IPEの果樹園2011

今週のReview

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アメリカ議会の債務額上限論争 ・・・旧成長モデルの転換 ・・・ギリシャ救済融資の再編・拡大 ・・・オバマは自由貿易を支持せよ ・・・ノルウェーのテロ ・・・中国の関心は変わった ・・・ヨーロッパ統合計画に参加せよ ・・・再生可能エネルギーへの転換コスト

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l         アメリカ議会の債務額上限論争

NYT July 20, 2011

Bonuses for Billionaires

By NICHOLAS D. KRISTOF

議会で予算の混乱をめぐる論争を聞いて、ティー・パーティ―の主張が漸く分ってきた。

なぜ連邦刑務所(アルカトラズ)のような無駄な施設を維持するために金持ちに課税するのか? なぜ失業者への給付のために金融業者の税の抜け穴を防ぐのか? 金持ちはヨットを買うことで雇用を増やしているじゃないか?

まあ、こんな主張だ。要するに、共和党銀たちは間違っているわけではない。まだ、不十分なのだ。もっとはっきりするように、彼らの主張を推し進めよう。

億万長者にボーナスを。・・・失業給付は、彼らを怠け者にし、職探しを妨げる。アメリカ人が食料切符に反対するように、さらに、億万長者には小切手でボーナスを送ろう。こうした費用は普通の労働者大衆から徴収する。いつまでも失業しているなら、もっと厳しい手を打とう。そうだ、住宅を取り上げよう。・・・もうすでに、銀行がしてしまった?

仕事は金持ちからのお零れだ。・・・左派は、共和党員が雇用促進の計画を示さないと批判するが、そんなことはない。確かに、共和党員が提案したCut, Cap and Balance Actが成立すれば、推定で70万人が仕事を失う。いや、これはもちろん、リベラルなシンクタンクの推定だが。

アメリカの最も裕福な400人が所有する富は、最底辺の15000万人が所有する富よりも多い。しかし、もし共和党案が通過すれば、たとえば、この金持ちたちは追加の人員を駐車場の整理に雇うだろう。つまり、400人の雇用が生まれる。

社会主義を根こそぎにせよ。・・・つまり、医療保険制度など廃止する。公教育など、さまざまな社会的給付も廃止する。外国語の教育なんて必要ない。英語さえ話せれば十分だ。

警察も、消防署も、自由市場に委ねればよい。つまり、こういうことだ。「はい、911です。」「助けてくれ! 家が燃えている!」「それはいいですね。消防車1台を5,995ドルで提供しますよ。2台なら、たったの10,000ドルです。」「とにかく、助けてくれ! 家族が中にいるんだ。消防車を3台、今すぐによこしてくれ!」「はい、わかりました。ではまず、クレジット・カードを確認します。さらに、もしあなたが消防車を今すぐに必要とするなら、50%の「急行」料金が追加されます。」

債務額の上限を恐れるな。・・・「債務額が上限を超えたなら」と、Michele Bachmannのような議会共和党員は言います。「解決策が現れるだろう。」「結局、太陽は明日も昇るのだ。」

そんなふうに大恐慌を迎えたのかもしれない。1929年はひどい年だったが、その後、10年も経って、第二次世界大戦がはじまり、我々は景気刺激により救われた。今度もそうなる、と期待できるわけだ。

資産を売ればよい。・・・デフォルトにならない方法はちゃんとある。たとえば、政府資産を売るとき、それを扱うヘッジファンド・マネージャーから税金を取る。あるいは、フォート・ノックスの金塊を売る。4,600トン、2350億ドルの価値がある。防衛予算の4カ月分だ。あるいは、ヨセミテ、イエロー・ストーン、グランド・キャニオンを売ってもよい。

議事堂を貸し出す。・・・議員資格を毎日、オークションにかける。すでに議員たちの多くは温万長者に奉仕しているのだ。こうして財務省に支払ってもらう方が良い。あるいは、議事堂で結婚式を挙げてはどうか? 素晴らしいカップルが誕生するだろう。

NYT July 21, 2011

The Grand Bargain Lives!

By DAVID BROOKS

NYT July 22, 2011

Obama Should Raise the Debt Ceiling on His Own

By ERIC A. POSNER and ADRIAN VERMEULE

もし議会との合意ができない場合、オバマ大統領は一方的に、債務額の上限を引き上げる、と告げるべきだ。これは、憲法に厳格な根拠がある。また、政治的に失点とならない。国民は妥協を望んでいる。一方的に行うという威嚇は、もし共和党員が交渉に応じなければ、オバマの交渉力を強めるだけだろう。もし彼らがオバマを拒めば、国民の支持は大統領に向けられる。いずれにしても、共和党員たちは破壊者と見なされ、その代償を支払うことになる。

リンカーンは南北戦争においてそうであったし、F.D.ルーズベルトも同様の威嚇を行った。もし大統領が債務上限によって支払を止めれば、不況は悪化したはずだ。

FT July 24, 2011

Washington is drowning America

By Clive Crook

guardian.co.uk, Monday 25 July 2011

US default debate: Russian roulette in America

何かを大きな声で繰り返し主張すれば、それが真実として受け入れられるだろう。アメリカの共和党員たちは、オバマを標的にして、それを行っている。アメリカ連邦政府の記録的な赤字は、多くの共和党員が言うような、海外援助や、教育、食糧保障への政府支出によって生じたものではない。その最大の理由は、ブッシュが行った減税であり、イラクとアフガニスタンにおける戦争だ。これらにより1.8兆ドルと1.4兆ドルの債務が増えた。それに比べて、オバマが行った財政刺激策は7110億ドルの赤字を加えただけであり、医療保険制度改革はもっと少ないだろう。財政赤字という意味で、ブッシュ政権の方がオバマ政権よりも5倍近く大きな赤字をもたらした。

再選を目指すオバマは、共和党員の大幅な譲歩を示して取引を促したが、問題は妥協案の内容ではないのだ。問題はオバマの再選を阻止することである。いかなる再選の芽も許さず、すべてを機能させないことだ。オバマが認める案はどれも、共和党員にとって抹殺すべきものだ。要するに、共和党員は選挙で認められたオバマの正当性を受け入れないのである。共和党の支持者、右派のトーク・ショーのすべてにおいて、オバマは憎まれている。

大西洋の両岸で経済が動揺しているときに、こうした争いは危険であり、個人的で、愚劣な政治劇だ。ユーロ圏は格付け機関のデフォルト評価を心配して、ギリシャへの追加融資を議論している。アメリカもヨーロッパも、この10年の住宅バブルが残した債務処理に苦しんでいる。失業も、雇用創出も、歳入増も、議論からほとんど消えている。オバマはこの点で批判される。

アメリカ人はこの50年間、低い税率を享受してきた。それを彼らも知っている。支出削減だけでは赤字は減らず、増税も必要だと認めている。金利上昇、ドル安、世界不況、など、アメリカのデフォルトがもたらすダメージを思えば、それは当然である。7000万件の社会保障、退役軍人、身体障害者への支払も止まる。

そのような危険な議論をもてあそぶ部政治家たちを再び議会に送るべきではない。

FT July 25, 2011

Forget the debt: its jobs that will define Obama’s future

Martin Feldstein

債務額上限よりも、アメリカ経済の高い失業率の方が重要だ。7月の失業率は9.2%であり、不況が始まる前は4.6%であったが、今年の3月、8.8%からも上昇している。失業率を下げなければ、オバマは再選されない。

住宅融バブルの崩壊で、建設や消費など、需要が失われた。それは企業の投資を減らした。かつて、ヨーロッパに比べて失業率が低かったアメリカには、組合も少なく、労働市場に弾力性があった。労働者は新しい職場に異動し、移民労働者が多く利用できた。

