IPEの果樹園2012

今週のReview

2/27-3/10

 

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習近平 ・・・ギリシャ危機 ・・・ユーロ危機 ・・・アメリカの政治経済 ・・・世界銀行総裁 ・・・アメリカの戦争 ・・・日本の危機

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  習近平

FP Thursday, February 16, 2012

The overhyped visit of Xi Jinping

Posted By Stephen M. Walt

FT February 17, 2012

The princeling set to ascend the Chinese throne

By JamilAnderlini

WP February 17, 2012

China is serious about its direction. Why aren’t we about ours?

By Eugene Robinson


l  ギリシャ危機

FT February 16, 2012

Dancing around Athens’ default

WSJ FEBRUARY 17, 2012

Europe's Supply-Side Revolution

By DONALD L. LUSKIN AND LORCAN ROCHE KELLY

FT February 19, 2012

Greece must default if it wants democracy

By Wolfgang Münchau

ドイツの財務大臣Wolfgang Schäubleがギリシャに一層の支援の条件として選挙の延期を提案したとき,われわれはすでにこのゲームが民主主義と両立可能な限界を超える点に来たことを知った.ドイツの蔵相は,ギリシャが「間違った」民主的選択を阻止するように求めたのだ.ユーロ圏はギリシャ政府に選択を押し付けた.ギリシャはユーロ圏の最初の「植民地」になった.

債権者が債務者に政策の調整を求めることと,債務国の選挙を阻止することは,全く別の問題である.ドイツの提案はギリシャの憲法を侵害し,倫理的にも支持されない.


BLOOMBERG Feb 16, 2012

How 3 Myths Drive Europe’s Response to Debt Crisis

By HaraldUhlig


l  ユーロ危機

FT February 17, 2012

Europe’s ‘proud empire’ is entering a cul de sac of history

By Andrew Roberts

BLOOMBERG Feb 17, 2012

The Six Mistakes of Germany’s Finance Minister

By Charles Wyplosz

何事も包み隠すことが無い点で,Schaeuble蔵相が非難されることはないはずだ.安定化融資はギリシャを助けるためではなく,最初からドイツを守るために行われたのであるし,ギリシャは選挙を止めた方がよい,と率直に語った.こうした言い方はギリシャ人を傷つける,民主主義を侮辱している.

ドイツのSchaeuble蔵相は経済分析においても間違っている.少なくとも6つの間違いを犯している.

1.危機の感染を防ぐことができると思っていた.2.事態を悪化させるにもかかわらず,不況の中で財政再建を行った.3.二人のマリオ(ECB総裁とイタリア首相)が市場の沈滞を払拭すると信じた.4.自発的なデフォルト,もしくは,民間部門の負担(ギリシャ債務削減)によって事態を改善できると考えた.実際には,ギリシャの債務比率をGDP60%にまで減らさなければならないだろう.それは強制的な債務削減でしか実現できない.5.ギリシャは特別であり,例外だと主張した.しかし,イタリアもポルトガルも同じだ.ポルトガルがでふぃるとになればイタリアが,そしてイタリアがデフォルトになれば,フランスやドイツの銀行も巻き込まれる.何より,6.Schaeuble蔵相は,自発的な債務削減がドイツの納税者にかかる負担を減らす,と信じていた.

Schaeuble蔵相の間違った思い込みで,結局,ギリシャがデフォルトになり,ドイツの銀行,ユーロ圏の中央銀行,ヨーロッパ金融安定基金がその損失を吸収しなければならない.そしてポルトガルが続き,イタリアにも及ぶだろう.そのとき,スペインやフランスもデフォルトに向かう.

ギリシャに起源をもつものだが,民主主義であるとは,こうした事態を招く者に対して,厳しい疑問の声を上げることだ.

FT February 19, 2012

The ECB’s loans go further and wider

NYT February 19, 2012

Pain Without Gain

By PAUL KRUGMAN

FT February 20, 2012

Time for a theory of eurozone relativity

Stephen King

SPIEGEL ONLINE 02/20/2012

Top German Economist

'Restructuring Greece Within the Euro is Illusory'

guardian.co.uk, Tuesday 21 February 2012

Three steps to a strong eurozone

Henning Meyer

FT February 21, 2012

Eurozone agrees second Greek bail-out

By Peter Spiegel and Alex Barker in Brussels

SPIEGEL ONLINE 02/21/2012

A Political Establishment in Freefall

Greece Lurches to Left Amid Radical Austerity

By Julia AmaliaHeyer in Athens

WP Wednesday, February 22, 2012

Europe’s shortsighted response to a worsening fiscal reality

By Gordon Brown

guardian.co.uk, Wednesday 22 February 2012

To avoid depression, Greece needs a strategy for growth

Timothy Garton Ash

WSJ FEBRUARY 22, 2012

A Better Grecian Bailout

By JOHN B. TAYLOR

BLOOMBERG Feb 22, 2012

Greek Deal Leaves Europe on the Road to Disaster

By Clive Crook

FT February 23, 2012

Europe says goodbye to solidarity

By Philip Stephens

英米では使われないが,大陸ヨーロッパは「連帯 “solidarity”」という言葉を好んで使ってきた.社会的な市場経済とか,ヨーロッパの統一が,それによって実現されるはずだった.現在,ユーロ圏がこれほど混乱しているのは,ヨーロッパの「連帯」が終わったことを示している.

