IPEの果樹園2011

今週のReview

7/18-23

 

*****************************

危機はイタリアへ ・・・中国の軍事力 ・・・行動科学 ・・・アメリカの債務危機 ・・・リビア介入 ・・・マードック ・・・雇用問題

 [長いReview]

******************************

主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l         危機はイタリアへ

FT July 7, 2011

Sea, ships and solar can get Greece growing

By Kemal Dervis

ギリシャ債務の処理をめぐって、財政赤字の削減方法、増税が議論されます。また債務を継続する際に一部をギリシャの将来の成長に結びつけた金利にする(つまり、成長すれば金利は高いが、成長できないときは低くなる)、という債券に交換することが「デフォルト」になるか、格付け機関とEUECBが論争している。

しかし、金融デリバティブを駆使しても債務はなくならない。むしろ、ギリシャの成長と雇用を回復することに知恵を絞るべきだ。成長しなければ債務のGDP比率は低下しない。また、雇用が増えなければ、どのような再建計画も社会的に維持できない。

それゆえ、調整政策の「大きさ」よりも「質」を重視するべきだ。労働者の技術を高めること、既存のインフラを効率的に動かすこと(それゆえ、雇用は減る)、奢侈的な消費に増税し、雇用促進や低所得者の保護のために支出する。さまざまな増税や支出削減について、その成長に対する影響を評価する。なぜなら緊縮策は誘因を変化させ、その後の成長を刺激もしくは抑制するからだ。

ギリシャ議会が融資条件の緊縮策を承認したことに対して、EUは成長を支援する手段を追加する予定だ。追加の支援は、改革の進まない政府機関を経由せずに、市民組織や中小企業を直接に支援するのが良い。

また、長期の戦略的思考、成長モデルが必要だ。それはギリシャの地理や固有の資産から生じる。EUの高所得経済を支える製造業と同じものを、ギリシャが低賃金だけで実現するのは難しい。高度な観光サービスが成長の中核であろう。それを強化し、補完する形で、文化活動、北欧諸国の引退生活者が暮らす村、高度医療サービスに成長の可能性がある。ハイテク部門の世界的な配置にも、ギリシャの適合する隙間を見つけられるかもしれない。特に、風力や太陽光など、グリーン・エネルギーの成長が将来の可能性として重要だ。

ギリシャ債務の「微調整」、金融工学、格付け会社との論争に時間をかけるより、もっと成長戦略の短期・長期的要素を考察するべきだ。

SPIEGEL ONLINE 07/08/2011

Democratization Can't Save Europe

The Need for a Centralization of Power

An Essay by Herfried Münkler

債務危機の答えは「民主化」ではなく、周辺部からEUエリートへの権力集中である。

ヨーロッパのエリートたちがギリシャなど周辺部の財政危機を解決できないことから、ヨーロッパの民主化を求める声が強まるのは不思議ではない。ブラッセルやストラスブールのEU官僚・政治家たちはヨーロッパ市民の声を聞いていない。

しかし、ベルギーは、民主主義が自動的に問題の解決を意味せず、むしろ政治統一の破壊に向かうことも示している。有能なエリートが問題を解決するより、エスニック集団によって細分化された党派が統一した政府の形成を妨げているのだ。

ヨーロッパを一層民主化すれば、非常によく似た問題が生じるだろう。なぜなら民族的・経済的な問題が、ベルギーで問題になる以上に、さらに分散しているからだ。大幅な民主化は政治的なゲームを激化させ、ヨーロッパを解体させる。

民主化が好ましいとすれば、それはヨーロッパ人を作る過程であるときだ。これは原則として正しいが、現時点では存在しないような、社会経済的な、政治・文化的条件、を前提しなければならない。多くの間違いや無能さを示したけれど、ヨーロッパの統合を維持したのはエリートたちである。むしろエリートたちの能力を改善することが望ましい。

主要な問題は、経済的繁栄の輝きが失われる中で、ヨーロッパに遠心力が働いていることだ。加盟諸国間の社会経済、文化の違いが是正されず、各国の主権に固執させ、遠心力につながっている。しかし、これを求心力にも転換できるはずだ。つまり、ヨーロッパは集権化するか、あるいは、崩壊するしかない。

宗教的・文化的な理由から、ヨーロッパはギリシャや東欧(ブルガリア、ルーマニア)には拡大し、トルコの加盟を拒んだ。財政政策や金融政策の観点からは、逆の方が良かっただろう。エリートたちは正しい問題を議論したが、その答えにふさわしい変化を遂げなかった。ドルや、アメリカの国際的な特権に挑戦するため、ユーロを導入したことも同じである。

強制的な民主化と、政策失敗がもたらす様々な補償制度は、ヨーロッパを崩壊に向かわせる。現状では、民主化が反ヨーロッパの政治家に力を与えるだろう。より拡大した周辺部を正しく統治できるように、中央権力を強化する必要がある。現状では、周辺が政治課題や意思決定過程を支配している。

Project Syndicate 2011-07-08

Europe for Sale

Francois Godement

ヨーロッパを訪問した温家宝首相は、イギリスで、ハムレットのように悩むだろう。“To buy or not to buy?”