アメリカ政府はもっと、投資を促す政策を取り、住宅建設、中小企業への需要増大と雇用増、などに力を入れるべきだ。

FT July 25, 2011

How to move beyond a short-term fix

By Stuart E. Eizenstat

WSJ JULY 25, 2011

The Debt Ceiling and the Pursuit of Happiness

By ARTHUR C. BROOKSpresident of the American Enterprise Institute

債務額の上限をめぐる闘争は、予算案をめぐる果てしない戦いの一つにすぎない。三つの問題を見るべきだ。1.これは共和党と民主党との戦いではない。50年に及ぶ国家管理主義に反対する闘いである。2.これは経済的な論争ではなく、道義的な論争である。3.これは15ヶ月後に誰が大統領になるかをめぐる戦いではない。少なくとも、10年はかかるだろう。

政府支出はすべての点で増え続けている。1960年にはGDP27%であったが、38%に上昇、2038年には50%になるだろう。所得の上位5%にある人々は、1986年から2008年に、連邦所得税率が43%から59%に上昇した。それにもかかわらず、政府債務のGDP比率は、1980年の42%から、現在は100%に達する。

これは、結局、どうなるのだろうか? 二つのシナリオが考えられる。一つは、わずかな人々が増大する政府に税金を支払い続けて、多くの人たちはすでに投資した社会福祉国家の一部になってしまう。それはある高い水準で課税と社会支出とが均衡する。つまり、スウェーデンだ。

もう一つのシナリオでは、福祉国家がその重みに耐えられず、崩壊し始める。アメリカの外の世界が、とうとう政府支出の無秩序ぶりを理解し、低金利による融資を止めてしまうだろう。われわれは永久に続く緊縮政策に従う。つまり、ギリシャだ。

前者では、国家主義者が勝利し、後者では全員が敗北する。

今、国政の主導権を握ろうとしている人々は、こうした選択を回避しようとしているのだ。われわれには政治の方針転換、地殻変動が必要だ。そのためにはPaul Ryanの削減案だけでなく、道義的な主張がなされねばならない。すなわち、自由企業システムの文化を擁護し、それによってアメリカ人がこの国を愛し、この例外的な文化を維持していることを主張するべきだ。

アメリカ建国の父たちも、アダム・スミスも、道義的主張の重要性をよく理解していた。ところが、今、道義を唱えるのは革新派である。創刊された利潤への課税や医療保険制度の甲斐アックを唱えたから、オバマは当選したのだ。彼の主張は、「より公平な」アメリカへの希望と変革に満ちていた。

統計によれば、皮肉なことに、国家主義者は自由企業派よりも物質的な満足を重視する。ところが、革新派は問題に対する再分配のために「社会正義」を要求する。他方、自由企業派はすべての者に自由と機会を与えようとするが、その主張はいつも経済効率に向かってしまう。

もしアメリカを変えようと思えば、道義的な主張で勝たなければならない。我々は成功者が報われる社会を望み、個人に機会を保証し、債務による社会保障が、子供たちからの所得移転であることを許せない。だから、企業家への課税を減らし、経済成長を重視し、社会的給付の改革を進めるのだ。

WP 07/25/2011

Obama talks to the middle, Boehner rallies the right

By E.J. Dionne Jr.

NYT July 25, 2011

Congress In the Lead

By DAVID BROOKS

この危機は、交渉によって大きな妥協Grand Bargainをもたらす、と期待した。債務問題を解決に向かわせ、社会的給付の改革も始まる。国内の支出を破滅的な形で減らさないように、歳入も確保されるだろう、と。

しかし、金曜日に妥協案は破棄された。その理由は三つある。1.議会で必要な票は集められなかった。共和党員は増税を嫌い、民主党員は給付の削減を嫌う。2.大統領も議長も明確な立場を示さなかった。民主党員たちは妥協が成立することを信じなかった。誤解と不信が破滅をもたらす。3.オバマは最後に現れただけで、しかも仲裁者として不適当な発言しかできなかった。

しかし、オバマの干渉に対して、議会は主導権を握るため交渉を活発化し、以外にも、期待したような妥協案に両党が合意できるかもしれない。

WP July 26, 2011

The Senate’s gimmicky debt plan: The better bad choice

NYT July 26, 2011

Can’t We Do This Right?

By THOMAS L. FRIEDMAN

妥協しないことより、唯一、もっと割ることがある。それは長期的な計画もないのに妥協することだ。アメリカは、成長のための計画を持ち、そのために増税や社会的給付の組み換えを積極的に行わなければならない。

5つの目標に沿って再編するべきだ。1.技術革新の要求に応える労働者を作る教育、2.港湾、道路、通信など、世界最高水準のインフラ整備、3.大学と新興企業を満たす、世界で最も高いIQを持つ、ダイナミックな移民を受け入れる、4.リスクを積極的に取りながら、しかも無思慮でないような投資を促す規制、5.研究を助成し、科学の境界を広げるような、アメリカの技術革新と新興産業につながるような新しいアイデアとビジネスをつなぐ。

こうしてアメリカは支払能力を高めることができる。ただし、自由企業型の資本主義を守るために、アメリカが十分な貯蓄を生みださないかもしれない。企業が成長をもたらすことで貯蓄も増える。その具体的な計画があれば、民主党でも共和党でも支持したい。両党が計画を示せないなら、第3党が現れるだろう。

だが、ティー・パーティ―ではだめだ。

NYT July 26, 2011

A Denial of Reality

FP Tuesday, July 26, 2011

A self-inflicted wound: The budget battle and America's reputation

Posted By Stephen M. Walt

SPIEGEL ONLINE 07/27/2011

Debt Crisis

Europeans Urge US to Reach a Deal

By Gregor Peter Schmitz in Washington

WP July 27, 2011

The GOP holds out for more on the debt standoff

By Harold Meyerson

議会の共和党と民主党が妥協できない様子を考えるには、サソリとカエルの寓話を思い出すべきだろう。

サソリは川べりでカエルに会う。そして、向こう岸まで背中に乗せて運んでほしい、と頼んだ。カエルは尋ねる。「どうして私は君が刺さないと分かるのですか?」サソリは答える。「なぜなら、私が君を刺したら、一緒に沈んでしまうからさ。」

サソリの答えに納得したカエルは、サソリを背中に乗せて川を渡る。しかし、川の中ほどで、サソリはカエルを刺して、しびれたカエルは、サソリと一緒に沈み始める。そしてサソリに尋ねる。「どうして刺したのだ?」サソリは答える。「それが私の本能だから。」

デフォルトはオバマに打撃を与えるだろう。アメリカを傷つけ、世界経済を傷つける。しかし、何よりも共和党の評判を落とすはずだ。カエルは、サソリも自分の利益に従う、と考えている。しかし、共和党はサソリと同じなのだ。

FT July 27, 2011

Don’t put faith in voodoo tax cuts

By Chris Giles

かつて、減税は成長をもたらすから、税収を増やすだろう、という、ほとんど証拠のない主張が、しばらくアメリカの右派の間で流行った。つまり、voodoo economicsだ。

当時、イギリスはそれを免れたのだが、今、流行っている共和党の債務削減とイギリス保守党の財政緊縮政策は良く似ている。たとえば、ロンドン市長、Boris Johnsonは、「消費を刺激する方策」として減税を主張した。

