今週のReview
11/14-/19
*****************************
ユーロ:救済か? 解体か? ・・・G20、サミット ・・・抗議の声 ・・・アメリカの外交 ・・・グローバリゼーションと分配問題 ・・・中国はどうか? ・・・経済システムの問題 ・・・日本問題
[長いReview]
******************************
主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l ユーロ:救済か? 解体か?
FT November 3, 2011
Why I would have voted no in a Greek referendum
By Samuel Brittan
赤字国についてのファイナンスを議論する者ばかりだ。しかし、調整をせずに融資ばかりすれば、国際経済はダメになる。
調整するとは、国際収支のポジションについて間違いを正すことだ。赤字国は貿易相手国に、より多く売り、より少なく買う。あるいは、物理的な長期投資を引き寄せる。国内の引締め策と通貨価値の切り下げが行われる。
この点で、ユーロ圏に属した周辺諸国は為替レートを変更できない。融資の条件として、財政緊縮策ばかり求められる。もしギリシャが国民投票して、この融資を受け入れるべきかと問えば、何が起きるだろうか?
赤字国がその生産コストや賃金を引き下げることは、原理的には、可能である。アイルランドは2006年以来、製造業の単位労働コストを30%も引き下げた。しかし、ギリシャはアイルランドではない。ポルトガルにもイタリアにも、そんなことはできないだろう。アイルランドでは、経済規模が12%縮小し、失業率は15%に近づいた。
赤字国のファイナンスは合理的な政策の一部でなければならない。1944年のブレトン・ウッズ協定では、国際収支問題に対して融資と為替レートの変更が求められた。ケインズは、デフレ的な調整が2度と起きないことを求めたのだ。
ところが、今の調整メカニズムはもっぱらデフレ政策である。それは成功しないだろう。なぜなら緊縮財政は成長を低下させる。それは財政赤字を増やして、さらに緊縮策を求められる。これは悪循環だ。
NYT November 3, 2011
Mr. Draghi Makes a Start
FT November 4, 2011
The eurozone does not need IMF help
Kenneth Rogoff
G20はIMFがユーロ圏の救済に役立つかどうか考えている。IMFの基金は何に使うべきなのか? それはECBがユーロ圏の内部でジャンク・ボンドになった政府債券を買い取るための言い訳を提供するだけである。
ギリシャだけでなく、問題はユーロ圏全体に広がっている。その制度を改革しなければならない。
1. マーストリヒト条約による政府債務の制限は十分に厳格でなかった。
2. 単一通貨圏の内部で大規模な財政移転が自動的になされない。
3. 民間金融機関への最後の貸し手が明確でない。
4. ヨーロッパ規模の厳格な金融規制当局がない。
5. 多くの決定に全会一致が求められる。それは政策の機能不全をもたらす。
EU憲法を定めることで改革をなすべきだ。また、すでに発生した債務問題は、ユーロ圏内の北から南への財政移転を必要とする。それを受ける南は、当然、マクロ政策を北の要求に従わせるべきだ。
IMFは、その際、支払い可能な国の流動性危機を回避させる。しかし、支払い不能と流動性危機の区別は難しい。この裕福なヨーロッパが内部の政治混乱を解決するうえで、厳しい条件を課して、解決を促す以外、IMF融資は役に立たない。
FT November 4, 2011
Idealistic Greek patriarch putting the euro in jeopardy
By Tony Barber
Project Syndicate 2011-11-04
What Does Germany Want?
Jan-Werner Mueller
ドイツは何を望むのか? 「ベルリン共和国」のヨーロッパに向き合う姿勢を問題にします。
ドイツは国際政治では小国です。しかし、ヨーロッパ内では同等の競争相手がありません。近隣諸国はドイツ主導のヨーロッパを受け入れるしかありません。1990年に恐れられたようなドイツにはならず、ベルリン共和国はナショナリズムを示していません。左派の絶対平和主義は消滅しましたが、ドイツ人はナチスの過去を忘れていません。ドイツ人の愛国心は、ナチスや東の社会主義という負の遺産を持ち、経済的成功と憲法とを誇りとしています。
しかし、今、ドイツ人はよきヨーロッパ市民であるということで満足できる時代が終わったと知っています。
VOX 4 November 2011
The Greek revolt: Good news for Europe
Charles Wyplosz
ギリシャが主権を回復しようとするのは当然だった。赤字国が緊縮政策を求められるのは正しいけれど、債務の削減や切り下げができない点がアジア金融危機とは異なっていた。特に、ヨーロッパの指導者たちはECBの役割をなかなか認めなかった。ギリシャのデフォルトがポルトガルやイタリアに波及するとき、そして、フランスに至る前に、ECBは政府債券に完全な保証を与えるだろう。また民間の金融機関には、バジョット原理に基づく厳しい条件で、ECBから得た資金を使ってEFSFが再編・整理する。ユーロ圏全体で、厳格な財政規律と金融監督が実施される。参加者の行動が信頼できる基準で規制されることで、ユーロ圏の指導者たちとECBとが危機を解決できる。
NYT November 5, 2011
Alms From China
中国からの義捐金に頼るのではなく、ヨーロッパは自分たちの経済に見合った負担を引き受ける政治的意思を統一するべきだ。
「数億人が一日2ドル以下で暮らす中国は、自分たちの社会保障に支出するべきだ。人為的な低金利を正して、民間貯蓄よりも消費を増やすべきだ。」
「中国の通商政策は、輸出補助金や融資、為替レートを利用した、他国の経済を損なう略奪的なものであるが、さらに知的所有権を侵害し、自国の企業に有利な形で資源輸出を制限しており、こうしたことは世界経済の問題である。」
ヨーロッパが中国に救済されるなら、それは予算や資源再配分の苦痛を回避できるとしても、それ以上の代償が伴うことを知るべきだ。
WP November 5
Modern Greece’s real problem? Ancient Greece.
