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IPEの種 4/18/2005
日中関係については,当然,いろいろな考えがあるでしょう.香港は吸収し,台湾からは工場を移転させて,分離独立運動を威嚇によって阻止した.さて,朝鮮半島の分断を維持したまま米軍を拘束し,日本についてはどうしようか? リアリストの戦略家が,そのように考えているかもしれません.
潜水艦,核兵器,ミサイル,領土,資源争奪,不買運動,反日デモ,通貨戦争,北朝鮮,・・・しかし,そんな敵対的交渉カードを使わなくても,さらに多くの日本企業が優れた技術や知識を移転し,日中間の水平分業を拡大し,多くの商品を輸入し,あるいは日本からの先端商品を輸出することに価格競争する方が,中国国民にとって好ましいのではないか? 中国のリベラリストは反論します.
日本の株式市場で積極的に売買しているのが外国人やインターネットの個人投資家であることを思い出しました.中国の反日デモが,一旦,終息に向かうとしても,再び中国と日本のさまざまな政治集団が誇示する挑発行為によって,インターネット世代の興奮と反発を招く事態が今後も再発するでしょう.日本企業の中には株価が急落するものがあるでしょうし,国内の雇用や消費も落ち込み,デフレと不況が再現するかもしれません.日本からの観光客は一気に減少し,日本企業が営業を短縮し,あるいは放棄して,中国における工場建設はほとんど中止されます.
中国では,景気過熱や土地バブルが漸く行き詰まり,他方,政治的に翻弄されてきた株式市場の下落が懸念されています.また,人民元の変動制移行を円滑に行うために,国際資本移動が不安定化することは避けたいと思っているはずです.急激な資本流入による人民元の増価と輸出企業の倒産が起きると,中国政府はどうするでしょうか? また,その後,株価や地価が下落して資本の流出が起き,人民元の価値が急速に下落する中,銀行システムが信用を失えば,中国政府はどうするでしょうか?
アジア諸国はドルに対する自国通貨の為替レートを,中国と比較して競争力を失いたくないため,人民元よりも増価しないように介入してきました.しかし,人民元が変動制に移行して,しかも大きな増加や減価を繰り返すようになれば,その為替政策をどうするでしょうか? これまで累積してきたドル準備をどうするでしょうか? 中国の成長と需要を期待して高進した一次産品価格,連動して拡大してきたアジア諸国の投資は,そのサイクルを逆転させ始めるでしょう.
日本政府が郵政民営化や国債の市場売却を促進している時期に,こうした資本移動や金融不安が波及することについて,何の不安もないのでしょうか? ・・・所詮,老人たちは資産を円から持ち出さない,と政府や銀行,企業は安心している? 実は長期的な衰退によって,若者の失業増加,都市・社会インフラの劣化,犯罪の増加・凶悪化,など,私たちは既に高いコストを支払っているのかもしれません.経常収支が赤字に転化し,対外資産を取り崩して輸入に支払い始めた頃,円安がインフレや資本流出を加速する時代が意外なほど早く来るかもしれません.
ゼミ生たちとドイツとの比較を話し合った際に,私は日本の戦後処理の姿勢が甘かったと言うより,両国の置かれた国際政治経済構造の違いに注目しました.ドイツでは,敗戦によって完全にナチスの指導者や政治運動をその後の政府が否定しました.ドイツが東西に分割されて西ドイツは冷戦の最前線となり,西ヨーロッパとの政治同盟・市場統合が何より重視されたのです.他方,日本はむしろ朝鮮半島における冷戦の分断構造から,戦後復興の経済的・政治的刺激を受け,「中国侵略」や「軍国主義」に関わった政治家と産業界を復活させました.他方,冷戦の反対側に居た中国共産党政府と和解することや,その閉ざされた市場に期待するより,日米安保条約と開放されたアメリカ市場が何より重視されたのです.
