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IPEの種 4/17/2006

ポピュリズムや直接行動による政変劇は,クーデターと並んで嫌われます.しかし,良くも悪くも,都市は社会的革新の《溶鉱炉》でした.・・・少なくとも日本を除いて,今もそのはずです.

フランスでは昨年,移民の2世・3世が郊外で暴動を起こし,今また学生たちがパリ市街や大学を封鎖しました.アメリカでは議会における移民法改正論議に反対して各地でヒスパニックの集会やデモが行われています.またタイでは民衆の激しい抗議活動によって首相が辞任しました.フィリピンでも政治危機が続いています.ラテンアメリカ各国では大衆抗議と野党候補の善戦,勝利が伝えられています.アメリカのブッシュ政権でさえ,イラク戦争に対する国民の不満が強まり,ラムズフェルド国防長官への辞任要求を拒むことに大統領は苦心しています.

ところが日本では? 不思議な<権力の真空>状態が広がり,尊敬される野党はなく,都市のデモもなくなりました.まるで日本だけが地球ではないかのように感じます. ・・・なぜか? もちろん,小泉氏が政治的舞台を見事に演じ,野党は自滅してしまい,有権者は魔法から冷め切らないため,一時的なマヒ状態にあるのかもしれません.

ここに紹介したコラムを集めながら,考えていました.日本以外の国で政治が不安定化し,権力がシフトした理由は,1.都市中産階級の《民主主義》に対する強い不満,2.グローバリゼーションにおける受益者の《倦怠》,3.《移民》や《中国》への不安・失業,があるからではないか.

韓国,タイ,フィリピンのような,民主化を求める都市中産階級の姿は,今の日本にないかもしれません.戦後の大衆抗議や社会運動を担った世代は高齢化し,すでに多くが引退しています.民主主義が他国より上手く機能しているとは思えませんが,ブッシュの軍隊でも退役軍人が不満をなかなか公にしなかったように,日本の高齢者も年金と医療費をもらう以上,政治に余計な口出しはしない方が良い,と思っているのでしょう.秩序を変えることで何かが得られると願う情熱は,言うまでもなく,老人のものではありません.

グローバリゼーションの利益は,確実に,反対派を減らしました.もし食べ物や衣服の価格が今の3倍も4倍もしていたら,小泉政権への激しい抗議デモが起きたはずです.逆に,その不利益は見えにくいのです.たとえ日本企業が国内雇用を減らし,海外生産拠点にばかり投資しても,雇用不安は下請けや派遣労働者がもっぱら感じることです.銀行や保険会社が海外投資に失敗し,国債の低利回りで老人たちの蓄えを無駄にしても,すべてを無くしたわけではない!

自動車よりも,携帯電話とパソコンが急速に普及していると思います.日本人は,特に若者の多くはますます家にこもり,仮想的世界の冒険やゲーム,音楽やセックス,株式投機やゴシップに埋没して生活しています.大きな数字と資格,肩書きにあこがれ,「お金がすべてではない」などという石器時代の精神を冷笑しているのではないか? 失業の実感が無く,フリーターやニートが破滅の誘惑である,などとは思わないのです.そしてインターネットで,消費者金融とリッチな海外旅行のセットを簡単に手に入れて満足する?

中産階級が民主主義を育てたような「都市の文化」は死滅し,ようやく訪れた好況に,見捨てられていた土地や株式の儲け話が復活し,もっと違う価値観を広めているようです.働かずに,楽をして儲けた超富裕層の成功談に比べたら,働く者の権利や,住みよい町,大切な自然環境など,クズみたいなものかもしれません.グローバリゼーションの受益者は退職を待ち望み,その被害者はいまだ地下経済や海外のスラム,そして遠くの戦場にいます.いつまで《移民》や《中国》を排除できるでしょうか? 有権者の政治意識からではなく,本当に,日本をこの地球から切り離すつもりなら話は別ですが・・・!?

今の私たちが,なぜこれほど豊かなのか,私には分からなくなりました.もちろん,どこかに(?)優れた輸出産業があるのです.しかし国内の秩序はどうか? 輸出を伸ばす企業が,将来もこの地に栄えるでしょうか? むしろ見捨てられた杉山のように,花粉を吹き上げながら衰弱するのではないか? ・・・アルゼンチンと同じような危機と衰退を繰り返し,50年後に日本が「衰退の謎」,「硬化症」,「慢性的危機」の代表例として経済史の教科書に記載されているとしても,私は驚きません.

野党党首,小沢一郎? さっそく,「自民党の仲間たちとなつかしい再会だね〜!」 といった調子で小泉首相に叩き潰されました.政権交代して,誰が破滅の扉を開くか競い合うのであれば,なるほど立派な役者たちです.しかし,私は都市のデモこそがなつかしい.もっと親しめる形で,多くの街頭デモや集会を行い,政治家たちに演説させてはどうでしょう? 大衆行動の先鋭化やポピュリズムの横行を批判するより,むしろ,社会の不平等化を憂うべきです.

久しぶりに出会えた,味のある現代劇「NHK土曜ドラマ:マチベン」を観ました.そして,まだ日本が再生する道もあるかな,と思ったのです.

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