IPEの果樹園2020

今週のReview

9/7-12

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共和党全国大会 ・・・安倍政権の終わり ・・・パンデミック後の世界経済 ・・・ベラルーシの民主化 ・・・連銀の新しい金融政策 ・・・アメリカのいない地域無秩序 ・・・デジタル監視国家 ・・・米中のナショナリズムを抑制する ・・・ジョンソンのトリレンマ

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 共和党全国大会

FP AUGUST 27, 2020

The October Surprise Is Already Here

BY MICHAEL HIRSH

共和党全国大会で、トランプとその支持者たちは、敵を倒す新しい方法を見つけた。同じ週に、黒人に銃撃した警察官がいたからだ。人種差別と棒慮億に反対する抗議デモが起きた。

トランプ陣営のメッセージはこうだ。もしあなたが、今、アメリカの危険な場所を思うなら、バイデンが大統領になるまで待つことだ。「バイデンのアメリカでは、誰一人として安全ではないだろう。」 トランプは、法を執行する警察官たちを称えて、指名受諾演説で語った。「われわれは警察官にパワーを取り戻す必要がある。われわれは」「民主党員が支配する」アメリカの諸都市のように「モッブ(暴徒)が支配するのを許さないだろう。」

「あなたの1票が、法律を守るアメリカ人を護るのか、あるいは、暴力的なアナーキストやアジテーター、市民たちを脅かす犯罪者たちに支配を委ねるのか、を決めるだろう。」 トランプはホワイトハウスから述べた。「間違うな。もしジョー・バイデンに権力を与えたら、ラディカルな左派がアメリカ中の警察を解体するだろう。・・・彼らはアメリカ中の都市を、民主党員が支配するオレゴン州ポートランドにするだろう。」

Kenoshaでは、黒人の父親Jacob Blakeが、警察から逃げようとして、彼の子どもたちが座っていた自動車を取り戻そうとし、後ろから7発、銃撃された。この事件は、ミネアポリスで警察官に殺害されたフロイドの引き起こした、醜く、解決策の示されない緊張状態を再燃させた。

Kenoshaの抗議活動はおおむね平和的であったが、高い注目を集める事件が他の面で起きた。抗議デモの3夜目に、17歳の白人少年が、デモ隊に放火されると伝えられた建物を、半自動ライフル銃で武装して護っている、と主張した。そして、2人を殺害し、3人目には重傷を負わせた。右派のコメンテーターたちは容疑者を称賛する。

PS Sep 2, 2020

The Parties Must Go On

JAN-WERNER MUELLER

共和党は政策綱領を示さなかった。ただ、トランプの「アメリカ・ファースト」を熱狂的に支持した。政党が、トランプ組織の下部機関に転換したことを意味する。その中身が完全に失われた。もはや民主主義を担う政党ではない。

それはアメリカだけではない。オランダでも、UKでも、政党を富裕層のためのポピュリストたちが動かす、支持者たちの乗っ取りが起きている。政党は、文化的な戦争の道具になる。それは以前から極右のテレビ局やネットワーク、ウェブサイトに観られる現象だった。

もはや政党の中に「批判」は存在しない。人びとを積極的な論争に向かわせ、合意形成を目指すものではなくなった。そのような政党モデルは、分断・分極化の時代に、有効性を失った。

政党そのものが内部における権威主義を強めている。彼らを望むのは民主主義のシステムではない。


 安倍政権の終わり

PS Aug 28, 2020

The Japan Shinzo Abe Has Left Behind

BILL EMMOTT

経済はなお弱い。しかし、安倍は日本を防衛と外交に関して、強く、自律的な国にした。東アジアの平和と、ルールに依拠した国際秩序を求める者にとって、後継者がこれを継承することは好ましい。

国際的な視点では、安倍が支持率を低下させたことは意外であろう。COVID-19による死者数は1300人しかおらず、経済的な後退も欧米諸国に比べて軽い。安倍政権は、国民とのコミュニケーションや政策対応を批判された。長期政権は多くのスキャンダルを生んだ。

さらに、経済状態、生活水準の現状に不満が強かった。アベノミクスで3度の選挙を勝ったが、デフレも、経済成長も、大きなショックがなかった割に、改善したとは言えない。出生率は低いままだ。

