IPEの果樹園2011

今週のReview

12/5-/10

 

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スイスの変身 ・・・資本主義 vs 民主主義 ・・・ユーロ危機の後に ・・・思想家・歴史家へのインタビュー ・・・韓国の変身 ・・・産業政策 ・・・1930年代は再来するか? ・・・ドルから人民元へ ・・・アジアの支配者

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  スイスの変身

FT November 25, 2011

An Alpine peak the eurozone can only aspire to

By Tony Barber

「スイスは、社会が解体過程にある国家の完璧なイメージを示している。」Prince Klemens von Metternich, Austrian statesman, 1845

・・・社会の解体? スイスで? そんな馬鹿な、と思うだろうが、メッテルニッヒは誇張したわけではない。1840年代のスイスは平和と繁栄の山岳楽園ではなかった。債務に依存した現在のヨーロッパ人と同じくらい、当時のスイス人にも政治紛争と経済崩壊がいつも起きていた。

スイスは幸いにもそれを終わらせた。メッテルニッヒ時代のカオスは1848年の改革で連邦国家に変わり、様々な失敗を経ながら、自由、豊かさ、社会的安定性を実現した。EU市民がスイスをうらやむのは当然だ。ユーロ圏の問題を、スイス型の解決に導けるだろうか?

異なるコミュニティーが、経済的に効率的で、財政的に規律を保つには、何が必要か? スイスには26のカントン(州)がある。連邦の憲法と通貨を共有し、単一市場と中央銀行を持つ。カントンやコミューンは連邦の支配を好まず、自治政府の権力を保持する。多くの言語があり、4つの公用語があり、多くの国民はスイス・ドイツ語(しかし、ドイツ語とはかなり異なる)を話すし、ビジネスにおいては英語が共用されている。

ユーロ圏と違う点は、2001年、国民投票で、憲法に連邦の財政均衡を定め、その後、急速に財政赤字を減らしたことだ。ドイツのメルケル首相はこれに強く影響された。スイス国民銀行は、ECBよりも尊敬されている。それゆえ、スイス・フランの増価を阻止する決定的な行動を取れた。

スイスは、ユーロ圏と違って、主権国家として行動できる。国際政治における中立や、直接民主主義は、スイスのアイデンティティーになっている。スイスを完全にまねることは、自国に氷河を望むのと同様、不可能だろう。


l  資本主義 vs 民主主義

WP November 25, 2011

The growing tension between capitalism and democracy

By Harold Meyerson

資本主義と民主主義は両立可能か? それらは互いを弱めるのか?

冷戦から現在まで、アメリカの指導者たちはこの二つを切り離せないものとして言及し続け、中国にも民主化を求めた。しかし、ヨーロッパの最近の事件では、資本主義が次々に民主主義を脅かしている。ギリシャ、イタリア、スペイン、フランス。

Wolfgang Streeckによれば、1970年代半ば以来、政府は様々な対立する要求に応じ、賃金上昇の止まった労働者を助けるために、インフレ的な政策を取る結果になった。1980年代、レーガンやサッチャーの政府は、高金利や高失業率で労働組合を破壊した。1990年代、これらは重大な妥協を生んだ。

低迷する所得を補うものとして、民間債務が増大した。住宅取得や消費を、規制緩和された金融機関による信用膨張が助けたのだ。公的債務は縮小した。2008年の金融崩壊で、このダイナミズムが逆転した。民間債務が減るのを、大不況にしないため、あらゆる面で公的債務が代わろうとしている。

ナポレオンはヨーロッパを支配できなかったが、資本の支配は実現するかもしれない。

FT December 1, 2011

We need not fret over the omnipotent markets

By Roger Altman

金融市場のパワーは諸刃の剣である。社会に及ぼす即座の結果は、失業の増大、政権の崩壊である。しかし長期的に見れば、それはしばしば改革を促し、プラスの効果をもたらす。

1980年代、ラテンアメリカの債務危機はブラジルとアルゼンチンの権威主義体制を倒した。その後、メキシコとロシアのデフォルトは予算と金融政策を転換した。1997-98年のアジア通貨危機は、対、インドネシア、韓国でIMFによる広範な改革が実行された。


l  ユーロ危機の後に

WSJ NOVEMBER 25, 2011

Europe's IMF End-Run

Project Syndicate 2011-11-25

Europe’s Last Best Chance

Michael Boskin

WSJ NOVEMBER 26, 2011

Memo to Europe: Forget the War

By HOLMAN W. JENKINS, JR. and LIKE THIS COLUMNIST

FT November 27, 2011

The eurozone really has only days to avoid collapse

By Wolfgang Münchau

事態が十分に悪化すれば、政治家たちは行動する、と言われてきた。しかし、集合行為の問題はそれを妨げる。

ドイツの債券でも売れなくなった。EFSFは、その財源を提供する国(フランス、ベルギー、オランダ、オーストリア)にまで不安が波及したことで、危機の解決策ではなくなった。

