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ＩＰＥの種　10/2/2006

安倍晋三内閣が誕生しました．英語のメディアは，ときに，指導者への手紙形式で面白いコラムを載せます．私もそれを見習いましょう．（なお，あいさつ文として，ワードの示す定型文をそのまま使いました．どうかな･･･？）

前略

《初秋の候，ますます御健勝のこととお慶び申し上げます．》

《早速ですが》　新しい内閣総理大臣となられた安倍首相にお願いしたいことがあります．首相は小泉構造改革を継承し，憲法改正，北朝鮮問題の解決，靖国参拝，さらに，社会保険庁の抜本再改革や教育改革，再チャレンジ社会の構築を目指す，と聞いております．

首相の保守主義やナショナリズムを，右寄りのイデオロギーとして，人によっては嫌うことでしょう．しかし，政治家が自分の信念に従って主張し，行動するのは当然です．日本における保守派の人々を代表しつつ，同時に，議会や街頭演説で国民多数の支持を得て，その声に応えて欲しいと思います．

首相は，その「政治的資本」を何に集中するか，注意するべきだと思います．私は，経済改革や財政再建を優先し，規制や制度の旧弊を廃して市場を取り込むこと，それを国民の生活安定や自信回復に結びつけることを優先するべきだと思います．

首相が「小泉」構造改革（私が「竹中＝ホリエモン革命」と呼んだ市場型改革路線）を継承することは自民党の総裁選挙で明確でした．日本の景気回復を維持・拡大し，企業の国際競争力を高め，さらには改革に取り残された人々や経済的な較差拡大に対しても一定の歯止めを，特に，制度的な補償を（ただし，グローバリゼーションの現実を反映した形で）整備したい，という目標を掲げるのは正しいことだと思います．政府が，保守であれ，革新であれ，こうした視点から有権者に評価されるべきだ，と私も思います．

しかし首相は，保守派や自民党だけでなく，国民全体の安全と繁栄を目指すことが正当性の基準であることを忘れないでください．もしその基準に照らして好ましくないなら，保守派を批判し，自民党を「ぶっこわす」意志を示すべきです．ニクソンが戦後の国際通貨体制を破棄してドル暴落を合意したのも，中国を訪問しベトナムとの和平を受け入れたのも（ただし勝利による撤退を目指してカンボジアを爆撃し，失敗しましたが），保守派を動かす政治的意志を示したからだと思います．

首相が唱える目標は多岐にわたっています．しかし，頑迷な保守派の怨嗟や遺恨を吸い上げて，憲法改正やナショナリズムを誇示し，北朝鮮問題への強硬な解決方針にこだわって短期的成果を求めたり，愛国心教育，靖国参拝（国家による戦争の賛美）などを，日本の政治指導者として，公然と主張したりするのは間違いだ，と私は思います．それはあなたの政治信条や保守派の利益になるとしても，日本国民の「政治的資本」を深く損なうことにもなるからです．

もし憲法9条が変えたいのであれば，愛国心や靖国参拝によって反対派を威嚇し，ナショナリズムや右翼の言動に同調するのではなく，むしろ社民党や護憲派を正面から説得するべきです．もし安全保障や戦後の国際秩序を再編したいのであれば，アメリカだけに依存したり，国連やアジアの小国に財政支援を材料とした駆け引きを重視したりするのではなく，むしろ中国や韓国を正面から説得するべきです．

社会保険庁の抜本再改革，教育改革，再チャレンジ社会の構築，いずれも素晴らしいアイデアです．正しい基準と手続きを示して，関係する者の不安を退け，具体的な合意を形成してください．こうした改革についてであれば，金融改革や郵政民営化と同じく，野党の民主党も改革案を示して競争し，協力もできるでしょう．異なる提案をぶつけ合って，より良い成案を得てこそ，議会制民主主義の責任ある長ではありませんか?

経済改革を中心に，敵対するイデオロギーや少数派の優れた意見を取り上げ，改革に反対する人々を政治に参加させること．国際秩序に関する積極的な貢献の仕方について，アジア諸国や欧米の論客，ジャーナリスト，政治家からも積極的な提言を求めること．新首相が，改革によって日本の経済的活力と政治的資本を高められることを期待します．

そんなことができるでしょうか?　もちろんです．私はそれが，常に，優れた政治指導者の資格であると思います．そして休日には，ＳＦや時代小説を読んで，前首相に負けない感性と，時代を拓く的確な言葉を得てください．安倍政権が数年を経て，日本の改革を指導したと評価されることを願っております．

《他でもございませんがご返事お待ち申し上げております．》

草々

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