(前半から続く)


l  日本の企業家とガバナンス

FT October 19, 2012

Masayoshi Son, mobile’s gambler

By Michiyo Nakamoto

ソフトバンクの孫正義.

FT October 21, 2012

Executive dealing with a corporate meltdown

By Jonathan Soble

東京電力TepcoKatsuhiko Shimokobe下河邉和彦会長.

FT October 21, 2012

Corporate ethics are a matter of life and death

By Michael Woodford

オリンパスの元社長,マイケル・ウッドフォード.


FT October 19, 2012

Financial ecosystems can be vulnerable too

By Robert May


l  ヨーロッパ分裂の危機

Project Syndicate 19 October 2012

Europe Moves East

Dominique Moisi

マドリードとワルシャワ,ヨーロッパの西と東の都市で大規模なデモが起きた.その外観は同じだが,要求は全く異なっている.

スペインにとって,ヨーロッパは解決ではなく,ますます問題を意味するようになった.他方,ポーランドの未来は西側にあり,ドイツの好景気やアメリカにつながる道しかない.

FT October 22, 2012

Welcome to Berlin, Europe’s new capital

By Gideon Rachman

ベルリンは帝国の首都ではない.ドイツ人はベルリンが得たパワーについて矛盾した感情を持っている.ヨーロッパのドイツを目指す気持ちは強いが,そのルールを破る加盟諸国に不満を強め,もっとドイツ的なヨーロッパを望む声が高まっている.

ドイツ人がEUの改革やユーロ圏を守る姿勢は真剣であり,責任あるものだ.わがままなスペイン人,生意気なイギリス人,妄想に耽るフランス人,腐敗したギリシャ人に対する不満は一部でしかない.しかし,問題はベルリンが余りにも快適なことだ.

ギリシャやスペインの苦闘は,あまりにも遠い.

FT October 22, 2012

Stop this campaign against ECB policy

By Paul de Grauwe

「政府債券市場における最後の貸し手になる,というECBの最近の決定は,ユーロ圏のガバナンスを変える転換点である.」ECBは危機に際して流動性を供給し,ユーロ圏の崩壊を回避することができる.

しかし,この操作の成功は確実性credibilityにかかっている.投資家たちは,ECBが必ず救済融資を行うと確信するか,あるいは,そうでなければ投資家たちが躊躇し,ECBは赤字諸国へ大規模に融資をしなければならない.銀行が政府債券を大量に保有している以上,銀行システムを救済するためには,政府債券の流動性も維持しなければならない.

残念ながら,確実性は損なわれている.主な理由は,ドイツ連銀とその総裁が反対運動を展開しているからだ.ドイツ人の多くはドイツ連銀を通貨と金融安定性の守護者と見なしている.そのドイツ連銀総裁が,ECBはドイツの安定性を破壊しようとしている,と宣伝すれば,それはECBとユーロに対するドイツ人の反感を組織することになる.

このゲリラ戦は,ドイツ連銀総裁が近代経済における中央銀行の役割を理解していないから起こったのか? そうは思えない.

ここで私は一つの仮説を考える.かつてドイツ連銀は,ドイツ・マルクと金融政策決定によって,マルクにペッグしたヨーロッパ諸通貨を支配する地位を得ていた.彼らはユーロに強く反対したし,ユーロ圏では他の加盟諸国と同じ中央銀行の一つでしかない現在の地位を嫌い,過去へのノスタルジーを捨てきれない.ユーロ危機は,そんな彼らにドイツがユーロ圏を離脱し,再びドイツ連銀にヨーロッパの覇権を取り戻すチャンスを与えてくれる,と見たのだ.

この仮説は間違いであってほしい.ドイツ連銀はそんなノスタルジーを破棄して,ECBが政府債券に対しても最後の貸し手であることを認めるべきだ.

SPIEGEL ONLINE 10/22/2012

Parallel Universes in Paris and Berlin

Is the Franco-German Axis Kaput?

VOX, 22 October 2012

TARGET losses in case of a euro breakup

Hans-Werner Sinn

Project Syndicate 23 October 2012

Europe’s Path to Disunity

Hans-Werner Sinn

ヨーロッパ人は,アメリカ式の統一を嫌う.アメリカは坩堝(a melting pot)だが,ヨーロッパは多様な人々と文化の「モザイク」である.

