IPEの果樹園2012

今週のReview

7/2-7

 

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アメリカの現状 ・・・日本の首相と増税 ・・・エジプト大統領 ・・・世界経済の成長モデル ・・・ユーロ危機の今 ・・・中国の拡大 ・・・モンドラゴン協同組合 ・・・サイバー兵器 ・・・イランの核問題 ・・・エコノミストの失敗 ・・・モンゴルとラゴス

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  アメリカの現状

NYT June 21, 2012

Prisons, Privatization, Patronage

By PAUL KRUGMAN

アメリカの民営化された公共部門がどれほど劣化するか,NYTのハーフウェー・ハウス(仮収容所・監獄)に関する記事を読むべきだ.収容者たちの扱い,不道徳,スタッフの不足,危険人物の脱走,内部の暴力,・・・恐ろしい話が一杯だ.

この話は公共部門の民営化という全体像の一部として読むべきだろう.あなたは市場について保守的な信念を持っているかもしれない.政府計画より市場競争の方が優れている,と.しかし,この監獄=産業複合体には,全然,市場など無い.政府契約に依存し,効率性の改善など無い.スタッフや労働に関連するコストを削っただけだ.

民営化の重要な理由は,それが政治家の友人や関係者に利益をもたらし,政治家には選挙資金や影響力をもたらすことだ.

WP June 23, 2012

How policy has contributed to the great economic divide

By Joseph E. Stiglitz

FT June 25, 2012

US economy: Declaration of interdependence

By Ed Crooks and Keith Fray

不況になれば自律性を求めたくなる.しかし,アメリカ経済の世界市場への統合,相互依存は深まってきた.容易に逆転しないだろう.

経済の開放度を示す最も簡単な指標,(輸出額+輸入額)/GDP,は過去30年で11%上昇した(198120.5%から201231.7%).銀行融資,証券保有,直接投資,企業買収など,外国との関係は深まっている.

FT June 25, 2012

America is no longer a land of opportunity

By Joseph Stiglitz

アメリカの不平等はこの1世紀近くで最大になっている.最上位の者たちが,それをどのように定義しても,パイの最大シェアを占めている.貧困水準以下の人口が増えている.アメリカは「中産階級の国」であると考えてきたが,もはやそうではない.

エコノミストたちはそれを「限界生産性理論」で正当化している.しかし,社会を本当に変えているのは,技術革新を起こす知識を供給する者たちだ.彼らはわずかな報酬を得るだけで,他方,世界経済を崩壊寸前に追いやったウォール街は莫大な報酬を得ている.

不平等を好意的に観る者は,トリクル・ダウン仮説を信じているのだろう.しかし,所得の中央値は15年前よりも低くなっている.特に,男性正規労働者の所得の中央値は40年以上も前と同じだ.その間,トップの所得は大幅に増大した.不平等は市場の作用がもたらす副産物だ,と言うのは間違いだ.経済成長を維持しながら,不平等を減らした国もある.

市場の働きはゲームのルールに従う.我々の政治システムは,他の者を犠牲にして富裕層を豊かにする.金融規制,破産法,デリバティブ.資本の自由移動と労働者の不自由を強いる,グローバリゼーションのルールもそうだ.企業は国家に大きな譲歩を求め,交渉力の無い労働者にはそれができない.

経済学の教科書は,平等な社会を求めれば成長や効率性が犠牲になる,と教えているかもしれない.しかし詳しく分析すれば,不平等は大きな代償をともなっている.それは社会,経済,政治の不安定化をもたらし,成長を損なうのだ.北欧諸国のように,健全な経済を持つ西側諸国は,平等である.

より平等であった第二次世界大戦後のアメリカは急速に成長したが,1980年以降,不病になったアメリカの経済成長は低い.多くの国を比較しても,平等,成長,安定性には結び付きがある.それは良いニュースだ.アメリカも,レント・シーキングを抑え,不平等をもたらす歪みを解消すれば,より公正な社会と成長する経済を実現できるだろう.

