲りて),国連軍を介して地域紛争を解決するため,富裕諸国の政府が国際紛争予防基金を設立する提案が出るでしょう.かつては発展途上諸国の危機に際して,ラディカル派が主張していたことです.
グローバリゼーションと,国家や地域共同体が模索する<繁栄と協調の枠組み>は,誰にとっても,どの国にも未知のものです.いつまでも日本だけが沈黙している,とは思いません.その足元から,つまり,国内の貧困を新しい社会制度が積極的な活力に転換し,さらに憲法改正,日中関係,アジア外交,国際機関の刷新まで,日本が重要な役割を果たす時代が来る,そんなグローバリゼーションの未来もあると思うのです.
******************************