IPEの果樹園2012

今週のReview

2/13-/18

 

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ユーロ危機の考察 ・・・中国の決める国際通貨システム ・・・金融危機の考察 ・・・アメリカのパワー ・・・体制転換の考察 ・・・シリア危機 ・・・4人目のプーチン ・・・オバマよ,恥を知れ

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  ユーロ危機の考察

BLOOMBERG Feb 1, 2012

Why the Early U.S. Didn't Go the Way of the Euro

By Robert E. Wright

アメリカ人は自分たちを通貨同盟とは思わないが,アメリカ史の最初は通貨同盟であった.危機に苦しむユーロ圏とは違って,ドル圏は深刻な危機もなく数十年を過ごし,若年の,傷つきやすい共和国に,文化,経済,政治,軍事的な凝結を開始する相対的な安定期を提供した.

ヨーロッパの政策担当者たちは,ユーロに,EUを統一し,統合する力を期待したのだろう.しかし,初期のアメリカを結びつけた真の接着剤は,通貨ではなく,財政であった.

多くのヨーロッパ人がそうであるように,当時のアメリカ人もアメリカを国家とは考えず,自分たちの州を自分の国と考えた.彼らにとってアメリカとは,国家間の協約であった.州間で人の移動はあったが,エスニックや言語で多様なアメリカ人は,方言,信仰,結婚,子育てで,互いに孤立し,異なったままだった.

金融資本の移動もあったが,非常に限られていた.他州に貸す者はそれを奪われる(徴収・収容される)危険を意識したからだ.州間,地域間で,金利も大きく異なっていた.中央銀行としての合衆国銀行も疑わしいものだった.アメリカ軍は,1812年の戦争までは,各州の軍隊が寄せ集められた.

国家が統一されたのは,優れた政治家の指導力を得たからで,通貨を共有したからではない.アレクサンダー・ハミルトンがドルの価値を金と銀で定め,それ以上に重要なこととして,徴税と中央銀行の制度を確立した.そのことによってアメリカ政府が自身の債務と各州の債務を支払えるようになった.州の債務は,救済されるのではなく,独立革命・戦争のコストを等しく分担する方法である,と説明された.債券(国債)保有者はアメリカ政府に恩義があると感じ,ハミルトンが予測したように,連邦を維持する接着剤になった.

アメリカ憲法は,金や銀以外に貨幣を発行するなどの形で州政府が通貨同盟を損なうことを許さなかった.州が債券を発行することは禁じていないが,連邦政府はその支払いを拒んだ.州政府は1820年代,30年代の輸送インフラ投資の時代まで,債券発行を自制していた.その後,デフォルトがいくつか起きたが,連邦政府はこれを救済しなかった.

州政府の債務を引き受けないことで,連邦政府,ドルの通貨同盟,そして,財政が健全な州の住民たちを,放漫財政の付けを押し付ける州から守った.若い共和国を守ったのは,公的通貨を共有したことではなく,公平さの感覚を守ったことである.国防のための債券は全員が負担する.しかし,各州の運河建設などは,その州だけが負担する,と.

Project Syndicate 2012-02-03

Austerity under Attack

Daniel Gros

財政緊縮策は自己破壊的である,という者が多い.政府が支出を減らせば,景気はさらに悪化し,税収が減って,むしろ財政赤字は増える,というのだ.

しかし,こんなことは起こらないだろう.もしこれが本当なら,減税は成長をもたらし,財政赤字を減らす.アメリカにおけるこうした実験はどれも失敗した.

ヨーロッパで問題になっているのは,債務/GDP比率である.これは,緊縮財政策でGDPが減少して比率を上昇させることを心配しているのだ.この比率は持続可能性の指標として重視されている.従って,赤字が減っても,この比率が高まれば金融市場は動揺する.

ただし,財政赤字が減って短期的に比率が上昇しても,長期的には必ず低下するだろう.なぜなら財政政策の変化は経済活動に長期的な変化をもたらさない,と考えられるからだ.そうであれば,長期的に債務/GDP比率は低下する.

この主張は,Paul Krugmanらが批判する「信頼の妖精“confidence fairy”」とは関係ない.財政赤字を減らすことで信頼が回復し,投資が増える,という話だ.ただし,その理由は,既に金利が超低水準であるからだが.他方,イタリアやスペインのようなヨーロッパの国では,「信頼のモンスター」が暴れている.財政赤字を減らせば,このモンスターが静まり,リスク・プレミアムを下げるだろう.

短期思考の金融市場が当面の不況を嫌うという理由で緊縮政策を辞めても,それは問題を先送りするだけで,債務/GDP比率は長期的に上昇するだろう.特に,この比率が高い国は緊縮策を今止めるのは良くない.

WSJ FEBRUARY 5, 2012

Europe's Subsidy Catch-22

By CARL-JOHAN WESTHOLM

FT February 5, 2012

Europe’s fiscal strategy is self-defeating

Jean Pisani-Ferry

ユーロ圏が緊縮を求める理由は三つある.一つは,財政安定協定だ.二つ目は,ユーロ債を発行できる条件として.しかし,どちらも十分な理由にならない.

第三に,経済改革を促し,競争力を高めることが挙げられる.市場圧力と財政の制約に挟まれて,政府はようやく延期されてきた改革を始めるのだ.

しかし,改革が実現するには,その苦しみが必要であることを国民に受け入れるまで説得しなければならない.圧力だけでは失敗する.ECBは金融政策で支援し,欧州委員会は中期の目標を重視して,たとえ短期的に目標が達成できなくてもその緊縮努力を支持するべきだ.調整手段も短期的なものに偏ってきた.EU予算は,もっと地域開発基金や社会支援,規制,補償,を活用するべきだ.

調整と改革の政策を展開することで,ユーロ圏はよみがえる.

NYT February 8, 2012

Germany’s Hidden Weaknesses

By NORBERT WALTER

ドイツは並外れて強い経済であり,輸出超過がたまっているから,特にユーロ圏がそれを助けている以上,ユーロ圏内の赤字国を救済する義務がある,と言われる.そしてドイツがヨーロッパ合衆国を実現する.

確かにドイツ企業を世界の輸出シェアを高めてきた.ドイツの労働力は世界全体の1%でしかないが,その輸出は世界輸出の5%を占める.

しかし,ドイツの黒字はヨーロッパ経済の雇用と結びついている.ドイツが黒字を減らせば,それに供給する南欧諸国でも雇用が減る.ドイツの黒字は永久に続かない.日本と同様に,高齢化で貯蓄と黒字を減らすだろう.