アメリカは「機会の国」だと思っていた.しかし今,子どもたちの機会はヨーロッパ以上に両親の所得に依存している.アメリカ人は一生懸命に働いて機会をつかみ,アメリカン・ドリームを実現する,と思っていた.それは神話でしかない.

機会の国を再生するには,自分たちでするというより,公教育の予算を削り,中下層の機会を増やす公的プログラムを廃止し,最上層の減税ばかり優先する,今の政治を変える必要がある.オバマは政府投資と新しい税制のルールを求め,ロムニーは公務員を減らし,投機によるキャピタル・ゲインについても黙っている.

アメリカは選択しなければならない.この数10年間そうであったような,機会の不足した,分裂した社会,低成長と,社会.系zぁい・政治の不安定化を続けるのか? あるいは,経済はバランスを欠いていると認めて,金ぴか時代の行き過ぎが大恐慌に至った後,ニュー・ディールを行ったように,やり直すのか?

WSJ June 25, 2012

Stimulus Isn't a Dirty Word

Alan Blinder

「民主党員の多くは,道路,橋梁,トンネル,などを補修し,建設したいと思う.歴史的な低水準にある金利を利用し,歴史的な高水準にある建設部門の労働者を助けたいと思う.多くの共和党員はそれに反対だ.公共投資を支持する議論で,民間投資を支持する.どちらも成長をもたらすのだから.」

「もし真剣に,成長と平均的アメリカ人に多くの改善をもたらす,証拠に従う予算配分を行うつもりなら,われわれは短時間で効果のある雇用促進計画,長期間の財政赤字削減を示し,インフラと教育の改善に支出し,抜け穴をふさいだ,最高税率を39.6%に戻した,中産階級を守る税制改正を行うだろう.」

それは,どちらの候補者か? それがあなたの思う正しい人である.

Project Syndicate 27 June 2012

The Great American Mirage

Stephen S. Roach

世界経済が落ち込む中で,アメリカ経済だけが好調を続けることはできない.今,金融危機後に消費が落ち込む中で,海外市場が景気回復を支えてきた.それが失われたら,アメリカもそれに従う.

Project Syndicate 27 June 2012

The Impotence of the Federal Reserve

Martin Feldstein


l  日本の首相と増税

BLOOMBERG Jun 21, 2012

Not the Right Man to Lead Japan

By William Pesek

野田佳彦は,日本に珍しい物であるとわかった.すなわち,難しい決断をする首相,なのである.消費税を10%に引き上げる決断.原発を停止する決断.そして,原発再開の決断.

1990年代後半,デフレによって増税は失敗したはずだ.今も,デフレは少し緩和されたが,増税するときではない.企業の海外流出が続いている.他方,債務の重圧からデフォルトを懸念する声もある.労働人口も減っていく.いつまで政府はこの債務依存を続けられるのか?

これほど低金利でも国債を保有しているのは,日本のデフォルトを考えていないからだ.確かに,国内保有が90%を超えているから,アルゼンチンやギリシャのようなことは起きないのだろう.

日本は唯一の被爆国であるのに,地震の国で54基もの原発を建設している.これまでその安全性が疑われなかった.しかし,昨年の地震と津波は,それを否定した.

日本の国債もそうだ.

NYT June 24, 2012

Japan’s Inept Guardians

By RICHARD LLOYD PARRY

FT June 27, 2012

Japan needs a radical to tackle its debt

By Peter Tasker

ヨーロッパでもそうだが,日本でも,テクノクラートが絵に描いた餅のような,イデオロギー的政策転換を唱え,ポピュリストと過激派の方が合理的な政策を主張する.

野田首相は消費税を10%に引き上げる法案を,自民党との合意で通過させた.その結果は,経済的にも政治的にも破局であろう.マニフェストは次第に色あせ,消費税に関しては約束を破った.ポピュリストが次第に勢いを得ている.

首相は増税で日本の持続的な成長と財政健全化に向かうと言うが,その可能性は小さい.前回,1997年に引き上げたとき,不況になって税収は大きく減った.日本のゴジラ的な巨額債務は,ケインズ的なものではなく,むしろオーストリア的なものだ.いつも,財政・金融政策の引締めが強すぎたのだ.

