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IPEの種 2/14/2005

クリントン前大統領はダヴォスの世界経済フォーラムでこう述べたそうです.「人々も,国家も,その夢と悪夢の産物(the products of their dreams and their nightmares)である.」 と.

期末試験の採点や入試監督,論文審査などが山を越えたので,さっそく,『攻殻機動隊』のビデオを借りてきました.草薙素子の容姿!に魅了されただけでなく,電脳化と擬態化の末に,近未来の人類が何を解決し,何に悩むか? という謎を,文明に対して,また個人に対して問い掛ける姿勢に魅力を感じるからです.それがゴースト,もしくは,彼らの魂の声です.

アウシュビッツや環境破壊の末に,身体と知能が開発の新しいフロンティアになりました.現実世界で簡単に「切れる」人々は,既に,携帯電話とだけ≪対話≫する幽霊ではないでしょうか? 魂を失った者たちに,ナヴァホ族の長老は警告しました.

「お前が息をしなければ

そこに大気はない.

お前が歩まなければ

そこに大地はない.

お前が話さないなら

そこに世界は無いのだ.」

では,もし身体も知能も,人類がさらに失い続けるとしたら,どうなるのか? ≪人間≫はますます高度な人造物,一時的な借り物になるでしょう.素子の身体は工場で生産され,知能は世界中のデータベースをインターネットで繋いだものです.今後,ロボットを人間に似せて作るより,人間のパーツや機能をロボットで補強し,代替する過程が急速に≪進歩≫する,と言われます.もしそうであれば,個人の能力差やメリトクラシー社会の理想はどうなるのか? 全身に及ぶ美容整形,胎児に及ぶ教育熱,スポーツ選手や芸術家の薬物依存,さらに臓器移植,クローン再生,遺伝子操作された農産物,胎児の遺伝子判定や遺伝子治療,・・・ 人類の攻殻化(とゴースト)は既に始まっているわけです.

ゴーストは,人間の中だけにあるのではなく,その集合体,すなわち社会にも由来すると私は思いました.借り物の大地,借り物の大気,そして借り物の世界.文明が進化するほど,身体も知能も技術的な媒体によって拡張し続け,その結果として,魂は希薄化します.真に借り物で無い自分とは何か? そこに定着して,安住することを信じ,未来さえも共有できると信じる,ゴーストたちの互恵的な信頼関係はどこに向かうのか?

アンドロイドの集団自殺

「偶像(アイドル)崇拝」

「クローン臓器と臓器マフィア」

「全自動資本主義」

「テロリストに誘拐された娘」

チャットの監視者

難民居住区と強制介入権」・・・

夢のような仮想世界が拡大する一方で,現実には暗殺や人種差別,貧困,社会的亀裂が増大し,人々の思考を制約し,人間的な欲求を激しく撹乱し続けます.こうした商業主義,快楽主義,誇大妄想的ヒロイズム,技術・情報信仰,・・・などが蔓延する都市の生活に,生身の人間は耐えられないかも知れません.攻殻化を含む文明の擬態化は,しばしば弱小な生物が生き残るために開発した戦略と似ています.あなたの周りでも,幼い子供たちがテレビの人気者を真似て関心を惹こうとしていませんか?

いつか,魂と対話する者たちが,自分たちにとって本当に好ましい状態を求めて,長期的な互恵関係を再設計しよう,と主張するでしょう.イラクの子供たちに作文を募集するFRIEDMANの提案にならって,合意の崩壊を経験した日本でも,このテーマに関する中高生の作文コンクールを開いてください.自分を改造するのではなく,議会の代表制度や決定メカニズム,すなわち,社会契約のあり方を改革してはどうでしょうか?

たとえば参議院の任期を10年とし,三選は禁止する.衆議院と独立に解散し,選挙区も衆議院とは明確に区別します.東日本,西日本,都市圏,山海広域圏としてください.さらに,アジア諸国からも議決権の無い代表を招いて常駐させ,その発言と対話を活かしてアジア議会の萌芽としましょう.改革の目的は,異なる利害を長期的に調和させる社会制度の工夫です.そして独自の権限として,参議院の決定は合意により憲法に明記できる,とします.すなわち憲法に付帯条項を追加し,さらに,それを適宜修正する権限を参議院だけに与えるのです.

変貌する富や権力の性格に合わせて,自然や人類の姿を造り変えるより,その社会制度を調整することで自分たちに負荷された軋轢を吸収する方が良い,と人々も気づくでしょう.しかし今は,まだ「ゴーストたちの囁きが足りない」・・・か?

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