単一の政治システムは,共通の言語,単一のナショナリティーを意味する.そうであれば,ヨーロッパはそれを受け入れない.しかし,他方で,ヨーロッパが統一されて,単一の政治システムを持つことは大きな利便性をもたらす.人も,財・サービスも,自由に国境を越えて移動できる.法律も共有され,ヨーロッパ規模の交通インフラや安全保障も共有する.

こうした政治統一に伴う危険とは,権力が多数派によって利益の不当な再分配や少数派の弾圧に利用される,という恐れだ.これは国内でも起きるのであり,少数派を守るために,条件付き多数決などの制度が整備されている.

ECBの決定はこの点で重要だ.ECBは金融政策を通じて,ユーロ圏のメンバー諸国間で,富とリスクを再分配した.その決定は,健全な財政の諸国に住む納税者にも,グローバルな投資家にも影響した.その決定方法は,民主的に選挙されたこともない理事たちの単純多数決である.

ECBは危機にある諸国に融資しているが,その救済融資による貨幣は北部の諸国にも及び,外国からの借り入れにも返済される.

こうした地域的な再分配政策は,アメリカの連銀にも許されていない.アメリカ連銀は特定の地域や州に融資することはできない.ところが,EU大統領Herman Van Rompuyの,ユーロ債発行や債務の共有に向けた提案は,真の連邦制に向かうものではない.

それはアメリカ以上に権力を集中し,ヨーロッパを,財政移転同盟,債務共有システムに変えてしまうものだ.

FT October 25, 2012

A Finnish parallel currency is imaginable

By Gillian Tett

ギリシャのように注目されていないが,フィンランドもユーロ圏離脱を検討している.すなわち,並行通貨システムである.

FT October 25, 2012

A three-tier EU puts single market at risk

By Charles Grant

EUの政策決定に関する構造が変化した.三つの層に分かれたのだ.

17か国のユーロ圏は「財政協定」を合意した.これは各国の財政と経済政策に関する権限をEUに委譲する合意である.独仏が指導力を発揮したものだ.ユーロ圏諸国からなるヨーロッパ議会と各国議会の制度がその政策決定を監視する.これが第一層だ.

第二層は,「ユーロ圏プラス」である.ポーランドも加わって,銀行同盟に参加する.第三層は,イギリスなど,経済主権を移譲しない諸国からなる.それはEUの単一市場と,それにともなう貿易,農業,対外協力,などの政策に参加する.

もしユーロ圏が,法律を作る特別な事務局や議会を設けるなら,EUの単一市場を脅かすものとして対立するだろう.イギリス,スウェーデン,ポーランドなど,経済自由主義の諸国は,第一層が単一市場を損なう政策を決める傾向がある.たとえば,第一層のみの規制で,シティの銀行開設が妨げられるかもしれない.

イギリスは単一市場と経済自由化に熱心であるが,そのためにはEU内で同盟諸国を指導する必要がある.イギリスだけEUの条約から離脱するような保守党の政策は,これに反している.

NYT October 25, 2012

Euro Survives, but Future Is in Doubt

By FLOYD NORRIS


l  アメリカ大統領選挙

NYT October 19, 2012

The Opiate of Exceptionalism

By SCOTT SHANE

NYT October 23, 2012

Watching U.S. Race, Other Nations See Themselves

By ELLEN BARRY

WP October 23, 2012

In third debate, candidates agree on more than you’d think

FP OCTOBER 23, 2012

Silent Treatment

BY JOSHUA KEATING

BLOOMBERG Oct 24, 2012

An Obama Re-Election Nightmare

By Caroline Baum

20154月,オバマが当選してから,労働者と企業重役との報酬の不平等をなくすと主張して導入した政策は失敗に終わった.オバマはアメリカの中産階級を守るため,彼らを絶滅危惧種に指定し,Fish and Wildlife Service局が中産階級に快適な社会環境を育成したのだ.