By George Zarkadakis
ギリシャは民主主義誕生の土地だが、プラトンもアリストテレスも国民投票の撤回を認めるだろう。二人とも直接民主主義には否定的だった。
ドイツの雑誌が特集した「詐欺だらけのギリシャ」について、アテネでは抗議デモが起きた。しかし、今のギリシャはペリクレスやプラトンのギリシャと何の共通点もない。むしろ、それはドイツの作った失敗作だ。
1832年、当時の大国、英仏露が、バヴァリアの王子を最初の国王として、オスマントルコからの独立をもたらした。ドイツから連れてきた建築家、技術者、医者、兵士などが、当時の理想国家を作った。
19世紀のヨーロッパには、古代ギリシャの文化に対する関心が高まった。産業革命によって強まった非人間的な文明に対する反発がその理想を古代ギリシャに見たのだ。しかし、王はクーデタにあって廃位された。他方、そのヨーロッパにおける理想化されたギリシャへの誤解は生き残った。
今も、ギリシャの社会は分裂している。第一に、政治階級は2世紀にわたって外部の支配者に従属してきた。ギリシャの地理的な条件は黒海と地中海とをつなぐ海運業の拠点となった。ギリシャは真に独立したことはなく、常に、外国の支配下にあった。経済が繁栄する時期もあったが、繰り返しデフォルトが起きた。
第二に、外国で教育を受けた、世界をよく知る知識人たちがいる。彼らは経済学や社会科学によってギリシャを西洋化できると夢見ている。政治家と知識人が、憤慨するギリシャ国民を無視して、国民投票をやめるように説得するヨーロッパの指導者たちに従った。
第三の、ギリシャ国民は、特にドイツへの主権の喪失や、自分たちが選挙したわけでもない欧州委員会・IMF・ECBから緊縮策を押し付けられるのを嫌った。西洋文明の理想も、古代ギリシャの理想もあまりに遠く、政治支配層や国家を彼らは嫌っている。
ギリシャ人自身が自分たちのアイデンティティを変えない限り、200年前のロマンチックなテーマ・パークと借金でできたギリシャは、21世紀のグローバリゼーションに耐えられない。
The Observer, Sunday 6 November 2011
Angry and ashamed, we Greeks need to see a just solution to our ills
Nikos Konstantaras
guardian.co.uk, Sunday 6 November 2011
European elites should be wary of the Greek spring
Costas Douzinas
FT November 6, 2011
The eurozone decouples from the world
Gavyn Davies
FT November 7, 2011
Emerging economies are key to the eurozone’s survival
Jeffrey Sachs
ヨーロッパが自分自身で危機を解決できない理由は三つある。
1.コスト分担はどこでも難しいが、この点ではユーロ圏の17か国に加えて、強力な銀行群、重複したヨーロッパの国際機関、反発する諸国民、多くの政治党派、しかも最小の集団さえも交渉力を持つ。フリー・ライダーが多すぎる。
2.メルケル首相だけでなく、政党、財務大臣、連銀、連邦議会、ドイツ自身の意見がばらばらだ。技術的な解決策が見えない。
3.欧州委員会とECBが解決策を指導できなかった。
カンヌ・サミットでは、サルコジがギリシャとイタリアをあからさまに脅し、ベルルスコーニは問題から逃げようとし、メルケルはあまり話さず、オバマはさらに寡黙だった。アメリカの経済力はそれほど衰退したのだ。
新興諸国は支援する意欲を示したが、ヨーロッパが政治的に紛糾する中で救済基金に直接資金を援助するのではなく、IMFを介して支援することを決めた。次週が重要だ。新しいIMF指導部は包括的な救済案を示すことになる。
Sachsにコメントを加えたSony Kapoorは、救済資金を増やすことに反対している。新興諸国の関与は解決のカギではない。
FT November 7, 2011
Saving the euro is the wrong goal
By Gideon Rachman
ユーロそれ自体が目的ではない。それはヨーロッパの経済的繁栄と政治的調和を実現する手段である。この数か月に示されたように、ユーロを救済することがまさしくその反対の事態を招いているなら、もはやユーロをどうやって解体するか、少なくとも、その最弱の加盟国をどうやって離脱させるかを考えるときである。
およそ10年を経て、異なる発展水準、異なる政治文化を持つ諸国を単一の通貨で統合することは、そもそも間違いだ、ということが分かった。
ユーロがヨーロッパの危機を長引かせている。それは最初、南欧で金利を急激に低下させて債務による支出を促した。今は、単一通貨のせいで、債務処理や対外赤字を解決する方策としてのインフレや通貨価値の切り下げができなくなっている。
世界金融危機はユーロ圏のこうした欠陥を強めた。しかし、EUは二つのことを示そうとした。すなわち、ギリシャ危機は解決できるし、他のユーロ圏とは区別されるべきだ、と。そして、その説得に失敗した。
ユーロを放棄すればEUも失われる、という警告を述べる政治家たちは、間違った危機を煽っている。単一市場、移動の自由、外交政策の協調、など、EU統合の成果を守るためにも、ユーロを解体するほうがよいのだ。
FT November 7, 2011
Our pro-Europeans must prepare for a plebiscite
By Philip Stephens
FT November 7, 2011
Greek default within the euro is the only real option
By Robert Jenkins
ヨーロッパの政治指導者たちはギリシャ離脱に注意せよ。ギリシャはユーロ圏にとどまって再建できる。他方、ユーロ圏を出ても同じことができる。そこには重大な違いがある。離脱によって何が起きるか?
ギリシャが閣議でユーロを離脱し、ドラクマを再導入すると決めた、と仮定する。その噂が駆け巡り、ギリシャ国民はユーロ預金を引き出し、ユーロ紙幣は足りなくなる。企業はユーロ預金を国外に移転する。外国の銀行はギリシャ向けの融資を取りやめ、支店のドアを閉じる。
緊急閣議でドラクマを導入するための資本規制が導入され、強制的な変更が命令される。ドラクマの為替レートは急激に減価し、インフレが加速する。民間債務は、もし強制的にドラクマに転換されれば銀行・債権者が大きな損失を被り、ユーロ建てのままでは、ドラクマの所得しかなくなったギリシャの債務者が支払えない。
危機は他の赤字国にも伝染し、それはヨーロッパ銀行間の取引を妨げる。銀行株も急落し、スイスなど、安全な資産へ資本移動が殺到する。EU全体で融資が急減し、経済活動が停止する。
だから、ギリシャがたとえユーロ圏内でデフォルトすることがあっても、ユーロ離脱はあってはならない。その損失額は、全く、スケールが異なる。
FT November 7, 2011
The real Greek tragedy – its rapacious oligarchs
By MishaGlenny
ギリシャの悲劇は、その淵源を社会に広がる犯罪と汚職にまでたどれる。
いくつかの家族による寡頭制的な政治支配が、ビジネスと金融、特に政治家の大部分に及んでいる。
SPIEGEL ONLINE 11/07/2011
'Run For Your Lives'
Euro Zone Considers Solution of Last Resort
SPIEGEL ONLINE 11/07/2011
Top German Economist
'It's in Greece's Interest to Reintroduce the Drachma'
Project Syndicate 2011-11-07
Angela Merkel’s Vision Thing
Joseph S. Nye
メルケル首相は、コール元首相のように、ヨーロッパのビジョンを示せなかった。そのことがユーロ危機を解決できない理由だ、と指摘する者が多い。それは正しいか?