WSJ JULY 27, 2011

Robin Hood Can't Lead Us Out of the Debt Hole

By ROBERT J. BARRO

最も裕福な階層に対する限界税率を引き上げても、景気回復にはほとんど役に立たないだろう。オバマはロビン・フッドの幻想に囚われている。

金融危機後の救済は必要であった。しかし、その後の8000億ドルもかけた財政刺激策は間違いだった。市場介入はカネの無駄使いであり、急速に、アメリカ経済に穴を広げた。しかし、政府はその効果を過大評価し続けている。失業率が9.2%もあり、消費が極めて低い水準に落ち込んでいるのは、ケインズ主義の魔法が効かないことを示している。

成長を回復するには、社会的給付を削って、法人税と遺産税を永久にゼロにすることから始めるのが良い。そうすることで資本配分の効率が改善されるだろう。

guardian.co.uk, Thursday 28 July 2011

GOP bad faith on the debt ceiling

Kevin Gallagher

不況期に政府支出を減らそうとすれば、逆に、成長がさらに低下して、債務/GDPの比率は上昇する。共和党員たちは、ブッシュに時代に財政赤字を増やし、今、財政赤字を減らそうとしている。どちらも間違いだ。

WP July 28, 2011

With debt deal up in the air, settle it with a coin toss

By Matt Miller

WP July 28, 2011

After the debt-ceiling standoff is resolved

By Mohamed A. El-Erian

FT July 28, 2011

Five questions for the Fed and Treasury

By Gillian Tett

FT July 28, 2011

America’s success depends on a sound fiscal regime

Robert Rubin

クリントン政権下の@995-99年、財務長官を務めたR.ルービンなら、現在の対立をどうやって解決するだろうか? 両派の主張を取り入れた、良識ある財政再建と成長促進の方針を形成するための意見表明です。

「政策担当者は、事実と分析に依拠し、イデオロギーや政治に依拠してはいけない。共通の認識を模索し、政治的に困難な決断を行う。そうすることで、短期の強迫や立場ではなく、もっと長期の成果を目指せるのだ。そのカギは、国民と指導者との政治的意志である。


l         旧成長モデルの転換

WSJ JULY 21, 2011

The End of the Growth Consensus

By JOHN B. TAYLOR

1980年代、90年代は雇用がかつてなく増大し、同時に、経済的な安定を実現した時代であった。その教訓を正しく学ぶなら、特に金融においてだが、市場への非介入主義である。特に、1970年代の価格統制、賃金統制と比べて、その違いは明白だ。

その変化は急に起きたわけではないが、オバマ政権になって市場介入は顕著になった。しかし、それは解決策ではない。

NYT July 21, 2011

The Lesser Depression

By PAUL KRUGMAN

たとえ大西洋の両岸で政治家たちが危機をなんとか回避するとしても、その妥協案は不況をさらに悪化させるだろう。彼らが求めているのは、より軽い不況である。金融危機後、2年を経ても、さらに不況を続けるのだ。

アメリカとヨーロッパで、10年続いた住宅バブルが破裂したとき、家計は債務の負担に苦しんだ。もし他の世界が支出を増やしてくれたら、苦痛は緩和できただろう。しかし、誰もそうしなかったし、政府も助けにならなかった。ギリシャや、アメリカの州政府のように、歳入が減少するのに合わせて支出を削る政府もあった。

この沈滞した経済にもかかわらず、失業はエリートたちの政治論争から忘れられ、財政赤字のパニックに代わられた。しかし、国民は赤字よりも雇用に関心があり、アメリカの金利は低く、市場によって緊縮を迫られてもいない。

1930年代の歴史を知る者には、おなじみのことだ。アメリカかヨーロッパで債務の交渉が失敗すれば、われわれは1931年の銀行危機を再現する。しかし、交渉が成功しても、われわれは1937年の失敗を再現する。急ぎ過ぎた財政再建が不況をもたらし、結局、第二次世界大戦まで景気は回復しなかった。

WP July 23, 2011

Behind economic hard times, fear of the new

By Robert J. Samuelson

われわれは「旧秩序の崩壊」に直面している。この言葉は、歴史家Arthur Schlesinger Jr.1920年代について述べたものだ。今また、先進諸国はどこでも同様の問題に直面している。福祉国家の膨張、高齢化、成長の衰え。

旧秩序は、第二次世界大戦後、三つの柱で成立した。1.福祉国家:政府は失業者、高齢者、身体障害者、貧困層を守った。資本主義の作用は緩和された。2.成長信仰:人々の生活水準は上がり続けた。だから再分配も行えた。エコノミストは1930年代から学び、定期的な危機を克服した。3.グローバルな貿易と金融:相互利益が約束された。

これら三つの柱がすべて揺らいでいる。もちろん、金融危機のせいで強まり、各国によって異なっている。しかし、その共通の特徴は失われない。

福祉国家は、GDPに占める政府支出の割合を膨張させた。1950年には、フランス、ドイツ、アメリカで、その割合は28%30%21%であった。1999年には、52%48%30%に上昇した。Angus Maddisonによれば、高齢化はその割合をさらに高める。それゆえ、財政危機にない国でも、緊縮政策が採用されている。しかし、それは破滅的な選択だ。財政赤字を削るために支出を減らし、成長が失われて、財政赤字が増える。しかも、給付の削減は国民の反発を招く。

確かに成長を高めることで問題は解決できる。しかし、成長は奇跡に近い。その意味で、第二の柱、成長信仰が失われてしまった。エコノミストたちは成長を理解し、管理できる、と自信過剰になっていた。しかし、伝統的な政策手段はすでに尽きた。

アメリカのエコノミストは、まだ一時的に刺激策を取れる、と主張するかもしれないが、ヨーロッパの経験はそれを疑わせる。巨額の政府債務は高金利をもたらし、デフォルトについて、投資家たちの恐怖を強める。それは銀行の資産を破壊し、融資を減らして経済活動全般を抑制する。まだアメリカはそうなっていないが、格付け会社はそれを準備している。

いくつかの国が緊縮策を取っても、輸出が伸びればその苦しみは緩和されるはずだ。しかし、ほとんどの先進諸国が長期にわたる緊縮策を採用すれば、世界経済は悪化するだろう。誰に輸出できるのか? 中国など、新興市場かもしれない。しかし、中国は人民元を安く維持して、輸出補助金を維持し、大幅な貿易黒字を出している。中国にとって輸出は雇用の源泉だ。この意味で、第三の柱、貿易は相互の利益を実現する、という主張、グローバルな貿易システムの政治的支持が失われている。

我々は集団的に快適なゾーンから離れてしまった。戦後、有効だったアイデアや国際機関が、1920年代や30年代前半にそうであったように、雲に包まれている。当時、主要諸国は国際金本位制の再建に向かった。それは繁栄をかつて約束した秩序だったが、成功しなかった。政治的に、また知的に、投資を受けた人々は、なじみ深いアイデアと実務に執着したが、この慣性が大恐慌を厳しいものにした。

新秩序を理解できず、むしろ恐れる主要国の政府は、旧秩序にしがみついている。

Project Syndicate 2011-07-25

The Future of Economic Growth

Dani Rodrik

世界経済の将来は、歴史上初めて、貧しい人々が握っている。アメリカ、ヨーロッパ、日本は、債務の膨張と政治的な麻痺に苦しんでいる。それゆえ低成長、不平等、社会的な紛争に、今後何年も苦しむだろう。

その他の世界にはエネルギーと希望が溢れている。中国、ブラジル、インド、トルコの政策担当者たちは、低成長より、成長の過熱を心配している。中国はすでに、基準によっては、世界最大の経済であり、新興市場は世界経済の半分以上を占めている。