他方,共和党メンバーはオバマ政権への協力を完全に拒否し,議会では何もすることがなくなった.C-SPANは,毎日,空っぽの議会を中継するだけである.上院も,この5年間,一度も予算案を承認しなかった.

NYT October 24, 2012

Romney’s Economic Model

By NICHOLAS D. KRISTOF


l  成長は人を幸せにするか?

Project Syndicate 19 October 2012

Happiness Is Equality

Robert Skidelsky

ブータン国王は人民を幸せにすることを望み,GNPではなくGNHGross National Happiness)を提唱した.成長は必ずしも福祉を向上させない.なぜ成長ばかり望むのか?

1974年,Robert Easterlinが,「経済成長は人類の運命を改善するか?」という論文を書いた.その論文の答えは,「おそらく,しない」,である.

他の適当な指標を探す試みもあった.William Nordhaus and James Tobinは,GDPから汚染などの害悪を除いた“Net Economic Welfare”を提案した.余暇の多い社会の方が,働き過ぎる社会よりも満足をもたらす,と説明した.

貧しい人々は裕福な人々よりも幸福を感じないだろう.その国の人々の幸せは,絶対的な水準ではなく,相対的な水準で測る方が良い.所得の平均値より,中央値が高い方が幸せである,ということだ.しかし,豊かな諸国の分配は,この30年間で大きく不平等化した.平均値は上昇しても,中央値は低迷するか,低下したのだ.

平等な社会の方が,安全や健康による満足をもたらすだけでなく,多くの余暇,家族や友人と過ごす時間,仲間への敬意,より多くのライフスタイルの選択をもたらす.大幅な不平等は,われわれを一層強く物欲に執着させ,自分が隣人よりも少なくしか所有していないことを意識させる.人々を蹴落とし,競い合って先を奪う生き方を,父親から教えられるのだ.

19世紀のJohn Stuart Millは,すでに,文明化された理解を示している.人類にとって最善の状態とは,誰もが貧しさを逃れ,さらに豊かになることを望まず,後ろから刺される不安もない,誰も先に進むことを焦らない世界である.


l  財政刺激策は有効か?

NYT October 20, 2012

The Fiscal Stimulus, Flawed but Valuable

By CHRISTINA D. ROMER

NYT October 21, 2012

The Secret of Our Non-Success

By PAUL KRUGMAN

VOX, 22 October 2012

This time is different, again? The US five years after the onset of subprime

Carmen M Reinhart, Kenneth Rogoff

FT October 23, 2012

A slow convalescence under Obama

By Martin Wolf

VOX, 23 October 2012

Gauging the multiplier: Lessons from history

Barry Eichengreen, Kevin H O’Rourke

FT October 24, 2012

The US is unlikely to avoid “fiscal cliff”

Martin Feldstein


l  日本化する

guardian.co.uk, Saturday 20 October 2012

Why should Japan's teachers have to sing the national anthem?

Alex Marshall

世界で最も愛国的な姿勢を示すアメリカでさえしたことはないが,橋下徹の大阪では,君が代,という国歌を歌うために立たない教師を処罰し,解雇できる.

その教師が断たないのは国歌が軍国主義の時代とつながっていると考えるからだが,こうした教師は右翼から脅迫を受けている.彼が個人の自由を主張した裁判に敗北したのは些細なことかもしれないが,日本の保守主義や軍国主義に向かう流れとして,深刻な意味がある.

フランスでも,イギリスでも,その国歌を移民の子供たちを含む国民に強要することなど考えられない.

2012-10-20 (China Daily)

Japan has a lot to learn from Germany

By Fu Jing

Global Times | 2012-10-20

Japan must adapt to China’s navy moves

BLOOMBERG Oct 22, 2012

Let’s Put America’s Bankers Out of Business Now

By William Pesek

アメリカの政治家たちは,中国政府にアメリカの政府債券の多くが保有されていることを心配している.中国は,友好的な民主主義国家の日本と違って,野心的な共産主義国家だから.

問題は,債務の半分以上を外国に輸出するべきか? あるいは,国内の貯蓄に頼るべきか? それとも,アメリカがもっと日本人のように変わるのか?

