前半から続く)


l  ユーロ危機2013と歴史・文化

VOX 4 January 2013

Happy 2013?

Charles Wyplosz

2012年にユーロ危機は改善されたが,政治家たちの意志の欠如で,重大な問題は残されている.ユーロ圏の危機は予測できたことであり,起こすべきではなかったのだ.10項目の観察と,5項目の政策課題を示す.

1.    緊縮策は景気を悪化させる.

2.    債務の削減には非常に時間がかかる.

3.    債務・GDP比率を低下させるには名目GDPを継続的に引き上げることだ.

4.    もっと優れた世界であれば,財政同盟があって,他者の幸福を願う独裁者が居る.各国の財政政策が協調し,最も失業率の低い地域から不況に苦しむ人々を助ける財政移転が行われるだろう.

5.    危機は賃金の弾力性と労働力の高い移動性をもたらし,各国がユーロ圏を解体して自国通貨に戻るという考えを消滅させた.

6.    長く求められていたECBの金融緩和は,ようやく,市場の緊張を緩和したが,その結果,政治家たちが改革を忘れた.

7.    ユーロ圏諸国の構造改革は危機によって一層の必要性を示している.

8.    公的債務を蓄積する銀行は悪魔の回路になった.

9.    債務の大幅免除で,多くの銀行は2007-8年に起きた損失を十分に取れなくなった.

10ECBは,銀行とともに,政府にとっての最後の貸し手になった.そこには大きなモラル・ハザードがある.

政策課題は,第一に,持続的な実質成長の達成,第二に,今すぐに緊縮策を止める,第三に,銀行融資が増えなければ成長は回復しない,第四に,ECBの損失をだれが負担するのか,第五に,最終的には,公的債務の組み替え,さらには,免除である.

政府は強制されなければ苦しい解決策を(有権者に対して)選択しない.つまり,まだ解決のためには危機が必要であり,危機が遅れるほど被害が大きいことを想えば,2014年ではなく,2013年に危機が来ることを願う.

Project Syndicate 04 January 2013

Will More Integration Save Europe’s Social Model?

Daniel Gros

一層のEU統合がヨーロッパの社会モデルを守る,という主張は間違いだ.ヨーロッパの経済ガバナンスが万能薬にはならない.

ヨーロッパの社会モデルとは何か? 共通の要素を集めれば,平等を重視し,社会福祉国家を守ること,を意味する.しかし,出産率を上げるには,もっと各国や地域社会における対策が必要だ.ヨーロッパ規模のガバナンスではない.

新しい成長極が旧地域に利益より有害な影響を与える,という可能性は以前から知られている.しかし,低賃金が必ず優位を意味するわけではない.ヨーロッパは新興市場,特に,中国との貿易でも成功していると言える.EUは全体として通商政策をすでに統一しているから,ガバナンスの統一は競争力と関係ない.

福祉国家を維持するには,成長率を高めることが重要だ.しかし,それに必要な条件は以前から知られているが,各国の政治は障害を取り除く改革を阻止している.こうした政治家ほど,ブラッセルを非難する.

結局,有権者は国内でも,EUでも,信頼を低下させる.

FT January 10, 2013

European separatism is a red herring

Ian Bremmer

FP JANUARY 10, 2013

Changing of Lagarde

BY DESMOND LACHMAN

IMFは,ラガルデ専務理事の大胆かつ創造的な指導力,そして勇気ある決断によって,ユーロ危機を解決するために,ECBや欧州委員会の保守的正統派に対抗した.

WP January 11, 2013

Economic change depends on culture and society

By Anne Applebaum

フランスの人気俳優Gerard Depardieuが,オランド大統領の高所得者に対する75%の課税を嫌ってベルギーに移住する,という話は国民に大きな失望を呼んだ.さらに,彼は発言を改めたが,ベルギーではなくロシアに移住したのだ.彼の果てしないエゴと大酒飲みであったことをフランス人は思い出した.

経済政策は,その社会や文化によって効果が異なるだろう.ラトヴィアとギリシャを比較すればよい.ラトヴィアは2008年の危機に対して,政府支出を削減し,公務員の3分の1を解雇し,残った公務員の賃金を引き下げた.そして通貨価値の膨張を拒否した.GDPが劇的に減少して,2年間で24%も減った.その後は成長が回復し,財政赤字は大幅に減った.

