IPEの果樹園2012

今週のReview

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ビルマの国際政治 ・・・ユーロ救済の紛糾 ・・・北朝鮮:核とカルト ・・・日本の間違ったイメージ ・・・アメリカとイランのチキン・ゲーム ・・・資本主義を支持できるか? ・・・中国とインドの政策交換 ・・・新しい「三国協商」 ・・・震災とハイチ移民

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  ビルマの国際政治

FT January 5, 2012

Hurry, hurry, to the new Wild West of Yangon

By Philip Delves Broughton

何十年も孤立した後に,ミャンマーはゴールド・ラッシュを迎えた.ヒラリー・クリントン国務長官が反政府運動の指導者スー・チー女史に会い,軍事政権が近代化と開放政策を望んでいること,政治犯を釈放し,反体制派を受け入れることを確認した.

各国政府の代表や投資家がミャンマーに殺到している.韓国,中国,ロシア,日本のビジネスマンがホテルを占拠している.ジョージ・ソロスは,彼が長年支援してきた反対派に会うためヤンゴンに滞在している.長年にわたる政治的弾圧の後,この解放が何をもたらすかは見ものである.

もし西側が本当にミャンマーを助けて発展させたいのであれば,慎重に取り組むことだ.かつてと違って,ミャンマー周辺の諸国は自信を深め,攻勢をかけている.ミャンマーの若いビジネスマンがチャンスを観るのは,ニュー・ヨークやロンドンではない.雲南,シンガポール,上海だ.

ヤンゴンは恐ろしいほど貧しい.しかし不動産価格はナイツブリッジ(ロンドンの最高地価)に匹敵する.それは北部の宝石商人が中国との取引で莫大な利益を得ているからだ.湖畔の住宅が1400万ドルで売りに出された.7人の買い手が現れ,価格は2200万ドルまで競りあがった.買い手は半金をトラックに積んで現金で支払った.ミャンマーには信用決済はない.彼らは資金をシンガポールで預金し,効率的かつ非合法に送金する.

ミャンマーの平均所得は150ポンドだ.スー・チー女史は,もしその住宅を売りに出せば,自宅軟禁によって素晴らしい投資をした,と気づくだろう.

どれほど変化を期待しても,現実のミャンマーは権威主義体制である.多くの政治犯がひどい状態にあり,憲法や法律は無視されている.誰も基本的な経済統計を知らない.インフレも成長も,資源の枯渇もわからない.

イラワジ川の周りにシンガポールの高層ビルを想像するのは,この国の豊富な機会を実現する一つの可能性だ.スー・チー女史と反体制派の関係者はロンドンにいるが,彼らの関心も政治犯から経済発展に変わるだろう.

改革には時間がかかる.しかし,指導者たちが中国への従属から抜け出したい気持ちは強い.ヨーロッパの不況から抜け出して,イギリス企業もヤンゴンで宝探しに参加してはどうか?

FP JANUARY 5, 2012

Power Play

BY PATRICK M. CRONIN

guardian.co.uk, Friday 6 January 2012

China syndrome dictates Barack Obama's Asia-Pacific strategy

Simon Tisdall

 (China Daily) 2012-01-06

Support for Myanmar

FT January 9, 2012

Now Obama must act on his Asian blueprint

By Philip Zelikow

FP Monday, January 9, 2012

Pivoting away from the American Dream

Posted By Clyde Prestowitz

オバマ政権は二つの重要なあ報告を行ったが,その一方はよく知られて,他補は誰も知らない.二つを合わせると,そこには重大な問題が見えてくる.すなわち,貿易予算の削減と国際競争力の悪化だ.

しかし,そのすべての指摘に賛成するが,当たり前の分析からは,アメリカ経済・産業・技術の衰退はとらえられない.アメリカ産業が交流する際に大いに利用した保護関税や産業政策には何も触れない.

アメリカの製造業が復活するためには,4つの大罪を取り除く必要がある.1.外国政府による通貨操作・為替レートの過小評価,2.外国政府によるアメリカのオフショア生産を促す補助金,3.外国政府による国際製品の購入を優先し,アメリカ企業の現地生産を強いる政策,4.外国政府と政府系金融機関による戦略産業へのリスクを無視した投資,である.

アメリカ軍はヨーロッパから今後10年で撤退し,5000億ドルを節約して,アジアに展開する,という.しかし,アジアはアメリカにとって脅威なのか? アジアから商品を買えなくなるか? アメリカ製品を買わないか? 北朝鮮は核を持っているが,アメリカを攻撃することはない.たとえ中国が西太平洋で海上の安全保障を担当するとしても,それがアメリカの脅威になるか?