中国は毛沢東の戦略、「地方から都市を包囲する」、に従っているだけだ。ユーロ危機に動揺するヨーロッパの周辺部でバーゲン・セールを探し、他方、ヨーロッパ全体を支持することはない。

guardian.co.uk, Saturday 9 July 2011

Greece has woken up to debtocracy

Aris Chatzistefanou and Katerina Kitidi

大きな債務危機をエコノミストだけで解決することはできない。債務危機は、国家主権、民主主義、社会的平穏さを破壊する。要するに、EU加盟国を第三世界の国に変えてしまうのだ。

ギリシャの憲法を破り、デモ隊に催涙弾を使って治安部隊が襲いかかった。この債務による独裁政治(Debtocracy)を倒すために、日ごとに、反政府デモは増えている。

FT July 10, 2011

Don’t blame Moody’s for a messy euro crisis

By Wolfgang Münchau

FT July 10, 2011

EU stance shifts on Greece default

By Peter Spiegel in Brussels and Patrick Jenkins in London

債務の一部をなんかの形でデフォルトにする方法をヨーロッパの指導者たちが模索し始めた。ギリシャの債務負担を軽くするためだ。

Project Syndicate 2011-07-11

Europe Needs a Plan B

George Soros

EUは、Karl Popperが部分的な社会的エンジニアリングによって誕生した。ヨーロッパ合衆国を目指す長期的な視野を持った政治家たちが、限定された目標を示して、それを達成するための政治的意志を動員した。そして、条約が加盟国に求めるのも、それが政治的に負担できる主権を放棄することに限られていた。これこそが、石炭鉄鋼共同体からEUに至る、不完全ではあるが、次の一歩をもたらす、統合化の歩みであった。

EUを築いたのは第二次世界大戦、ソ連の脅威、より大きな統合の利益、といった記憶による政治的意志であった。その実現過程が、ソ連崩壊や東西ドイツ再統一を通じて、EU拡大やマーストリヒト条約(特にドイツのマルク放棄)をもたらした。

しかし、ユーロは不完全な通貨であった。中央銀行はあるが、中欧の財政当局はない。通貨制度はこの欠陥を十分に知っているが、危機が起これば政治的意志を結集させて次の段階に進む、と信じている。

しかし、そうならなかった。その理由は、通貨制度が知らないような他の欠陥が生じたからだ。すなわち、金融市場によって過度の融資は抑えられると誤解した。そしてルールは政府部門だけを扱っていた。その政府部門でさえ、主権国家による自己管理に頼り過ぎていた。

過剰融資は、経済の収斂を予想した金利水準の収斂として、民間部門が中心だった。弱小国家では住宅バブルが起き、他方、強大国家であるドイツは再統一後の金融引き締めを続けた。

しかし、リーマンブラザーズの倒産後、ユーロにも各国の財政破綻を回避するため債券を保証する制度がないことは明白になった。メルケル首相が、EU全体で債務を保証する制度はない、と主張したのだ。現在のユーロ危機の起源はここにある。

リスク・プレミアムが国によって乖離し始めた。ドイツの姿勢は180度転換し、統合の推進派から、「財政移転同盟」の反対派になった。ヨーロッパは成長する諸国と衰退する諸国の二つに分裂し(two-speed Europe)、ドイツは融資条件を支配するようになる。懲罰的な融資条件を主張し、ユーロ危機で安くなったユーロがドイツの輸出をさらに増やした。

ヨーロッパの政治エリートたちも、統合の深化より現状維持を求めた。それは結局、現状維持を望ましくない者、受け入れがたいもの、持続できないものにして、反EU勢力を強めた。

しかし、現状維持を求めるエリートたちは間違っている。二つのヨーロッパは加盟国の対立と分裂を刺激する。ギリシャは無秩序なデフォルトに向かっており、計り知れない損失をもたらす。

ギリシャを秩序あるデフォルトとして処理し、その波及を最小限に抑えるべきだ。ユーロ・ボンドを発行し、ユーロ圏全体の預金保険制度を導入して、ユーロ圏を強化すればよい。これに必要な政治的意志は、ヨーロッパの多数派(エリートではなく、silent majority)に存在している。

真のヨーロッパ人は、「真のフィンランド人」(右派政党)やドイツの「反ヨーロッパ勢力」よりも多い。

guardian.co.uk, Tuesday 12 July 2011

As Italy wobbles, Europe needs a bold new debt-crisis strategy

Andrew Watt for Social Europe Journal, part of the Guardian Comment Network

イタリアの債券と株式が下落し、その影響はドイツの債券にも及んだ。以前から投機対象と見なされていたイタリア債券が、いよいよ第4の標的になってしまった。最初の三つ、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルは、合わせてもEU経済の6%でしかない。しかし、イタリアは16%もある。

