今週のReview
7/25-30
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アメリカのデフォルト ・・・中国の対外戦略 ・・・ユーロ救済 ・・・イタリアに及ぶユーロ危機 ・・・USとEUの財政破綻 ・・・タイ
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l アメリカのデフォルト
BLOOMBERG Jul 13, 2011
A Two-Step Approach to Solving the Budget Impasse: Echoes
By John B. Taylor
1990年に、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領と議会の代表が「アメリカ史上最大で最も包括的な財政赤字削減」に合意した。大統領経済諮問委員会は、「今後5年間で5000億ドルの連邦政府赤字が減るだろう」と推定した。
その合意が5000億ドルとは言わないまでも、5年間で赤字を減らしたかどうか、今もエコノミストたちは論争している。しかし、民主党との増税に反対する議論はほとんどなかった。1992年にブッシュはクリントンに敗北し、クリントンは増税し、最高税率を1990年以前より28%も高い39.6%にした。
その教訓が、今日、共和党員を同じようなオバマとの合意に拒否を叫ばせるのか?
委員であった私は、ノーベル経済学受賞者のミルトン・フリードマンに、他のエコノミストたちが支持する1990年合意について意見を聞いた。しかし、私が質問する前に、彼は私が電話した理由を知っており、”No!” と言った。そして、「今すぐにスタンフォードへ帰るべきだ。ワシントンは君を堕落させている。」と述べた。
今日、予算赤字は1990年よりもはるかに巨額であり、今後10年間で6兆ドルに達するだろう。二段階のアプローチが良いだろう。まず、2兆5000億ドルの支出増大を抑制し、債務上限額を引き揚げる。その後、来年の差額3兆5000億ドルをどうするか、2012年の大統領選挙で論争する。民主党は2兆ドルの歳入増と1.5兆ドルの支出削減を提唱するだろう。共和党はすべての差額を支出削減すべきだ、と主張する。
このアプローチの優れた点は、1.両党が少なくとも2.5兆ドルの支出削減を認めている。2.1年があれば対抗する議論が出る。たとえばオバマは、債務額ではなく、企業ジェット機の所有で減税しているアメリカ人の数に対して、拳銃の数に上限を課すべきだ、と批判した。3.2.5兆ドルは小さな数字ではない。4.それは、債務額の上限を使って共和党が達成する目標と、原則として、一致する。
BLOOMBERG Jul 14, 2011
Worried About Debt Limit? The Bond Market Isn’t
By Caroline Baum
NYT July 14, 2011
Getting to Crazy
By PAUL KRUGMAN
アメリカがデフォルトすることの利点は多くない。それは漫画的な、ブラック・ユーモアである。亡霊を否定していた人が目を覚ます。狂気の沙汰だ。
多くの批評家が、共和党員たちのあまりの非合理性にショックを受け、彼らは正気を失っているのか? と問う。しかし、これは今に始まったことではないのだ。何十年間も、この過程は進行してきた。今では、その極論と無責任さに関心も払われない。
彼らが言うことを紹介しよう。オバマ大統領はすでに、社会福祉を含む、大幅な譲歩を示している。それは共和党支持者よりも右寄りなほどだ。しかし、共和党は原則として、民主党の大統領を受け入れない。どんなものでも。そして、呪術経済学voodoo economicsに身をゆだねる。
理性も、責任も、求めることができない。
LAT July 15, 2011
Debt-ceiling denial won't work
ガイトナー財務長官とバーナンキ連銀議長が、債務額上限を引き上げないことは破局につながる、と警告した。
NYT July 15, 2011
Blundering Toward Recession: Beyond the Debt Stalemate
WP July 15, 2011
Break the spend-and-borrow cycle
By Rick Perry and Nikki Haley(Texas, South Carolinaの共和党員の知事)
我々は最低限三つの合意ができなければ上限を引き上げない。支出の大幅削減。均衡予算を実現する道筋を進む支出の強制的な上限。均衡予算を求める憲法改正を今の議会が通過させること。
多くの企業や家庭と同じように、国家は均衡予算を守って貨幣を使うべきである。不況のときは民営化を進め、住民が何を必要としているか優先順位を付けるべきだ。私たちの、テキサスも、南カリフォルニアも、それを実行してきた。
ワシントンが貨幣を印刷し、自分たちのお気に入りの事業や無駄な工事に支払うため借金すればするほど、連邦政府は本来の目的から外れて行く。すなわち、アメリカ国民に安全、生産的な経済、雇用を保障することだ。
我々は知事としてアメリカ人の声を代表する。
WP July 15, 2011
The GOP’s dangerous debt game
By Eugene Robinson
guardian.co.uk, Saturday 16 July 2011
Wall Street will not let Republicans pull the debt ceiling trigger
Dean Baker
8月2日が近付いている。この日で、アメリカ政府は支払う金がなくなる、という。
それは金融システムにとって絶対的な破滅であり、リーマンショックよりも悪い。世界記入システムからドルの確実な支柱が失われ、銀行は大きな損失を被る。JP Morgan, Citigroup, Goldman Sachsなど、主要銀行が支払不能になるだろう。そして、前回のような救済策はもはや使えない。政府がデフォルトすれば、銀行はもはや貝殻の無い身でしかなく、世界金融のセンターに戻れない。
だからこそ、我々は共和党員たちがそれを実行できないと知っている。彼らは貧しい者を蹴ったり、労働者の賃金を減らしたり、社会福祉や年金を削っても平気だろう。しかし、共和党員たちがウォール街を苦しめるだろうか? 誰が彼らの選挙資金を出すのか?
