IPEの果樹園2012

今週のReview

1/30-2/4

 

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ミット・ロムニー ・・・イラン外交・制裁・空爆 ・・・新興市場ブーム・バスト ・・・資本主義の改革 ・・・ヨーロッパの妖怪 ・・・アメリカ外交戦略 ・・・ユーロ危機は終わる ・・・オバマ年頭教書 ・・・グローバルな公共財 ・・・ゼロ・サム思考 ・・・貿易赤字の不安

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  ミット・ロムニー

NYT January 19, 2012

The Wealth Issue

By DAVID BROOKS

NYT January 19, 2012

Taxes at the Top

By PAUL KRUGMAN

FT January 20, 2012

Mitt Romney: Perfect presidential profile but lacking a spark

By Richard McGregor

共和党の大統領候補を争うロムニー氏の長所や短所は何か?

プロの資産管理業者として成功した金持ちの一人.特権的な1%.モルモン教徒.キリスト教からの敵視.クールで抑制された人物.清純な家族の理想像.5人の男の子.プラグマティックな姿勢.

有権者たちは,ロムニーがモルモン教徒でも,重要な問題で立場を変えても気にしない.しかし,彼を大統領にしたいほど好んでもいない.

FT January 22, 2012

Dull, dithering Romney clings on

By Edward Luce

FT January 23, 2012

The real debate that America needs

By Gideon Rachman

早くからロムニーが候補に確定するかと思ったが,South Carolina, Newt Gingrichが対抗した.しかし,ロムニーならオバマとの本格的な論戦(たとえば,資本主義の本質について)になるが,オバマ対ニュートなら一種の喜劇だろう.ウォール街占拠運動にとって,ロムニーは格好の標的だ.


l  イラン外交・制裁・空爆

FP Thursday, January 19, 2012

Bush’s CIA director: We determined attacking Iran was a bad idea

Posted By Josh Rogin

FP JANUARY 19, 2012

Stop the Madness

BY YOUSAF BUTT

FP JANUARY 20, 2012

This Week at War: Iran's Learning Curve

BY ROBERT HADDICK

NYT January 21, 2012

Confronting Iran in a Year of Elections

By DAVID E. SANGER

敵対する国が核兵器を生産・入手する可能性がある中で大統領選挙を戦うのは難しい.中国が最初の核実験をすることに対して,リンドン・ジョンソンは選挙前3週間を切る時期であったので,遅らせた.

オバマ政権は3年を経て,イランとの対話方針を見直した.しかし,今,イランが核施設を閉鎖するとは思えない.

NYT January 22, 2012

Bomb-Bomb-Bomb, Bomb-Bomb-Iran?

By BILL KELLER

FT January 23, 2012

Storm warning in the strait

By Roula Khalaf and James Blitz

今回の制裁が重要であるのは,初めてイランの原油輸出の22%を占めるEUも禁輸措置に参加したからだ(アメリカは既にイラン原油を買っていない).これまで核兵器開発を阻止するための査察を求める交渉が行われてきたが,これから,その制裁としてイラン経済の生命線である原油輸出を減らすことになる.イランの外貨準備は減り,通貨価値が急落した.

これまで制裁措置を無視していたイラン政府が,今回に制裁にはホルムズ海峡を封鎖するという報復措置で対抗した.対艦ミサイルによって世界の原油供給の6分の1を占めるホルムズ海峡の航行を阻止するというわけだ.同時に地下の施設で濃縮し,核爆弾を製造する計画もあり,アメリカやイスラエルの空爆によっても破壊されない,と脅している.

双方が最悪のケースを考えて行動し始めており,イランを空爆するか,イランの核武装を認めるか,選択する状況に向かうだろう.

