2.「権力」とは何か?

;命令と独占

2.1「権力」を発見したのは誰か?

;社会秩序の強制力はどこから来るのか?;なぜヒトは殺し合わないのか? なぜヒトは労働し、交換し、休息できるのか? 

;なぜヒトは従うのか?;その規則は合理的か? その秩序は何を目指すのか? 誰の利益か? 何が正しい規則か? 権力の源泉は何か?

;権力と不平等;権限として、地位として、独占として、不平等が維持されるのはなぜか? 富と不平等は権力を終わらせるのか? 富の秩序へ?

;社会の集合的生産力が実現されるために必要な、<協調行動の問題>を、誰がどのように解決したのか?

;哲人王と独裁者。;あるいは、構造化された権力と、その原理を求めて。

「社会」の発見、に続いて、その編成を決めるものは何か? が問題となる。一つの答えは、「暴力」「軍事力」「支配者の命令」である。

広辞苑;(一般的な意味)…「他人を抑えつける力」

岩波・経済学辞典(田口富久治);「人間社会には少なくとも氏族共同体の崩壊以後、事実上の支配・服従関係があらわれ、またそのような関係はたえず制度化されてきた。」しかし、それを「権力」という用語で表すようになるのは、「近代における自主独立の個人(という概念)の確立と、この時代における認識規範としての古典力学の成立を契機とする。」

第一に、主体としての個人の確立によって、なぜ本来自由で自律的であるべきはずの人間が、他の人間によって支配・他律(強制)されているのか、という問題意識。

第二に、これが当時の支配的な理論モデルである古典力学における<力と抵抗>というタームに引証されることで、「権力」として観念される。

平凡社哲学辞典;権力とは、<一定の生活価値>の社会的配分体系が正当であると、一般に承認されていることによって、潜在的な社会的圧力、あるいは物理的強制力、を動員して、この価値の体系を決定・維持・強制・変更できる能力、を意味する。

権力の起源;「権力現象は、一定の人格や集団が生活価値(財貨、知識、名誉、尊敬、快適など)の獲得・維持をめぐって紛争が起き、一定の集団が他の集団に命令・強制することから生じる。」あるいは、紛争と対抗に応じた集団化・組織化それ自体が、その内部においても相互依存関係を権力関係に転化する。

権力の発現・行使;権力は、物理的・精神的・制度的な、さまざまな形の強制と制裁によって、現れる。究極的には物理的強制力でありながら、しかし、それが暴力一般と区別されるのは、その集団の生活価値とその配分体系が集団構成員によって承認されているからである。すなわち、権力による強制は「正義の実現として意識される(価値の)配分体系を維持するために発動される。」

権力の維持;権力的支配を維持するために、この生活価値の配分体系への承認を、神話や宣伝、シンボルなどの手段を駆使して、常に「培養」し、「強化」しなければならない。それは、権力者がその主観的欲求(私的な・特殊目的)を集団の欲求として客観化し、「説得」し、「合理化」することでもある。権力関係は、次第に、国家の制度として確立され、文化的価値として人格のうちに埋め込まれ、他方、直接的な権力(強制・支配)手段である軍隊や警察は極限的な状況に限定されるようになる。

弘文堂社会学辞典;「ヨーロッパの政治学において権力という現象が客観的な考察の対象となったのは、政治がギリシャのポリス的な共同体や、中世のカソリック的な政教一致体制からぬけだし、個人も国家もむき出しの権力という問題に直面するようになった近代初期においてである。」

権力は何に由来するのか? M.Weberは、支配の正当性を根拠づける方法から「カリスマ(権威)的」・「伝統的」・「合法(合理)的」支配を類型化した。(ウェーバー『支配の諸類型』『支配の社会学』)

1.合理的支配;制定された諸秩序の合法性。それを行使する者の命令権の合法性。(例えば、官僚制)

2.伝統的支配;昔から妥当してきた伝統の神聖性。(例えば、昔からの制度や慣習)

3.カリスマ的支配;ある人が啓示し作った秩序の神聖性。英雄的力、模範性への非日常的な帰依。(例えば、宗教的・軍事的指導者)

(相互関係);伝統的支配は長期にわたって固定的な社会が多く利用するが、短期に激動する社会状況では、カリスマ的支配が重要になるだろう。他方、いずれの支配も、反復と参加、比較により、集団構成員の発言や説明要求に公平な対応が必要になれば、合法的支配への移行が進むだろう。その意味で、市場による参加者の増加と条件の明示的な比較は、<合理化(合法的支配)>を拡大する重要な動力となった。

権力をめぐる異なった理解

・ロック『市民政府二論』と革命権

・ウェーバー Max Weber『支配の社会学』

・権力の多面性;デュヴェルジェ、

国家の権力政治と<勢力均衡>;E.H.カー、ハンティントン『文明の衝突』(また、彼の論文の冒頭に引用された、チャーチルとスターリンとのヨーロッパ分割観;「誰が秩序を決めるのか? 占領軍である。」)