周辺部への過剰融資を行った銀行に対する公的資金の利用を有権者が嫌うことについて、政治家たちは処理を遅らせてきた。その結果、ユーロ圏が内部から破綻する恐れが生じている。債券投資家はリスクを嫌う。もし国債の一部デフォルトが生じた場合、銀行危機が発生する。

それゆえ、民間部門(銀行)のコスト分担は止めることだ。そして、債務と救済融資のすべてについてEU全体が保証する。こうして損失の可能性を排除すれば、スプレッドは直ちに解消する。いったん、パニックを回避してから、財政再建や成長のための投資計画を相談すればよい。

guardian.co.uk, Tuesday 12 July 2011

Italy and the eurozone: Welcome to the inferno

イタリアは第二次世界大戦以来、巨額の債務を抱えてきた。しかし、最近のギリシャ危機がヨーロッパの政策エリートたちに解決できないことを知って、投資家たちはイタリアも危ないと思い始めたのだ。

FT July 12, 2011

Eurozone policymakers must grasp the nettle

By John Plender

FT July 12, 2011

Eurozone wildfire reaches Rome

スペインを飛び越してイタリアに向かった債券市場の危機は、ヨーロッパの政治エリートたちが持っていた自負心を切り裂いたでしょう。

イタリアの危機は、単に外から波及したのではなく、イタリア政府の機能マヒやベルルスコーニ首相の個人的なビジネスの利益が問題になっています。周辺の財政危機に共通しているように、イタリアも低金利を赤字拡大に利用したわけです。

ドイツの有権者を政治家は説得していないが、イタリアの危機も債務をすべてEUが保証しなければならない。

SPIEGEL ONLINE 07/12/2011

Debt Crisis Hits Italy

Berlusconi's Last Stand

By Michael Braun in Rome

政府には舵がなく、経済は停滞し、ベルルスコーニ首相はスキャンダルにまみれている。イタリアは危機に慣れている。しかし、財務大臣の緊縮策を非難するベルルスコーニが、問題を悪化させるだろう。

FT July 13, 2011

To escape crisis Italy needs an economic overhaul

Mario Monti

イタリアに危機が波及したのは驚きである。イタリアは、近年、ギリシャと違って財政赤字を抑制していた。イタリアは、アイルランドの銀行と違って、危機から強い影響を銀行が受けなかった。イタリアは、スペインと違って、建設部門や民間債務が膨張しなかった。

二つの要因が危機の波及をもたらした。1.ギリシャ危機の扱いに失敗した(アテネより、ブラッセルが)。2.ローマの政治喜劇。

むしろ、イタリアのGiorgio Napolitano財務相は素早い、まとまりある対応を示した。しかし、議会ではそれが「政治的陰謀」のように攻撃された。さらに、ベルルスコーニの元で3つの内閣の財務大臣を務めたNapolitanoの哲学が疑われている。

コーポラティズムと競争妨害の伝統により、イタリアの成長は回復しない。だから、危機は去りそうにないのだ。

この論説に応じたFerdinando Giuglianoも、構造調整と競争力政策を問います。

SPIEGEL ONLINE 07/13/2011

German Banking Expert on Euro Crisis

'Punishing Italy Is a Rational Thing to Do'

Hans-Peter Burghofへのインタビューです。投機的な行き過ぎを批判します。ベルルスコーニがGiulio Tremonti蔵相を批判したことで、市場が過剰に反応したようです。しかし、市場(に参加する投資家たち)が政治家たちに現実を教えているのだから、イタリア政府は財政赤字を減らすべきだ、と主張します。

WSJ JULY 13, 2011

How to Save the Euro

ECBがギリシャの債務組換に反対した。これはナンセンスだ。ECBはすべての政府債券が保証されていることを願っている。しかし、これを行う制度は欠けており、できない。だからECBが事後的な救済融資を行っている。

財源を共有して、正規の「財政移転同盟」、すなわちヨーロッパ連邦財政を認めるか、あるいは、ギリシャなどの赤字国を現状のままユーロ圏にとどめ、財政や金融の規律を強いるけれど、同時に、返済できるように(銀行を監督できなかった)ドイツやフランスが損失を引き受けるか。

どちらが政治的に受け入れられるか、によるだろう。

Project Syndicate 2011-07-13

General Marshall on the Aegean

Barry Eichengreen

失業率は16%で上昇しており、支出を削った後でも予算赤字はGDP10%を超えており、住民は税金を支払わず、土地の所有権は混乱している。銀行への信用はなく、政府やその政策はもっと信用されていない。

もっと別の政策が必要だ。EUがギリシャに対するマーシャル・プランを実施せよ。

これ以上、融資を重ねても返済されない債権を得るだけだ。むしろEUはら年度の援助計画を考えるときだ。それは、太陽光や風力による発電施設の建設、東地中海の商業的中継ぎ港の建設、専門家による土地所有権の整理、徴税システムの改革が含まれるだろう。