ビジョンを示すにも注意が必要だ。解決をもたらすこともあれば、むしろ損害をもたらすことがある。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(シニア)は大げさなビジョンを示したがらなかった。しかし9・11テロの後で、ジョージ・W・ブッシュ大統領(ジュニア)は野心的なビジョンを示した。「中東に民主主義を広める」と。しかし結局、ジョージ・H・W・ブッシュの外交政策のほうが優れていた。
トニー・ブレアはビジョンを語るのがうまかったが、細部についてはお粗末だと批判された。ウィルソンとジョージ・W・ブッシュもそうだ。
1930年にアメリカ人を説得して孤立主義を放棄させたフランクリン・ルーズベルトのように、アンゲラ・メルケルがユーロを救出したのも慎重な姿勢だった。国民はドイツの資金をギリシャ経済の救済に使うことの意味を疑っていた。この問題でメルケルの連立政権は崩壊し、地方選挙でも敗北した。もっと大胆な行動を示していたら、もっと多くの後退を味わっただろう。しかし、その姿勢は市場を納得させるのに不十分だった。
ドイツ議会が承認したことで、ようやくユーロ救済案は実現した。それが正しいビジョンを示したかどうか、すぐに試される。
FP NOVEMBER 7, 2011
Europe's Coming Trade War with China
BY JONATHAN HOLSLAG
YaleGlobal Online 7 November 2011
Denying Imbalances, G20 Risks Chaos – Part II
David Dapice
guardian.co.uk, Tuesday 8 November 2011
Greece has a right to face austerity on its own terms
Maria Margaronis
FT November 8, 2011
Thinking through the unthinkable
By Martin Wolf
問題は、危機の本質を誤解していることだ。Nouriel Roubiniは最近の報告でも書いている。債務のストックとフローを区別しなければならない。そして債務を減らすのはユーロ圏内で実質為替レートを調整して競争力を得ることだ。
Roubiniは4つの選択肢を示した。
1.金融緩和とユーロ安、中枢における刺激策と、周辺における緊縮財政・改革。
2.周辺だけで行うデフレ的調整、構造改革と名目賃金の引き下げ。
3.競争力のない周辺を中枢が永久に融資する。
4.債務の削減と一部の国のユーロ圏離脱。
最初の選択肢が、デフォルトなしに調整を実現する最善のケースだ。3は調整を避け、2は次第に4へと向かうだろう。4はユーロ圏の終わりだ。
1はもっとも経済的に機能するはずだが、ドイツが反対している。2は政治的に見てドイツが受け入れ可能だが、周辺が受け入れ不可能になる。3は政治的に受け入れ不可能だ。現状は、2と3の混合型が進んでいる。3を行うためのthe European Central BankをMayerが提案した。これは3だが、長期的に行えば、金融緩和とユーロ安、インフレ的拡大の1になる。しかし、ドイツ人はそのインフレを恐れている。
1923年のハイパーインフレーションは確かに悪夢であったが、アドルフ・ヒトラーが権力を握ったのは1930-32年の厳しい緊縮政策であった。しかも、今度は世界経済が破壊されてしまうかもしれない。
ドラクマの導入を協調的に行うことは可能か? 新通貨「ニュー・ドラクマ」が導入されれば、ギリシャの契約や納税はドラクマに変更される。銀行は既存のユーロ勘定とは別に、ドラクマ勘定を設ける。交換レートは市場で決めるから、大幅な減価が実現する。それこそギリシャが必要とするものだ。
ギリシャ政府は対外債務や財政赤字を減らさねばならない。それは大幅な実質為替レートの切り下げで助けられるだろう。国内の余剰生産力があり、外部からの支援も受けて、中央銀行はこれがインフレにつながらないように注意しなければならない。公的・民間ユーロ建て債務の多くはデフォルトになるが、このままユーロ圏にとどまってもデフォルトになるしかない。ギリシャはECBの席を失うが、将来の復帰の可能性はある。
協調的離脱は最もコストを抑えたケースだが、危機の伝染を抑えられない。その意味で、本当にユーロ圏を守るには、1の政策を取るしかない。
FT November 8, 2011
Rescuing Europe
NYT November 8, 2011
Euro Crisis’s Enabler: The Central Bank
By JOHN QUIGGIN
Global Times | November 08, 2011
European peace rests on back of economic unity
By Dave Feickert
Project Syndicate 2011-11-08
Europe’s Darkness at Noon
Barry Eichengreen
問題は国民投票ではない。緊縮政策の強制がギリシャの経済不況を悪化させ、政府が崩壊することを避けられないものにした。新しい連立政権がパパンドレウ政権よりも支持される見込みはない。成長を再開しなければ、ギリシャは助からない。
ユーロ圏は永久に維持する。どのようなコストも支払う。このメルケルとサルコジの約束は守られなかった。ギリシャ国民がユーロ圏に残るか、離脱するか、決めればよい、と公言するようになった。それはギリシャの政治家を威嚇するための発言だが、ユーロ離脱という発想に火をつけてしまった。ギリシャの銀行や債券から投資家は逃げ出し、危機は自己実現的になりつつある。
危機がポルトガルやイタリアに波及することは致命的である。1992年にEMSが崩壊したことが想起される。ドイツ連銀は、ユーロ圏内の「(内的な)切下げ」を示唆し、何でもするという約束を裏切った。ユーロ圏を救えるのはECBだけであり、メルケルとサルコジはECBを政治的に擁護するべきなのだ。
特に、ECBは成長を高めるべきだ。ドラギ新総裁が金利を下げたことは大きな希望である。ただし、切り下げ幅はまだ小さすぎる。さらに、イタリア政府債の購入を増やすことはドイツが強く反対している。ドラギ総裁も政府への融資を嫌い、構造改革はECBの仕事ではない、と述べた。しかし、構造改革には時間がかかるから、その間、ECBが成長を支えることは重要だ。その時間がなければ、ユーロは死ぬしかない。
ここに政治的な擁護が必要となる。最後の貸し手とは、自動的にインフレだけを抑制するのではない。そしてECBの債券購入が無駄ではないことを、イタリア政府が構造改革によって示さねばならない。
今こそ、夜明け前の闇が最も深いときだ。
guardian.co.uk, Wednesday 9 November 2011
Germany's rendezvous with history will also put Cameron on the rack
Timothy Garton Ash
ドイツはベルリンの壁崩壊以来の最大の危機に直面している。ユーロ危機の処理の仕方で未来の数世代がまったく違う世界に住むだろう。
もしユーロ圏が生き延びるとしたら、それは概ねドイツの条件を満たすことだ。ドイツは「通貨安定の覇権国」"stability hegemon"である、と、政治家は述べた。ギリシャだけでなく、ポルトガル、イタリア、フランスはドイツの出した宿題をこなすしかない。すなわち、予算赤字を抑え、賃金を抑える。
そうであれば、生き残ったユーロ圏がそれ以外の諸国とEUを続けていけるかどうか、が問題になる。キャメロン首相は考えるべきだ。
戦後のドイツは、「ドイツ的なヨーロッパではなく、ヨーロッパ的なドイツ」(Thomas Mann)を求めた。しかし今、「ヨーロッパ的なドイツは、ドイツ的なヨーロッパの中にある」とベルリンは考える。ヨーロッパ全体がドイツのように競争力を高めるとき、ヨーロッパ国家の中でイギリス国家はどうなるのか?