イランはホルムズ海峡を封鎖できるだろう.そのための軍備に投資している.しかしアメリカ軍は,封鎖期間を6週間までと見ている.原油価格の上昇は続かないだろう.他方で,イランは必ずしも軍事行動によって航行を阻止するわけではないし,アメリカの反撃は単純でも短期間でもない,と警告する意見もある.最も深刻なのはミサイルと機雷である.

イランが狙うのはアメリカに味方する国であろう.イランは匿名による攻撃を行って他地域の不安定化を実現できる.テロ,特殊部隊,都市部へのミサイル攻撃,などによって,アメリカの同盟諸国を苦しめる.

衝突や軍事行動の危険だけを誇張することも危険である.双方が交渉の余地を探っている.しかしまた,海峡封鎖に至ることなく緊張が高まる中で,予想外の衝突が起きる危険もある.イランが核兵器を手にするまでの時間はどれくらいあるのか? アメリカが軍事攻撃に至るイスラエルを抑制できる力をもつのか? 制裁と外交交渉で解決する道はあるのか?

制裁は物価上昇など,市民生活を破壊し,その不満を高める.しかし,それがイラン政府に交渉への圧力になるかはどうかわからない.中国など,非西側諸国も加わった世界的な制裁でなければ十分ではないだろう.またこの制裁を,もしイランが体制転換を刺激していると解釈すれば,逆に,核武装を急ぐだけである.カダフィの破滅をイランはそのように見ただろう.

科学者の暗殺,コンピューター・ウィルスによる破壊活動,などは核開発を遅らせるイスラエルの活動であったと見るアナリストもいる.しかし,核計画自体は放棄しないだろう.そして,爆撃するしかない,という意見が強くなる.核武装したイランはイスラエルの生存を脅かす,と意識されている.しかも,その衝撃は地域全体に核軍拡競争を引き起こすだろう.

他方,空爆によって一時的に開発を遅らせることができても,まだ知られていない極秘計画や,次の計画を阻止できないだろう.イランはアラビア湾内のアメリカ軍施設に報復できるし,不況からの回復期に原油価格の上昇がアメリカ経済に与える影響も深刻である.軍事行動は,それが一旦始まれば拡大し,どこで終わるかは一方的に決めることができない.

結局,いつまで交渉できるか,という問題になる.アメリカはまだ時間があると言い,イスラエルはもうないと言う.緊張の高まりは,交渉を進める圧力でもある.そして西側は交渉を起動させるために,もっと魅力的な提案を示すべきだ.たとえば軍事転用できないような厳しい監視の下で,原子力の平和利用を認める,という条件だ.

戦争を避けたいなら,交渉を続けることだ.

FP JANUARY 23, 2012

All Silk Roads Lead to Tehran

BY NEIL PADUKONE

制裁も空爆も,イランを共通の国際秩序に取り込む方法にはならない.

「イスラム共和国の核開発計画に関するアメリカとイランとの間でエスカレートする現在のゼロサム的な考え方に反して,地域の貿易と安定性が増すことは両国が分かち合える利益である.」テヘランはアフガニスタンを安定化し,原油や天然ガスを輸出したいと願っている.

ヒラリー・クリントン国務長官はアフガニスタンを通る「新しいシルクロード」を支持した.それはインドや中国を結び,トルコ,エジプトにまで達する.道路,鉄道,パイプラインなどのエネルギーリンクを意味している.

古来,4イランはこの陸上.海上の交通ネットワークにおける重要な結び目であった.アメリカがいくらイラン政府の孤立化を図っても,インド,中国,トルコ,ロシアとはイランと協力している.イランこそ,このエネルギー豊富な地域の安定に欠かせない要なのである.

アメリカもイランの重要性を認めるときだ.

BLOOMBERG Jan 23, 2012

How Iran Could Trigger Accidental Armageddon

By Jeffrey Goldberg

FP Thursday, January 26, 2012

Is regime change in Iran the only solution?