この計画のためには、ギリシャの苦境に対するEUの責任をもっと認める必要がある。EUはギリシャの構造問題を知りながらそのEU参加を認め、ギリシャの財政について誤りがあると知りながらユーロの採用を認め、ギリシャ政府の財政赤字が膨張しているのを知りながらフランスやドイツの銀行が債券を購入するのを許していた。

第二に、現在の救済融資は問題の解決にならない。一国が即座になせる改革には限界があり、ギリシャは多くの苦痛を受けて政治システムへの信頼を失ってしまった。

最後に、歴史は、マーシャル・プランが成功したことを示している。第二次世界大戦後のヨーロッパ諸国を思い出すべきだ。莫大な債務、深刻な財政赤字、輸出はほとんどなく、所有権は不確実だった。こうした問題に取り組む政府に対する支持は極端に脆いものだった。

マーシャル・プランは輸出を増やすうえで重要な者に与えられる、戦略的な投資であった。たとえば、援助によって建設されたロッテルダム港は北欧のハブになった。アメリカは石炭の輸入や水力発電への投資を保証した。また、フランスのように、公的債務の一部を償却した。

重要なことは、これらの計画が援助国によって決定されたものではなく、受け手によって選択されたものでもなく、協力を促す形で決められたことだ。すべての援助計画に協力国が求められた。また、政府はマクロ経済の安定化に従う必要があり、援助計画は安定化の苦痛を減らし、改革を進める中央政府への支持を強めた。

政府の信頼を強めたことこそ、マーシャル・プランの最大の貢献であった。

エコノミストたちはこれを疑う。もしギリシャが支援を受けるなら、同じような条件を得なければ改革しないだろう、と。しかし、ギリシャの苦痛をまねる国はないし、モラル・ハザードよりも、メルトダウン・リスクが重要だ。ギリシャの経済、社会、政治システムが崩壊するリスクを無視してはいけない。

ヨーロッパは、60年前にアメリカがやったことを思い出すべきだ。

guardian.co.uk, Thursday 14 July 2011

Europe's austerity mantra could lead to disaster

Larry Elliott

ユーロ債に転換するかどうか? これが重要な政治的選択となる。ドイツやオランダは、財政赤字の国と同じ債券を受け取ることを拒むだろう。この点を回避するアイデアがStuart Hollandによって示されている。ユーロ債の金利を政府間で決めて、それは市場において売買しないことにする。新しい救済融資はユーロ債を発行して行う。

SPIEGEL ONLINE 07/14/2011

Debt Quicksand

Europe Fights the Growing Currency Crisis

By Carlo Angerer, David Böcking and Yasmin El-Sharif

How did the crisis start? から始まって、基本的な質問に答えています。


l         中国の軍事力

(chinadaily.com.cn) 2011-07-07

US should avoid war with China

これは、アメリカ海軍のMatthew Harper司令官が語ったことです。米中の貿易・金融取引はそれほど緊密で重要であるから。中国の軍備近代化によって、軍事的脅威を誇張してはならない。戦争が始まれば、アメリカ中の商店の棚が空になり、株価や金融指標が大きく悪化する。それゆえ、どのような軍事衝突も避けなければならない。

WSJ JULY 9, 2011

China vs. America: Which Is the Developing Country?

By ROBERT J. HERBOLD

どちらが発展途上国かわからない。中国経済の成長やインフラ投資の規模はアメリカを大きく超えるだろう。なぜアメリカも学ばないのか?  Wake up, America!

FP JULY 11, 2011

The South China Sea's Georgia Scenario

BY LYLE GOLDSTEIN

南シナ海における領土紛争(the Spratly Island)が激化している。特に、中国とベトナムとの関係は、1990年以来、好転してきたが、海底資源をふくむ領土紛争が起きて一気に悪化した。この問題をめぐって、中国とアメリカの発言も過熱し、互いに軍事的な介入を示唆している。アジア太平洋地域の安全保障が危機の瀬戸際に立つ状況だ。

これまで、領土紛争は2002年の中国政府とASEANとが合意した「行動規準"code of conduct"」によって平和的に処理する、とされてきた。中国は、自由貿易協定など、ASEANに対する経済利益を示すことで外向的な優位を形成する戦略を採ってきた。

しかし、原子力潜水艦の建造など、軍備の近代化、海南島の軍事施設拡大、その他、南シナ海をめぐる関係諸国は警戒を強める事態となっていた。米艦や偵察機を含めて、地域の他国の漁船を、中国の主張する領海において、中国が検査する(退去を求める)ことは何度も紛争になっている。

中国が南シナ海の全域を中国のものだと主張したことで、ベトナムなど、近隣諸国の海底資源探査は妨害された。2009年、ベトナム政府がロシアから6隻の潜水艦を購入し、軍備拡大競争が激しくなった。2010年、ハノイにおけるASEAN地域フォーラムで、アメリカのクリントン国務長官が、南シナ海の自由航行はアメリカの国益だ、と明確にした。武力行使を警告したアメリカに対して、中国外務省は激怒した。その後、ベトナム政府はアメリカ空母の寄港を認め、中国を牽制するため、アメリカとの関係を強化している。中国は南シナ海で大規模な軍事演習を行った。

