IPEの果樹園2011

今週のReview

10/24-/29

 

*****************************

アメリカ外交政策 ・・・ウォール街占拠の拡大 ・・・グローバリゼーションの敗者 ・・・ユーロ圏の改革 ・・・中国の転換点 ・・・衰退の管理 ・・・雇用問題 ・・・ポーランドとウクライナ ・・・国家の謝罪

 [長いReview]

******************************

主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  アメリカ外交政策

NYT October 13, 2011

America the Overcommitted

By JEREMI SURI

アメリカの外交政策は、受動的で、焦点がぼやけ、効果がない。オバマ政権は、状況がさらに悪化するのを食い止めるのが精いっぱいだ。アフガニスタン、パキスタン、北朝鮮、イラン。中東和平も止まってしまい、希望を失わないようにと言うだけだ。ヨーロッパは金融危機の瀬戸際にあり、アメリカは同盟国に時間を稼ぐよう求めている。

要するに、優先順位がなく、関与を減らすべきなのだ。オバマ政権は三つの国際目標を掲げて、これらを達成すると主張するべきだ。すなわち、世界の事実上の準備通貨というドルの地位を守る。核兵器と生物・化学兵器の拡散を防ぐ。中国との平和的な関係を維持する。

これは孤立主義の計画ではない。目標を明確にした国際主義の実践である。これこそが指導力を復活させる道だ。

FP OCTOBER 14, 2011

Debating the Pacific Century

Richard McGregor ・・・世界で最も成功している国、中国とベトナムの、共産党指導者を対話させることもアメリカ外交の成果であった。1990年代は、アジア通貨危機や中国の台頭によって、アジアにおけるアメリカの役割が低下した。中国の攻撃的な姿勢は、アメリカ外交にアジア地域の指導力を回復するチャンスを与えている。21世紀は、イラクとアフガニスタンから撤退して、アメリカ外交がアジア・太平洋における地域統合を指導する、というクリントン国務長官の演説は歓迎された。

中国は、それをアメリカが(予想通り)地域の覇権を譲らない姿勢の表れとみなすだろう。しかし、パクス・アメリカーナを続ける力がアメリカにはあるのか? 財政赤字が膨張して、軍事費の削減も求められるときに? 中国が急速に経済や軍事における実力を高めているときに?

Daniel Twining ・・・アメリカがアジアに焦点を向けるとき、その外交の中心にあるのは、もっとも近い立場の同盟国、日本ではない。13億人の民主主義国家、アジアの均衡を維持し、アフガニスタンやパキスタンでテロを抑えるために協力する、インドでもない。それはアメリカの地位に挑む競争国、中国である。オバマ政権は、最近、台湾への武器売却を中国に配慮して抑制した。

これは後ろ向きの外交だ。中国にこそ、アメリカに協力する姿勢を明確にする義務がある。この60年間、中国の改革開放を含めて、アメリカはアジア地域の平和を維持してきたのだから。対照的に、中国は急速に軍備の近代化を遂げ、攻撃的主張を示すようになった。それは近隣諸国にとって安全を損なうものとみなされ、アジアの経済的軌跡を支えた安定性を損ないつつある。

しかし、オバマ政権の姿勢は混乱している。韓国との自由貿易協定の議会承認を求めなかったり、日本との経済対話を格下げしたり、インドとの二国間投資協定を遅らせたりしている。James Steinberg元国務次官は、米中関係を1世紀前の英米関係にたとえて、アジア諸国の強い不評を買った。アメリカのメッセージは一貫性を欠いてきた。

Minxin Pei ・・・アメリカが21世紀の「太平洋の世紀」を担うのは無理だろう。しかし、この数年、機会は高まった。オバマ外交はアジア地域を「リエンゲイジメント」する方針だ。アメリカの高官、特にクリントン長官がアジア諸国を訪問したし、中国の攻撃的な発言はそれを促した。

クリントン演説は新しいものではない。その6つの行動方針もよく知られたものだ。1.二国間安全保障の強化、2.中国など、新興勢力との関係深化、3.地域の多角的協力機関構築、4.貿易と投資の拡大、5.広範な基礎に立つ軍事力の強化、6.民主主義と人権の拡大。

しかし、ここには深刻な矛盾がある。ワシントンの長期的な戦略が見えないことだ。アメリカは何のために6つの行動方針を取るのか? 永久に覇権を維持するため? 地域に現れる覇権を阻止する?

また、6つの方針が対立したときはどうするのか? 中国との関与を深めることはアメリカの軍事力展開と対立しないか? 民主主義や人権と対立しないか? 二国間安全保障と対立しないか?

そして、アメリカには地域の政策を実現する資源があるのか? たとえばTPP構想は壮大であるが、アメリカ政府にとって、それが何のために必要なのか明確でない。

David Rothkopf ・・・オバマ政権の外交は、クリントン国務長官の構想によって重大な転換軸を示した。中東や中央アジアからアジア・太平洋に向けて、アメリカの関心は転換する。ブッシュ政権の最良の部分を継承して、アジア諸国が行動するとき最も重要な影響力を発揮する中国とインドに向かう。たとえば、将来、中東地域のエネルギーに対する新しい需要のすべては両国から生じるだろう。国連や安全保障でも重要な役割を担う。人口規模でも、技術と生産力でも、アジアは決定的に重要だ。

オバマ政権は、スマートでシステミックな中国の関与=包摂を目指している。さらにアメリカ政府は、中国と近隣諸国間で、地域の均衡を築こうとしている。たとえば、インドを安保理の常任理事国にしたいと考えてきた。福島原発事故に際しては、日本との関係を深めようとした。北朝鮮とも辛抱強く交渉した。ビルマからメコン川、ASEANから南沙諸島まで、その地域をまとめるために細部にまで関与している。

オバマ政権は、ブッシュ政権が貶めたアメリカの国際的評価を高め、単独行動から国際協調へ転換し、対テロ戦術も修正した。そして、クリントン長官の言う「転換軸」に至る。アメリカ外交の到達点から、「太平洋の世紀」が21世紀を形作る。

