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IPEの種 11/14/2005

名神高速で起きた大きな事故で,犠牲者7人は日系ブラジル人でした.NHKニュースは事故の報道で,彼らがどのような人々であるか,まったく伝えません.彼らは透明人間なのか?  翌朝の新聞を読み,ブラジルから出稼ぎに来て,滋賀県近江八幡市若葉町に暮らす若者たちだった,と知ります.自動車工場で働いていました・・・

30年間,カナダの大学で教えてこられた永谷敬三先生の講演を聞きました.永谷氏は,日本の大学が抱える問題点,というより病状を,カナダの教育と比較します.

・・・日本人は,なぜ物づくりは上手なのに,人づくりは下手なのか? なぜ企業は一流なのに,大学は三流なのか?

・・・学生たちはアルバイトに多くの時間を費やす.そして稼いだお金は遊ぶために使う.大学生という社会的な身分を利用しているに過ぎない.

・・・カナダの学生は目が輝いている.活き活きしている.かわいい.他方,日本の学生は,講義する前から目が死んでいる.答案を写し合っているのを見て,注意した.しかし学生たちは気にしない.誇りが無い.見ていると腹が立ってくる.

・・・アメリカの大学も大衆化した.特に太平洋戦争でアメリカ政府は,黒人など,今まで社会的に差別されていたマイノリティーに協力を求めた.そして彼らが,戦後,無償で大学に入って学べるようにする,と約束した.

・・・日本では.政府・官僚が大学に口を出しすぎる.文部科学省の過剰な介入,浅薄な教育方針,補助金の不当な配分.

・・・日本の大学教授は大学(研究室)に来ない.教授会で議論しない.人事だけに熱中する.同じような中身の科目が多すぎる.同じ専門科目だけを何十年も教える.交流や会話が無い.

・・・日本人は勤労精神に富む.繊細で,手先が器用だ.求道精神がある.他方で,イジワルだ.シャイだ.情報や仲間を囲い込み,閉ざす.批判されるのを極端に嫌う.

・・・物づくりは,外の自然に対するゲームである.集団で努力すれば,単純に成果が積み上がっていく.人づくりは,人間相手のゲームである.最適戦略をマニュアル化できない.・・・

こうした話は,私自身の経験や感覚と概ね一致します.永谷氏の提言は,日本の大学教育も「大衆化」に対応するしかない,ということでした.それは,大学教育の水準を国民的に合意し,教育のスタンダード化を進めることです.すなわち,講義では体系的,客観的なサーベイを行う.講義は見取り図や刺激に過ぎない.担当科目をローテーションして,常にアップ・ツー・デイトな議論をする.カリキュラムは大学が決め,それに必要な人を雇用する.専門的な研究は大学院で教える,ということのようでした.

しかし,スタンダード化になじむ理工学的な経済学と,それが難しい人文学的な経済学との間で,講義のイメージがかなり異なると思いました.それでも,大学の現状を知る者なら,誰もが「悪循環(死んだ目と退屈な講義)」を変える方策を模索しているはずです.日本の成長と教育問題については,同様の関心を,森嶋通夫,ロナルド・ドーアの著作でも読み,感銘を受けました.

あえて大きく飛躍すれば,日本の大学は進化する過程にある,と私は考えたいです.その進化の方向とは,基本的に,三つです.1.入学試験をやめる.2.授業料を取らない.3.教育の中身を充実させて,学生数も大学数も減らす.

そして10年後(あるいは30年後?)には,活き活きとした目を向けて活発に質問し,互いに大いに議論する元気な学生たちと,興味あふれる最新の話題を,情熱的に語りかける先生が,いつもキャンパスを満たしていることでしょう.大学とは,もっと本気で,ともに精一杯学ぶ場所なのです.「青天井に学ぶ,気概を持て」と永谷氏は学生たちに訴えました.

・・・世界の人口や国家の数が大幅に減って,風や潮流,地熱による小さな文明圏が各地に栄える,と私は期待します.また,フランスが多くの黒人やイスラム教徒を大統領候補とし,内閣にも迎え入れ,日本の政治指導者たちは中国,韓国を含む,すべてのアジア諸国の指導者たちと一緒に過去の死者を追憶し,未来についての希望を共有できる,と私は想像します.大学が進化するのは,そうした夢想と同じくらい,難しいことでしょうか・・・?

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