IPEの果樹園2020
今週のReview
10/12-17
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道徳破壊者としてのトランプ ・・・第2次南北戦争 ・・・ロックダウンから長期的問題へ ・・・歴史的偉業 ・・・トランプのコロナ陽性 ・・・第2次冷戦 ・・・アゼルバイジャンとアルメニアの紛争 ・・・バイデンが世界を救う ・・・日本の低賃金戦略 ・・・「なぜ彼らはあんなことをしたの?」
[長いReview]
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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL International, VOX: VoxEU.orgそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 道徳破壊者としてのトランプ
NYT Oct. 1, 2020
At His Core, Trump Is an Immoralist
By David Brooks
21世紀になってから、次々に脅威が襲ってくる。テロ、金融崩壊、疫病、気候変動、民主主義の動揺。しかし、左派と右派の人々では、驚異がどこから来るか、異なった見方をしている。右派にとっては、脅威はアメリカの外から来るが、左派にとって、アメリカ内部の強力な金融・政治から脅威が生じる。
Hibbingの著書は、熱狂的なトランプ支持者の動機を理解する試みだ。彼らは経済的な周辺に落ち込んでいないし、権威に弱いとか、権威を求める者ではないし、宗教的とか、伝統的な意味での保守派でもない。彼らは、アメリカの中心(コア)がある、と強く考えている。白人とか、地方、ジョン・ウェイン、フットボール、狩猟などに集約されるものだ。
トランプ支持者たちは、アメリカのコアが、彼らがアウトサイダーとみなす者たちから生存の脅威を受けている、と感じている。例えば、移民、中国の共産主義者、コスモポリタンな都会人たち、有色人種。彼らは、自分たちが強く、警戒心を怠らない守護者であり、神聖な故郷(ホームランド)を蛮族(エイリアン)の脅威から守っていると考える。
驚異の下に置かれていると感じる人々は、自分たちのリーダーの残酷さを大幅に許容する。故郷を守るためなら少々の野蛮さは良いことである。しかし、ドナルド・トランプに関しては、彼は不道徳な手段を駆使するナショナリストではない。まず、何よりも、道徳破壊者である。政治家になる前から、不正直、残酷、裏切り、汚い手の常習者であった。
この大統領選挙運動で、貿易や移民に関する彼のナショナリスト的公約は後退し、不道徳さが前面に現れた。2016年に比べて、より純粋なトランプ、パット・ブキャナンではない、インモラリストのトランプだ。
トランプは、退役軍人と戦争を、税金の無駄遣い、負け犬たち、とよぶようだ。アメリカ人の多くが死に瀕するパンデミックを軽視する。公平な税金を支払わない。白人至上主義者の側に立ち、人種差別主義者やQAnonを暗示する。
保護主義の中心的な前提とは、人は堕落した存在であり、文明の薄い殻で護られている、というものだ。われわれが幸せに暮らせるのは、何世紀にもわたり道徳や社旗秩序を築いてきたからだ。しかしそれは壊れやすく、絶えず手入れを必要とする。
トランプの行動は、こうした保守的な本能の核心を攻撃する。ナショナリストも、保守派も、トランプへの支持を控えるだろう。
● 教育システムと労働市場
The Guardian, Fri 2 Oct 2020
Let's seize this rare chance to abolish school exams and league tables
Simon Jenkins
The Guardian, Wed 7 Oct 2020
Only radical reform can fix Britain's broken ladder of social mobility
Lee Elliot Major and Stephen Machin
● 第2次南北戦争
PS Oct 2, 2020
The Next Civil War?
ELIZABETH DREW
アメリカの首都は、1860年の南北戦争前夜以来なかったような、緊張状態に包まれている。
トランプは、容赦なく先例や規範を破壊し、自分の行動をチェックすることを絶えず無能化した。
言葉だけでなく、本当に銃撃戦が起きないとしたら幸運かもしれない。トランプは最初の選挙戦でも、就任後も、暴力を煽ったきた。しかし討論会で、白人至上主義の極右暴力集団である「プラウド・ボーイズ」について訊かれたとき、「下がって、(戦闘に)待機せよ!」と鼓舞した。
トランプは、トルコやサウジアラビアのような権威主義的指導者から金融支援を受けた。報道によれば、ロシアの富豪たちは、プーチンの意を受けて献金した、とトランプは発言した。
トランプは、4億ドルもの個人債務を抱えるが、この数年に支払う資金をどこから得るのか、まったくわからない。
討論会で、バイデンはトランプの行動にふりまわされ、大統領としての姿勢を示せなかった。トランプを「道化師」とよび、「黙れ」と命じたが、それはアメリカ人が大統領に期待する発言ではないだろう。
トランプを好むのは極右の集団だけである。その政治的才能や知性には大きな疑問が生じる。トランプが権力を保持することは、アメリカの立憲体制に、かつてない試練となっている。
PS Oct 2, 2020
The Republican Threat to the Republic
JOSEPH E. STIGLITZ
ネロがローマを焼いたことは有名だが、トランプはカリフォルニアが燃えているとき自分の所有する赤字のゴルフコースでゴルフしていた。そして、COVID-19でアメリカ人は20万人以上が死亡しているが、今や彼自身が感染した。ネロと同じように、トランプが冷酷で、人間性を欠く、もしかすると狂気の政治家として記憶されるのは疑いないことだ。
9月末の大統領討論会では、トランプが大統領にふさわしくないことを示しただけでなく、多くの人が精神の健全さを疑っただろう。確かに、過去4年間で、ワシントン・ポストの数えるところでは、約2万の嘘や誤解を招く記述を行った。世界は、この常習的な虚言の新記録を目撃している。
私がインディアナ州、Garyでの子ども時代に、アメリカ憲法の優れた点として、司法の独立性と、権力の分割、適切に機能するようなチェック・アンド・バランスの重要性、を学んだ。1990年代に世界銀行のチーフ・エコノミストであったとき、私たちは世界中を旅して良い統治や良い制度に関して教えたが、しばしば、そのモデルがこうした考え方であった。
もはやそうではない。トランプと彼に従う共和党は、アメリカの民主的なプロジェクトに影を落とし、われわれの諸制度や憲法がいかに壊れやすいか、そして、人によっては欠陥があるか、を思い知らせたからだ。