この間,ラトヴィア人はストライキも,抗議活動も,憤懣も示さなかった.彼らは緊縮策を受け入れただけでなく,それを実行した首相を再選させた.

ギリシャは,対照的に,(ラトヴィアに比べて)わずかな財政赤字削減と,より少ないGDPの減少(それでも危機から18%も減った),そして,ストライキと暴動が起きた.ギリシャ人は何度も政府を交代させ,ナチ政党を拡大し,銀行に火炎瓶を投げ込んだ.その間も,ギリシャ経済は回復しなかった.

Anders Aslundは,その違いを説明している.ラトヴィアの緊縮策は公務員に厳しく,年金受給者には抑えられた.危機の直後に最大の削減を行った.危機が長引く方が苦しみは増す.ギリシャは逆だった.政府部門を守り,削減は遅く,国民や債権者は政府の返済約束を信用できなかった.不確実さは続き,人も資本もギリシャから逃げ出した.

ラトヴィアとギリシャは,歴史や文化が異なり,感情も国民心理も異なった.ラトヴィアは,小さく,同質的な国で,半世紀に及ぶソ連による占領など,苦難に耐えてきた.しかも,北部のラトヴィアで,寒さのために抗議活動は行えず,暖房が無ければ死ぬことになる.ギリシャは,社会的な結束が弱く,政治的に分裂している.半世紀にわたって,EU諸国から何度も支援を受けて救済されてきた.南部のギリシャで,凍死する者はいない.

何が証明できるわけでもないが,経済学は化学や物理学のような科学ではない.緊縮策(あるいは,財政刺激策)の成功は,政治的条件やその国のムード,有名人たちの行動様式によっても,変化する.


FT January 4, 2013

Chinese lessons for America

By Gillian Tett

アメリカのカリフォルニア州は,学校のための予算より,監獄のための予算が多い.アメリカは中国の政治からもっと学ぶことがある,とこの問題に関する最近の本が主張した.


FP JANUARY 4, 2013

The Myth of Africa's Rise

BY RICK ROWDEN

VOX 10 January 2013

Colonialism and development in Africa

Leander Heldring, James A Robinson


guardian.co.uk, Saturday 5 January 2013

Why Paul Krugman should be President Obama's pick for US treasury secretary

Mark Weisbrot


l  習近平の中国

NYT January 5, 2013

Looking for a Jump-Start in China

By NICHOLAS D. KRISTOF

FT January 8, 2013

Stressed sloths in search of indolence

By Patti Waldmeir in Shanghai

WSJ January 9, 2013

China's Liberals Test Xi Jinping

By MINXIN PEI

Southern Weeklyの記事検閲に関する抗議デモは,地方政府当局との妥協,検閲の一部緩和,によって解決された.これは,習近平の新指導者公認から最初の事件である.他にも,共産党の政治支配に対抗する事件が起きた.ノーベル賞作家Liu Xiaoboの妻に面会し,その自宅軟禁状態を支援者たちが映像で公開した事件だ.

Southern Weeklyの検閲に関しては,事件後,すぐに様々な支持者の声が,インフォーマルな形で,集まったことは注目するべきだ.ジャーナリストたちに,ビジネスマン,著名なブロガー,セレブの俳優,作家,などから支持があった.

習近平は穏健な姿勢で問題を解決した.そのソフト戦略は,党内の保守派と,一層の改革を求めるリベラル派の,双方から攻撃されるだろう.問題の処理を間違えば,もっと保守派の指導者が地位を奪う可能性もある.

VOX 9 January 2013

The appreciating renminbi

Philippe Bacchetta, Kenza Benhima, Yannick Kalantzis

FT January 10, 2013

China trade rebound signals solid growth

By Simon Rabinovitch in Beijing

2013-01-10 (China Daily)