財政緊縮の美徳は,日本の名目GDPを減らし続けて,課税ベースを失い,国債発行が増えた.その解決は,逆に,この名目GDPを増やすことでなければならない.もし日本が年3%のインフレを経験していたら,この15年で名目GDP3分の2も増加し,資産価格はもっと高く,財政はもっと健全だったはずだ.

もちろん,これは言うより実行する方が難しい.しかし,せめて間違った政策を採らないようにすべきだ.日銀や財務省は回復の芽を摘んではならない.そしてデフレに最終的に勝利するため,日本はもっと過激な政策を採用することだ.

もはや,野田首相や自民党では,こうした過激な転換を実現できない.大阪で人気の高い橋下徹が全国組織を立ち上げた.中央政府の失敗で,彼がチャンスをつかむ.

WSJ June 27, 2012

Japan Pays the LNG Piper

By JOSEPH STERNBERG

NYT June 28, 2012

South Korea to Sign Military Pact With Japan

By CHOE SANG-HUN


l  エジプト大統領

guardian.co.uk, Friday 22 June 2012

As army and Brotherhood tussle, Egyptians look to the US as guarantor

Sahar Aziz and Cedric Moon

最高軍事評議会はムスリム同胞団が多数を支配する議会を,突如,解散した.アメリカ政府はこれについて沈黙している.民主的に選ばれたイスラム原理主義の政府と,軍事政権との選択であれば,アメリカは後者を好むだろう.アメリカの納税者から13億ドルを得ているエジプトの軍事政権は人権も守らない.

1年を経て,軍事評議会は政府を担う能力が無いことを示した.他方,ムスリム同胞団は有権者に支持を広げることを学んだ.一国を効果的に統治するとは,責任を分担することであり,単に,全権を掌握することではない.

guardian.co.uk, Sunday 24 June 2012

Mohamed Morsi victory is a landmark for Egypt – but a qualified one

Ian Black, Middle East editor

世界最古のイスラム教徒の運動体であるムスリム同胞団の大統領候補が勝利した.エジプトで最初の民間から当選したナセル大統領に続くものだ.この不安定なイスラム教圏で,最大の人口を持つエジプトが自分たちの大統領を民主的に決めたことは歴史的に観て重要だ.

しかし,Morsi大統領は困難な状況にある.軍隊はまだ権力を握っており,それを容易に手放さないだろう.国民の期待はかつてない高い水準にあり,国内の政治対立は非常に激しい.軍事最高評議会は,アメリカがMorsiの勝利を支援した,と暗に非難している.そして,イスラエルとの関係が悪化する危険性を警告した.

しかし,総じて見れば,Morsiの勝利は良かった.Shafigが勝利した場合,秩序の安定を理由に,弾圧する以外の道は無かっただろう.エジプトで,軍に対抗できる組織を持つのはムスリム同胞団しかいない.彼らは街頭に支持者を集めて軍を批判できる.

Morsiは軍と対抗するとき,すべてのエジプト人のために,と語った.第1回の投票では彼を支持しなかった人々に支持されて当選できたのだ.漸く,革命の不安定な時代が終わる時期が始まる.

guardian.co.uk, Monday 25 June 2012

I have today become the president of all Egyptians

Mohamed Morsi

FT June 25, 2012

Morsi has 100 days to prove his mettle

By Emile Nakhleh

SPIEGEL ONLINE 06/25/2012

Islamist in the Presidency

Egypt's Powerless New Head of State

An Analysis by Ulrike Putz

NYT June 25, 2012

Another Chance for Egypt

BLOOMBERG Jun 25, 2012

Why Turkey’s the Wrong Model for Egypt

WP June 25, 2012

Is Obama to blame for the Arab Spring’s failures?

By Jackson Diehl

1年前,オバマはチュニジアやエジプトの革命を,アメリカにとっての機会,と見なした.しかし,今や「アラブの春」というのは間違った名称になった.むしろ「壮大な混乱」である.