敵対する一方の側がもはやルールに従わないとき、より強いガードレールが必要だ。幸い、われわれはすでに地図を持っている。昨年初めに議会下院が出したThe For the People Act of 2019である。投票権を拡大し、党派的な選挙区の変更を制限し、倫理規範を強化し、民間政治献金による政治的影響を限定する。しかし、ますます国民の多数派が支持しないような政治を推進する共和党は、これを拒むだろう。
彼らが公然とアメリカの民主主義に対する戦争状態を叫ぶのは、多数が支持しないような政策を掲げているからだ。有権者の投票を妨害し、司法や連邦政府を政治的に利用し、少数支配を永久に制度化しようとする。
アメリカ国民に残された唯一の選択肢は、すべてのレベルで、選挙に圧勝することだ。もし敗北すれば、民主主義の敵が世界中で勝利するだろう。
NYT Oct. 2, 2020
Without the Right to Protest, America Is Doomed to Fail
By Patrisse Cullors
NYT Oct. 2, 2020
Lincoln Has Another Lesson for Trump
By Roger Cohen
PS Oct 5, 2020
The Democrats Should Fight Fire with Water
DARON ACEMOGLU
F.D. ルーズベルトは、1937年、彼のニューディール・プログラムを否定する保守派が多数を占める最高裁に対して、新しい法律で彼が追加の判事を指名する、と威嚇した。しかし、共和党や市民グループだけでなく、自分の民主党にも反対され、断念した。
最高裁はそのメッセージを受け、ニューディールの法制化を受け入れた。特に、1940年にルーズベルトが3期目に圧勝した後、正常な手続きで、空席のできた最高裁に左派の判事を指名した。最終的には、最高裁の制度が強化された。
他方、アルゼンチンでは逆だった。1946年、フアン・ペロン大統領は最高裁の反対にあって、4人の判事を弾劾した。彼の政策に最も強く反対した判事たちだ。ルーズベルトと違って、ペロンは強い抵抗にあわず、アルゼンチンの司法制度をさらに解体し、自分の仲間を指名した。
アメリカの基本制度は改革を迫られている。成長の果実をより広く分配するべきだ。資本と労働とのバランスを変え、より累進的な税制への改革が必要だ。企業、特にハイテク大企業のパワーを削減し、連邦最低賃金引き上げなど、労働者の保護を強化し、機械化するより、労働者の生産性を高める技術革新を促す。気候変動対策や医療システムの改革も必要だ。
しかし、こうした改革は政治的な阻まれている。それは制度を弱め、信頼を損なうだろう。共和党の民主主義解体を進めるゲームに対抗するのではなく、民主党は既存の政治プロセスを通じた広範な政治改革を行うべきだ。
それは2つの意味で経済改革にとって必要なものだ。第1に、政治資金の影響を断つこと。超資産家だけでなく、公式・非公式の企業献金が問題だ。第2に、人口と議席数の不均衡を正すこと。それはアフリカやラテンアメリカの水準であり、政治危機と機能不全をもたらしている。
一時的な戦術で対抗するのではなく、時間をかけて、広範な連合からの支持を、既存のシステムを通じて獲得することが重要だ。ペロンが好んだ支配者による左傾化ではなく、諸制度への信頼を回復することで、アメリカの政治と経済は正しい軌道に戻る。
NYT Oct. 6, 2020
America May Need International Intervention
By Peter Beinart
● EUとUKの政治
FT October 2, 2020
EU must seize the moment to defend rule of law
Ben Hall
FT October 6, 2020
The Johnson government should fear Trump, not Biden
Gideon Rachman
アメリカ大統領選挙はドナルド・トランプが負けそうだ、という気配に、西欧の諸国の政府が静かな安堵感を持っている。しかし、ロンドンは違うだろう。
ジョンソン政権はEU離脱の利益を示すことに飢えている。トランプはつねに大げさにブレグジットを支持してきた。UKとの通商協定を約束している。他方、バイデンや民主党はそうではない。アイルランドとの和平協定を破れば、通商協定を結ばない、と脅したことで、保守党は衝撃を受け、激怒した。
しかし、だからと言って、トランプ再選を祝うのは間違いだ。政府も保守党も、イギリスの国益とトランプ政権の性格を全く誤解している。
トランプが健康を回復し、ホワイトハウスに戻ったら、彼の第2期の外交ははるかにラディカルで、UKにとって強圧的なものになるだろう。イギリスがファーウェイに対して有利な条件を示したとき、アメリカは直ちに、諜報機関のリンクを断つ、と威嚇した。当然、ジョンソンは方針転換した。
トランプは、UKよりももっと重要な同盟国、ドイツや日本に対しても、関税や制裁で威嚇することを躊躇しなかった。アメリカ・ファーストを掲げるトランプが、今も国際主義を掲げるUKにとって、WHO、UN気候変動交渉、ICCへの制裁など、難題を持ち込む。トランプはUKが少しでも離反する立場を許さないだろう。
FT October 7, 2020
Hungary’s abuse of the rule of law is now incontrovertible
Michael Ignatieff
● ロックダウンから長期的問題へ
PS Oct 2, 2020
Herd Immunity Will Not Defeat COVID-19
WILLIAM A. HASELTINE
FP OCTOBER 2, 2020
Only State-of-the-Art Medicine—and Luck—Can Save Trump Now
BY LAURIE GARRETT
FP OCTOBER 3, 2020
What Happens if a Presidential Candidate Dies Before Election Day?
BY ROBBIE GRAMER
PS Oct 7, 2020
To Lock Down or Not to Lock Down?
PETER SINGER
感染者数と死者数が増えれば、ロックダウンは避けられない。しかし、3つの問題に答える必要がある。
1.死者の差を考慮すること。90歳なのか、20歳、30歳、40歳なのか。2.失業や満足感の低下など、生活の悪化を考慮すること。3.パンデミックがないときでも、生活することが苦しい、ぎりぎりの家庭が多くあった。不況が他国の人々も苦しめている。
The Guardian, Thu 8 Oct 2020
The Guardian view on the Covid second wave: deepening the divide
Editorial
NYT Oct. 8, 2020
Capitalism Is Broken. The Fix Begins With a Free Covid-19 Vaccine.
