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IPEの風 9/17/2007
安倍首相辞任のニュースと,その後の報道を観ながら思いました.この国はこんなに不安定なのか? この指導者には現実よりも自分の理想や体裁が大切なのか?
1.アフリカの砂漠の小国か,聞いたこともない独裁者の国のように,日本の政治システムで頂点にある人間が交代し始めました.小泉ブームによる衆議院の多数を利用すれば,自民党がクルクルと首相を交代させて勢力均衡を模索するかもしれません.安倍首相は,多数派による支配を自分の政策実現や権力維持のために,操縦する才覚と腕力を持たなかったのです.
2.王族や宗教指導者が正統性を前提に政治を安定化している国が,安倍首相の「政治」というイメージに合っていたのではないか,と思ってしまいます.アラブ諸国や共産圏,あるいは,小さな島や高山,ジャングル奥地の部族国家,そして・・・アメリカのブッシュ政権のように.
3.まるでクーデタを繰り返す中米の小国か,ロシア周辺の傀儡政権のようです.国際貢献や日米関係,要するに「テロとの戦い」に参加することで,世界やアジア,中国や北朝鮮に対する政治的発言力を維持する.それが「アメリカとの特別な関係」(ブレアが批判された「プードル路線」)に頼る,安倍・麻生的な「物言う外交」の中身でした.
これは多分,小泉旋風の政治的破滅,ポピュリズム政治,万年危機の始まりです.「人気がある」=選挙の顔として「政治指導者」にふさわしい,という浅慮や誤解がありました.国民が示した拉致家族に対する同情,北朝鮮に対する不満,中国への懸念や恐怖を,安倍氏は若い,さわやかな,タカ派のイメージによって吸収するように見えました.
4.しかし,マスコミはもっと強調しなければなりません.安倍首相が辞任した最大の理由は,「戦後レジームからの脱却」論です.国民の多数は支持しなかったにもかかわらず,首相の地位を得た彼は,持論としての憲法改正,特に9条の廃止を唱え続けました.教育基本法に「愛国心」を取り入れ,自衛隊や防衛庁を「ふつうの軍隊」に格上げし,憲法の禁止するような,アメリカと協力した戦争行為を世界のどこででも展開できることを望みました.
実際の日本外交をその信念に縛りつけて和風ネオコンと化し,アメリカが中国と協力して6カ国協議で北朝鮮を平和的に武装解除しようとしているときに,ネオコンの北爆推進論者のように,安倍氏は強硬姿勢を取り続けました.自分が「美しい」と信じる解決策を追求しましたが,ナショナリズムとは関係ない年金問題や政治家たちのスキャンダルで人気を失い,誰も自分を支持してくれないことに苦悩を深めたのは当然です.
「局面の転換を図る」というのは,安倍首相の述べた最後の言葉です.安倍氏は内閣改造によって,次々に起きる問題に対処しつつ,国民生活を重視して改革の実行を説得できたはずです.「戦後レジームの転換」や「美しい国」と心中する必要などなかった,と私は思います.伝統や理想を云々する前に,日本の「政治」を北朝鮮に拉致されたのです.
5.NHKで西アフリカの世界遺産を伝えるシリーズを観ました.第1回はマリ共和国の断崖にある「ドゴンの集落」です.部族間の戦乱を避け,また,野獣の多いジャングルを避けて,断崖の中に集落を築いたそうです.200人や2000人ではなく,20万人が住む,ということに驚きました.10メートルの深さに井戸があり,わずかな農地を耕します.岩の上にも小さな土を囲って作物を植えます.子供は多く,この大家族を養う農地があるのだろうか,と不思議でした.
ドゴンの教えは三つ.「誰にでもあいさつしなさい.争ってはいけません.先祖を敬いなさい.」 村より上にある学校で,成人する前の子どもたちが集団生活を送り,先祖の教えや伝承,壁画の意味を学びます.
伝統の仮面踊りを教えるリーダーは,戦乱と野獣を生き延びた集落も,地平線の向こうからやってきた砂漠化によって滅ぶことを憂えます.そして,先祖からの伝統の仮面踊りが失われてしまうのを防ぎたい,と訴えるのです.・・・ドゴンであれ,日本であれ.
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