Posted By Alireza Nader

Project Syndicate 2012-01-26

Answering Iran

Richard N. Haass

アメリカとイランとの間にある問題は,三つの選択肢を示している.イランの核保有を認めるか,それを阻止するために空爆するか,あるいは,どちらも避けるように,制裁と交渉を繰り返すか?

イランの核保有,空爆,そのどちらにも欠陥がある.イランの体制転換が必要になるが,それは難しい.

制裁措置が,市場への参加を促すだろう.国際的な関与は続けられる.2012年の最重要課題になるかもしれない.


l  新興市場ブーム・バスト

guardian.co.uk, Friday 20 January 2012

Chinese economy: headaches to die for

Project Syndicate 2012-01-20

Will Emerging Markets Fall in 2012?

Jeffrey Frankel

2012年,新興市場の経済も悪化し始めるのか,と投資家たちが不安を感じている.中国のハード・ランディング? ラテンアメリカの商品ブームが終わる? ユーロ危機がトルコに波及する?

これまで新興市場の経済パフォーマンスは優秀だった.しかし,中国で不動産バブルがはじけ,ラテンアメリカへの商品需要が減少するのは本当だろう.国際機関は成長率の予測を修正し,下げている.しかし,それでもブラジルのGDP成長率は7.5%から3.4%に低下するだけで,成長する.

成長減速論には,経験的,分権的,因果的なものがある.

経験的に,新興市場には15年周期の変動がある.1982年半ばにメキシコで始まった債務危機はラテンアメリカに広がり,その15年後,1997年半ばにタイで始まった通貨危機は地域から世界に広がった.2012年後は新興市場危機だ.

経済の長期的な歴史もブーム・バスト・サイクルを指摘する.たとえば,カーメン・ラインハートのように.しかし,私はもっとさかのぼって,旧約聖書のヨブ記にそれを見る.ナイルの洪水(すなわち,肥沃な土と水)がもたらす7年の豊作に続けて,干ばつによる7年の凶作が来る,とファラオに予言したのだ.

予言は正しかった.しかし,ファラオは官僚に命じて,豊作の年に穀物を備蓄していたので,最悪の年にも飢餓は避けられた.この教訓を,工業諸国も新興市場諸国も学ぶべきである.洪水のように資本流入が起きて,それが突然停止し,流出することが繰り返された.

これを説明する理論はないが,一つの可能性として,15年は融資の担当者やヘッジファンドのトレーダーが入れ替わる周期かもしれない.

2012年に市場が崩壊すれば,古代エジプトを思い出すだろう.

Project Syndicate 2012-01-20

Asia in the Year of the Dragon

Haruhiko Kuroda

アジアの成長持続は,欧米の財政・金融における困難から世界不況への拡大を緩和するうえで重要であった.今後もアジアは成長し続ける可能性がある.しかし,そのためには,輸出に依存した形ではなく,内需によって成長しなければならない.

そのためにも,国内で不平等が拡大していることに注意するべきだ.中国の都市部では,ジニ係数が1990年の25.6から2005年の34.8にまで上昇した.これは1980年代,90年代に,成長しながら平等化を実現したアジアにとって新しい傾向であり,長期の成長を損なわないために緩和しなければならない.

FT January 22, 2012

Sustaining China’s Economic Growth after the Global Financial Crisis

Simon Rabinovitch

FT January 23, 2012

Remembering Deng in our era of crony compitalism

MinxinPei

1978年,鄧小平によって始められた改革開放は,1992年の南巡講和から20年を経て,すでに死滅してしまった.

中国の国家は経済の支配力を回復し,重要部門で国有企業が支配的な地位を固めている.銀行,金融,輸送,エネルギー,資源,重工業である.民間企業は後退し,重要な価格は政府によって管理されている.外国企業は,かつて大いに歓迎されたが,今では保護主義的な政策に苦しめられている.