オバマは妥協しなくてよい。問題は、いつ、どのように、彼らが方針を変えるか、である。
WP July 16, 2011
Default would dim American power
By James M. Lindsay
1902年、ヴェネズエラの独裁者Cipriano Castroは債務を支払わなかった。これに対して、イギリス、イタリア、ドイツの戦艦がヴェネズエラのいくつかの港を砲撃し、封鎖した。
アメリカ政府は8月2日にデフォルトになるかもしれない。ホワイトハウスも議会も、幸い、ヨーロッパから戦艦がアメリカ沖に来ることを心配しなくてもよいだろう。今や、財務省証券を最も購入している国を考えれば、中国からの戦艦だろうが。デフォルトの扱いは、もっと文明的になったのだ。債券の評価が低下し、市場で売りのパニックが起き、中央銀行スタッフが会合を開く。戦争は起きない。
しかし、デフォルトは世界におけるアメリカのパワーを、全くその必要がないのに、大きく損なうだろう。アメリカを敵視する者は、アメリカの衰退が確実になった、と喜ぶはずだ。デフォルトの結果は、それがどのような形で起き、どのくらい長引くか、による。ごく短ければ「技術的な支払不能」として無視するが、もし数週間に及べば、西側の先進民主主義諸国が新しい世界に突入する。
デフォルトが長引けば、4つの仕方でアメリカのパワーは低下する。1.軍事費が減る。アメリカは、イランや北朝鮮などの潜在的脅威に対処できない。2.他国との軍事同盟を交渉できなくなる。それは時間の無駄だ、と他国は思うだろう。3.アメリカのソフト・パワーが失われる。自国が財政破綻しているなら、他国の愚かな政策にも注意できない。ワシントンではなく、北京などに、支援と意見を求める。4.アメリカの外交が変わる。アメリカ財務省証券への投資は減り、他の投資対象が求められる。そして、ドルから投資を分散してきた中国やロシアは優位を得るだろう。
デフォルトが起きれば、アメリカはそれを長く後悔し、その影響を元に戻すことはできない。しかし、下院議長の共和党John Boehnerは、いつ起きるか、と言うばかりで、何が起きるかを知らない。
WP July 16, 2011
Raise the debt limit
guardian.co.uk, Sunday 17 July 2011
As the US nears the brink, the budget row is exposing Republican madness
Gary Younge
オバマ大統領が「世界の終末を避ける」と語るときも、それは疑わしい。アメリカは、国民の59%がヨハネの黙示録が本当に起こると信じている国だ。いつでも、地平線の彼方には、イナゴの大群がいる。
オバマが8月2日までに議会で取引に応じなければ、ギリシャと同じように、債務の支払が止まるかもしれない。ただし、ギリシャは支払えないからだが、アメリカは支払おうとしないのだ。
民主党は支出削減で妥協し、わずかに増税を求めた。共和党はそれを拒んだ。双方が勝利を叫び、非難を繰り返す。ただし、今回は、デフォルトが迫っている。8月3日には、小切手のいくつかが支払えない。
それは始まりにすぎない。アメリカの金利は上昇し、ドル価値は暴落する。突如として世界不況に陥るだろう。
リベラル派は、共和党員が経済状態の脆弱さを利用して、ロシアン・ルーレットをもてあそんでいる、と批判する。債務額上限の引き上げは当たり前の作業だった。ロナルド・レーガンの下で17回、ジョージ・W・ブッシュの下で7回行った。
財源問題はもちろん政治的である。しかし、債務額上限ではなく、それを扱う政治が陰険で、破滅的で、機能しないことが問題である。
2000年には黒字であったが、その後、ブッシュ政権は大幅な減税と二つの戦争を行った。さらに、その後の不況と金融危機が起きた。共和党は、戦争と不況のコストを、それに最も責任がないのに、最も苦しんでいる貧しい人々に負わせるつもりだ。
黙示録の4人の騎士がやってくる。そして、レーガンの末裔と思しき人々も、落日を目指して乗馬する。
FT July 17, 2011
Debt talks are litmus test of ability to avoid stalemate
By Robin Harding in Washington and Nicole Bullock in New York
Project Syndicate 2011-07-18
Defaulting to Big Government
Simon Johnson
デフォルトは悪いことではない、と少数の強硬派は考えているようだ。彼らは考える。政府が大き過ぎる。それを制御するには劇的な手段が必要だ、と。
しかし、デフォルトはいつでも、彼らにとって皮肉なことだが、政府の肥大化を進める。なぜなら政府のデフォルトは信用の連鎖を破壊し、民間契約を不可能にするからだ。また、多くの人々は緊急時の資産として財務省証券に頼っている。その政府が破たんすれば、貨幣の元本が失われる。
その結果は、資本逃避capital flightである。アメリカ国内には、もはや企業も銀行も信用できる資産・貯蓄手段を持たない。連銀が紙幣を供給して介入するか、生産が急激に落ち込むしかない。ソ連の中央計画経済か、大恐慌になる。アメリカは輸出もできないだろう。なぜなら、アメリカが落ち込めば外国市場も影響を受けるから。
連銀とのアクセスが確実な政府だけは、経済活動を支えるために、急速に拡大するしかない。確かに貨幣の供給はインフレ的かもしれないが、2008年にそうしたけれど、信用膨張は批判派が恐れたような事態を招かなかった。つまり、デフォルトしたアメリカでは民間部門が崩壊し、失業者が20%以上に急増し、政府は最後の雇用者となる。
逆の結果しかもたらさない。火遊びを止めるべきだ。
FT July 18, 2011
US faces economic suicide if spending isn’t restrained
Glenn Hubbard
(chinadaily.com.cn) 2011-07-19
US national debt and world economy
By Han Dongping
長期的に見れば、アメリカ政府は対外債務を支払いために歳入を増やすしかない。第三世界が債務危機に直面すると、アメリカはIMFと一緒に、構造調整計画を作成して押し付けた。今度はアメリカがIMFによる調整を受け入れるべきだ。
FT July 20, 2011
Defusing the US debt time-bomb
LAT July 21, 2011
Doomsday doubters and the debt ceiling
Doyle McManus
多くの共和党員は、オバマ大統領が言うような「最後の審判」が来るとは考えていない。大幅な、強制的な支出削減を行わずに、債務を増やすのが許せないだけだ。
いつかは上限の引き上げに同意するつもりでも、これまでの合意は守られなかった、と共和党員は政府への不信感を強めている。保守派の共和党支持者は、まだオバマ政権を信用していない。
NYT July 21, 2011
Presidents and Their Debts, F.D.R. to Bush
このような対立をアメリカの歴史家たちはどう見るか?
l 中国の対外戦略
(China Daily) 2011-07-15
China needs aircraft carriers
By Wang Baokun
空母は、海軍の質と深さを示す、戦略的な装備である。空母は、核兵器、電子・情報技術、サイバー技術、経済発展、戦争の覚悟と同様に、国家安全保障の条件だ。
WP July 15, 2011
Panetta’s challenge: China’s and Iran’s weapons programs
By Andrew F. Krepinevich
NYT July 18, 2011
Nobody Should Be Fooled. It’s Protectionism.
資源に関する輸出規制を行う中国の姿勢は明らかにWTOの合意に反している。中国政府がその重商主義的な戦略を緩和し、中国のすべての輸出業者にとっても有利な政策を支持するように期待する。
(chinadaily.com.cn) 2011-07-18
America's 'Munich moment'?
James Holmes(the US Naval War College、戦略論の助教授)は指摘した。アメリカが南シナ海についてのアジアのスポークスマンになるとは思えない。アメリカはこの問題で、中国との「ミュンヘン・モーメント」に向かっている、という意見を批判する。
なぜなら、1.南シナ海はアメリカにとってそれほど重要ではない。イギリスやフランスが、チェコスロヴァキアのためにドイツと戦争しなかったように、アメリカもフィリピンのために中国と戦争しないだろう。2.国際紛争をミュンヘンに集約するのは過度の単純化であり、間違いだ。3.米中間だけで決めることはできない。4.東南アジア諸国の政府が米中交渉に同意しない。
(peopledaily.com.cn) 2011-07-18
RMB internationalization well underway
By Tian Li
WP July 19, 2011
Why aren’t we working with Japan and India?