NYT October 14, 2011

A New Pakistan Policy: Containment

By BRUCE O. RIEDEL

YaleGlobal Online 14 October 2011

South Korea’s Nuclear Weapons Temptation

Lee Byong-Chul

北朝鮮は朝鮮半島の非核化を守ることなどないだろう。韓国の次期大統領候補と言われる保守派の指導者は、アメリカの強い関与を求める。しかし、アメリカは「日本海」と「東海」の論争でも、北朝鮮との合意でも、韓国政府の信頼を損なった。米韓の信頼関係なしには、北朝鮮の軍事的優位に対抗するため、韓国国民が核武装を求めるようになる、と示唆している。

FP Tuesday, October 18, 2011

People's Daily responds to Clinton on 'Pacific century'

Posted By Joshua Keating


l  ウォール街占拠の拡大

BLOOMBERG Oct 14, 2011

Chinese Draw Lessons from ’Occupy Wall Street’

By Adam Minter

中国にも「ウォール街占拠運動」の余波が及んだようです。上海の南東300マイルにある温州Wenzhou市で、預金や投資のように不動産が購入されていたようです。インフレ加速やバブルを心配した政府による融資抑制、投機的な高利貸の取り締まりが問題になっています。

WP October 15, 2011

Around the world, rage against the elites

By David Ignatius

これは一種の、不満を持つ者たちの「グローバルな春」、である。

彼らの運動は同じことを表している。伝統的な政治エリートを拒む。グローバリゼーションの利益は大衆ではなく富裕層が得ている。ビジネス界と政治的な汚職のつながり。Facebookなどのソーシャル・メディアによるパワー。

このネオ・ポピュリズムが驚きをもたらすのは、旧来の政治的境界線を越えていることだ。茶会とウォール街占拠とは政治的立場が逆である。しかし、彼らには共通することが多い。アラブの春もそうだ。ギリシャやイタリア、フランスの中産階級は、債務漬けの政府が給付を削ったことに憤る。イギリスやドイツでは、国民文化や政治的規範を持たない移民の流入に不安を感じる。

中国やインドのように、ブームが続く国でも不満が高まっている。2005年、中国には87000件の争議があった。一日に238件だ。それ以降、データを公表しなくなった。インドでも、汚職に抗議するAnna Hazareのハンガー・ストライキに支持が集まった。

グローバルな経済変化により、社会的正義を維持できなくなった政治指導者たちに抗議が向かう。ヨーロッパの政治指導者たちは、まだ、社会契約を書き換える作業を終えることができない。

近年の強欲と不正義を思えば、世界のネオ・ポピュリストの怒りは正当であろう。しかし、ここには1930年代と似た不安を感じる。1930年代の不況でも、伝統的なビジネス界や政界の指導者たちは失敗し、左右のポピュリストが不満を危険な運動へ導いた。

当時のアメリカには、カリスマ的な指導者であるフランクリン・D・ルーズベルトがいた。今度、それほどの幸運は続かない。

guardian.co.uk, Sunday 16 October 2011

The global economy is broken. Here's how to fix it

Tony Greenham

NYT October 16, 2011

Losing Their Immunity

By PAUL KRUGMAN

彼らは、金融ビジネスがアメリカに何をしているか理解していないのか? アメリカの金融化は、市場の見えざる手を超えて進んだ。それは政策の選択や規制緩和によって導かれた。所得や資産で見た不平等が拡大した時代である。

Global Times | October 16, 2011

Capital deafens politicians to people's cries

By Shan Renping

guardian.co.uk, Monday 17 October 2011

In the City and Wall Street, protest has occupied the mainstream

Polly Toynbee

NYT October 17, 2011

The Great Restoration

By DAVID BROOKS

guardian.co.uk, Tuesday 18 October 2011

The Occupy Wall Street image that marks the end of the global consensus

Jonathan Jones

世界が流動化し、さかさまになった。OWSNYのタイムズ・スクエアにやってきた。資本主義に対する不満。人々は、法律や、問題を議論するためではなく、システムそのものに憤慨している。

「グローバルな市場経済は20年前に勝利した。1980年代には、まだサッチャーの『富の創造』という信仰を議論できた。しかし、次の10年は、彼女が正しかった、とすべての人が同意していた。1989年にソ連圏が崩壊して、市場は全地球を支配した。共産主義の代案はあまりにも不気味であったから、クリントンとブレアは左派を導いて自由な金融ビジネスを受け入れさせた。こうして世界は動いていた。資本論は古本屋に並んだ。」

今、再び、R.H.トーニーやレーニンの言葉がよみがえる。

BLOOMBERG Oct 18, 2011

Wall Street’s 1% Meets 2 Billion Seeking Answers

By William Pesek

BLOOMBERG Oct 18, 2011

As Kaldor’s Facts Fall, Occupy Wall Street Rises

By Peter Orszag

WP October 18, 2011

What the Occupy protests tell us about the limits of democracy

By Anne Applebaum

ロンドンでも、the Occupy the London Stock Exchangeが起きた。New York’s Zuccotti Parkと同じだ。ロンドンではマイクが禁止されていないけれど、the Monty Pythonの映画みたいに、彼らはスローガンを唱和する。

OWSは具体的な法案を示さない。それは当然だ。グローバル経済危機の原因も、その解決策も、地域や国家の政治家の手中にはない。人々は不満や経済的苦痛を、北京やブラッセルやニューヨークで投票できない。たとえ緊縮財政に憤慨しても、債権を握る者は地球の裏側にいる。

「具体的なプログラムを持たない国際的な抗議運動が現れたのは、それゆえ、偶然ではない。それはより深刻な危機、明確な解決策のない危機を反映している。民主主義は法の支配に依拠している。民主主義は明確な境界内で、自分たちが同じ国民に属すると意識する者によって行われる。『グローバル・コミュニティー』はナショナルな民主主義ではありえない。そしてナショナルな民主主義は、タックス・ヘイブンにある何十億ドルものグローバル・ヘッジ・ファンドに忠誠を求めることができないし、その本社やスタッフが世界中に散らばっている。」

私はまだグローバリゼーションの経済的・精神的な利益を支持するが、グローバリゼーションは明らかに西側民主主義の正当性を破壊し始めている。

ロンドンに集まった抗議の人々は叫ぶ。・・・“We need to have a process!”