今すぐ三つの決断が必要だ。ECBが(あるいは、EFSFを介して)スプレッドの拡大を制限するために債券を購入する。ユーロ債の発行に向けた明確な予定を示す。それは政府間の保証が危機を波及させる問題になったことを終わらせる。財政統合(EU財務省)に向けた決定を行う。

欧州委員会の対策発表をメルケル首相は強くけん制した。メルケルはユーロ債に反対していたが、財政統合を条件に、ユーロ債発行を認めるべきだ。

FT November 27, 2011

Thinking the unthinkable on a euro break-up

by Gavyn Davies

ユーロ圏が解体すればどうなるか? 1.周辺における離脱が起きて、ユーロの価値が急速に回復する。その後は安定する。2.ドイツ・オランダ(など)の離脱。その場合、残された諸国によるユーロの価値は急激に減少する。あるいは、残った諸国もユーロを離脱して各国通貨を再建する。その結果、債権債務の為替レートによる変動は予期しないものであり、特に、銀行の資産(イタリアやスペインの債券)を大きく損なう。様々な訴訟が起きて混乱する。3.ユーロ圏が財政統合に向けたユーロ債を発行して安定化に利用する。

BLOOMBERG Nov 27, 2011

The Euro Area Is Coming to an End

By Peter Boone and Simon Johnson

ついには、ECBによる大規模介入が始まると予想して、投資家たちは将来のインフレを懸念し、ドイツの政府債券も売られるにいたった。もしドイツがECBの介入を阻止すれば赤字国の破綻が避けられない。ECBによる債券購入を増やせば長期にはインフレが避けられない。

「究極的には、ヨーロッパに統合された通貨圏が残るだろうが、それに含まれる国は減って、財政の中央集権化が進むだろう。ドイツは弱体な諸国をユーロ圏から追い出すか、むしろドイツがその他の国とユーロ圏を離脱して自分たちの通貨圏を作るだろう。その後、ユーロ圏は再び拡大するかもしれないが、政治、経済、財政における緊密な統合化が実現してからになる。」

guardian.co.uk, Monday 28 November 2011

Europe's crisis is an opportunity for democracy

Ulrich Beck

FT November 28, 2011

Don’t admit defeat – fiscal union can still work

By Jean Pisani-Ferry

危機に関してすでにメルケル首相が言及してきたように、各国の財政赤字に対する拒否を制度的に行えるようなヨーロッパ規模の仕組みが財政統合として実現する方向にある。しかし、問題はその見返りがないことだ。

ドイツが重債務国に容認する一時的な統合ユーロ債券の発行案は、調整のための時間を稼ぐこと、また、ユーロ圏内の信頼を回復することで、実施する価値がある。

SPIEGEL ONLINE 11/28/2011

Euro Zone on the Brink

A Continent Stares into the Abyss

メルケル首相がECBによる融資を拒む中、ドイツがマルクに復帰する提案も一部のエコノミストからなされています。ユーロ危機の深化に応じて、さまざまな解決策の詳しい経過を示します。

先週の木曜日、ストラスブールに集まった指導者たちは誰もユーロ債に言及しなかった。メルケルの支持なしには何も決まらない。メルケルはユーロ債に反対し、ECBの行動にも反対する。深刻な現実とは対照的に、ヨーロッパの政治は動かない。

メルケルはヨーロッパで孤立しているが、いかなる妥協も国内では憲法裁判所や連立政権の協力政党FDPに反対される。フランスのミッテラン大統領顧問であったアタリJacques Attaliは言う。「今や、ドイツは再び、ヨーロッパ大陸のすべてが自殺するだけの武器を手に入れた。」

しかし、と記事は反問します。このようなユーロ債による「債務同盟」はヨーロッパの救済融資禁止条項に反するし、ユーロ圏の負債をドイツが負う危険がある、と。メルケルは、債務を増大させた国が行動を変える条件を受け入れなければ、こうした解決は意味がない、と指摘する。

メルケルの採用した漸進主義について、そのスピードが遅く、改革の程度も余りに小さいため、投資家たちの我慢が維持できなくなっている。民間債権者が負担を求められたことも将来への不安を強めた。アメリカやアジアからの投資はヨーロッパを避けるだろう、と懸念されている。また、ヨーロッパの銀行は資金調達が難しくなる。

ECBが「ビッグ・バズーカ」として流動性を大量に供給することが、アメリカ連銀と財務省による2008年の安定化政策から主張されている。しかし、ユーロ圏はまったく異なる。もしECBが政府債券をすべて保証したら、それは財政が悪化した政府にECBが服従したことを意味する。ECBの独立性が致命的に損なわれるのだ。

高めのインフレ、ユーロ債発行、予算赤字の監視、金融緩和、ドイツの孤立、そして、ユーロ圏からの離脱と解体、なども検討されます。

ドイツの有力なエコノミスト、Hans-Werner SinnOtmar Issingがギリシャのユーロ圏からの離脱と切り下げを支持する。他方、イタリア、バルセロナの経済史家Hans-Joachim Voth、ドイツ、ハンブルグのDirk Meyerは、ユーロ圏内の強国、ドイツなどが離脱するべきだ、と主張する。そして、ユーロ圏を離脱すれば通貨価値が下落すると予想される国から、すでに資産が売却され始めている。Meyerは、ドイツが離脱するコストよりも、ユーロ圏にとどまって負担するコストの方が大きい、と考えている。

