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IPEの種 2/5/2007

日本でひき逃げ事件を起こし,犯人であると分かっている外国人が,ブラジルに帰って暮らしている.そのことを知りながら,日本の警察は逮捕もできず,娘の命を奪われた家族が耐えるしかない.そんな報道に唖然とします.日系人の出稼ぎを奨励した日本の「移民政策」は,この欠陥をいつまで放置するのでしょうか? 日本の犯罪集団が日系人や外国人を囲い込んで利用する条件を,政府が野放しにする姿勢は,無法状態を急速に広めるでしょう.

ここに紹介したDANIEL GROSSの論説(“The U.S. Is Losing Market Share. So What?”)を読んで,私が心配したのは長期的な「日本の衰退」です.何を証拠に,と言われても難しいですが,多くの人が同じように感じていないでしょうか? 年々,老人が多くなり,子供の少ない社会になります.未知に挑戦する若さを欠き,勤労精神を欠き,政治的な指導力を欠き,社会的な一体感や結束を欠く.都会の,豊かな者だけが称賛され,テレビに映るアイドル歌手や芸能人たちが人気を集める中で,まじめに働く辺境の人々は軽蔑され,貧しいまま,切り捨てられる.

医療や年金の財源が枯渇するだけでなく,病人や老人を介護する人がいなくなるでしょう.兄弟や家族,肉親,友人を犠牲にした犯罪のニュースが続いて,近頃では驚くこともなくなりました.100円ショップは流行っても,街の商店街は,まるで虫歯のように,ところどころシャッターを閉ざしています.大型の小売店が進出することを,私は決して悪いことだと思いません.しかし,都市では銀行とマンションが,地方ではショッピング・モールと病院ばかりが,人の住む景観を変えて行きます. ・・・誰が,どこで,物を作っているのか? と将来に不安を感じます.

大人たちが畑や工場で働く姿を見ることもないまま,子供が育ちます.日本は,経済的というより,社会的・心理的に,不可逆的な衰退の渦から抜け出せません.

土曜日の夜に「マトリックス・レボリューション」を観て感心し,日曜日には「メン・イン・ブラック」を観て驚きました.この斬新な発想と,それを徹底的に映像化する力はすごい,と思います.事実,SFや冗談でしか描けないほど,怪異に満ち,深刻な現実を,私たちは生きています.

なぜこれほど面白いのか? 映像を見ながら,日本のアニメを模倣しているように感じることもありました.それでも「マトリックス」は,細部までが濃密で,非現実のリアルさを追求する情熱に感心します.きっと多くのスタッフがさまざまな意見を交わして,いくつもの試作を積み重ねたのでしょう.また,「メン・イン・ブラック」はアメリカ社会や人間の振る舞いを風刺し,笑い飛ばすジョークの連発です.そうか,いつも変だと思っていたけど,あれはやっぱり宇宙人の仕業か! と納得し,宇宙人たちの容貌や奇行を楽しみました.

日本には何があるか? 最近,平岩弓枝の『御宿かわせみ』を読んでいます.第11冊に入っている「犬の話」,「虫の音」,第12冊目にある「春の摘み草」,「岸和田の姫」,そして「息子」,などを面白く読みました. ・・・かわせみの女主人,るい,に付いて来た迷い犬が,そのまま番犬となって居ついてしまいます.「犬が喋りもすまいが,なんとなく無口な感じで,ききわけが良い.」 二つの商家が,犬好きと猫好きで喧嘩をし,その騒ぎに気を取られて泥棒に入られます.また,鈴虫の音を一緒に聞いた娘の縁談相手は,その弟と受験競争に明け暮れている頼りない男でした.娘になじられた男は正気を失い,母親を斬殺します.

日本が長期的に衰退するのか,再生するのか,予想することはできません.最も重要で,難しい部分は,「人の心」だからです. ・・・主人が使用人に生ませた跡取り息子は,悪童になって町中で嫌われましたが,最後に,母親を助けようとして刺し殺されます.からだが弱く,一人ぼっちで育てられた大名の娘は,お忍びでの江戸見物を大いに楽しみ,別れに涙を流します.腕のいい大工の息子は,親父と殴り合って喧嘩しますが,亡くなった後,ひとりで号泣します.

世界は,日本のことなど忘れてしまったかもしれません.Davosの参加者たちは日本人の政治家を誰も知らないでしょう.ToyotaやHondaはアメリカの会社だと思い,Uniqloは中国の会社と思っているかもしれません.しかし,NintendoのWiiと日清食品のカップヌードルだけは,今も,日本を代表する商品です.

10年後,20年後に,日本が何を作り,何を輸出できるのか,予想もつきません.でも,きっと,面白い発想や,とんでもないことを絶対にやってやろうという意欲を持った人々が,楽しく,いっしょに集まる機会を豊富に提供できる会社や地域社会が,とても大切だと思います.

2020年あるいは2100年に,日本はもう自動車を輸出していないでしょう.トヨタやホンダが人間型ロボット(あるいは作業を補助するパワー・スーツ)を輸出しています.病人や老人を助け,話し相手になるヒューマノイドだけでなく,日本はさまざまなゲーム機とゲーム・ソフト,三次元アニメ,インスタント食品,などを輸出しているでしょう.

もしかしたら,エルキュール・ポワロやハリー・ポッターの小説が輸出されるように,日本の時代小説が世界に輸出されているかもしれません.世界中の書店や図書館には,江戸下町地図や「奉行」,「岡っ引き」,「町娘」などの絵が並び,「マンガ」とともに,「捕物帳」や「剣豪」,「市井物」などの棚ができています.そして「人情」は世界用語の一つになって,世界中の空港や駅には,回転寿司屋と讃岐うどん屋があります.

その頃,ようやく日本政府も方針を転換します.「肉親を虐げる若者たち」に頼るより,「人情に厚い異国の子供たち」を歓迎する世論を受けて,日本各地で提出される「過疎の村を復興する国際移住計画」を承認します.世界中の,子供を愛する家族による定住化を,日本政府が支援するのです.彼らはヨーロッパのフットボールやハリウッド映画だけでなく,Wiiとカップヌードルで育った世代です.

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