guardian.co.uk, Wednesday 19 October 2011

The Occupy movement has lit a fire for real change

Seumas Milne

Project Syndicate 2011-10-20

Recovery before Reform

Robert Skidelsky

銀行の過剰融資は経済危機の原因であったが、銀行融資は経済回復のために必要だ。金融改革の意図を挫かないように、景気回復を優先するべきだが、それは政治的に難しい。

危機に至るまで、専門家たちは金融市場の効率性を称賛し続けた。1930年代の大恐慌を受けて、その後の50年間は金融権力が政府によって抑制されてきた。1933年のグラス=スティーガル法がそうだ。しかし、金融権力はその擁護者・専門家とともに復活し、クリントン政権は1999年にグラス=スティーガル法を廃止し、CDSや銀行のレバレッジを規制しなかった。


l  グローバリゼーションの敗者

BLOOMBERG Oct 14, 2011

Free Trade Isn't Always Good For the Masses

By William Pesek

自由貿易を生き残るには、新しい成長のエンジンが必要だ。

NYT October 15, 2011

Let’s Admit It: Globalization Has Losers

By STEVEN RATTNER

グローバリゼーションには勝者だけでなく敗者もいる。アメリカの中産階級、製造業労働者の所得がこの10年で大きく低下した。いろいろな理由があるけれど、グローバリゼーションは無視できない。

GMの労働者で見れば、アメリカは様々な給付と含めて、時給56ドルだ。メキシコなら7ドル。中国は4.50ドル、インドの労働コストは時給1ドルである。中国やインドのGMはアメリカと同じ生産性を達成できていないが、メキシコなら達成できる。

労働組合は雇用を守るために賃金の低い労働者の採用を認めている。しかし、かつて農業で起きたことが製造業でも起きるだろう。半世紀前には労働力の32%を占めたが、今では9%である。

保護主義や賃金引き下げではなく、高賃金の雇用を維持する成功例に従うべきだ。ドイツでは高度な工作器具を生産している。アメリカにも、防衛産業、航空機製造、がある。教育、娯楽、メディアなど、高度な知識を必要とするサービス産業、金融ビジネスがそうだ。Facebook, Google and Microsoft そしてAmerican Express, Visa and MasterCardなど。

政府の役割は何か? 新興企業支援、ビザの発給、公的融資のアクセス改善、特許制度・規制の改善、など。政府は、もっと政策を議論するべきだ。


l  ユーロ圏の改革

FT October 14, 2011

Eurozone crisis dominates G20 gathering

By Chris Giles and Hugh Carnegy in Paris

FT October 14, 2011

Bringing back the spirit of 2009

世界経済の状態はこれ以上ないほど悪化している。債券市場、特に国債が投資家を不安にしている。欧米の雇用統計、中国の成長率、世界貿易など、マクロ経済の趨勢が回復しない。企業は二番底のリスクを避けがたいと考えて投資を控えている。

世界経済が崩壊を避けるには、何よりも信頼の回復が必要だ。来月のカンヌ・サミットに向けて、週末にG20の財務相会議がパリで開催される。あらゆる手段を講じるべきだ。

リーマン・ブラザーズの倒産後、世界経済が戦後最大の危機に直面していたとき、20094月にG20のサミットがロンドンで開催された。政策担当者にはすでに弾が尽きた、という不安があった。主要な経済において既に金利はゼロに近づいていたからだ。しかし、ロンドンG20は悲観論を退けた。世界経済に1兆ドル以上も追加し、指導者たちは市場が求める大胆な決意を示した。

それは必要だから起きる、という意味ではない。疑う理由はある。政府の政策は債務の重圧によって制限されている。黒字諸国は景気回復に全力を傾けていない。政治家たちは指導力を示せない。

しかし、BRIC諸国はIMFの資金源を拡大したし、ユーロ圏の指導者たちは金融パニックの解決を約束した。世界は建設的な対応を求めている。政府債務危機の包括的な解決策、黒字諸国の刺激策、が必要だ。

信頼の回復はすべての国の責任だ。再建されないという理由はない。

FP OCTOBER 14, 2011

Germany's Not That Sorry Anymore

BY YASCHA MOUNK

ギリシャやイタリアの債権に対する市場の信頼はさらに悪化している。ドイツの資金だけが唯一の望みだ。ユーロ圏が単一の通貨を維持するには、ドイツが大胆な行動を取るしかない。

共通通貨の採用はドイツに大きな利益をもたらした。ドイツ・マルクへのノスタルジーはユーロ危機のダメージを誤解させる。ユーロ圏が崩壊すれば、世界経済は不況になり、ドイツの輸出は激減し、ギリシャやイタリアの債券を保有するドイツの銀行も大きな損失を被り、納税者が救済のために負担する。失業と財政赤字が急増するのだ。

しかし、メルケル首相は徐々に行動を拡大しただけで、ユーロ債の発行といった、政治的・財政的な大胆な改革を拒んだ。その理由は、ドイツがこの20年間に経験した構造変化にある。

アデナウアーからブラントまで、ドイツの戦後指導者たちは、ドイツが近隣諸国に市民的な仲間として受け入れられるためには、過去に対する償いが必要であることを理解していた。イスラエルに補償し、東側の近隣諸国と和平条約を結び、何よりも、旧敵国である英仏米との間に同盟関係を確立した。

しかし、戦後の悔恨を示すドイツ人は、その記憶から遠く離れて、いなくなった。東西再統一以来、アウシュビッツや第三帝国の退屈な話は終わりにしたくなった。1998年に、著名な小説家Martin Walserが、アウシュビッツをドイツの国益を損なうためによそ者が振り回す「道義的なバット」と呼んだ。2002年、シュレーダー首相はイラク戦争に反対して、ドイツはアメリカのペットではない、独自の道をゆく、と述べて再選を有利にした。リビア危機に際しては、従来の安保を重視するタカ派、親米派まで、ドイツの独自性を支持した。ドイツ軍が参加しないだけでなく、安保理決議にも棄権した。

同じ姿勢がユーロ危機にも示されている。多くのドイツ人は、自国が余りにも長く卑屈な姿勢を取ってきた、と感じている。ドイツの歴史、第三帝国のせいで、現在のギリシャ債務を救済しなければならない、ということは不当である。