メルケルが述べたように、ユーロがなくなれば、ヨーロッパもなくなる、という心配を国民が持つなら、ドイツはユーロ圏にとどまり、救済を続けるだろう。

Project Syndicate 2011-11-28

The German Hour

Jean Pisani-Ferry

VOX 28 November 2011

Why the ECB refuses to be a Lender of Last Resort

Paul De Grauwe

この数週間で、ユーロ圏が生き残れるかどうか、決まるだろう。それでもECBが救済をしない合理的な理由を考える。それは愚かであり、危険である。

中央銀行は、最後の貸し手として行動しないことで、どのような利益があるのか? もし行動しないまま銀行システムが維持できたら、モラル・ハザードを生じることなく、銀行システムの長期的な安定化が図れるだろう。銀行の破たんが近づけば、行動しないコストは急速に増大するが、その利益は将来に実現できるだけだ。

最後の貸し手として行動するコストと利益とが発生する時間的な違いは、最も保守的な銀行家にも、将来の利益を無視して銀行システムを守るために行動を取る合理的な説明を与えている。

しかし、銀行システムを守ることと政治債券市場に介入することとの違いは、この時間構造にある。債券市場の危機は銀行システムに比べて実現するスピードが遅い。債券の満期が5年から7年あるからだ。そのため中央銀行は考える時間があり、最後の貸し手として行動しないコストと将来の利益(あるいは、モラル・ハザードの回避)とを比較できる。

もしそうであれば、ECBは銀行システムが危機になるまで行動しないだろう。債券価格が下落し、銀行の資産価値が失われて銀行危機が生じる。それは金融逼迫や銀行間市場の麻痺を伴う。

その結果、将来、ECBが介入する資金量は巨大になるだろう。そして、危機後の経済停滞は長期に及ぶだろう。

FT November 29, 2011

What the IMF should tell Europe

By Martin Wolf

IMFはユーロ圏を救えるか? いいや、できない。しかし助けにはなる。IMFには救済するような財源がない。IMFはユーロ圏に厳しい真実を告げることだ。

ユーロ圏には二つの選択肢がある。一つは苦しい選択であり、もう一つは破滅的な選択だ。前者では、債務免除、金融危機、深刻な不況を回避するために、調整を実現する劇的な政策転換を行う。後者では、ユーロ圏を解体し、不況を受け入れる。

世界経済にとって、よりが悪の少ない選択をユーロ圏ができるように、IMFは直言せよ。

FT November 29, 2011

Time to act – Italy must restructure its debt

By NourielRoubini

SPIEGEL ONLINE 11/29/2011

Preparing for the Worst

The High Price of Abandoning the Euro

By David Böcking

SPIEGEL ONLINE 11/29/2011

SPIEGEL Interview with Romano Prodi

'Germany Must Make a Decision or the Game Is Over'

NYT November 29, 2011

Germany’s Denial, Europe’s Disaster

WP 11/29/2011

Europe at the abyss?

By Robert J. Samuelson

Moody’sの最新の報告書は、これまでの格付け引き下げや警告とはその内容が異なる。ヨーロッパは大陸規模のメルトダウンに近づいている、と警鐘を鳴らしている。

・・・政策担当者は制御できなくなりつつある。・・・ギリシャだけでなく、もっと多くの政府がデフォルトすることも考えられる。・・・一つかそれ以上の国がユーロを離脱するかもしれない。・・・離脱した国の銀行システムは一定期間機能しなくなるだろう。企業や家計の破産が波のように起きる。ユーロ圏の最強国(ドイツ、オランダ)でも、ユーロ圏外の近隣国(イギリス、スウェーデン)でも、債券の格付けが低下するだろう。

事態は突然の停止に向かうかもしれない。ヨーロッパは世界経済の5分の1を占め、アメリカなど他の地域にも破壊的な影響が及ぶ。

Project Syndicate 2011-11-29

Europe is Not the United States

Martin Feldstein

非常に異質な経済を集めて単一の通貨を強制した結果、ヨーロッパは危機を迎えつつある。ギリシャの財政危機やイタリア、スペインの支払い不能リスクは、ユーロ危機の一部でしかない。単一通貨の採用は、ヨーロッパの銀行の脆弱性、高い失業率、諸国間の大規模な貿易不均衡、にも現れている。

単一通貨の支持者たちは、アメリカが単一通貨でうまくいくのだから、ヨーロッパにもできる、と主張した。両方とも巨大な、大陸規模の、多様性がある。しかし、その主張は、アメリカとヨーロッパの三つの重要な違いを無視していた。

1.アメリカには実質的な単一労働市場がある。労働者は失業率の高い地域から反映する地域に移動する。ヨーロッパは各国の労働市場が言語や文化、宗教、労働組合、社会保険制度で分断されている。

2.アメリカには中央集権化された財政制度がある。ある州の経済活動が他の地域よりも衰退すれば、その週の個人や企業が支払税金は減る。そして連邦財政からその週が受け取る資金が増える。こうして衰退の40%が相殺されて、財政刺激を得る。