皆が日本をバカにする.しかし,アメリカ経済が復活するために,ニューディール政策を再現するなら,それに融資してくれる日本のような国が欠かせない.「日本化“Japanization”」という言葉がエコノミストに喚起する恐怖心は,いまさら説明するまでもない.慢性化した停滞,デフレ,国際的な地位の低下.バーナンキもドラギも,日本のようになりたくないから,流動性を供給し続けている.首相と財務大臣が頻繁に交代するのも,日本がこの病気を回復できないシステムの欠陥を示している.

しかし,日本は他国のように,不況になっても激しい混乱を起こさなかった.犯罪やホームレスが急増することはなく,アメリカほど失業者も増えていない.人々は正規雇用を失ったが,パートタイムで熱心に働いた.キャリアを得られない女性や,厳しい就職活動として,調整は労働者が担ったのだ.

昨年の大震災が示したように,日本人の信じられないほどの抑制は称賛された.アメリカでハリケーンの後に起きたような暴動や略奪は起きないし,サプライチェーンの混乱も短期間で修復した.日本中の原子炉が長期にわたって止められても,停電は少なかった.このようなことができる国は他にいくつあるだろうか?

日本人がまとまっていられるのは,彼らが国債を維持しているからだ.世界最大の国債を発行しても,10年物の金利は0.78%でしかない.格付け会社も,投機家も,ギリシャと違って,日本の国債をバカにできない.

日本なら,政府の債務を免除することもするだろう.こんなことができる国も,ほかにない.

FT October 25, 2012

Banks: No room for foreigners on the board

By Michiyo Nakamoto

FT October 25, 2012

Japanese banks: Back in the saddle


l  イギリスでも,南アフリカでも

The Guardian, Sunday 21 October 2012

British rioters and South African protesters are all of one family

Desmond Tutu

彼らの怒りと懸念は,パワーと資源を持つ者たちに届かない.イギリスや南アフリカを含めて,世界中で人々がコミュニティーから切り離されている.選挙期間を除けば,誰も彼らのことを気にしない.

人々は,生活の質がその期待から大きく離れて,生存さえも脅かしていることを理解する,正しい社会を必要としている.


l  人民元の通貨ブロック

FT October 21, 2012

China’s currency rises in the US backyard

By Arvind Subramanian and Martin Kessler

既に東アジアは人民元圏になった.なぜなら,この地域の10か国中7か国の通貨が,ドルよりも人民元の変動を追って,為替レートを変化させているからだ.

YaleGlobal, 24 October 2012

China Rebalancing Won’t Doom Region

Deepak Gopinath


l  アジアの平和

Project Syndicate 22 October 2012

The Asian Tigers of Nationalism

Christopher R. Hill

東アジア,特に中国には,ナショナリズムが充満している.過去の犠牲者としての歴史認識が,すなわち,中国にとっては「恥辱の100年」が強調される.

日本のナショナリストたちにとっては,連合諸国の描く戦後の歴史認識が我慢ならない.70年近く,補償や援助を何十億ドルも支払ったのだから,日本はもう次に進みたい.謝罪は済んだ,と彼らは考える.

ナショナリズムがどうなるかは,中国だけでなく,東アジア諸国の政府が決めることだ.大衆に逆らってでも,ナショナリズムの熱を冷まし,相互の対話を促せるかどうか.

歴史認識に示された不満以上に,人々は政治的決定から排除されたと感じている.日本の問題は,政治家たちが国民から乖離し,日本をまとめる将来像を見失ったことにあるだろう.若者は政治に関心を持たず,政治エリートは偏狭だ.世界最高齢化社会,東アジアにおける中国の台頭と日本の地位低下,洗練された独自文化とアイデンティティの変化.それらは,尖閣という岩礁をめぐる,ナショナリスティックな国家間対立とともに進む.

中国の問題は一層深刻だ.指導部の交代は激しい暗闘をともない,大衆には何が起きているかわからない.民主主義制度があれば,批判的な意見は反対派を形成し,野党を動かす.民衆は政策決定に参加するのだ.しかし,中国では制度を欠くから,不満は水面下で沸騰する.中国共産党が,そのようなインターネット型の萌芽的な野党勢力に権力を移譲することはありえず,支配の正統性は成長の確保と,彼らの不満に乗じた経済ナショナリズムにある.