By Mariana Mazzucato
COVID-19による経済的な落ち込みは、資本主義についての長期的諸問題を考えるよう求めた。
パンデミックの前にも、ギグ・エコノミーの誕生で労働者は変化しやすい職場に苦しみ、交渉力の低下を実感していた。公共サービスは削られ、大企業では、株式の買戻しで株主の利益になっても、研究開発投資や労働者の報酬、訓練はなされず、長期の成長を損なっていた。企業が短期利益を追求するようになった規制緩和は、2008年の金融危機に至った。
パンデミックで事態は変化した。政府はシステムの欠陥や構造を改革しようとしている。ワクチン開発がその例だ。
パンデミックを終息させる唯一の方法は、ワクチンを開発し、世界中で、すべての人に無料の接種を広めることだ。そのためには、公共部門が開発を促し、価格を決め、供給体制を整備し、特許や競争を、集団的に公衆衛生に資する形で行うことだ。WHOが特許をプールするべきだろう。
国際的に、諸政府が協力して、知的財産、価格、製造に関する強いルールを決める。ワクチンの世界的普及と利用に関する目標に合意し、そのための生産管理に影響力を行使する。巨大製薬会社は、治療やワクチンで法外な利益を上げない契約にする。
これはCOVID-19にとどまらない。企業を処罰するのではなく、諸集団が利益を共有するためだ。経済成長をすべての市民にとって有益なものにする。労働条件を改善し、政府と民間のバランスを変え、企業の株価引き上げ・短期利益志向を抑える。また、「グリーン・リカバリー」を実現する。
景気刺激策だけでは問題を解決できない。より包括的な、持続可能な経済を創るために投資する。2008年の金融危機後はそれに失敗した。公共の利益を反映した投資が欠かせない。デンマーク、フランス、ベルギー、ポーランドは、タックス・ヘイブンを利用する企業が政府資金を利用させない法律を創る。ECBは(資金供給に対して)銀行が2021年まで配当を支払わず、ボーナスを抑えるように求める。アメリカでは、エリザベス・ウォーレン上院議員のような指導者が、連邦最低賃金引き上げ、企業の取締役会に労働者や利益集団の代表を入れる民主化、配当、株式買戻し、ボーナスの制限を求めている。
COVID-19は健康と経済を襲う大きな脅威であるが、今、変わらなければ、地球の温暖化も解決できないだろう。
● デジタル化とニューディール
PS Oct 2, 2020
A Multicolored New Deal
JAYATI GHOSH
PS Oct 2, 2020
Eastern Germany’s New Growth Engine
DALIA MARIN
T October 5, 2020
Covid recovery will stem from digital business
Rana Foroohar
PS Oct 7, 2020
Building Back Fairer and Greener
PAMELA COKE-HAMILTON
われわれは今、われわれが求めるパンデミック後の未来の種を蒔かねばならない。すなわち、ジェンダーの平等と持続可能性を経済の中心に据えることだ。
PS Oct 8, 2020
Eastbound and Green in Europe
LAURENCE TUBIANA
● 金融政策の転換と反発
PS Oct 2, 2020
The Danger of Following the Fed
OTMAR ISSING
US連銀は世界で最も重要な中央銀行だ。連銀の金融政策決定は、世界中の金利に影響し、それを無視する中央銀行は自国の為替レートに好ましくない変動を避けられない。
しかし連銀は、金融政策の枠組みを設定する先駆者ではなかった。インフレ目標の採用も、より透明な市場とのコミュニケーションも、遅かった。
連銀の最近の金融政策見直しは、中央銀行家たちの待ち望んでいたものだったが、世界の金融政策決定を指導する目標にはならない。その前に考慮すべき政治的・技術的問題があるからだ。
第1に、インフレ率の平均に目標を変えることはあいまいで、インフレ期待のアンカーを失う。
第2に、金融政策で雇用の最大化を目指すことは、実質自然利子率を変え、循環論になる。
第3に、金融政策が所得分配に影響することは事実であるが、所得分配の改善を金融政策の目標にすることは政治的介入を招く。
第4に、連銀の戦略は、インフレ目標によって統合されている金融システムを危険にさらす。
PS Oct 8, 2020
The Core of the ECB’s New Strategy
HÉLÈNE REY
金融政策が作用する環境が変化することを考慮しなければならない。特に気候変動だ。世界の主要諸国で、政府は気候変動を抑えるために、石油価格の上昇を望んでいる。それにともなう産業構造の変化にも、金融政策は影響を受ける。
● 歴史的偉業
FP OCTOBER 2, 2020
Gorbachev Was Right About German Reunification
BY ELISABETH BRAW
ドイツ再統一は地政学的に観て大成功だった。英・サッチャーと仏・ミッテランは反対したが、USブッシュは強く支持した。
ドイツは再統一を急いだ。ゴルバチョフがそれを支持していたが、彼の考えがいつ変わるかわからない、と恐れていた。実際、再統一の1年たらず後に、ソ連の保守恐慌派がゴルバチョフに敵対するクーデタを起こした。
英仏の指導者は反対したが、ポーランドやチェコなど、東欧に広がる民主化のエネルギーを彼らが抑えることは矛盾していた。
東ドイツ国民にとって、それは魔法のようなものだった。東西のマルクが統一されて、西ドイツのように暮らせる、と喜んだ。しかし、人びとは混乱と企業の閉鎖、失業、西ドイツの傲慢さに直面した。
1992年の世論調査は、東ドイツの旧国民に失望や不満があることを示した。それは「体制転換ショック」であった。1990年代後半から次第に経済は回復したが、富の格差は大きく、民主主義への信頼は失われた。旧東ドイツでポピュリストを支持する率が顕著に高い。
平和的にドイツが再統一を実現したことは、歴史的偉業であった。コールはユーロ圏を夢想した。しかし、それらはまだ完成していない。
PS Oct 6, 2020
Learning from Rabin
RICHARD HAASS
すべての暗殺が歴史の転換点を示すわけではない。たとえフェルディナンド皇太子が暗殺されなくても、第1次世界大戦は起きただろう。すでに戦争の舞台は準備されていたからだ。別の何かが発火点になっただろう。
しかし、25年前のイスラエル首相、ラビンが極右のユダが人過激派に暗殺されたことは、ほとんど確実に、中東の転換点となった。ラビンは彼の同世代で、唯一の、イスラエル占領下で暮らすパレスチナ人と和平を結ぶ意志と能力を持つ指導者であったからだ。妥協が必要であることを理解し、リスクを評価し、イスラエルの多数派に妥協することが賢明であると説得できるほど、強い指導者であった。
イスラエルの防衛省であったとき、ラビンは占領下のパレスチナ人を厳しい手段で弾圧し、抗議デモを粉砕した。ラビンにとって、秩序を維持する法的・政治的な必要性と、死者を最小にする道義的な要請があった。死者を出さないような強制手段は、彼にとって正しい選択だった。
しかし時を経て、ラビンは、強制するだけでは成功しない、と結論した。政治的、経済的な動機が欠かせない。首相となって2期目に、ラビンはパレスチナ解放機構PLOを、そのテロの歴史にもかかわらず、交渉相手として受け入れた。そして、1993年、1995年に、オスロ合意を結ぶ。それはパレスチナ人の大幅な自治権を認める道を開いた。
われわれは、オスロ合意が完全には実現しなかったことを知っている。ラビンは暗殺された。その後の和平交渉は失敗した。アラファトは死んだ。パレスチナ国家はどこにもない。
こうしたすべてのことが、最近のイスラエルとUAE、バーレーンとの外交的な前進につながる。アラブ諸国の政府は、イランの脅威を逃れ、イスラエルの技術とアメリカの武器を得るために、パレスチナ問題が解決しなくても、イスラエルとの関係正常化を選んだ。
イスラエルは占領したヨルダン川西岸への入植を続けており、妥協の余地は失われる。パレスチナ人の次世代の指導者は、ラビンのように、平和のために妥協する意志と能力を示すだろうか?