むしろ,アメリカがアジアに軍備拡張を集中するような主張は,自己実現的な軍備拡大競争をもたらすだろう.そしてアメリカはアジアの安全保障を負担し,自国の経済成長を損ない,産業の競争力もさらに失う.アメリカ軍が展開する安全保障の枠内にあるアジアへ向けて,アメリカ企業の生産拠点の移転が進むはずだ.

アジアにおける軍事力の展開は,アメリカン・ドリームの終わりになる.

WSJ JANUARY 9, 2012

Time for a China-U.S. Free Trade Agreement

By MAURICE R. GREENBERG

FP JANUARY 12, 2012

Burma's Tightrope

BY AUNG ZAW


FT January 5, 2012

A Hungarian coup worthy of Putin

By Philip Stephens

WSJ JANUARY 9, 2012

Hungary's Collision Course With the EU

By GEORGE KOPITS

WP January 10, 2012

Hungary’s rush toward autocracy


l  ユーロ救済の紛糾

FT January 6, 2012

Why the euro went nuclear

By Gillian Tett

金融の諸問題を描くのに,ますます多くの核物理学用語が転用されている.それは単に金融危機を核爆発や放射能にたとえて印象を強めるだけでなく,そのあらゆる物質もしくは経済活動にかかわる膨大なパワーの発生管理技術が,類似の高度な知識と専門家集団に依存した,一般人とはかけ離れた世界に依拠している危険性を,政治的に表現しているからだろう.

ただし,それらの間にある大きな違いとは,金融が利益によって支配されているから,ウォール街の高報酬によるスキャンダルや詐欺を多く生じることだ.核エネルギーが同じような仕組みで管理されることを想うのは,非常に恐ろしい.金融「メルトダウン」が起きる前に,「安全基準」が守られるような仕組みや動機づけが早急に必要である.

guardian.co.uk, Monday 9 January 2012

It's time to cancel unpayable old debts

Aditya Chakrabortty

SPIEGEL ONLINE 01/09/2012

Germany and the ECB

'Either Way, We're Trapped'

ドイツも金融政策を自分たちの思うように決定できなくなった,と感じています.ドイツはECBにおいても周辺に追いやられた,とHans-Werner Sinnは不満を示す.ECBがドイツ・ブミデス・バンク型の組織だとか,ドイツ経済は最大であるからECBの金融政策決定に特別な役割を果たす,というのも愚かな幻想だ.

ECBであろうが,ESM(ヨーロッパ安定化メカニズム)であろうが,政府債券を大規模に購入するよう強い政治圧力を受けている.どちらにもドイツは反対しており,ひどいアイデアだ.

WSJ JANUARY 9, 2012

An Exit Strategy From the Euro

By ROBERT BARRO

ユーロ参加を表明していた東欧諸国はその意向を撤回し,これまでオプト・アウトを選択したイギリス,デンマーク,スウェーデンもユーロに対する反対が明確になった.つまり,ユーロは拡大するのではなく,緩やかに消滅させるべきなのだ.

そのためには,資格のない弱い国,ギリシャ,を排除することが進まない中で,むしろドイツが新たに並行通貨,新ドイツ・マルク,を発行するほうがよいだろう.たとえば,この先2年間,11でユーロ建の契約や債権債務を新ドイツ・マルクに転換することができる,として,両方を使用させるのだ.他国も同様に,2年間の移行期を示して新通貨を導入できる.

各国の通貨に戻ることで,今のように政府債券が返済できるかどうかわからない不確実さが払しょくでき,1999年以前の状態に回復できるだろう.それは現在のような危機を回避する途になる.特に,各国の金融政策が健全に行われるなら.

FT January 10, 2012

Germany should beware of celebrating negative yields

Mohamed El-Erian

SPIEGEL ONLINE 01/10/2012

Profiting from Pain

Europe's Crisis Is Germany's Blessing

By Stefan Schultz

FT January 11, 2012

How we can avoid another Mediterranean crisis

Edmund Phelps

SPIEGEL ONLINE 01/11/2012

Two versus 'La Merkel'

Italy and France Team Up against Germany

By Hans-Jürgen Schlamp in Rome

VOX 11 January 2012

Stop coddling Europe’s banks

Morris Goldstein

ヨーロッパの政治家たちは,ユーロを救済するために何でもする,と言ったが,実際は,ヨーロッパの銀行を救済するために何でもしただけだ.