また,ドイツ人は東西再統合に年GDPと等しい額を投資した.それは西ドイツでの投資を減らし,社会支出を減らし,増税して行い,さらに3分の1は債務として将来世代に残された.ドイツ国民が財政的な支出を増やす政策に否定的であるのは当然だ.

ドイツの黒字はマクロ政策の失敗によるものではない.ギリシャの民営化や,観光業の近代化,徴税率を高める改革を促すべきだ.強固な財政統合,それゆえ政治統合なしに,通貨統合だけ行うことは失敗する.ドイツが赤字国を短期的に救済することは望ましくない.

NYT February 8, 2012

Greek Tragedy

「ほとんど破たん状態のギリシャと,請求書通りに支払えと頑なに主張するヨーロッパの債権諸国とが,今週,いつまでもこう着状態にあった.その結果は,残念ながら,予期されたものだ.ギリシャがヨーロッパに,そのすべてをあきらめることになるだろう.ヨーロッパの資金なしにはギリシャは生き延びられない.たとえその条件が窒息するようなものでも.今まで,ヨーロッパの指導者たちも知っているはずだが,このアプローチはうまくいかなかったのだ.」

WSJ FEBRUARY 8, 2012

Europe Needs Democratic Rejuvenation

By VIVIANE REDING

WSJ FEBRUARY 9, 2012

Athens's Choosy Beggars

FT February 9, 2012

Greek deal faces the fate of its forebears

By Mohamed El-Erian

合意内容は素晴らしいが,合意に至るプロセスは不安を抱かせるものだった.ギリシャの果てしない交渉は二つの要因から生じており,それらが持続的な成果をもたらす前に合意を崩壊させる脅威にもなる.

第一に,問題とその解決について非常に異なった認識を持つ集団の間で,合意を形成することは非常に難しい.

ギリシャの場合,三つの集団(ギリシャ,債権国政府,民間債権者)がすでに求められた多くのことをしてきたと考えている.しかも彼らの犠牲に見合った報酬は見当たらない.ギリシャ政府は交代しても続けて2年にわたり緊縮策を受け入れてきた.しかし残念ながら経済状態は前より悪化している.債権国政府は資金を提供し,その過程で政治家たちは激しい国内の反対に苦しんだ.それはECBIMFの信用さえ損なった.

それにもかかわらず,公的融資がギリシャの長期的な見通しを改善したわけではない.民間資本を引き寄せるのではなく,むしろ民間債権者が元本を損なわずに引き上げるのを助けただけであった.そして,ギリシャ債券の保有者たちは毎回,債務削減(「ヘアー・カット」)を求められ,昨年10月の21%から始まって,他の集団がそのゴールを引き上げてしまった.

第二に,利害関係集団の誰も調整プログラムの全体に十分な責任(権限)を持たないことだ.

債務危機の歴史は,「オーナーシップの欠如」(自分で決めたわけではない条件)が実行への確信を欠くことにつながる,と示している.その結果,各集団の主催者は,政府,ECBIMF,民間債権者のいずれも,その合意を支持するよう集団メンバーに説得できない.それを実行する必要のある人々に提示された後で,しばしば,合意がつぶれるのも無理はない.

オーナーシップの弱さは修正の多さをもたらし,よほどの幸運がないと計画通りには進まない.ギリシャや世界経済の状況が流動的であることを考えれば,変更は避けられない.そして実行への確信を欠くなら,変更が改善をもたらすよりも,逃げ出す機会になる.

つまり,この合意はせいぜい数か月しか持たない,ということだ.誰も,自分がデフォルトやユーロ崩壊の引き金を引いたと責められたくないだけだ.それでも合意が歓迎できる点は,ギリシャに成長と雇用,金融の安定性をもたらす小さなチャンスを見ていることだ.

ギリシャには,経済と金融と制度を全面的に改革する必要がある.それは困難で,危険であるけれど,それなしには合意の脱線と非難合戦を繰り返す.

FT February 9, 2012

Germany and Europe: A very federal formula

By Quentin Peel

メルケルは本気でヨーロッパ連邦を目指すのか? 閣僚会議ではなく,欧州委員会がヨーロッパ連邦政府になるのか? 各国政府のある首都からブラッセルに,権力・決定権限を大幅に再分配するのか? メルケルが本気かどうか,わからない.フランスはそれを嫌っているし,ほかにも多くの国がそうだろう.

メルケルはフランス大統領選挙でサルコジを支援すると明言した.これにはドイツ人も驚き,フランス人は驚嘆した.それはフランス人のドイツ嫌いを刺激する,という意見もあるが,メルケルはむしろ,国境を超えた選挙協力が自然な時代になった,と考えているのだ.

メルケルは,ベルリンの現代美術館の会合で述べた.それはヨーロッパの若い指導者を育てる企画であった.「ヨーロッパ経済は内部市場,そして,ユーロによって,緊密に結びついている.ある国の経済発展と政治的決定は,常に,かつてよりも,他国に影響する.」 指導者は,ユーロ圏の他国で小名が起きているか,理解しなければならない.そしてそれについて意見を述べる必要がある,と.

ヨーロッパ外交関係評議会のUlrike Guérotは,メルケルの試みる国境を超えた選挙協力は初めてのことではない,という.フランスのミッテラン大統領は,ドイツのパーシング・ミサイル撤去を支持する演説をドイツ議会で行った.コール首相はユーロを含むマーストリヒト条約を支持するミッテランと選挙協力した.

Ulrike Guérotは,その努力をフランスに限るべきではない,という.「メルケルはギリシャに行くべきだ.ギリシャとドイツを対立させてはいけない.ギリシャの保守党はメルケルの求める改革案を威嚇している.そうであればメルケルはギリシャに行って,そこでも自分の提案を説明し,支持を求めるべきだ.」

FT February 9, 2012

Welcome this Greek deal – but expect it to unravel

Mohamed El-Erian

SPIEGEL ONLINE 02/09/2012

Greece Reaches Austerity Agreement

German Finance Minister Doubts Deal Will Be Enough

年金を削り,防衛費を削る.さらに,政府支出を削り,最低賃金を引き下げ,公務員を15000人解雇し,失業率が現在の22%から10%にまで下がらなければ,その間,民間の賃金も凍結する.

