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IPEの種 7/10/2006
金正日のミサイル発射をめぐっては,当初の驚愕と不安が,国際政治のバランスや面子の問題を残して,すっかり軽んじられる方向に変わったと思います.北朝鮮以外の関係諸国が,いずれも,こんな身勝手な示威行為で自国の国内政治バランスを崩されたくない,と判断することにより,暗黙の<国際合意>が成立したからでしょう.
日本政府が制裁措置を発動したことと,日米が安保理決議を求めたことは,金正日が描いたシナリオを実現しただけでしょうか? 日朝間の対決姿勢をエスカレートさせれば,中国・韓国の参加しない経済制裁を無視できるし,アメリカに頼った海上封鎖や軍事制裁を日本政府に要求させることで,むしろアメリカとの直接交渉を開始できるだろう.核と安全保障,経済支援を交換するには,韓国と日本を何度でも揺さぶることだ・・・一発でも,・・・七発でも?
世界には多くの政治的事件が並行して起きています.今週のReviewを一読するだけで,ドーハ・ラウンドは,合意か決裂か,最終局面で揺れていますし,イスラエルのガザ地区侵攻は続いており,アメリカ軍はイラクにおける兵士の暴走を止められず,非難されています.イランとの核交渉は期待されたほどの進展を見せず,世界の金融市場は不安定性を抱えたままですし,日本政府は自民党の後継者争いで麻痺しつつあります.国連は,安保理を含めて,その改革に関する紛糾が続き,メキシコ大統領選挙の結果も不透明です.世界中で,人々の関心は圧倒的に雇用の確保や居住区の治安であり,移民政策や破綻国家の処理は追加的な迷惑コストとして,エネルギー争奪,インフレ抑制などの余談に過ぎません.
・・・北朝鮮が国際安全保障の重大な脅威になるか? まったくならない,とほとんどの国は考えます(クジラに限らず,日本は例外です).これは金正日親子の「学芸会」だ.少なくとも,核爆発と,テポドンの射程がハワイやアメリカ本土に及ぶことを実演するまでは.日本政府にできることは「封じ込め」策でしょう.しかしそのためには,アメリカだけでなく,韓国や中国,ロシアを説得しなければなりません.靖国神社や領土問題があるからできない,というのが日本政府の姿勢であれば,プレスリーの聖地で「友情」を示す程度しか,外交政策はないわけです.
韓国や中国は北朝鮮を説得して経済改革を促し,その後,金正日の政治体制にも自主的な変更の余地が得られるだろう,と考えているかもしれません.他方,金正日は改革を装って,さらにきわどい脅迫行為や分裂工作,テロ支援さえ計画しているかもしれません.繰り返し問われるのは,東アジアにおける安定的な秩序への道筋であり,交渉を進める政治的意志,合意の積み重ねと,その制度化です.日本が未来を担う「アジアの大国」であろうとするなら,さまざまな危機と紛争において,的確な言葉と優れた合意形成の成果を残すことでしょう.
日本政府は,アメリカやイギリスだけでなく,イスラエルやパレスチナ,ハイチ,イラクの政府からも学んでほしい,と思います.
北朝鮮に関して,リアリストの意見が強まるのは当然です.しかし,リアリズムをナショナリズムに結びつけることは間違いです.軍事的な対抗策や予防策を検討し,それに投資するのは当然です.しかし,アジア地域の安全保障を実現する道筋や日本の理念,国連改革や経済発展への貢献を示すことで外交的な影響力を高めることも重要です.もし日本政府に政治的なセンスと技量があるなら,政治目標や実現に向けた具体的アイデアを示して,中国や韓国とも積極的に話し合う力を示すときです.
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