銀行の資本増強が必要だ.それに関して5つの問題がある.1.融資を減らす圧力.2.配当や重役の報酬に関する野放しの承認.3.不況になるシナリオを排除したストレス・テストが甘すぎた.4.債務の組み替えにおけるコストの分担.5.政府債券と銀行資産との悪化が累積する過程.

“European Safe Bonds”の発行によって,大銀行の温存・救済ではなく,ユーロ圏の金融システムを安定化できる.

WSJ JANUARY 11, 2012

Europe Weird and New

Project Syndicate 2012-01-11

Europe’s Vicious Spirals

Barry Eichengreen

ギリシャから南欧,そしてヨーロッパ全体へ危機は拡大した.それは決して避けられないことではなく,ヨーロッパの政治指導者たちの失策であった.彼らは二つの悪循環を止めねばならない.

第一に,政府債券と銀行資産との悪循環だ.返済不安は金利を急騰させ,債券価格を急落させる.銀行は資産が悪化して借り入れられず,融資を減らす.それは景気を悪化させて財政の悪化につながる.債券価格はさらに下落し,銀行もさらに危機を生じる.

ECBは銀行のさまざまな資産(3年未満)を担保に流動性を供給した.これによって悪循環は止まった.銀行の資産悪化が無限に続くことを防いだからだ.これはECBが,間接的に,銀行に政府債券を購入させるためだろう,という見方は正しくない.

第二に,ヨーロッパの財政再建が景気を悪化させて財政赤字を悪化させる,という悪循環だ.政府の増税と支出削減は避けられない.しかし,それは景気を悪化させる.ある限界を超えて失業が増えれば,政治的な反発が爆発するだろう.財政再建や緊縮予算を主張する政府は政権を失う.しかし,それが生じる不確実性は投資家を不安にし,成長をもたらすものではない.

その解決には成長が一気に高まるような変化が必要だが,アメリカや新興市場の成長もまだ確実でないときに,それ(たとえば輸出の急増)は難しい.

ヨーロッパの政府は二つのアプローチで需要と黄供給に働きかけるべきだ.

供給側で,ヨーロッパの雇用をもたらすのは中小企業であることを思えば,彼らが銀行から融資を得られなくなったのは重要である.中小企業への融資を回復するために,ECBが銀行システムの流動性を回復した.同時に,政府は供給側の改革を実行するべきだ.イタリア議会は小売業の自由化に向けて一歩を踏み出した.しかし,タクシー業界や薬局が反対した.こうした運動が強ければ,サービスの弾力化や効率化には進めない.部分的な改革では一気に成長を高めることは難しい.

ヨーロッパの社会市場モデルは,この点で債務であるより資産になるかもしれない.包括的な改革のために損失を強いられる者への補償を行うことが容易だろうから.政府が支出する形で失業者を吸収し,再訓練することができる.それは政治的な支持を得て,改革を実行可能にする.

同様に,需要側でECBが全体の水準を高めておくことが,タクシー業界のような反対運動を減らすのである.ECBは金利を下げるだけでなく,資産価格を上昇させ,ユーロを安くすることも必要だ.すなわち,量的緩和策を採用しなければならないだろう.

ヨーロッパは悪循環を抜け出せる.すべての者が協力することだ.

Project Syndicate 2012-01-11

The Perils of Europe’s Navel Gazing

Ana Palacio

FT January 12, 2012

Planning for the worst is the best way to save the eurozone

By Jens Nordvig


l  北朝鮮:核とカルト

SPIEGEL ONLINE 01/06/2012

Seoul Searching

Germans Give Pep Talks on Korean Unification

By Jochen-Martin Gutsch in Seoul, South Korea

Project Syndicate 2012-01-06

South Korea’s Political Springtime

Lee Byong-chul

WP January 7, 2012

Dynasty, North Korean-Style

By B. R. MYERS

金正恩の権力継承は,この幼稚な,スイスで暮らした新米指導者に対するカルト的な金の血に対する信仰を強化することにつながる.金正恩の外観が金日成に似ていることが重要なだけでなく,行動や筆跡までまねようとしている.朝鮮の諺によれば,血は嘘をつかない.

金正恩に反対することは,国家に反対することだ.エリートたちの意志は統一されている.西側は未だにそのイデオロギーを軽視しているが,かつての社会主義圏の基準で見ても,経済パフォーマンスや権力継承の基準は劣っている.北朝鮮は,物質的な条件を無視した世界に存在し,偉大な,慈悲深い指導者は,この国を不毛にした.