各国の小説や漫画は、その社会的な雰囲気の違いを映している。ロシアの小説家、Gary Shteyngartが描くSuper Sad True Love Storyの世界を見ればよい。・・・アメリカは金融破たんから一党独裁に移行し、さらに愚かな軍事介入を行った。ヴェネズエラでの戦争だ。ドバイのように、仕事はすべて移民たちが行い、アイヴィー・リーグの大学は生き残りのためにアジアの提携大学の名前を使っている。経済は中国の中央銀行が管理し、「人民元に固定されたドル」が安全な資産として好まれている。・・・

しかし、本当に、発展途上諸国が世界経済を動かすのか? 世界金融危機に先立つ10年は、彼らの超楽観論を強める異常な時代であった。成長が加速し、富裕諸国との差が縮小して「収斂」convergenceが起きたのだ。アフリカ、ラテンアメリカ諸国は、特に、商品価格の高騰から利益を得た。外国からの融資は安く、豊富にあった。アフリカの内戦や経済危機は終わり、世界貿易は拡大し続けた。

先進諸国の成長が衰えても、それがただちに新興諸国の成長を終わらせるわけではない。成長は、究極的には、供給側の問題であり、技術の吸収に必要な投資はまだまだ続く余地がある。むしろ問題は、この収斂を維持し、持続的な成長をもたらす政策について、われわれが理解できていないことだ。明白な成功の例でも、その解釈はバラバラである。市場自由化が重要であると言われたり、国家介入が重要であると言われたりする。

今回は違う、と楽観する者がいる。確かに、マクロ経済政策、市場開放、民主化の点で前進があった。インフレ抑制やガバナンスの改善は、発展途上国がショックに耐え、経済崩壊を回避する力を高めただろう。しかし、成長が持続するにはそれ以上のものが必要だ。構造的な変化を刺激し、新しい経済分野で雇用を育てるような、生産に関わる政策が要る。資本流入や商品ブームによる成長は短期的なものだ。民間部門が新しい産業に投資を向けて、その際に、腐敗や無能さを避けなければならない。

歴史が示すように、こうしたことに成功する国は少ない。それゆえ、世界経済にとって最も重要な問題は、先進諸国が支配する産業やサービスにおいても、新興諸国の拡大が許されるかどうか、である。社会対立は避けられず、市場開放は政治的に支持されにくい。

偉大な収斂の過程は、金融危機後の世界経済にとって顕著なものであった。しかし、世界の貧富の差が逆転するのは、経済的に観て起きるだろうとか、政治的に観て容易だ、とは言えないのだ。

LAT July 26, 2011

Hurtling toward economic chaos

By Mike Davis

若いころ、ずっと前のことだが、Henry Gregor Felsenの本が良く読まれた。それは、若者たちの自動車が大事故を繰り返すことを描いたものだった。

彼は1995年に亡くなったが、もしまだ生きていて、最近の新聞を読んだら、ティー・パーティ―の共和党員たちに同じものを見ただろう。魔物に取りつかれて、死のカーブに向かう。

世界経済を見渡せば、さらに同じような、もっとひどい例が見つかる。アメリカ、ヨーロッパ、中国は、同じ交差点めがけて突っ込んでくる。誰も生き延びることはできないだろう。

忘れてならないのは、世界がアメリカの消費者を最後の頼みの綱とする、ドルに過剰な価値を蓄積した姿で運営されていることだ。共和党員たちが準備する不況は、この世界で急速に広まるだろう。そして、マックワールドの三つの支柱が砕かれる。すなわち、アメリカの消費。ヨーロッパの安定性。中国の成長。

中国はすでにアメリカが経験した住宅バブルの要素をそろえている。もしドバイ病に冒された中国のバブルがハードランディングに向かったら、その成長に資源を供給しているブラジル、インドネシア、オーストラリアは背骨を砕かれる。日本はすでに三つの災難を被っているが、主要な輸出市場も失うだろう。アラブの春は、新政府が雇用をもたらせず、インフレも抑制できないと知るとき、冬を迎える。

主要な巨大経済ブロックが、同時に、深刻な不況に向かっている。Felsenの本の結末を、もはや私は楽しめない。折れ曲がった金属の塊と、若者たちの死体だ。

FT July 26, 2011

A double act of self-inflicted crises

By Alan Beattie


l         ギリシャ救済融資の再編・拡大

SPIEGEL ONLINE 07/22/2011

After the Summit

Starting Fresh in Euroland

FT July 22, 2011

Europe finally admits its debt problem to save the euro

Joseph Stiglitz

FT July 22, 2011

The eurozone’s seminal moment?

by Gavyn Davies

FT July 22, 2011

Strong execution is key to success of Europe’s debt deal

Mohamed El-Erian

FT July 22, 2011

A step forward for the eurozone

FT July 22, 2011

Has Europe been rescued?

By Tony Barber

WP 07/23/2011

Europe’s debt crisis

By Robert J. Samuelson

FT July 24, 2011

The eurozone crisis is on pause, not over

By Wolfgang Münchau

ギリシャは持続的に債務を減らせるか? EFSFの新しいルールは伝染を防げるか? 民間投資家の負担は現実的で、公平なものか? その答えは、No, No, and Yes.

(chinadaily.com.cn) 2011-07-25

Greece's bailout has increased Germany's economic power

By John Ross

ギリシャ救済融資に関する新しい合意(21%の部分的な債務減額もしくはデフォルト + 返済期間の延長と金利引き下げ)は、ヨーロッパ統合を進める上で重要である。同時に、ドイツ外交の成功を意味する。

しかし、根本的な問題は解決されていない。ギリシャの債務額はGDP150%である。通貨統合を行いながら、財政を分離したままであるのは問題だ。アメリカや中国のように、大陸規模の統一した国家では、ある地域の高い生産性上昇率と、他の地域の低い生産性上昇率とは、財政的な移転で解決されている。EUの中央財政は、それを行うのに不十分なままである。

ドイツはユーロ圏から大きな利益を得ている。ユーロ圏の諸国はドイツに対する通貨価値の切り下げを行えない。また、それはユーロを安くして、ドイツの輸出を有利にしている。ギリシャへの財政移転は、ユーロ圏の利益よりも、ドイツにとって、はるかに小さいものだ。救済融資は、ドイツがユーロを維持する明確な一歩となった。

しかもユーロはドルに代わる国際通貨となりつつある。世界の外貨準備に占める割合で見て、1999年から2011年に、ドルは71.2%から60.7%に低下した。他方、ユーロは18.1%から26.6%に上昇した。こうしたユーロの成功は、ドイツの外交をアメリカと分かちつつある。対ロシア政策、イラク戦争、ネオコン批判、フランスのNATO再加盟、など。ドイツ政府は、ユーロを守るために、ヨーロッパの財政統合を進めるだろう。

今回の救済融資には、民間部門の負担が求められた。そして部分的なデフォルトが実現した。これは、ドイツの納税者に対する負担を軽くするための、メルケル首相の要求だった。他方、ECBのトリシェ総裁は強く反対したが抑えられ、フランスの銀行課税も実現しなかった。

ドイツは中国とより緊密に協力するだろう。ドイツの決めたユーロの安定化融資条件は、WSJに批判されたが、中国人民銀行の総裁は歓迎した。

FT July 25, 2011

Greece needs a new political culture

By Gideon Rachman

Project Syndicate 2011-07-25

The Perverse Politics of Financial Crisis

Luigi Zingales

債務危機は、突然、発生する。政治には、エコノミストの理解できない動機が働くからだ。

エコノミストの言う、複数均衡multiple equilibriaの問題である。経済学で考える限り、債務危機は簡単だ。政府の支払能力が悪化すると、その生存は投資家の期待によって決まる。投資家がすべてイタリアは支払可能だと思えば、その支払は続けられるだろう。しかし、支払能力を疑うと、その借入には巨額のプレミアが要求されて、支払不能になる。