ギリシャが大胆な改革に取り組み,これまで何度も裏切られたユーロ圏の他の諸国がギリシャをもう一度信用するだろうか? ユーロ危機の波及は,経済ではなく,政治の問題である.もしギリシャが例外であると市場参加者が納得すれば,ユーロ圏は安定するだろう.しかし,そうでないなら,ヨーロッパの連帯が疑われる.

連帯は,単なる言葉ではなく,ヨーロッパの戦後秩序を表現する重要な共通意識だった.しかし,第二次世界大戦や,共産主義と冷戦の恐怖,分割されたドイツの悲劇は,過去のものになった.新しい理想を示したユーロは,苦しみの源に見える.


l  アメリカの政治経済

Project Syndicate 2012-02-17

Obama’s Recovery?

Jeffrey Frankel

WP February 18, 2012

Job retraining for the unemployed: A popular fix that might not work

By Amy Goldstein

WP February 21, 2012

The failure of austerity politics

By Katrina vandenHeuvel

「我々はギリシャ型のデフォルトに向かっている」と,ロムニー候補はオバマの景気刺激策を非難して,繰り返し警告してきた.ロムニーは,成長を開始するには政府支出を削って,財政均衡を達成する,と主張する.

彼の警告は,今,全く逆の意味で注意が必要だ.ポルトガル,アイルランド,スペイン,イタリア,イギリスは,経済危機に対して財政赤字を削減する対応を取ったからだ.そして沈没した.ギリシャの破滅は,暴動と反政府行動を広めている.

ロムニーの主張は,それでも続けるのであれば,著しく無責任だ.


l  世界銀行総裁

Project Syndicate 2012-02-17

Who Should Lead the World Bank?

Arvind Subramanian and DeveshKapur

Project Syndicate 2012-02-21

Reinventing the World Bank

Ana Palacio


Project Syndicate 2012-02-17

Tobin Trouble

Mark Roe


FP Friday, February 17, 2012

China's not breaking the rules. It's playing a different game.

Posted By Clyde Prestowitz

NYT February 17, 2012

Chinese Labor, Cheap No More

By MICHELLE DAMMON LOYALKA


l  アメリカの戦争

NYT February 18, 2012

The End of American Intervention

By JAMES TRAUB

アメリカはこの20年間戦争を続けてきた.1990年代に「人道主義的介入」を始め,その後も,911後は「体制転換」や「民主化」,「国家建設」を支援してきた.軍事介入は,外交政策におけるイデオロギーの戦いでもあった.

しかし,誰も意識しないまま,アメリカによる軍事介入の時代は終わったのだ.我々は,姿の見えないテロとの戦いを終えて,アジア太平洋における中国との伝統的なパワー・バランスに回帰する.

ネオコンであれ,ブレアのようなリベラルな国際派であれ,抽象的な目的で積極的軍事介入を支持する主張に対して,右派も左派も,リアリストたちはその戦略の価値を疑っていた.911のショックではなく,中国の軍備強化が主要な脅威になることで,アメリカは夢から覚めたのだ.

LAT February 19, 2012

War on terror -- Round 3

By Andrew J. Bacevich

アメリカは,永続的な戦争状態に入った.戦争の脅威はますます分散している.イラクとアフガニスタンから撤退しても,アメリカはさらに多くの地域で特殊部隊による戦線を拡大しつつある.そして海軍は移動する基地となり,無人偵察機や爆撃機を多用する.


guardian.co.uk, Monday 20 February 2012

It's time to start talking to the City

Ha-Joon Chang


NYT February 21, 2012

Peaceful Protest Can Free Palestine

By MUSTAFA BARGHOUTHI


WSJ FEBRUARY 22, 2012

Why We Can't Believe the Fed

By BENN STEIL


FT February 23, 2012

America’s secret love for ‘illegals’

By Gary Silverman


l  日本の危機

FT February 23, 2012

Is Japan’s ‘happy depression’ about to turn unhappy?

Jim O'Neill

ギリシャ危機が回避されるかもしれない.もしそうであれば,他の問題に市場の注意は向かうだろう.それはどこか? ・・・日本かもしれない.

日本はますます注目を集める国となっている.日本は「幸せな停滞」(a “happy depression”)を楽しんでいるように見える.しかし,事実は全く違う.2020年に120%というギリシャの債務/GDP比率がまるでピクニックの計画に見えるほど,日本の債務依存,230%は深刻だ.

私は日本の投資家たちに尋ねた.なぜ7%の10年物イタリア国債ではなく,1%の日本国債を買うのか? かつてはイタリアの対外赤字を問題にすると答えることもできたが,今では日本の貿易収支も赤字になった.

もし移民の流入を増やさないのであれば,中期的に,日本は二つのことをしなければならない.一つは,長期債務を減らすことだ.政府支出削減や税制改革が必要だろう.もう一つは,成長力を高めることだ.そのためにはサービス部門の大胆な改革が必要だ.