By Michael Green and Daniel Twining
中国の台頭によってアジアが変化することに対処するには、アメリカと日本、インドが協力しなければならない。地域フォーラムに際して、米日韓、米日豪の三国会談が開催されている。
しかし、オバマ政権は日本やインドとの関係を緊密化する上で、中途半端なアプローチが失敗してきた。オバマ政権には失望感がある。日本における民主党政権の誕生から、最近の震災と原発事故への協力まで、アメリカ側のアプローチに期待されたような日本からの反応がなかったからだ。日本の政治システムは暗礁に乗り上げており、沖縄の基地問題も、TPPの貿易交渉も、前に進まない。アメリカ側のスタッフは軽蔑と憤慨を繰り返している。
インドも、日本と同様に、政治システムが弱い。国民会議派は支持を失い、今後も連立政権が続くだろう。ブッシュ政権は、インド政府との戦略的パートナーシップを安売りし過ぎた。
日米は、軍備を強化する中国や核武装した北朝鮮と対峙するためにも、緊密な対話によって信頼を築かねばならない。攻撃的な中国外交に従って、日本がアメリカからの「自立」を求めるのは、日米間の準閣僚級対話が無視され、米中戦略経済対話が重視されている、と見るからだ。またインドも、アメリカがアフガニスタンに関心を失い、パキスタンやテロの問題をインドほど重視しなくなった、と見ているだろう。
しかし、日本もインドも、世界におけるアメリカの役割が損なわれるのではなく、強化されることを望んでいる。ところが、「戦略的な時制」や「戦略的な再確認」というアメリカのメッセージは曖昧で、日本やインドの自助努力を促す結果になっている。日本やインドとアメリカの間に、断固として守るべき共通の利益が欠けているのだ。
日本やインドへのアメリカにおける批判がたとえすべて正しいとしても、アジアにおいてアメリカがパートナーにできるのは両国しかない。
BLOOMBERG Jul 19, 2011
Joke Is on China as U.S.’s AAA Becomes Laughable
By William Pesek
3兆ドルの外貨準備は、突如、最悪のアイデアになった。
投資家たちはドルよりも円に向かっている。債務に依存した、高齢化する、政治的な漂流を続ける国家への投資だ。しかも空前の震災と原発事故に遭った。その債券がアメリカの債券よりも安全に見えるらしい。
中国の通貨は強大なモンスターなのか? 現実には、中国は罠にはまったまま、出口のない苦しみを続けている。ドルを売ってギリシャの債券を買う? イタリアのコマーシャル・ペーパー? スイス・フラン? それは無理だろう。
日本への投資には、いつも二つの問題がある。日本の国債は、10年の利回りがアメリカの金利の3分の1しかない。それでも日本人は、国債の95%を保有したまま売ろうとしない。
2011年にわかるのは、1997年の金融危機以後、アジアが作ったブレトン・ウッズUがまさに崩壊しつつあることだ。数兆ドルの国家資産がリスクにさらされている。ブレトン・ウッズの原案にあった金本位制復帰への哀愁は現実を見ていない。アジアが築いた事実上のドル・ペッグ体制とそれを守る外貨準備も同じだ。
このゲームを最も巧みに操ったのが中国だった。過小評価された通貨が、世界第2位の中国経済をまとめる接着剤であった。しかし、バーナンキが量的緩和Vを始め、ガイトナーが財政赤字削減を始めたら、それは難しくなるだろう。アメリカ債券の格付けは下げられるだろうし、それを大量に保有し、あるいは、ギリシャやポルトガル、弱いユーロ債に投資する中国も、自分のことだと気づくだろう。
すべては外交に役立つ。アメリカを脅し、ヨーロッパを助ける。政治的な理由が優先されたのだ。しかし、経済学は政治家たちに逆襲する。通貨危機によって、インドネシアではスハルトが権力を失い、韓国では反体制派であった金大中が大統領になった。
現代のパラドックスは、世界経済で重要な国が、市場を動かす数百万人の神経質な投資家の気分に支配されていることだ。ヨーロッパはそれを知ったし、アメリカも、アジアも、知るだろう。
Global Times | July 19, 2011
China should break stranglehold of unfair trade rules
By Mei Xinyu
FT July 20, 2011
China’s rapid urbanisation could prove illusory
By Jamil Anderlini in Beijing
(peopledaily.com.cn) 2011-07-21
China's peaceful rise is beyond doubt
By Zheng Xiwen
WSJ JULY 21, 2011
Asia's Mistrust of China
l ユーロ救済
FT July 15, 2011
Europe must consider radical options
Mohamed El-Erian
ギリシャのPapandreou首相は、ユーロ圏の財務省閣僚会議議長Jean-Claude Junckerに激しい抗議文を送った。「これほど経済状態は悪いのに、危機に続く危機へと引き込まれ、不協和音をまき散らす新聞と恐怖に駆られた国民を抱える、このような選択肢にギリシャはこれ以上我慢ならない。」
その通りだ。持続可能な債務処理策が必要だ。ギリシャが成長し、債券市場に復帰できるような。政治が技術的な問題をゆがめている。ギリシャ首相の訴えを聞いて、政治家たちはユーロ圏を再構築するべきだ。
ヨーロッパには二つの道がある。事実上の財政同盟か、正式の財政同盟か。単なる融資ではなく、コストの点で効果的な保証と財政移転を行う。統一的なヨーロッパのバランス・シートを攻撃的に利用して、地域全体の債務膨張を安定化する。その見返りに、参加諸国は国家主権と財政政策の裁量を大幅に放棄する。
もしこれが政治的な実行不可能であれば、ヨーロッパは弱小の周辺国政府に対する債務の組み換えを行う。ECBの資本を増強し、支払・決済システムを守り、その他の崩壊のリスクにも備える。こうして成長の条件を回復する。ある段階では、競争力を回復するために政策の弾力性を一時的に回復する、ユーロ圏からの定期的な離脱、しかし、EUにはとどまる、という国も出てくるだろう。
どちらの道も、簡単ではないし、楽しいものでもない。深刻な解体のリスクが含まれている。しかし、融資を続けて問題を回避しているだけでは、急速にユーロ圏全体が蝕まれる。
(China Daily European Weekly) 2011-07-15
Drastic actions needed to solve debt crisis
By Zhang Ming
WP July 16, 2011
Europe regains the stage
By Jim Hoagland
SPIEGEL ONLINE 07/18/2011
Rudderless EU
Chancellor Merkel's Dangerous Lack of Passion For Europe
By Peter Müller, René Pfister and Christoph Schult
81歳のコールHelmut Kohl元首相は、アンゲラ・メルケルについて不満を述べた。「彼女は私のヨーロッパを破壊しつつある。」 キリスト教民主同盟CDUは、常に、ヨーロッパ統合を情熱的に推進してきた。あの情熱はどこに行ったのか?
WP July 18, 2011
How Europe can restore financial stability
By Lawrence Summers
Lawrence Summersの提案に期待しましたが、よくわかりません。何が解決への鍵なのか?