3.アメリカの州財政は憲法によって各年の均衡を求められている。財源が一時的に不足することに備えるよう求められ、州の借り入れは道路や学校のような資本に限られる。アメリカの州は貨幣を作り出すことで財政赤字を埋めることはできない。ユーロ圏のような財政赤字や債務問題は起きない。

ユーロ圏は、こうしたアメリカの特徴を欠いたまま、政治同盟に進もうとしている。アメリカのような連邦財政がなく(それはドイツに大きな負担を求める)、政治度名が労働の移動性を高めることもないだろう。為替レートの切り下げで競争力を回復することもないから、貿易収支の不均衡も解消しない。

こうしたユーロ圏が政治同盟として、各国の財政に関するドイツの発言力を強めるなら、その主権の移譲はドイツと他の諸国との間で緊張と対立を激化させるだけだろう。

SPIEGEL ONLINE 11/30/2011

Interview with Ex-Greek Prime Minister

'The EU as an Institution Is Still too Slow'

WP November 30, 2011

Europe made easy

By Matt Miller

14歳の娘にヨーロッパが不況の原因を説明するのは難しい。共通通貨はバーターより便利だ。しかし、各国ごとの財政が残り、それに欲の深い銀行家や政治家が信用膨張を利用した。人々は債務が返済されないことを恐れ始めた。そして、共通通貨が崩壊することまで心配している。ドイツ人はギリシャやイタリアを救済したがらない。いまさら通貨を分割することも難しい。

WSJ NOVEMBER 30, 2011

A Political Solution for the Euro?

By GEORGE MELLOAN

guardian.co.uk, Thursday 1 December 2011

China cannot be Europe's saviour

Phillip Inman

WP Thursday, December 1, 2011

Saving the euro — and the European Union

By Daniel M. Price


l  思想家・歴史家へのインタビュー

SPIEGEL ONLINE 11/25/2011

Habermas, the Last European

A Philosopher's Mission to Save the EU

By Georg Diez

「もう十分だ。」とハーバーマスは憤慨する。ヨーロッパが世界史のゴミ箱に捨てられるのを見たくない。私は一人の市民だ。ヨーロッパのプロジェクトを、もはやエリートの手に委ねてはならない。

ハーバーマスは、危機の間にメルケルとサルコジが作ったシステムを「ポスト・デモクラシー」と呼んで批判する。そんなEUの中で、諸国家は市場によって動かされている。彼はヨーロッパを愛し、ヨーロッパを守るが、そのヨーロッパは逆立ちしている。

ハーバーマスは哲学者として、人々の合理性を信じ、古くからの民主主義を信じ、社会を改善する高教研を信じている。

1848年のドイツ革命を思い出すべきだ。それが失敗したとき、人々が民主主義を同じ水準にまで回復するのに100年かかった。

SPIEGEL ONLINE 11/25/2011

SPIEGEL Interview with Timothy Garton Ash

'We Are Still Doing Too Well'

あなたが医師で、ヨーロッパは患者だとすれば、どんな診断を下しますか? ・・・ヨーロッパは中年の女性で、何度も心臓発作に苦しみ、現在、障害で最悪の健康状態にあるけれど、それは致命的なものではない。

戦争、占領、独裁、ホロコースト、ソ連の脅威、など、政治家たちが語る経験はEUを推進する力にならなくなった。1989年が新しい推進力になると期待したが、メルケルもその変化の一員であるけれど、EUについての感じ方と推進力はまだわからない。

民主主義と資本主義とは戦後の西側において一体であった。この危機では資本主義が民主主義を蝕むのか? ・・・この20年間に拡大した金融資本主義は、ヨーロッパだけでなく、西側のすべての民主主義を死滅させつつある。


l  韓国の変身

WP November 26, 2011

Ending global aid in a generation

By Tony Blair

50年前、韓国、プサンの光景は国際援助でなじみのものであっただろう。崩れ落ちた波止場に無造作につみあがった穀物の袋。その背景は戦争を終えたばかりの国であり、基本的な物資も外国からの援助に依存していた。しかし、各国の発展を担う指導者たちがプサンに集まり、議論しているのは、援助の将来についてだ。彼らは全く違った場所を見ている。世界第5位の貿易港。輸送の先進技術によって世界と結ばれている。この韓国の奇跡が、援助の受け入れ国を援助提供国に変えた。」

援助はまだまだ不十分だ。貧しい諸国の発展はガバナンスと援助によって改善される。すべての社会が政府を必要としている。ガバナンスを改善するために、我々は各地の政府が市民たちの能力を改善する力を高めなければならない。

アフリカも、ガバナンスを改善することで、援助への依存を解消し、発展できるはずだ。病気を撲滅し、教育を改善する。そして、政府は外国からの持続的な投資を誘致し、明確なルールを示し、地域の障壁をなくす。イギリス政府を離れてから、私はthe Africa Governance Initiativeを通じてこの問題にかかわってきた。