FT November 9, 2011
It’s time for you to fire the silver bullet, MrDraghi
By Alexander Friedman
FT November 9, 2011
Rome’s only road to recovery
ベルルスコーニがイタリア政治を混乱させないなら、その経済状態はそれほど悪くない。
VOX 9 November 2011
What is holding Italy back?
Daniel Gros
イタリアの経済成長は、ガバナンスを除いて、かなり良好である。ベルルスコーニが政権を取ってから、法の支配、統治の有効性、汚職、などの点で顕著に悪化した。
FP NOVEMBER 9, 2011
Eight Reasons Why Italy Is Such a Mess
BY URI FRIEDMAN
問題は財政赤字や金利の上昇だけではない。ギリシャと同じように、イタリア経済にもそれをむしばむ社会的病理が広がっている。ナポリの清掃業者がストライキで山積みにしたゴミ、出生率の低下によって生じた老人ばかりの町、インフォーマル経済・闇取引、脱税の常態化、南北問題、零細企業、縁故雇用、など。
FP NOVEMBER 9, 2011
The problem is Europe, the solution … is Europe
Posted By David Rothkopf
NYT November 9, 2011
How to Leave the Euro
By STERGIOS SKAPERDAS
ギリシャは現状を維持するより、ユーロを離脱してドラクマを回復したほうが成長と雇用を取り戻せるだろう。緊縮政策による不況は、能力の高い若者を海外の出稼ぎに向かわせ、国内には老人や生産性の低い労働者が多く残る。重要な政策はベルリン、パリ、ブラッセルで決まる。
ユーロから離れて、ギリシャは通貨発行の主権を取り戻すべきだ。流動性を供給し、零細企業への融資を行い、新通貨は為替レートを減価させる。それは観光や輸出において競争力を高めることを意味する。
預金、債務、契約、税金、などの移行手続きが必要になる。必要な物資の輸入に外貨が不足し、資本流出は規制されるだろう。新通貨の印刷と使用、移行には数か月かかる。
しかし、ユーロへの移行と本質的には大きく変わらない。
BLOOMBERG Nov 9, 2011
Saving the Euro Will Be Easier Than the Alternative
By Clive Crook
WP November 9, 2011
Europe’s debt crisis endangers the ability to be distinctive
By Harold Meyerson
イタリアやギリシャもドイツになるのか? それらは南欧の陽光があふれ、労働よりも楽しみによって文化ができている。ドイツ人にとって、南欧はセックスと良い食事を意味する。
2008年の危機まで、ヨーロッパの南北格差は北欧にとっても良いことだった。イタリアのレストランにはドイツ人の客がいっぱいだった。今もそうだ。イタリアはレストラン主導の経済で低生産性、ドイツは工業主導の経済で高生産性であった。それも二つのスピードで進むヨーロッパ経済として認められていた。フランス風に言えば、格差万歳だ。
しかし今、彼らが作ったヨーロッパは債権者ドイツの求める経済パフォーマンスを単一の基準として、イタリアはイタリア的でなく、ギリシャはギリシャ的でなくなるように求められている。マルクスは1848年に、資本主義はすべての諸国にブルジョア的な生産様式を押し付ける、と書いた。それは民主主義を否定するものだ。
Project Syndicate 2011-11-09
From Berlusconi to Draghi
Paolo Messa
Project Syndicate 2011-11-09
Europe’s Next Nightmare
Dani Rodrik
ギリシャのデフォルトは経済的な意味で破局をもたらすだけでなく、政治的な意味でも、さらに破壊的なものだろう。第二次世界大戦以降のヨーロッパにおける政治的安定を維持してきた中心的な支柱が失われる。それは周辺の重債務国だけでなく、ドイツやフランスの不安定化にもつながる。
悪夢のシナリオでは、経済危機が政治的な過激派に勝利をもたらす。19世紀のグローバリゼーションに反対して現れたファシズム、ナチズム、コミュニズムが、社会的な分解状態と市場圧力の強化、コスモポリタンなエリート層に対する大衆の不満を吸収した。
自由貿易と金本位制は、各国における政治的な優先課題、すなわち、社会改良、国民国家建設、文化的な自尊心、を破壊した。経済危機と国際協調の失敗は、グローバリゼーションだけでなく、エリートたちとその秩序を葬った。Jeff Friedenは、社会的公正と経済統合との選択に直面して、コミュニストは社会改良と自給経済を選んだ、と述べた。他方、ファシスト、ナチス、ナショナリストは、国家建設を選んだ。
幸い、それらの試みは消滅し、他の専制政治も終わった。しかしヨーロッパでは、政治形態をはるかに超えて市場統合が進み、経済の安定性や社会的調和、文化的な自尊心が損なわれている。それを主流派の政治支配層は正しく扱えない。効果的な政策を示すには各国家に縛られた政治がそれを妨げるのだ。この既存政治システムの欠陥を批判して、極右の政治集団が勢力を広げた。
彼らは、ユーロやEU支配を批判し、移民流入を攻撃する。1930年代と同様、中道・正統派の政治勢力は国民国家に依拠しており、ユーロ危機によってエリートたちの正当性が弱まってしまう。地域の不安とヨーロッパ的な問題の解決との両方を満たすために、中途半端な対策を繰り返す。
危機の解決に必要な条件とは、外部からの金融的な義務・緊縮策から解放されるための明確な再編成である。「健全な経済が開放的な世界経済における最善の保証であるように、健全な国内の政治体制が国際協調の最善の保証である。」 自国民の特権や外国人排斥を求めるのではない形で、自国の利益や価値を主張できる政治的な主張・理念が求められる。
政治がポピュリストに向かうか、インターナショナリストか、というのが、もはや問題ではない。ポピュリストに向かった結果を破滅的でない形で正しく扱うことが問題だ。
guardian.co.uk, Thursday 10 November 2011
A new Europe must be built on the ruins of the old
Simon Jenkins
guardian.co.uk, Thursday 10 November 2011
Europe's post-democratic era
Jürgen Habermas
ヨーロッパの民主主義を支える新しい要素は、社会的な連帯感・結束を国家の外へ、さらに広げることであった。ところが、EUは政治エリートの企画として、彼らの独占されてきた。
右派の政治運動はそれを攻撃し、インターネットは国民的な境界を失わせた。真のEUとは、民主的な権利を行使する政治文化をヨーロッパ市民が共有することだろう。これらの違いこそ、ユーロ危機が示した問題である。
EUの民主的な手続きをさらに国内でも法的に認めること。文化的な差異ではなく、加盟諸国間の不平等がヨーロッパ規模の連帯感を妨げる。ドイツ憲法が保障する、生活水準の一体性を、ヨーロッパ全体でも確保しなければならない。