しかし、イスラエルもラビンから学ぶべきだ。ラビンは、イスラエルがユダヤ人の民主的国家であり続けるためには、パレスチナ人の国家が分離するべきだ、と理解した。それ以外の道は、パレスチナ人をイスラエル市民とし(ユダヤ人国家ではなくなる)、彼らの投票権を否定することだ(民主的国家ではなくなる)。
ラビンはこの道を拒否した。
● 中国の炭素排出量ゼロ宣言
FP OCTOBER 2, 2020
Beijing Is Winning the Clean Energy Race
BY SARAH LADISLAW, NIKOS TSAFOS
FT October 5, 2020
US, Europe and UK must unite to keep Chinese tech at bay
Anja Manuel
PS Oct 5, 2020
The Promise of Decarbonization
CHRISTIANA FIGUERES
PS Oct 7, 2020
Europe’s “Green China” Challenge
DANIEL GROS
● トランプのコロナ陽性
FT October 3, 2020
Trump’s coronavirus October surprise
Edward Luce
The Guardian, Sat 3 Oct 2020
The president’s personal agony is also a moment of deep national reckoning
Geoffrey Kabaservice
FT October 3, 2020
Trump’s positive coronavirus test will cement US divisions
Christopher Caldwell
NYT Oct. 3, 2020
Now the President and Frontline Workers Have Something in Common
By Jeneen Interlandi
The Guardian, Sun 4 Oct 2020
Trump, Covid and empathy for the world's least empathetic man
Robert Reich
今日、私は少しの間、ドナルド・トランプに同情した。このかわいそうな男はCOVID-19に感染し、入院した。
ジョー・バイデンは彼の回復を祈っている。カマラ・ハリスは心のこもった言葉を送った。
だが、ちょっと待て。バイデンの選挙運動はトランプに対するネガティブなTV広告を中止したが、トランプ陣営はやめずに続けている。
もしトランプではなくバイデンが感染したらどうなっただろうか? バイデンを、弱い、衰えた、老人と攻撃してきた。マスクをしたバイデンをバカにしてきたから、「やっぱりマスクなんて無駄だ」と言うだろう。「地下に隠れても感染するのさ。」
そもそもトランプは本当に感染したのか? トランプはあらゆる嘘をつく。もしかしたら、1日か2日で再登場し、元気になって、余裕いっぱい宣言する。「COVID-19はたいしたことじゃない。」 ヒドロキシクロロキンで治った。自分が強くて、力に満ちていたからだ。金のかかる治療など信用するな。
他方で、トランプは税金逃れの問題から注意をそらす。自分が失敗したビジネスマンだ、ということも気にしない。
しかし、アメリカが方針を見失った最大の要因はパンデミックだ。トランプが、そのウイルスを広めたからだ。
共和党のマッコーネルとトランプは、最高裁判事の指名を進めている。それはかつて、共和党がオバマの任期が残り1年ほどしかないのに上院で投票すべきでない、次期大統領が指名すべきだ、と「ルール」をでっち上げたことに、まったく反している。
他方で、バイデンは最高裁判事の増員によるバランスの回復を語らないし、民主党の指導者たちは、有権者が「フェアではない」と思う、と反対する。ワシントンDCとプエルトリコを州にして上院のバランスを変える、というアイデアも同様だ。
しかし、相手は全く違うゲームをしている。トランプとその協力者たちは、権力を維持、拡大するために何でもやる。
控えめで、民主主義に依拠する社会を望むのか? 邪悪さと、むき出しの力に依拠する社会を望むのか?