1.金融危機は、個別国の財政赤字よりも、システムの問題だ。2.外国の債権者に支払を続けるため、巨額の財政黒字を求められても成功しない。3.いかなる国も、その支払能力は政策と市場の反応、そして、広範な経済情勢による。
ドイツの賠償金問題について、ケインズが「平和の経済的帰結」で警告したように、債務国が債権国に求められている支払は、ヨーロッパ経済を破壊します。
FT July 18 2011
Saving the euro, saving Europe
Project Syndicate 2011-07-18
The Eurozone’s Last Stand
Nouriel Roubini
これは優れています。Nouriel Roubiniの説明は明快で、危機処理の要点が理解できるでしょう。なるほど、こうすれば危機は解決できます。
2012年までにギリシャの債務比率はGDPの160%を超える。債務の組換以外に選択肢は急速に失われている。公的部門(IMF、ECB、EFSF)を総動員した救済融資は、すべてのモラル・ハザードの母となる。それは極端にコストのかかる、政治的にあり得ないような作業である。ドイツ人を始め、ユーロ圏の主要な有権者には我慢できない。フランスによる銀行の自主的な債務の長期化はまやかしだ。
現実的で、意味のある、唯一の解決策は債務の組換だ。秩序ある、市場に依拠した、しかし強制的な形で、すべてのギリシャ政府債券を組み替える。しかし、その場合、ギリシャの銀行システムやドイツの銀行資産が破綻するのを防げるのか?
その答えは、ウルグアイ、パキスタン、ウクライナ、など、新興市場経済が教えてくれる。彼らは秩序ある形で旧債券を新債券に交換した。三つの点に注目すべきだ。1.債券の額面価値を変えない。2.満期を20年から30年と長くする。3.金利を現在の持続不可能な市場金利ではなく、最初の利率か、もしくはそれ以下に下げる。
額面価値を変えなくても、返済期間を延ばせば、債務負担は大きく緩和される。借り換えのリスクも回避できる。額面価値は変わらないから、銀行・保険・年金などの債権者は資産のユーロ建価値を100%維持できる。バランス・シートに巨額の損失を示さなくてよい。それは金融危機の伝染を防ぐ。
格付け会社が債券の評価を引き下げるだろうが、それは短期的なものであり、数週間でしかない。ECBや債券銀行は数週間の格付け低下ならば耐えられる。
債券の交換に応じない少数の債券者もいるだろう。過去の経験から、満期まで保有する投資家は額面価値の維持を望み、市場価格に反応する投資家はハイリターンのクーポンを好む。投資家に応じて異なる選択肢を提供することだ。
危機の伝染を防ぐ最良の方法は、銀行の自己資本を強化することだ。ユーロ圏全体で資本の増強策を実行するのが良い。EFSFのような公的資金で、支払不能のギリシャを救済するより、アイルランド、スペイン、ポルトガル、イタリア、さらにはドイツやベルギーの銀行も資本を増強する必要がある。同時に、ECBが無制限に資金供給し、銀行の流動性危機を防ぐ。
イタリアやスペインの金融圧力を解消するには、財政緊縮と構造改革が求められる。そしてEFSFの拡大やユーロ債の発行がヨーロッパ財政統合を進めるだろう。
ユーロ圏は周辺部の成長政策を必要としている。それには何よりも、ECBが金利を下げることだ。ユーロ圏は金融緩和とユーロ安を求め、周辺部の競争力を改善する。また、ドイツは財政再建を延期すべきだ。
現在の危機回避策は不安定な不均衡をもたらすだけだ。ユーロ圏は異なる均衡へ進むだろう。経済・財政・金融の統合と、経済成長、競争力を高めたユーロ圏。それは債務処理の秩序ある仕組みを持ち、安価なユーロを持つ。あるいは、無秩序なデフォルト、銀行危機、そして最後にはユーロ圏の崩壊を招く。
現状維持派続かない。
FT July 19, 2011
Eurozone: An elusive debt resolution
By Peter Spiegel
多くの問題が一斉に悪化している。それに関わる多くの機関や政治家が、異なる利害を代表して対立を深めている。
ドイツやオランダの債券保有者には、危機救済のコストを分担すべきだ、という圧力が強まっている。しかし、彼らは、債権者が参加しなければ新しい合意はできず、ギリシャの債務負担は減らないだろう、と主張する。ブラッセルでサミットが開催されるけれど、すべての問題に政治的要素が含まれている。
問題@:救済が小さすぎた。問題A:ドイツ、オランダ、フィンランドの有権者は新しい救済融資を認めない。問題B:ギリシャの銀行システムが崩壊し、緊急融資も失敗する。問題C:ギリシャのデフォルトが起き、イタリア・スペインの債券でもパニックになる。問題D:ギリシャの債務負担は大き過ぎる。
FT July 19, 2011
Greece can restructure its debt without default
Jeffrey Sachs
Jeffrey Sachsの解決策はNouriel Roubiniとよく似ています。根本的な違いは、ギリシャが全額返済する、というシナリオです。
どうしてできるのか? それはEFSFを通じてユーロ圏が協力し、ギリシャの債務に対してもフランスやドイツ並みに長期金利が低くなるからです。
なぜ、こんな政治的に強い反対を受ける提案を支持するのか? Jeffrey Sachsは、債務支払が不可能だ、という主張を退けます。ギリシャの過去の平均成長率は4%であり、この提案が成功すれば、返済金利は3.5%に低下します。
また、秩序あるデフォルトが容易なものと仮定するのは間違っているからです。
FT July 19, 2011
Let Europe pay for its policy failures
By Alan Beattie
BLOOMBERG Jul 19, 2011
How to Contain the Debt Crisis
By Francesco Giavazzi and Anil K Kashyap
ユーロ圏を維持するには、以下の4つの現状を解消する提案がなければならない。
1.債務返済が不可能な国があることを認めて、デフォルトを準備する。2.政府債券のデフォルトで、ヨーロッパの銀行システムがその資産価値を破壊される。3.リスクのある諸国すべての返済保証はできなくなった。4.成長を回復しなければ返済できない。
こうした問題を認めないから、ユーロ危機は深刻化し続けている。過去2年間の解決策は金融市場を納得させることができなかった。容易な解決策はない。
我々の提案は、まず、銀行を強化することだ。ヨーロッパの大国はEFSFを拡大して、すべての銀行の損失に十分対処できるようにしておく。安定化基金を利用できる条件は、1.厳格なストレス・テストで不足する資本額を決定する。現在の株主たちは救済に反対するだろうが、破綻するよりましだ。2.安定化基金はすべての銀行を救済できる。その場合、経営権を奪うので、銀行は自力で資本増強を模索する。3.救済される銀行のある国では、政府が成長率を高める改革を迅速に行う。特に、労働・財・サービス市場の規制緩和だ。政府は、増資の条件に法整備を求められる。
成長が回復しなければ、デフォルトや切り下げだけで危機を解消することはできない。市場はこのことを知っている。もし、たとえば、イタリアが改革を行わず、安定化基金を利用するなら、金融市場はEFSFへの不信から、その債券を買わなくなる。EFSFはイタリアをデフォルトさせ、その影響を抑えるために他国の銀行を救済するだろう。イタリアは銀行破綻と深刻な不況に陥る。
この提案はドイツなどの納税者に反対されるだろう。しかし、これは担保として、救済した銀行の改善が見込める点で、現状の救済策よりも優れている。EFSFの資産は、成長する条件を整備する国に限定されるからだ。
FT July 20, 2011
Eurozone’s problems are political, not economic
Joseph Stiglitz
Joseph Stiglitzは、経済学は解決策を知っているが、それを政治的に実現できない、という説明を繰り返しているように見えます。
すなわち解決とは、ギリシャの債務額を返済可能な水準に減らすこと、である。それには、金利を下げる、債務額を減らす、GDPを増やす(成長する)、という方法がある。