シリア内戦はレバント地方に拡大している.エジプトではイスラム主義者の勝利が軍との抗争を激化させている.イエメン,リビア,バーレーンの暴力的な政治抗争も続いている.唯一,チュニジアだけは,オバマが促進すると約束した民主主義と発展の時代に入りつつある.しかし,そこにおいてもイスラム主義の政府がどこまで寛容であるかはわからないのだ.

中東の人々がこうした事態の主要な責任を負うのは言うまでもない.しかし,オバマが期待を高めた以上,非難は免れない.彼の失策はどれほど深刻なものであったか?

エジプト,イスラエル,サウジ,リビア,各地の人々に聞いた.その答えはさまざまで,矛盾してもいるのだが,二つの点は明確だ.アメリカとその大統領は事態の推移に大きな影響力を持つ.大部分,その影響はマイナスのものだった.

エジプトについて,オバマは愚かであった.イスラエルとサウジの意見では,アメリカの確信した同盟者であるムバラクの独裁体制を崩壊させたからだ.ムバラクが予言したように,イスラム主義者はイスラエルにも西側にも敵対するだろう.

エジプトの民主派も,オバマは間違った,という.エジプトの軍部が組織的に旧秩序の再建を始めたとき,彼はそれを止めなかった.3月,アメリカ議会がエジプトへの軍事援助に民主化の条件を付与しようとしたが,それを止めさせた.軍部は民主化の活動家を裁判にかけていたときだ.アメリカはいつも,エジプトの権力を握る者,すなわち,軍にしか関心を示さなかった,と批判する.

ロシア人も,オバマはシリアでも間違った,という.体制の崩壊を公式に要求したことで,アサドの反政府派は武器を取った.再びアメリカ大統領は,体制転換後に何が起きるかも知らないまま,崩壊を促したのだ.先週の首脳会談で,ロシア政府はオバマに,バー連でも同じような弾圧を行っている,と指摘した.しかし,バーレーンにはアメリカ第5艦隊が拠点を置く.だから独裁体制の崩壊を求めないし,武器も売るのだ,と.

オバマの失敗は,間違った側に着いた,というのではない.迷走し,不決断と逡巡を示し,行動を嫌ったことだ.アメリカの援助,外交,軍事力は,独裁体制から民主主義への転換を効果的に促せなかった.むしろ旧体制に戻ること,そしてカオスを呼ぶことに手を貸した.

guardian.co.uk, Tuesday 26 June 2012

Egypt's revolution will only be secured by spreading it

Seumas Milne

「アラブの春」は「アラブの冬」になって,冷酷な抑圧体制,反革命,民主的権利と社会正義を求める民衆の圧力をハイジャックすることが起きている.

ムスリム同胞団はトルコのイスラム体制と改革を模倣するつもりだが,軍部は,その体制になる前の,トルコの軍が背後から議会を支配した体制を再現するつもりだ.イスラム主義者が軍と秘密取引することはこれまで無駄であったし,民衆の支持を失うだろう.

唯一,大衆的な支持を拡大して,ムスリム同胞団が軍に民主的な価値を認めさせるしかない.それはムスリム同胞団の内部の穏健派や改革派の指導者を支持することだが,保守派,強硬派との内紛は激しくなる.Morsiの妻がインターネットに登場したことを攻撃する保守派もいるのだ.

女性の権利,その他の市民的権利を守ることは,今後のムスリム同胞団にとって重要だ.エジプトが,革命派の中でアメリカ型の文化戦争(侵攻と世俗的な利益との対立)を始める危険がある.しかし,人口の40%12ドル以下で暮らしている国では,成長と雇用が重視されるべきだろう.

アメリカ政府は,アメリカに友好的な世俗派が権力を握ると安易に仮定していたように見える.しかし,パレスチナ問題で,西側に対する反感は民衆に深く浸透している.ガザの封鎖が即座に撤去されるのでなければ,ムスリム同胞団は保守的な性格を強め,改革派と分裂する.