LAT February 9, 2012

Germany, the Eurozone's reluctant driver

By Timothy Garton Ash

1953年に,ハンブルグでThomas Mannが学生たちの唱えた「ドイツのヨーロッパではなく,ヨーロッパのドイツを」というスローガンは,東西ドイツの再統一過程で何度も繰り返された.

しかし,今,私たちはその新版を見る.「ドイツ的なヨーロッパの中にある,ヨーロッパのドイツ.」メルケルはうまく言った.「ベルリン共和国」.それは自由で,市民的な,民主的で,法を重視した,社会や環境にやさしい国である.

ユーロ圏が危機になって,ドイツは嫌々ながら指導しなければならないことを認めている.しかし,誰もドイツが本気だとは思わない.財政に関する協定があるのだから,ギリシャは宿題を済ませてから来るべきだ,とドイツは言う.フランス人には大統領を支持するように求める.ユーロ圏は「メルコジ」が指導するのではない.ほとんどメルケルだ.「メルケルジー」である.

ドイツは指導的な地位を求めたわけではない.ミッテランがユーロ圏を含むマーストリヒト条約を求めた.ドイツはマルクを捨てて,EUに組み込まれるはずだった.しかし,実際は,ユーロ圏の中心になった.運転席に座ったのはドイツで,フランスは最前列の乗客だ.

ドイツの運転が不安で,下手な理由は,自分から望んで運転していないことに加えて,誰もガソリン代や食費,宿泊費を支払わない,という疑いをドイツ人が持っているからだ.ミュンヘンの安全保障会議で,ゼーリックと私がドイツに指導力を求めたとき,ドイツの国防相は「英米がドイツに指導力を求めるとき,本当に求めているのは資金だろう」と応えた.それは正しくないが,ドイツ人の感覚を正しく表現している.

ドイツ人は指導すると嫌われ,指導しないと嫌われる.ギリシャの財政再建を担う委員会をドイツが指名すれば,ギリシャ人にはナチスの占領を思わせるからだ.ドイツのエリートたちは,フランスのエリートと同じように,ヨーロッパを指導できない.フランス人は望むけれどできないし,ドイツ人はできるけれど望まない.

何よりも,ここには規模の問題がある.キッシンジャーは指摘したように,「ドイツはヨーロッパにとって大きすぎるが,世界にとっては小さすぎる.」

二つのことを確認しておこう.1.ドイツがヨーロッパを指導することは可能だ.2.ドイツには友人たちの手助けが要る.

Thomas Mannが呼びかけた1953年には,イギリスが望むことは何でもできただろう.ドイツ経済の再建を助けたのは素晴らしい.今,指導する準備のないドイツにヨーロッパを委ねて,自分の国に引きこもったのは感心できない.協力するべきだ.

Project Syndicate 2012-02-09

The Eurozone’s Fork in the Road

Mario I. Blejer and Eduardo Levy Yeyati

ユーロ危機は終わった,という安堵感が広まっている.イタリア国債の入札で利回りが低下したからだ.その楽観の背景には,ECBの無制限な短期融資がある.

ユーロ危機には二つのシナリオがある.一つは,財政危機であり,その厳しい管理は連邦政府に向かい,アメリカ合衆国に似てくる.つまり,イタリアは1990年代ラテンアメリカのアルゼンチンではなく,アメリカのカリフォルニアなのだ.もう一つは,新興市場危機である.

どちらになるか,それを決めるのはECBだ.


l  中国の決める国際通貨システム

BLOOMBERG Feb 2, 2012

Expect China to Shape the Next Bretton Woods Pact

By Philip Coggan

「世界経済が危機に向かうと,国際通貨システムはしばしば崩壊した.それは債務諸国が返済できないからであり,また,債権国が健全な通貨で返済されないと思うからである.最初の条件はユーロ圏で生じており,後者の条件は米中間で起きるだろう.」

こうした条件は国際通貨システムをどのように変えるのか? ドルは人民元に交代するのか? あるいは,ユーロや人民元や円を含む多くの準備通貨が現れるのか? 国際通貨とは,中央銀行の外貨準備で最大の通貨であるが,より広義には,民間取引で最も受け取られている通貨である.こうした意味で,国際通貨がドルから自民源に急速に変わることはないだろう.

外貨準備に占めるドルの割合は約60%であり,投資家は危機に直面してドルに逃避している.国際投資家たちが,共産党政府も彼らの権利を尊重すると信じるには,まだかなりの時間がかかる.

2020年までに,中国は世界最大の経済になるだろう.世界最大の外貨準備保有国としてパワーを行使するが,国際通貨となるために制約を取り除けば人民元が大きく増価することを恐れている.それゆえ,まだ10年は人民元がドルにとって代わることは求めないだろう.

この場合,国際通貨システムがどうなるか,決めるのは難しい.ブレトン・ウッズ体制はアメリカがJ.M.ケインズの知識に敬意を示しつつ選択した.ナチスに占領されたヨーロッパ諸国は意思決定に参加できなかった.ソ連には知的な用意がなかった.今,国際通貨システムを選択するには,アメリカ,中国,EU,インド,ブラジル,などの合意が必要だ.201011月に,世銀総裁であるロバート・ゼーリックは,通貨介入を止めて協力し,成長のために構造改革を促す,一つの考えを示した.このシステムは,インフレやデフレ,将来の通貨価値の国際的参照基準として金を採用する.

金に復帰しても国際通貨システムを改革することなどできない,という前に,「ブレトン・ウッズⅡ(BW2)」が機能したことを思い出すべきだ.BW2とは,アメリカが中国の製品を買い,中国がアメリカの貿易赤字と財政赤字に投資するシステムだ.確かに中国はその価値が失われるのを嫌って,発展途上諸国の資源を獲得するなど,投資先を分散している.また,アメリカの財政赤字を減らすように注文を付けている.しかし,ドルの準備を売却することは資産価格の暴落を意味し,中国の利益にならない.それゆえ,中国は人民元の増価をある程度まで認め,経常黒字を減らす,アメリカは財政赤字を減らす,という合意を結ぶだろう.そして為替レートもしくは経常収支の目標を定めて市場を管理する.

201010月,G20において,ガイトナー財務長官は経常収支黒字目標をGDP4%に制限するよう提案した.G20はこの提案をあいまいに承認したが,アメリカも中国も,自国の政策を縛られるつもりはないだろう.

中国が政策に同意するとしたら,それが中国の利益であると考えるときだ.アメリカ債券の保有に不安を感じ,もっと国内消費に依拠した成長モデルに転換するかもしれない.また,アメリカが政策の独立性を放棄することも考えられない.つまり,そのようなことが起きるとしたら,もっと深刻な危機のときである.