Security challenge in 2013

By Zhang Jie and Li Zhifei

Global Times | 2013-1-11

China ready for worst-case Diaoyu scenario

By Global Times


The Guardian, Sunday 6 January 2013

Cameron's absurd behaviour over EU membership

Peter Mandelson

SPIEGEL ONLINE 01/07/2013

Britain's Political Poltergeist

Cameron Succumbs to Growing Europhobia

By Christoph Scheuermann


WSJ January 6, 2013

In Defense of the Fed's New Interest-Rate Policy

By FREDERIC S. MISHKIN AND MICHAEL WOODFORD


l  ギリシャとドイツ

NYT January 6, 2013

Greece’s Rotten Oligarchy

By KOSTAS VAXEVANIS

真の問題は,一握りのビジネス・エリートたちが「企業家」と称して,ギリシャ国家を食い物にしていることだ.彼らは賄賂を政治家に与えて政府契約を得ている.彼らはメディアを支配して犯罪行為を隠ぺいし,サッカーチームを所有して人気を得る.それはコロンビアのPablo Escobarや,セルビアの議会指導者と同じである.

guardian.co.uk, Monday 7 January 2013

Germany is not profiting from the eurozone

Gunnar Beck

ECBMario Draghiドラギ総裁は,ドイツのユーロ圏向け輸出がGDP40%にも達する,と語った.確かに,総輸出額は43%であるが,ユーロ圏向けは約15%である.しかも,経常黒字のほとんどをブンデスバンクが融資している.

1998-2011年に,ドイツの輸出は115%も伸びたが,それは成長につながっていない(ドイツ1.4%; フランス1.5%; オランダ1.8%; スウェーデン2.7%; イギリス2%; EU全体1.7%).

ほとんどのドイツ人にとって,賃金と生活水準は20年間も停滞している.かつての年金・医療・福祉は解体された.ドイツは低賃金経済の特徴を示し,不平等が拡大し,人口が減っている.

なぜか? ECBの銀行間支払システム,Target2が,ドイツ企業の輸出を融資しているからだ.ドイツのブンデスバンクが,この全く非効率な政府系投資信託(sovereign wealth fund)を維持している.なぜなら,投資できるのは南欧ユーロ圏の政府・民間債務だけであるから.このドイツ人の富を破壊する基金("wealth destruction" fund)は,南欧が本当は買えなかった商品を融資して,ドイツの輸出に補助金を与えている.

ドイツ産業の利益は,ドイツの貯蓄や納税者の富から奪ったものだ.ドラギ総裁は,こうしてユーロの「リラ化」を進め,ユーロ圏の崩壊に向けて,国際投資銀行の利潤を守っている.

SPIEGEL ONLINE 01/08/2013

Possible Boost for EU Economy

Germany Gears Up for Big Pay Hikes

By Sven Böll and Janko Tietz

ドイツ企業は賃金の大幅上昇に合意するだろう.所得格差や中産階級の不安が高まっている.被雇用者たちの可処分所得は,10年前に比べて減っているのだ.

政治家たちも賃金上昇を支持している.その新しい理由は,ユーロ圏を救う,ということだ.ドイツの経済諮問会議委員であるPeter Bofingerは,われわれは孤島で暮らしているのではない,という.ドイツはユーロを救うことができる.ドイツが賃金を引き上げれば,南欧の賃金引き下げを抑制できるからだ.

ドイツの集団交渉は,ユーロ危機において,マルクの時代と異なる意味を持つ.ドイツ経済の状態だけでなく,ユーロ圏全体の成長や雇用を見なければならない.

FP JANUARY 9, 2013

The Greek Depression

BY JOHN SFAKIANAKIS


l  金融政策と制度改革

FT January 7, 2013

Basel bends on liquidity rules

FT January 8, 2013

Leveson failed to learn from credit crisis

By JohnKay

VOX 8 January 2013

Meaningful banking reform and why it is so unlikely

Charles W Calomiris

危機は監視や規制が足りなかったから起きた,という理論に基づき,多くの複雑な規制が加わり,大きな権限を持つ多くの機関ができた.しかし,それは間違いだ.問題は,政府の作った,間違ったインセンティブの構造にあった.すなわち,既に規制はあまりにも複雑で,監督機関にそれを守らせる実効ある手段はなく,公的な支援を受けられると期待して民間がリスクを取ることは無制限であった.

改革の方針を変えるべきだ.リスクを評価し,制限する.市場参加者の抜け穴をふさぐ.監督機関が信用ある強制措置を取る.