NYT Oct. 3, 2020
Reality Bursts the Trumpworld Bubble
By Maureen Dowd
PS Oct 6, 2020
The Pandemic’s Complex Cocktail
MOHAMED A. EL-ERIAN
FT October 9, 2020
Bubble warning: even college kids are touting Spacs
Gillian Tett
● エレファント・カーブ
The Guardian, Sun 4 Oct 2020
Modern, multicultural and surprisingly liberal: this is the real 'red wall'
John Harris
VOX 06 October 2020
Elephant who lost its trunk: Continued growth in Asia, but the slowdown in top 1% growth after the financial crisis
Branko Milanovic
グローバルな不平等を描くエレファント・カーブは、世界金融危機後、明確に示されていない。
2008年から2013・14年の分配は、グローバルな貧困層と、グローバルな中産階級が所得を増やし、西側の中産階級とトップ1%は貧しくなった。産業革命以来、初めてのことである。アジアの勃興が続く中で、アメリカの勃興にともなう西側の中産階級とエレファント・カーブも姿を消す。
● 第2次冷戦
FT October 4, 2020
China’s geopolitics are pumped up by its economic success
Graham Allison
FT October 5, 2020
A new cold war: Trump, Xi and the escalating US-China confrontation
Gideon Rachman in London
未来の歴史家が第2次冷戦の始まりとする演説を探すとき、2018年10月、ハドソン研究所で行われたペンス副大統領の演説を指摘するかもしれない。「中国はアメリカを西太平洋から追い出すことしか考えていない。・・・しかし、彼らは失敗する。」 中国の政治システムを指して、「自国民を弾圧する国は、めったにそれで終わらないものだ。」
緊張は西太平洋で高まっている。台湾政府によれば、9月の中国軍による演習は、台湾の防衛空域内で行われた。それは1996年に中国が台湾近海にミサイルを撃ち込んで以来、最大の安全保障上の脅威であった。
もう1つの演説は、7月にポンペオ国務長官が行ったものだ。50年におよぶ中国に対する関与政策は失敗に終わった、と警告した。「もしわれわれが今行動しなければ、究極において、(中国共産党)がわれわれの自由を侵食し、ルールに依拠した秩序を翻すだろう。」・・・「われわれは関与を続けない。関与政策に戻ってはならない。」
中国の技術力がアメリカの関心を集めるなら、その防衛能力は大きな不安となる。米中の軍事バランスは変化し、今や、西太平洋の海軍力は中国がアメリカを上回った。「中国のさまざまな動きをけん制する中で、新しい不確実性が高まり、中国の指導者にリスクを取ることを促すだろう。」・・・「台湾への攻撃を遅らせるより、むしろ早めるほうが良い、と結論するかもしれない。」
米中の軍事力の差は縮小したが、中国はアメリカのような同盟諸国のネットワークを持たない。「ワルシャワ・パクト」に匹敵する「北京協定」はない。
しかし、もしアメリカが中国の台湾侵攻を座視すれば、アメリカの同盟システムはその衝撃に耐えられないだろう。他方、もし米中が軍事的エスカレーションを抑えるなら、中国は別の意味で優位を展開する。それは貿易だ。中国を最大の貿易相手とする国は100か国以上あり、アメリカは57カ国である。ハイテク技術でも、モバイル決済、AI、医薬品で、中国はアメリカを超えるかもしれない。
米中対立には米ソ冷戦と、重要な、いくつかの異なる点がある。米中の貿易額、中国が保有するアメリカの債権、また、アメリカの大企業が中国市場に大きく依存している点は、ソ連では考えられなかった。中国社会は、ある意味で、アメリカ社会と収斂する傾向を示す。高等教育や科学研究で、中国のエリートたちは子弟をアメリカの大学に送っている。
第2の冷戦というのは間違った類推かもしれない。Margaret Macmillanは、1914年以前の英独関係にたとえる。当時、経済的な統合は戦争を防げなかった。Odd Arne Westadは、40年間の繁栄を享受した中国人は、第2次世界大戦後のロシア人より、1914年以前のドイツ人に似ている、と考える。
東京では、真珠湾攻撃によって日米戦争を始めた日本の失敗と、しばしば比較する。ただし、当時の日本経済はアメリカの10分の1でしかなかったが、今、中国はアメリカの3分の2、あるいは、購買力平価ならアメリカを超える。興味深いのは、当時の日本も、西側帝国主義からアジアを救い出す、と主張したことだ。
英独や日米が戦争になったのは、核兵器が開発される前だった。核戦争による絶滅が冷戦を定義した。米ソは直接に戦わず、代理戦争を展開した。
比較論は、冷戦の終わり方を示さない。それは、米中の社会的な活力に依存するだろう。結局のところ、ソ連は内部の諸問題によって自滅したのだ。この点はアメリカと同盟諸国を不安にする。アメリカ大統領選挙でどちらが勝っても、政権移譲が平和的に行えるのか。トランプ政権はアメリカの社会的・経済的分断を暴露し、アメリカを内向きにし、その対外評価を大きく悪化させた。
上海、復旦大学のEric Liは、トランプvsバイデンの競争は、中国人に「アメリカの衰退」を実感させた。冷戦のたとえは、逆転した形で、アメリカをソ連と観る。2人の老人支配者が争う姿は、ソ連末期を想わせる(Brezhnev, Andropov and Chernenko?)。現代の中国はソ連の反対物だ。プラグマティックで、上昇しつつある、グローバルな連結によって繁栄する国家である。
習の中国にとって、問題は内部にある。Westadによれば、事実上の帝国となった中国は「国民国家」としてふるまうが、その緊張状態は、香港、チベット、ウイグル自治区に現れている。
だれが21世紀を支配するか。それは国内のシステムが決めるだろう。
FP OCTOBER 5, 2020
India Doesn’t Need the Quad to Counter China—and Neither Do Its Partners
BY SALVATORE BABONES
FT October 6, 2020
The great uncoupling: one supply chain for China, one for everywhere else
Kathrin Hille in Taipei
PS Oct 6, 2020
Post-Pandemic Geopolitics
JOSEPH S. NYE, JR.
FT October 7, 2020
From AI to facial recognition: how China is setting the rules in new tech
James Kynge in Hong Kong and Nian Liu in Beijing
FT October 8, 2020
What can we learn from the things we fear the most?