人口が衰退する国家では,生産性の上昇が重要になる.同じような問題はヨーロッパの地中海沿岸諸国について指摘されていたことだ.彼らはユーロ危機によって,その実行を迫られている.そして,日本も,スイス式の通貨価値抑制策を実行しないならば,さらに厳しい停滞に苦しむようになる.そして,同様の改革を迫る危機の順番が回ってくるだろう.


WP February 23, 2012

Getting Iran to back down on its nuclear program

By David Ignatius

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The Economist, February 11th 2012

How to set Syria free

Change in Russia

Resource nationalism in Africa: More for my people

(コメント) シリアにおける反政府デモは弾圧されている.しかし,西側諸国は反政府側を支援するのが難しい.シリアはエジプトと違う.シリア軍は民衆に発砲した.また,反政府側には組織が無い.

シリア政府軍を叩くことも,反政府側に武器を供給することも,シリアの政治体制を外交的に攻撃することも,すぐに虐殺を止めない.トルコと国連を動かして,安全地帯を設けることが有効だろう.そして,長期的に見れば,アサド政権には未来が無い.

政府と多国籍企業間での資源採取をめぐる交渉は,地下資源を世界市場において実現できる価値に結びつけ,それによって国民の福祉を長期的な意味で改善する方策を目指します.

The Economist, February 18th 2012

A way out of the woods

(コメント) ユーロ危機から抜け出すためのポイントを考えます.それはギリシャの成長と,他のユーロ圏諸国がギリシャの改革を信用できることです.

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IPEの想像力 2/27/12

調査旅行の準備に追われて,更新できませんでした.検索が拾うように,この期間に見た面白そうなコラムのタイトルを挙げておきます.

「「東日本大震災」は日本を変え、世界を変えました。」(朝日新聞縮刷版『東日本大震災』) ・・・本当に、そうだろうか?

旅行前に考えたことは,震災が日本のガバナンスを変えるのか,日本におけるガバナンスの革新につながるのか,ということでした.バブル後の経済停滞と政治の混迷は,いよいよ震災のショックによって何か変質するだろうか? という点に世界が注目したと思います.逆に,これでも変わらないのであれば,日本への関心はいよいよ低下し,あるいは,ゴールドマンサックスの元主任エコノミストJim O'Neillが指摘するように,ユーロ危機が解決への見通しを得たところで,市場はギリシャではなく日本を攻撃し始めるかもしれません.

震災後の消極的な政治論争や社会不安が,被災地域だけでなく,日本の将来の可能性を閉ざすのです.

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ガバナンスの研究が震災と関係するのはなぜか? たとえば、The Economist, February 18th 2012の冒頭紹介記事にあった"Resource nationalism in Africa: More for my people”を読んで、私は考えました。

アフリカにおける「新しい資源ナショナリズム」の話です。新興市場の成長などで資源への需要が増え、国際価格が上昇しているとき、アフリカの諸政府が資源によって得られる利益を増やそうとするのは当然です。

「資源ナショナリズム」は以前からありますが、「新しい」というのは、各国政府が採掘ビジネスを直接に国家管理することを望まないからです。資源採取や国際販売に関して、「資本主義」や多国籍企業が優れていることを各国は認めています。

しかし、記事の要点は、埋蔵資源が住民の長期的な利益になるべきだ、ということです。この基準で見て、独裁的な国家が恣意的な政策変更で白人の農場を奪い、また、資源採取ビジネスに対して一挙に増税する、といったジンバブエ政府のやり方は間違いなのです。こうした政府は、短期的には利益を得ても、長い目で見て、資源採取への外国投資を減らし、その利益を住民のためのインフラ整備に使うこともないのです。

他方、ダイヤモンドの採掘に関してデビアス社との合意で政府収入を増やしたボツワナは、ロイヤリティーを引き上げる際も持続可能な水準に配慮しました。そして、アフリカでもっとも裕福な生活水準を国民にもたらしています。また、(ノルウェーから学んで)ナイジェリアは資源から得られる収入を財政として分離し、国民のための長期投資の財源としています。さらに、資源採取をめぐる収賄・汚職や不正取引を防ぐために、西側諸国と協力して、資源採取ビジネスの透明性を高める制度を強化しています。

もちろん、ロイヤリティーの身勝手な変更や汚職にまみれた政府でも、短期的な利益だけを目的とした投機的な業者が資源採取業へ参入してきます。しかし、それが国民に長期的な利益をもたらすとは思えません。

この記事の要点は、地下に埋蔵された資源が経済的な利益をもたらすことについて、ガバナンスが重要な違いを生じていることです。同様の問題は、地震や津波がもたらすコストについても言える、と私は思うのです。

地震の国でありながら、海辺や地溝帯の近くに原発を建ててきた日本の政府には、重大な責任があるでしょう。地下や海底から現れる災害について、あらかじめ居住地域を制限し、避難施設を準備し、災害による経済コストには保険制度(あるいは債券発行とその管理)が用意されていたら、人命や国民の長期的な利益をもっと守れたはずです。

日本のガバナンスの質が、地震や津波による被害を拡大している、と私は考えます。

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