経常収支の不均衡を減らす場合,調整政策を協調できなければ,世界不況になるかもしれない.1920年代後半は,アメリカとフランスが巨額の金準備を保有していた.今は,アジア諸国とOPECがそうである.黒字国の通貨は増価するだろうが,国によっては市場介入や資本規制でそれを抑えようとする.すべての通貨が減価することはできないが,急激な増価にはデフレのリスクもある.

為替レートは変動するだろうが,為替レートを合意して固定するには資本規制が必要だ.中国はそれを求めるかもしれないが,巨大な金融サービス部門を抱えるアメリカがそれに強く反対する.しかし,アメリカも債務危機を避けて,インフレによる債務の削減を円滑に行うには,ブレトン・ウッズがそうであったように,資本規制を必要とする.資本移動を禁じておくから,民間貯蓄を政府は実質低金利で利用できるのだ.

管理為替レートなど機能するのか? ブレトン・ウッズ体制も結局は崩壊した.それは投機の餌食になるだろう.しかし,中国が資本規制を求めるなら,管理為替レートへの移行は可能かもしれない.中国政府は愚かな西側政府の市場に頼る通貨システムが失敗した,と考えている.

イギリスは金本位制を選択した.アメリカはブレトン・ウッズ体制を選択した.次の国際金融システムは世界最大の債権国,中国が決める.

FT February 6, 2012

IMF warns China on eurozone fallout

By JamilAnderlini in Beijing

IMFは,ヨーロッパの不況が貿易を介して中国の契機を悪化させる,と警告した.

WSJ FEBRUARY 9, 2012

China's Sensible Yuan Policy

By ESWAR PRASAD

中国の人民元がドルに代わって国際通貨になるには時間がかかる.中国がドルの地位を一気に奪うこともないし,人民元の国際化が中国の自由化を加速することもないだろう.人民元についても,中国政府はプラグマティックに,選択的に,コントロールされた改革を進める.

中国は時間とともに資本勘定の取引規制を緩和するべきだろう.国際取引が増えて,規制を逃れる手段も豊富になるから,「ソフトな監視」と監督制度に変えていくべきだ.香港ではその実験をすでに始めている.資本勘定を自由化することなく,人民元建の決済も,預金や債券とともに,取引している.いくつかの中央銀行と人民元講とは通貨スワップを行い,人民元を外貨準備に入れている.こうして資本自由化や変動制への移行を回避したまま,人民元の国際的な利用は拡大する.

人民元が準備通貨として機能するには,その経済規模以上に,金融市場の発達が求められる.ドルは,経常収支が赤字でも,アメリカの外から受容されるさまざまな金融資産を売っている.健全な財政・金融政策が通貨価値を維持するうえで重要だが,決定的な要因は金融市場の広さ,深さ,流動性である.この点で,アメリカ金融市場の優位は将来も変わらない.

中国がアメリカの金融的地位に挑戦するには,金融市場を改革する以外にない.いわば,トロイの木馬作戦を中国政府は採っているのだ.人民元がドルの地位に代わる,というナショナリスティックで,わかりやすい目標を掲げて,政治的支持を得ながら,国内金融制度改革を進める.それはよりバランスの取れた持続可能な成長を実現するだろう.


NYT February 2, 2012

Envisioning a Deal With Iran

By WILLIAM H. LUERS and THOMAS R. PICKERING


l  金融危機の考察

FT February 3, 2012

Bonuses of contention

By Andrew Hill

FT February 3, 2012

Our burn-a-banker frenzy is tempting – but wrong

By Martin Dickson

FT February 5, 2012

Forget Fred and focus on the real banking scandal

By Nigel Lawson

Mr Fred Goodwinの虚栄,強欲,無能さに同情の余地はないが,ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の損失には,ボーナス文化だけでなく,現在の銀行業の中心に存在する複雑な癌の兆候が見られる.政策の焦点は,この病気の対策に向けるべきだ.

FT February 6, 2012

The way to cut bonuses: scrap public subsidies for banks

By PhilipStephens

Project Syndicate 2012-02-09

Europe’s Tobin Tax Distraction

Barry Eichengreen

それは1972年,ノーベル経済学賞の受賞者,ジェームズ・トービンが提唱したものだ.ヨーロッパの指導者たちはユーロ危機に苦しむが,他方で,トービン・タックス(金融取引税)を支持している.欧州委員会は導入を支持し,独仏はたとえ世界やヨーロッパ全体で導入できないときでも二国で採用すると述べた.株式取引に0.1%,フューチャーやCDSsの取引には0.01%である.

税収として考えるなら,ヨーロッパ全域が採用しても,それはわずか500億ユーロである.ヨーロッパ安定化基金として想定される5000億ユーロに比べても,その額は小さい.しかも,それほどの税収は得られないだろう.金融取引が,ロンドンやシンガポールなど,課税されない金融センターに逃げてしまうからだ.

トービンがこの課税を唱えた目的は,投機的な金融取引が増幅する為替レートの浮動性を抑えることだった.その意味で,ユーロ圏諸国にはその目的が存在しない.むしろ,ヨーロッパはユーロ安を望んでいる.奢った巨大銀行を処罰するためであれば,この課税は投資家が銀行預金に逃げ込むのを促すだろう.

むしろ,独仏のトービン税には政治的な理由が重要である,と疑われる.サルコジは,社会党の対立候補が唱えると思われる金融部門への課税を,トービン税で先取りしてしまう.ドイツのメルケルは,フランスに厳格な財政ルールを支持させる.

トービンがいたら,どう考えただろうか? 彼はいつも完全雇用を重視していた.ヨーロッパの政治家たちが金融取引税で何かを解決するという愚かな主張を捨てて,さっさと銀行システムを再建し,財政・金融政策を最大限に使って成長を回復しろ,と言うのではないか?


l  アメリカのパワー

WP, February 3, 2012

The importance of U.S. military might shouldn’t be underestimated

By Robert Kagan

アメリカはハード・パワーに行き詰まっても,ソフト・パワーやスマート・パワーを求める,という.こうした議論が強まるのは,財政赤字削減の圧力で貿易予算を削る必要があり,大統領選挙の年でもあるからだろう.