改革開放は,2001年のWTO加盟以後,むしろ政府の様々な決定によって破棄されたのだ.中国の成長が投資に大きく依存するものとなり,WTO加盟が改革を加速するより,成長にとって改革は重要でなくなった.鄧小平は,中国共産党CCPを経済崩壊から救い出すために改革を必要としていた.資本主義を公式に支持したことはない.それゆえ,CCPが強化されたら,改革開放は政治によって浸食されるようになった.

CCPは単なる政党ではなく,既得権益を持つ集団の政治的利益擁護システムでもある.この巨大な中国式のクロービー・キャピタリズムを抑える者は誰もいない.富とパワーとの関係から最も多くの利益を得るのは,脱共産主義体制の半民営化された経済システムである.

FT January 24, 2012

Chinese soothsayer sees economic storms ahead

By Jamil Anderlini in Beijing

Project Syndicate 2012-01-26

Why Capital Flows Uphill

Keyu Jin

Project Syndicate 2012-01-26

China’s Connectivity Revolution

Stephen S. Roach

「中国は長い間,地球上でもっとも分断された国家であったが,新しい連結可能性を通じて,かつてないまとまりを得つつある.」すなわち,インターネットによるコミュニティーだ.高速で拡大し続けるインターネット社会がもたらす経済や政治への衝撃は,従来の社会規範や政治システムを変革するだろう.たとえ政府がそれを恐れても,この魔人を再び瓶に戻すことはできない.

中国のインターネット利用者は2006年から2011年半ばまでに3倍に増え,48500万人になった.それでも全人口の35%でしかない.韓国,日本,アメリカのように,80%に向かうだろう.

接続の費用は急速に安くなった.携帯電話利用者も急増した.その最大の影響は,中国が消費社会に変化することだろう.これまで中国経済は,消費を抑え(GDP35%),投資と輸出に偏る,不均等な成長を続けてきた.インターネットは消費の習慣や嗜好を変化させる.

インターネットは,また,自由で開放的な情報交換を可能にして,社会的移動性,透明性,説明責任,個人の重要性を高めるだろう.それは中国で拡大する不平等についても,解決に向けた意識や運動を刺激する.インターネットは,実際に,地方における重大な政治紛争の焦点になっている.

政治が極端な独裁・特権層に頼っている場合,アラブの春のような国家規模の政治変動につながることも懸念されるが,中国の指導部はむしろ貧困層への同情を示してきた.

インターネット情報への規制や検閲はあるだろうが,この変化は続く.


l  資本主義の改革

FT January 20, 2012

Charity needs capitalism to solve the world’s problems

By Bill Clinton

FT January 20, 2012

The crisis raises legitimate questions about capitalism itself

Mohamed El-Erian

「資本主義の危機」とは,二つの重大な失敗が重なったことから生じている.一つは,成長と雇用を通じて持続的な繁栄が実現できなくなったこと.もう一つは,このシステムが余りにも不公平で,社会的に見て不正義であること.

一つが満たせないことでも重大な問題だが,二つを満たせないことはシステムの正当性を損なった(効率性と公正さとはトレード・オフだと,一部で,誤解されているが).

ここには三つの理由がある.

1.伝統的な市場の失敗.致命的な失敗をもたらさないように,資本主義システムの良い面と悪い面を増幅する領域に注意しなければならない.金融はその一つだ.金融部門だけで利益を上げればよいのではなく,金融は実物経済を支えることに意味がある.金融が資本主義システムの発展の次の段階だ,という間違った考えがあった.その幻想は,規制緩和やボーナス,補償によって広まった.しかも,金融の構造変化や革新的な金融手段,グローバルな融資の拡大と重なった.社会全体が金融に過度に依存したのだ.

2.過去10年間,世界各地で,いくつかの国が独自の資本主義革命を実現した.それにより何百万人もが貧困を抜け出せた.その結果を理解できないまま,世界経済に膨大な生産力が加わった.中国のようなショックでは,技術のキャッチ・アップ,低賃金,質の改善が,大きな成果をもたらした.しかし,不均衡は持続不可能な水準に達していた.

