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IPEのタネ 11/8/2004

ブッシュ再選の映像を観ながら,私はアジア通貨危機を思い出しました.あの時も世界は恐怖や不安に怯え,もっと大きな危機に対して身を低くして備えたように思います.そして,危機が拡大する中で,遂にアメリカは安定化に向けて動き始めました.しかし,この危機が国際通貨制度の改革につながるというアジアのかすかな期待は,同じアメリカによって吹き消されました.

ブッシュとケリーの獲得した州を赤と青の地図で見れば,ブッシュ氏が中南部の保守層を強固に赤く染め,他方,ケリー氏は沿岸部のポストモダン都市と,かろうじて,失業に苦しむ五大湖周辺のエントツ地帯とを青く染めたことが理解できました.なるほど,ブッシュ氏は宗教戦争を内外で雄雄しく戦い,ケリー氏はポストモダン・ライフと赤さびに沈む工場群との矛盾した党派性に「右往左往」したわけです.ブッシュ氏が戦争指導者であることを盛んに誇示したのに比べて,ケリー氏は「そうではない,現実はもっと複雑で・・・」という苦しい説明に終始しました.国際協調に打開策を求めたことも,逆に,思ったより多くのアメリカ国民から冷笑されたように思います.

もしイギリスのように(?),サッカーやセックスの話題,そして政治家を揶揄し,嘲笑することで販売部数を競う大衆紙が広まり,またアメリカ中南部のように(!)キリスト教各派の指導者が行う説教,右派の新聞,宗教ラジオ,保守系ケーブルTVの政治ニュースしか知らない有権者が増えるならば,政治家は選挙の争点を何に求めるでしょうか? 選挙に勝つためには,当然,異なった種類の政治家や演説が求められるわけです.

民主主義が機能するためには,マスコミや政治宣伝を事実に照らして監視する委員会が必要になります.そんなことを言えば,オーウェルの政治寓話や日本の大本営発表,北朝鮮のテレビ・ニュースを思い出しますか? アメリカ人は,報道の監視も民間団体がインターネット上で独自に評価を公表し,互いに競い合うことを好むでしょう.ただし,アメリカにもPBSはありますし,イギリスは優れた国営放送を維持しています.そしてBBCのイラク戦争に関する報道で,政府が情報を操作し,干渉したのではないか,という疑いについては,議会が特別審査委員会を設けました.日本,ドイツ,フランス,中国,オランダ,スウェーデン,カナダ,などが,どのようにマスコミを(特に政治や選挙について)監視し,あるいは公共放送を維持しているのか,比較・検討してほしいです.

ヒトラーでさえ,国家社会主義政党を率いて,選挙によって権力を握ったことを誰も忘れることなどできません.多くの国で,政治団体はある程度規制されますが,宗教団体は自由を保証されています.信仰の問題であれば,献金を受けて投票を呼びかけても,説教で事実に反することを広めても,政治家や選挙に関わって公的な規制を受けないのでしょうか? 政教分離,という原則や,教育における信仰,愛国心,ナショナリズムの問題を,政治的代表たちは真剣に考えて欲しいです.ビン・ラディンやザルカウィ(の仲間)がパキスタンやイラクの選挙で当選することも,まったく無い,とは言えないのです.

もちろん,たとえ世界恐慌や連続テロが起きても,人類が消滅しない限り,日常は連続しており,社会を常に正常な水準に回復しようと私たちは努力します.ちょうど,地震や水害に苦しむ人々の多くも立ち直っていくように.ブッシュ政権Uが世界をどう変えるのか,それは今後を見なければ分かりません.すわなち,

1.   イラクやそれ以外の世界におけるネオコン外交のコストを,どのように賄うのか?

2.   アメリカの国内改革について,民主党とどのように協力するのか?

3.   貿易の自由化と国際金融の不安を,どのように調整するのか?

4.   アジア,特に日本や中国との関係を,どのように調整するのか?

5.   世界のエネルギーや環境といった課題に対して,どのような解決策を提案するのか?

どれほどアメリカに権力が集中しているとしても,それは相互依存のネットワークに頼っています.ブッシュ政権Uが具体的政策をすべてネオコンやキリスト教右派に頼るとは思えず,安全保障以外では,もっと現実的で,むしろ複雑な政策を展開するでしょう.イラク戦争の戦費を増税せずに賄えるのは,日本や中国がアメリカの双子の赤字に投資し,ドル暴落の回避を優先するからです.アメリカは世界の貿易取引を,その過剰消費やバブルによって支え,テロとの戦争で支え,中東の油田確保で支えている,と主張するでしょう.その一方で,むしろ金融危機の恐怖から,財政赤字を削り,ドル高を是正し,アメリカ軍の過剰な展開と維持コストを抑えたい,と願っているのです.

あの時も日本は身動きがとれず,中国はアメリカと協力して危機を収拾したフリをしていたのではないか? 否,それは間違った印象だ.日本政府は積極的に危機の緩和と回復に向けた協力を推し進め,アメリカも中国も,今日,世界が急速な成長を実現できるように,二つのエンジンとして金融緩和を試み,遂に世界を危機の淵から救ったではないか? ・・・

グローバリゼーションの反対運動に対して,自由貿易を支持するバグワッティは,貿易による制裁を,児童労働や労働者の搾取,環境破壊,野生動物への虐待などを行う政府への懲罰手段とすることに反対します.世界を閉鎖的に,より貧しくすることが,正しい選択を促すとは思わないからです.それはまた,彼が「ドラキュラ効果」を信じるからです.すなわち,自由貿易という「強い光」を浴びると,こうした間違った政策を取る政府が,ドラキュラのように衰え,死んでしまう,と.

ブッシュ政権Uの世界でも,「ドラキュラ効果」は有効でしょうか? あるいは,ドラキュラ信仰が世界に伝染する?

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