豊かな国も、新しいグローバルな関係を築くべきだ。中国やインドのような新興諸国が現れて、古いルールは変更されていく。安全保障、気候変動、水や石油のような希少資源、安定した金融システム、など、世界的な取り組みを要する重要問題が多くある。

近年、シエラレオネのフリータウンやリベリアのモンロヴィアを何度も訪れた。過去10年の野蛮な戦争が、その土地の社会を破壊しつくしたシンボルとなった町だ。しかし、それらは再建され、人々は活気を取り戻している。進歩の指針となり、広い世界に向けて開放された、自立した人々の新しいシンボルだ。

韓国、プサンに集まった国際社会の代表たちは、開発の新しい計画を示し、その中で、プサンはフリータウンやモンロヴィアの未来となる。


WSJ NOVEMBER 26, 2011

The Rise of Nations

By STEVEN L. KAPLAN

「パンと自由」を求めてフランス革命は起きた、という。食糧供給を確保することが国家の重要な責務だった。18世紀のフランスや西欧において、自由貿易も食糧規制に関する論争だった。


VOX 26 November 2011

The impossible trinity

Stephen Grenville

なぜアジアにトリレンマ論は当てはまらないのか? トリレンマは政策選択の制約を考える上で重要だが、単純化されている。実際には、資本移動が自由かどうかだけでなく、いつ、どのような理由で資本移動の浮動性が高まるのか、を知る必要がある。


FT November 27, 2011

China can help west build economic growth

By Lou Jiwei

Global Times | November 27, 2011

China can wait on prospects of new deal

By Ding Yifan

WSJ DECEMBER 1, 2011

China's Hard Landing


l  産業政策

FT November 27, 2011

Time to end the taboo and have an industrial policy again

By Diane Coyle and Paola Subacchi

イギリス政府の成長戦略は二転三転して定まらないが、その緊急性は高まっている。答えの一部は新しい産業政策であるだろう。

これは1970年代に失敗した「勝者を選ぶ“picking winners”」政策ではない。この20年間、成長の原則と成果の不平等な分配は、ストライキの波や反資本主義の運動に示されている。また、熟練やインフラ、経済構造にも根本的な弱点が現れている。

現代の産業政策は、イギリス国民一般のために、将来に向けて資源や資産を戦略的に配分する。たとえば、人口が高齢化するにつれて医療や介護の市場は拡大する。こうした分野で革新や製品開発、生産性の上昇が起き、熟練の形成と雇用が増える。高齢者のためのロボット工学や携帯電話の利用が拡大する。

有意義な計画とは、訓練やインフラ整備を通じて、民間投資のインセンティブを高めるものだ。政府は長期的な見通しについての情報を集めて共有することを促す。基礎研究を支援し、革新的な利用のために民間部門と提携する。こうした指導をしないまま、高齢化する国民が低熟練の労働集約的な伝統的介護産業に向かうなら、その分野は移民労働者に大きく依存し、しばしば政治対立を生じているように、成長や雇用の解決にはならない。

高付加価値の、新技術を利用した、革新的な産業が拡大するには、現状維持を打破し、新しい協力関係を築くための支援策が必要だ。


FT November 27, 2011

America is back in the Pacific and will uphold the rules

By Tom Donilon

WSJ NOVEMBER 29, 2011

The Coalition Against Chinese Hegemony

By PHILIP BOWRING

Project Syndicate 2011-11-29

A Shift from the Middle East to the Pacific

Christopher Hill


l  1930年代は再来するか?

FT November 28, 2011

The long shadow of the 1930s

By Gideon Rachman

ヨーロッパの事態が悪化し続けて最悪の世界に向かうのか? 世界恐慌? 世界戦争? 歴史の本でしか読んだことがないような。

ポーランドの外務大臣Radoslaw Sikorskiはベルリンで警告した。「我々は今、断崖の縁に立っている。」 また、フランスのサルコジ大統領も、「ユーロが崩壊すればヨーロッパも崩壊する。かつて恐るべき戦争のあったこの土地に平和を維持しているのはユーロなのだ。」と警告した。

平和と繁栄は西側に住むわれわれの世代にとって当然のものであり、それが世界の他の部分からわれわれを隔てていることを忘れてしまう。

中国の歴史家Yan Xuetongは本に書いている。「文化大革命のとき、私は人が死ぬまで打たれるのをしばしば見た。そうしたことにもある程度は無神経になるものだ。」

しかし中国には今、文化大革命より、ショッピング・モールや工場が立ち並ぶ。インドは、マザー・テレサより、IT革命で有名になった。グローバリゼーションは世界を、より安全で同質的な場所に変えていく。アジアで新しい中産階級が増え、東欧でも資本主義が賛美されるように。世界平和は、核兵器ではなく、国際貿易と消費経済によって維持されるだろう。

1997年、トニー・ブレアの選挙運動を支えた歌の歌詞、世界がますます改善される、というのは時代の雰囲気を示すものだった。

しかし、2008年のリーマン・ブラザーズ倒産以来、世界は悪化の道をたどる。どこまで落ちるのか? 政府債券が売られ、財政破綻が迫る。ヨーロッパの共通通貨が崩壊する恐れもある。それは1930年代の大恐慌に似た感覚だ。グローバルな金融システムの崩壊が近づいている。