フィリピンやベトナムが中国との領海紛争を繰り返すのに対して、アメリカ政府は「自由航行」を強調している。これは、世界最大の海上輸送量を輸出のために必要としている中国にとって、否定するはずのない主張だ。アメリカが中国沿岸で行っている偵察飛行は、米中関係を悪化させる要因であり、中国の軍事情報に透明性を高めるという条件を結び付ければ止めるほうが良い。

アメリカ海軍が太平洋で4隻の空母を動かしていることを思えば、中国が弾道ミサイルを搭載した潜水艦や最初の原子力空母を就航させるのは、この不均衡(中国の弱さ)を解消するためだ。他方、中国北部については、日米の海軍力が北東アジアにおける高度な攻撃能力を確保しているのだから。

こうした背景において、南シナ海における中国、ベトナム、台湾、などの行動を理解するべきだ。中国の「攻撃的」な主張は、地域の現状と歴史的経過に対して、その回復を求めている。軍事力によってではなく、平和的な論争と哨戒活動で、領域の秩序を再建しようとしている。

東南アジアの問題はグローバルな勢力均衡に何の影響もないだろう。貧しい小国の集まりで、ベトナム、インドネシア、オーストラリア、という中規模国家が連携しても、それが重要な軍事的影響を持つわけではない。中国とベトナムが南の小島を争うことに、彼らやアメリカが軍事的に関与する理由はないのだ。日本や韓国の経済規模はもっと大きいが、彼らの軍事力は別の目的に使えないだろう。

中国は、2008年、グルジアの教訓を強く意識している。アメリカはグルジアという新しい同盟国に強い関心を寄せ、軍事顧問を送った。しかし、ロシアが戦車を越境させ、グルジアの大きな地域をロシア領土に追加し、トビリシの軍隊を破壊したとき、アメリカは不平を述べるだけで何もしなかった。周辺的な戦略的利害に対して、ロシアとの衝突を避けたのだ。中国は南シナ海を同じ様に考えている。

つまり、アメリカ政府は東南アジア諸国を支援して、その攻撃的な姿勢を刺激しないことだ。不介入を維持し、資源問題は国際的なルールに委ねる。実際、中国も軍事的な解決を求めていない。対話を重視し、東南アジア諸国との関係でも、テロや海賊の取り締まりに米中が協力する。この地域が大国間のグローバルな対立の焦点となり、戦場となることを望む国はない。

アメリカは確かに棍棒を持っていなければならないが、柔軟かつ実際的な形で、「ソフトに話す」外交を目指すべきだ。

FT July 12, 2011

China is looking to its dynastic past to shape its future

Francis Fukuyama

毛沢東の文化大革命を経験した中国人たちは「中国の春」を望まない。共産党指導部が後退する制度や、集団的な意志決定方式は、新しい毛沢東が現れるのを恐れて作られたものだ。しかし、西側のイデオロギーや市場の影響、国内の貧富の格差は、共産党に新しいイデオロギーを求めさせる。

ネオ・マルクス主義と、ネオ儒教とが、西側の自由民主主義を拒みながら、中国の秩序を維持する代案として注目されている。前者は、過去の革命を知らない若者たちによって。後者は、自由民主主義を受け入れる条件であるが、おそらくはナショナリズムと強力な法律による統一国家の正統性を高めるために。

WSJ JULY 14, 2011

The Trust Gap in U.S.-China Relations

By MICHAEL AUSLIN

台湾、南シナ海で、米中は紛争に関与している。中国とアメリカは、アジアにおいて、さらに世界において、影響力を競っているからだ。これは避けられない。アメリカは中国の行動が地域を不安定化することに注意を向けねばならないし、軍事力の優位を維持しなければならない。それと同時に、互いの誤解から軍事衝突を招かないように、その危険がある問題について話し合っておくべきだ。

最善の道は、中国が責任あるグローバル・パートナーとなるような、バランスのとれた機能する関係を見出すことだ。

 (China Daily) 2011-07-14

A good omen for Sino-US relations

中国から見れば、これは中国の台頭を受け入れようとしないアメリカ中心の国際秩序に問題がある、ということだ。

米中関係は、多くの重要なグローバル問題(テロ、核拡散防止、ミサイル技術、安保理、海賊、人道援助、麻薬対策、など)で戦略的なパートナーとなっている。アメリカは、相互の信頼を損なうべきではなく、それを忘れてはならない。