NYT January 9, 2013

A Step Backward in Bank Regulations

FT January 10, 2013

Fed’s mapmaker charts central bank rethink

By Gillian Tett

Pozsar and McCulleyによれば,中央銀行の政府からの独立性は常に正しい,という前提が失われたかもしれない.Pozsar はかつてニューヨーク連銀で「影の銀行システム」を図式化した人物だ.彼は今,McCulley とともに,“helicopter money”, or quantitative easingの機能を解明している.もはや中央銀行は資金循環の最終的な目的地ではない.

彼らは資金循環を民間部門と公的部門とに分けて示す.民間は,レバレッジを増やす時期と減らす時期があり,公的部門は緊縮期と拡大期とがある.民間のレバレッジが減るとき,公的部門は拡大のための刺激策を採って景気を維持するだろう.これらを両軸にとったグラフの第4象限では,双方が同時に縮小し,デフレが進行する.

中央銀行の量的緩和は,民間のデレバレッジと政府の緊縮策に対して,中央銀行の独立性を放棄して,政府債券を大規模に購入する時期があることを意味している.危機に直面した際のわれわれのメンタル・マップは,あまりにも間違っていた.

FT January 10, 2013

Era of independent central banks is over

By Stephen King

中央銀行の独立性の是非ではなく,中央銀行家が官僚であるか,政治家であるか,が問題だ.かつて金融政策は景気循環に対して双方向に影響し,その意味で,政治的な中立性を主張できた.

今は違う.金融危機後の停滞が続く中で,金利はゼロにまで下げられ,その後は非伝統的な手段を取るしかなくなった.中央銀行はもはや中立的であると言えない.景気回復を迅速に実現するためには,政府との協力を避けられない.

金融政策は,極めて政治的な意味を持つ,富や負担を再分配する決定に深く関わるようになった.インフレ率を高めて実質賃金を引き下げることは,大恐慌の中で賃金や雇用を切り下げるよりもはるかに望ましい.しかしそれは,金融界の聖職者としてインフレ抑制を唱えるよりも,はるかに政治的な仕事である.あるいは,量的緩和QEは政府の資金調達を容易にするだろうが,他方で,年金基金の運用を危うくし,退職者の将来を脅かす.現在の労働者たちが支払う年金負担を引き上げ,あるいは,年金受給者の受取額を引き下げる.QEの最大の受益者は,投資もしない,裕福な高齢者層である.

この問題を最も鮮明に示すのは,日本で安倍政権が日銀に要求していることだ.もし日銀がQEを拡大してもインフレを起こせないとしたら,それは政府の財政赤字を融資するだけになる.中央銀行の政治化は完成し,政府機関の一部となる.政治家に従う金融政策に,安定性はない.

NYT JANUARY 10, 2013

Betrayed by Basel

By SIMON JOHNSON

Project Syndicate 10 January 2013

Why No Glass-Steagall II?

Barry Eichengreen

80年前,Ferdinand Pecoraが率いる上院の銀行・通貨委員会が大恐慌に至る金融スキャンダルの多くを暴いた.それは金融制度改革を刺激し,商業銀行と投資銀行とを分離するグラス=スティーガル法を成立させた.

2009-2010年,対照的に,巨大銀行はその金融ビジネスの範囲を維持している.そして略奪的なトレーディングに関する強力な監視を拒んでいる.その違いは,結局,危機から大恐慌への転化が未然に防がれたことだろう.経済政策の成功が,金融改革の進展を妨げ,次の危機を準備することになる.


WP January 7, 2013

Moving beyond illegal immigration enforcement policies

By Doris Meissner


Project Syndicate 07 January 2013

Monetary Regime Transition in the Emerging World

Andres Velasco


FT January 8, 2013

American industry is on the move

By Sebastian Mallaby


l  安倍・麻生の秘策

FT January 8, 2013

Abe prepares fresh stimulus measures

By Ben McLannahan in Tokyo

BLOOMBERG Jan 7, 2013

Do Credit Ratings Matter? We Will Soon Find Out

By William Pesek

72歳の麻生太郎が,安倍内閣の副首相,財務大臣,金融担当大臣を引き受けた.多くの日本人は引退する年齢だが,非常に忙しい.安倍・麻生のコンビは,円安によって日本の経済力を高められると信じている.日銀に2%のインフレ目標を定め,無制限の金融緩和を求める.それが彼らの秘策だ.

