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IPEのタネ 9/6/2004

冷戦が終わって,戦争やスパイの話は無くなり,さすがにジャック・ヒギンズも失業するのでは,と思いました.・・・とんでもない! テロ,諜報機関,秘密警察,軍隊は,世界中で内戦や難民,独裁体制との関係を深め,衰える気配などありません.

9月3日のNHK・BSで共和党全国大会におけるブッシュ大統領の指名受諾演説を聞きました.舞台も台詞も,聴衆の歓声さえも効果を計算した,全国TV中継用の演説です.それはオリンピックの体操や水泳,マラソンよりも華々しく,ブロード・ウェイの舞台やハリウッドよりも英雄的です.しかし私は,強気を押し通すブッシュ陣営に,マンネリと硬直したイデオロギーの亀裂,弛緩が,国民の側に沈殿するだろうと感じました.・・・突然,ブッシュに異議を唱えようとした代表が,会場から排除されました.

ブッシュ氏は,選挙が未来に向けた選択である,と主張します.そして自分は,共和党の候補として,楽観主義と政治的な意志を体現している,と語るのです.9・11の光景を繰り返し放映して,自分がその反撃を指導してきたことを主張します.自分を支えてくれた家族への愛を強調し,兵士たちの家族を気遣います.国民を守ることが大統領の第一の責務である,と戦争指揮官として自分を国民に売り込みます.

外交において,また国内の経済政策において,現実というより彼の幻影が語られます.支持者はそれを楽しみ,しかも彼は,結果がどうであれ,実行する男です.あるいは教育や税制の理想を掲げ,特に歓声が沸いたのは企業訴訟や医療訴訟に反対する場面でした.宗教団体を支援し,社会的な弱者に対しては自由を尊重し,教育や “national chance zone”によって機会を与え,コミュニティーを活性化する,と.

自分は保守的価値を尊重する大統領である,と彼は自分を誇示します.責任と人格.家族や制度の尊重.そして,ケリーと違って,神聖な婚姻の意味を損なう同性婚を非難します.彼はこの価値(あるいは神?)の実現を掲げて,テロリストから次の攻撃を待たず,どこにおいてもテロと戦います.アメリカはフロンティアを拡大して,より安全で民主的な世界を築くのだ,と.

ブッシュ氏がこの世から追放すると宣言した,スタジアムにおける民間人の処刑,集団墓地などは,今も,北朝鮮やチェチェンなどにあるでしょう.TVが映し出したように,北オセチアの学校占拠と突入は残忍な殺戮劇でした.政治家たちが言うことは同じです.テロには断固とした対応を.テロリストの要求には屈しない,など.それは,「投機家」に対して固定レート制を守ると約束した言葉にそっくりだ,と私は思いました.

テロではなく,選挙によって,政治的な解決策を見出してほしい.誰もがそう思うでしょう.しかし,東南アジアにおけるイスラム海洋帝国を,また,中東からアジア内陸部に広がるイスラム帝国を再建する,という要求に,社会的混沌と窮乏に苦しむ辺境の人々が呼応するかもしれません.

ヨーロッパでも,アメリカやアジアでも,本当に政治的な領土の再編を「民主的投票」によって行えるでしょうか? 北オセチアにはロシア人が多く,ソ連時代に移住が増加したのではないかと思います.彼らの権益はソ連崩壊とともに消えるはずでしたが,独立を得られないまま,ロシア人の組織や特権が残ったように思います.ロシア政府は,ソビエト帝国の解体を阻止するため,ますます民族主義的な帝国となりました.

もしロシアが,積極的にさまざまな民族を独立させ,辺境のさまざまな資源を開放的な市場によって開発し,世界に供給できたなら,それら諸国の中核国家として政治的な信頼を得,経済的にも繁栄したのではないか? しかし,プーチンは政治的威信を求めて帝国を強化し,辺境における軍事介入に頼りました.その結果,テロが蔓延したのです.既得権の維持と秩序の回復という,しばしば矛盾した要求が,民族主義や軍の支配による残忍な軍事指導者の領土を,ロシア周辺に拡大しています.

日本はどうか? イスラム教徒を恐れ,ユダヤ教やキリスト教を恐れ,外来の思想や文化を自国の文化に対する侵略として排撃する? なるほど人々は保守的です.しかし,日本の保守主義がそれを最善の道だと思うなら,ブッシュの傲慢とチェチェンの惨状は私たちの未来です.

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