再び、ヨーロッパにはナショナリストの若い政治家たちが一斉に登場し、アジアではさらに急速に新興の中国と凋落するアメリカが衝突し始めた。両国とも、経済危機はナショナリズムと保護主義の力を増大させる。危機のシナリオは嘘ではない。

しかし、それでも私は破局を回避できると思っている。その理由は三つだ。

1.かつての失敗から政治家たちは学ぶ。中国が「和平演変・平和的な興隆」を主張するのは、かつての帝国陸軍が示した大失策を知っているからだ。

2.66年間の平和によって、世界史の循環ではなく、文明の進化が起きている。人々は人類史上で最も戦争を好まないようになった。

3.発展した世界は1930年代よりもはるかに裕福だ。たとえ経済が崩壊しても、なお、人々には守るべき貯蓄や職場、住宅がある。彼らは政治的な過激化に向かわない。

そう思うのは、繁栄の時代に育った者の想像力が限られているだけなのかもしれないが。

NYT November 28, 2011

Germany Cuts Off Its Nose

By JOE NOCERA


LAT November 28, 2011

When droids take your job

不況と高失業率を解消するために労働者への教育・訓練や熟練を強調する政策は、成功するだろか?  ロボット工学の発展が、ますます急速に熟練を不要にするかもしれない。


l  ドルから人民元へ

WSJ NOVEMBER 28, 2011

How the Dollar Rules by Fiat

By JAMES GRANT

Project Syndicate 2011-11-28

The Dollar’s Long Tail

Sanjeev Sanyal

人民元がドルに代わるのは、それほど容易ではない。国際通貨の歴史からそれがわかる。

古代、インドはローマ帝国と多くの貿易を行っていた。貿易赤字でローマから金と銀が流出し続け、ローマは「金融逼迫」に直面した。そこで次第に貨幣の悪鋳を行い、金銀を節約したが、それでもローマの貨幣はその後もずっと受け取られた。

16世紀、スペインは南米を征服して超大国となった。1501年から1600年に、純銀1700万キロ、純金181000キロがスペインに運ばれ、オランダなどにおける戦争に費やされた。この貨幣の供給増はヨーロッパ全域にブームとインフレをもたらした。

それにもかかわらずスペインは17世紀に3度もデフォルトし、地政学的な地位も急落した。ただし、スペイン銀貨はその後も流通し、アメリカ独立戦争まで世界貿易で利用された。アメリカでは1857年まで法貨であった。

金銀複本位であった19世紀半ばに、イギリスで採用された金本位制が1870年までにヨーロッパを統一した。第一次世界大戦でイギリスは一時、金本位制を離脱するが、1925年に復帰し、大恐慌が広まる中、銀行への流動性供給と金本位との選択に迫られ、1931年に再び金本位を放棄する。

それでもイギリスのポンドは第二次世界大戦まで国際通貨であったし、1950年でも、外貨準備の55%はポンド・スターリングであった。多くの国は通貨をポンドに固定していた。

すなわち、歴史的に言えることは、1.金や銀による国際通貨も不均衡を解消できない。2.それはインフレも解消しない。3.地政学的には衰退した国の通貨が数十年後まで使用される。

1970年代に問題を抱えたドルは、その後もアジア諸国の通貨によって為替レートを固定され、安定的に保有された。中国も最近まで、かつて日本がそうであったように、自国通貨の国際化を拒んで、ドルの準備を保有し続けた。

今回の金融危機にもかかわらず、まだドルが国際通貨であり続ける。


Project Syndicate 2011-11-28

Another Asian Wake-Up Call

Stephen S. Roach

アメリカのサブプライム危機に続いて、今はヨーロッパの政府債務危機である。二度の危機によって、アジアの外需依存型成長モデルは、いよいよ転換を実行するしかない。


Project Syndicate 2011-11-28

Iran on the Warpath

Joschka Fischer

ユーロ危機の収拾に当たるヨーロッパの政治混乱に世界が目を瞠っている間に、イランとの戦争が始まる危険性は再び高まってきた。もしイランが核武装すれば、中東の戦略地図は根本的に変わるだろう。その深刻な影響は、イラン政府の「革命的な」外交政策も加わって、世界に及ぶ。

FT December 1, 2011

The risks of sleepwalking into a war with Iran

By David Miliband and Nader Mousavizadeh

LAT December 1, 2011

The Iran threat

By Max Boot

回顧すれば、攻撃されたときの弱さについては、理解することも許すこともできない。1930年代にナチスが増大するのを許したこと。1940年代にソ連がヨーロッパの半分を奴隷化し、中国の革命が成功したこと。1990年代にアルカイダが勢力を拡大したこと。われわれはイランに対して同じ失敗を犯している。


l  アジアの正当な支配者

FP DECEMBER 2011

John Stuart Mill, Dead Thinker of the Year

BY ROBERT D. KAPLAN

「正当な中央政府(権力)はどうすれば確立できるか?」 イラン、中国、ビルマ、アメリカ、・・・その答えは不確かだ。

19世紀の思想家、J.S.ミルこそ、この問題に根本的に答えた人物だろう。ミルは自由を重視し、中央権力の成立を自由に依拠して考えた。民主主義はすべての社会に適用できない。専制支配がよりうまく秩序を確立する場合もある、とミルは認めていた。すべての政府には独裁の性質が含まれているが、単なる独裁では社会の道徳が混乱し、衰退に向かう。だから中東の独裁者は倒され、中国の支配体制はテクノクラートにゆだねられた。権力・政府は、それが人々の権利を守るときには、個人の自由を否定できる。この考え方はもう一人の思想家、トマス・ホッブズを意識して成立している。