安倍は、大きな課題を実現する野心を掲げていた。憲法を改正して第9条を破棄する。しかし、連立政権の相手は平和主義的な公明党であり、議会でも憲法改正に必要な3分の2の支持を得るには至らなかった。

安倍は自民党の「新保守主義」の党派を指導した。強い国家、権力集中、伝統的価値観。そして、何よりも、頑健で自立した外交・安全保障を支持した。

安倍は時にはトランプとの緊密な関係に隷従するように見えたが、貿易においてはTPPを継承する独自の立場を取った。EUUKとの自由貿易協定も結んだ。インドとの防衛面での協力関係を深めたが、日本の戦争に関するリビジョニストの見解から日韓関係は悪化した。

1952年にアメリカの占領が終わってから、すべての首相がアメリカとの関係を断ついかなる慎重な試みもなかった。しかし、トランプの下で、アメリカは信頼できない、協力を嫌う国になった。安倍は、独立した国際的発言力を持ち、世界にネットワークを築くための条件を準備した。

この戦略は続けるべきだ。

FT August 31, 2020

Shinzo Abe and his struggle with Xi Jinping

Gideon Rachman

安倍晋三は201212月に58歳で、習近平はその1カ月前に59歳で、ほぼ同じ時期に権力を握った。安倍の中心的課題は、日本を強くして、ますます強くなり、権威主義的になる中国に対抗することであった。

この間、中国はますますアジアの最強国となった。東京のいかなる政府も、中国のナショナリズムが反日感情をともなうことを恐れた。それは1930年代の日本による中国侵略と蛮行に由来する。日中は領土問題も抱えている。

日本の人口は高齢化し、減少しつつある。しかも、その債務は莫大だ。中国の人口も高齢化するけれど、日本の10倍の人口規模がある。北京が強化する軍事力に日本は追いつけなくなるだろう。

その現実により、日本政府は中国を宥和する政策を取りたくなるが、その結果は、日本が自由と自律性を大幅に失うことになるだろう。住民のいない尖閣・釣魚島だけでなく、140万人が住む沖縄の主権も疑っている。中国のナショナリストたちは、1930年代の報復として、日本を貢納国家に位置付けることを喜ぶだろう。

安倍が領土問題で一切譲歩しなかったことは理解できる。しかし、習との関係改善は進められた。相互訪問として習の訪日が計画されていたが、コロナウイルスで延期された。日中関係がこのまま安定するとは、だれも期待していない。米中対立が激化する中で、中国は日本と一時的に緊張緩和しただけだ。

もしトランプが中国との対立で、日本に対する脅しを強めるなら、日本の反米感情が高まるかもしれない。トランプの気まぐれな政権は安倍を苦しめた。安倍の卑屈にも見えるトランプへの態度は、戦略的な思考を反映していた。

安倍の戦略的対応が正しかったどうか、結果はまだわからない。しかし、安倍の後継者たちは、数十年におよぶ中国の台頭と格闘し続けねばならない。


 パンデミック後の世界経済

PS Sep 1, 2020

What Next for Great Cities?

HAROLD JAMES

COVID-19でメガシティは終わったのか?

パンデミックは、確かに、グローバリゼーションを変形し、グローバル経済のハブを感染の震源地に変えた。その未来は不安定なものになった。しかし危機は、すでにあったメガシティの脆弱さを明確にし、問題の悪化を加速しただけである。

今世紀の初めまで、ロンドン、ニューヨーク、香港など、大都市は、資金、人、アイデアのグローバルな流れを結び付ける拠点であった。金融センター、文化都市、起業家、技術革新が集中して、世界を作り変えた。しかし、メガシティは別の一群のスキルも必要とした。移民たちが集まって、メルティング・ポットを形成した。

その結果は、必然的に、後背地との間の新しい緊張状態を生じた。郊外や地方に住む人々は、都市生活を手に入らない、あるいは、望ましくないものと観るようになった。ブレグジット、トランプ支持層、香港の「一国2制度」など、沿岸部の年エリートに対する反発があった。都市の住宅価格高騰が社会の共感を壊し、有毒化したのだ。不安定な、あるいは、季節的な職場に就く労働者たちは住宅を買えない。パンデミックの前から、ホームレスが恒常的に増えていた。多くの人々が頼りにならない公共輸送システムで長距離通勤した。

感染の恐怖は富裕層の大量脱出を招いた。医療サービス、公共輸送、商店では感染のリスクを冒して収入を得るしかない。対称的に、知識労働者はテレコミュニケーションを始め、混雑を避けた。リモートと、フロント・ラインという、新しい分断が起きている。高コストの、パンデミックに苦しむ都市を逃れて、どこかほかで働くべきではないか?

