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IPEの風 8/20/2007

夏休み.奈良県野外活動センターへ行って,テントに泊まってきました.自然の中で火を起こして自炊し,末っ子と面白い話でもしながら眠りたい,と思ったのです.

この小さなテントは,何年も前の夏祭りの福引きだったか,携帯電話の契約時に得た福引きだったか,子どもが当てたものです.部屋の中で作ると,なんとも立派で,作り方が簡単,とても機能的です.ここに寝そべって生き物の声や満天の星空を眺めることができたら,大満足だろう,などと思ったわけです.

名阪国道で針インターチェンジを降りると,室生寺の手前で折れます.野外活動センターは,奈良県民が利用するなら,私たち二人で290円でした.スゴイ!

しかし,子供と元気に喜んでいたのは,フィールド・アスレチックを回って汗だくになった後,バイキング式のお昼ごはんをボーイスカウトの子供たちと一緒に食べたときまででした.家族サイトがあるのは第二センターだ,と言われ,自動車で移動してから,どうも心配になりました.

たどり着いたビジターセンターに,案内人は一人だけ.薪(まき)で自炊したいと言ったら,親切に教えてくれました.まず,太い薪を三本,互いに交差させて風通しを良くします.真ん中に新聞紙をねじって積み上げ,細い枝や木片を集めて,新聞紙の山に立て掛けます.火を付けたら,しばらくは決して動かさないこと.

まあ,他にも自炊をやってる人がいるでしょうから,助けてもらおうかな,と言うと,「いいえ,今日は一組だけです.」 ・・・ エッ?

猛暑の続いたときですが,この辺りは前日に激しい夕立があり,その日も昼過ぎに話していると雨がザーザー降りました.これでも火が付くのかな? 「大丈夫です.雨の中でも自炊できますよ.でも薪をナタで割いて細い木を用意した方がよいでしょう.」 と,ナタを借りました.・・・ハイ,ハイ,・・・もちろん,その通りにします.

一輪の手押し車に荷物を積んで,私たちはヨタヨタと山に入りました.なるほど,竈(かまど)がいくつも設置されており,水道も使えます.グループ利用のため(要するにボーイスカウト)の常設テントがいくつかありました.杉林の間には,旗を掲げるポールもあります.

しかし,本日の利用者はゼロ.・・・それは無いよな,と心細くなったのはもう少し後です.ともかく,この調理場やテントのサイトを越えて,さらにヨタヨタと坂道を登ると家族サイトでした.末っ子が元気にテントの設置を始めたので,よし,と気合を入れなおし,自炊道具や薪,食材を調理場に運び,手押し車をセンターに返しました.

まだ夕食の用意には早いので,周辺を歩きながら,教えてもらったトイレや水道を確認しました.小魚のいる清流や沢は無いということでしたが,小さな貯水池があり,緑に覆われたグランドにカエルがたくさんいました.取ろうとすると,ピョコ,ピョコ,手の先を跳んで逃げます.

その後,早速,お米を洗って水に浸し,薪を細かく割りました.末っ子は苦心して野菜を刻んでくれました.いよいよ竈(かまど)に太い薪を組んで火を起こしました.たき火は順調に燃え上がり(火力が強すぎたことに後で気付きましたが),ともかくご飯を炊き,すき焼きを作りました.やれやれできた,と思って,ひっくり返して蒸しておいた鍋を開けると,残念ながらご飯は半分が黒焦げ.芯もあって,少し食べただけでした.あっという間に水分が蒸発し,どんどん焦げていたことも分からず,ガッカリです.でも,すき焼きは簡単.卵に浸けて二人でいっぱい食べました.

まだ5時過ぎでしたが,杉林の中は太陽が山の向こうに消えると暗くなってしまいます.デザートのプリンを食べて,後片付けを急いですませ,6時半ころにはテントに戻って,ようやく二人が寝る場所を確保しました.

ところが,簡単なビーチ用のマットを地面に敷いて寝袋を広げただけでは,石や小枝,地面の凹凸が体に当たって,痛くて眠れません.テントの外に立つと,自分の無知と無力にタメ息が出ました.

夕闇に沈む林の一角に立つテントは,何とも頼りなく,虫の声や,何だかわからない物音の続く闇に吸い込まれてしまいそうです.私は自然(その片鱗)を恐れました.とうとう完全な闇と静寂に包まれたとき,私を信じて付いてきた子供をなんとか無事に連れて帰りたい,と真剣に願ったほどです.

とはいえ,息子は背中が痛いのも忘れてすぐに寝入ってしまい,蒸し暑かったので私はテントの覆いを取り除きました.夜8時過ぎに起きた彼は,一冊だけ持ってきた『コンチキ号漂流記』の残りを読み,そのあと,星やカエル,そして,彼の大好きな「変な生き物」たちの話をして過ごしました.

