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IPEの風 2/4/08

奈良の空気は冷たく,朝晩は身を切るような寒さです.久しぶりに一日中雪が降って,入試監督を終えると駐車場の自動車は雪に埋まっていました.

10年ぶりの大雪,という印象です.この前,家の前に積もった雪で子どもたちが雪だるまを作ったのを思い出したからです.私たちも若く,子どもたち皆が元気に外へ出て一緒に遊んでいた頃でした.冷たい雪を集めても気にならず,今度の積雪より,大きな雪だるまができました.

翌朝,末っ子だけを連れて散髪に行き,行き帰りの道で,わざわざ残った雪を踏み歩く彼の様子を見て楽しく過ごしました.小さな児童公園に数本の踏み跡があるだけで,真っ白です.この街には雪を喜ぶ子供も少ないのだろうか,と思いました.

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日本の大学の入試制度は間違った方向に変化していると思います.

l  入学金と入試日程

l  受験料収入への依存

l  地方入試会場の急増

l  さまざまな特殊な入試制度(推薦,社会人,留学生,帰国子女,アドミッション,スポーツ)

l  入試科目の減少

l  入試監督の人員(人材派遣会社への依存)

大学の教育に対して授業料を集め,設備の充実費を(企業や国に)寄付してもらうのは分ります.しかし,入学金や受験料が大きな収入であるというのは間違いではないでしょうか.受験を口実に資金集めをするのは,受験生とその父母の弱みに付け込んだ悪徳商法だと思います.

ところが,無秩序に競争を促す教育政策を採れば,高額の給与でスター教授(研究業績だけでなく,テレビ出演・知名度,政府の諮問委員会,企業との研究協力,就職の斡旋・コネクション,など)を集め,美術館や豪華ホテルのような校舎を建て,美しいキャンパスやオリンピック出場,全国大会(特にテレビ中継される)の選手育成にお金をかける大学が,結果的に,優れた学生を集める点でも成功します.

フランスの大学では,バガロレア(大学受験資格試験)のほかに,4時間?の哲学試験があるそうです.だからフランスの政治家や官僚は,独特な発想や表現力を磨き,あるいは,高慢・傲慢に見えるのか,などと思いました.受験産業などは育ちません.

工学部でも,企業と提携して技術や新商品の開発により商売に励むだけでなく,もっと基礎研究を極める雰囲気もあった方がよい,と聞きました.さまざまな新奇な学部を増やすより,古典的な学部の充実を図ってほしい,と思うのも同じような不満です.安定した組織原理と,活発な革新的試みを,両立させるような仕組みが必要でしょう.

入試は,その国の教育システム全体に影響を与える重要な変換装置です.長い目で見て,本当にこれで良いのでしょうか?

l  東大・霞が関を中心に旧帝大と有名私立大学に偏ったピラミッド構造から,都市部のマンモス大学に有利な競争市場型入試制度へ.

l  受験産業への追随

l  資格・就職・専門学校への追随

教育は<社会>の縮図です.それは過去や現在だけでなく,理想や未来を表します.R.ドーアや森嶋通夫を,かつて,面白く読んだことがあります.時間があれば,比較教育制度論をもっと読んでみたいです.

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乙川優三郎の小説に時を忘れ,その情感に呑まれることがあるのは,作家の天才に拠るのはもちろんですが,それだけではないのでしょう.年齢や経験,失望を重ねたからです.

いくつも読みました.『生きる』や『冬の標』,『五年の梅』は格別です.ある作品に触れたことで世界を見る眼や感覚がずれた(動いた)ように感じるのは,文学であれ,社会科学であれ,同じことではないでしょうか.

作品を味わい,その厳しい世界に驚くとともに,作中の人物が多くの障害,そして多くの死に対峙して生きる姿(その感動や激情)を描くというのは,他の分野(そして,他の国)にはない,時代小説の自然観,独自の風景なのだ,と思いました.

・・・中編の時代小説を読ませて,6時間かけて書評を書く,という入試はどうでしょうか?

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