Gillian Tett
FT October 8, 2020
‘This is a guy who is a thug’: how US elite became hawks on Xi’s China
Demetri Sevastopulo in Washington
FT October 8, 2020
It is time to move beyond a flawed G20
Javier Solana
● EUの移民政策
FT October 4, 2020
EU’s new migrant ‘pact’ is as squalid as its refugee camps
Tony Barber
FT October 5, 2020
A Norwegian-Pakistani millennial explains why ESG is key
Kiran Aziz
● USドルの途方もない特権
FT October 5, 2020
The end of the dollar’s exorbitant privilege
Stephen Roach
USドルの途方もない特権は解消されるだろう。ドルの価値は急落し、おそらく2021年末までに35%も失われる。
その原因は国内の貯蓄率が減少したことと経常収支赤字の間に作用する致命的な効果だ。COVID-19だけでなく、その前から予算赤字が増大していた。
アメリカの特権はいつ失われるのか? 連銀は低金利を持続させるだろう。ドル安に対して価値が回復するという予想は起きない。ドル建の巨大な資産が非常にもろくなる。暴落のときが迫っている。
● グローバルな秩序の転換
PS Oct 5, 2020
Forging a Stronger Post-Pandemic ASEAN+3 Economy
ASO TARO, LE MINH HUNG
FT October 7, 2020
Covid-19 could be the start of a better era for women who work
Sarah O’Connor
PS Oct 8, 2020
Global Partnerships for an African Recovery
LANDRY SIGNÉ, AMEENAH GURIB-FAKIM
● インドの強姦
FT October 6, 2020
Callous response to a violent rape sparks outrage in India
Amy Kazmin
● 国際的な破産レジーム
FT October 6, 2020
Time is right for a new international debt architecture
20年近く前に、当時、IMFの副総裁であったアン・クルーガーが政府債券の組み換えを制度化するように求めた。過剰な債務を抱えた国に対する国際的な破産レジームである。アジア、メキシコ、アルゼンチンの債務危機に対応するためだった。
多国間の改革には、アメリカなど、反対する国が多く、成功しなかった。その後、「集団行動条項」CACを債券発行に条件付けることが推進された。債権者利益として、債務を長期的に組み替えることが必要だからだ。処理手続きが整備されることは、金融市場にとっても好ましい。
● はるかに無政府主義的な独裁
FP OCTOBER 6, 2020
QAnon’s Creator Made the Ultimate Conspiracy Theory
BY JUSTIN LING
FT October 7, 2020
Donald Trump’s faults are more libertarian than authoritarian
Janan Ganesh
エヴァ・ペロン、チャウシェスク、ムッソリーニ。デマゴーグはバルコニーが好きだ。今週、トランプがホワイトハウスのバルコニーに立った。
そのナショナリズム、救世主に従う者たち、金融崩壊後の台頭、すべてが1930年代の極右を示唆している。しかし、トランプのポピュリズムは、抑圧的ではなく、むしろ政府からの自由を信奉するリバタリアンだ。マスクをせずに集会を開き、ウイルスの「支配」に反対する。
パンデミックの前から、トランプは父権主義的な支配を嫌った。軍や秘密国家機関への崇拝とは程遠い。それは、ヨーロッパのファシズムと違い、アメリカ政治が保持するリバタリアン的な性格による。憲法修正第2条が示すように、国家が暴力を独占することにさえ同意しない国だ。フランスや、共産主義体制後のヨーロッパに比べて、アメリカの極右は、もっとずっと無政府的である。
FT October 7, 2020
The recklessness of Donald Trump on steroids
Norman Ornstein
NYT Oct. 7, 2020
If Trump Loses the Election, What Happens to Trumpism?
By Thomas B. Edsall
NYT Oct. 7, 2020
The Biggest Risk to This Election Is Not Russia. It’s Us.
By Fiona Hill
FT October 9, 2020
Mike Pence’s denial of racism reminds us why BLM exists
Anthony Bogues
● ステークホルダー資本主義
PS Oct 6, 2020
What Should Corporations Do?
RAGHURAM G. RAJAN
「ステークホルダー資本主義」は答にならない。長期的な視点では企業経営はステークホルダーの利益を考えている。
FT October 9, 2020
The rush to constrain the power of Amazon, Apple, Facebook and Google
Richard Waters
● アゼルバイジャンとアルメニアの紛争
FP OCTOBER 6, 2020
Turkey’s Caucasus Adventure Risks Another Crisis in NATO
BY ROBBIE GRAMER, JACK DETSCH
FP OCTOBER 6, 2020
A Weak Economy Won’t Stop Turkey’s Activist Foreign Policy
BY SINAN ULGEN
国連、EU、ロシアやイランでさえ、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争に対して停戦を呼びかけた。しかし、トルコ政府だけは違う。トルコはアゼルバイジャンに明確な支持を表明し、持続可能な解決策がなければ、停戦には意味がない、と述べた。
これはトルコ政府の外交方針が転換したことを示す。国際外交に信頼を失い、影響力を確保するために地域紛争に直接介入を進んで行うようになった。こうした行動が国内の支持基盤を強化する。
ナゴルノ・カラバフ自治州は、トルコとアゼルバイジャンとの緊密な関係にとって重要な意味を持つ。言語が似ており、トルコが中央アジアに通じる道となる。
冷戦終結後、国連や西側諸国は、武力による領土の獲得に厳しく反対してきた。ナゴルノ・カラバフで国際対応は明らかなダブル・スタンダードである、とトルコは考える。
この問題は、また、この地域におけるトルコとロシアとのバランスをめぐる紛争の1つだ。問題は、トルコ政府が拡大する戦域を維持できるのか、である。
ここには、終わりの見えないトルコのEU加盟問題、トルコ国内における反米主義の高まり、もある。エルドアンは、トルコがかつての帝国の栄光を回復する、と国民に約束してきた。
トルコ経済の悪化によって外交政策に抑制が働く、と考えるのは間違いだ。経済はトルコの軍事力外交を制約するというより、むしろその源である。軍事衝突は、トルコに脅威が迫っているという意味で、政治的な団結と、強い指導力を促す。経済的福祉と安全保障とを二者択一とみなすのは間違いだ。
長期においてのみ、経済成果は選挙によって試される。
NYT Oct. 8, 2020
The Conflict Between Armenia and Azerbaijan Could Spiral Out of Control
By Lara Setrakian
ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンにあるアルメニア人の分離主義者が集まる飛び地である。トルコとロシアの介入する戦争になる恐れがある。この地域への関心を失ったアメリカが関与しなければ、状況はコントロールできないような悪化に向かう。
紛争はソ連時代からあった。高度な自治権と特別な地位を認めていた。1991年、ソ連崩壊で、地域が独立を宣言し、戦争になった。1994年に停戦。この4年間に紛争が激化した。
軍事基地や首都を攻撃し、次は石油施設だ。脅威は、相互に破壊を確信するなら、抑制を促すはずだ。しかしアゼルバイジャンはトルコの支援を受け、ナゴルノ・カラバフの支配権を確立するまで戦争をやめない。アルメニア人も、最後の血の一滴まで流す、と決意している。
かつて、こうした紛争の激化を回避するためにアメリカがミンスク・グループ(欧州の紛争処理機関)を指導した。しかし今、アメリカは和平交渉に参加していない。グループは、ジュネーブの会談で、フランスとロシアの共同議長で行われたが、そもそもアメリカの指導力に合わせて設計されたものだ。1990年代の政治構造と政治的意志を反映している。当時、アメリカは旧ソ連圏の平和と発展に関与していた。
今、トルコがアゼルバイジャンに高度な武器を含む明白な支援国となっているとき、アメリカが介入する以外に暴力を止めるチャンスはない。アメリカはなお、この和平を動かすだけの関係性、レバレッジ、戦略的な資源を持っている。強力なアメリカがいなければ、交渉は進まない。
世界の警察官であることは、アメリカ人がその出費を好まず、過大な能力を求められる。しかし、積極的な外交の関与は、相対的に低コストで、地域紛争が多大な人命の損失と破壊へ向かうのを、アメリカが防ぐことになる。
もし和平が成立しなければ、2国だけでなく、世界にとっても深刻なダメージになる。
● ブレグジット交渉
FP OCTOBER 6, 2020
Why Fishing Could Sink Britain’s Brexit Deal With Europe
BY LAURENCE BLAIR
● バイデンが世界を救う
NYT Oct. 6, 2020
Elect Joe Biden, America
By The Editorial Board
NYT Oct. 6, 2020
Editor’s Note: Why The Times Editorial Board Endorsed Joe Biden for President
By Kathleen Kingsbury
PS Oct 7, 2020
Can Biden Save the World?