FT November 10, 2011
Greece: a hard puzzle to solve
By Joshua Chaffin
FT November 10, 2011
Ill-judged smirks about Italy miss deeper truth
By Paul Betts
FT November 10, 2011
Why Italy’s days in the eurozone may be numbered
Nouriel Roubini
デフォルトは、債務のストックを減らすだけで、債務を増やす経常収支の大幅赤字、競争力低下、国内生産水準の落ち込みを解決できない。そのために、イタリアはユーロ圏を離脱しなければならないだろう。
これまで、イタリアは支払い不能ではなく、流動性不足である、と考えられていた。そのために必要なのは「最後の貸し手」であるが、ドイツはECBにそれを禁じてきた。しかし、ドイツの求める、ECBに政府の救済を禁止した条約の変更には何年もかかる。EFSFの資金を増やすことは、トリプルAの債券を政府が保証しなければできない。政府債券がその格付けを下げる恐れがあるので、レバレッジに頼ろうとした。SPV(信託など)を介して新興諸国からの資金も受け入れたかった。ブンデスバンクはそれを嫌った。
イタリアやスペインの債務危機が起きれば、IMF融資でも不足する。イタリアのベルルスコーニ首相が交代しても、債務のGDP比を下げることは困難だろう。すでに生産規模は縮小しつつある。中期の経済改革は、増税、支出削減、非効率な部門の閉鎖、など、経済状態を悪化させる。ドイツやECBの求めるデフレ調整は、他の周辺諸国における債務の維持にもマイナスだ。
イタリアにも選択肢はなくなった。ユーロを離脱し、自国通貨を取り戻すだろう。債務を減額し、周辺の小国がユーロを離脱することでユーロ圏は生き延びるはずだった。しかし、イタリア、スペインが離脱することは、ユーロ圏の解体を意味する。このスローモーションで起きる列車事故は止まりそうにない。
「ECBが無制限に最後の貸し手となって、政策金利をゼロにし、ドルと等価になるまでユーロ安を進めて、同時に、周辺では緊縮策を取るがドイツなど中枢では財政刺激策を取ることでしか、この破局は回避できない。」
WP November 10, 2011
We are all Greeks now — hiding from tax truths
By Jim Hoagland
l G20、サミット
FP NOVEMBER 3, 2011
The New Stars of Cannes
BY URI FRIEDMAN
カンクン・サミットに集まった20か国が紹介されます。GDP成長率と失業率。長所と短所。G20での重要な言動。
「アルゼンチンとトルコはその経済的拡大によって存在感を増している。他方、伝統的な国際的プレーヤーとしてアメリカや日本は重大な決断をするより国内問題に制約されており、ヨーロッパも金融危機の中にある。中国とブラジルは難しい経済課題を抱えるが、今まで以上に重要な役割を担う。」
中国、アメリカ、アルゼンチン、オーストラリア、インドネシア、フランス、トルコ、ドイツ、ブラジル、そして、日本が10番目に紹介されます。ニュースでも写真撮影はほとんど出ません。野田首相は産油国の隣で、だれが話し相手でしたか。
WSJ NOVEMBER 4, 2011
Middle Powers Can Punch Above Their Weight
By ANDREW COOPER AND JONGRYN MO
The Observer, Sunday 6 November 2011
The only power world leaders have is to frustrate each other
Andrew Rawnsley
FT November 6, 2011
Summitry again proves its own irrelevance
By Wolfgang Münchau
G20は、世界で最も政治的な影響力を持つ指導者が集まる会議である。しかしG20もIMFの増資も、ユーロ圏がEFSFを拡大したのと同様に、危機を回避する役には立たない。既存の政治システムが受け入れるような改革では、資本市場の拡大を政策的に制御できない。
YaleGlobal Online9 November 2011
Denying Imbalances, G20 Risks Chaos – Part III
Jonathan Fenby
l 抗議の声
NYT November 3, 2011
Oligarchy, American Style
By PAUL KRUGMAN
WP November 4, 2011
Economic inequality is the wrong issue
By Michael Gerson
Project Syndicate 2011-11-04
The Globalization of Protest
Joseph E. Stiglitz
チュニジア、エジプトからウォール街まで、世界には共通のテーマが現れている。“We are the 99%.”
アメリカでは人口の1%が富の40%を占め、所得の20%を占めている。彼らの所得は、社会に対する貢献ではかられているというより、レント・シーキング(地代・不労所得)、ときには賄賂である。
不平等は悪循環の結果でもある。富を持つ者は、自分たちのレント・シーキングが続くように、都合の良い法律を作るため政治家に献金できる。そのような法律や制度は彼らの富と影響力をさらに増やす。
規制されない市場は経済システムや政治に危機をもたらす。アメリカには公正な社会と民主主義を要求する伝統がある。優れた政府はお金で買えない。
guardian.co.uk, Monday 7 November 2011
The 1% are the very best destroyers of wealth the world has ever seen
George Monbiot
「もし富が激しい労働と冒険心の結果であるとすれば、アフリカの女性なら誰でも億万長者になれるだろう。・・・今日、裕福である者の多くは、ある職を得ることで裕福になった。その就職は才能や知性と関係がなく、むしろ他者を無慈悲に搾取すること、そして、偶然によって生まれた家族が関係している。職業は、どこで、どの階級に生まれるかによって、偏って配分されている。」
「富裕層は自分たちのことをwealth creators富の創造者と呼ぶ。しかし彼らは大地の恵みと勤労者たちの労苦や創造性を食い物にし、地球と人民を貧しくしている。今や、彼らは我々を破産寸前に追い込んだ。」
イギリスの貨幣所得は、1999年から2009年までに、最貧困層の得た割合が12%低下し、再富裕層は37%も増大した。イギリスのジニ係数は、その社会の不平等を示すが、1979年の26から、2009年には40にまで上昇した。
NYT November 7, 2011
End Bonuses for Bankers
By NASSIM NICHOLAS TALEB
一般大衆を危険にさらすようなリスクを取る銀行家の問題について、私は答を持っている。彼らのボーナスを廃止せよ。ボーナスと銀行救済とは両立しない。
l アメリカの外交
NYT November 4, 2011
Listening to the Axis of Evil
By WALTER C. CLEMENS Jr.