3.資本主義の円滑な機能を支えるあまりにも多くの制度が,もっとも必要なときに,機能しなかった.そのガバナンスは劣悪で,正しい代表システムがなく,情報は不十分だった.

これらは是正できる欠陥である.しかし,危機が起きてから4年たつが,包括的で首尾一貫した是正策は採られていない.犠牲者への保護もない.ただ崩壊が続くのを放置している.正しい対策を取るまで,資本主義それ自体が問題ではないのだ,と世界が納得することはないだろう.

The Observer, Sunday 22 January 2012

Words won't change capitalism. So be daring and do something

Will Hutton

この20年間,私は「責任ある資本主義」Responsible capitalismを求めてきた.そして,イギリスの三大政党が,それぞれ異なった言葉で,この同じ目標を掲げて議論するようになった.自由民主党の John Lewis (Nick Clegg), 保守党のa boost to the Co-operative movement (David Cameron) そして労働党の a redress against predatory pricing (Ed Miliband)である.

問題は,資本主義システムがなぜこれほどひどい間違いを犯すのか? であり,その核心には,予め分からないようなリスクにどのように対処するか? という問題がある.

保守派は資本主義がリスクを扱えるという.リスクに応じて報酬は評価する,と.しかし,それが正しくなかった場合,すべてが変わるだろう.政府がリスクを分担しなければならない,という責任ある資本主義だ.

世界の指導的な国際機関(IMFや世銀を含む)の指導者たち,12人が連名で,グローバルな財政緊縮に対する,かつてない警告を発表した.政府が行動しなければ(財政刺激策がなければ),経済的にも社会的にも破局に至るだろう,と.

この問題を解決するために,2008年までの10年間に銀行が行った莫大な融資を処理するべきだろう.ギリシャはその一例に過ぎない.ケインズの警告は,知られていないリスクに対して資本主義が大きな振幅を示すことだった.こうしたリスクが現れると銀行は融資を止めてしまう.

この不安を抑えるには,政府が金融システムから借り入れて支出するか,銀行融資を政府が保証するか,紙幣を増刷するか,投資を社会化する,という方法がある.資本主義は何度もこれらを繰り返してきた.これを是正するために,マクロ政策の目標を変え,中小企業への融資を義務付け,インフラ投資銀行を設けて債券発行し,政府が革新や投資を助けるシステムが考えられる.

日本は自動車産業を,アメリカはIT産業を,イギリスは金融業を,こうしたエコ・システム(革新と投資の生態系)によって育ててきた.もっと大規模に,経済全体を育てるエコ・システムが必要だ.それが責任ある資本主義になる.

企業重役たちに高額の報酬を支払うのではなく,国家の管理責任が重要になるだろう.

FT January 22, 2012

Seven ways to fix the system’s flaws

By Martin Wolf

3年前に,金融・経済システムは1930年代以来の最悪の危機に落ち込んだ.2009年,世界経済はショック状態にあった.今でも,安定化にもかかわらず,人々は資本主義に絶望している.何が必要なのか?

資本主義は危機によって改革されてきた.7つの挑戦分野を取り上げる.

1)マクロ的な不安定性を管理する.・・・資本主義システムに内在する不安定性に関してはHyman Minskyが説明している.安定と繁栄が,その収益を拡大するレバレッジを刺激し,金融がヘッジと投機を可能にする.その活動は利子と元本返済をキャピタル・ゲインに頼るポンチ金融に至る.

この挑戦は三つの要素を含んでいる.①自由市場型の資本主義には危機が内在していることを認める.②マクロ「プルーデンシャル規制」が重要である.金融システムの全体を監視しなければならない.レバレッジの増大を規制し,自己資本を規制する.③政府とその諸機関,特に中央銀行は重要な役割を担う.彼らは危機後の安定化だけでなく,危機前の不安定化にも深く関わった.この失策を繰り返してはならない.