期待が悪夢に変わるのは、それらをつなぐニュースがあるからだ。複数均衡の下では、誰も支払能力を疑わない状態から、誰かがそれを疑って投資を引き揚げ、誰もが投資を引き揚げてしまう状態とは、どちらも正しい。

この問題には二つの政策的な意味がある。一つは、支払不能に変わるような位置に入るのを避けるべきだ。その警報が鳴りだすまで、それがどこにあるのかはだれにも正確にわからないが、危険地帯には近づくべきでない。もう一つ、危険地帯に入ってしまった国は、二つの対応しかできない。早期に支払不能を認めてコストを抑えるか、あるいは、デフォルトを回避できると信じて、すべての資源をできるだけ早く危機回避に使うか。

2008年の金融危機で、アメリカはベアスターンズが倒産したとき、危険地帯に入っていた。しかし、政府はそのまま何もせず、用意した安定化基金も小さかった。ユーロ圏は、今、ギリシャについて同じことをしている。

こうした失敗を繰り返すのは、政治家が経済学のロジックを理解していないからではなく、彼らに特有の動機が働くからである。まず、政治家は、ただちに生じるコストより、将来発生するかもしれない大きなコストを軽視する。なぜなら、彼らは将来も議員であるとは限らないから。第二に、政治家は、戦争を予防しても、戦争に勝利するほどは称賛されない。F.D.ルーズベルトは、日本との戦争が避けられないと分かってからも、真珠湾攻撃まで待った。

すべての民主主義において、同じ動機が働く。だから、安定と成長のための協定(Stability and Growth Pact)は政府債務の危険地帯を回避する合意として意味があった。それは失敗に終わったが、将来もユーロ圏が維持されるなら、政治的動機を是正するルールとして必要だ。

SPIEGEL ONLINE 07/26/2011

Lawrence Summers on the Euro Crisis

'It Was Always Understood the European System Would Evolve'

ヨーロッパ連邦に向かうしかないのか? という質問に、Summersは、明確に否定しています。ヨーロッパの経験から、何が必要かはわかってきた。連邦制と同じではない、と。

政治家たちも、橋を作るときには物理法則を無視できない。しかし、経済法則は弾力性があり、どの国も政治的な必要に合わせて調整している。

メルケル首相への非難と、ドイツ国内政治を無視できない、というジレンマを解決できるのか? 当然、民主主義国家で、十分な政治的支持を得られないことは進められない。しかし、たとえすべての政治的な支持があっても、経済法則は変えられない。すべての政治指導者は、単に、国民の好みを受け入れるのではなく、彼らが必要な政策を支持するように導くべきなのだ。

ドイツの黒字累積、アメリカの債務上限問題、失業率9%超、オバマ再選、ヘッジ・ファンドの顧問、所得格差、などにも応えています。

Project Syndicate 2011-07-26

Europe’s Southern Future

Elisabeth Guigou

SPIEGEL ONLINE 07/27/2011

At the End of Europe

Seeking a Path out of the Crisis in Portugal

By Alexander Jung

FT July 27, 2011

How European funds can help Greece grow

By Jean Pisani-Ferry, Benedicta Marzinotto and Guntram B. Wolff

 (China Daily) 2011-07-28

Monetary house of cards

By Fan Ying

ユーロ圏の経験から、アジア諸国は金融市場の開放と統合化を進めても、通貨統合を急ぐべきではない、と主張します。単一通貨を維持するには、経済、金融、社会、歴史、文化、宗教の大きな違いが問題を生じるから、と。アジアにおける金融危機を防ぐには、相互監視制度や自己規制がふさわしい。

FT July 28, 2011

Our plan will rescue Greece and protect Europe

By François Baroin and Wolfgang Schäublethe finance ministers of France and Germany

ギリシャの債務負担を軽減し、金融市場に復帰するための改革を促すこと。また、危機の伝染を防ぐために、EFSF and ESMを拡充し、銀行の増資や市場に介入が機動的に行えるようにした。

ユーロ圏は経済的・政治的な安定性の基礎である。ヨーロッパはこの計画を守り抜く。


FT July 22, 2011

Trichet must mine lessons from the Fed

By Sebastian Mallaby

FT July 26, 2011

Regulators must risk more, and intervene less

Alan Greenspan

ECB相殺のトリシェや、FRBの前総裁であるグリーンスパンが何を考えるか、は世界経済に影響を与えます。


l         オバマは自由貿易を支持せよ

Project Syndicate 2011-07-22

The Too-Quiet American

Jagdish Bhagwati

今年で完了する、ドーハ・ラウンド、多角的貿易自由化交渉の失敗は、アメリカの責任である。アメリカのWTO代表、Michael Punkeは、世界貿易の「Mr. No」である。それはもちろん、お目理科のオバマ大統領が問題を打開する指導力を示さないことによる。

最初から、オバマの姿勢は不十分であった。オバマは、輸出が良いことだ、と主張した。しかし、それは輸入である。そして、アメリカの輸入については、国内の失業者に同情した。オバマは、輸入もよいことだ、と主張するべきだった。アメリカの輸送業、貨物機や列車、トラックで働く人たちは仕事を得ている。

最大の問題は、オバマが貿易に反対する労働組合の不安や敵意を放置し、それに反論しなかったことだ。その結果、ドーハ・ラウンドや自由化は他国の譲歩を求めることに従属するものとなった。貿易自由化というテーマがオバマ再選のための運動の中で見失われた。有権者は貿易を敵視し、保護主義が選挙戦の大怪獣になりつつある。

歴史において偉大な貢献をした政治家は、原則の問題において、政治的な逆境を跳ね返した。オバマは、賞賛と模倣に値する二つの例から学ぶべきだ。

一つは、1848年に穀物法を廃止したロバート・ピール首相だ。自党である保守党からは106票しか得られず、野党のトーリー党から222票を得て、廃止を実現したことで、ピールは政治経歴を終えた。

もう一つの例は、ウィンストン・チャーチルだ。チャーチルは、イングランド北部の工業都市オルダムから、保守党員として当選した。しかし、1904年に自由貿易を支持し、保守党を去って、自由党に変わった。チャーチルは自由移民も支持し、1904年のAliens Billに強く反対した。当時、東欧からのユダヤ系移民が増えたことで、「外国人の侵略」という不安を高めていた。チャーチルは原則を重視する政治家として生き残り、ナチスとの戦争において勝利をもたらした。

NYT July 24, 2011

The Wrong Way to Free Trade

By JAGDISH N. BHAGWATI

韓国、コロンビア、パナマとの自由貿易協定をめぐる、ブッシュ政権から続く長い論争で、オバマは労働者への再訓練を追加し、共和党はそれを拒んで、再び合意できなかった。

しかし、問題は政党間の交渉ではない。グローバルな貿易自由化を進める、10年に及ぶドーハ・ラウンドを再開することに、両党が関心を示さないことこそ問題だ。これこそアメリカ人労働者の生活を脅かす問題だ。

政党間の交渉では業界のロビーが活発に有利な条件を要求する。たとえば、チリやシンガポールとの自由貿易協定を合意したとき、ウォール街はロビー活動で、それらの国が危機の際に資本移動を禁止する権利を奪った。IMFでさえ、今ではそのような規制を認めているのに。また、産業界は極端に有利な条件で知的所有権を認めさせた。

労働組合もこれを見て、労働の権利を認めなければ、民主党議員に貿易交渉をストップさせるようになった。こうして三つの自由貿易協定は長期の保留になってしまった。

しかし、インドやブラジルのような大国には交渉が通用せず、こうした要求は競争を妨げる一種の保護主義だ、と拒否されている。呆れたことに、アメリカ政府は自国でも認めないほどの労働の権利を要求している。

業界や労働組合が2国間交渉で支持しても、彼らは多国間の自由化交渉を支持しないかもしれない。オバマ大統領は、第一に、産業界をドーハ・ラウンドに向けて指導してほしい。第二に、ドーハ・ラウンドの利益が小さいという批判を退けて、もし多国間交渉が失敗すれば、その破壊的な影響がアメリカ経済にとってどれほど重要かを示してほしい。

貧しい国との貿易がアメリカの労働者を苦しめているのではない。アメリカの労働者は技術変化の結果として失業し、賃金も低下している。他方、安価な輸入品は、こうした失業者の生活悪化を緩和してくれているのだ。オバマ大統領は労働組合や民主党員を説得しなければならない。


l         ノルウェーのテロ

FP JULY 22, 2011

Norway's Oklahoma City?