Project Syndicate 2011-07-14

Building Pax Asia-Pacifica

Fidel V. Ramos

アジア太平洋においても、第二次世界大戦後にヨーロッパが形成したような、制度的な地域協力関係を築くべきである。パックス・アメリカーナに代わる、より包括的な、Pax Asia-Pacificaを実現することで、南シナ海の紛争を解決しよう。


l         行動科学

NYT July 7, 2011

The Unexamined Society

By DAVID BROOKS

人の心理・認識は社会によって創られる。経済学はそう考えていないけれど。政策によって、貧困を減らすとか、ホームレスを減らすとか、就学率を高めるとか、さまざまな目的を掲げる。しかし、政策に応じて行動を変える人は意外に少ない。

今や、行動調査の黄金時代である。興味深い例がある。多くの国で、臓器の移植を認めるカードに記入が求められている。免許証を更新するときに、記入する機会がある。ドイツやアメリカでは、移植を認める人は14%ほどだ。しかし、行動科学者がその意味について調査した。ポーランドやフランスでは、移植を認めない者がチェックする形になっている。その結果、90%以上の人が臓器の移植を認めているのだ。

これほど小さな変化で、これほど重要な違いをもたらすことは行動科学の重要性を示すものだ。しかし、二人の研究者(Shafir and Mullainathan)は財政赤字削減の影響で研究資金を失った。

彼らは、希少性が認識をどう変えるか、を研究している。貧しい人は、裕福な人が知らないような、非常に多くのことに選択を迫られている。使えるお金が少ないからだ。

人間の脳が処理する力は限られているから、多くの問題に関わる貧しい人は他の問題を見なくなる。たとえばインドの農民は、収穫後の懐が豊かなときに行うテストと、収穫前の忙しい時期に行うテストによって、そのIQ判定に大きな差が生じる。忙しい農民は近視眼的で、その心理が変形されている。

今や、財源不足の時代である。Shafir and Mullainathanのような行動調査が必要な問題は多くあるだろう。こうした研究に資金を与えないのは、クリストファー・コロンブスが新世界への航路を発見する試みに資金を与えないのと同じ過ちを犯すことだ。


l         アメリカの債務危機

NYT July 7, 2011

What Obama Wants

By PAUL KRUGMAN

オバマ大統領はすっかり右派の共和党員と同じ考えに変わったようだ。多くの進歩的な人々や民主党員はそう感じている。

“Government has to start living within its means, just like families do. We have to cut the spending we can’t afford so we can put the economy on sounder footing, and give our businesses the confidence they need to grow and create jobs.”

オバマは保守派に典型的な間違いを断った二つのセンテンスで三つも述べている。1.政府は、家族と同じように、財政を均衡させるべきだ。2.今すぐに支出を減らすことで経済が健全化できる。3.政府の政策を信頼しないから投資が減っている。

すべて間違いだ。1.政府は不況のときに財政赤字を出すべきだ。2.今、政府が支出を削れば成長は止まり、失業が増える。3.企業は製品が売れないから投資できないのだ。

オバマはフーバー的な財政均衡による景気回復を唱えている。オバマの経済顧問には、まともなエコノミストが辞めてしまった後、誰も空席を埋めていない。再選を目指すオバマは、1994年のビル・クリントンのような、保守派との「トライアンギュレーション」を模索しているのだろう。

FT July 8, 2011

A new budget plan for America

FT July 8, 2011

America’s budget talks are entering their ‘Greek’ phase

Christopher Caldwell

WP July 9, 2011

The golden rule of fiscal discipline

By James Grant

アメリカの財政赤字を止める良い方法がある。アメリカのクレジット・カードを止めて、デビット・カードに変えることだ。

アメリカはスーパー・プレミアム・プラチナ・クレジット・カードを持っている。支払上限なし、手数料なし、低金利で、ほしいものは何でも買うことができた。金融理論では、「準備通貨」である、ということだ。世界中の国がドルの支払いを受け取った。アメリカは印刷すればよいのだ。ドルが貨幣の王様で、以前はポンドがそうだった。

かつてドルは金に交換されていた。ハミルトンからニクソンまで、南北戦争の時代を除いて、アメリカの貨幣は一定量の貴金属で価値を示した。その後、それは必要ない、ということになって、連銀が印刷するだけになった。金を掘らなくても、アメリカが外国から多くのものを買えば(過去39年中の、2年を除いて)、その支払としてドルが供給された。

ドルはアジアの債権者に送られたが、債権者はそれをアメリカの財務省証券に投資した。貨幣は外に出ず、誰が持っているか心配することもなかった。金本位制で赤字の国は、クレジット・カードではなく、デビット・カードを使う人のように、ただちに金で支払った。金の流出はその他の調整と競争力の回復を強いた。

アメリカはクレジット・カードで豊かになることはない。しかし、外国のドル保有は、その制約を緩和した。われわれのドル紙幣供給というクレジット・カードは、連邦財政や中国の外貨準備として膨張していった。しかし、中国人民銀行の顧問は、それを「火遊び」と呼んだ。