民主化は各国の独立を強める.親米的なヨルダン,クウェート,オマーンへも革命が波及するかもしれない.アラブ世界の革命が続けば,それは避けられない.サウジアラビアを中心に,彼らは反革命の陣営を形成している.しかし,専制国家の中枢に及んで初めて,アラブ革命は確立されるのだ.

FT June 26, 2012

Rent-seeking lessons from Mubarak to Louis XIV

By John Kay

LAT June 27, 2012

Cut aid to Egypt's generals

By Sarah Chayes

guardian.co.uk, Thursday 28 June 2012

The three pillars of Egypt

Wadah Khanfar


l  世界経済の成長モデル

FT June 22, 2012

Europe’s bankers have forgotten the lessons of the Depression

By Liaquat Ahamed

80年前,中央銀行家たちは,世界経済を大恐慌に陥らせたことに責任がある.彼らは十分に早く金融政策を緩和しなかったのだ.金本位制が余りにも支配的であったから,多くの点で,彼らはむしろ反対に行動し,大量の失業にもかかわらず金利を引き上げた.金融システムに対して最後の貸し手として行動する代わりに,世界中で銀行が次から次へと破産するのを傍観した.

2008年にリーマンブラザーズが倒産したと,1930年代の教訓を学んで,中央銀行は積極的に行動した,と思った.しかし,ヨーロッパで危機が悪化し,手に負えなくなると,世界経済は弱まって,この数カ月,私は世界が同じ失敗を繰り返すのではないか,と思うようになった.

「ヨーロッパの現状は,1930年代のヨーロッパと不気味なほど似ている.皮肉なことに,当時は,ドイツが現在のヨーロッパ周辺諸国の地位にあった.ドイツは,ヴェルサイユ条約による賠償のせいで,膨大な政府債務を保有していた.その銀行システムは,1920年代のハイパーインフレーションにより,著しい資本不足であった.ドイツは外国からの借り入れに大きく依存していたのだ.また,金本位制として,厳格な固定レートを採用していた.しかし,金本位制は信認の危機を恐れて変更できなかったのだ.不況が襲ったとき,国際資本市場は要するに閉鎖され,ドイツは厳格な緊縮策を取るしかなかった.その結果,失業は35%に達した.」

フランス経済は,当時,好調だった.周りの不況をよそに,フランスの失業率は1ケタで,今のドイツのように,経常黒字を持ち,ヨーロッパの機関車になれる地位にあった.しかし,フランスは他国の苦境を理由に拡大策を取る責任を拒み,ドイツに融資しても無駄だと考えて,融資しなかった.その結果は,ヨーロッパ金融システムの崩壊であった.

ヨーロッパの官僚たちは,1930年代と違って,今はECBがある,と言う.しかし,ECBは中央銀行として最後の貸し手になれない.アメリカの連銀と財務省はリーマンショック後にあらゆる手を尽くして融資を行った.ヨーロッパにそれができるのか?

FT June 24, 2012

We should celebrate the end of the commodity supercycle

By Ruchir Sharma

「商品市場のスーパーサイクル」は終わった.それはブラジルやロシアのような国と多くの企業,投資家に問題を生じるが,原材料を輸入する中国や,アメリカからトルコまで,一次産品輸入国にとって安堵する変化だ.国際石油価格への投機マニアは1990年代後半のドットコム・マニアとよく似ている.

過去200年間,国際商品の実質価格は予測可能な経路で下がってきた.すなわち,10年間上昇し,20年間下落する.われわれは10年間の上昇期を終えたのだ.スーパーサイクルを中国の工場がもたらす需要のせいにするのは間違いだ.一般に石油価格が上昇して,その支出がGDP6%を超えると,需要が減少し,成長が止まる.

商品市場のマニアは最も無益な投機である.ドットコム・マニアは情報通信のインフラを残したが,商品価格は上昇し,下落するだけだ.資産は非生産的な投機家の手に集まる.商品価格の下落で,資本が生産的な用途に向かうだろう.アメリカの技術に次のマニアが起きるかもしれない.19世紀の二度の鉄道投資ブームのように.