ホッブズは、アナーキーから、秩序や進歩への転換を理解した思想家である。そのためには国家が誕生する。ホッブズは暴力的なアナーキーに対する人々の不安・恐怖心を賞賛した。国家を確立することで、人々は法を破る者だけが不安を抱く社会に変わる。こうしてホッブズは中央権力の成立を説き、ミルは人類が単なる権力をリベラルな秩序の構築に向けることを説いた。

現代の都市に住む中産階級には、それらの概念がどれほど重要か、理解できない。しかし、イラク、イエメン、シリアで直面する問題を捉えている。電子的な情報交換が、ますます世界から独裁者を追放するとき、それを理解する上で彼らの思想は何よりも重要だ。

FT November 29, 2011

The US navy fostered globalisation: we still need it

By Robert Kaplan

「金融市場は株価や債券利回りの変化に目を奪われているが、長期的に見て重要であるのはアメリカの軍艦の数だ。」

グローバリゼーションは、物資輸送の90%を船舶に頼っていることから、西太平洋におけるアメリカ海軍の十分な支配がなければ、現在のように繁栄できなかっただろう。そして、この状態は急速に失われる。

1980年代、レーガニズムが支配的であったときの軍艦は600隻あった。その後、ベルリンの壁が崩壊し、1990年代、350隻に減少している。今では284隻だ。

パワーとは相対的なものだ。もし他国が海軍や空軍を増強しなければ、この数字はそれほど重要ではない。しかし、現実には、西太平洋で軍備拡大競争が起きている。アメリカの海軍と空軍が支配権を失った世界では、中国、ロシア、インド、日本、などが今考えている以上に攻撃的な行動を取るだろう。なぜなら安全ではなくなるから。

アメリカの軍事力が失われたインド洋は、ベトナム、マレーシア、シンガポールなど、南シナ海が中国によってフィンランド化される。そして中国は、遠方にあって、民主的なアメリカほど、慈悲深い形でその経済力や軍事力を使わないだろう。


l  ミャンマー(ビルマ)

Global Times | November 30, 2011

Myanmar cautious of US enticements

By Ding Gang

Project Syndicate 2011-11-30

A Democratic Burma?

Yuriko Koike

FP Wednesday, November 30, 2011

Thugs to hugs: can Burma's army make the transition?

Posted By Jean M. Geran

FT December 1, 2011

US must avoid making Burma its political pawn

By Geoff Dyer in Washington

ビルマへの経済制裁解除は、アメリカによる中国封じ込めではないし、クリントン国務長官は中国との地政学的な対立という観点ではなく、むしろビルマにおいて、中国との協力による地域の安定化を目指すべきだ。アメリカの長期的な利益は、中国との対抗を理由に政治的価値を見失うのではなく、アメリカの価値(人権、民主主義)を受け入れる開放的な政治・経済秩序を築くことだ。

SPIEGEL ONLINE 12/01/2011

Burma Awakens

Newfound Freedoms Raise Hopes at Home and Abroad

By ThiloThielke

WSJ DECEMBER 1, 2011

The Burmans' Big Brother Complex

By KHIN OHMAR


Project Syndicate 2011-11-30

Deadlock in Durban

Jagdish Bhagwati


guardian.co.uk, Thursday 1 December 2011

Putin prepares the Russian empire to strike back

Simon Tisdall


YaleGlobal Online 1 December 2011

Can Asia Step Up to 21st Century Leadership?

Amitav Acharya

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The Economist, November 19th 2011

The magic of diasporas

Immigration: Crying wolf

Weaving the world together

Free trade in the Pacific: A small reason to be cheerful

South Asia’s water: Unquenchable thirst

Charlemagne: Step by step to disaster

Technocrats: Minds like machines

The European Central Bank: Brink think

Buttonwood: Voters versus creditors

Japan’s economy: Whose lost decade?