民主党の歳入強化も、共和党の支出削減も、問題を直視していない。外国がドルを保有しなくなれば、財政赤字は減らすしかなくなる。

YT July 9, 2011

Gen. Tso’s Default Chicken

By DAVID E. SANGER

Project Syndicate 2011-07-11

Learning from Crises

Harold James

我々は、なかなか歴史から学ぼうとしない。危機についての多くの分析がある割に、問題を解決する試みは少ない。

不安定化には5つの主要な原因があった。1.危機はアメリカ不動産市場の暴落から起きた。アメリカ政府は住宅価格を上昇させるさまざまな政策・制度を採用していた。2.間違った誘因があったことで、金融機関は過度のリスクを取った。たとえば、個人として銀行家は融資を増やすことで利益を得たが、その失敗は彼らのコストではなかった。3.グローバル・インバランスが安価な融資を増やした。4.特にアメリカの中央銀行が過度の金融緩和を続けた。5.危機に対して金融機関を財政的に救済し、それが財政悪化をもたらし、それによって金融機関の資産を悪化させた。

こうした問題は、どれも解決されていない。巨大銀行は重要性を増し、主要国は低金利を続け、新興諸国は「通貨戦争」を非難し、財政赤字を解決できず、それが政治麻痺をもたらしている。

歴史的に見れば、大恐慌の後もそうであったから、驚くことではない。通商政策では保護主義を回避できた。今は財政赤字を抑制する経済改革と政治過程を、どうやって支持できるか、が問題だ。

FT July 10, 2011

Obama’s failed debt ceiling gamble

By Clive Crook

景気回復が足踏みする中で、オバマ大統領は大きな賭けに出た。議会の共和党指導者John Boehnerに対して、4兆ドルの「大きな取引」を示したのだ。それは失敗に終わったが、オバマの真意は分からない。

大統領の指導力は、あまりにも遅く、あまりにも弱い。

NYT July 12, 2011

A Pathway Out of the Debt Crisis

WP July 10, 2011

Want to avoid another Depression? Try understanding the first one.

By Robert S. McElvaine

アメリカ議会共和党とオバマ大統領が大幅な政府支出の削減に合意すれば、それは現代の大恐慌をもたらす1937年の崩壊を再現することになる。

「危険な経済状態、政府の支出削減、さらに多くの富・所得の集中、効果的な規制の阻止、これらは破滅への処方箋だ。」

保守派はあまりにも危険な信念に依拠している。彼らの信仰は、市場、と呼ばれる。自分たちの信仰に反する現実を見ない点で、マルクス主義Marxismに似ている。だからマーケッティズムMarketismと呼ぶ。市場は常に正しい。市場介入はすべて罪深い。

ニュー・ディールは失敗した、と言うが、それは保守派の反対で刺激策が不十分であったからだ。第二次世界大戦をもたらした、というが、それによって支出が十分に行えるようになって不況は漸く終わったのだ。アメリカは同じ間違いを繰り返しつつある。

FT July 12, 2011

Time is of the essence, any US budget deal will do

By Lawrence Summers

メディアも共和党も間違っている。今、政府支出を削っても、その効果が表れるまでに時間がかかる。しかも、財政赤字の削減は、投資や雇用、消費者の選択を介して実現しなければならない。あまりにも短絡的な議論を広めることによって、財政破綻に向かう愚かさをワシントンの政治家たちは知るべきだ。

FT July 12, 2011

From Italy to the US, utopia vs reality

By Martin Wolf

「たとえ世界が滅んでも、正しいことをなすべきだ。」Fiat justitia, et pereat mundus – let right be done even if the world perishes

アメリカでは、もし連邦政府の債務の上限を引き上げなければ、来月の初めにも資金が枯渇する。政府部門のデフォルトが望ましいと信じている者は、ヨーロッパにはアメリカより少ない。しかし、デフォルトよりもっと悪いことがある、という考えを、重要なヨーロッパ人が共和党員と共有している。ヨーロッパ人は「財政移転同盟」を非難し、強情な共和党員は増税を許さない。

財政破綻は、民間および政府部門がこの数十年間で盛大に飲み食いしたことの遺産である。クレジット・バブルの余波として、これが信用圧縮の苦痛をともなう初期の症状だ。もし歴史を参考にして良いなら、世界最大の経済のいくつかで、いくつかの部門が多年にわたって債務を削減するだろう。それはGDP成長を押し下げて、至る所に不満をもたらす。

イージー・クレジットは政府部門の債務を増やし(ギリシャのように)、債務削減から注意をそらした(イタリアのように)。民間部門のクレジット・ブームが突如として終わると、政府の歳入は急減し、歳出が増えた(アメリカ、イギリス、スペイン、アイルランド)。

財政赤字は、救済融資の結果ではなく、むしろ経済活動と税収の減少によるものだった。しかし、財政のひっ迫は銀行部門を損なった。なぜなら銀行は多くの公的債券を保有したし、財政支援に依存できなくなったからだ。共和党のタカ派や、ヨーロッパにおけるドイツやオランダのタカ派のように、金融危機を財政赤字の唯一の原因とするのは間違いだ。イージー・クレジットが財政破綻に終わったのだ。