WP June 25, 2012

The sources of the global economic stalemate

By Robert J. Samuelson

我々は破綻したモデルに依拠している.それゆえ世界経済は停滞し始め,アメリカ,ヨーロッパ,中国,それぞれが間違ったモデルを頼りに,結局,同時に弱め合っている.

アメリカは消費を刺激して成長していた.しかし,クレジット・バブルが破裂し,住宅価格,株価,雇用が減少した.輸出も,投資も,財政赤字も,回復のために機能していない.また,ヨーロッパはユーロによる金利低下と周辺諸国のブームによって成長していた.成長は福祉国家の給付も維持した.こうした前提は,2008-09年の金融危機で終わった.中国の経済状況はそれほど悪くない.しかし,輸出による成長モデルは欧米の不況で終わった.刺激策の効果も限界に達しつつある.

三つのモデルが破綻し,社会政治的な障害は大きく,新しいモデルの発見には時間がかかる.

Project Syndicate 26 June 2012

The Crisis of European Democracy

Mary Kaldor, Sabine Selchow

早期に金融危機を脱したドイツも含めて,ヨーロッパ各地で,地下茎の政治が繁茂しつつある.彼らは政治の不透明性,政治参加の欠如に強い不満を感じている.それはウォール街占拠運動からインターネット上の過激派の主張にまで,さまざまな政治的主張に共通している.

もし民主主義の不満が解消されなければ,経済政策だけで,ユーロ危機は解決できない.


l  ユーロ危機の今

SPIEGEL ONLINE 06/22/2012

Billions in Support

Merkel, Monti and Co. Agree to European Growth Pact

FT June 24, 2012

Why Mario Monti needs to speak truth to power

By Wolfgang Münchau

木曜日のヨーロッパ指導者たちによる会合を想像してほしい.イラリア首相が立ちあがって,こう発言する.

「皆さん.私たちはシンプルな選択を迫られています.今日,我々がユーロを救い,将来の政治統合に向かうのか? あるいは,それに失敗し,両方とも失うのか? ユーロを救うために何が必要か,我々は知っています.スペインには銀行同盟が必要です.イタリアには財政同盟が必要です.ドイツには政治同盟が必要です.」

「もちろん,我々は細部において同意しない点があるのです.しかしこの週末に,我々はこれらを解決する必要があります.そして,今すぐ必要な手段を取りましょう.危機の解決に何度も失敗してきたからこそ,今すぐに有効な措置が必要です.」

なぜマリオ・モンティなのか? 彼は専門官僚の政府指導者である.彼の仕事は問題を解決することだ.メルケルに対抗することではない.イタリアの諸政党は,プレーボーイの後に,問題を片づける修理人を求めた.ギャンブラーではない.決して指導者でもない.

ドイツの関係者と話していると,そこには違う世界があるように感じる.経済はヨーロッパ・サッカーのように国家間の競争である.ドイツはメルケルがキャプテンとなって勝ち残った.先日,ドイツがギリシャをサッカーで打ち破ったように,メルケルは勝ち続ける.

ドイツの元外相,Joschka Fischer はドイツの離脱可能性を考慮に入れた.ECBの主任エコノミストであったOtmar Issingは,債務の相互化案を完全に否定した.それがもたらすユーロ圏の解体には言及しなかったが.他方,イタリアのSilvio Berlusconi元首相は,ドイツはイタリアに融資するか,ユーロから離脱することだ,と語った.彼の発言は,次の選挙で自分の党を反ユーロに染めて,有権者の支持をより多く得る作戦と感じる.こうしてヨーロッパ政治の主流に,反ユーロが登場する.

もしそうなれば,誰もユーロを救うことはできない.ユーロ圏の指導者たちは3年にわたって効果の少ない打開策を示した.緊縮による刺激? 救済基金? 民間債権者の自発的な削減? 要するに,誰かがメルケルに真実を告げるしかないのだ.

モンティ首相がその適任者である.彼はヨーロッパ政治に精通し,明敏で,雄弁家である.イタリアは市場の攻撃を受ける次の国になる.他の解決策はない.