もし核武装が先の指導者の大勝利であったとすれば,新指導者には爆発的な成長か,朝鮮半島の南北統一が待っている.彼らは常に南のライヴァルに比較して存在を証明しなければならないから.必要なら,何でもするだろう.


l  日本の間違ったイメージ

NYT January 6, 2012

The True Story of Japan

By EAMONN FINGLETON

アメリカにおける日本のイメージは間違っている.多くの統計が,日本は敗者や「失われた10年」であると示していない.むしろ顕著な成功例であると言える.

確かに住宅価格や東京の株価はバブルの水準を回復していない.しかし,平均寿命,高速インターネットが利用できる都市,通貨の価値,失業率,高層ビルの建築数,経常収支黒字,などで見て,日本はアメリカよりも優れている.

日本研究者に尋ねても,日本のイメージは現実と全く違う,という.アメリカの老朽化した空港から,日本の超近代的な拡張された空港に着くときほど,それを感じることはないだろう.日本人の服装も,乗っている車も,インフラも,アメリカより優れている.

なぜ日本を敗者とするイメージがこれほど広がっているのか? アメリカの統計は粉飾されている.質的な改善も示されていない.西側の考え方が日本を過小評価することを習慣としてきた.貿易や外交においては,バブル崩壊によって日本を憐れむ気持ちから交渉姿勢が変わった.これを日本は(好都合として)受け入れた.

日本の人口減少も,敗戦後に帝国の拡大を放棄し,食糧の海外依存を懸念した政府が選択した戦略である.人口減少と医療・社会福祉の改善が「衰退」と見えているだけだ.アメリカの,特に,市場崇拝型のイデオローグたちは,日本の成功を社会主義と同じだとみなして非難してきた.

こうしたイメージは日本の地政学的な評価を低くした.しかし,日本が達成した成果は競争するいかなる国よりも秀でている.すなわち,ドイツ,韓国,台湾,中国だ.彼らの輸出成長に対応して,日本は来る字を増やしている.日本の政治家は成長をもたらすインフラ投資ではいつも団結してきた.アメリカではフーバー・ダム以来ないことだ.


l  アメリカとイランのチキン・ゲーム

FP JANUARY 6, 2012

This Week at War: The Gathering Storm in the Gulf

BY ROBERT HADDICK

FP Monday, January 9, 2012

Will sanctioning Iran 'work'?

Posted By Daniel W. Drezner

Project Syndicate 2012-01-09

Saving Face and Peace in the Gulf

Anne-Marie Slaughter

アメリカとイランは「チキン・ゲーム」に入った.臆病者が先に折れる.政治的な威信が問題になれば,いずれも引くことはできない.ホルムズ海峡は世界経済のエネルギーを担う生命線である.双方のメンツが立つような解決策を,第三国が入って仲介するべきだ.

イランが核兵器を製造することまで計画しているかどうかはわからないが,イランは明らかに核拡散防止条約に違反しており,IAEAがそれを宣言した.その行動は中東地域の安全保障を脅かし,世界の安全保障にも深刻な影響を与える.イランが核武装すれば,地域は軍拡競争に突入し,サウジアラビアや,おそらくトルコ,エジプトも核武装するだろう.今,イランの行動を柔軟に許容すれば,それは他国の核武装を刺激するだろう.

アメリカのオバマ政権は共和党の大統領候補から圧力を受けている.イランの国内政治も内部に強硬派の圧力があるだろう.西側がイランを非難すれば,イラン指導者たちは国民にアメリカの大悪魔というイメージを強化する.

冷静な立場で,ブラジルやトルコが今こそ仲裁するべきだ.核物質の地域貯蔵機関(a regional nuclear-fuel bank)を樹立してイランの参加を認めることが考えられる.それは,韓国(イランの主要貿易国)やロシアも参加し,世界核貯蔵機関にもできる.そして,地域のすべての国が船舶の自由航行を承認するのだ.

Global Times | January 10, 2012

Helping Iran weather a looming storm

By Global Times

WSJ JANUARY 10, 2012

Beijing and Tehran's Coming Divorce

By ILAN BERMAN

WP Friday, January 13, 1012

Iran and the U.S. need a way to communicate

By David Ignatius

双方が誤解や判断ミスを避けねばならない.これには前例がある.1962年,キューバ危機の際に,ジョン・F・ケネディーは米ソの裏交渉を利用した.弟であるロバートケネディー司法長官と中米ソ連大使Anatoly Dobryninが話し合い,アメリカ側は目標や行動計画を伝えた.

現在,アメリカとイランの間にはこうした交渉チャンネルがない.1979年のイラン革命以来,外交関係が断たれたからだ.