中国政府はこの政治的な加熱過程を抑える必要がある.近隣諸国を含む国家間の安定した関係に依拠し,世界秩序を受け入れる以外の選択肢はない.それは中国でも決断したはずだ.

日中の政治指導者は,ナショナリズムの熱狂を利用してはならない.

FT October 24, 2012

Asia needs stronger regional institutions

By DavidPilling

EUへのノーベル平和賞授与は陽気なジョークを呼んだが,アジアにはEUNATOがない.アジアは,ヨーロッパよりもさらに人口が多く,複雑で,多様である.1945年以後も冷戦のイデオロギー対立に閉じこもっていた.

パックス・アメリカーナはその真空を満たしていたが,中国の台頭によって,新しい秩序が求められている.それは,「中国版モンロー宣言」なのか? オーストラリアの元首相Kevin Ruddが呼びかけた「パックス・パシフィカ」なのか? アメリカと中国は,アジアにおける新しい役割に合意する.


l  シリア

Project Syndicate 22 October 2012

Uniting Syria

Volker Perthes

FP OCTOBER 22, 2012

Caught in the Crossfire

BY FIRAS MAKSAD

FT October 25, 2012

Turkey stumbles on the road to Damascus

By Philip Stephens


FT October 23, 2012

How to make rich countries pay for climate change

Jeffrey Sachs

Project Syndicate 24 October 2012

The Lost Generations

Jeffrey D. Sachs


l  ウクライナ

Project Syndicate 23 October 2012

Ukraine’s Revolt of the Oligarchs

Anders Åslund

ウクライナは,オレンジ革命後の政争,Yanukovychによる権力掌握により,その後,EUよりロシアとの協力関係を重視し,Tymoshenkoなど,敵対する政治指導者の投獄,通信分野での政治介入,など,専制支配体制を急速に強めてきた.

しかし,すでに西側と敵対し,ロシアからも支持されず,国内のオリガークたちも政府の姿勢を嫌っている.EUとの自由貿易協定やIMFとの合意を彼らは政府に求めているからだ.次の議会選挙で,欧米からのYanukovych批判,反政府派への支援が重要になる.


l  インド

FT October 25, 2012

West should pay attention to India’s woes

By MohamedEl-Erian andMichaelSpence


l  ミャンマー

Project Syndicate 25 October 2012

Burma to Myanmar and Back?

Jaswant Singh

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The Economist October 13th 2012

True Progressivism

Special Report: For richer, for poorer

Immigrant entrepreneurs: The Chilecon Valley challenge

Textbooks round the world: It ain’t necessarily so

Greece and Germany: Angela’s Athens

Germany’s army: No shooting please, we’re Germany

(コメント) 不平等の拡大は,これまで自由主義の一部として支持されてきましたが,その流れを逆転する現実や主張が現れています.ロシアだけでなく,新興経済では中国やインドも,成長に伴う不平等の拡大が,競争の排除やクローニズムと結びつき,豊かな世界でも,極端な富の集中が,社会的移動性を妨げ,しばしば金融市場における過剰な規制や保護を介して,市場による生産的な投資を妨げ,バブルや金融危機を増やしていると思われます.

この記事が面白いのは,スウェーデンやラテンアメリカを例に挙げて,「真の進歩主義」が不平等を緩和しながら生産性を高める道である,と主張することです.

日本が中国や韓国から何度も抗議や非難を受けてきた教科書の問題が,世界中の「政治イデオロギー」として問われていることを考えるのは,日本人が冷静に自分たちの教科書を見直し,アジア諸国と話し合う姿勢を見定める良い契機になるでしょう.また,ドイツの教科書や,メルケル首相のアテネ訪問,ドイツ軍のあり方も,日本が考えるべき材料です.

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IPEの想像力 8/27/12

京田辺キャンパスから帰る途中の車内で,野田首相の施政方針演説を,一部,聴きました.首相(あるいは,彼のスピーチライター)は,The Economist, October 13th 2012を読まないのでしょう.なるほど,少しバートレット大統領(アメリカのドラマ「ホワイトハウス」)に似た,星を見つめる名演説かもしれませんが.