1.権力関係の集中化・両極化

マルクスは、(権力の実体を)「資本すなわち経済的な富の集中による」として、資本家階級の権力を政治的支配の上に置いた。ラスウェルは、<大衆社会>化により、権力の基盤は経済的な富だけでなく、希少な社会的価値一般である、とした。権力は多元化し、それゆえ政治的な選択と社会変化の弾力性が増した、と見るか、あるいは一層の政治権力の自律化が進んだのか、論争がある。

A.ギデンス『社会学』;権力の二つの理論;マルクスとウェーバー

マルクスの<階級>;生産手段の所有によって構造化された市場(による資本蓄積を担う)の権力関係。

ウェーバーの<地位>と<党派>;社会的な富の不平等に関わらず、権力を支配する<地位>を経済的な理由以外で与えられている場合、また特定の目的を達成するために権力をめぐって集団的に闘争を繰り返す<党派>が形成される場合、<階級>よりも重要な権力の解剖手段となる。

マキャベリ『君主論』;手段としての<権力>の科学的分析

ホッブス『リヴァイヤサン』;権力の合理的モデル(力学モデル)の提唱

「技術Artによって、コモン・ウェルスあるいは国家CIVITASと呼ばれるあのリヴァイアサンLEVIATHANが創造されるのであるが、それは人工的人間に他ならないからである。・・・そしてその中で、主権Sovereigntyは、全体に生命と運動を与えるのだから人工の魂であって、模倣者たちMagistratesやその他の司法や行政の役人たちは人工の関節である。」

「最後に、この政治体の諸部分を最初につくりだし、集め、結合した、その約束および信約は、創世のときに神が宣告したあの命令、すなわち人間をつくろうという言葉に似ている。」

13章 人類の至福と悲惨に関するかれらの自然状態について

「すべてをいっしょにして考えると、人と人との差異は、ある人がそれにもとづいて、かれのものとして要求しうる利益がどんなものでも、他人がそれと同様に主張してはならぬと言うほど、大きくはないのである。・・・最も弱い者でも、ひそかなたくらみによって、あるいは彼自身と同じ危険にさらされている者との共謀によって、最も強い者を殺すだけの強さを有するのである。」

「誰か二人が同じ物事を意欲し、しかしながら双方がともにそれを享受することは不可能だとすると、彼らは敵となり、彼らの目標(自己保存であれ、歓楽のみであれ)にいたる途上で、互いに相手を滅ぼし、または屈服させようと、努力するのである。」;社会状態の外には、つねに各人対各人の戦争が存在する。

「人々を平和に向かわせる諸情念は、死への恐怖であり、快適な生活に必要なものごとへの意欲であり、彼らの勤労によってそれらを獲得することへの希望である。そして理性は、平和に関する、つごうの良い書条項を示唆し、人々はそれに関して協定するように導かれうる。」

C.シュミット『政治的なものの概念』;権力でしか解決できないもの、の究明。

2.権力の多元性・集団利益の均衡化と連続的移行

C.E.メリアム『政治権力』;「権力は、なによりもまず、集団の統合現象であり、集団形成の必要性や有用性から生まれるものである。つまり、権力は人間社会の一つの関数なのである。」「社会状況は、諸集団、あるいは諸階級・諸党派といったものの間の均衡の維持をつねに内包している。」

「現代の社会的・政治的環境においては、強制と協同とが混じり合っている。」「むしろ。共同社会のさまざまな集団や個人の間に、物理的な力に代わるものとして、なんらかの均衡・調整・和解案などを作り出す必要性が存在することの結果として、政治が登場する。」「権力状況とは、ある種の均衡と秩序化を求める集団相互間の一連の関係を意味する。」

もし(集団化と)権力(支配)が、経済学にも適用されるならば、分配問題や国内的政策決定過程の均衡・対抗力を重視することになり、また対外的な国内利益・均衡状態の反映・拡張として<帝国主義(的拡大・介入)>の根拠となる。

;政治経済学アプローチ

ラスウェル『権力と人間』;政策学としてのデモクラシー

3.権力の制度化・資本主義社会の変質

C.ライト・ミルズ『パワー・エリート』;「国家・企業・軍部のヒエラルキーこそが、権力の手段を構成する。」「構造的な意味においてこの権力の三角形は、現在の歴史的構造にとって最も重要な、相互に密接に関連しあった支配層の源泉をなしている」。

「エリートとは、一群の上層サークルであり、そのメンバーたちは、選抜され、訓練され、認可され、現代社会のインパーソナルな制度のヒエラルヒーを指揮する人々と近付きになることを許された人々である。」

「もしもわれわれが、戦争と平和、不況と繁栄が、もはや<運命>によってではなく、現代ではまさに人間によって統御しうるものだと真に信ずるならば、われわれは一体誰がそれらを統御しうるのか、と質問すべきである。答えは明瞭である。途方も無く拡大され、決定的に集中された決定と権力の手段を現在手中に収めている人々以外にありえない。」

J.K.ガルブレイス『新産業国家』も参照。

4.権力(イデオロギー)の終焉?