IMFやEUの救済融資を増やすことは、それが先に返済されるのであるから、融資額が増えるにつれて民間債務の返済見込みは悪化する。緊縮策で債務返済が可能になるのは珍しい、というのも、それは不況と税収の減少を意味するからだ。「リプロファイリング」、すなわち、民間銀行が自主的に返済期間を延長しても、解決にはつながらない。
さらに、問題は政治的である。ユーロ圏全体で見れば、金利はもっと低く、ギリシャなど、債務危機の諸国のGDPも限られている(アメリカよりもGDPに対する債務比率は低い)。ユーロ債を発行すれば金利は下げられる。しかし、黒字国の政府は「財政移転」を嫌い、また、人も資本もEU内を自由移動するから、「連帯」は軽視される。
ギリシャがポピュリスト的な政府でなかったことは幸運であった。パパンドレウ首相は厳しい改革を支持し、それが予定の赤字削減を達成できなかったのは、構造改革の成果が表れるには時間がかかるからだ。
いかなる改革も、犠牲を分かち合い、成長の見込みがなければ成功しない。IMFはアジアやラテンアメリカに厳しい緊縮策や改革を強制できたが、有権者が情報を得ている活発な民主主義国家からなるヨーロッパでは、そんなことはできない。もっと中小企業の民間投資を促す支援策が必要だろう。
それらは政治的意志の問題だ。
NYT July 19, 2011
Europe at the Brink
FT July 20, 2011
Eurobonds are the only answer to Europe’s crisis
Mario Monti
FT July 20, 2011
Building defences for Europe’s banks
Project Syndicate 2011-07-20
The Battle of the Bonds
Robert Skidelsky
債務を返済することに対する道義的な要求が強まっている。債務には、その返済不能を債務者の責任と見る立場と、債権者の責任を重視する立場と、二つの意見が歴史的に交代します。債権者への非難は、アリストテレスや中世の高利禁止にさかのぼります。
現在の不況をもたらしたことで、金融の経済活動促進を重視する立場が逆転しました。それは不況を長引かせ、経済秩序の崩壊から社会・政治不安を招きます。
l イタリアに及ぶユーロ危機
FT July 15, 2011
Forza Italia! Only Latin alchemy can save the Union
By John Lloyd
オスカー・ワイルドによれば、人間も、国家も、愛する者を殺害する。ギリシャ、ポルトガル、スペイン、アイルランド。彼らはEUを熱烈に愛していた。EU加盟は彼らに独裁体制後の民主化を保証し(アイルランドは少し違うが)、経済ブームをもたらした。
しかし、イタリアは異なる。イタリアは創設時からのメンバーだ。ユーロ圏は、大きく異なる政治体制や文化を超えて、ヨーロッパ市民を魅力的なものにした。それが今は耐えがたいのだ。イギリス人はユーロに懐疑的で、慎重な賛成と無思慮な非難との間に揺れ動き、献身的なヨーロッパ主義者を憤慨させている。
イタリアはどうか。南欧の財政破綻と組織犯罪。広範な脱税。膨張し、非効率な公的部門。刺激的だが、全体として破滅的にグロテスクなベルルスコーニの政治手法。
一体、どのような錬金術師なら、さもしいイタリア人を、高貴なスウェーデン人に変えられるのか?
それができるのは、イタリア人だけだ。この国は、先の戦争の後、数十年、世界で最も高い成長率を実現した。1990年代後半、ユーロに加盟するために金融を引き締めた。今や、ビジネスの復活、マフィアの撲滅、司法制度の改革を遂げている。「イタリア、がんばれ!」
彼らの愛するヨーロッパを救済できるのは、イタリア人だ。
NYT July 16, 2011
The Clash of Generations
By THOMAS L. FRIEDMAN
アテネのSyntagma Squareは、カイロのTahrir Squareに非常によく似ている。彼らが求めるのは、「自由」であるが、それ以上に「正義」だ。ここでは文明の衝突が起きてきたが、今起きているのは世代の衝突だ。「ベビー・ブーム世代」の付けを若者たちが負わされている。
若者たちが最も激しく反発したのは、財務副大臣Theodoros Pangalosが次のように述べたときだった。EUの融資と補助金が1981年以降の信用ブームをもたらしたことについて、「われわれは一緒に食べたのだ。」 われわれとは、国民と政治家だ。50代から60代に達したベビー・ブーム世代と政治家たちはそうかもしれない。しかし、今からその世代に入る人々は一切恩恵を得ていない。支払うばかりだ。
ギリシャでも、カイロでも、資本主義は、その最悪の姿、身内だけの支配、不正や汚職にまみれた、権力に近いというだけで驚くほど裕福になれる、そんな姿で機能してきた。誰もが誰もと闘っている。ギリシャでも、アメリカでも、あまりにも大きな赤字を埋めるには、与野党が協力して、苦痛を分かち合い、必要な手段を取る、という集団的行動しかない。しかし、どちらでも始まっていない。ベビー・ブーム世代の無思慮な政治家たちは、政治的野心とイデオロギーを超えて話し合えない。
人民銀行の副総裁Yi Gangは、スペイン、ポルトガル、ギリシャに債券を、輸出市場を安定化するために中国が買うでしょう、と言った。それは、かつてアメリカの役割だった。
BLOOMBERG Jul 17, 2011
Contagion in Three Forms Now Has Grip on Europe
By Simon Johnson
金融危機は、企業、銀行、国家で起きる。危機が伝染する三つの理由がある。ユーロ危機では、そのすべてが働いている。
1.心理的な伝染。群集行動でパニックが広がる。2.実物面の効果。その国への輸出が減るから、主要な貿易相手国で危機が起きる。3.最も破壊的なもの。政策に関する説明などを考慮してできた、投資家たちの前提が失われること。
三つ目の危機の伝染が、アメリカ財務省の政策に関してリーマンショックを起こしたように、今、ドイツの政策に関しても起き始めている。
FT July 18, 2011
Plan D stands for default and death of euro
By Wolfgang Münchau
危機はイタリアに達した。ユーロ圏の安定性は動揺している。今すぐに、融資を弾力的に実行し、流通市場で政府債券を購入するべきだ。ギリシャ債券を持つ民間投資家の不安を開所しなければならない。
僅か数週間で、救済策は何度も変化した。プランAは緊縮政策。プランBは債務救済策の容認。財政移転と民間投資家のコスト分担。プランCはEFSFをイタリア・スペインの危機にも対処できる規模に拡大。プランDはイタリアの金利引き下げ、もしくは、デフォルトだ。
5年前に、ユーロ圏の崩壊を議論する者もいたが、その可能性はO%だった。しかし、今は半々の確率で起きるだろう。なぜなら、欧州委員会が絶対に阻止すると述べた言葉を信用しないからではなく、その行動が余りにも遅いからである。危機は起きる。その後で、政治家たちは漸く行動するのだ。
ギリシャに資金を与えるだけでは危機を阻止できない。イタリアに及ぶ危機は、財政統合を拒む通貨システムを脅かす。メルケルは確かに大きく立場を変えた。びた一文払わないのではなく、安定化基金を積み増すだろう。しかし、危機のスピードは政治変化の制限速度をはるかに超えている。彼女はタイタニック号のファーストクラスの乗客だ、とイタリアのGiulio Tremonti財務大臣は憤慨した。
プランDに移れ。イタリアはデフォルトを避けるべきだ。しかし、それを覚悟しておくことだ。長期的にはイタリアが生産性を高め、競争力を回復しなければならない。しかし今、危機を避けるには、ユーロ債発行によってイタリアの金利を下げるしかない。
メルケルはそこまで進まないだろう。自分の都合でベッドを切るつもりだ。それは、破滅である。
FT July 18, 2011
Merkel’s calm looks like a missed opportunity
By Quentin Peel
Project Syndicate 2011-07-18
Europe’s Italian Muse?