WP November 4, 2011
Who lost Iraq?
By Charles Krauthammer
FP NOVEMBER 4, 2011
This Week at War: Europe Powers Down
BY ROBERT HADDICK
もしEUが解体すれば、NATOも失われるのか?
FP Monday, November 7, 2011
New Afghan exit strategy: When in doubt, call it the New Silk Road
Posted By Steve LeVine
FT November 8, 2011
The free-market secret of the Arab revolutions
By Hernando de Soto
FP NOVEMBER 8, 2011
Trouble over Tehran
BY AARON DAVID MILLER
NYT November 8, 2011
To Stop Iran, Lean On China
By ILAN I. BERMAN
イランの核開発は進んでいる。中国とイランは互いに必要なものが一致して急速に貿易を拡大してきた。中国はイランへの経済制裁を無視して、国際的な平和を乱す手助けをするのか。アメリカは中国にイランへの制裁を求めるべきだ。
WP November 8, 2011
Egypt struggles where Germany flourishes
By Richard Cohen
戦争、革命、震災、・・・その後の復興と経済発展を支えたのは文化である。廃墟となったドイツや日本が再び繁栄できたのは、単に自動車産業のせいではない。その文化が経済発展を支えたからだ。
文化は変化する。ただし、氷河のように、緩やかに。エジプトや南欧では、汚職が広まっている。その変化には、単に軍事力ではなく、多年にわたる文化革命が必要だ。
LAT November 9, 2011
The way to respond to China
By Andrew F. Krepinevich
FT November 9, 2011
Diplomacy is the least damaging option with Iran
Anne-Marie Slaughter
FP NOVEMBER 9, 2011
Asia's Free-Riders
BY JUSTIN LOGAN
ヨーロッパでは冷戦においてアメリカが安全保障に関与し続けたように、今後、西太平洋の安全保障にもアメリカが関与し続けることを明確にした。しかしヨーロッパの場合、アメリカ以外の国は軍事費をほとんど負担しなかった。アジアでは、中国の成長と軍備拡大が予想される。地域のフリー・ライダーに対して、財政的な負担を求めなければ、アメリカの関与を維持できないだろう。
NYT November 9, 2011
The Truth About Iran
l グローバリゼーションと分配問題
FP Friday, November 4, 2011
The downside of globalization
Posted By Clyde Prestowitz
かつて多くの文献や研究はグローバリゼーションを称えていた。グローバリゼーションはすべてのものを豊かにし、民主主義を広め、それは平和をもたらす。
今、グローバリゼーションは全く逆の姿を示している。多くの国で、アメリカにおいても、貧困や失業が現れた。グローバリゼーションは戦争を起こしてはいないが、緊張が高まっており、民主主義を広めるより支配体制を強化する国も多い。
日本の地震と津波、タイの洪水、ギリシャなどの債務危機は、グローバリゼーションが事態を悪化させる理由を示している。1.グローバル・サプライ・チェーンのもろさ。当面のコストを最小限にした結果、長期的にはリスクを増やしてしまう。その国内生産化や制限・多様化が選択されるかもしれない。
2.貿易及び金融取引のグローバル・インバランスが拡大した。1944年、ブレトン・ウッズ会議では、ケインズが恒常的な黒字国からの輸出に関税を課し、赤字国にはIMFが融資するように求めた。
すべての参加者に利益をもたらすことが明らかでないなら、FTAに向けてアメリカが猛進することにも慎重であるべきだ。
NYT November 5, 2011
His Libraries, 12,000 So Far, Change Lives
By NICHOLAS D. KRISTOF
鉄鋼王のカーネギーAndrew Carnegieは2500以上の図書館を建てた。その何倍も多くの図書館を立てた人の名前を、あなたは知らないだろう。1万2000以上の図書館を建てた。
ベトナムに来れば、John Wood とその寄付団体Room to Readが1000万冊以上の本を寄付して、メコンデルタに図書館を建てた図書館を見ることができる。そこでは子供たちが宝物のように大切な本を抱えている。カーネギーの立てた立派な図書館とは比べられないが、マクドナルドは1.08日に1店舗を開設するが、Room to Readは毎日6つの図書館を開設する。
1998年、彼がMicrosoftのマーケティング・ディレクターであったとき訪れたネパールの学校で、本がないことに気付いたのです。彼は本を届けると約束し、ロバの行列をなして多くの本を届けました。子供たちが喜ぶ様子を見て、その感動から彼はMicrosoftを辞職し、Room to Readを設立しました。
「20年で10万棟の図書館を建て、5000万人の子供たちに利用してもらいたい。間違った時代、間違った場所で生まれたから教育を受けられない、と言われる子供たちをなくしたい。50年で、そのような考えは人類の歴史から消滅する。」
YT November 9, 2011
Girls Just Want to Go to School
By NICHOLAS D. KRISTOF
guardian.co.uk, Thursday 10 November 2011
Small is beautiful – an economic idea that has sadly been forgotten
Madeleine Bunting
WP November 10, 2011
The downward path of upward mobility
By FareedZakaria
民主党と共和党は何かにつけて対立している。分配問題でもそうだ。しかし、この問題で対立する意見の背後に、一つの合意がある。それは社会的な移動性social mobilityを支持する、ということだ。
しかし、様々な最近の研究が示すのは、アメリカがヨーロッパ、特に、ドイツ、オランダ、スウェーデン、デンマーク、やカナダに比べて、高い社会的移動性を実現できていない、という点だ。その理由もわかっている。ヨーロッパやカナダは社会的移動性を高める政策に積極的に投資しているのだ。すなわち、子供の健康や栄養を改善する政策、公共教育システム、などにより、富裕層と比べて、底辺層の子供が大きな格差を強いられないようになっている。アメリカにはこうした政策や制度がない。
「郵便番号(住所)であなたの人生を決めるべきではないが、実際には、そうなってしまう。」
アメリカの所得分配を平等にするのは難しい課題だ。しかし、社会的移動性を高めることは可能である。アメリカもかつては、社会的移動性の高い社会を実現していたから。また、ヨーロッパやカナダがその方法を知っているから。十分な教育を受けた子供たちが豊富な機会を与えられる、弾力的で、競争的な市場経済を、アメリカ社会は求めている。
l 中国はどうか?