しかし,財政刺激策が日本のApppleを育て,中国と韓国の技術革新に負けない企業群を生み出せないなら,結局,国債の累積を放置するだけになる.安倍のこだわりで領土問題や従軍慰安婦に関する国際対立が激化し,日本の最大の貿易相手国と第二の貿易相手国から不買運動が起きたとき,円安が安倍・麻生の望む範囲を超えて進むかもしれない.

将来,債券格付けが中国よりも悪化して,安倍の憤懣をどれほど高めても,諦めることだ.

FT January 9, 2013

Japan stimulus plans fail to aid growth

By Michiyo Nakamoto in Tokyo

WSJ January 9, 2013

Now and Yen

By JOSEPH STERNBERG

安倍首相は昔の円安による景気刺激を信じている.しかし,ビジネス界の指導者たちは経済が構造的に変化したことを知っている.

円安は,短期的,表面的に利益をもたらす.しかし,日本企業はエネルギーを輸入し,部品を輸入している.日本企業の海外投資は円高を前提して計画されている.日本企業は多くの海外拠点から輸出している.

「悪い円安」が進めば,投資家は日本国債への信頼を失い,金利が上昇する.国債は急速に累積し始めるだろう.

NYT January 10, 2013

To Counter China, Japan and Philippines Will Bolster Maritime Cooperation

By MARTIN FACKLER


FP January 9, 2013

Don't Engage Kim Jong Un -- Bankrupt Him

BY JOSHUA STANTON, SUNG-YOON LEE


FP January 9, 2013

The 5 Most Important Questions About Afghanistan

BY MICHAEL KUGELMAN

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The Economist December 22nd 2012

China’s motorways: Get your kicks on Route G6

Paraguay’s Awful History: The never-ending war

The Holy Roman Empire: European disunion done right

(コメント) 年末特集号から,続いて少しだけ読みました.他にも,正力松太郎,孫文,アフリカ最大のスラムKibera,超長距離ランナー,ムンバイのインフラ,インターネットの広める漫画の世界,に関する特集記事を読みたいな,と思いました.

まず,中国の自動車道路がチベットへの長距離旅行をドライバーたちの夢にしている,という記事です.政治対立に関しては末尾に短く言及しています.むしろ,チベット行という「冒険・観光」が中国の自動車熱に理想的な目標を与えることに,何か不気味さを感じます.

パラグアイの戦争とヨーロッパの30年戦争も,その後の歴史を変えるほどの凄惨さを持っていたようです.徴兵による労働力不足と,敗戦すれば退避し続ける絶対君主の勝利への妄信は,パラグアイ国民の60%,男性の90%を戦闘・病気・飢餓で死亡させた,というのです.国王は処刑されるまで,王位簒奪を恐れ,最も忠誠な部下の多くを拷問し,兄弟も処刑した,という狂気の末,自分が英雄として歴史において復活すると予言しました.

その後,歴史は正しく記憶されず,後世の支配者によって,悲惨な歴史がナショナリズムの高揚に利用されます.英雄として復活したわけです.

ユーロ圏の混乱ぶりを理解する上でも,30年戦争後の神聖ローマ帝国という政治経済システムが論争材料になっている,という話も面白いです.

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IPEの想像力 1/14/13

前略 安倍首相

円安や株高によって,政権発足を祝福された首相の前途は,しかし,多くの挑戦に満ちています.あなたが,もし,次の選挙に勝つため,円安促進が切り札だ,と思うなら,問題の根本を見失っています.

確かに,これほどの債務を抱えながらデフレを許すのは,政府として愚かな姿勢でしょう.物価や為替レートが安定し,成長と雇用が実現できるように,さまざまな技術革新を普及させる投資の波が起きることを私たちも望むわけです.しかし,デフレが日銀の超金融緩和で解消できるでしょうか?

日用雑貨の量販店を見ればわかるように,デフレの源は<中国>と<インターネット>です.もはや長期の顧客でなくなった消費者は,インターネット検索によって,容赦ない最低価格を求めます.・・・私がコーナンのレジで絶句したように,部屋のゴミを粘着テープで集める,あの「コロコロ」は,替え芯3本とテープ芯の入った本体を,わずか350円ほどで買えます.ブックオフの文庫本は105円,映像倉庫の旧DVD1週間50円,アマゾンには1円の中古本・・・

タイの工業団地に広大な用地と勤勉かつ安価な労働力を確保できるのに,日本の驚くほど高価な輸送コスト,就職難とはいえ田舎に住むことを嫌う若者,都市から離れた狭隘な用地を前提に,企業が新工場を建てるとは思えません.旧工業圏の生産力の多くは無用になりました.