Emma Bonino and Marco De Andreis
guardian.co.uk, Tuesday 19 July 2011
Euro crisis needs leaders, not ideological battles
Stephanie Blankenburg
guardian.co.uk, Tuesday 19 July 2011
German nerves fray as bond yields jump
Phillip Inman
NYT July 19, 2011
Can Greeks Become Germans?
By THOMAS L. FRIEDMAN
ギリシャの金融ジャーナリストKaterina Sokouから聞いた話を紹介しています。経済危機の直後、バヴァリア議会の一団がアテネを訪問して、政治家、ッ学者、ジャーナリスト、法律家に会った。彼らはギリシャを救済する融資の判断に来たのだ、とSokouは感じた。それはまるで、ギリシャの文化を彼らに理解してもらうようなものだった。
確かに世界は新しい情報伝達手段によって結び付き、特にビジネスや金融では、異なる文化や行動の影響を無視できなくなった。しかし、異なる文化を持つ国が統一できるだろうか? 離婚した二人が、文化が違う、と言うのを聞くと悲観的になるだろう。
しかし、ギリシャがこうなったのは1981年にEUに加盟し、ユーロと援助に頼って、中東の石油国家と同じ文化を育てたからだ。自然資源が豊富な国は、それを奪い合って、政治腐敗と経済の荒廃が進む。それこそ、ユーロの補助金や融資を得るために、ギリシャがやったことだ。EUからの資金は、投票の見返りに、政府の雇用増大や公共事業として消えた。誰もがトラック運転手や薬屋を辞めて、障壁を築く弁護士などになり、物価は上昇した。
アテネ大学の経営学教授Dimitris Bourantasは、「われわれは周辺の社会主義諸国よりも有利であったし、世界経済は拡大していたのに、それを利用しなかった。政治システムは公的部門を拡大することに関心を向け、企業家、競争、産業政策、競争の促進には関心がなかったからだ。そして、非効率で、汚職に満ちた、あまりにも肥大化した官僚部門を創った。我々はヨーロッパで最後のソビエト国家である。」
しかし、ギリシャ人はアメリカに移民して、その技量や企業家精神を商業で大いに発揮している。ギリシャでは、システムがその逆のことを求めるのだ。ギリシャでは、ギリシャ人が自分らしく行動できない国、ユーロ石油国家なのだ。
ベイルートやドバイが衰退するとき、アテネは東地中海のサービス・センターになれる。この危機を逃してはならない。文化革命が必要だ。
Project Syndicate 2011-07-20
How to End the Greek Tragedy
Andres Velasco
FP JULY 20, 2011
A Continent, Sinking
BY STEVEN ERLANGER
ユーロ危機で問われているものを考察した特集記事です。
BLOOMBERG Jul 20, 2011
Euro Bonds May Be the Best Bet to Resolve the European Debt Crisis: View
guardian.co.uk, Thursday 21 July 2011
The eurozone summit is make or break for Greece
Matina Stevis
guardian.co.uk, Thursday 21 July 2011
Monetary union, always unworkable, has set in train a European disaster
Simon Jenkins
SPIEGEL ONLINE 07/21/2011
Germany's Green Party on the Euro Crisis
'Merkel Must Put Politicians Back in the Driver's Seat'
Cem Özdemir
ドイツの緑の党の代表がギリシャ訪問から帰ってインタビューを受けました。ギリシャ政府とその改革に対する強い支持が感じられます。
FT July 21, 2011
Some useful steps but not much of a strategy
Wolfgang Münchau
WSJ JULY 21, 2011
The ECB's Political Agenda
By DAVID MACKIE AND GREG FUZESI
WSJ JULY 21, 2011
Greek Debt and European Fiscal Union
By DAVID MACKIE AND GREG FUZESI
ECBがギリシャの債務組換に反対するのは間違いだ。そこには明らかに政治的な意図がある。つまり、このまま救済融資を増やし続ければ、それは裏口から財政統合化を実現できる、と言うことだ。
Project Syndicate 2011-07-21
Debt and Delusion
Robert J. Shiller
WSJ JULY 15, 2011
Can Obama Pull a 'Clinton' on the GOP?