2)金融システムは市場経済にとって不可欠であるが,複雑かつ壊れやすい信頼のネットワークによって機能する.危機は,それが乱用され,崩壊しやすいことを示している.金融システム(そしてその崩壊から経済システム)を守るために,もっと大きなショック・アブソーバーが必要だ.それがあれば“too big and connected to fail”の問題は回避できる.金融機関にはより大きな自己資本を求める.破綻処理や報酬の監視を行い,家計や中小企業への融資機関を投資銀行と分離する.複雑な金融商品から利用者が保護される.

資本主義システムも,経済思想も,変化を求められる.大恐慌と第二次世界大戦が資本主義の制度と経済学を革新した.福祉国家やケインズ経済学が広まり,完全雇用のための財政刺激策や福祉国家,IMF,資本移動の禁止,グラス=スティーガル法による商業銀行と投資銀行との分離が支持された.

1930年代の保護主義は慎重に撤廃された.GATTと,その後のWTOがこれを指導した.またOECDEUのような国際機関が各国に改革を促した.

3)高所得国において,過去30年間に,不平等が拡大した.その背後には多くの力が作用している.すなわち,グローバリゼーション,技術変化,「勝者総取り」の報酬システム,新興産業のダイナミズム,社会規範の変化,金融ビジネスの膨張,課税体系.それらは避けられない,後戻りできないものと言われたが,国による大きな違いは選択の余地を意味している.

財政的な再分配が必要に違いない.特に,敗者とその子供たちに.また,補助金支給,直接的な雇用拡大,教育とそのための公的融資,厳しい不況期の需要維持.

4)有限責任企業という制度は富を増やす素晴らしい社会的革新である.しかし,その欠陥は所有者が明確でないことだ.その結果,富が奪われやすい.トップ経営者に企業の長期的な利益,株主の利益を裏切る誘因を与えてはならないし,それらを重視させるような工夫が要る.

5)税金はすべて悪だという主張は間違っている.税制は市場経済が機能するために必要だ.公共財・サービスのために必要であるし,不平等の問題にも対処すべきだ.レバレッジを促すような税制は廃止し,課税対象を所得から消費や資産にするべきだ.困難ではあるが,より豊かな者が納税するように国際協調が必要である.

6)富裕層と国内政治との癒着に重大な関心が集まっている.政治と市場とは別の役割を果たしている.市場において人々は生産者や消費者であるが,政治においては市民・有権者である.政治の機能を守らなければ,金権政治Plutocracyの危険がある.それはシステムを閉鎖的にする.民主主義の健全さを守るために,政治システムへの公的な補助が必要である.

7)資本主義のグローバル化は挑戦でもあり,制約でもある.ビジネスの規制は世界的な規模で行う必要がある.金融は特にそうだ.それは,国内の金融機関のみを規制し,支援するのか,そのためにグローバルな金融ネットワークを分断するのか,あるいは,もっと高次のレベルで規制や支援を行い,そのために政治的決定をEUやグローバルなレベルに移譲するのか,という選択である.ビジネスや金融の展開と政治の間に重大な齟齬が生じている.

グローバルな公共財は,開かれた市場,貨幣・金融の安定性,安全保障,特に環境保護,である.長期的にはグローバル・ガバナンスが必要だ.

guardian.co.uk, Monday 23 January 2012

Only a maximum wage can end the great pay robbery

George Monbiot

銀行強盗どもは,もはや覆面も要らず,ショットガンを構えてカウンターを飛び越すこともない.運転手つきの乗用車で銀行へ乗り付け,建物最上階へとエレベーターで登り,ぶらつきながら重役室に到着する.誰も彼を止めないし,逮捕することもできない.現代の強盗は,彼がだまし取ることを制度によって認められているのだ.