彼が辞任するという脅しは十分に恐怖をもたらすだろう.内閣支持率も,閣内における彼への支持も低下している.今,メルケルに直言することで,モンティはイタリアを救い,ユーロを救う.

NYT June 24, 2012

The Great Abdication

By PAUL KRUGMAN

3年前に,Christina Romerは政治家たちに1937年の失敗を繰り返すなと警告した.それは,F.D.ルーズベルトが余りにも早く財政刺激から緊縮に転換したことで,景気回復から不況に落ち込んだ年である.残念ながら,この助言は無視された.

今,ますます多くのエコノミストが,破滅の年である1931年について語っている.それはヨーロッパの小国,オーストリアの銀行危機で始まった.オーストリア政府はこれを救済しようとしたが,政府の支払能力が疑われたのだ.オーストリアの問題は世界経済を脅かすような大きな問題ではなかった.しかし,パニックは世界に広まった.

その理由は,政策を放棄したからだ.ヨーロッパの強国はオーストリアを助けることができた.中央銀行,特にフランス銀行とアメリカ連銀はダメージを抑えるためにもっと多くのことができた.しかし,その力を持つ者は,誰も行動せず,誰か他の者の責任であると宣言した.

現在,ヨーロッパの指導者たちはスペインの銀行危機に対処しなければならない.ヨーロッパの金融危機を回避するために,スペインの銀行に資本を追加するべきだが,ドイツはそれを嫌った.そしてスペイン政府に融資し,銀行を救済させた.しかし,政府債務が増えて,ユーロ危機はさらに深まった.

ヨーロッパの政治家だけが愚かであるわけはないし,アメリカの議会を支配する共和党議員たちも経済状況の悪化を無視している.しかし,連銀は何をしているのか? 何もしない? なぜか? おそらく,連銀は金融緩和でオバマの再選を助けようとしている,と共和党が攻撃するのを恐れているのだ.そして,ドイツ政府と同様に,経済危機を回避するのは誰か他の者の責任である,と思うのだろう.

VOX 24 June 2012

Banking union instead of Eurobonds – disentangling sovereign and banking crises

Thorsten Beck, Daniel Gros and Dirk Schoenmaker

銀行危機を政府債務危機と切り離すべきだ.そのためにはEuropean Resolution Authorityを設立して,銀行の整理を委ねることだ.そのためにはユーロ債を必要としないし,ERAがあれば銀行危機に直接に対処できるから,政府債券の信用は回復し,ユーロ債の必要もなくなる.そして,民間投資が回復し,成長のために合意にも一致する.

長期的には,ユーロ圏にネットワークを広げた大手銀行には特別な金融監督が制度として導入されるだろう.

Project Syndicate 24 June 2012

How Europe Can Rescue Europe

George Soros

ECBではなく,EFAEuropean Fiscal Authority)は必要だ.EFAは短期証券を発行し,ドイツのメルケルに経済諮問会議が提案した債務削減メカニズムを提供する.この短期証券はECBがリスクの無い資産として受け入れる.

FT June 25, 2012

How to design a banking union that will save the eurozone

Jean Pisani-Ferry

SPIEGEL ONLINE 06/25/2012

Imagining the Unthinkable

The Disastrous Consequences of a Euro Crash

SPIEGEL ONLINE 06/25/2012

SPIEGEL Interview with Finance Minister Schäuble

'We Certainly Don't Want to Divide Europe'

ユーロの解体が想像される,その歴史で最も深刻な危機です.ドイツにとっては何が関わっていますか? ユーロの導入はそれ自体が間違いだったのですか?

Project Syndicate 25 June 2012

An Agenda for Europe’s Weary Magicians

Jean Pisani-Ferry

FT June 26, 2012

Look beyond summits for euro salvation

By Martin Wolf

SPIEGEL ONLINE 06/26/2012

George Soros on the Euro Crisis

'A Tragic, Historical Mistake by the Germans'

SPIEGEL ONLINE 06/26/2012

Halting Europe's Downward Spiral

A Master Plan to Save the Euro

後半へ続く)