KEMAL DERVIŞ
ジョー・バイデンが勝利すれば、大国間の危険な対立を防ぎ、グローバルな協力の新しい時代に向かうのか?
ドナルド・トランプが再選されれば、彼は強硬策をやめて、中国に対してもタカ派を抑え、可能ならいつでも「経済取引」に応じるだろう。さまざまな価値や人権は投げ捨てて、独裁者たちと楽しく過ごす。同盟国にも対抗国にも、取引外交を展開し、アメリカの国内市場、軍事・産業力、ドルの越境的権力を、2国間交渉で駆使するだろう。同盟や多国間主義(国際協力)を無視することで、アメリカのパワーは低下する。
アメリカのソフト・パワーも低下し、世界は3つの影響圏に分裂するだろう。US、中国、EUである。それは、ばらばらなルールや基準が市場を分断する、非効率的な世界である。気候変動への対処など、グローバルな公共財を供給するコスト分担は合意されず、米中の技術における冷戦や、誤算による軍事衝突も起きうる。
バイデンの勝利は世界を救えるのか?
米中関係だけで言えば、対立が増すかもしれない。バイデン政権は人権問題を重視するからだ。貿易、産業政策、技術など、現在の緊張状態は国際システムに残る。
しかし、伝統的な同盟子鉱、特にEUとの関係は根本的に変わる。多国間協力にも積極的であるだろう。そのような戦略の追求は、非効率で、危険な、国際秩序の解体を防ぐ。バイデンは、US、EU、そしてアフリカ、ラテンアメリカ、アジアの多くの国と、共通のルール・基準を打ち立てるように努める。データ管理やデジタル課税も含めて。WTOを重視し、国際機関の改革を推進する。
しかし、アメリカはもはや覇権国ではない。バイデン政権がそのような課題をどこまで強力に推進するか、国内の利害は分散し、妥協がむつかしい。多国間の国際協力が成功するカギは、中国が国際システムに参加するよう、説得することだろう。もし中国が無制限な強硬策を望むなら、トランプの再選がベストと思うかもしれない。
しかし、中国だけでは成功しない。EUとバイデンのアメリカが合意するルールと基準、東アジア諸国も、中国の望むシナリオに従わないだろう。アメリカが多国間の国際協力を再生することは、すべての国にとって、中国も含めて、グローバルな課題を解決するうえで有益だ。
11月3日、バイデンが勝利するとき、民主党の国際協力を重視する者たちは、その構想を実行する勇気を持つべきだ。
● 日本の低賃金戦略
PS Oct 7, 2020
How to Make Japan Great Again
BILL EMMOTT
菅首相は国民が共感する目標を掲げるべきだ。日本が持つ最高の自然資源を活用することだ。すなわち、労働力である。
1980年代には、日本は他の世界がうらやむ経済運営を示していた。それは人びとの才能を生かすことだった。世界でも最高の教育システムを持ち、高賃金、高生産性、高度に安定した社会があった。労働者たちは企業に忠誠を示し、それと交換に、終身雇用を得ていた。ただし、男性だけで、女性は参加できなかった。
その後、女性の大学進学率が高まり、「人的資本」が多く供給されたが、効果的な採用は遅れた。男性も女性も、教育と職場にミスマッチが広がった。1990-92年に株価と地価が暴落したこと、中国との競争が強まったことが、日本に社会・経済ストレスを強いた。そして歴代の政権は、大企業を保護するばかりで、高賃金や安定した職場の伝統を放棄し、低賃金戦略に転換したのだ。
それは短期の金融危機や大量失業の回避策ではあっても、長期の成長をもたらさない。企業はパートや短期契約の労働者の訓練に投資しない。相対的貧困率でみると、日本は平等主義的なデンマークではなく、アメリカの方にずっと似た社会になった。
日本政府は低賃金戦略を転換せよ。高賃金、高生産性のモデルを回復することで、日本はアメリカではなく、アジアのスイスになれるだろう。
● 民主主義の可能性
NYT Oct. 7, 2020
Protest Movements Without a Public Face
By Celestine Bohlen
NYT Oct. 7, 2020
The Campaign to Silence Bollywood
By Pritish Nandy
NYT Oct. 7, 2020
What We Can Learn From the Rise and Fall of ‘Political Blackness’
By Kwame Anthony Appiah
FT October 8, 2020
Democracy faces bigger threats than Vladimir Putin or Xi Jinping
Philip Stephens
● キルギスタン
FP OCTOBER 7, 2020
Is This the Beginning of Kyrgyzstan’s Next Revolution?
BY COLLEEN WOOD
これはキルギスタンで最初の革命ではない。2005年と2010年にも、大規模な抗議デモと、強制的な指導者の交代が起きた。それは大統領たちの家族がキルギスタンの政治と経済を私物化したことへの大衆の不満によるものだ。
● 「なぜ彼らはあんなことをしたの?」
FP OCTOBER 7, 2020
Empire of Graveyards
BY EMRAN FEROZ
戦争と悲劇、守られなかった約束、砕かれた人生の詰まった数十年を経て、アフガニスタンは何も変わらなかった。なぜか? 私はその答えを求めて人生を過ごした。
2001年9月11日、ワールド・トレード・センターが破壊された。オーストリアで、小学校の先生はテロリストについて私に尋ねた。私はニューヨークを知らなかった。
「なぜ彼らはあんなことをしたの?」 と彼女は尋ねた。私は答えられなかった。私は9歳だった。人びとは私をからかった。そして戦争が始まることを祝った。「あなたの仲間が爆撃されるよ」と彼らは言った。
多くの町で、特にカブールで、人びとはタリバンの支配体制が崩壊するのを喜んだ。西側のメディアには、髭をそり、ブルカを捨てる映像があふれていた。しかしすぐに、それほど単純ではないことが分かった。1人の老人がカメラの前で泣いていたのを覚えている。理由もなく、彼は米兵に捕らえられ、拷問された、と。住居を爆撃された、息子や娘が死んだ、という話もあった。
何が間違っていたのか? なぜアフガニスタン人は、これほど戦争と殺戮を味わうのか? どうすれば混乱を抜け出せるのか?
