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IPEの風 9/24/2007

安倍首相の辞任劇に劣らず,イギリスの銀行取り付けも,現代の中に突如現れた歴史劇を観るような驚きをもたらしました.何もかも,どこかで聞いた話です.日本のバブル崩壊と金融システム危機において,またアジア通貨危機において,まったく同じ議論を私たちは聞きました.

アメリカ南部の小都市で,黒人青年の被告たちに対する過剰な求刑が人種差別である,という抗議の声が上がっています.ミャンマーでは,軍事政権に対する僧侶たちの抗議デモが続き,数千人が参加しています.軟禁されているスー・チー氏の自宅前でも彼らは祈りました.

ナショナリズムをもてあそべば,ベルギーと同じように,日本も消滅してしまうでしょう.世界初(?),長髪,ポニーテールの大蔵大臣や,33歳の移民大臣がいるスウェーデンに,私も住んでみたいです.

「耕論 農業再生の道は」(朝日新聞 923日)を読みました.日本の農業にはどのような未来があるのでしょうか?

私は農業について,こんなことを予想しました.1.大規模化し,機械化して,移民労働者に頼るカリフォルニア型農業.2.都市近郊の小規模農家が,町のファーマーズ・マーケットで消費者と語り合う,コミュニティー型自営農業.3.国土の環境保全のため,農地だけでなく,原野に戻した土地や山林を維持する,エコロジー型自然監督官制度.

さて,生源寺真一さんは現在の農政を支持して,日本の自給力を強調します.戦時に備えて,とは書いていませんが,独立国家の基礎である,というわけです.そのためには担い手が必要ですが,補助金や公務員では(財政赤字で)困ります.経営規模を拡大して,自立した農家を育てよう,というわけです.

これに対して佐藤了さんは,経営規模では所得が維持できない,と批判します.問題はグローバリゼーションと農産物価格の下落だからです.農業は農産物の価格だけで評価せず,安全で安心できる生活や自然環境によって評価するべきだ,と考えます.だから「規模に関係なく所得補償」でよいのです.

最後に,本間正義さんは,バリバリのエコノミスト理性派です.自給率は目標ではない.マーケットの結果である.それを目標にしたいなら,ちゃんとコストを示して国民に問うことだ.有事の食料が心配なら,多国間・二国間の制度を鍛え,友好的な国際関係を築き,有事体制(戦略備蓄など)を整備せよ.その上で,日本はグローバリゼーションを拒むことなどできないから,貿易自由化交渉などに積極的に取り組むことだ.

つまりエコノミストの世界では,市場競争に耐えられない者は退場し,個人や企業が自由に参加して,外国からの農業労働者も受け入れる.こうした構造改革を経て,世界市場の一部となった日本が,自動車だけでなく農産物においても,国境なきマーケットに受け入れられる.(その場合だけ)日本に農業が存続する,・・・とまで書いてないけれど,そういうことです.

「独立国家論」,「所得補償論」,「グローバル・マーケット論」という,興味深い対照を見ました.容易に正しい答えは見いだせないでしょう.農家の皆さんはどう考えているのか? もし都市からの所得移転が重要であるなら,都市の住民はどう考えているのか? 貧しい諸国の開発には,農産物の輸出より,労働集約的な工業製品の方が重要となっています.また,ヨーロッパのように,日本も通貨制度や労働市場を統一するべきかもしれません.・・・誰と?

私はさっさと引退して,田舎で暮らすのが夢です.絵本を描き,あるいは,子どもたちを集めて小さな塾を開きたい.だから,活気ある農業と,伝統的な自然の美しさが心を満たす田舎を残してほしい.互いの善意を信じて,感謝する気持ちが湧いてくるような,そして,静謐な読書が最大の楽しみであるような暮らしです.

優れた国際秩序や社会制度を構築するため,絶えず改革に邁進する若い政治家たちが育ってくれたら,日本だって良い国になるでしょう.農業にも,環境政策にも,グローバリゼーションと共存できる優れた質を目指してください.

拙著『グローバリゼーションを生きる』は26日にできます.その後,書店であなたに逢うでしょう.

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