YaleGlobal Online 4 November 2011
Denying Imbalances, G20 Risks Chaos – Part I
Shen Dingli
グローバル・インバランスに対する責任を中国に負わせる議論に反対し、中国国内の改革や賃金上昇を指摘する。人民元の為替レートはアメリカの様々な国内問題を解決する正しい手段ではない。中国の側からG2米中国際協調を唱える。
FT November 7, 2011
Don’t panic, China’s economy is not on the rocks yet
By Michael Pettis
日本とは違う形で、バブルが破裂した後の処理によって、政府部門から民間部門へ、GDPのシェアが変化する。日本は資産価格や地価が上昇して民間消費を増やした。中国では、政府が融資機関によって民間支出を増やした。そして、政府はこの融資がすべて返済されることをあきらめることで、バブル後の調整を円滑に進められるだろう。
WSJ NOVEMBER 8, 2011
China's Cultural Devolution
By MINXIN PEI
中国共産党は何を心配しているのか? インフレ高進、輸出減少、地方政府債務、企業の倒産、・・・中国政府の課題は多くある、と思うのに、北京政府が何よりも重視しているのは「文化」政策です。
FT November 9, 2011
China needs more than a five-year charm offensive
By David Pilling
(China Daily) 2011-11-09
Fairness for growth
Global Times | November 10, 2011
China's dilemma over Iran goes deeper
l 経済システムの問題
NYT November 5, 2011
Wanted: Worldly Philosophers
By ROGER E. BACKHOUSE and BRADLEY W. BATEMAN
ウォール街占拠運動には展望がない。異なる世界観を示せない。そのような批判があるけれど、経済学者にはあるのだろうか? 優れたビジョンが? 彼らはずっと前に、経済システムについて考えることをやめてしまった。
かつて経済学部の科目には「比較経済システム」があった。資本主義と社会主義を比較し、フランス、スウェーデン、アングロサクソンなど、資本主義の型を比較した。しかし、それは冷戦下の関心であり、ソ連が消滅して科目もなくなった。特に、グローバリゼーションにおいては、国際競争によって資本主義が唯一の経済システムになる、と思われたから。
今の経済学者は「資本主義」について根本的な問題を議論しない。市場が競争的か、寡占的か、金融政策はどのように機能するか、などは議論するが、資本主義の問題はイデオロギーだ。科学的・技術的な議論になじまない。つまりケインズが理想としたように、経済学者は人々の苦痛を取り除く、「歯医者」のようでなければならない。
このデンティスト・アプローチの間違いは、経済システムについての問題を見失ってしまうことだ。ケインズ自身は、資本主義についての明確なビジョンを持っており、それによって理論や政策を50年間も導いた。しかしハイエクやフリードマンが、1970年代のスタグフレーションについて、ケインズ主義では不十分だと攻撃し、新自由主義、自由市場の保守主義を世界中に広めた。その考え方が現在の金融危機で見直された。
規制されない資本主義に代わる経済システムが求められている。それはデンティスト・アプローチによっては示すことができない。経済システムは何のために、誰のためにあるのか? グローバルな不況からの脱出も、セーフティー・ネットの再構築も、危機をもたらした人々への救済策も、ビッグ・ピクチャーを求めている。エコノミストがより良い世界を作るために役立つには、資本主義の可能性に関する新しいビジョンが求められる。
l 日本問題
WSJ NOVEMBER 7, 2011
Noda's Plan Could Save Japan
By GEORGE MELLOAN
日本はTPPに参加し、拡大する自由市場の一部になって、過去の重商主義的な経済モデルから完全に脱却するべきだ。
貿易、投資、財政赤字、高齢化・人口減少、移民、競争圧力による国内改革の加速、アジア新興諸国との競争、企業系列に依存した取引からの自由。
経団連はTPPを支持する。TPPに反対する政治家は、非効率な小規模農家が多い選挙区から来ている。農業においても、TPP参加には3つのメリットがある。農産物の価格が下がる。農業の近代化を進める。農業から労働力が離れて、もっと効率的な分野に移る。
野田首相は過去の栄光から離れ、新しいビジョンを示すときだ。
FT November 8, 2011
Olympian illogic
NYT November 8, 2011
Learning to Save Like the Japanese
アメリカ経済も日本型の停滞、「失われた10年」に向かうのか?
Simon Johnsonは、日本は金融危機から経済を安定化した、と考えて、見習うべきだ、と主張します。労働人口が減少したからGDPも減ったが、労働者一人当たりでは欧米と同じだ。株価や地価が下落し、マイナスの資産効果が働いていた。民間の債務削減、貯蓄増を、政府部門が赤字支出によって吸収した。それでも日本はアメリカのような高失業率を経験していない。
Stephen S. Roachは、日本のようにならないために準備するのは、もはや遅すぎる。アメリカは日本のバブル崩壊をすでに経験しつつあるから。その後の苦痛も逃れられないだろう。バランス・シート不況の対策について日本の経験から学ぶべきだ。日本はゾンビ企業を銀行融資で生き延びるようにしたが、アメリカではゾンビ消費者が問題になるだろう。それを処理するにはアメリカの住宅債務と低貯蓄率を解決する政策が必要だ。
しかし、Takatoshi Ito伊藤隆敏はアメリカは日本と異なる、と考えます。ン異本はポスト・バブルの処理モデルとしてまねるべきではない。若者の失業、財政赤字、デフレと低成長の悪循環。
アメリカは消費ではなく、もっと投資と輸出で成長できる。アメリカのS&L処理に従うモデルを日本は採用できなかったが、アメリカが今採用することで長期停滞を回避できる。
FT November 9, 2011
Olympus’s deceit was dishonourable
By John Gapper
WSJ NOVEMBER 9, 2011
Selling Trade to Japan
By JOSEPH STERNBERG
FT November 9, 2011
Nuclear energy: A hotter topic than ever
By MureDickie and Clive Cookson
FP Tuesday, November 8, 2011
Thailand after the flood
Posted By Ian Bremmer
インラックYingluck Shinawatra首相が洪水の拡大を抑制することに失敗した責任を問われるべきか? 貧しい家族や零細企業など、被害への補償や、景気回復に十分な対策が取れるのか? グローバル・サプライ・チェーンに影響する工業団地の回復はいつごろになるのか? 来年にも洪水被害が起きないような対策は取れるのか?