By ROBERT REICH
FP JULY 15, 2011
Nationalism Rules
BY STEPHEN M. WALT
l USとEUの財政破綻
FT July 17, 2011
Default risks in the US and Italy
by Gavyn Davies
イタリアとアメリカが財政破綻するかもしれない。しかし、二つは全く異なる。アメリカは、ワシントンにおける政治家たちのチキン・ゲームによって、自分からデフォルトに向かっている。イタリアは、ユーロ圏が周辺の財政危機を処理できないために、自国の低成長によって投資家たちにデフォルトを想像させる。
金融市場は、この二つの国に全く異なる反応を示した。イタリアの金利は急騰し、アメリカの金利は急速に下落した。連銀の量的緩和策が終わると知っても。
イタリアの危機は、以前から知られている悪条件が何も変わったわけではない。GDPの120%に達する債務比率と、成長率の慢性的な低さが、ユーロ危機によって新しい注意を喚起した。イタリアには中央銀行がなく、インフレを起こせないし、財政破綻した政府を救済できない。ECBの決める条件では、今後も成長率は高くないだろう。むしろデフレに向かう。もしヨーロッパの金利水準が少しでも高くなれば、イタリアの債務は爆発する。
guardian.co.uk, Wednesday 20 July 2011
Debts and deficits: Transatlantic storms
guardian.co.uk, Wednesday 20 July 2011
Debt crisis: In our competitive decadence, we face eurogeddon and dollargeddon
Timothy Garton Ash
USとEUはデカダンス(文明の衰退)を競い合っている。西側を指導する政治体制が、自由民主主義の資本主義がもたらした債務と財政赤字を処理することができないのだ。世界の二大経済圏がユーロの破滅とドルの破滅に向けて人類を導いている。
もちろん、両者には多くの違いがある。USの危機は統合を崩壊させる危機ではない。EUは、まだはるかに幼い、わずかな統合体だ。27の主権国家が集まり、EU財政はGDPの1%でしかない。各国の財政状態も大きく異なる。他方、USは50の州が完全な連邦制を成し、GDPの4分の1を財政的に再分配している。EUの各国政府はGDPの半分を再分配する。
USの共和党と民主党は、ヨーロッパの主要政党に比べて、イデオロギー的に大きく異なっている。しかし、EUは国民間で分裂している。ヨーロッパの共和党とは、ドイツ人のことだ。
USの債務は、社会保障費に加えて、ジョージ・W・ブッシュの減税と戦争で膨らんだ。その後、金融危機によるオバマ政権の救済措置と財政刺激策が加わった。EUは大幅な減税も戦争もしなかった。しかし、ユーロ圏の周辺における無責任な支出や借入を、フランスやドイツの銀行は無責任に増やした。USもEUも、偽りの安全性に頼っていたのだ。
大西洋の両側が示す相違を超えて、その類似点には深い意味がある。これは自由民主主義的な資本主義の構造がもたらす危機なのだ。西側が過去10年間築いてきたものの中心が蝕まれている。
企業、家計、公的部門が、この40年間、債務を膨張させてきた。金融危機の後、こうした民間債務が国有化されている。成長は衰え、歳入は減った。公的債務比率は次第に上昇するだろう。リスクを社会化し、消費拡大を推進して、社会福祉や年金、医療保険も、戦後ベビーブーム世代の期待を実現してきた、自由民主主義+資本主義、は限界を超えたのではないか?
これは、民主主義の逸脱・曲解a perversion of democracyだ。政治は、ここでは、多くの人々が長期的に必要とする物を、短期的には支持を失うリスクを冒してでも提案するより、声の大きな人々に短期的に望む物を与える。
政治は、金、特集利益、メディア、圧力団体、特定の問題にこだわる強硬派、最新の支持率調査、地方選挙に、非常に強く左右される。ワシントンもブラッセルも、競争するロビイストたちの楽園だ。
かつてジェイムズ・マディソンは、特集利益や分派に逆らって、公衆の利益を守る点で、大きな共和国は小さな国家よりも優れている、と主張した。賢明な、長期的視点を持った代表が、「公衆の意見を洗練し、拡大する。」 それゆえ、より小さな単位で民主主義は最もうまく機能する、と述べたモンテスキューは間違っていたのだ。
中国共産党は、その先を行く。3兆ドルの外貨準備を政府が管理するのは、この強大な、多様な領土を運営する上で、より優れた、効率的な方法を人民共和国が発見したからだ、と。
大西洋の両岸に育った自由な民主主義は、マディソンが正しく、中国共産党は間違っている、と示せるだろうか?
FT July 21, 2011
Spasm or spiral? The west’s choice
By Philip Stephens
ある日、中国の若い外交官が私に試験問題を出した。確かに、大西洋の両側で起きつつある衝突事故は、何か同じような問題を示している。
アメリカではイデオロギー的な両極分解と政治の麻痺によってデフォルトが近付いている。ヨーロッパでは、その中心的な計画である単一通貨が、政府債務と意見の対立で、ねじ切れそうである。連帯よりもナショナリズムが復活している。
この双子の危機は、裕福な経済に敵的な混乱をもたらすだけの、一過性の痙攣なのか? あるいは、1970年代の再来か? 永久に異なる秩序へと向かうショックなのか? 西側の衰退は加速し、2世紀に及ぶヘゲモニーを失うのか?
その他の世界の台頭は良いことだ。世界経済の拡大はゼロサム・ゲームではない。しかし、他の地域における成長が西側の停滞と同時に起きるとき、痙攣は連鎖し、危険が迫る。たとえば、財政破綻は、アメリカのグローバルな軍事展開を大幅に後退させるだろう。
グローバリゼーションは捻じ曲げるような変化を生じ、同時に、政府の低応能力を奪う。政治家たちが、富裕層への課税と医療保険制度の削減とを選択し、中央銀行による債券購入とデフォルトの選択を議論するとき、西側社会にとっての容易な選択がグローバル・エコノミーに大災害をもたらす。
しかし、話はそれで終わったのではない。アメリカン・ドリームも、ヨーロッパの福祉国家も、グローバリゼーションの競争圧力に屈服しつつある。彼らは困難な選択を迫られているが、政治を信用できないのだ。そこに欠けているのは、指導力だ。
アメリカの衰退は予定されたわけではない。アメリカは今も世界で最も裕福な国である。技術、教育、文化、など、アメリカの優位は他を圧倒している。ヨーロッパにはダイナミズムが足りないが、それぞれの優位を活かせるはずだ。
中国の若い友人に、私は、西側は選択肢を持っている、と答える。衰退が加速する道もあるが、それだけではない。そして、中国など新興諸国にも、独自の問題が多くある。
FT July 21, 2011
Middle-class uprising poses a global threat
By John Paul Rathbone
NYT July 17, 2011
Letting Bankers Walk
By PAUL KRUGMAN
アメリカの金融政策は5文字であらわせる。・・・go easy on the bankers.
ウォール街は莫大な選挙資金を提供している。銀行を管理するはずの政府が、結局、銀行の利益に奉仕している。しかし、鍵にかかった銀行家を逃がしてやるたびに、政治家や官僚たちは、経済全体の利益になる、と主張した。
WSJ JULY 20, 2011
A Dodd-Frank Retreat Deserves a Veto
By TIMOTHY GEITHNER
FT July 21, 2011
We are on course to stop a new financial crisis
By Barney Frank
FT July 18, 2011
Argentina: A high-risk recovery
By Jude Webber
2001年のアルゼンチンにおいて、デフォルトの経験をどう見るか? ギリシャやユーロの危機に対して、アルゼンチンは何を示すのか?
BLOOMBERG Jul 18, 2011
Lagarde Should Buck IMF Tradition and Get Tough: Echoes
By Amity Shlaes
Project Syndicate 2011-07-18
Small Economies, Big Problems, and Global Interdependence
Kemal Dervis
NYT July 18, 2011
The Cameron Collapse
By ROGER COHEN
SPIEGEL ONLINE 07/19/2011
Don't Go, Mr. Murdoch!
Why the World Needs the Tabloid King
A Commentary by Jan Fleischhauer
WSJ JULY 20, 2011
A British Watergate?
By HOLMAN W. JENKINS, JR.