2001年10月7日、最初の武装ドローンが、南部の都市、カンダハルを襲った。タリバンの最高指導者オマーを追跡していた。当時は、彼の写真もなかった。しかし米軍と諜報員は彼を発見した、と断言した。ビン・ラディンの右腕とみなされていた。
しかし、彼らがしたことはそうではなかった。オマーを含まない、アフガン人たちが犠牲になった。こうした無差別爆撃が繰り返された。ドローンは「死の天使」と呼ばれた。
パキスタンとアフガニスタンのタリバン司令官たちは、ドローン攻撃と市民の犠牲者こそが彼らの最大の宣伝手段である、と何度も語った。「彼らはジハードに参加することを望む。親族の復讐を望む。しばしば、彼らには他の選択肢がない。」
その後、都市のアフガン人は経済の改善を観た。地方には選択肢も機会もなかったが。カブールのエリートたちは、防壁内のグリーン・ゾーンに住んだ。彼らにとって、地方のアフガニスタンは別の国だった。
私がタリバンの支配地域を訪ねたとき、ムスタファは語った。「彼らはこの国を兵器の遊び場にした。」 それは通称「すべての爆弾の母」が投下されて数週間後であった。
アフガン人の多くは今も貧しく、切り離されたまま、国家の富を奪うエリートたちが特権を維持することに奔走している。アルカイダとタリバンを追放し、アフガニスタンを改造する戦争が始まって19年後に、アメリカは敗北した。テロとの戦争は、再建、女性の権利、経済的成長、9・11に対する正義、民主主義を約束したが、すべてが失われ、どこにも見えない。
20年かけて何度も訪問し、国の内外で無数のインタビューをした。私は、教師に罰を受けた9歳の少年と同じ場所にいる。答はまだ見つからない。将来、見つかるのか。
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The Economist September 19th 2020
Inflation: Off target
Deliberative democracy: Amateurs to the rescue
Banyan: No pay, no rights, no recourse
Ethnic tensions and state violence: Ethiopia’s transition is in peril
Israel and the Arab world: End of illusion
Russia’s elections: Winning from death’s door
The world economy: The 90% economy, revisited
(コメント) 金融政策はインフレ率によって正当化する時代を終わる、と考え始めています。子億歳的な海上輸送に関わる労働者たちは、感染リスクと失業の中で、帰国することもできません。エチオピアのアビイ大統領は、ノーベル平和賞を受賞したが、その後、コロナウイルスを理由に選挙を延期し、反対派を弾圧した。
中東の記事を読むと、2国家案を葬るネタニヤフはトランプと、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化、あるいは、イランとの戦争を準備しているような気がしました。
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IPEの想像力 10/12/20
トランプの陽性判定に驚く論説や、アフガニスタン戦争についての論説に、菅政権の妄言を思い浮かべるのは、それほど異常なことではないでしょう。
Reviewをまとめながら、民主主義と戦争の論説に興味を持ちました。
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プーチンが命じたかどうか、それはわかりません。しかし、ロシアの汚職反対活動家、ナワルニーは、化学兵器ノビチョークによって暗殺されるところでした。紙一重で、ドイツの病院から「生き残った」とメッセージを送りました。
・・・ナワルニーは選挙に立候補できないし、彼の政党は存在しない。しかし、「スマート・ヴォ―ティング」というアイデアを駆使する。立候補者の中で、与党「統一ロシア」をもっとも敗退させる可能性のある候補を支援するのだ。
・・・クレムリンは選挙を操作し、支配を維持してきたが、その力は投票率が低いことに依存している。シベリアにあるロシア第3の都市ノボシビルクスでは、投票率が20%である。しかし、それは逆に、反対派が逆転するために動かす投票数も少なくてよい。人びとは何をやっても無駄だ、と思っている。クレムリンが、冷笑と無気力を国民に広めてきた。
・・・ナワルニーは「希望の戦略」を展開する。しかも、彼は生き残った。
ある意味で、民主主義諸国の政治的衰退を回復する革新が必要なのです。「小さな民主主義」と私はよびました。「熟議の民主主義」が紹介されています。有権者の特徴を反映した、普通の人々を少人数集めて、重要な問題を議論してもらうのです。
アイルランドは、国民の多数がカトリックの国ですが、熟議による合意形成と提言を受けて、「妊娠中絶」と「同性婚」を問う国民投票を行い、明白な多数による承認を与えました。
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貧しいアフガニスタンは、9・11テロから1カ月もたたずに、米軍の攻撃を受け、戦争状態になりました。19年を経て、アメリカは明白に敗北した、とジャーナリストは書きます。
彼が9歳の少年であったとき、教師に「なぜ彼らはあんなことをしたの?」と訊かれ、答えられませんでした。あんなこと、とは、9・11テロ攻撃です。犯人の多くはサウジアラビア人でしたが、アメリカはビン・ラディンを匿ったという理由でアフガニスタンに侵攻しました。
・・・テロとの戦争は、再建、女性の権利、経済的成長、9・11に対する正義、民主主義を約束したが、すべてが失われ、どこにも見えない。
・・・20年かけて何度も訪問し、国の内外で無数のインタビューをした。私は、教師に罰を受けた9歳の少年と同じ場所にいる。答はまだ見つからない。
今、あんなこと、とは、アメリカによるアフガニスタン戦争です。
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菅首相は、指導者ではなくフィクサーだ、とFPの記事が書きました。彼は日本を復活させる理想を描くより、権力基盤を固める裏工作と、長期の戦略を描いているのでしょう。
携帯電話料金大幅引き下げや、デジタル庁の設置、ハンコ廃止など、わかりやすい反面、重要テーマをすべて無視し、政治の矮小化を政府は意識的に進めています。学術会議任命拒否問題さえ、何か、本当に準備している邪悪なことを隠すためだったのか、と思うほどです。「間違いだった」と認めて、学術会議に積極的な諮問を、現下の重要な諸問題について、始動するべきでしょう。
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