歴史的に、ヴェニスが参考になる。16世紀後半にピークを迎え、長い衰退を経てきた。通商路の変化、より貧しい、ダイナミックな都市との競争、疫病。COVID-19後のメガシティがヴェニスに学ぶことは、代表的な商品の拠点が、後背地の、小さな町に移されたことだ。ベネチア共和国は周囲の諸領域と新しい政治的関係を築いた。

今も、パンデミックをめぐって、ロンドンのカーン市長とUKのジョンソン首相とが衝突し、ニューヨークの市長が州知事やトランプ大統領と衝突している。

真の民主主義を復活させることが、テクノクラートの支配するグローバリゼーションに寄る諸問題への解決策だ、としばしば考えられる。しかし、民主的な政府がパンデミックの制御に有能で、さらに、貧困や住宅問題など、慢性化した不満の源泉に対処できるか、問われている。


 ベラルーシの民主化

FT August 30, 2020

Europe needs a new plan for Belarus and eastern Europe

Arseniy Yatsenyuka former prime minister of Ukraine and now chairman of the Kyiv Security Forum

ベラルーシにおける市民の蜂起は世界中からの連帯を呼び起こした。しかし、実際、緊急に必要なことは、EUNATOによって守られていないヨーロッパ東方の諸民族に対する戦略を、包括的に刷新することだ。

現在、西側の公式は、東方諸国に対する「ソーシャル・ディスタンス」を維持する、ということだ。しかし、ヨーロッパ東方とは、東部の境界線よりはるかに遠い、コーカサスまで含む概念だ。1980年代後半から、驚くべき変化がいくつも起きた。植民地化の後の遺制を取り除く、民族のアイデンティティーが復活した。市民的自由の意識とそれを護る諸制度の構築が進んだ。経済発展と安全保障の進歩的なモデルを模索した。

しかし西側と違って、ロシアはこの地域と重要性に関する包括的なビジョンを持っていた。モルドバ、ウクライナ、ベラルーシ、どこであれモスクワは効果的な支配を確立し、西方への影響力を強める橋頭保を得ようとしてきた。それがウラジミール・プーチンの支配するロシアが、彼の望む、ソ連の復活に向けて進む道だった。

この「ロシア問題」に対する魔法の解決策はない。必要なことは、実際に、必要なステップを踏む政治的意志である。最近のベラルーシについても、ロシアの完全な影響下に置かれることを避けるのは、西側とウクライナが行動することだ。ためらっているときではない。

EUは、ベラルーシにおける市民の蜂起を、ヨーロッパの民主化過程として扱い、支援するべきだ。EUNATOに加盟することも可能であると示すべきだ。西欧は、そのために、ロシアとの関係について幻想を捨てねばならない。それはプーチンが権威主義的に支配する、腐敗した国家である。外交的な見せかけではなく、圧力を強め、モスクワがウクライナで先導してきた軍事紛争の終結に向けた過程を再開することだ。

クリミア、ウクライナ東部、ジョージア、モルドバ。この地域における凍結した紛争を解決する新しい高いレベルの会合を、西側と諸政府は開くべきだ。われわれは西側からの投資と金融支援を必要としている。これはロシアのプロパガンダや軍事介入に対抗する、一種の介入である。

USEUは、この地域と連帯感を共有してほしい。そして、ヨーロッパ統一の歴史過程を進め、権威主義体制の脅威、外国の介入からの解放、人間として、民族としての自由をもとめる使命を果たすべきだ。


 アメリカのいない地域無秩序

FT September 3, 2020

Home truths in the eastern Mediterranean

Philip Stephens

フランスはギリシャ・キプロス海軍を支援するために軍艦と戦闘機を派遣した。エルドアン大統領はこれに警告した。トルコは東地中海で「資格を有することなら何でも」やるつもりだ、と。ドイツのメルケル首相は仲裁する努力を続けたが、トルコとギリシャの戦艦が衝突するかもしれない。西側の次の戦争がNATO加盟国の間で起きるとは、だれが考えただろうか。新しい国際的無秩序が始まった。