もちろん,円安は輸出企業に有利でしょう.しかし,旧工業圏の一つとして,日本が円安に頼って再工業化すれば,需要を奪われた他国の生産者は日本を非難するでしょう.競争的な切下げや保護主義の流れを無視して良いほど,日本経済は自力で回復できないのでしょうか? 日本の国際的影響力を回復するのであれば,むしろ,アジア諸通貨の安定的な調整メカニズムを提唱しなければなりません.

そもそも,円安だけで日本企業の投資を呼び戻せる,と楽観してよいでしょうか? その過程では,エネルギーや資源,食糧,部品などの輸入コストが急騰し,インフレと金利上昇,賃金・生活水準の低下が起きます.不況と債務爆発とデフォルトが迫る悪循環の末に円の価値が急落し,経済の再生ではなく,企業や人材の日本脱出を加速する危険もあるでしょう.安定した為替レートについて合意するためにも,低成長と財政赤字を続けることはできません.

中国にもっと近い台湾や韓国でも,ドルだけでなく人民元の為替レートを意識しながら,ダイナミックな経済変化を遂げることで成長を模索しています.ドイツと中国の賃金上昇は,世界経済の均衡を回復する形で成長を刺激するでしょう.

市場の需要変化だけでなく,社会の受容度を考慮し(高めて),国家を超えた変化に対する制度や政策を日本の内外で合意してください.

ブレトンウッズ体制が,資本取引を規制して国内マクロ政策による完全雇用を優先し,貿易自由化に関しても過渡的な輸入制限措置や,輸入量の短期的な変動を抑える緊急回避策を,ルールとして認めたように,新しいグローバリゼーションの衝撃緩和措置が合意されるでしょう.安全保障も,出稼ぎ労働者も,移民流入・定住化も,企業や不動産の買収,農地や森林資源などの長期契約も,私たちが許容できる範囲で,近隣諸国と協力・合意することです.

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日本には美しい自然があります(あったはずです).景勝の地でありながら,寂れた地方の旅館街を再興するには,旅館の一つか二つを,中国の旅行社に買収してもらってはどうでしょうか? 毎週,多くの中国人観光客が来てくれれば,周囲の旅館や料理店,農家も,所得や雇用機会が増えるでしょう.

「愛国教育」や自国の尊厳を回復する歴史教育も,日本だけでなく,すべての国で取り組むコミュニティー再生の課題として見るなら,競争的なナショナリズムを超えた視界が広がります.郷土愛や同胞の生活を支え合うのは,人間が持つ親愛の表現として社会生活の充実に欠かせない感覚だからです.

他方,政府が日銀を支配すれば,景気回復のために軍備拡張を進め,世界的な影響力を強める手段にできる,と主張する者も現れるでしょう.安全保障,領土・治安の確実性なしには,経済成長のための長期投資は起こりません.

貿易と投資で結びついた近隣諸国との関係悪化や軍事的脅威の増大は,いずれの国にとっても好ましくないはずです.むしろあなたが,尖閣諸島の領土問題を認め,30年後に解決するための話し合いを始める,という条件で凍結を提案してはどうでしょうか? その間,日本は島の開発を行わず,上陸を認めません.周辺海域に関しては,この島が無い場合の経済水域を基本に,話し合いによって資源の共同開発を制度化できるでしょう.

そして,この30年間を,日本はどう使うべきでしょうか?

安倍政権が,中国・習近平の経済改革に全面的に協力すること,そして,政治改革を支援することもできます.より平等で,内需に基づく安定した成長を実現する,民主的な中国が30年後の日本の交渉相手であることを,あなたも望むはずです.

安倍首相が日銀総裁に黒田東彦を,新総裁が副総裁に浜田宏一を指名することは,日本経済の刷新と国際的影響力を世界に示すでしょう.金融政策の在り方を根本的に変え,アジアや日本の金融システム,企業や投資のあり方についても,日銀が中心になってアジアと協力した改革を進めます.

首相の決断で,未来を拓く人々を励ますことができます.

草々

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