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IPEの種 7/3/2006

剣豪たちの時代小説にも負けないくらい,「劇的ビフォー/アフター」は痛快です.

アパートの独立した4つの部屋をつないで一軒家とした住まいは,半間しかない押入れの空間に険しい階段を付け足し,二階の部屋は書斎と物置にしか使われていません.日光も入らず,後から付けた風呂場や物干しも使いやすいとは決して言えない.・・・しかし,こんなややこしい古屋(失礼!)は,日本中に多くある,と思いました.

プロの解体作業は見事なものです.建物の木組みだけを残して,床板や天井,土壁まで,すべてを壊して取り除きます.何十年も暮らした家がもうもうたる土煙の中に消滅するのを,夫婦は涙を拭きながら見守りました.

さて,この古家再建を託された名建築家は,その風采に似合わず(失礼!)斬新なアイデアを自在に駆使して,なんとも垢抜けて機能的な,若々しい庭園フレキシブル住居(これは老夫婦の隠居暮らしにミスマッチ!?)を立ち上げます.まず木組みを補強してから,屋根の傾斜を片側だけ変えて,自然光を取り込み,ガラスとアルミニウムでできた透明の階段,吹き抜けの空間も使って日差しを活かします.階段の下には移動や組換えが可能な坪庭風の庭園を演出し,浴槽の中からも小窓を通して内庭の緑を望めます.屋内の家具は,ビー玉で互いを固定する変幻自在のフレキシブル収納<家具+テーブル>です.こんなにモダンな家なら自分が住みたい! でも,やり過ぎ・・・? 考えてみれば,老人だから和風の落ち着いた伝統家屋を好む,という前提が間違っているかもしれません.それに,こうして改築すれば若い世代に転売できます.

家と土地があれば,850万円の改築費用で,大きな満足を得られる,と確信しました.同じように,日本各地で古家に縛られた老人たちを,社会が合意して支援すれば,快適な住宅によって解放できるかもしれません.

ただし,不動産の売買や建築,金融にかかわるトラブルほど,老人たちを不安にし,詐欺や脅迫を招き寄せ,不満足,落胆,絶望によって死を早めるものは無いでしょう.ここにある重大な障害を,政府は率先して取り除かねばなりません.

日本の,65歳以上の老人人口が15歳以下の子供の数を超えた,という記事を読みました.喧伝されている少子化対策も(有効なものなら?)重要です.しかし老人対策はあるのでしょうか? 年金? 医療費? 国債? ・・・私は,老人たちが利用されている,と思います.

年金制度や医療保険・介護制度は,老人たちの生活を助け,もっと幸せを感じるために,日々,改善されているでしょうか? むしろ年金を扱う団体や薬漬けの医療機関,医者,製薬会社,消費者ローン,建設業界,何より政治家たちが,その利益追求と勢力争いの果てに,矛盾した,使い勝手の悪い,それ自体「崩壊寸前の古家」のような制度を押し付けます.

日本中の老人たちが発言するだけでなく,その住宅や資産を活用できるように,重要な意思決定やトラブルの解消を使命とする公的な機関の直接介入を求めたいです.60歳以上の老人がかかわる取引について,情報を確認し,基本契約のパターンを明示し,詐欺や脅迫の疑いがある場合には,どこまでも追跡して,関連した業者や個人を厳しく処罰し,市場から追放します.クーリング・オフの期間を延長し,「老人の契約に関する一般原則」に照らして,違反するケースを公的機関が監視します.訴訟の代行,契約履行の事後的チェック,業者の取引記録を公開し,悪質な業者は駆逐し,競争や新規参入を促します.

もし日本中の老人たちが,その不便な住宅を見事に改装し,土地や資産を老後の不安に対する唯一の頼りとして死蔵するのではなく,社会的に有効な形で積極的に利用する仕組みを作れたら,日本ほどダイナミックに成長し,若者に雇用を(そして諸外国に投資と市場を)もたらす,革新的な老人国家は無い! と世界のモデルになるでしょう.日本中で素晴らしいリフォーム住宅や,資産の無い老人たちのためには瀟洒な集合型住居が建ち,投資クラブや「国際投資と世界情勢」の勉強会がにぎやかに開かれている様子を想像してください.それらは詐欺師や短期的な販売促進を狙った企業の営利活動ではなく,囲碁やサイクリングと同様,元気な老人たちの楽しみです.

銀行がその特別な機能から厳しい監督や保護を受けているように,老人の満ち足りた生活や,子供たちの教育と労働意欲を育成することは,社会的な責任と規範の問題です.政府には,制度やルールを示し,市場経済の活力を最大限に発揮する体制を見出す責任があります.

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