そこで,両国は,即座に裏交渉のチャンネルを持つべきだ.緊急情報を伝える,一種の「ホット・ライン」である.諜報機関同士でよい.


WP January 6, 2012

New Year, old problems

By Robert Kagan

LAT January 8, 2012

Overspending the peace dividend

Max Boot


NYT January 7, 2012

My Guantánamo Nightmare

By LAKHDAR BOUMEDIENE


l  資本主義を支持できるか?

FT January 8, 2012

Current woes call for smart reinvention not destruction

By Lawrence Summers

アメリカ人は資本主義を熱烈に支持してきたが,最近では特に若い人に反対する者が増えている.資本主義への幻滅は,18-29歳,アフリカ系・ヒスパニック系の,年所得が3万ドル以下,民主党支持者に多い.

問題は,資本主義システムの構造にあるのか,それとも景気変動に適切な政策を取らなかったことにあるのか? ケインズが示したように,後者であろう.しかし,公平性に問題がある,という声も強い.社会の移動性は減ってきた.

その原因は技術的なものだ.技術進歩によって農業中心の社会が工業に重心を移してきた.同じように,今は製造業からサービス業に重心を移動させている.テレビセットと入院代の違いだ.工場労働者の賃金も上昇したが,住宅価格,食糧,医療,教育の費用の方がもっと上がった.さらに,前者に比べて後者(医療や学校)は資本主義の性格が弱く,公的部門だった.資本主義的な経済でも,政府が破たんするのだ.

資本主義システムは成功したのだが,その結果,個人の生活に占める教区や医療,行政の費用が増大した.それらをどうしたら再生できるのか,問われている.

FT January 8, 2012

Undermining the case for capitalism

FT January 8, 2012

Capitalism in crisis: The code that forms a bar to harmony

By John Plender

1970年代から英米で始まった不平等の拡大は他の資本主義国への広まった.グローバルな超資産家にとって,金融ビジネスが富をもたらす牝牛である.分配問題が資本主義の政治的な基盤を掘り崩す.

ミンスキー,ケインズ,オルソン.危機後の政治は,労働組合と金融ビジネス,二つの特殊利益集団の政治圧力によって,社会の成長力を損なう過程にある.

guardian.co.uk, Monday 9 January 2012

Responsible capitalism is Labour's agenda

Stewart Wood

guardian.co.uk, Monday 9 January 2012

Ed Miliband is right: fairness in capitalism matters

Polly Toynbee

FT January 9, 2012

Why I’m feeling strangely Austrian

By Gideon Rachman

FT January 9, 2012

A letter to capitalists from Adam Smith

David Rubensteinmanaging director and a co-founder of The Carlyle Group

アダム・スミスより,世界の資本家たちへ.

資本主義が社会主義や共産主義に勝利したことは喜ばしい.しかし,国家が動揺し,抗議デモが集まり,失業者や赤字が累積する.生産的な経済活動を刺激し,多くの人が参加できる,という資本主義の価値が疑われるのだ.

私は資本主義が完璧だなどと主張していない.それはチャーチルが民主主義を語ったように,変わりうる他の制度に比べて良いものだというだけだ.

私はいつも二つの原理的な欠陥を意識していた.あまりに多くの富に溺れることはブームを呼び,その末に崩壊をもたらす.また,富の創造がもたらす競争で,そのものにほとんど責任がないような不平等を拡大する.

資本主義の根本的な問題に完璧な解決策は見いだせないが,2012年になすべきことはある.

1.ユーロとEUを救え.2.アメリカの財政赤字を抑えよ.3.新興市場を統合せよ.4.教育を重視せよ.

すべての国民と人々に豊かさをもたらすことこそが,資本主義の正当性を高めるのだ.

FT January 10, 2012

Let’s talk about the market economy

By John Kay

FT January 11, 2012

West needs to go back to capitalist basics

By Mahathir Mohamad

FT January 12, 2012

You may not want to ... but it is time to hug a hedgie

By Sebastian Mallaby

FT January 12, 2012

The market still has no rivals

By Samuel Brittan

政府より資本主義が正しいと思うのは,個人の自由,政治的自由を確保するからである.道路,鉄道,保険会社,株式会社が,すべて政府の一部であれば,・・・そこで雇用されたものがすべて政府の顔色をうかがうのであれば,表現の自由も憲法も名ばかりのものになる,とかつてJ.S.ミルは批判した.


l  中国とインドの政策交換

FT January 9, 2012

China and India: right policy, wrong place

By Arvind Subramanian

インドと中国はその政策を交換するべきだろう.