しかし、ドイツが行動しないことは単に自己破壊的でもある。ヨーロッパ経済を焼失させるに任せることは、ドイツにとっても合理的なものではない。メルケルと閣僚たちは、ドイツ外交のこうした混乱を理解できないのだ。アメリカや中国、ロシアに比べて、ドイツは小国であり、軍事的には一層、協力しなければ、その安全、豊かさ、影響力を保持できない。

ユーロの崩壊や延焼を放置するような態度は、現在のドイツ指導者が長期の戦略目標を見失っていることを示している。ドイツの戦後政治家たちは高尚な理想を語るときも国益を見失わなかったが、現在の政治家たちはそのレトリックを素朴に受け入れている。メルケルの連立与党であるFDPは、「やっと、我々がノーと言えることを示してやった」と主張する。まるで自国民の生活を賭けて国益を守ったかのような話し方だ。

ユーロも、EUの安定性も、新しいドイツは脅かす。過去への過剰反応で国益を見失っているのだ。

 (China Daily) 2011-10-15

Re-establishing global economic cooperation

By Xiao Gang

LAT October 16, 2011

Merkel intent on keeping Eurozone united

Doyle McManus

FT October 16, 2011

Why Europe’s officials lose sight of the big picture

By Wolfgang Münchau

ユーロ圏の危機に対する政策が何度も失敗するのには共通の理由がある。ユーロ圏が大規模な閉鎖経済であることだ。しかし、17の加盟諸国は小規模な開放経済である。政治指導者たちはユーロ圏を小規模開放経済(small open economy)の政策思考・経済モデルで運営している。

大規模閉鎖経済の調整が経済危機の原因である。しかし、小規模開放経済の発想では、協調しない緊縮財政が求められる。すべての国が緊縮政策を取れば、その効果は成長にマイナスである。しかし、小国開放経済はそれを見なくてもよい。あるいは、心配しても無駄である。

ギリシャやアイルランドだけでなく、イタリアやスペインも財政目標を達成できないだろう。それは緊縮政策が不況をもたらし、赤字が増えてしまうからだ。彼らに制御できない理由で財政赤字が増えるのに、さらなる緊縮財政を求める。

加盟国だけでなく、欧州委員会もこのイデオロギーに囚われている。ユーロ圏全体に累積する効果や、世界経済に与える効果を見ていない。ユーロ圏は、巨大な閉鎖経済になった。それは、強大なフィンランドではない。

ユーロ圏の政策担当者は加盟諸国から選ばれた最高の専門家たちである。欧州委員会、ECBIMFの加わった政策計画が、間違っているというのか? 彼らはそれほど間抜けだと思うか? と、反問された。それはデータが示している。彼らは間違っている、あるいは、間違った目標に縛られているのだ。

17か国の小規模開放経済が集まって大規模な閉鎖経済を作った。しかし、政策担当者は小規模開放経済のモデルを使って互いにデフレを強めている。週末のサミットも危機を打開できないだろう。

FT October 16, 2011

Rescue leverage

SPIEGEL ONLINE 10/17/2011

Will Merkel Take The Reins?

Europe Deeply Divided Ahead of Make-or-Break Summit

SPIEGEL ONLINE 10/17/2011

The Next Domino?

Top Economists Warn of France Downgrade

guardian.co.uk, Tuesday 18 October 2011

Europe's defunct idealism is like Munich all over again

Simon Jenkins

ヨーロッパ金融危機は、1938年、ミュンヘン会談の悪臭を放っている。切れ目なく話し合いは続き、指導者たちはあちらこちらへ向かうが、どこにもたどり行けない。迫りくる破局を見ずに、解決したというふりをする。

2008年の金融危機はワシントンが注目された。銀行は救済されたが、経済は回復しなかった。今度はヨーロッパだ。イギリスは銀行の救済に2年間で2750億ポンドを費やした。そのほとんどは海外の口座や債務の償却に使われ、商品価格の上昇やポンド安、インフレにつながった。量的緩和は、エンジンにつながらない燃料タンクにガソリンを詰め込んだようなものだ。

2008年の金融危機は、債務のグローバリゼーションという新しい現象によって起きた、と思われた。それは予想不可能で、だれも責任を取らなかった。しかし、ヴィクトリア時代の投資家はもっと多くの海外投資を行い、そのほとんどは失われた。

両大戦間期に、国際連盟が作られ、ロカルノ条約や付箋同盟ができたが、そのとき、ドイツは再軍備を始めた。誰もそれを阻止しなかった。今、ギリシャ政府が破たんしている。他の政府も破綻するかもしれないが、誰もそれを阻止しない。ヨーロッパの指導者たちは、大陸全体が失業者の海に投げ込まれても、機能しない理想主義を称揚することに忙しい。

1920年代、30年代の知識人、リベラル派はヨーロッパの経済的・政治的な現実を読み取ることに失敗した。間違った理想主義と自己利益に妨げられた。今も破局が待っている。

WSJ OCTOBER 18, 2011

The Euro Crisis: Lessons From Bear Stearns

By DAVID SKEEL

FT October 18, 2011

There is no sunlit future for the euro

By Martin Wolf

非常事態を脱するかもしれないが、病気は直せない。G20諸国は病気の性質を見誤っており、また、慢性的なものであるから。

解決策として求められているのは、銀行の危機回避、ギリシャの危機回避、他の赤字国への波及防止、である。

銀行にはストレス・テストを行い、自己資本を増やすことだ。しかし、これは心理テストの性格がある。EFSFが資金を増額されてこれにあたる。次に、ギリシャの債務削減は、債権者のボランタリーな参加ではなく、ドイツが主張するように強制的なものでなければならない。しかし、赤字国が債務を削減されて改革を行うとは思えない。最後に、ECBが赤字国の債券を購入して流動性を維持する、もしくは、EFSFが債券の新規発行を保証する。

しかし、危機を回避しても、赤字諸国に永久に財政的な移転を続けても問題は解消しない。南部の不況地域が残るだけだ。問題は融資ではなく、調整である。

単一通貨圏には調整問題がない、という間違った信念(宗教的な確信)によって、財政赤字だけを議論している。他の均衡は自動的に達成される、というのだ。これはナンセンスだ。