Economics focus: Marathon machine

(コメント) 移民に関する積極的な議論が示されています。中国人とインド人に代表的な、国外におけるコミュニティーの形成が、情報や信頼を高める絆として社会ネットワークやビジネス・チャンスを独自にグローバルな展開を提供しています。メキシコ国境から非合法移民が流入することを議論するアメリカの大統領候補たちは、成長できなくなった金融や経済を心配したほうがよい、狼少年でしかないのです。

アジア・太平洋の貿易ルールを安全保障と一体で議論する時期が来ているわけですが、ここに触れられた水問題の深刻な内容に比べて、その意味もかすんでしまいました。パキスタンはインドの水源を心配し、インドは中国との領土紛争と水源を心配し、この3国がその他の小国も含めて水資源を奪い合います。

ユーロ危機に関しては、メルケル首相の発想、ドラギECB総裁の発想、が解説されていますが、テクノクラートに関する考察が的確だと思います。どのような国で、どのような状況で、どのような条件のテクノクラートが権力を手にし、何を解決できるのか? 理想化された「テクノクラート」像は消滅します。

日本が「失われた10年」や「第二の失われた10年」を後悔しているのか、多くの欧米人は不思議に感じるようです。実質GDPや生産性上昇率で見れば、日本は決して欧米に劣っていない。財政赤字も社会保障費によるもので、政府部門とは逆に、民間部門は貯蓄に励み、巨額の資産を保有している。「失われた10年」というのは、どうやら若者たちと、中国の興隆に怯えるナショナリストたちの決まり文句である、と考えます。しかも、日本の有権者や政治家、財界人は老人ばかりが強く、裕福な老人に増税する気がない。

最後に挙げた、技術革新が失業の最大要因ではないか、という記事は、移民のダイナミズムを持たない日本の老人社会と並べると、長期的な衰退を予想させます。

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IPEの想像力 12/5/11

京都の三条通を歩けば、表通りにある多くの店舗やマンションが建て替えられて、学生のころに歩いた印象とは大きく異なる表情をしていました。歴史的景観の中に外国人の観光客が増えて、ロンドンみたいな町になりそうです。

「ジェントリフィケーション」という都市論の概念を思い浮かべます。貧富の格差や土地利用の再編にともなう建物の整理、文化の変容、など、都市の社会・政治問題を示唆します。

三条大橋の正に「たもと」に、クラシックな外観をしたスターバックス・コーヒーの建物がありました。その4階ほど、すべてのフロアでコーヒーを楽しむ人々の姿が映っています。きっと世界中から来る京都観光の旅行者たちが、Lonely Planetなどを片手に、この店を探して集まるのだろうな、と思いました。私たちが外国を旅行しているとき、讃岐うどん屋をみつけたみたいに。

漬物屋さん、書道のさまざまな道具、工芸品を並べる店、焼き物のお店、うどん・そばのお店、・・・

妻&娘とおいしいケーキを食べました。入るときは15分待ちでしたが、出たときは45分待ちに変わっていたほど、次から次へと新しいお客さんがやって来ます。京都のガイドブックや雑誌にも載っているのでしょう。結構、値段は高めですが、確かにちょっと気が利いていて、なかなかおいしい。お店の雰囲気もよく考えられています。

自分が若ければ、こんなお店で一生懸命に働き、ケーキ職人になって、どこかの街角にしゃれた店を出したいな、と思いました。

このReviewには、19世紀半ば、スイスが政治紛争と経済崩壊の土地であったときから、平和と繁栄の楽園という現代のイメージに転換し始めたことが描かれています。また、1930年代のヨーロッパや文化大革命の中国が、今やグローバリゼーションの利益を享受できるガバナンスを築くにいたったこと、シエラレオネのフリータウンや、リベリアのモンロヴィアが、韓国のプサンのように変身する未来の可能性、なども描かれています。

ローマ、スペイン、イギリス、アメリカが国際通貨を供給し、その地位を交代してきた歴史にも、ドルが中国の人民元に変わる可能性にも、大いに興味を惹かれます。

R・スキデルスキーは『共産主義後の世界』という素晴らしい本で、「20世紀における大規模なイデオロギー上の闘争は、集産主義とリベラリズムの間で行われた。」と書いています。

19世紀のリベラリズムは、個人の解放と、権力の分散(中央権力の制限)が目標であったそうです。他方、集産主義は、生産システムの技術的な規模拡大と戦争による物資の統制主義が成功したことによって、また、市場システムの混乱から個人がその自由や豊かさを奪われたという不満や不安から、繰り返し支持を集めました。つまり、反グローバリゼーション運動の左派や、移民排斥の右派・国粋主義者、などです。

スキデルスキーは、これら二つの流れが極端な形で権力を握れば、問題を解決するより、経済の崩壊と戦争が起きる、と考えます。私たちは優れた社会システムと政治指導者の下で、これら二つの間に賢明な進路を見出す必要がある、というわけです。

大幅な円高・円安から逃れるには、為替レートの安定化に関する地域的・国際的な合意を形成する、あるいは、それが地域的な通貨圏に向かうかもしれません。なぜなら、私たちの社会では、三つの異なる構造が合わさって、優れた文明を実現しているからです。すなわち、生産ラインが1キロにも及ぶ巨大な生産設備があり、IT技術や金融ビジネスの最先端に挑む頭脳労働者が集まり、職人気質のもたらす高水準の商品やサービスによって満足をもたらす目抜き通りや街角のケーキ屋さんがあります。

グローバルな市場システムと生産環境がもたらすユートピアには、集産主義とリベラリズムが対立しつつ、経済運営・権力の交代ルールが形成されます。

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