最近の金融危機を経て,インドと中国の政策が対照的なことは重要だ.インドは資本規制を撤廃し,株式市場も外国人投資家に開放しようとしている.中国は慎重に一部の投資家に開放しつつ為替レートを管理し,その重商主義的な政策を続けている.

中国の政策には三つの重大なコストがある.1.資本が無駄にされ,将来の成長を損なう.特に,労働者への分配が少ない.2.中国経済が外部のショックに弱くなる.3.外貨準備が膨張して,人民元の増価が進むほど価値を失う.むしろ資本取引を自由化して,為替レートを増価させ,内需中心の成長にすれば外部のショックに強くなるし,外貨準備の増大も抑えることができる.

インドは逆に資本を受け入れることに心配がある.経常収支は赤字であり,資本流入に依存する.中国は資本規制して競争的な為替レートを求めるが,インドはインフラ投資に外部の資本を取り入れる必要があった.それは為替レートを増価させてしまい,経常収支の赤字が続く.輸出製造業とその雇用にとって不利な条件だ.こうして資本流入を支持するけれど,インフレ整備は土地取得に制限されている.

中国はインドの自由化から学び,インドは中国の輸出と貯蓄から学べるだろう.

WP January 9, 2012

Is a Chinese economic slump on the horizon?

By Robert J. Samuelson


l  新しい「三国協商」

Project Syndicate 2012-01-10

Asia’s New Tripartite Entente

Brahma Chellaney

アジア太平洋の時代に,アメリカ,インド,日本という主導的な民主主義国が協力関係を深めている.この政策は急速に台頭するドイツに対して,フランス,イギリス,ロシアが協力した「三国協商」を思わせる.

しかし,19世紀の三国協商と違い,この三国間協力は中国を封じ込めるためのものではない.中国の指導者たちが地域の覇権を求めることを思いとどまらせて,国際秩序への完全な統合を促すためのものだ.三国間協力の目的は,安定的で,リベラルな,ルールに基づく地域秩序の構築である.

アメリカから二国間の安全保障条約で結びつく方が,アメリカは日本を保護国として利用できただろう.しかし,中国は「非同盟」外交から転換し,アメリカは防衛予算を削り,国内経済の再建に比重を移す.日本も独自の地域安全保障に貢献を求められ,より均衡した同盟関係に入る.

新しい三国協商が成功するには,戦略目的に関する真摯な議論が必要であり,今後,インド洋の安全保障などでも協力し,軍事作戦などを協力して行えるような訓練も必要だ.こうしてアジアのパワー・バランスの健全さを回復する.


WSJ JANUARY 9, 2012

Malaysia's Moment of Sanity

By BRIDGET WELSH


WSJ JANUARY 9, 2012

The Conservative Case for a Wealth Tax

By RONALD MCKINNON

Project Syndicate 2012-01-10

Global Imbalances and Domestic Inequality

Kemal Derviş

中国など,新興諸国と,アメリカのような旧工業諸国の間にグローバル・インバランスがあると注意されてきた.世界経済の回復にはこの均衡化を促すべきである,と.

しかし,新興国の黒字が減って,旧工業国の赤字が減る,という単純な図式は間違いだ.新興諸国には赤字の国があり,旧工業諸国にも黒字の国がある.中国の人民元は,国内のインフレで実質的な為替レートの図化は進んだが,ドイツのような旧工業国も黒字の国がユーロ危機で黒字をさらに増やす.

もう一つ,重要なことは,所得分配が不平等な国には支出を減らす偏りがあることだ.高所得者はその所得ほどには支出をせず,所得分配の不平等化は景気を悪化させる.

Project Syndicate 2012-01-12

The Straits of America

Nouriel Roubini


l  震災とハイチ移民

FP JANUARY 9, 2012

The Haitian Migration

BY CHARLES KENNY

15万人の犠牲者を出した2010年の地震被害から立ち直れないハイチの窮状を緩和するために,アメリカは一時的な移民を大規模に受け入れるべきだ.最近もこれらの被害で7000人が亡くなった.援助機関が支出してもハイチの企業や銀行が壊滅状態であれば,その支払いは外国企業に流れてしまう.ハイチ経済の復興は容易に進まない.