FT July 19, 2011
Ending Japan’s nuclear drift
WSJ JULY 19, 2011
Obama's Step Forward on Libya
By MAX BOOT
WSJ JULY 20, 2011
Another Overhyped Challenge to U.S. Power
By JOSEPH S. NYE JR.
l タイ
FT July 20, 2011
High time to concede the Thai king can do wrong
By David Pilling
WSJ JULY 21, 2011
Yingluck Can Unite Thais With the Truth
By DAVID STRECKFUSS
次期首相となるYingluck Shinawatraは、真実と和解のための委員会the Truth and Reconciliation Commission (TRC)を支持すると約束して、国民を驚かせた。この委員会は、2010年7月の赤シャツ・反政府デモを武力で鎮圧した事件に関して、アビシット前政権が設けたものだからだ。
イングラックは、TRCが独立した立場で、恩赦の進言を含まない、調査報告を完成するように求めた。彼女の発言は、委員会の目的が鎮圧部隊の恩赦ではなく、真実の究明に移ったことを示すだろう。しかし、真実を明らかにすることは、タイにおいて、言うほど容易ではない。これまで、多くのクーデタやデモの鎮圧が起きたが、責任者は罰せられていない。戒厳令が「法の支配」を無視してきた。
LAT July 21, 2011
The world's biggest problem? Too many people
By Mary Ellen Harte and Anne Ehrlich
SPIEGEL ONLINE 07/21/2011
Famine in East Africa
A Catastrophe in the Making
By Clemens Höges and Horand Knaup
FT July 21 2011
Famine in the Horn of Africa
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The Economist July 9th 2011
Back to the coffee house
Debt reduction: Handle with care
Women in political dynasties: The distaff of office
Deleveraging: You ain’t seen nothing yet
Thailand’s election: A precious chance
Angela Merkel Hello to Berlin
(コメント) 熱心に読む暇がなかったせいか、特筆する記事はありません。マードックに関連して、新聞産業の変貌と将来を描く特集記事がありました。冒頭記事しか読んでいませんが、まあ、これは面白いですね。新聞が、かつてコーヒー・ハウスのゴシップや情報を集めていた時代から、大規模な印刷と販売をシステム化して、読者を確立し、広告収入で記者やジャーナリストを雇い、情報を独占するようになったこと。このメディア産業が、ソーシャル・ネットワークの登場で急速に衰退していることを描き出します。
The Economistは、常に、技術変化に楽観的であり、メディア産業が滅んでも気にする様子はなく、新しい情報ツールや政治メディアが活発な論争を刺激する時代を歓迎しています。ゴシップと、セックス・スキャンダルも、大いに結構、というわけです。
政治の世界になぜ女性指導者がこれほど増えたか? という記事と、インラック・タクシン、アンゲラ・メルケルの記事が興味深い指摘を含んでいます。
最も気になるのは、世界経済や通貨を不安にする「デレバレッジ」の圧力です。アメリカもEUも、財政赤字から政治危機を生じています。財務の圧縮は民間でも急速に進み、それが政府に債務を転嫁するだけでなく、政治の機能マヒや債券市場の圧力を介した競争的な緊縮政策をもたらすとき、壮大な悪循環が生じる難しい時代に私たちは入ります。
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IPEの想像力 7/25/11
ノルウェーの爆弾テロと大量殺人に驚きました。犯人の政治計画が紹介され始めましたが、まったくの狂気や衝動ではないところに、文明の狂気を感じます。
C.P.キンドルバーガーは、1930年代のアメリカが「最後の貸し手」として行動しなかったから大恐慌は深刻になった、と考えます。しかし、「最後の貸し手」とは何でしょうか? 民間銀行の取り付けに対して、中央銀行が特別融資を行うことにより、銀行システム全体にパニックが広がるのを回避することだと思いました。ウォルター・バジョットです。
しかし、世界の金融取引には中央銀行がありません。キンドルバーガーは三つを指摘し、その後、二つを追加しました。少しアレンジすれば、
1.市場を開放して最後の買い手・消費者になる。短期資金・流動性・国際通貨を供給する。2.割安になった海外の資産に長期投資する。金融市場の連鎖的な売りを止める。3.銀行や金融機関の取り付けを止める。主要諸国の中央銀行と連携して、金融緩和を行う。実際に金融資産を買い取る。
こういうことを意味しているのでしょう。しかも、覇権国の地位が相対的に低下するほど、国際的な協調が必要になります。それゆえ、「最後の貸し手」に二つの役割が追加されます。
4.主要国のマクロ経済政策を協調する役割を担う。大幅な国際収支の不均衡を避け、ショックを押し付け合うより協力して吸収するよう促す。5.為替レートの調整と安定化を図る。極端な変動や不安定化には、協力してメッセージを発し、必要なら介入を行う。
おそらく、こうしたことも含まれるようになったと思います。問題は、経常黒字国が世界市場に資金を供給しなければ、覇権国が国際通貨によって投資や流動性を維持しなければならない、ということです。それは、次第に覇権国の自由を奪うでしょう。国内の金融政策や財政政策の重荷となり、外交や安全保障にも影響します。
しかし、イギリスがその能力を失い、アメリカがその意志を欠いていたとき、「最後の貸し手」は現れず、世界市場は悪化し続けました。これが大恐慌に関するキンドルバーガーの有名な仮説です。また、戦後のヨーロッパにおける政治経済不安に対して、マーシャル・プランが必要になったのです。
「ドル不足」は、どのように解消されたのでしょうか? 経済援助や海外での軍事支出、市場開放にともなう投資であったと思います。アメリカはポンドを支援し、ヨーロッパ諸国の統合化を支持しました。R.ギルピンは、アメリカの多国籍企業がヨーロッパ向けの直接投資を増やすことを、黒字国からの新しい融資と見なしました。
私は、これらを一種の国際調整メカニズムと考えます。
覇権国が構造的な赤字を出す要因なったとき、つまり「ドル過剰」に対して、黒字国や主要経済圏がどうするか、は重要です。EUにおけるドイツはどうでしょうか? 中国はどうでしょうか? そして、日本は?
イタリア政府は脆弱な条件で、ある事件によって、危機が起きるのを待っていました。日本は、すでに甚大なコストを生じる事件も起きました。なぜ日本は、それにもかかわらず、市場の不安から隔離されたままなのか? 幸い、アメリカやヨーロッパから地理的に遠く離れているから、内外において、投資家の想像力を刺激しないのでしょう。
もし日本がユーロ圏であれば、デフォルトと切下げによって、アルゼンチンの道を選んだのか? もし日本がアメリカの一部であれば、ティー・パーティ―運動や共和党の知事が登場し、債務削減に市場改革を採用するのか? あるいは、債務危機を緩和するため、政治家たちが企業の売却や直接投資の誘致に北京と上海を何度も訪問するのでしょうか? 今は、まだ、想像するだけです。
テロ事件により、北欧諸国は移民政策と極右に関する深刻な国内政治不安を重視するでしょう。高速鉄道の事故をきっかけに、中国の株価が下落しています。中国政府は、事故の隠ぺいや原因究明について、被害者への補償について、不信や不満が広がることを恐れています。アメリカの大統領選挙はすでに政治に影響し始めている、と言います。
予想外の危機が起きたとき、「最後の貸し手」は現れるのでしょうか?
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