アメリカが他国を強制するより,他国がアメリカの魅力に惹きつけられる方がよい.しかし,こうした主張は,リベラルな国際秩序を築き,守る,アメリカの軍事力の重要性を軽視する恐れがある.その秩序は,アメリカが世界のどこにでも軍事介入して,安全保障を提供できる力に依存しているのだ.ヨーロッパも,アジアも,アメリカが行くまで戦争の循環が続いていた.自由貿易も,自由市場経済も,アメリカが輸送路を確保する力に依存している.民主主義が世界中に拡大したのも,アメリカがカダフィやミロシェビッチのような独裁者から民衆を守ったからだ.

アメリカの軍事予算がそれに次ぐ10か国の合計よりも多いことを,ばかげた予算だ,と非難する者は,その重要性がわからないのだ.

アメリカのパワー・軍事力がその魅力であることもわかっていない.アメリカはしばしば憎まれたが,アメリカに安全保障を依存する国は,たとえアメリカに欠陥があっても,関係の強化に熱心であった.1960年代に,ヨーロッパの若者たちは「アメリカ帝国主義」に街頭で抗議したが,彼らの政府はアメリカと同盟関係を強固に維持した.

他方,ウッドロー・ウィルソンほど高い人気のあった大統領はいなかったが,彼が英雄として参加した第一次世界大戦後の講和会議で,彼が平和を築き,国際連盟を設立する力は非常に制限された.なぜならアメリカ国民の多くが,アメリカによる防衛分担を拒んだからだ.

国際システムは静態的なものではないし,パワーの変化は即座に反映される.もしアメリカが防衛予算を削りすぎた場合,他国はそれに反応する.相対的にパワーが増大した国は,国際システムにおける影響力拡大の野心を持つ.それは歴史的に見て影響圏の要求に示された.中国はアジアに,ロシアは東欧とコーカサスに,影響圏を求める.それらは重複し,紛争が生じる.アメリカが軍事的に介入して彼らの野心を抑制しなければ,複雑な調整過程を経て新しいバランスを達成することもあれば,戦争に至ることもあった.

アメリカのパワーが衰退しても,世界は今のまま変わらない,と思うのは,致命的な幻想だ.パワーのない世界に秩序はない.規範も,制度も,経済システムも,平和もないのだ.

FT February 5, 2012

The reality of American decline

By Edward Luce

イラク戦争に反対して大統領になったオバマが,ネオコンのRobert Kaganに依拠してアメリカの衰退を否定した.

しかし,オバマが好んだKaganの論説は,アメリカの衰退を過小評価している.アメリカは1969年と今と,同様に,世界GDP4分の1を占める,と指摘している.しかしIMFによれば,1969年の36%2000年には31%へ低下し,さらにこの10年で23.1%まで低下した.他方,中国のGDP2000年にアメリカの8分の1であったが,2010年では41%に達する.それは人民元が変動していた場合には,もっと高くなるだろう.中国が7%,アメリカは3%と仮定して,あと12年で中国がアメリカのGDPを超えるという予測がある.

しかし,Kaganの主張は,アメリカが世界の指導的な役割を引き受けるかどうかは,アメリカの選択である,というものだ.「アメリカの衰退」とはアメリカの選択なのだ.ここにはKagan の新著The World that America Madeの緊張関係がある.アメリカは衰退していないが,愚かな政治家によって衰退させられる,と.

私たちが,アメリカの指導力を過去のものとしてあきらめるオバマではなく,アメリカの軍備再強化を唱えるロムニーを選択するべきだ,というわけだ.それこそがリベラルな国際秩序を維持するから.衰退論者が思うように,中国は豊かになっても,その思想を変えることはなく,アメリカと協力できないのだから.


YaleGlobal Online 3 February 2012

Tax Reform May Not Bring US Jobs Back

David Dapice

guardian.co.uk, Friday 3 February 2012

Unemployment at 8.3% still leaves a vast and destructive jobs deficit

Robert Reich

WP February 3, 2012

Still losing the war on unemployment

By Mohamed A. El-Erian

NYT February 5, 2012

Things Are Not O.K.

By PAUL KRUGMAN

NYT February 8, 2012

The White Underclass

By NICHOLAS D. KRISTOF


FT February 3, 2012

Lunch with the FT: Kenneth Rogoff

By Gideon Rachman

ダヴォスの物価はスイス・フランの増価で信じられないほど高くなり,高校を辞めてチェスに熱中した,という話を除いて,ロゴフとの対話の中身はそれほどでもありません.


NYT February 3, 2012

Romney, the Rich and the Rest

By CHARLES M. BLOW

guardian.co.uk, Monday 6 February 2012

Never mind Mitt Romney, don't bet on any party to care about the poor

Gary Younge

WP February 8, 2012

Obama and Romney exhibit striking similarities

By Ruth Marcus


l  体制転換の考察

NYT February 3, 2012

Can Egypt Avoid Pakistan’s Fate?

By MICHELE DUNNE and SHUJA NAWAZ

アメリカ政府はエジプトをパキスタンのようにしてはならない.この二つの国は,アメリカにとって非常によく似ており,非常に悩ましい状態だ.イスラム教徒が多数派で,紛争の続く地域にあり,両国とも長期の同盟国であったため,アメリカからの軍事援助と経済援助に大きく頼っている.

エジプト人もパキスタン人も,アメリカに感謝するより,軍事政権を支えてきたことに憤慨している.地域の安定を理由に,人権蹂躙や反民主的な行動をアメリカは容認してきた,と考える.エジプトの場合,イスラエルとの和平であり,パキスタンの場合,アルカイダの掃討作戦だ.

エジプト革命から1年たっても,アメリカはパキスタンの軍事政権を容認している.どちらのモデルが生き残るのか? 両国とも,高度に組織された軍と秘密警察が国家の中の独立した権力組織となっている.エジプトでもイスラム原理主義組織の勢力が拡大するという理由で,軍事政権は権力をさらに拡大しようとする.

選挙で承認された政府はなく,軍が政治的な役割を担い,法律を無視して市民を監視する.オバマ政権は,イスラエルとの平和,民政への移管,基本的自由の保護,を援助継続の条件に挙げた.しかし軍政は,後者の条件を満たさず,イスラエルの平和維持とイスラム過激派の弾圧だけで支援を要請している.

この主張は間違っている.エジプトのどの勢力もイスラエルとの戦争を望まないし,軍政による市民の弾圧はイスラム過激派を拡大している.民主的な政府の権威を認められない限り,アメリカは軍への援助を止めるべきだ.

