*****************************

IPEの種 5/16/2005

豊かな資源がある辺境(もしくは,輸送・軍事上の要衝)の,わずかな土地に執着する少数民族が,中央政府の意向による強制移住や弾圧に苦しみ,民族蜂起と軍事衝突を繰り返します.カフカズ,中央アジア,バルカン,・・・中米,南米,中央アフリカ,中東,・・・マラッカ海峡,台湾海峡,朝鮮半島,国後島・択捉島,・・・荒廃した地球であれ,火星の植民地であれ.

軍事的に制圧する者だけが,昔も今も,その土地の秩序を定めます.軍事的制圧を優先したナチスと日本帝国,クー・クラックス・クラン,KGBやCIA,さまざまな民族解放軍,民兵・軍閥・・・ 

ジョン・ル・カレ『われらのゲーム』は,とんでもない期待はずれでした.冷戦のない曖昧な世界で,スパイの抱く内向的な心理を解釈する饒舌な迷路に困惑します.しかし,スパイたちがたどり着いた現実は熾烈でした.おびただしい虐殺と,それを解説する者,蜂起に加担する者.

イングーシの大義の正当性はどうなんだ.彼らの側に義はあるのか? 「ツァーリに叩かれ虐げられた三百年.何度も反逆したことはあった.コミュニスト登場.つかの間の幸福の幻影.その後はまた従前どおり.四四年,スターリンに追放され,犯罪民族の烙印を押される.荒野の十三年.ソ連邦最高会議により復権を認められ,最低生活を許される.平和的抗議を試みる.効果がない.暴動.モスクワは傍観.」「コミュニスト退場.代わってエリツィン登場.甘言をふりまく.ロシア議会は非追放民族復権決議案なるものを採択する.」「イングーシは真に受ける.最高会議は連邦内にイングーシ共和国を認める.万歳.五分後,エリツィンはカフカズの境界線変更を禁じる大統領令でそれを封じる.万歳の声なし.モスクワの最新計画では,オセチアに一定数のイングーシ人の帰還を一定条件で受け入れさせる.実現性はゼロ.」

アメリカはこれについてはどういう考えだ.「イングーシ? なんだそりゃ.」「あの地域でアメリカが,仮にもポスト・ソ連政策を持つとしたら,政策を持たぬことが政策だ.・・・計画的無関心.・・・余計なことはせず,そっぽを向いていれば,民族粛清者が掃除をして,警察官が言うところの正常性を取り戻してくれる.モスクワが何をしようと,自分らが乗った馬が脅かされさえしなければいい.政策はそれ止まりだ.」

きみがバシール・ハジだったら,どうする? 「私なら,まず人工頭髪をつけたワシントンのロビイストを一人,金で買う.それが100万ドル.次に,イングーシ人の赤ん坊の死体,なるべき女の子がいいが,これをテレビのゴールデン・アワーに持ち出して,泣き上手の,なるべく男がいいが,やはり人工頭髪のニュース・キャスターの腕に抱かせる.議会と国連で質問させて,私が答える.それだけやっても,相変わらず何も変らなかったら,もう勝手にしろと言って,女房子供を連れて南仏へ行き,何もかも忘れる.・・・いや待て.一人で行く.」

イングーシ人が計画する無茶な蜂起を食い止めることは誰にもできないのか? 「ロシア人なら止められる.この前やったことをやればいいんだ.オセット人をけしかける.村にロケット弾を叩き込む.目玉をえぐる.谷間に引っ張っていく.ゲットーにぶち込む.追放する.」

わが方は,つまり,アメリカ抜きのNATOは? 「ボスニアの二の舞をやれってか? ロシア領内で? 名案だよ.ついでにわがイギリスのサッカー・フーリガンも,ロシア軍の突撃部隊に叩いてもらおうか?」

「その論は・・・」音程が上がった.「およそ文明国には,互いに殺し合わなくてはすまぬ二つの野蛮人グループの間に割って入る義務があるとする論は,・・・」「世界をパトロールして,誰も聞いたことのない,血に飢えた未開の異教徒間の調停をわれわれがして回る義務があるとする論は, ・・・もう,帰ってくれないか.」

自爆テロ,聖戦,核兵器.何であれ,民族の独立と領土を回復できるものを彼らは求めます.しかし,もし組織的な暴力や核兵器が厳格に禁止され,市民の自律した生活と文化,民主的な選挙が保障され,土地や資源の差別的利用や独占が排除されて,ただ経済的な効率性を高める自由な売買が許されるのであれば,紛争地域はむしろ穏やかで,平和な,人類文化の多様性を保持する,美しい貯水池になるでしょう.

あるいは,世界の無関心.もしくは,合理的な理論モデル.・・・統計的検証.資料・解釈の収集.・・・謀略と,血溜まり.

*****************************