BY DANIEL BYMAN

爆弾と銃撃による大量殺戮というテロは、ノルウェーにとっての9・11とか、オクラホマ・シティーと呼ばれ、アメリカ人の同情を集めている。しかし、オスロの破壊現場を見れば、一つの疑問がわくだろう。なぜアメリカでは、もっと多くの大規模なテロ事件が起きていないのか?

アメリカ国内の治安機関the Department of Homeland Security (DHS), the FBI, and local policeは、9・11以前に比べて、はるかに厳しい警戒態勢を取っている。また、多くのヨーロッパ諸国に比べて、アメリカには不満を強める若いイスラム教徒が少ない。むしろ、高度な教育を受けた、裕福なイスラム教徒が多い。さらに、アルカイダは激しい攻撃を受けて、ビン・ラディンは殺害された。パキスタンの隠れ家も追い詰められている。

アメリカ社会は、9・11攻撃を受けて、その回復力を示した。

FT July 23, 2011

Killings sure to stir immigration debate

By Andrew Ward and Robin Wigglesworth in Oslo

WP July 23, 2011

A crime wave in cyberspace

By Noah Shachtman

FP Saturday, July 23, 2011

What did the Oslo killer want?

Posted By Blake Hounshell

ノルウェーの歴史上かつてないテロ攻撃を行った犯人Anders Behring Breivikアンネシュ・ブレイビクの遺した1518ページに及ぶ宣言"2083: A European Declaration of Independence"を読むと、彼がヨーロッパを、間違ったマルクス主義的・多文化主義的な政治支配体制から離脱させたかったことがわかる。現代のテンプル騎士団を名乗る、彼の政治変革の方法は、アル・カイダも含めて、暴力への賛美である。

guardian.co.uk, Sunday 24 July 2011

Norway attacks: Norway's tragedy must shake Europe into acting on extremism

Aslak Sira Myhre

The Observer, Sunday 24 July 2011

Reason must prevail in Norway's agony

ノルウェーは世界で最も裕福で平和な国の一つである。

移民政策に反対する極右政党は国王諸国に現れて議席を得ている。しかし、なぜ移民に反対する男が、ノルウェー人の若い男女を大量に殺すのか? ノルウェーロ同党の政策に反対するからか?

ノルウェーは人口490万人の裕福な福祉国家である。所得分配の不平等は小さく、失業も少ない。人口の約10%が、ポーランド、スウェーデン、パキスタン、ソマリアなどからの移民である。貧困や失業は移民に集中する傾向がある。右翼は少ないが、彼らは移民を受け入れず、統合化もうまくできない、と考える。

発展途上諸国からの移民は比較的最近で、1990年代から多文化社会が目指された。犯人のブレイビクは、自分をナショナリスト、キリスト教徒、保守派と考える。

民主主義はあっても、テロや暴力を防げない。個人の不寛容さと闘い続けるしかない。

FT July 24, 2011

Norway lost its innocence a long time ago

By Martin Sandbu

ノルウェーは平和な国だと言われるが、中立を唱えても国際政治から逃れられない。ノルウェーの兵士はリビアを空爆したし、アフガニスタンで戦死した。2008年には、カブールで外務大臣を代表とするグループがテロに遭った。

ノルウェーの同質的な文化には強いコンフォーミズム・大衆順応主義の要素がある。ノルウェー人は皆、社会民主主義者であった。しかし、少数派は強い不満を感じて、そのはけ口を暴力に求める。他方、順応を拒む移民たちが入ってきたとき、それまで社会的な調和を重視してきた順応主義の文化は問題を解決できなかった。

Breivikの理想は、「文化的に同質なヨーロッパ」である。それは異質のイデオロギー、すなわち、彼が「文化的マルクス主義」と呼ぶものに脅かされてきた。

NYT July 24, 2011

A Right-Wing Monster

By ROSS DOUTHAT

そのイデオロギーには極右に共通するものがある。Breivikは右翼の怪物だ。

雑誌編集者のJohn Podhoretzは、典型的な右翼の精神病的イデオロギーだ。アメリカには、民主党のGabrielle Giffords議員を銃撃したJared Loughnerのような人物が多くいる。大西洋の両岸で、世俗主義、差別の禁止、EU、性革命、イスラム主義、左派の大学人、などが右派の攻撃対象になった。

オクラホマにおけるTimothy McVeighの犯罪は、アメリカの反連邦政府主義を示すものだ。

ヨーロッパやアメリカの右派は、この事件にどのように対応するだろうか?

FP JULY 25, 2011

Rise of the Radical Right

BY JAMIE BARTLETT, JONATHAN BIRDWELL

FP JULY 25, 2011

Breivik’s Swamp

BY TOBY ARCHER

guardian.co.uk, Monday 25 July 2011

Anders Behring Breivik: Tunnel vision in an online world

Thomas Hylland Eriksen

guardian.co.uk, Monday 25 July 2011

Norway attacks: Anders Behring Breivik will join history's human monsters

Henning Mankell

WP 07/25/2011

Norway’s gentle justice

By Charles Lane

FT July 25, 2011

Terror in Norway: Utopia no more

By Martin Sandbu, Andrew Ward and Robin Wigglesworth

ある学生は応えます。犯人がノルウェー人であったことは驚きだ。しかし、それは良かった。もし犯人がイスラム教徒の移民であったら、もっとひどいことになっただろう。

NYT July 25, 2011

Breivik and His Enablers

By ROGER COHEN

NYT July 25, 2011

The Terror From Within

By RUSSELL JACOBY

WSJ JULY 26, 2011

The Ideology of Mass Murder

LAT July 26, 2011

Norway attacks: Terror from the right

SPIEGEL ONLINE 07/26/2011

Programmed to Kill

The Cold Aggression of a Mass Murderer

By Cinthia Briseño

WP 07/26/2011

Norway massacre and anti-government obsession

By Anne Applebaum

Anders Behring Breivikは、白人至上主義の反イスラム的な狂信者である。しかし、忘れてならないのは、彼が殺したのはイスラム教徒ではないことだ。ノルウェー人ばかりだ。つまり、彼の狂気は、今の政府は正当なものではない、という確信にある。

このような狂気は彼に限らない。アメリカにも多くの同様な狂気がある。今の政府を認めず、オバマの出生証明を要求する運動を煽った人々が、犯人のAnders Behring Breivikに同情的なコメントを示した。

民主主義は失敗を犯すが、多くの失敗を超える利点がある。すなわち、民主主義的な指導者は、すべての人が選挙による決定を受け入れる。すべての人が政治指導者を選ぶ権利がある。Breivikはノルウェーの民主主義を受け入れられなかった。アメリカ人が誰も、彼と同じ考えを持たないように。

WSJ JULY 26, 2011

What Is Anders Breivik?