NYT November 8, 2011
Two Peas in a Pod
By THOMAS L. FRIEDMAN
世界最大規模の民主政治であるアメリカとインドで展開される抗議活動について。
******************************
The Economist, November th 2011
Europe’s rescue plan
The euro deal: No big bazooka
Japan’s free-trade dilemma: Yes, it should
(コメント) ユーロ圏の危機解決策は不十分であったようです。・・・表紙の絵が何を意味するのか、よくわかりません。穴だらけの丼のような器にヨーロッパの指導者たちが同乗し、メルケルはオールを持っています。皆、不安そうです。船窓でしょうか、丸い穴の並ぶ赤と黒の船体から、ロープで、波の高い海面に下されていきます。これでは沈むな、ということでしょか。
ギリシャ債務の削減、危機の波及を止める防壁、EFSFの増額、ECBによる政府債券の購入。こうした解決策がパッケージで示されていますが、これで危機が終わるという安心感はありません。ドイツ国内で反対されるから? 赤字国は改革を実行できないから? ヨーロッパの景気は悪化し、財政赤字は減らず、銀行の資産は減少し、それを守ると政府の信用も揺らぐから? レバレッジで増資できるとか、中国などが出資するとか、当てにならない話です。
ドイツ政治やイタリアのベルルスコーニを扱う記事もありますが、それほど感心しませんでした。
日本のTPP参加を支持する記事は的確だと思いました。農家は日本のGDPの1%でしかなく、コメの輸入関税は約800%だ、と批判します。大規模にレタスを栽培する農家はTPPに賛成です。しかし、大部分の農家は小規模な畑や水田を耕す高齢者です。農業団体や医師、労働組合も自由化に反対します。為替レートの水準も心配です。
自由化を目指す政府は、関税ではなく、農家の所得補償に転換しようとしています。競争によって農業の生産性が高くなれば、農地の価格も上がる、と考えます。それは銀行の利益にもなります。日本企業は、円高・ウォン安で、韓国企業との競争に苦しんでいます。また首相は日米関係を重視し、国際政治でますます重要になる中国に比べて、アジア地域における日本の役割を高めたい、と考えます。将来は、中国も自由化に取り込むことを期待します。
日本がTPPに参加することが、TPPを変える、と考えます。
******************************
IPEの想像力 11/14/11
NYTのコラムニスト、Thomas. L. FriedmanのインタビューをYaleGlobal Onlineで聞いて(テキストも読んで)、アメリカの再生戦略を考えました。
Friedmanは、アメリカの衰退を認め、その原因を9・11後の間違った選択に求めます。・・・冷戦が終わって、多くの国がこれまで抑えてきた発展への願望や潜在力を解放し始めたときに、アメリカはグローバリゼーションの敗者と戦う選択をしてしまった。アフガニスタンのタリバンやイラクの独裁者と戦ったのだ。そして、グローバリゼーションの新しい勝者から挑戦を受けることに対応できなかった。
IT革命は新しい時代に入った。モバイル、ソーシャル・ネットワーキング、クラウド。こうした環境では、グローバリゼーションが個人や企業のパワーを大幅に高める。次々に新しいビジネス・モデルが誕生している。このパラレル・ワールドは一層フラットになるし、アメリカはその中で大きな力を発揮できるはずだ。それは脅威であるが、アメリカ再生のカギでもある。
アメリカには秘密の産業政策があった。誰もそう言わないけれど。1.教育システム。2.最高のインフラ:道路、空港、テレコム。3.開放的な移民政策。高いIQの若者や意欲的な企業家がアメリカに集まる。4.リスクを取るものにふさわしい法体系。5.研究・開発への政府支援。
しかし、今はどうか? それらが崩壊してしまっている。学校も、インフラも、ボロボロ。非合法移民は抑圧され、排斥される。サブプライム・ローン危機はなぜ起きたのか? そして研究支援も減らされてしまう。アメリカ人はポテト・チップスを年に71億ドル消費するが、エネルギー研究に支出される連邦予算は51億ドルにすぎない。アメリカ人は肥満に苦しみ、ガソリンの高価格や中東依存に苦しむ。カリフォルニアでは教育よりも監獄への財政支出のほうが多い。など。・・・など。
なぜこうなったのか? 一つは、憤慨と不安だ。共和党候補の論争にも見るだろう。彼らは憤慨する。ゲイやレズビアンのカップルに、非合法移民に。彼らは排除と希少性に囚われている。他方では、公平性が求められる。我々の生活はあまりにもウォール街に依存している。金融化された経済は、「創造的破壊」よりも「破壊的な創造」に向かった。
最近、Citibankが有罪判決を受けたが、金融取引の多くは犯罪である。デフォルトの資産を改造して売りさばく。それは違法であり、不道徳であり、不名誉なことだが、だれもそう言わなかった。
アメリカの社会契約が失われたのだ。真剣に、率直な、金融改革を議論するべきだ。銀行を守れ、規制を減らせ、という共和党の議論は間違っている。ウォール街の占拠は「モッブ(暴徒)」なのか? ではCitibankの銀行員たちは何か? 盗賊や、マフィアである。・・・
冷戦が終わった1989年、日本ではバブルが終わりました。冷戦終結時のベイカー国務長官は外交によって国際秩序を変えましたが、その後、世界はますます混乱の度合いを深めて、アメリカ外交は容易に成果を示せなくなった、とFriedmanは考えます。アメリカは外交のレバレッジを失った。バットなしに野球するようなものだ。・・・日本は、それに加えて、一足先に世界金融危機を経験し始めたのです。
Friedmanは、国際情勢の要点はアメリカの再生にある、と考えます。アメリカは、インド、中国、ブラジルのように、成長する力を回復することができるのか? もちろんできる。アメリカはかつて新興国であった。オバマは共和党の妨害に対抗するだけでなく、アメリカ再生のプランを示すべきだ。・・・
日本にも、Thomas. L. FriedmanやRobert D. Kaplan、Nicholas D. Kristofのようなコラムニストが必要です。彼らが国の内外を旅して、日々の出来事や人々の悩み、苦しみ、願いを、鮮烈な文章で表現することで、国民は未来に向けた問題意識や解決への意志を共有できるのです。議会の多数派工作や選挙区の利害に縛られた政治家とは違う視点で、日本にも再生を厳しく問う人々が求められます。
******************************