東地中海の事件が顕著に示すのは、パックス・アメリカーナの崩壊である。もちろん、グローバルな秩序をめぐっては米中が争っているが、同時に、世界の各地域が無秩序状態に戻った。アメリカという審判が退場して、昔の傷が開き、敵意がよみがえっている。

新しい不安定性は、現状を変更しようとするリビジョニストの大国、すなわち中国、ロシア、トルコであり、過去のような安全保障の関与からアメリカが退場し、ヨーロッパは地政学的な軍事紛争に加わることを嫌がっていることである。ギリシャとトルコの衝突は、長期的に縫い合わされた地域内の自制や達成された成果が、いかに急速に崩れるかを示した。

アテネとアンカラの対立は新しいものではない。キプロスもその旧い傷だ。海底に天然ガス田が見つかったことで、長期間続いている緊張状態が激化した。地域内の他の大国も加わった。イスラエルとエジプトは、すでに自国領の海底を開発している。レバノンやリビアも関心を持つ。

平和的に解決できないとき、以前は、アメリカを観た。ワシントンがアテネとアンカラを叱り、衝突が起きればエーゲ海に米艦を送った。しかし、そういう時代は終わったことで、エルドアンが強気になっている。アンカラはシリアとリビアでも反政府派を支援し、地域の覇権国家になるというエルドアンの夢を追求する。

エルドアンだけではない。新しいグローバルな無秩序からアメリカが退場すれば、ロシアがやってくる。アメリカの姿勢を変えたのは、トランプではない。シリアやリビアはアメリカの死活的な利益ではない、とオバマが示した。しかも、トランプの一貫性を欠く、無関心な態度と、エルドアンやプーチンなどの「強い指導者」を称賛する姿勢が、彼らを自由にした。

フランスのマクロン大統領は、アメリカが放棄した責任をEUが果たすべきだ、と述べた。エルドアンのような指導者と取引するとき、軍事力を避けることはできない、と。しかし、ヨーロッパ諸政府の見解は一致しない。フランスはギリシャを支援するが、イタリアとスペインは軍事対立の回避に熱心だ。メルケルは、トルコと対立して、報復にシリア難民をヨーロッパに送り出すことを心配する。

ヨーロッパが相違を乗り越えることは不可能ではない。EUはトルコに対して、必要なら海軍を送って軍事的にも対抗し、同時に、幅広い経済的包摂を示すことである。トルコのEU加盟は、ますます権威主義的な傾向を示すエルドアン政権に対して不可能だが、近隣諸国と貿易・投資関係を改善し、難民に関する長期的理解を深めることは可能だ。

その出発点は、EUが独自に思考し、行動することである。


 デジタル監視国家

PS Sep 2, 2020

The False Promise of Digital ID

DIRK HELBING, PETER SEELE

デジタルIDを推進する者たちは、COVID-19のパンデミックを100年に1度の好機、80億人の巨大市場を開く「大当たり」とみている。

この危機の時代に、デジタルIDを使ってウイルスの感染拡大を抑え、最終的に、ワクチンの配分を管理することは適当なことであり、必要でもあるからだ。

しかし、知る限り、COVID-19は人類の生存を脅かすようなものではない。ところがその対策の多くは諸社会を大きく混乱させている。デジタルIDを実現する技術はすでにある。しかし、いったん、政府がデジタルIDを制度化すれば、それが民主主義や人権におよぼす影響は深刻だ。人間は対象物となって、その尊厳を根本的に侵されるだろう。

処理の手続きは不完全であり、RFIDチップやワクチンには健康を侵すリスクがある。その予測や分類は間違っているかもしれない。ビッグデータは万能薬ではないのだ。データとAIで管理する社会という考え方は、その限界を見失っており、倫理的な欠陥がある。われわれはもっと「価値を重視するデザイン」、「参加型の社会的回復力」という考え方に注目し、人びとが自分で改善し、互いに助け合うための手段を提供するべきだ。

危機におけるグローバルな回復力を高めるのは、デジタル技術によって強化された責任ある行動であり、権力を分散した、多様な、参加型アプローチである。オープン・データ型の製品を広め、マス・イノベーションと協力を強めるべきだ。


 ジョンソンのトリレンマ

The Guardian, Tue 1 Sep 2020

The Guardian view on Boris Johnson’s trilemma: deficits, taxes or inflation?