それは日本だけの問題ではありません.領土問題・資源開発も,教科書問題も,靖国神社のような戦没者への参拝も,戦争を経験した近隣諸国があれば,多くの国が時間をかけて和解してきた問題でしょう.「日本人」であることを軸に互いを攻撃するのは,問題の解決を民族主義的な憎悪の連鎖によって歪めます.私が今後の姿勢として,両国政府に希望することは二つです.一つは,中国における反日=愛国教育を改めること.もう一つは,戦時における犯罪行為や当時の侵略政策について明確な評価を日本の政治指導者が行うこと,です.自民党政府ではできないのだろうか,とも思います.
また,日本国内でも中国でも,日本が安保理常任理事国になることは問題である,という主張する場合,どのような基準で常任理事国を決めるのか? その資格を争うのであれば,日本政府は明確に発言し,中国と日本の世論を動かすべきでしょう.なぜ日本が常任理事国になることは望ましいのか? あるいは望ましくないのか? そして,なぜ中国やロシア,その他,現在の常任理事国にはその資格があると言えるのか? しっかりとした主張を,政府は日本国内だけでなく世界に向けて展開するべきです.
ナチスの理論家でなくても,政治は「友と敵」の論理である,と言うでしょう.問題は,誰が友で,誰が敵か? 友と敵をどこで切るか? です.政治においては常に分断と統合が争われ,既存の分割を超越する政治家,新しい分割によって問題を示し,新しい解決方法を示せる政治家が状況を変えて行きます.
その意味では,日本の中にも,いかに勇敢に軍国主義と戦った日本人が居たか,いかに中国人や朝鮮人との友好関係を守り抜き,それが損なわれることに抵抗した日本人が居たか,日本政府に示してほしいです.他方,急速な経済成長がいかに日本を含む国際社会との友好関係を必要としているか,日本からの援助や日本企業との協力関係がいかに中国経済の改革に役立ってきたか,中国政府は国民に示す必要があるでしょう.国境や「民族」によって人々を分断するのではなく,国境を越えて不正や差別,不平等に抗議する人々が協力し,両国政府が問題解決のために協調する姿勢を示すなら,ナショナリズムや愛国心(郷土を慈しむ情熱)は偏狭な人種差別や政治的煽動の流れから明確に切り離され,互いの共感を呼ぶでしょう.
もしできることなら,中国政府と協力して,日本政府は戦争を記録した映像を編集し,日中両国で放送してください.戦争に至る過程で,「敵国」の商店や住宅地を襲撃したり,放火したりする事件は世界中で起きました.社会不安が広まる中で人種差別が暴動や虐殺につながるケースもありました.他方,そうでなかったケースも多くあるはずです.他民族と協調し,たとえ「敵国」と呼ばれても互いの信義を失わなかった人々がいたでしょう.日中両国の映像から,それらの例を流して,両国における偏狭な人種差別的言動を「愛国心」から切り離すよう求めるべきです.そして,各界の指導者たちが互いを称える声明を,最後に流してください.
アジアにおける冷戦が終わるためには,朝鮮半島の分断化を周辺諸国が協力してソフト・ランディングに努め,中国経済の改革と国際的な地位向上をアジア諸国にも受け入れ可能な形で制度化しなければなりません.日本は,漸く,60年前のドイツやイギリスの地位と交渉姿勢から学ぶべき立場に身を置いて,アメリカでも,中国でもない,アジア諸国の共通利益を実現する構想を示す重要な国になろうとしています.
中国はどうでしょうか? 政治体制の権威は,しばしばその起源,最後の大戦争に勝利した歴史で示されます.しかし将来,中国が複数政党制の国になれば,ちょうど価格自由化や変動レート制になる場合と似て,政府はその正当性を抗日戦争や国民党との内戦ではなく,生活水準の向上と制度の改革,現在の政策選択に見出すでしょう.経済発展のためには,日本や台湾を醜い,恐ろしい,敵として激しく攻撃するよりも,平和と繁栄を分かち合う友好国として認識し,協力することが好ましい,と公式に発言できるはずです.
日本政府が即座に外相会談を呼びかけ,北京を訪問する意志を示したことは,正しい,勇気ある選択だったと思います.
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