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IPEの種 10/10/2005

日曜日の夜,「地球・街角アングル:ぼくたちのスケートボード・パーク」を観て,感心しました.

ニューヨークのスケートボード好きが集まって,家族的な企業を起こしました.スケートボードの愛好者を増やし,楽しめるスポットを開拓し,紹介しています.まとめ役であるスティーブは,自らボードを作り,プロのスケーターを育て,その姿をビデオに編集して公開し,仲間と販売します.市民との摩擦やトラブルにも,対話の機会やルールを作って理解を得ようと努力します.誰にでもできて,人種を超えた仲間を作り,若者の社会性をはぐくむこともできる,と彼は言います.多くのスケートボード愛好者が集まっていた公園が都市再開発で消えるかもしれない,と聞いたスティーブは,ニューヨーク市の公園責任者と話し合い,遂に,ここをスケートボードのための公園として整備することに成功します.

NHKにんげんドキュメントや,教育TVの番組で,知恵遅れ(?)の成人男性が暮らす日々を知りました.一人は両親との楽しい思い出を1,000枚以上の絵に描き,一人は里山の生き物の姿から生き生きとした焼き物を作ります.

きっと親から見れば,こうして大きくなっても子供のままの息子を残して,いつか自分たちが先に死んでしまうことは何より心配でしょう.この子がどうすれば楽しく生きられるか,それを分かってくれる人がまわりに少しでも居てほしい,と願って,息子を施設に入れました.

両親と行った温泉や,楽しんだカラオケ,歌う自分の姿を何枚も描いて,その絵が部屋に貼ってありました.しかし,男性の絵は施設に入って変わります.人が現れることはなくなり,机や窓,物だけが描かれています.それから次第に,施設で世話をしてくれる明るい女性が登場し,自分が大好きな買い物に一緒に行ってくれる男性も絵に描きます.彼はお店で色鉛筆の立派なセットを買いました.今ではテーブルを拭いたり,食事の用意を手伝ったりします.頼まれたことが分かれば,彼はそれをまじめに果たすのです.

もう一人の男性は,焼き物の工房に通い始めました.彼は,里山の森や,荒川の土手で,身近な生き物を捕まえて,その姿を熱心に観察します.カニ,ヘビ,コガネグモ,ザリガニ,カエル,どじょう,カブトムシ,カマキリ,トンボ,バッタ,・・・ その焼き物を見れば,ある者はツメを振り上げ,ある者は獲物をかぶっています.大きな布に絵を描けば,筆の先から魚があふれ,カエルの親子が現れます.何かを描き,何かを作りたい.その目標をみつけた喜びが,作品となって輝き出すようです.

学生たちに紹介したブルームバーグ・ニュース/日高正裕編著『論争・デフレを超える』(中公新書ラクレ)に登場する都留重人やJ.K.ガルブレイスは,多くの経済政策論争と違い,異なる価値を求めます.それはたとえば,リカードやマルクスよりも,ジョン・スチュアート・ミルの示した経済発展の姿です.発達した経済は,「あらゆる種類の知的教養と,道徳的ならびに社会的進歩の余地」をもたらす,と.

電車の中では,若者が座席に大きな場所を占め,足を広げて居眠りするのを見かけます.音楽を聴いたり,ゲームをしたり,メールを打つのに忙しいから,自分の荷物が誰かの邪魔になっても気にしない若者が多いのです.化粧をしたり,床に座ったり,自分たちだけの冗談を大声で言い合って,大げさに暴れて,見知らぬ大人たちが迷惑するのを楽しんでいるような若者もいます.中でも,彼とのデートやエッチの話を自慢する少女たちには辟易します.それを叱る大人も見たことがありません.彼らの親は,何を想って,この中途半端な子供たちに食事やお金を与え続けるのでしょうか?

もし社会が物質面でも,精神面でも,十分,豊かになるなら,私は今の仕事を辞めて,楽しい,元気な絵を描き,子供たちが寄ってきて驚いたり,喜んだりするような,面白い焼き物を造り続ける,知恵遅れの,優しい寡黙な老人になりたいと思います.

「この戦争でおよそ26万人が死亡し,ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国人口の約3分の2におよぶ人々が難民や国内避難民となった.戦争中には強制収用,拷問,レイプ,子孫を絶つことを目的とした異民族に対する去勢行為など,人権を侵害した暴力行為が驚くほど大規模かつ組織的に行われ,モスタルに架かる由緒ある古橋など,多くの貴重な歴史的遺産が破壊された.」(メアリー・カルドー 『新戦争論』 岩波書店)

文明の水準を測るものとは,いったい,何でしょうか? ガルブレイスは考えます.財やサービスを際限なく生産し続けることから卒業し,「もう十分だ.しゃにむに働き続けるより,仕事を離れてゆっくり暮らし,失業すら受け入れようではないか」と考えるようになるだろう,と.

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