*****************************

IPEの種 1/30/2006

100人の小泉よりも,100人の堀江がいたほうが,確かに日本は面白くなるでしょう.それは市場経済を活性化するだけでなく,さらに,新しい法体系と公平性を要求する市民運動に火をつけると思うからです.

《ライブドア》とは何なのか? それは,株式発行数を増やし,株価を引き上げて,集めた資金で企業を買収し,さらに株式を発行して,株価を引き上げる・・・ そういうビジネス・モデルであった,と大まかに認識されつつあります.見通しとして,利潤があり,配当があるから,リスクはあるけれど資産の一部として買ってください,と投資家に呼びかけるのではなく,利潤もリスクも分からないだろうが,とにかく株価は上がるぞ,と投資家に思わせるようなことをやる.そして,集めた資金で,利益の出る資産や企業を買収する.

結局は同じことではないか? それが株式市場や株式会社という《考え方》ではなかったか? 預金を預かり,決済を行っている銀行が,融資を慎重に行われなければならない以上,新興企業にはリスク・キャピタルが必要です.それを社会が供給するメカニズムも,公正かつ効率的に機能するなら,富を増やすことに大きく貢献できるでしょう.特に今は,技術革新やインターネット,グローバリゼーションによって,新しいビジネス環境が社会変化を促しています.これを自分の利益と一致させて行動する企業家が輩出する社会の方が,少なくとも成長の土台を広げることができます.

私は,そのようは「資本主義礼賛」を,ある程度,支持します.しかし,「人の心も金で買える」,「金さえあれば何でもできる」という拝金主義と,資本による社会の革新とを,区別するのは難しいでしょう.起業家,敵対的企業買収,株主主権,企業統治,・・・ 新しい言葉で実際に行われていたことは,今までと同じ犯罪的なビジネスだったのでしょうか? ねずみ講,投資グループ・信託サギ,低金利と株高で沸いたバブルに融資で得た資金を注いだ企業・銀行,インターネットによる個人投資家のカジノ気分,投機を煽るM&Aブーム.

メディア・通信・インターネット・販売・金融・情報・ブログ・エンターテイメントなどが融合する,新しいビジネスを開拓するはずでした.しかしその裏では,金融サギ,地上げ,サラ金と同じ,闇の世界が,フィッシング,架空請求,売春メール,・・・に姿を変えただけのようです.そしてライブドアも,犯罪者の巣窟に変わっていたのでしょうか? 小泉構造改革が吹聴してきた民営化や景気回復,竹中=ホリエモン革命が何を変え,何に変わるのか,私は10年後を見たいです.

「なぜ今さら非難するのか?」 ホリエモンを持ち上げ,賞賛し,崇拝していたメディアが,手の平を返して非難し,個人攻撃や欧米=市場社会への反発を説き始めるのは,浅ましいことです.成金や大資産家の悪徳は,彼だけが異常に示したものとは思えません.私が問いたいのは,「それが社会にとって望ましいことなのか?」ということです.

検察が入ったことで株価は暴落しました.もちろん,そこに犯罪行為があれば,検察庁が責められることではないわけです.しかし,さまざまな嫌疑はあるとしても,具体的な違反が些細なものであった場合,あるいは,重大な罪であるとしても,法律やルールが未整備であるために責任を問えないような場合,この騒ぎは何を意味するのでしょうか? 旧エリートたちによる復讐なのか,あるいは,株価暴落に憤慨する個人投資家たちの罵声なのか?

先日,アメリカの投資グループが,毎日新聞の報道内容に対してニューヨークで訴訟を起こし,1億ドルの賠償金を求めた,というニュースを読みました.金持ちや権力者,エリートたちによる犯罪は裁かれないのでしょうか? 新しく社長に就任した平松氏は,会計監査をやり直し,すべての資産や取引についての情報を公開する,と明言しました.彼らが《ラブドア革命》を継続できるかもしれません.それが社会を革新する力であるなら,私は支持します.

NHKにんげんドキュメントで,「夢の国」と信じて日本へやって来たベトナム難民たちの話を観ました.姫路の難民センターを中心に,ベトナム難民の家族が住み始めたようです.5年間,香港で難民キャンプに暮らし,日本に来て働けると夢を持っていた木工職人の父親は仕事を見つけられず,家族から去ってしまいました.母親は工場で自給700円余りの仕事に就き,娘の教育にすべての希望を賭けています.

移民について調べる過程で,私はこうした多くの話を読み,知っています.日本で満足な仕事が見つけられない.日本語が分からず,誤解や失敗を重ね,仕事や住宅探しで差別される.子供たちは学校に行って日本語を学び,次第に親たちとの意識の差が生じる.教育や進学,思春期の悩みを抱え,しかもお金が無いことで,子供も親もそれぞれに苦しむ.学校にも行かなくなる.ばらばらになって,家を出る.・・・

イギリスでも,フランスでも,ドイツでも,アメリカでも,私はそうした移民たちが増えているという話を読みました.そして,どの国でも,どの街でも,彼らが厳しい現実を乗り越えるには助けが必要です.それさえあれば,彼らの「夢の国」は消えません.欧米の教会や慈善団体,コミュニティー活動が,日本にもあるでしょうか? 移民や難民たちのネットワーク,自立を支援する基金がEUにはあります.

姫路に暮らす少女は,ボランティアの人に助けてもらって,日本語や学校の勉強を補っています.地元では,ベトナム難民を励まし,地域社会に溶け込むことを促す交流があります.しかし,彼女の仲間は次第に学校に来なくなりました.ベトナムの仲間たちを助けたい,と彼女は通訳になる夢を描きます.少し離れた,ベトナム語を学べる高校への進学を望み,母親も,娘の教育のためになら何でもしてやりたい,と夢の実現を励まします.

堀江の反社会性やモラルを断罪するなら,ベトナム難民たちを苦しめている私たちの行動や社会規範も,同様に,厳しく処罰するべきではないでしょうか?

******************************