FT February 5, 2012

Defeating Dictators

Review by Alec Russell

VOX 5 February 2012

Seven things I learned about transition from communism

Andrei Shleifer

東欧・ソ連の民主化と市場自由化が始まって20周年を記念する会議で,ロシア生まれの,アメリカで学んだエコノミストであるAndrei Shleiferはその教訓を以下のように整理した.

1.   改革が始まると,経済活動は急激に縮小した.価格自由化が即座に資源配分を改善する,という経済理論は単純すぎた.成長をもたらすまでには時間がかかる.

2.   しかし衰退の後には,どこでも成長が起きた.20年を経て,移行諸国の多くの国民にとって生活水準は改善された.資本主義は成果をもたらしたのだ.

3.   直後の衰退にもかかわらず,ポピュリストの反乱は起きなかった.どこでも人々は移行に不満があった.しかし,政治を支配したのは,いわゆるオリガークのような経済エリートたちだった.

4.   エコノミストや改革派は,改革の順序や民営化の進め方によって移行を管理できると過信していた.すべての自由化は,民営化,マクロ経済の安定化,法・制度の整備,を必要とした.これらを遅らせるのは間違いだ.

5.   エコノミストはインセンティブ(価格)を過信した.共産主義体制の勝者がインセンティブに反応するのではなく,新しいエリートが現れた.

6.   マクロ経済の危機はその破壊的影響が誇張されていた.ロシアの混乱も,アジアのパニックも,その影響は限られていた.危機を恐れるな.成長はすぐに回復できる.

7.   経済変化に比べて,政治変化の予測ははるかに困難だ.移行諸国の政治的経験は大きく異なっている.西の方が(特にEU内で)民主的,東に行くほど権威主義的だ.資本主義を受け入れても,民主化への道は容易でない.

WP February 92012

Why the U.S. should resist stoking the chaos in Cairo

By David Ignatius

エジプトの軍事政権への援助を今断つことは,事態を悪化させる.革命から1年を経て,カオスの中で政府の樹立が求められている.

Crane Brintonの古典的テキスト “The Anatomy of Revolution” によれば,次に起きることは,カオスの拡大,経済悪化,外国勢力の介入に対する非難,そして,秩序を回復し,安全と国益を守る強い指導者の登場,である.しかし,自由,尊厳,社会的公正を求めて革命を導いた若者たちが,その運動を拡大する可能性もある.

政府が外国に支援されたNGOsを疑う理由はある.しかし,今や議会は選挙によって権力の正統性を得たムスリム同胞団が支配している.彼らにとって「イスラムが答」である.しかし,もしその答えが開放的なものであるならば,彼らは軍事政府にNGOsのアメリカ人職員を解放させるだろう.

援助を断ってエジプト政府を敵にするのは間違いだ.


l  シリア危機

FP Saturday, February 4, 2012

Russia, China veto U.N. action on Syria ... and the blame game begins

Posted By Colum Lynch

FT February 6, 2012

How to rescue the Syrian peace plan

By Anne-Marie Slaughter

シリア危機に関して,アラブ連盟による,アサドが大統領を辞任して副大統領に譲り,統一政府の下で自由な選挙を実施する,という安保理への提案は,ロシアと中国の拒否権で否決された.ロシアと中国はアサドに多くの金をかけている.彼が反対派を弾圧できるほど十分に残虐であることに賭けたのだ.

次はどうするか? アラブ連盟やアサドに批判的なトルコ,NATOが,反アサド派に武器を供給することも話し合われているが,それは内戦を意味する.アサドは戦闘を拡大し,イランやロシア,ヒズボラの参戦を求めるだろう.

今でもまだ可能であると思う他の選択肢は,トルコやアラブ連盟が軍事介入して安全地帯を設け,市民や軍隊を逃れた兵士たちを守ることだ.介入の目的は,政治的解決が得られるまで住民たちを守ることだ.どうすれば地域の安全を損なわずに,住民たちの安全を図れるか,よく考えるべきだ.

土曜日の投票で重要なのは,ロシアと中国の拒否権行使ではなく,安保理の他の13か国が提案を支持したことだ.それは,モロッコ,パキスタン,アゼルバイジャンというイスラム諸国と,コロンビア,南アフリカ,インドを含む.

SPIEGEL ONLINE 02/06/2012

The Syria Veto

Leaders Vent Frustration over Chinese and Russian 'Scandal'

By Gregor Peter Schmitz in Munich

WSJ FEBRUARY 6, 2012

Obama Falls Into a U.N. Trap

Project Syndicate 2012-02-08

China’s Syrian Folly

Steve Tsang

中国政府は拒否権行使の理由を,シリア人民の利益を守る,と主張している.しかし,それは逆である.アサド大統領は国民を武力で弾圧している.中国が支持する「政治的解決」を拒んでいるのはアサドである.中国政府は,欧米が国連を使ってシリアの体制転換を図っている,と非難する.それでは,中国が求める体制や国際秩序とは何であるか?

中国政府は西側の「人道的介入」を嫌っていた.それが中国の国境を侵さない,とは限らないからだ.しかし今,西側はイラクやアフガニスタンで軍事介入に失敗し,そのコストに苦しんで撤退を決めた.中国の指導者たちは,外交的な巻き返しを図るチャンスだ,と見たのか? 確かに,もはや冷戦後の国際秩序を維持する必要はない.中国も積極的に主張するときだ.

中国の台頭が,ロシアと組んで国民を弾圧する他国の支配者に自由を与えるのであれば,世界が改善されたとは言えない.

guardian.co.uk, Thursday 9 February 2012

China believes Syria needs a peaceful solution

Liu Xiaoming

欧米のメガフォン外交を排して,私は駐英・中国大使として,中国が拒否権を行使した理由を説明しよう.

FT February 9, 2012

A veto worthy of the Brezhnev era

By Philip Stephens

WP 02/09/2012

Why the U.S. should arm the Syrian opposition

By Jackson Diehl

シリア情勢は,政府による秩序維持ができなくなっている.安保理決議はロシアと中国によって拒否された.シリアの体制側軍隊が単なる見せかけの軍隊ではなく,ホムスで示したように,一日で数百人を殺害する集団であれば,しかも,反政府側の自由シリア軍が住民を守る十分な軍備を持たないのであれば,アメリカは反政府側に,武器を含む十分な支援を与えるべきだ.


l  4人目のプーチン

NYT February 4, 2012

Russia: Sort of, but Not Really

By THOMAS L. FRIEDMAN

ロシアにも,プーチンにも,潜在的な力はある?  I’d say: sort of, but not really.