なぜ対外赤字が重要なのか? 1.居住者の所得を超える支出が海外から融資されている。それがなければ不況や財政赤字になる。2.対外赤字が長期化すれば経済構造や競争力に影響する。3.赤字が続けば、それを仲介する銀行の融資が増える。対外融資が止まれば、銀行の資産や景気、財政状態が悪化する。

為替レートがないユーロ圏内では、アメリカやイギリスには為替レートで調整できることを、「内的な切り下げ」(生産コストの抑制)で実現しなければならない。ユーロ圏内でも不均衡の調整は重要である。しかもデフォルトやデフレを用いる困難なものだ。通貨同盟の中核に構造的に重商主義の国家があることが周辺諸国の調整をさらに厳しくしている。これを解決することが真の治療である。

FT October 18, 2011

Germany will never leave the eurozone

Ian Bremmer

ユーロ圏の解体はありえない。ドイツは離脱しない。

ドイツは共通通貨によって近隣諸国の競争的な切り下げから免れている。周辺の赤字国に救済融資することでモラル・ハザードが起きるのを心配するのは当然だ。しかし、ドイツがこの無条件で、赤字国の財政規律は求められるだろうし、将来のモラル・ハザードを回避できる。ドイツの黒字モデルにEUは従うだろう。

もしドイツがいなければ、EUは解体する。そうなれば、ドイツは経済や安全保障面で友好的でない諸国に囲まれる。当面、危機やリスクを意識して資本はドイツに逃げ込み、スイス・フランのように、大幅な増価が生じる。それはドイツの輸出や成長を損なうだろう。

ドイツの世論は矛盾している。彼らは周辺赤字国への財政移転を好まない。しかし、ユーロ圏の維持を望む。危機が強まれば、国民はその両方を望む。ドイツの生活水準と繁栄はEUやユーロと深く結びついている。エリートたちはそれを知っている。

FT October 18, 2011

Merci, monGénéral, bonjour Monsieur Monnet

By Thomas Klau

SPIEGEL ONLINE 10/19/2011

Leveraging the Backstop

A Trillion Euro Insurance Policy for the Common Currency

SPIEGEL ONLINE 10/19/2011

Shock Therapy in Greece

A Mega-Strike Aims to Challenge Austerity

By Ferry Batzoglou in Athens

FT October 19, 2011

The eurozone rescue fund is still not big enough

Gavyn Davies

FT October 19, 2011

Europe needs the ECB to step up to the plate

By Paul De Grauwe

政府債務危機が銀行危機に拡大しつつある。銀行の自己資本を増強するだけで危機は解消しない。なぜなら、資本市場は不安定であるから、銀行の資本増強と政府による公的資金注入とが制約される(なぜならそれは政府の債務を増やし、再び銀行の資産を悪化させる)。

悪循環を止めるのはECBである。ECBは債券市場を改善できる唯一の機関である。なぜならECBは無制限に現金を追加できるから。ECBがそれを表明すれば、銀行の資産悪化は止まる。投資家たちがECBの決断を信用すれば、債券価格の下限ができ、ECBはそれ以上の債券購入を必要としない。

ECBが政府債券市場で最後の貸し手として行動することに反対する者が多くいる。その一つは、財政赤字を融資すればインフレになる、というのだ。この反対には根拠がない。ECBが債券の流通市場で購入し、流動性を追加しても、政府ではなく金融機関が資金を得るだけだ。彼らは安全な資産を求めており、それが中央銀行貨幣なのだ。それゆえ保蔵されるだけで、融資やマネー・サプライを増やさない。インフレ圧力にはならないだろう。

ECBが最後の貸し手になることは、モラル・ハザードを招く、という理由でも反対される。しかし、だから赤字国の財政再建が強く求められている。そのためのルールは確立されるだろう。

EFSFECBの代わりにならない。EFSFの意思決定は全会一致であり、迅速な決定が制約される。ECBが行動しないとしたら、その責任は免れない。金融当局としての純潔さ(monetary virginity)を守るために、ユーロ圏を破壊するリスクを冒すなら、そのような純潔はだれの利益にもならない。

FT October 19, 2011

Analysis: A weekend to save the euro

By Peter Spiegel and Alex Barker in Brussels

ルビコン川を渡った。融資はすべて返済されるという主張をあきらめ、債務削減が求められる。

しかし、1.ギリシャの債務削減、2.ヨーロッパの銀行保護、3.イタリアへの波及阻止、という三つの問題が複雑に関係しており、その交渉は異なった多くの関係者におよぶため合意達成が困難である。

それぞれの問題で、どのような可能な解決策が議論されるか。それが失敗する要因は何か。交渉に参加する関係者の思惑が整理されている。

Project Syndicate 2011-10-19

The Bankers’ Capital War

Howard Davies

銀行の自己資本増強には根拠があるのか?  Jamie Dimonthe Chairman and CEO of J.P. Morgan and Walter Bagehot1873年に出版されたLombard Streetの著者)は反対している。

guardian.co.uk, Thursday 20 October 2011

Greece's lines now are clear

Costas Douzinas

SPIEGEL ONLINE 10/20/2011

Leveraging Explained

Europe's Idea for Maximizing the Backstop Fund

By Maria Marquart

SPIEGEL ONLINE 10/20/2011

French-German Impasse

EU to Hold Second Summit Next Week Due to Differences

VOX 20 October 2011

A deadline for solving a deadly Eurozone sovereign debt crisis

Guillermo de la Dehesa

解決するべき問題は4つある。1.ギリシャ、2.伝染、3.ガバナンス、4.成長。すべてを解決するには、当面の危機回避とともに、ユーロ圏としての制度を整備する長期の改革を進めることになる。


l  中国の転換点

Project Syndicate 2011-10-14

The Water Hegemon

Brahma Chellaney

中国の台頭をめぐる国際論議は、貿易、海運、軍事力、などに向けられている。しかしもう一つの重要な問題は、アジアにおける水資源の確保である。

中国は、国際河川を管理する世界最大のダム建設超大国である。地球上に存在する約5万の巨大ダムのうち、その半分以上が中国にある。巨大な水力発電計画が近隣諸国との交渉における切り札となっている。