Editorial

この40年にわたり、イギリスは生産性が伸びず、不平等が増大し、環境の危機的状態と金融危機を繰り返し経験した。コロナウイルス危機はこれらを救済し、新しく創り出した。このシステムの改革を、権力を握る者たちは進んで行わない。改革を考えず、パフォーマンスだけを気にする。

それゆえスナック蔵相Rishi Sunakがラディカルな、再分配型予算を考慮している、という示唆は有益な批判である。富裕層、大企業、年金生活者、自動車の所有者に増税する。もしスナックがこれを実行するなら、2019年の労働党選挙公約を盗んでやり遂げることになる。蔵相は、国家の役割を小さくするブレグジット推進派の評価を無視して、パンデミックに苦しむ企業や多くの職場を救う赤字予算を組んだ。

それはジョンソンが、すべての者のために、経済再建と社会のバランスを変える行動を始めたからだ。しかし、保守党の姿勢は違う。保守党議員たちはサッチャーの信念:小さな国家、低い課税、を信奉しており、そのような転換を受け入れにくい。

保守党が昨年12月の選挙に勝利したのは、ミッドランドとイングランド北部の、貧しい元労働党支持者たちから票を得たからだ。その後、パンデミックが政治の優先獣医を劇的に変え、政府債務のGDP比は100%を超えた。1961年以来、最高水準だ。ジョンソンは支持基盤を維持するために、旧労働党支持基盤が望む、イギリス経済の「レベルアップ」(地域格差の解消)、首相が約束したインフラ投資と、NHSなどの公共サービスに支出しなければならない。

これを保守党の本能、小さな国家、低い課税、とどうバランスさせるのか。大蔵省は、支出の増加は歳入の増加を要する、と考える。上位1%の富裕層にだけ増税することは支持されるだろうが、それでは財政赤字が変わらない。

財政赤字は危機の時に限らない。コロナウイルスがイギリスの生産能力を低下させた後より、以前は制約が少なかった。ジョンソンは、インフレによる赤字の解消により、批判を抑え、支出を増やせる。しかし、物価の上昇は企業や労働者に名目所得の上昇をめざす激しい闘いをもたらす。資本主義システムの対立を強め、合意なきブレグジットへの不安は資本流出とポンドの下落、グローバルな通貨戦争を刺激する。

ジョンソンは闘いの窮地に自らを追いやった。財政赤字、増税、インフレーション。この政権のトリレンマから逃れることはできない。

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The Economist August 15th 2020

Xi’s new economy

American politics: What Kamala says about Joe

Britain’s economy: Grey v Growth

China’s hybrid capitalism: Blooming for glory of the state

Economic policy: A grey and stagnant land

Free exchange: Conscious uncoupling

(コメント) 習近平の政治権力は、国家資本主義の体制を呑み込んだ形で進化している。金融危機も、トランプ政権による貿易戦争やデカップリング、新しい冷戦も、中国はそれによって抑え込まれるのではなく、ますます独自の経済システムを、資本主義システムの中に創り出そうとしている。世界市場の舞台にした、中国、アメリカ、EUなど、国家・技術・インフラを介した産業政策競争だ。

イギリス保守党・ジョンソン政権に関する分析が興味深い。ブレグジットを支持したのは地方の保守層・老人たちだ。彼らはグローバリゼーションや成長のための改革・混乱や痛みを嫌う。移民を嫌う。老人たちは、教育や高速鉄道に投資するより、年金や医療サービスの充実に支出するよう求める。それは、ジョンソンを含めて、サッチャーの過激な自由主義的改革を支持する保守党の成長プログラムを制約する。

ブレグジット×トランプの時代は、右派の過激主義、保守的な老人、国家を嫌うリバタリアン、重荷に苦悩する中央銀行など、奇妙な政治基盤を維持する成長戦略を求める。もはや、仮想の敵や21世紀型戦争しかないのか。

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IPEの想像力 9/7/20

朝の「NHK/BS1国際情報」を観て、ため息をつきました。

ベラルーシの大統領は「対話を拒否する」とロシアのテレビ局のインタビューで答えました。治安維持の秘密警察や軍隊が残っている限り、選挙の結果など重要ではない、とまでは言いませんが、そう思っているのでしょう。