プーチンは混乱したロシアに秩序をもたらし,それが石油価格の上昇によるものであっても,ロシアに繁栄と自尊心を回復した.成長の利益を自分とその取り巻きに独占しながら,それ伝も落としの中産階級にまで利益は波及した.反政府の抗議デモは,プーチンのもたらしたロシアの安定と繁栄の成果である.

つまり,ロシアは矛盾した,見せかけと異なる,難しい分岐点に立っている.

FT February 6, 2012

The ice is cracking under Putin

By Gideon Rachman

モスクワの反政府デモが掲げるメッセージは明白だ.“Mubarak, Gaddafi, Putin”

プーチンとアラブの独裁者との類推は,シリアのアサド政権を支持したことで,ますます明白になった.ロシアの政治的雰囲気は変わった.プーチンの時代は終わりつつある.たとえマイナス20度のモスクワでは「春」を語るのが難しいとしても.すでに様々な要求が現れ,シナリオがある.

WP February 6, 2012

Mr. Saakashvili’s choice

WP February 8, 2012

Russia’s Potemkin democracy

By Anne Applebaum

ロシアのSergei Lavrov外相がシリアを訪問して,アサド大統領と,すべての暴力の停止と民主主義的な解決に合意した,という話は,笑ったらよいのか,泣いた方がよいのか?

少なくともロシアでさえ,共産主義時代には「同志愛」くらいしか述べなかっただろうが,「民主主義」という言葉を自分たちの立場の正当化に使う.民主主義という名目で独裁者の暴力を支持する,というオーウェル的な世界だ.

ロシアの見せかけの民主主義は,こうして外交にも表現される.民衆がその実態を見ないはずはない.内外において,本物が求められるだろう.

FP FEBRUARY 8, 2012

Putin Without Putinism

BY ANDERS ÅSLUND

34日の大統領選挙ではプーチンが勝つだろう.しかし,人々はプーチンの時代が終わったことをすでに歓迎している.選挙後のシナリオとして,5つが語られている.

リベラル派は,ロシアの経済や社会が時代遅れの政治システムを乗り越える,と考える.平和的に,漸進主義的な,革命ではない,改革として.政治の近代化論だ.

それとは異なるリベラル派の考えでは,選挙によって権力を得た後,プーチンは支配を強化する.現代よりも権威主義体制に傾き,プーチンの時代は劇的な破局でしか終わらない.

第三に,プーチンを支持する西側ビジネスマンは,プーチンは自分の不安定な地位をよく理解しており,改革推進の立場に回帰するだろう.規制緩和や司法制度の改革である.

また,左右の両過激派が政治同盟を組んで,排外主義,反近代化の権力を強化する,と考えるリベラル派もいる.市場に依存する国家体制を嫌う,共産党のジュガーノフ,自由民主党のジリノフスキー,公正ロシア党のミロノフ,が同盟する.企業の国有化,政府支出の急激な増大,増税,価格統制.

最後は,体制の擁護派である.プーチンは大統領に復帰し,何も起きない.

しかし,政治的な権威と強制との組み合わせで12年間を動かしたプーチンの手品は,明らかに,その魔力を失った.124日の議会選で,大規模な投票の強奪を経ても,ある地方では統一ロシアが49.5%しか支持を得ず,それは前回より15%も下がったのだ.

プーチンの個性は複雑だ.決定は遅いが,決めた以上は変えない.非常に頑固だ.圧力や交渉,妥協,変更を強く嫌う.しかし,即興には応じる.

プーチンが34日後に信認を得るのは難しいだろう.大統領選挙の過程に介入してその信頼を破壊したからだ.プーチンの時代は,その終わり方が問題だ.

WP February 9, 2012

My vision for a better Russia

By Vladimir Putin

1990年代のアナーキーとオリガーキーから,社会は困難なプロセスを経て発展してきた.我々は国家を再建し,ロシア人民の主権を回復して,その上に民主主義を確立することができる.

・・・しかし,私は確信しているのだが,候補者たちが互いに非現実的な約束をして競争する,選挙サーカスなど,われわれには必要ない.政治専門家やイメージ管理が政治家を束縛するべきでもない.

我々は政治システムを創造しなければならない.

WSJ FEBRUARY 10, 2012

Putin 4.0

時代とともに変身する.

1980年代は,ドレスデン駐在のKGB職員だった.ソ連崩壊後はセント・ペテルスブルグの改革派共産党員になった.2000年の大統領選挙に当選し,ロシアの鋼鉄の男,チェクニアの独立派を残酷に弾圧し,政府への反対派を投獄し,妨害し,ウクライナなど近隣諸国の政治に干渉し,グルジアに侵攻した.

そして,4人目のプーチンが来た.パシフィスト.平和主義者である.


guardian.co.uk, Sunday 5 February 2012

How Britain's migrants sewed the fabric of the nation

Robert Winder

Global Times | February 05, 2012

Queen's anniversary reminder of her changing role

By James Chau


l  オバマよ,恥を知れ

FT February 6, 2012

Shame on you, Mr Obama, for pandering on trade

By JagdishBhagwati

年頭教書でオバマは自由な貿易システムを破壊する失敗を犯した.オバマはアウトソーシングを非難するポピュリストの声に降伏した.オバマは製造業を特別に重視するという議会のロビイストたちに同意した.どちらも全くの間違いだ.


 

SPIEGEL ONLINE 02/06/2012

Emissions Scheme Dispute

China Bans Airlines from Paying EU Carbon Tax

Global Times | February 08, 2012

EU carbon tax chance to set local new standards

By Ding Gang

WSJ FEBRUARY 9, 2012

Europe's Carbon Trade War


LAT February 6, 2012

Refloating the housing market

guardian.co.uk, Thursday 9 February 2012

This is no bailout for Main Street America

Richard Wolff


guardian.co.uk, Monday 6 February 2012

Gordon Brown did not save the world but he saved the UK

Aditya Chakraborrty

WP February 6, 2012

World economy’s uncharted territory

By Robert J. Samuelson

BLOOMBERG Feb 8, 2012

Black Copters Hover Over Economic Reality

By Caroline Baum

FT February 9, 2012

Blame government failures, not capitalism, for the crisis

Steven Rattner

FT February 9, 2012

Why the world economy is still spluttering away

Samuel Brittan


WSJ FEBRUARY 7, 2012

Asia's Export Day of Reckoning

BLOOMBERG Feb 7, 2012

Apple Offers Clues to Where Sony Needs to Go

By William Pesek

日本企業を代表するソニーの復活は日本人経営者に委ねられた.平井は,テレビ部門を切り捨て,海外展開を拡大し,消費者を驚かせるような新製品を開発することだ.ソニーには革新のDNAがあるのだから.