中国政府は国際河川の源流域をダムで開発し、下流域の利用を妨げる。しかし、メコン河委員会the Mekong River Commissionなどの国際機関には参加せず、交渉相手にしない。二国間交渉で有利な条件を求める。

また、西域への開発にともない、内陸部の河川を輸送手段として開発する計画the Great South-North Water Diversion Projectも進めている。

こうした開発は地域の環境や部族社会を破壊し、紛争を刺激する恐れもある。

WP October 14, 2011

China must respect the free-trade system

By Mitt Romney

(China Daily) 2011-10-14

US still plundering global wealth

By Zhang Monan

FT October 16, 2011

A workshop on the wane

By JamilAnderlini

温州の靴工場、ライターやメガネの生産工場は、中国経済の未来の傾向を予想させる。すでに工場は最低賃金やその他のコスト上昇で経営が苦しくなっていた。

中国経済は緩やかに減速し、転換点を迎えるのか? 安価な資本、安価な労働力、安価なエネルギー、安価な土地による輸出・投資の増大が支えた高成長モデルは、膨大な不均衡と非効率を生じている。そして、中国の成長モデルの転換は、その安価な製品“China price”に依存してきた西側のビジネスと消費者に影響を与え、中国向けに資源を輸出してきた諸国、世界中の輸出ビジネスにも影響を与える。

FT October 16, 2011

China needs a long-term solution for its property woes

By George Magnus

温家宝首相は温州を訪問した。銀行が融資を抑えたために消費者や輸出企業にインフォーマルな金融が増えている。しかも、より重大なこととして、不動産バブルが破裂したかもしれない。

資本の効率性が悪化している。投資や融資に頼る高成長から、もっと家計の消費を重視した成長に移行しなければならない。しかし、それには新しく利益を受ける者と損失を強いられる多くの関係者、旧支配層や政治家がいる。

共産党の新指導部には厳格な決断ができないかもしれない。

NYT October 18, 2011

Imagined in America

By THOMAS L. FRIEDMAN

FT October 19, 2011

Why China’s leaders fear looking in the 1911 mirror

By David Pilling


LAT October 17, 2011

Unfounded drone fears

By Michael W. Lewis

オバマ政権によるAnwar Awlakiの暗殺は、世界に無人偵察・攻撃飛行機、ドローン、の新しい軍備拡大競争を引き起こした。


l  衰退の管理

FT October 17, 2011

America must manage its decline

By Gideon Rachman

アメリカは、戦後のイギリス外交にならって、「衰退を管理する“the management of decline”」ことを学ぶべきだ。

しかし、アメリカの主要な論調では「衰退」を受け入れない。アメリカはグローバル・パワーの衰退を公式に認めて、理性的に議論したほうがよい。否定することは、戦略ではない。

オバマ大統領を「衰退論者」と非難する保守派のCharles Krauthammerだけでなく、ハーヴァードのリベラル派Joseph NyeNYTThomas Friedmanの新著、Hillary Clinton国務長官の演説など、アメリカの衰退を否定する議論は多い。アメリカ人が「偉大さ」を好み、オバマ政権がアジアで覇権を維持するというなら、それがアメリカ国内に及ぼす影響をどう考えるのか? そのコストを歓迎する政治家はいない。

アメリカが経済的な支配を失っても、軍事、外交、文化、技術で、しばらくは政治上の優位を維持できる。たとえ成長率が低くなっても、中国はいつかアメリカの経済規模を超える。アメリカの世界を動かす力は制約されるのだ。

1945年以降、イギリスは衰退を受け入れ、その条件でも、普通の人々の生活水準を高め、平和を維持しようとした。衰退とは、平和や繁栄を目標としてあきらめることではない。選択し、同盟を形成しなければならない、ということだ。

アメリカが世論を新しい時代に合わせて変えていかないことは危険である。内外における譲歩について国民は激しい反発を示し、冷静な、断固とした対応よりも、怒りと非理性的な対応に向かうだろう。それは歴史家のRichard Hofstadterが「アメリカ型偏執病的政治スタイル“the paranoid style in American politics”」と呼ぶものをもたらす。

衰退を管理するとは、政治学や経済学と同じくらい、心理学の問題だ。イギリスはアメリカの覇権を受け入れやすかったが、アメリカは中国の覇権を同じようには受け入れにくい。


l  雇用問題

Project Syndicate 2011-10-17

The Global Jobs Challenge

Michael Spence

この30年間で数億人の新しい労働者が世界経済に加わった。それはグローバルな構造変化をもたらし、アメリカにもグローバルな三つの調整を求めている。1.十分な雇用を提供する。2.十分な訓練を施す。3.分配に及ぼす効果を吸収する。

先進諸国の中産階級は雇用と所得を失い、政府は債務危機を招く。彼らの期待は緩やかにしか変化しない。将来、グローバルな経済管理機構が個人や経済、社会の調整能力に見合う程度まで、グローバリゼーションの速度を抑えることで解決するかもしれない。

FT October 18, 2011

Turn America into a giant ‘enterprise zone’

By Richard Bernstein

アメリカは、エコノミストたちが合意したにもかかわらず、いまだに間違った政策を続けている。すなわち、バブルを再現する政策を続け、信用拡大や消費に依拠した経済にとどまり、生産と輸出による成長への移行を推進していない。

開放的なグローバル経済で国内の投資や雇用を刺激したいなら、それはもっと国内経済に焦点を絞ったものでなければならない。過去の減税策は、アメリカの成長よりも新興市場を助けた。

一つの解決策は、「企業特区」をアメリカ全土に拡大することだ。たとえば、工場の建設に対する投資には、一定の期間、連邦税を課さない。新しい設備の導入やコミュニティー・カレッジによる職業訓練など、地域が競争する。

それは政府に新しい負担を求めない。しかし成功すれば、歳入が増える。


LAT October 17, 2011

The right route on trade

貿易不均衡に正しく対処するとはどういうことか? パナマ、コロンビア、韓国との自由貿易協定。中国の通貨・人民元の為替操作に対する非難。1930年のスムート=ホーレイ関税法。WTOへの告発。知的所有権の保護要求。


