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IPEのタネ 5/3/2004
土曜日の朝,偶然,橋爪大三郎氏の痛快な論説「小泉政権3年:人気の秘密はアイドル風」(朝日新聞,5月1日)を読みました.「先の見通しが立たない政治家をいただくしかない日本国民は不幸だろう.」
末っ子と理科の話をしていたとき,微生物が進化して人間になったんだよ,と教えてくれました.知っていて,当たり前ですか? そのとき,信号待ちで,横を流れる富雄川が目に入りました.市街地の川はすべてそうですが,コンクリート・ブロックで囲まれ,泥水が流れています.このまま川が汚れ続ければ,次第に悪臭を放って,住民たちは苦情を言い,どぶ川を埋めて土管にしてしまうでしょう.こうして自動車と道路が,自然を呑み込みます.
汚れた川だと思っていると,川床から突き出た岩に立つアオサギが,じっと水面を睨んでいました.小魚か蛙でも捜しているのでしょう.まだ生き物は居るんだ,と気づきました.もし川の両岸が肥沃な堆積地で,さまざまな植物が茂り,多くの水棲生物や微生物,昆虫などが繁栄しているとしたら,こうして汚れた水をかなり浄化してくれたのではないか? そんなことを,『沈黙の春』や『風の谷のナウシカ』を通じて,きっと多くの人が想うはずです.
あと何万年か,何十万年かすると,人間も進化の樹形図に書かれた小さな分類になって,「二本足で歩き,文字を残した.ちょっと珍しい生きものだね.」という説明の付いた小学校の理科の教科書で,その時代の支配的な生物の子供たちが勉強しているでしょう.ヒトは,XX▲菌の主な食糧になった,とか,旧暦X○X×年,保存地区における最後のヒトの自然なつがいが死滅,最終絶滅危惧種に指定,などと書いてあることを想えば,子供の教科書を読むのもかなりスリリングです.
末っ子が地図を作ることに関心を示したのは,とても天気の良い日でした.彼の持っているコンパスだけで,家から神社までの地図を書くことにしました.伊能忠敬が,多分,したように? 私たちはコンパスで方角を確かめ,歩幅で距離を測定しました.彼の大股6歩が約4メートルであることを,部屋の中で確かめました.
さて玄関から道路に出て,私たちは鉛筆で進路を示し,ノートにその方位を記しました.そこから真っ直ぐに歩いて,ちょうど92歩で曲がり角に立ちました.さらに鉛筆で次の進路を示し,方位を記して歩き始めました.・・・こうして方位を20回記録し,21歩から264歩まで,さまざまな距離をつないで1859歩,換算すれば,推定1239.32メートルの経路を「発見」したわけです.
The Economistが提唱したビッグ・マック・カレンシー(ハンバーガーPPPもしくはマック本位制)も,あるいは,さまざまな国の中央銀行が作る物価指数も,経済活動を測定する試みです.私たちは貨幣を管理し,財政支出を管理し,貿易や国際資本移動を制限したり,促進したりします.それは,豊かな清流に住むゲンゴロウやドジョウの棲みかを保護しているのでしょうか? あるいは,破壊しているのでしょうか?
マクロ経済学の優れた研究者が,かつて,同じ問題にまったく異なる答えを出しました.ブラジルの通貨危機が懸念されたとき,なぜ,J.サックスは完全な変動レート制を支持したのか? それはサックスがマクロ経済学者だから(自律的な政策によるマクロ経済管理を重視する).なぜ,P.クルーグマンは為替レートの調整を支持したのか? それはクルーグマンが国際経済学者だから(適切な為替レートによる対外不均衡の調整を重視する).では,なぜ,R.ドーンブッシュはドル化を強く支持したのか? それは,・・・彼の離婚した前妻がブラジル人で,ブラジル人(や政府)をまったく信用できないと思ったから ・・・!
東京の川にも鮎が戻って来たのであれば,私たちの町に,緑に囲まれた清流や豊かな公園,快適な公共交通機関が回復する可能性もあるはずです.人間は二本足の,理性を持った生き物ですが,彼らが集団で動くには意志(情念)と暴力(強制・規範)が必要です.合理的な経済学は市場主義社会のバックボーンであっても,人間の理性が実現するかどうかは,人々の心と手足を動かす<信仰=理想>や<暴力=権力>の問題です.
ハリウッドのB級ホラー映画のように,アイドル風の政治家たちを餌食にする次の生き物が,きっと土管の中で育ちつつあるのでしょう.
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