経済学はなぜ「権力」を扱わないか?;<経済学辞典>には載っていない?

1.権力は扱ってはならない?;政治的価値判断からの自由、『職業としての学問』

2.権力も扱える?;民主主義の経済理論、政治的景気循環論、通商政策の政治経済学、など

3.権力と富はともに社会編成の原理である;政治経済学アプローチ

A.O.ハーシュマン『情念の政治経済学』;「利己心」は、権力者を抑制し、合理的な行動を導くための対抗的情念として形成された。それはさらに、蓄財に示される<恒常性>と<可測性>と言う性質は、むしろ政治分析として、君主・権力の制御手段として導入された。それは名誉や野心のために戦争を繰り返す貴族たちの情念よりも、はるかに穏健で冷静なものと見なされた。

例;リー・クァン・ユー;「各国は、戦争するよりも、交易によって富の獲得を競った方が良い。」戦争の結果は荒廃であるが、(たとえ同様に政治的な動機であれ)通商の結果は豊かさである。

しかし、ハーシュマンの結論は、利己心が平和や繁栄の根拠となるという説を、17-18世紀の政治思想の革新として理解し、決してその普遍的な真理性を支持していないことにも注意すべきである。利己心による経済学の説明だけでは、その社会が平和や繁栄を維持する条件を示せない。

5.覇権・構造としての権力

指導力と支配;グラムシ『獄中ノート』市民社会の文化と覇権Hegemony

;ストレンジ『(市場と国家)国際政治経済学入門』;<関係としての権力>と<構造としての権力>

;レーガン政権時の大統領報道官?;「私がもし生まれ変われるとしたら、ローマ法王でも、アメリカ大統領でもなく、<国際資本市場>になりたい。」(参照;S.Gill

R.Keohane覇権安定論Hegemonic Stability Theory;国際金融市場の変化に対して、アメリカの持つ選択肢の多さ、他国が決して利用できない選択肢の保有、他国の選択肢への影響力、などによって、アメリカの支配はむしろ強められた。

情報と権力;KeohaneNyeEngagement Policy;情報の重要性は、その情報を作り、流通させる専門機関、情報の伝達に欠かせない通信手段やコンピューターへの技術支配、英語と言う世界のBusiness共通語、分化や娯楽活動における優位、アメリカ社会の積極的な移民受け入れ、など。

覇権衰退論;ポール・ケネディ『大国の興亡』、ヘンリー・ナウ『アメリカ没落の神話』

J.Nye;『不滅の大国アメリカ』;ソフト・パワー

「他の国々を変えさせるということは、力を行使する上で、支配的、命令的な方法と言えよう。命令する力を支えるのは、誘導(ニンジン)か脅し(ムチ)、である。しかし、間接的に力を行使する方法もある。国際政治においては、ある国が望みどおりに成果を達成することもありうる。他の国々がその国に服従を望んだり、そのような効果を生み出すシステムに同調した場合である。そこで、国際政治にあっては、テーマを設定し、状況を構築することが大切なのである。」

「相手を取り込む力とは、その発想の魅力、あるいは、相手がこうなって欲しいと思う方向に政治的テーマを設定する能力に、支えられている。」「これは、軍事力とか経済力のような、明白な力の源泉とよく結びつくハード・パワーの対照を成すものとして、ソフト・パワーといえよう。」

「一般的な原則について一定の同意を得る能力」「その原則とは、指導的な立場に立つ国と、社会の支配層の優位性とを保証するものである」また、「力で劣る国々に対して、満足の期待をいくらかでも与える能力」

「要するに、一国のもつ文化の普遍性と、国際的活動の領域を取り仕切るルールや制度を有利に確立できる能力とが、決定的な力の源泉なのである。」

6.権力の交代・転換

同盟化と勢力均衡

R.Gilpin;帝国循環から覇権交代論

権力の制御;A.Shonfield行政権力の技術

革命権と移民権

(質問)「社会科学入門」では何を学ぶのか?

;ゴジラを捕まえること。ゴジラを飼いならすこと。そして、ゴジラを調教すること。

;<社会>はもっと大きく、捕まえることも非常に難しい。

;しかし、<社会>は存在している。<社会>は認識し、議論できる。ただし、それは認識モデルによって、議論するしかない。

;<社会>を制御し、より良いもの(理想社会)に変えることはもっと難しい。しかし(「権力モデル」で言えば)、民主主義とは、権力者を投票によって交代させることである。だから、政治家を手段として、政治権力をその目的や効果において、私たちが集団的な選択を行える。


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