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IPEの種 2/28/2005

来週,John Williamson がセミナーを開いてくれるので,私はその準備に努めています.と言っても,どこの庭園を観に行こうか,どこで食事しようか,といったことです.しばしば立ち止まってしまうほど,まだ冷たい氷混じりの風が吹く季節です.それでも実際に歩き,いくつかの寺や庭を拝観して確かめる内に,少し気に入った場所を見つけました.

特に,人の少ない季節外れの嵐山です.祇王寺の美しい苔の庭と,広々とした大河内山荘の庭園が気に入りました.金閣寺よりも銀閣寺を観に行きたいですし,できれば御所か仙洞御所,可能であれば修学院離宮にも行ってみたいです.目をみはるほどの壮観を誇る清水寺から,高台寺へ至る散歩道,そして祇園界隈を歩いてみました.南禅寺から法然院への散策路も,二条城,三十三間堂も,雨が降ったら廻ってみたいです.

≪るるぶ≫のガイドブックを見ていると,行ったことのないお寺や庭園が一杯あります.こうして大事なお客でもないと,わざわざどこも歩いてみることもないのです.学生の頃から,もう20年以上も経つのに.もっと時間があれば,下鴨から加茂川沿いを散歩し,暑い季節なら,鞍馬や貴船に行くでしょう.今度は,学生たちと歩きながら,真面目な議論をしてみたいです.

奈良では,ちょうどお水取りの時期にあたり,もし鹿や大仏を見たいと彼が言えば,二月堂の炎の祭典を見られたかもしれません.しかし,欲張っても疲れるだけです.

これほど京都や奈良には美しい伝統的な美が残っているのに,日ごろの私たちの生活はとても殺風景です.通勤電車や学生たちと集まる飲み屋,日本人の住宅地や職場に見られる殺伐とした環境は,日本に住む外国人がしばしば嘆くことでしょう.京都御所や相国寺,下鴨神社が近くにありながら,私もちょっと散歩に出かける余裕がありませんでした.日本人は美しいものを大切にしている,と外国からのゲストに説明できるでしょうか? これからは,せめて研究室に一輪差しでも置いて,季節の花を飾りたいと思います.

京都の庭園を百ほど集めた小さな写真集を買いました.これを観て,また違う季節にも来て欲しい,と思います.

日本人の美意識は,小さなものに宿るようです.もちろん庭園は必ずしも小さいとは限りませんが,回遊したり,借景したりしても,大きな自然の美しさを庭の中で観賞するわけです.小さな自然だから美しいのではないか,と思います.見上げるような大木よりも,露に輝く苔の庭を,私は美しいと思います.

日本は,小国として繁栄するモデルを示したでしょうが,大国となることには成功していません.アジアの政治経済秩序や通貨秩序を積極的に描く力も,今までは発揮できませんでした.アメリカやヨーロッパ,中国が,世界の秩序を競い合っている中で,日本の政治家たちは北朝鮮や靖国,自衛隊の海外派遣や憲法改正,中国,韓国,ロシア,台湾との領土問題を解決する明確な見通しを持っていません.そして構想力が貧困な政治家ほど,それは日本が核やミサイルなどの軍備を制限され,押し付けられた憲法に手をつけず,アジア諸国,特に中国や韓国に謝罪ばかりしてきたからだ,と公言して憚りません.

むしろ世界中の小国が輝きを見せる,静かな,美しい国際秩序を構想してはどうでしょうか?

Williamsonに,日本や日本人の良い面を知ってほしい,と思うのです.短いながら,京都の庭園で楽しむ時間に,少しでも,アジアがともに繁栄できる静かな展望を,中国におけるシンポジウムへ向かう彼が得てくれたら良いのに,と思います.

たとえ個人のレベルでも,私たちが外交に役立つときはあるはずです.学生の頃,金大中氏に死刑判決が出たとき,一度だけ,京都における抗議デモに私も参加しました.革新的なアイデアであれ,抗議であれ,最後は個人が担うものなのです.

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