Project Syndicate 2011-10-17

Barrels, Bushels, and Bonds

Jeffrey Frankel

商品債券commodity bondsを売買することで、国際商品価格の変動やドルの為替リスクから、(多くの貧しい)商品輸出国は解放される。その債券が市場で十分に売買されるように、世界銀行は証券化に協力するべきだ。


LAT October 18, 2011

Charles Darwin the economist

By Robert H. Frank


FT October 18, 2011

Exchanging goods rather than blows

通商の自由化協定によってインドとの貿易を促すことは、経済の再建と過激派のテロを抑えるうえでパキスタンにとって二重の重要な意味がある。そして、中国に大きく依存するだけでなく、地域のバランスを取ることにも意味がある。


l  ポーランドとウクライナ

guardian.co.uk, Wednesday 19 October 2011

As Poland shines, Ukraine sinks. Yet both their trajectories can be changed

Timothy Garton Ash

ウクライナとポーランドは非常に親しい隣国である。2012年のフットボール・ユーロ大会は両国が共同開催した。ポーランドはウクライナのEU加盟を支持し、その政治情勢にも強い関心を持っている。

しかし、Viktor Yanukovych大統領は政治的裁判によって、政敵の前首相Yulia Tymoshenkoに対して懲役7年、罰金12000万ポンドの判決を下した。さらに釈放後も3年間は政府の職に就けない。ウクライナがロシア寄りの姿勢を示すミニ・プーチン型裁判だった。

これほど両国の対照を明確に示すケースはない。ウクライナは政治ショーとして裁判を利用した。ポーランドは正常な、静かな議会選挙を実行した。ポーランドは、穏健な中道右派の、改革には慎重な、政党が政権に復帰した。それは農民の小政党との連立政権だ。経済は昨年3.8%で成長し、EUの議長国を務めている。

今ではワルシャワから飛行機でマドリードやアテネに旅行できるが、むしろその方が怒りに燃える反資本主義のデモ隊や神経質な暴動鎮圧警察に出くわす。まだ偏執病的政治を引き継ぐポーランドの野党指導者Jaroslaw Kaczynskiは、ドイツのメルケル首相を、ナチの秘密警察について非難した。しかし、1989年の革命以降、その成果は大きい。

それに比べて、2004年のオレンジ革命以降、ウクライナの改革は進まなかった。それは多くのポーランド人の期待を裏切るものだ。多くのウクライナ人の生活は改善し、自由にもなったが、政治・経済システムは腐敗と脅迫、非効率に満ちている。

二つの国の恐るべき乖離を何で説明できるだろうか? 外部要因、ウクライナにはEUの関与が低く、ロシアの干渉が強い。特に東部のロシア語圏がそうだ。あるいは、経済学。あるいは、文化的要因。ハンチントンの分類では、ウクライナ東部におけるギリシャ正教の遺産は民主主義の失敗をいくらか説明する。そしてポーランド西部のカソリック信仰は民主主義の成功を説明する。

それらはいくらかの真実を含むだろうが、アメリカの政治思想家、Daniel Patrick Moynihanの考察が優れている。「保守派の重要な真実を述べれば、社会の成功を決めるのは政治ではなく、文化こそが重要だ、ということだ。リベラルの重要な真実は、政治が文化を変えることができる、あるいは守ることができる、というものだ。」 良い政治、よい憲法、よい裁判所があれば、時期を幸運とによって、川の流れは変わる。低級な、酔っぱらった、汚職だらけの社会、と40年前の普通の旅行者にはポーランドがそう見えただろう。しかし、近代的で、オープンな、民主的社会になれた。そしてリベラル派は、ギリシャ正教の社会も、イスラム教の社会も、アジア的な社会も、それ自身が変化できる、と信じている。

それはEUの政策に対する教訓でもある。政治と法の支配をもっと重視しなければならない。Tymoshenko裁判は重要であり、ウクライナへの強い姿勢が求められる。


l  国家の謝罪

Project Syndicate 2011-10-19

Sorry States

Dominique Moisi

国家も過去の行いに謝罪することが増えている。しかし、どこで謝罪は終わるのだろうか? 十字軍についても謝罪するのか? ルイ14世の軍隊がドイツの都市を破壊したことに謝罪するか? ナポレオンの侵攻を謝罪するか? 歴史とは悔恨の循環なのか?

「グローバリゼーションの時代には、透明性と相互依存が重要であり、悔悟はグッド・ガバナンスの手段である。過去のマイナスの側面を神話や無関心から取り上げて、払拭することに成功した政府は、それ自体、そして他国に対して、優れた調整能力を得る。」

ドイツは第二次世界大戦後にヨーロッパの近隣諸国と協力することを学んだが、日本はアジア諸国と協力することを学ばなかった。ドイツが謝罪したからEUは実現した。

しかし、フランスの大統領はアルジェリアに謝罪する勇気があるだろうか? アラブの春やリビアへの介入にかかわるフランスは、アルジェリアに謝罪していないことで大きな代償を支払っているだろう。

「悔悟は弱さの徴ではない。逆に、静かな、良心的な、強さの証明なのだ。それは優れた、リアリスティックな、ガバナンスの前提条件である。」


WSJ OCTOBER 20, 2011

How to Clean Up the Housing Mess

By ALAN S. BLINDER

差押え住宅の問題を改善する方法はある。

Project Syndicate 2011-10-20

Occupy the Mortgage Lenders

Simon Johnson

住宅債権の証券化に「正義」を求めて占拠する方法はある。住宅所有者は救済できる。


l  カダフィ後へ

FT October 20, 2011

Gaddafi meets a timely end

WP Friday, October 21, 2011

Obama chose the right course on Libya

By David Ignatius

オバマは、アメリカの指導力を主張するのではなく、NATOによる介入を我慢強く支持し、直接の軍事介入を拒んだ。リビアには非宗教的で民主的な、強い国家の再建が必要だが、アメリカではなく、国連がそれにあたる。

******************************

The Economist, October 8th 2011

The magician

Echoes of 2008: Here we go again

Charlemagne: Return to Maastricht

Business and the euro crisis: Under the volcano

Western banks: Danger everywhere

Hope in Myanmar: A Burmese spring?

