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IPEの種 4/24/2006

パンとサーカスの時代? デマゴーグの登場する舞台は,ここにもあります.

研究会後,飲み会も終わって家へ帰る列車の中,座席に並ぶ二人の若者が自分たちの(無為な?)生活を語り合っていました.自動車を140キロで運転し,そうやって景気をつけて一緒にナンパに行った ・・・成果はあったぞ,と自慢します.誰とでも,何人でも付き合う自分を,ほんとに病気だったよ,などと自嘲しつつ ・・・ぼさぼさに見える髪の束を,ほじほじと指先で揉みながら,彼らは楽しげな微笑を絶やしません.

同じ車両には,眠りこけた学生服の高校生,通勤姿の疲れた小さな女性,くたびれた灰色のセーターを着て悄然と黙する中年男性.あるいは,漫画を読むサラリーマンもいました.この鉄道会社の社員が二人,制服を着て立っています.私も,窓外に浮かぶ夜の明かりを眺めて,つり革を持っていました.講義やゼミの後は疲れ果て,どことなく悲観的な気分に沈んで,雑誌を読む気もしません.花粉症と寝不足,学生たちとの不十分な対話・・・

時折,電車の中で外国人を見かけます.彼らはこんな日本をどう思っているのか?

研究会は日本への移民に関する報告であったため,終了後の雑談で,私は莫邦富の『蛇頭(スネークヘッド)』(新潮文庫)に触れました.先日,NHKTVで莫氏を初めて見たことを思い出したのです.番組では,日中間で増加する国際結婚をめぐるトラブルや,地域の対応を紹介していました.アメリカ=メキシコ国境や,ジブラルタル海峡,イギリス周辺海域,北朝鮮と中国との国境,・・・石垣島.今も,移民たちは国境を越えています.「スネークヘッドは,得意のツアー・コースを持つ中小旅行代理店のようなもの」という指摘がありました.

コメディアンのデイブ・チャペル氏を紹介した記事を読みました(「地球びっくり箱」読売新聞2006421日).「ブラックKKK(クー・クラックス・クラン)」では,自分が白人であると信じ込んだ盲目の黒人が,白人至上主義の主張を猛烈にまくし立てます.また,「もしブッシュが黒人だったら」という「ブラック・ブッシュ」は,アメリカがイラクと戦争しなかったはずだ,と言います.黒人が戦争で死ぬからではなく,黒人の大統領にはもっと無数に多くの質問が浴びせられて,誰もそんなことを許さなかっただろうから!

しかしチャペルさんは,コメディを笑われたのではなく,自分が笑われたことに驚き,舞台をおりました.笑いの効果は,人種差別を否定するものから,それを笑うコメディアンを笑い,人種差別を広げるものに変わった,と感じたのです.日本でも漫才師や芸人は多くいます.もっと自由に,ミニ・ラジオ局が誕生して広まったら,きっと強いクセのある芸人も増えて,社会変化が加速するかもしれません.

政治的風刺を得意とするコメディアンとミニ・ラジオ放送局が各地に群生し,新しい政治家や政治文化が育った日本を,あなたも見たいと思いませんか?

ヒュー・グラントとサンドラ・ブロックが主演の映画『コニーアイランドからこんにちは』を観ました.退屈な題名に反して? 私はこの映画が大いに気に入りました.コニーアイランドの再開発で取り壊されそうなコミュニティー・センターをめぐって,大金持ちの不動産王ウェイドと社会派の貧乏弁護士ルーシーが出会い,そして恋をする話です.ウェイドは社会的な良心を得,ルーシーは深い情愛を学ぶ,といった見え見えの落ちですが,アメリカ版の人情物語として,二人の役者が素晴らしく魅力的でした.

世界の多くの国がそうであるように,日本にも国債の累積,社会保障制度や医療保険制度の赤字,公共投資の無駄遣い,地方経済の衰退や若者の失業,労働市場の硬直化,所得格差の拡大,外国人労働者・不法移民,中国への工場移転(アウトソーシング),教育制度の迷走,金融取引や会計,税制の欠陥・詐欺・粉飾, ・・・靖国神社,エネルギー不足,安全保障,など,多くの深刻な問題があると分かっています.

なぜ増税を訴えてでも,説得的な改革案を推進する政党が一つもないのか?

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