By BRET STEPHENS

FP Wednesday, July 27, 2011

What will the political fallout be from the Norway massacre?

Posted By Robert Zeliger

NYT JULY 27, 2011

Homegrown Hurt

By LINDA GREENHOUSE

LAT July 27, 2011

Rutten: The maniac challenge

Tim Rutten

大量殺戮を願うようになった幻想の起源はいくつもある。"The Turner Diaries"は、アメリカの白人武装派、ネオナチ運動の指導者が書いた本だ。オクラホマ・シティの爆弾テロ犯、Timothy McVeighの枕の下に置いていた。今ではインターネット上で閲覧でき、Anders Behring Breivikが自分の宣言に引用した。

Breivik は反イスラムのウェブ・ページを閲覧し、指導者たちを称賛していた。いわゆる「ユーラビア」の陰謀説も使っている。石油を得るためにEU官僚がイスラム主義者と組んでアメリカを裏切る。さらに昔のアメリカのネオファシストFrancis Parker Yockey の文章も使っている。1949年、"Proclamation of London"は反イスラム主義の原型だ。これもインターネット上で読める。

憎しみを煽る情報がインターネット上にあふれている。オスロであれ、オクラホマ・シティであれ、誇大妄想の一人の犯罪者が現れた。開かれた社会は、小さな点からも焼失してしまう。

寛容さは危険なほどに失われやすい。親切を信じる者の横に、強制収容所を必要だと信じる者もいる。それを許していることは、寛容さではない。

憎悪のための情報を監視しなければならない。プロパガンダを無視してはならない。それらを特定し、拒絶し、非難するべきだ。


(China Daily) 2011-07-23

Act for peace, not conflict

By Lin Xiao


WP July 23, 2011

Afghanistan’s biggest need: a flourishing economy

By Robert B. Zoellick

米軍とNATO軍はアフガニスタンから撤退し始めた。アフガニスタン政府は自分たちで安全保障を確保できるか? また、アフガニスタン経済は国民に雇用や消費を提供できるのか?

活発な経済があって、初めて、アフガニスタンは安全を確保し、政府への支持を高め、反政府軍やテロリストを追い出せる。

軍の撤退で、アフガニスタンには「マイナスの乗数」が作用する。民間の支援や投資を増やして、米軍撤退の衝撃を緩和するべきだ。


WP July 23, 2011

Obama like FDR? Not at all, it turns out.

By Alexander Heffner

NYT July 27, 2011

Obama and His Discontents

By TA-NEHISI COATES


NYT July 23, 2011

In the Wake of Fukushima

LAT July 24, 2011

The politics of earthquakes

By Claire Berlinski

FP Tuesday, July 26, 2011

Are we trading the American dream for the Japanese nightmare?

Posted By David Rothkopf


l         中国の関心は変わった

Project Syndicate 2011-07-27

Read China’s Lips

Stephen S. Roach

中国指導部は、いよいよ、アメリカ政府への信頼を失った。金融危機から不信が生じていたが、現在の政府債務上限引き上げと財政赤字削減をめぐる論争によって、完全に我慢できなくなった。胡錦濤主席や温家宝首相がアメリカに苦情を述べた。

ドル資産に準備を保有することは危険である。成長のために輸出市場に依存することも危険である。国際通貨システムや欧米金融市場には崩壊のリスクがある。

これまで中国政府はアメリカの人民元切り上げ要求に応じなかった。1980年代に日本が円高を強いられたことを繰り返したくない、と考えたのだ。しかし、アメリカの政策は信用できない。アメリカの政治家は、中国がドル資産を売って他の市場に分散できるとは考えていない。輸出による成長モデルを転換できるとも考えていない。

しかし、第125カ年計画はそれを唱えている。中国政府は輸出ではなく、国内消費を成長モデルの基礎にするつもりだ。これでドルによって貯蓄することもなくなるだろう。アメリカの紙幣を貯めこむことは、もう嫌だ。そうはっきりと言うようになった。

アメリカはそれを聞くべきだ。

Project Syndicate 2011-07-27

China’s Inflation Muddle

Yu Yongding


l         ヨーロッパ統合計画に参加せよ

The Observer, Sunday 24 July 2011

Even now, the European project remains a noble one. Let's join in

Will Hutton

イギリスで、ヨーロッパ統合を支持することは孤独な作業だ。エコノミストもジャーナリストも、いかなる党派の政治家も、こぞってユーロを批判する。しかし、EUサミットはギリシャへの救済融資を合意して、ユーロ圏の維持を明確にした。

経済学は、国家が独自通貨を維持するべきだ、と主張する。通貨を持つことで、経済事情に応じて切下げ、もしくは、切り上げができる。政治的な主権という意味で、国民通貨は重要だ。

しかしこれは、歴史や社会、制度の特殊性を抽象化した経済学だ。ヨーロッパは、他のケース以上に、大陸として存在する。しかもEU27カ国は相対的に小さい。多くの国は4カ国、5カ国と国境を接し、例外的なほど、経済を開放している。もし為替レートが大きく変動すれば、その不便さは強烈だ。

さらに、この大陸には、ドイツという経済モンスターが住んでいる。変動レート制を採用したとき、1970年代から90年代にかけて、ポンドを含む、ヨーロッパのすべての通貨は、マルクに対して価値が決まることを学んだ。金利をドイツより低くできないし、財政政策もドイツより保守的にしなければ金融市場で攻撃された。これでは通貨主権など無い。ドイツの衛星国家である。

イギリスでは、誰もそんなことを言わない。変動レート制のニルヴァーナ(至福のとき)を楽しんでいる。労働市場の規制を完全に緩和し、税率を引き下げ、国家は最小限に小さくすれば、資本主義的繁栄の錬金術が機能する。貧しく、硬化症に苦しむヨーロッパは、単一通貨で失敗するだろう。豪勢な福祉国家と経済の相互依存は、そのビザンチン的な官僚制度とEUの反民主的構造によってますます複雑になる。EUは不毛であり、望ましくない。イギリスは自由でなければならない。

こうしてEUは二分される。イギリスはユーロ圏の外だ。ユーロを介して政府が構築されていくだろう。ヨーロッパの金融市場と、それゆえ資本主義が形成される。それは南欧のユーロ圏にも核心と投資のメカニズムを提供する。ドイツが第二の経済的奇跡を演じる中で、次第に成長率は上昇し、失業が減少する。たとえまだ暫くは、金融危機が起き、ギリシャは第一次世界大戦後の賠償金問題のような長期の返済を強いられるとしても、確実に多くの支援を得て発展するだろう。ヨーロッパを築くことは、偉大な、栄誉ある、必要不可欠の計画なのだ。

イギリスでは、まだ少ししかヨーロッパ・バスの乗客になっていない。私は、もちろん乗る。まだ空席はいっぱいあるぞ。


l         中国の高速列車事故

NYT July 24, 2011

Enabling China

NYT July 25, 2011

A Step Toward Trust With China

By MIKE MULLEN

WSJ JULY 26, 2011

China's Train Wreck

FT July 27, 2011

China’s rail disaster


l         アフリカ東部の飢饉

FP JULY 25, 2011

Famine Is a Crime

BY CHARLES KENNY

WSJ JULY 27, 2011

Africa Hungers for Good Governance

guardian.co.uk, Thursday 28 July 2011

Why can't we end famine in Somalia?

Maryan Qasim


l         カダフィの最後

guardian.co.uk, Tuesday 26 July 2011

Libya's stalemate shows it is time to tempt Gaddafi out, not blast him out

Jonathan Steele

guardian.co.uk, Tuesday 26 July 2011

Can Gaddafi really stay in Libya and cede all power?