Politics in Myanmar: A change to believe in

Banyan The Mongolian sandwich

America’s drone campaign: Drones and the law

(コメント) Steve Jobsの訃報について。Jobsの紹介や、PCからSmart Phone、そして Tabletへ向かうコンピューターの個人生活・企業・政府環境に及ぼす情報技術革命の新局面が特集されています。

2008年の金融危機が再現した、という不安と不満を取り上げます。興味深いのは、ユーロ誕生の地として記念行事をどうすべきか、EUやユーロに反対する傾向が強まったオランダで、それに戸惑うマーストリヒトの話です。また、ユーロ危機がマクロ政策の問題だけでなく、企業や銀行にとって何を準備し、どのように行動し始めることなのか、詳しく紹介しています。初めて危機が理解できます。

ミャンマーの思いがけない改革の加速、モンゴルにおける資源開発と成長・政治論争、ともに中国の膨大な資源需要と貿易・投資の拡大がその生存条件を変えたことで始まったようです。

アメリカの戦争は、平和な地域においても「テロリスト」をミサイルで襲撃します。軍事基地がなくても、兵士が一人もその国に入らないまま、CIAや偵察衛星からの情報で、遠隔操作のドローンが空中から狙いを定めています。

******************************

IPEの想像力 10/24/11

ユーロ圏の銀行の自己資本を大幅に増やすことが危機の回避につながるのか? 私は疑問に思います。

速やかな景気回復のためには銀行を救済するべきだし、ドイツ政府や銀行、投資家は、ギリシャやイタリアの債務処理を助けるべきです。しかしそれは改革への圧力を緩和し、財政赤字や競争力の問題を解決できないまま、次の危機を準備してしまうでしょう。

ECBが「最後の貸し手」になればユーロ圏の解体を回避できるのか? それは長期的な構造調整を、各地の政治システムがどのように実現できるか、にかかっています。

震災の補償や脱原発、東京電力への政府融資も、高齢化(そして高コスト)にともなう医療・保険・年金制度の改革、教育の改革も、同じような矛盾を生じています。むしろ、危機を正面から議論できない日本の政治家たちのほうが問題です。

まったく異なる形で、チュニジア、エジプト、リビアで独裁者が倒されました。オバマ政権は、テロ対策として、他国における政治的暗殺を進めています。

アラブの春からウォール街占拠運動への広がりは、情報革命とグローバリゼーションにともなう民主主義や通貨市場の拡大、財政統合のジレンマを、自分たちの生活改善や将来の安定と両立する形で解決するよう、国民は政府に求めています。

誰が、誰に、説明しているのか? 財源は何で、誰の承認を得なければならないのか? 政府はどこにあるのか?

*****

NHK衛星放送で、「激走モンブラン2011」を観ました。もし観ていたら、あなたもきっとその内容に圧倒されたでしょう。

モンブランを一周する全行程は170キロ。上り下りを繰り返して、主要な峠が7つあります。上る高さだけ足せば9500メートルに達し、エベレストを駆け上って、駆け降りるよりも激しい競技です。正式名は「ウルトラ・トレイル・デュ・モンブラン」というようです。

トレイル・ランニングという競技も初めて知りました。何とも大変な競技です。山登りが好きなヨーロッパ人には、ある意味(救助活動・軍事行動)で、必要な訓練であったかもしれません。競技には2000人余りが参加し、日本からも109人が参加していました。国別では第5位の多さです。そうか、個人ではすごい人たちがこんなにいるのか、と嬉しくなりました。

夜の11時半にスタート、というのは変な気がしましたが、優勝者のタイムは10時間半ほどです。制限時間が各休憩所にあり、それを超えると失格します。全体では45時間半が制限時間です。それでも1133人が、昼夜にわたって、170キロを完走した、というのですから、本当にすごい。2000個のヘッドライトが並ぶ眺めは、走る楽しみを超えた、彼らの熱狂を感じます。

彼らはスイス、フランス、イタリアの山道を駆け抜けます。同じ番組で、熱気球の競技や、パラグライダーと徒歩だけでヨーロッパの山岳地帯を横断する競技も観ました。そして、これはヨーロッパを作るために組織されているのだな、と思いました。

参加者たちは、国家や民族、言語の壁を越えて、競技に打ち込み、互いの苦しみや喜びを分かち合います。彼らは途方もない冒険を共有する仲間なのです。優れた選手たちは互いを意識し、対抗しつつも、相手の人柄や能力をくわしく知って、尊敬するでしょう。競技は、多くの政府や地域社会の支援があって実現可能になり、様々な形でかかわる人々の心に共通の意識を作ります。彼らは「自分たちの」素晴らしい自然や文化を誇りに思うでしょう。

そして、苦しい歴史についても、それが再現されないことを誓い、決別を願うのです。なぜなら、一緒に競技に参加した仲間たちを人として知るようになったから。

*****

東南アジアに戦争のない時代が続き、中国やインドの成長を受けて、資源需要や貿易・投資の機運が高まっています。彼らが孤立するのではなく、協力することで、この機会をとらえるべきでしょう。

ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、などが参加する、大陸マラソン(あるいは自転車レース)を企画してほしいです。マラソンなら国際コースを準備し、自転車レースなら、ハノイからバングラデシュのダッカまで(2700キロ)、あるいは、インドネシアのジャカルタ(ベトナムのホーチミン)から、ブータンやネパール、チベットまで(4500キロ)、チームで駆け抜けます。ツール・ド・フランスが約3300キロということですから、できるでしょう。

国別ではなく、職場や学校などが5人ほどのチームを作って参加します。日本、中国、インド、アメリカが協力して資金とインフラを支援し、企業などはチームのスポンサーになります。予選は各地で行われ、誰でも参加できるミニ競技(たとえば、200キロとか)にします。

こうして人々は互いをよく知るようになります。各地の自然や文化が紹介され、参加するチームの練習風景や、彼らを支える人々が映ります。

この企画の目的は、政治的コミュニティーを拡大し、社会的移動性(職業、地域、所得水準)を高めることです。それは、過去の過ちを認めて悔恨の情を示すとき、それを許して、積極的に協力できる仲間を得る政治過程を、国境を越えて可能にするでしょう。

******************************