要点は何だったのか? ・・・党派争いで重要な課題を先送りしてはいけない.消費税引き上げを3党間で合意した通りに成立させよう.東北大震災の被災地再建,福島原発の処理と復興に全力で取り組む.1票の格差是正を行う.・・・そういった話でしたが,国民の心をつかむには何か足りない,と感じました.議員たちはざわついて,講義を聴かずに騒ぐ学生たちの教室にいるようでした.もう少し,政治指導者に敬意を表し,互いに正面から議論してはどうか,と私は思います.

The Economistは,世界の教科書を議論しています.第一次世界大戦後,国際連盟は,ヨーロッパ諸国の教科書をナショナリズムから切り離そうとしたそうです.911以後は,サウジアラビアの教科書が問題になりました.西側やアメリカを攻撃し,聖戦を支持する内容があるからです.民間の団体が,イスラエルとパレスチナの共通教科書を作ろうとしました.しかし,歴史や地理の書き方は非常に異なっており,「非常に,非常に,難しかった」と告白しています.議論が一致しない個所は,見開きページで,双方の叙述を並べたそうです.

アフガニスタンの難民キャンプで,1980年代に,子供たちは算数の問題を解きました.「ムジャヒディンの集団が50人のロシア人兵士を襲撃した.襲撃によって20人のロシア兵は殺害された.何人のロシア兵が逃げたのか?

従軍慰安婦や南京大虐殺,A級戦犯と靖国参拝,などを思い浮かべる日本と違って,アメリカでは教科書問題を国内の宗教団体が起こします.教会と国家の分離を唱えたから,独立宣言を書いたジェファーソンでも教科書から追放しようとします.性教育や避妊の知識をどこまで教えるか? 進化論に言及するのか? 進化論を否定するメガ・チャーチの影響は韓国にも及びます.

The Economistは,また,「チリコンバレー」(シリコンバレーの駄じゃれ)を紹介しています.才能ある人々,若い起業家を求めて,グローバルな争奪戦が起きている時代に,内向きになって,移民を拒否するアメリカに代わって,カナダやシンガポールがこうした人材を吸収します.チリも,才能ある若者たちを歓迎する優遇策を掲げ,多くの成果を上げているようです.

若い起業家の誘致政策が東北の被災地でも実現してほしい,と私は願っています.逆に,今の日本やアメリカは,ちょうど(先週,学生たちに講義した),大航海時代から重商主義国家の競争的建設過程で,優れた技術や知識を持つムーア人,ユダヤ人を弾圧し,追放したスペインの衰退,そして,ユグノーを弾圧し,虐殺した結果,大規模な国外流出を引き起こしたフランスの失敗,と重なります.

The Economistは,日本と対照的なドイツの今の姿も伝えており,印象に残りました.ユーロ危機やNATO軍によるアフガニスタン介入は対立と分裂を生みましたが,日本や東アジアとは統合の水準や規模が全く異なります.メルケル首相はアテネに飛んで,ギリシャ国民がユーロ圏にとどまり,改革を実現できるように支援したい,と説得しました.

誰が,何が,政治を動かすのか? 政治対立は国境や国籍によって起きるのではなく,政治意識を支配する者たち,そして,国家をも超えて,イデオロギーが起こします.

日曜日のTV番組で,河野洋平衆議院議長は,石原慎太郎が東京都知事を辞職して国政に復帰し,「第三極」を作る,という主張は間違いだ,と繰り返し述べました.松下政経塾出身の野田首相も,安倍晋三自民党総裁も,石原慎太郎や橋下徹も,いずれも保守的で,内向きの政治を目指す流れであって,西ドイツの「緑の党」のような,本当の第三極にはならない,と.

「真の進歩主義」を唱えるThe Economistに対して,私は,「自由な社会主義」という政策が各地に登場するのではないか,と思いました.グローバルな政治論争に,こうして,保守主義,進歩主義,社会主義の流れが現れ,人々の政治意識を刺激する時代が形成されつつあるのです.

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