Simon Tisdall

SPIEGEL ONLINE 07/26/2011

Interview with Former Russian Prime Minister

'What Will Happen After Gadhafi?'

By Matthias Schepp and Bernhard Zand

FT July 28, 2011

It’s time to compromise to protect Libya’s people

Anne-Marie Slaughter

武力介入と同じ目的で、今は交渉によるカダフィの政権離脱が求められている。

FT July 28, 2011

Pressure builds on Libya’s dictator


FP JULY 26, 2011

Stopping the Nuclear North

BY JOEL WIT, JENNY TOWN


l         再生可能エネルギーへの転換コスト

SPIEGEL ONLINE 07/27/2011

The Latte Fallacy

German Switch to Renewables Likely to Be Expensive

By Alexander Neubacher

ドイツのメルケル政権は、原発を辞めても電力料金は少しだけ上がるにすぎない、と主張する。しかし、専門家は反対している。それは太陽エネルギーに対する莫大な補助金があるからだ。

環境経済学の専門家Joachim Weimannthe University of Magdeburg)によれば、1トンのCO2排出を太陽エネルギーで抑えるには、約500ユーロかかる。風力では150ユーロ、建物の改善などと組み合わせれば、コストは大幅に下がり、1トンの節約費用がたったの15ユーロである。しかし、その後、福島の原発事故が起きて、ドイツは原子炉の全廃に向かった。

将来のエネルギー需要は屋上で太陽光発電を行う、という案に専門家は首を振る。ドイツには約100万戸の過程に太陽光発電がおこなわれており、最大で18ギガワットの電力を供給できる。理論的には、現在のすべての原発と交代できる。しかし、実験室の最大発電量と自然条件は全く異なる。天候不良や、夜間、冬期の発電には問題がある。

しかも、急速に安価になった太陽光発電の装置は中国企業の生産に依存し、その採算性は政府からの補助金に依存する。

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The Economist July 16th 2011

On the edge

Charlemagne: The euro’s real trouble

European policy options: Huge mess, untidy solutions

Buttonwood: Firefighting

Lexington: Dicing with debt and the future

Economics focus: Cut or loose

Panama’s economy: A Singapore for Central America?

The Arab awakening: Revolution spinning in the wind

(コメント) ユーロ危機とアメリカ政府の債務危機を取り上げています。何が問題か、というより、なぜ解決できないのか、というのが別次元の問題なのです。

ユーロ危機は、三つの要素を含んだ救済策で解決できる、とThe Economistは考えます。1.債務額の削減。2.銀行の資本増強。3.支払不能の銀行を健全な銀行から分離。あるいは、伝染の防止(防火壁)。

しかし、政治家たちは合意できません。カリフォルニアの有権者にウォール街の大銀行救済のため税金を使うと合意してもらうのは、確かに難しいだろう、と。しかし、イタリアの危機処理は猶予なしです。記事は、19929月の「暗黒の木曜日」にイギリスがERMを離脱した危機と比べています。解決策がないのではなく、いくつも、混乱した形で、示されています。ギリシャの救済と、イタリア・スペインへの波及阻止と、銀行システムの安定性を確保しなければなりません。

他方、アメリカの危機は、どこが危機なのかわかりません。死因は虫歯だ、という感じです。それでも共和党がデフォルトを選ぶ理由を、記事は8つも挙げています。読んでみてください。

パナマが中米のシンガポールになる兆しを楽しみ、「アラブの春」に関する厳しい現状を知るのは、債務危機のモヤモヤを払拭するでしょう。少しくらいは。

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IPEの想像力 8/1/11

土曜日、NHK「プロジェクト・ウィズダム」を観ました(最後3割を除く)。テーマは「東日本大震災 世界が語る経済復興」。ビル・エモット、ジム・ロジャーズ、ヒュー・パトリックなど、優れた出演者に関心を持ったからです。危機をチャンスに変えるために、彼らが注目したことは何か?

私が面白いと感じたのは、以下の6点です。

1.企業の海外移転は、これまで通り、避けられない。製造業はさらに縮小する。日本には優れたサービス産業や知識集約型の産業があり、将来、伸びるだろう。それらを輸出するため、英語の使用をもっと広めるべきだ。大学や企業、観光など、外国から日本に人を呼び込むことだ。

2.農業・漁業は、世界中で成長産業になる。日本でも、規模を拡大し、生産性を高め、効率的な少数の拠点に集約することで、品質が高まり、競争力のあるブランドになる。高齢化が進んでおり、若者を雇用し、機械化するため、もっと投資が必要だ。

3.衰退する産業でも、人々は既得権は失いたくない。新しい事業には不安がある。それを変えるために、改革でもっと利益が出せることを説明しなければならない。そして、高齢者に手厚いセーフティー・ネットを与える。

4.特区も良いが、その目的による。経済復興には投資活動が重要だ。優れた企業が資金調達に苦しむのは理解できない。外国の投資家にも日本の地方企業への投資を開放し、詳しい情報が伝われば、もっと投資が集まるだろう。

5.経済全体の枠組みを変える必要がある。たとえば、日本人は欧米人よりも、株式投資を嫌う。貯蓄をより多く株式で持つ方が良い。中小企業や起業家のための制度(エンジェル、ベンチャー)を整備し、持続的に収益を出すことで、株式投資をより多くの国民に広めるべきだ。

6.震災は多くの寄付を集めたが、その配分に時間がかかった。効果的な支援を行う民間団体が少ないのではないか。慈善活動を広域で組織できるNGOを増やすべきだ。慈善活動と投資活動を明確に区別し、その両方を充実させる。

英語、株式投資、構造改革、セーフティー・ネット、と言えば、小泉・構造改革です。郵政民営化で、既得権の批判と市場による改革のメリットが主張されました。しかし、日本人は小泉氏のパフォーマンスを楽しむだけで、構造改革には不安や不満を感じることが多かったと思います。

おそらく、NHKが集めたウィズダムは<構造改革の再生>を唱えたわけです。しかし、その中身は大震災後の経済復興にふさわしいものを日本全体の改革と結び付けて考えます。

世界においても、イラクやアフガニスタンで米軍が唱え、NAFTAにおいてメキシコ政府が唱え、米欧中との自由貿易協定を結ぶ韓国が唱え、シンガポール、ポーランド、パナマ、ルワンダ、グルジア、その他、市場型改革志向の、強い政府を持った国が試みていることです。

こうした改革には、反対する意見が多いでしょう。しかし、市場のシグナルは改革のための条件です。自分たちにふさわしい制度や文化を生み出すことで、豊かさと誇り、自尊心を持つことができると思います。ユーロ危機がそうである、とWill Huttonが主張するように。

小泉=竹中の構造改革が嫌われたのは、「市場」や「アメリカ」を安易に唱えることでした。浅薄な言葉は宣言やデマゴーグとなり、反対派との政治ショーに国民の関心が流れました。もっと日本の困難な現実に依拠し、改革の原則をめぐる深い内容の討論として、共感を呼ぶ言葉が必要でした。

民主党と社会民主党、国民新党の連立政権は、それを実現するはずではなかったか? 子供手当、東アジア共同体、沖縄の米軍基地移転、温暖化ガスの排出削減、再生可能エネルギー、派遣労働者への支援、高速道路や高校の無料化・・・ 構造改革パートUを掲げる政府でした。

震災や原発事故にも、市場の変化にも対応できる、有能で、説得的な、国民が信頼し支持する、強い政府を創るため、人類の英知を結集することです。

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