FP FEBRUARY 8, 2012

The Fallen

BY JOSHUA E. KEATING

金融危機で権力を失った12人の政治指導者たち.アイスランドのGEIR HAARDE首相から,スロヴァキアのIVETA RADICOVAまで.

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The Economist, January 28th 2012

China and the paradox of prosperity

Unrest in China: A dangerous year

Private equity: Monsters, Inc?

Private equity under scrutiny: Bain or blessing?

The euro crisis: What to do about Greece

Greece and the euro: An economy crumbles

Political visions in Japan: Generational warfare

Race in Brazil: Affirming a divide

Italy’s reforms: The Iron Monti

Charlemagne: Hopeful or hopeless?

Free exchange: Shake it all about

(コメント) アメリカとイギリスに特別な分類を置くだけでなく,The Economistは中国も別枠を設けて扱う,と決めました.中国はこれまでの経験から判断できない特別なケースであり,中国がどうなるかは世界経済の姿を決めるから.賃金引き上げや土地収用への抗議活動が何をもたらすのか,今後の記事に期待します.

私はこの雑誌の購読を初めて数年した頃,日本についても,Bagehot, Banyan, Lexington, のような特別なページを設けてほしい,と読者からの要望に書きましたが,できませんでした.日本を分析しても面白くないからでしょうか.

今号には,日本にしては珍しい政治家が現れた,と特筆しています.イラストはちっとも似ていませんが,大阪市の橋下市長と,野田首相です.副題が世代間戦争,というのは妙ですが,二人の制度改革における目立った断絶ぶりには,確かに,日本人離れした面が見えます.私は,橋下市長のポピュリズムや,野田首相の切れ味のなさが気になりますが,もしかしたら,二人は日本のブレアとメルケルなのかもしれません.

他にも,プライヴェート・イクイティの評価をめぐって,ブラジルにおける人種差別とアメリカとの違い,新興市場諸国の世界経済減速に耐える力,を興味深く読みました.そして,ユーロ危機に関する記事も,常に新しい洞察が含まれていて勉強になりますね.

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IPEの想像力 2/13/12

災害に対する対応は,何よりも,保険ではないでしょうか? たとえば火事によって住宅や家族を失った子供たちは,そのままであれば,今日の食事や眠る場所にも困り,将来の可能性が大きく失われるでしょう.そして,少なくとも幸いなことに,私たちの社会はそれ(火事に遭った子供たちの不幸)を許さないほど平和で豊かであるから,彼らに公的な支援や制度・施設がある,と思うのです.

震災と津波の被害は広範で,地域社会を根こそぎにするほど深刻でした.それでも,台風や大雪がそうであるように,私たちの社会は傷を癒す手当を試みます.

しかし,原発事故はどうでしょうか? 地震や津波と同じように考えてもよいのか? 東京電力や日本政府のエネルギー政策,それを決定してきた「原子力村」と呼ばれる業界・利益集団の責任が問われます.

翻って,都市を断層上や沿岸に築いたのも人間です.もし厳しい建築基準や居住制限があれば,住民はこれほど災害の犠牲にならなかったわけです.原発事故も,震災も,そのリスクの評価や被害をもたらす過程のメカニズムを解明する仕組みと権限を,この衝撃が共有されている瞬間にこそ,確立しておくべきだと思います.

火事でも,地震でも,原発事故においても,それを正しく理解し,社会を守り,鍛えることで,一人一人の不幸が抑制されて再生が励まされるうえで,私はやはり,政治が重要だと思うのです.

NHKスペシャル「“魚の町”は守れるか:ある信用金庫の200日」を観ました.気仙沼信用金庫は,水産加工会社のふかひれ工場再建に融資しようとします.

銀行が融資をする場合,その企業の返済能力や担保の価値を気にする,と思います.メインバンクは,このふかひれ工場再建の話について,企業に融資するときの手順として,当然,これらを計算したはずです.そして大震災は,すべての面で融資を困難にしました.旧債務を返済するめども立ちません.企業の担保は失われ,土地の価値も大きく下がったでしょう.つまり,私の推測ですが,新規に融資することはできない,というわけです.

では,なぜ信用金庫は融資するのでしょうか? 一つは,気仙沼の経済を復興したい,という気持ちが強いからです.そして番組でも,信用金庫の担当者はメインバンクとの電話で,スタンスが違う,と指摘しました.都市銀行の融資先は全国にありますが,信用金庫の融資先はここにしかない.気仙沼が復興しなければ,信用金庫も生きていけないのです.

彼らは,復興はすべてつながっているから,と語ります.どの会社も必ず,他の会社や従業員家族,商店の復活に関わります.震災により,信用金庫の不良債権は一気に増えて,融資せずにそれを放置しても不良債権が増え続けるでしょう.復活する意欲のある企業や商店に,むしろ融資を増やすことで,復興を励ましたい,という「強い気持ち」は,信用金庫のこうした構造から合理的に生じるのです.

メインバンクが資金を引き揚げることは,地域経済の痛みを拡大します.政府が大規模に区画整理を進めて,市町村の復興計画が動き出せば,戻ってくるかもしれません.他方,個人や商店,工場にとって,二重債務の問題が再建を促すうえで重要です.国会において審議され,新しい方針が示されたと思います.

これは,旧債権者(たとえばメインバンク)と債務者,新債権者(たとえば信用金庫),そして公的な信用保証や政府による支援策が組み合わされたものでしょう.その意味で,ユーロ危機におけるアイルランドやギリシャの債務処理問題に似ている,と思います.

実際,政府からの補助金が出ることで活気づく様子が,この話にも出ていました.日本政策金融公庫のホームページを観ると,詳しい政策金融の案内が載っています.被災地域の銀行や信用金庫へは資金補充もあったと思います.公的な支援制度は,確かに,機能しつつあるのです.もっとそれをアピールして,被災地の復興に役立つような,そして心理的な活性化を促すような,政治と発言が必要ではないでしょうか?

震災から11か月を経て,復興庁が活動を始めました.もっと適切に,必要な人々まで支援が届くように,組織を再編し,地域と日本のガバナンスを復興してほしいです.

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