ともかくサバイバルです.ランタン代わりに持ってきた懐中電灯が壊れました.子どもは嫌がったので,私一人,水道の蛇口まで行って,真っ暗闇で歯を磨きました.一人でトイレに行くときも道がわからず,藪の中をさんざん歩き回って,ようやくテントの明かりを見つけて帰ることができました・・・

戦争と同じように,人間は自然を恐れる,と私は思います.ボーイスカウトなど,経験を積んだ指導員が指示を与えてくれる場合,キャンプは運動会のようなものです.自然ではなく集団行動がテーマです.私は,寝息を立てる子供を眺めるうち,ジャングルを逃げ回った兵士や捕虜の話,今も砂漠や灌木の下に隠れる難民たちの話,地震や空襲により町や家を破壊された人々の話,などを想像しました.

もちろん「森の生活」には,受験勉強も,交通渋滞も,住宅ローンや金融危機もありません.しかし,電気や上下水道(少し利用しましたが),ガス,家屋,エアコン,自動車,ガソリン,テレビ,オーディオ,レストラン,書店や図書館,お風呂,電話,・・・を失う生活は大変でした.まるで,国境を超える非合法移民たちのように.

都市や文明生活に改良を加えて,ときには自然の中でも,仲間と楽しく暮らせたらいいのに.

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IPEの風 8/28/2007

昨年の春に調査したものを,今度こそまとめなければ,と決意して,「ヨーロッパ移民政策の教訓」を書くため,Reviewを整理する時間がありません.・・・遠雷,虫の音,涼風.夏休みもおしまいです.あしからず.

面白い本を斜め読みしました.Leo Lucassen, The Immigrant Threat, University Illinois Press, 2005. 家族を乗せて明石大橋を越え,徳島の大塚国際美術館までドライブしました.あるいは,スピード違反のせいで橿原まで行き,免許証を更新するのが大変でした.そして,平岩弓枝の『はやぶさ新八御用帳』などを,あいかわらず,楽しく読んでいます.

私が最近のコラムで関心を持ったIPEの問題群としては,1.サブプライム・ローン,2.覇権体制,3.日本とインドの安保協力,4.ヨーロッパの移民,5.中国の資本規制,6.日本経済,です.

ご覧のように,アメリカのサブプライム・ローンをめぐる金融市場の動揺はむしろ拡大しているようですし,トリシェとバーナンキの市場介入は疑念をぬぐい切れません.金融ビジネスが社会に貢献(あるいは寄生)している実態を,業界自体や公的な監視,民間団体の告発や情報開示要求などで証明してほしいです.

覇権体制について,アメリカと中国が重要になるのは当然です.それに続いて,インドやEUが来るわけです.覇権というのは,日本にも,ロシアにもないし,ブラジルやイラン,インドネシアにもないでしょう.人口規模と領土の点でそうですが,独自の国際システムを求める自立したエンジンとして,パワーや自尊心,歴史的主張が日本などの指導者たちには欠けています.・・・皇室や靖国がある? ・・・それは限界や罪過ではないですか?

安倍首相がインドとの関係を強調するのに,特別な意味はないと思います.アメリカがインドの核武装を承認した姿勢を真似ているだけです.被爆国ですが? でも,インドと協力すれば中国に対抗できる,というような発想は,外交として貧しいでしょう.また,ロボットやスパイによる新しい戦争,北極圏の分割競争は,軍事力と領土に対する旧来の国民国家による支配がどれほど変わったのか,変わりうるのか,その真価を試されるケースです.

そして,ヨーロッパの移民自由化や中国の資本規制撤廃は,新しい世界の「ゲームのルール」を決める条件となりそうです.もし宇宙人や神様,タイムマシンに乗った未来人や天才科学者の集団がやって来て,この世界を統治すれば,世界の姿はどのように変わるでしょうか?

日本の指導者たちが,この宇宙人との連合軍や連邦構想を率先して示すなら,将来の平和と繁栄を確信して,多くの日本人が中国やインドと協力して労働者や技術者を招き,農業においても自由化と労働力の流入を促して,高齢者には新しい経済成長からの収益を還元するでしょう.

それは歴史上の世界都市と,かつてアメリカが,今やEUが示す姿勢に近いと思います.

世界が変わるときには,宇宙人や神や未来の科学者集団のような革新的な人々が現れて,昼夜を問わず,活発に議論したのではないか,と思います.そのような力を集める街が,日本の各地にも育てたいです.

(再校正も済みました.拙著『グローバリゼーションを生きる』(萌書房)が書店に出るまで,あと約25日です.キザス書房と読みます.)

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