企業重役の所得とは,制度化された強奪である.かつて富は企業スタッフに広く分配され,あるいは,低価格や納税によって国民に分かち合われた.今は,彼らが稼いだわけでもないし,生み出したわけでもないのに,重役たちが人々から富を吸い上げている.

過去10年間で,重役たちの報酬は,所得層の中間値よりも,9倍の速さで増大した.何人かのボスは,イギリスの給与の中間値の1000倍以上も報酬を得ている.国民所得に占める上位0.1%の割合は,1979年の1.3%から2007年の6.5%になった.

重役たちの高報酬はリスクを取ったからでもないし,企業のパフォーマンスを改善したからでもない.むしろ彼らの高報酬とパファーマンスの差は大きく,逆に相関している.「金のために働く,などと言う経営者が優れているとは思えない.・・・報酬は成功の副産物でしかない」と,Shellの元CEOJeroen van der Veer)は語っている.

また,金融部門の成功は偶然にすぎない.優れた技量で市場の流れを超える,などと思うのはトレーダーやファンド・マネージャーの妄想だ.

おびただしい不平等と社会的な給付資格とは関係ない.むしろエリートたちは金の力で自分たちに有利な条件を合法化してきた.社会的移動性は低下している.強欲な経営者たちが企業を私物化している.

どうすれば良いのか? 情報公開,経営陣の多様化,重役報酬と企業業績との関係付け,株主パワー,こういった政府の方針は役に立たないだろう.

労働者に最低賃金があるように,経営者には最高報酬を制限するべきではないか? さまざまな研究機関の提言は,その絶対額ではないが,企業の給与の中間値,もしくは,最低給与と関係づけるべきだ,という.しかも,私はこれを全国で,絶対額について,制限するのがよいと思う.

もしこの上限を超えるなら,その所得を正当化できるようなリスクのある投資,ベンチャー・ビジネスや新興諸国に向けるのだ.

FT January 24, 2012

When capitalism and corporate self-interest collide

By John Kay

FT January 25, 2012

Meddle with the market at your peril

By Alan Greenspan

東西ドイツの競争でも,中国やアジアの虎たちの成長でも,資本主義の勝利は疑いない.成長よりも市民文化を重視する意見もあるが,それは長期的に見れば対立するものではない.資本主義しか残らないのだ.

市場は不平等をもたらすと言うが,彼らが問題とすべきは「クローニー・キャピタリズム」の汚職や腐敗であり,グローバリゼーションや技術変化の結果である.また移民法がむしろ富裕層に有利な分配をもたらしている.

金融市場が規制を必要とするのは今回の金融危機で示されたが,資本主義の改革というのは,その多くが間違いだ.資本主義しかない.


SPIEGEL ONLINE 01/20/2012

Intolerable Stench

Confronting the Threat of Industrial Pig Farms

By Markus Deggerich


WP January 202012

Burma’s president gives his first foreign interview

By Lally Weymouth

YaleGlobal Online 20 January 2012

Burma Ready to Play Ball With US

Bertil Lintner


l  ヨーロッパの妖怪

Project Syndicate 2012-01-20

Does Debt Matter?

Robert Skidelsky

ヨーロッパを債務危機という妖怪がさまよっている.政府の首脳たちはこれを恐れて財政緊縮の悪魔祓いに執心しているが,そんなことが役にたつのか?

彼らはこう考える.債務/GDP比率が高すぎる.妖怪を追い払うには,債務を返すしかない.しかし,赤字を減らす財政緊縮を急げば,経済はますます不況になって,GDPが縮小する.むしろ経済を成長させることが,唯一の解決策である.

確かに人々は債務を支払うしかないから,政府の途方もない債務額を聞いて,返せるのか? と,不安になるだろう.政治家たちは,家計と同じ理屈で赤字の削減を主張する.財政再建でデフォルトを免れ,将来の返済は可能になる.それはまた政府の借り入れコストを安くするから,民間部門の金利が下がり,経済活動が刺激されるだろう.こうして財政再建は景気回復をもたらす,と.