息をのむのは、ベラルーシの地図です。東はロシアと長い国境を接しています。容易に介入できる位置です。南はウクライナ。北はリトアニアなどバルト3国です。EU/NATOに加盟しています。西がポーランド、さらにその西にドイツがあります。リトアニアとポーランドの間にはロシア領の飛び地、そしてウクライナの南は黒海があり、その向こうがトルコです。

ロシアは黒海の海軍の拠点、クリミアを一方的に併合し、ウクライナの民主革命を嫌って、東部に隠蔽された形の軍事侵攻と「分離独立派」として占領を続けています。

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同じニュースで、アメリカの「自警団」が紹介されていました。

警察ではなく、白人のコミュニティは自分たちで護る、と主張する者たちが集まって、重火器で武装し、訓練に参加します。黒人の殺害や人種差別に反対するBLM(黒人の命は大切だ)などの抗議デモを、白人コミュニティに対する攻撃とみなしているのです。

互いに武装して憎悪を煽れば、殺し合いは時間の問題です。公的な秩序は、紛争から武器を奪い、暴力を抑え、話し合いの場や法廷を用意するはずです。しかし、トランプはホワイトハウスから右翼の暴力に拍手し、過激な主張を広めます。銃社会であり、人種対立や文化対立の政治的利用を競って、民主主義を富裕層やSNSが戦争状態に同一視したことが、深刻な影響を社会におよぼしています。

トランプ大統領は、ワクチン開発でコロナウイルス対策が劇的に進む、と予告します。パンデミックを選挙戦の条件に利用することを考えます。郵送による投票が、時間のかかる作業になり、最終結果が何日も出ない。郵便作業の妨害。敗北した場合に、本当に自分の票を数えたか、支持者が再集計を求める。裁判を起こす。

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パンデミックのもたらす国家債務の累積が、グローバルな資本移動を許したまま安定した形で維持・管理できるものか。グローバル・サプライ・チェーンへの圧力を回避できるものなのか。

ポスト・バブルから、ポスト・パンデミックの世界へ。金融の超緩和だけでなく、財政赤字の上限も無視してよい。それは、日本のアベノミクスや欧米の「日本化」が、中国の国家資本主義や、さらには、ソ連崩壊後のロシアのイメージに似てくるな、と思いました。

金融・財政政策について、同じことなら、インフレ抑制ではなく、完全雇用や労働者の生活水準改善を、直接、政策の目標にする、というのは、こうした異常な時代にふさわしい考え方かもしれません。金利(資産市場)ではなく賃金(労働市場)、インフレ抑制ではなく労働者の交渉力回復が、グローバル化した市場型経済が完全雇用を維持するのに必要な条件だ、と中国もアメリカも主張し始める。

それは、国家介入主義の、富裕層に支持されたポピュリスト権力か、「グレート・リセット」を唱える、都市下層や地方生活者の声を集める新民主国家か。

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選挙制度も、政党も、民主主義を実現する効果的な仕組みではなくなっている、と思います。

石破氏の「グレート・リセット」は、安倍・菅批判とともに、その個性と剛腕を誇示する、一種の傑作だな、と思いました。

菅氏が東北の朴訥な人柄、安倍首相に対する忠誠心を売り物に、自民党長期支配への神話的な信頼感を広める姿勢で、さまざまな不安と保守的な心情を吸収し、高い支持率を得ています。しかし私は、橋下徹が菅氏を絶賛していたテレビ映像を思い出します。自分と同じ、政治の冷徹な戦略思考を称えたのです。

安倍が日本国民に広めた<権力像>を引き継げるのは、菅ではなく、橋下徹や小池百合子だな、と思いました。自ら争点や目標を掲げ、強大な権力を駆使して、巧みな弁舌で政治闘争に勝利することを最優先するポピュリストです。

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新生・立憲民主党が、枝野幸男を代表に、政権を取る態勢を示しました。国会論戦、積極的な政策提案、わかりやすい言葉で、国民一人一人の仕事や生活を救い、支援して、豊かさを実感できる仕組みに、政治経済の在り方を変えて行く。

日本の権力は、必ず交代する。そして抜本的な発想の転換を、土地の人びとの声を吸収して、民主的な選挙によって社会を変える。次の時代を、枝野政権が8年間続くとき何を観るだろうか、と想像することで私は楽しみます。

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