535000人のハイチ移民がアメリカで働き,ハイチに送金する額は年間20億ドルに達する.また,ハイチにとどまって復興を待つより,アメリカで働くことで様々な分野の労働に就ける.彼らはハイチ復興に大きな貢献をするだろう.アメリカ政府にとっても,援助やNGOsスタッフがハイチに向かうより,ハイチの労働者を積極的に受け入れて,農業など,H2ビザを活用し,移民労働者の雇用を求める分野で利益をもたらす活動を刺激する方が長期的にハイチ復興を支持できる点で賢明だ.


FT January 10, 2012

Hopes in emerging countries

By Martin Wolf

確かに世界経済の成長に占める新興諸国の影響は強まっているが,新興諸国の成長によって旧工業諸国・富裕諸国が不況を抜け出すことにはならないだろう.新興諸国には内外の要因による様々な弱さがある.不平等の拡大や都市化,インフレは社会のストレスを高める.

FT January 11, 2012

How the globe can grind to a halt

By Stefan Wagstyl

FT January 11, 2012

The smart technology loser folds

By John Gapper

WSJ JANUARY 12, 2012

Kodak Didn't Kill Rochester. It Was the Other Way Around

By RICH KARLGAARD


NYT January 10, 2012

Political Islam Without Oil

By THOMAS L. FRIEDMAN


FT January 12, 2012

Politics and the American language

By Gary Silverman

WP Friday, January 13, 1012

Ron Paul’s achievement

By Charles Krauthammer

WP Friday, January 13, 1012

Does Romney have the right kind of business background?

By Robert J. Samuelson

WSJ JANUARY 13, 2012

How Private Equity Works

By JONATHAN MACEY


FP JANUARY 12, 2012

The Drive for Dignity

BY FRANCIS FUKUYAMA

FP JANUARY 12, 2012

Dances with Thieves

BY ANNE APPLEBAUM


Project Syndicate 2012-01-12

The Political Economy of Peace

Graciana del Castillo


YaleGlobal Online 12 January 2012

London’s financial circle and the UK chafe at EU regulations

Philip Whyte

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The Economist, January 6th 2012

We need to talk about Kim

Succession in North Korea: Grief and fear

American politics: The right Republican

Vaclav Havel 1936-2011: Living in truth

Heterodox economics: Marginal revolutionaries

Economics Focus: How to get a date

(コメント) 冒頭の北朝鮮に関する記事に注目しました.金正日は経済改革を決断しないまま,多くの国民を苦しめ,実際に何万人も餓死させ,政治的な理由で投獄し,強制労働させたまま,自分は飽食と映画や寿司を楽しみ,病気によってベッドで自然死したのです.北朝鮮の国民は,韓国民に比べて,平均で3インチ背が低い,と書いてあります.

1994年に金日成が死んだとき,The Economistはこの体制が死滅するしかない以上,今すぐに,死滅させ,南北統一するべきだ,と主張しました.金正日が死んだ今,やはりこの体制は死滅するしかないでしょう.しかし金正恩は体制を維持する二つの有利な条件を持っている.一つは,核兵器.もう一つは,中国からの支援である.

では,中国に委ねて,このまま北朝鮮を放置するべきか? 記事は,北朝鮮が変化を避けられない,と考えます.中国のとの国境貿易が優れた工業製品とともに情報をもたらしています.北朝鮮の人々は,韓国や世界について,ますます多くのことを知るようになるでしょう.他方,中国は北朝鮮をいくら支えても長期的には崩壊すると知っています.

The Economistは,中国が改革を主導する,と考えます.そして,中国の懸念である,北朝鮮の体制崩壊から韓国中心の南北統一や米軍の中国国境に及ぶ北進に至る,という不安を払しょくするべきだ,とアメリカや韓国に勧めます.米中間と日本が,北朝鮮の体制崩壊や南北統一に関する不安を認めて,相互の協力体制につなげるように求めるのです.

アメリカにおける共和党の政治的迷妄を叱咤する内容やハヴェルの評価も興味深いです.

そして,インターネットが設けたブログとコラムの世界で,経済学が正統・異端を超えて論争し始めることを称賛した記事も,期待したような中身ではないですが,読んでみました.

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IPEの想像力 1/16/12

NHK衛星ドキュメンタリーWAVE「スティーブ・ジョブズの子供たち」を観ました.ジョブズのスピーチに影響を受けた5人の若者が登場します.

2005年にスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学でスピーチしたのは,自分の死を意識したからだと思います.

スピーチを聞いた5人の若者が登場します.一人はGoldman Sachsに就職し,年収1000万円を超えますが,彼は仕事に満足できませんでした.仕事のストレスで,鏡に映る自分は急速に老いています.彼はジョブズのスピーチから,他人の人生を生きて時間を無駄にするな,という声に共感します.仕事を辞めて,コンピュータ・ソフトの小さな会社を興しました.たとえ会社が苦しくて自分の給与を支払えないことがあっても,ジョブズの言葉を思い出して,彼はあきらめません.

