******************************

IPEの種 1/29/2007

農業(土地・食糧)と戦争(治安・戦死者)は,市場によって資源配分や分配,そのあり方を決めることが難しい分野です.

NHK教育・土曜フォーラムで「近郊農業の将来」を観ました.ジャーナリストの内橋克人氏は,農業は命を育て,働くことの意味を教え,所得を単に数字としてみない姿勢を持った,人間同士の社会関係を築く,と訴えました.土に根ざした農業を失えば,人間も荒廃してしまう.農業こそが生産活動の基礎を支えている,という意識を失ってはいけない,と.

現実には,書面での契約や金融取引において,電子的に数字を動かすだけで莫大な富をもたらす「仕事」が称賛されます.物やサービスを売買することが,具体的な意味を失い,金銭的な結果だけで評価されます.労働も,それに従う人間も,金銭で表される価値がすべてであるかのように「市場」は評価します.

本当にそれでよいのだろうか?

政治に何ができるか? フランスの例が紹介されました.補助金によって歴史的な品種のりんご栽培が復活し,畑の間には森林地帯が保存され,数の減ったフクロウが放されました.生態系の保存地区として,農業もその一部になっています.

私たちに何ができるか? 「安ければ良い」というのではなく,「なぜ安いのか?」と考える.消費するだけでなく知ること,倫理的消費者が増えている,と言います.値段を比較するだけでは分からない,その商品の背後にある事情まで知って,それを買うかどうか決める.それだけの情報を得て選択する消費者が育てば,たとえ価格がそれほど安くなくても,消費者は自分たちが好む生産者を選ぶはずだ,と.

「自然の中で暮らしたい」と思えば,その自然が農業や林業として経済的利益をもたらし,雇用を維持できるほうが良いでしょう.近郊農業ではなく,<新しい田園都市>.

しかし,それは保護主義ではないか? 既存の雇用・職場を守ることが,必ずしも正しい選択とは限りません.なぜなら他国において,また,国内の他の分野で,保護主義は雇用を損なうからです.輸出が増えることで投資や雇用が増える貧しい諸国に,その機会を閉ざすのであれば,フクロウを助けて貧しい諸国の子供たちを苦しめるかもしれません.

社会的な価値や合意された制度を維持するために貿易を規制するのは,自由貿易に反するでしょう.しかしそれも,間違いではない,と思います.

エコロジーと貿易について書いたことがあります.生態系の循環にとって,市場による物資やエネルギーの大規模な利用は破壊的影響を及ぼします.森林や資源を収奪された植民地の悲劇は,その後の政治システムや経済構造も歪めてしまったことです.しかし他方で,世界市場と結びつくことで豊かになり,自然を守りながら発展した国もあるでしょう.

戦争の民営化・市場化も進みました.もし戦争の目標が「できるだけ(政治的・経済的に)安く勝利すること」であれば,危険な地域には貧しい国から傭兵を雇い,生物化学兵器や核兵器を使用して短期に勝利するのが良いでしょう.豊かな国は保護主義によって理想社会を守り,その主要な輸出品は,農産物,プルトニウム,兵器! 他方,貧しい国の主要な輸出品は,・・・人間! 兵士,底辺労働者,売春婦,養子,あるいは,バラバラの臓器として.

「社会的に何が望ましいか?」 さまざまな基準の間に,絶対的な均衡状態やトレード・オフは無いと思います.通貨危機でも,移民問題でも,同じ社会に参加しながら発言できない者が居ました.問題の根っこには,共通の基礎を見つけるために話し合う,政治・経済的な秩序が不足しています.

早朝の駅前で,職場に向かうサラリーマンに向けて話す政治家が居ました.彼女は先の選挙でも落選した「緑と虹の連合(緑の党)」の候補です.その飾らない,真摯な言葉に,私は,日本にもまだ政治の可能性がある,と感じました.

NHKの「ドキュメント72時間 上野アメ横まんが喫茶」は,「インターネット + 漫画 + ソフトドリンク飲み放題」の空間を細切れに買って,解放され,くつろぎ,一人になれる,という都市の住人たちを紹介していました.「・・・なぜ?」という疑問を連発したくなりますが,これも彼らの住む現実です.田園都市は余りに遠く,天上のグーグルから煉獄の国際テロ・犯罪ネットワークにまで及ぶ,<電脳都市>の,ここが地上界です.

田園都市=国家の住民たちは,すべての者が兵役と農業を数年ごとに担う義務がある,と合意します.たとえば,15歳の半年,17歳か18歳の半年,20歳の1年,25歳の1年,35歳の1年,45歳の1年,55歳の1年,65歳の2年を,この義務に定めます.

もし労働力の不足を心配するなら,大学を10校程度に減らし,高校も半減させてはどうですか? 中学校までで,基本的に,重要な知識は学べるでしょう.嫌な学校に通うより,兵役や農場で知り合った「友人たち」から情報と信頼を得て,社会に参加するほうが楽しく,本人や社会にとって有益です.

荒れる子供たち,教室崩壊,目標を持てない若者,勤労意欲の欠如,大学の遊園地化,長期の失業,職場への不満,もう一度学びたい,転職や起業のチャンス,結婚や子育ての奨励,世代間の無理解・不信,老後の生きがい,・・・ こうした問題がすべて解決できるとは言いませんが,その解決を助けるでしょう.さらに,日本で社会制度の革新を難しくしている二つの重要な障害を取り除きます.一つは,優れた政治指導者の不足.もう一つは,社会的移動性の不足,です.

彼らは所得水準や出身地,階層,学歴,言語や信仰,政治的立場,年齢,性別,などの違いを超えて,戦場や農場で助け合うのです.人々を協力させる優れた軍人・優れた農民は尊敬されます.社会的なネットワークが広がって,本当の政治的資質を示す指導者が育つでしょう.

・・・これはパリ・コミューンや,ソビエト,人民公社のユートピアであり,悪夢でしょうか? それに代わるものは,農業や戦争の市場化・・・?

******************************