ここには,5つの間違いがある.

1.政府は,民間の債務者と違い,債務を「返済」する必要がない.貨幣を発行できる中央銀行がある.確かにユーロ圏の国には貨幣を発行できないが,デフォルトできる.デフォルトしても,その後の事態はそれほど悪化しない.

2.財政赤字を減らすことが財政再建の最善の道ではない.特に,不況のときに赤字を削るのは間違いだ.そんなことをすれば不況が深まって財政赤字を増やす.

3.政府債務は将来世代への負担ではない.それは現在の債権者と債務者の関係だ.たとえ将来の増税があるとしても,それは納税者から債券保有者への移転である.むしろ,財政赤字を削るために,現在の所得や利潤,年金が減り,公共投資が減り,住宅や学校,病院が減ることは,将来世代への負担である.

4.債務額と借り入れコストとは関係ない.日本,アメリカ,イギリス,ドイツは,すべて借り入れコストが低い.その債務額と財政政策は大きく異なる.

5.政府の借り入れコストが低くても,民間の借り入れコストは安くならない.むしろ今は,政府の借り入れコストを安くしている同じ理由が,民間の借り入れコストを高くしている.

政府債務という妖怪退治の悪魔祓い同盟がヨーロッパを救うよりも,もう一つの妖怪を心配したほうがよい.それは,革命という妖怪だ.


NYT January 20, 2012

A Nobel Laureate’s Problem at Home

By SILAS KPANAN'AYOUNG SIAKOR and RACHAEL S. KNIGHT

LAT January 23, 2012

Ecuador's war on the media


NYT January 21, 2012

Do Drones Undermine Democracy?

By PETER W. SINGER


l  アメリカ外交戦略

FP Sunday, January 22, 2012

Predictions about the death of American hegemony may have been greatly exaggerated

Posted By Daniel W. Drezner

FP JANUARY 23, 2012

Obama Needs a Grand Strategy

BY ROSA BROOKS

オバマ政権の国家安全保障戦略2010 National Security Strategy (NSS)には「グランド・ストラテジー」が無い.

グランド・ストラテジーとは,外交,安全保障政策を決める「重要アイデア"the big idea"」である.目的と方法と手段とを結び付ける.複数の国を目的のある計画によって組織する.外交,経済,文化,軍事にわたる国力を使用する優先順位を示す.

オバマ政権にはそれがない.

FP Thursday, January 26, 2012

Whether or not the U.S. is declining is the wrong question

Posted By Stephen M. Walt

「アメリカ衰退論」の意義はどこにあるのか? アメリカが第二次世界大戦後に示したパワーは失われただろう.しかし,様々な形で今もアメリカのパワーは存在する.世界のすみずみまで,安全保障や経済に関する秩序を築くパワーは損なわれた.イラクの失敗,債務,2007-08年の経済危機,その他,アメリカの衰退論は多くの指摘において正しい.しかし,二国間の比較ではなく,より広い環境においてみれば,アメリカの優位はゆるぎない.だから,戦略的決定の重要性を忘れてはならない.

WP January 26, 2012

The coming debate over American ‘strength’ abroad

By David Ignatius

新著“Strategic Vision” by Zbigniew Brzezinskiを紹介している.ブレジンスキーは,アメリカ外交の現状維持を批判し,崩壊前のソ連と似ている,という.そして,アジアにおけるバランサーという役割をアメリカに求める.それによって,無秩序な戦争に向かうアジアには秩序が維持される.

そのためにアメリカが目指すのは,トルコとロシアの民主化を支持して,欧米に加えた「拡大した西側」を形成することである.

それは同時に,共和党の大統領候補選びにおける論戦が,レーガン時代の強いアメリカや孤立主義的な外交を求める姿勢にも,オバマの理想主義的な,しかし成果のない外交にも,厳しい見方を示すことになる.


後半へ)