別の男性であったと思います.ビジネス街をスーツ姿で歩き回って,体の前と後ろに,首から大きな看板を吊るして通行人に話しかけます.・・・「私を雇ってください! 会計士の仕事はありませんか?」 彼は銀行マンでした.自分に向いていないから,それを辞めました.債務返済の遅れた借り手について,書類を毎日チェックし,65ドルを警察に送って,それで終わる仕事です.警察は債務者を住宅から追い出し,銀行は住宅を差し押さえる.

彼は友人の家にわずかの費用で寄宿させてもらいながら,仕事を探しています.毎日,フロリダの両親が心配して電話をくれます.その両親も,毎月の返済が難しくなって,もうすぐ住宅を出るようです.プエルトリコから来た両親のアメリカン・ドリームが終わります.

もう一人の若者ジョニーの職場も投資銀行でした.Goldman Sachsだったかもしれません.高い報酬を得ていましたが,2008年のリーマン・ショックで,勤続年数が短い彼は真っ先に解雇されます.今は町の小さな証券会社で投資アナリストをしています.彼にとって,ジョブズは同じような生い立ちから成功した人物でした.ジョブズも両親が離婚し,養子先と施設を次々に変わったと知りました.そして,ジョブズは奨学金で入学した大学も中退します.

ジョブズの言葉は,自分の可能性を信じさせてくれるものでした.ジョニーも11歳のとき,ホンジュラスから一緒に来た母親が亡くなり,養子となった家族にいじめられたからです.施設を移りながら,それでも彼は奨学金を得てスタンフォード大学で学びました.解雇されて苦しい時期に,友人のエマニュエルから,選挙に立候補するので手伝ってほしい,と頼まれます.しかし友人は落選し,家の外で泣いていた,と母親が当時を振り返ります.今,ジョニーも,苦楽を分かち合える家族を探しています.

一人だけ,女性が紹介されていました.サラは大学でジャーナリストを目指していたから,ジョブズの話をまじめに聞いていなかった,と言います.彼には金がたっぷりあるから,何でもできるのだ.話なんて,特に意味はない.そう思って,彼女はマスメディアの世界に仕事を見つけ,重要な取材もこなしていました.

しかし,2008年にリーマン・ショックが襲ったのです.自分たちと関係ないところで起きた倒産なのに,急速に職場の様子が変わりました.誰もが解雇を恐れ,誰が解雇されるかを探す目になったのです.そのうち彼女も呼ばれて,解雇されます.アメリカン・ドリームなんて嘘だ.どんなに努力しても成功するわけではない.自分はまるで無力だった,という怒りで涙ぐむのです.

サラは仕事を探し,履歴書からスタンフォード大学卒業を消します.レストランなどの仕事は,過剰な学歴を嫌うのです.ジョブズのスピーチで彼女が満足するのは,彼が30歳で解雇された話です.解雇されて強くなれた,という言葉を,ようやく自分も理解できたと思うから.今,彼女は地域の小さなメディアを立ち上げて,情報の取材と発信に飛び回っています.自分は,記事を書くのが本当に好きなのだ,とわかったから.

インドのバンガロールに行った若者もいました.ハイテク・ブームを伝えるためではなく,自分にとって本当に大切なものを見つけるためです.彼はGoogleに勤め,高給を得ていましたが,同じくスタンフォードで知り合った妻と,毎日,経文を唱えて,信仰や娘,両親のために何が重要かを考えました.インドで彼らが立ち上げたのは海外旅行の情報会社だそうです.そして,その利益を地域社会のために使います.利益の一部で,学校や医療施設(?)を建てるのです.

Stay Hungry. Stay Foolish.それは経営者たちに革新を迫る警句であると思っていました.私も,ジョブズやゲイツは幸運にもITブームの最初の波に乗って成功した超資産家であり,これは競争を賛美する企業家の言葉だろうと思っていました.

昨年,ジョブズが56歳で亡くなったとき,Appleに集まった献花の波は,もっと違う側面から起きたのです.自分が本当にやりたいことを信じて,人生を駆け抜けろ.死を覚悟したとき,自分がかつて学んだ大学において,ジョブズは若者たちにそう呼びかけたかったのでしょう.

こうしたダイナミックな人々を社会が励まし,積極的に取り込んで成長する国こそ,本当に強い国なのです.

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