2011年の財政赤字は、2008年の予測では、わずか540億ドル(GDP0.3%)だったが、2012年の予算は、16450億ドル(GDP10.9%)の赤字を予測している。赤字の58%は税収の減少であり、42%が支出の増大である。どちらも金融危機の結果であるが、財政刺激策はそれほど大きくない(GDP6%)。驚くべきは、歳入がGDPのわずか14.4%でしかなく、2011年の個人所得税はGDPのわずか6.3%と予測されていることだ。赤字を減らすには増税する必要がある(しかも、それはできるだろう)。

アメリカは財政再建を急ぐ必要はない。民間部門が債務を減らしている(deleveraging)なかでは、財政赤字を出すほうが良い。その条件も、10年で3%という、無難な水準だ。議会が承認した支出計画を実行するのに、政府が資金調達するのを許さないという決定は、異常であろう。

ところが、驚くべきことに、多くの共和党員は政府の債務上限額引き上げに反対している。それどころか、彼らは熱狂的に、政府のデフォルトを望んでいるのだ。それが経済や社会にどれほど破壊的であるかを知らないか、その結果をまるで考えていない、ユートピア的な革命派であるか、どちらかであろう。他方、ヨーロッパでは幸いに、デフォルトが良いなどと誰も信じていない。しかし、ヨーロッパは別の、彼ら独自のユートピア的な計画、単一通貨に囚われている。ティー・パーティが彼らにとって無価値なことに税金を支払わないというように、支払能力のあるヨーロッパ人は彼らが無責任と見なす者に財政移転をすることを拒んでいる。

もし通貨同盟がなければ、もっと早く通貨危機が起きていたはずだ。それが今は、こうした長期にわたる財政・金融危機として苦悩をもたらしている。低成長の経済が過大評価された通貨を持つことは、ドイツとの金利差を危険な水準まで拡大している。それは債務を支払不能にする。世界第4位の債務規模を持つイタリアがそうなれば、規模が大き過ぎて救済できない。イタリア人は、財政赤字を減らしながら、成長を高めるような手段を持っているだろうか?

双方は危険な時期にある。アメリカは世界史上最大の、しかも、最もその必要がない、デフォルトに近付いている。ヨーロッパは財政と金融の同時危機にあり、それは重要な国の財政破綻、ユーロ圏の崩壊、最悪の場合、EU統合の破壊にまで及びかねない。アメリカにおける右派のユートピアは、1930年代から第二次世界大戦の間に出現した国家を破壊しようとする。ヨーロッパでは、政治家たちが人々の感じていないほど大きな連帯を引き出して、そのユートピア的計画の遺産を管理しようとする。

ユートピアと現実のどちらが勝つのか?

LAT July 13, 2011

For sale: U.S. infrastructure?

By Lisa Schweitzer

WP July 13, 2011

Debt talks reveal the Republicans’ apocalyptic war on government

By Harold Meyerson

FT July 14, 2011

America has no choice but to enter its own age of austerity

Mort Zuckerman

増税を受け入れない共和党員たちに、医療保険制度改革を進める民主党員たち。しかし、財政赤字を減らすしかない時代がきた。

「アメリカの連邦準備銀行が新しく発行される財務省証券の70%を購入している。政府が自分の債務の最大の保有者になっているのだ。通貨供給を増やすことで、連銀の資産の追加として、それができるのは今だけだ。遅かれ早かれ、そのようなやり方を続ければ破綻する。」

Carmen Reinhart and Kenneth Rogoffは、債務のGDP比が90%を超えると経済成長を損ない始める、と注意した。アメリカはその水準に達している。

財政赤字を減らすために当選した共和党員たちが要る。小さな政府の理想を繰り返すだけの者もいる。共和党員はオバマ政権の財政赤字を批判した。オバマの最初の反応は、冷酷な共和党員と富裕層を攻撃して、党派を分断するものだった。それは、合理的な超党派的解決を難しくした。双方が相手の主張を損ない、妥協できなくした。

あなたがこの論説を読む数分間で、アメリカの赤字は600億ドル以上増えた。

FT July 14, 2011

Trying to escape US debt paralysis

BLOOMBERG Jul 14, 2011

Reinhart, Rogoff: Debt Endangers Growth

By Carmen M. Reinhart and Kenneth S. Rogoff

アメリカ、日本、イギリスのように、債務のGDP比率が90%を超えると成長が低下する。ギリシャのような危機は起きていないが。

金利を抑制していた時代には、インフレによって解決した。今はできないだろう。債務を減らすためには成長を実現するしかない。それゆえ、債務が大き過ぎて成長を損なうまでになれば、問題を解決できなくなる。債務累積は、日本のような低金利でも成長を損なった。

Project Syndicate 2011-07-14

Adapt or Die

Michael Spence

新興市場の成長は急激な構造変化をもたらす。成長する経済の犯す誤りとは、成功した成長戦略を長く維持し過ぎることだ。先進経済の場合、弾力性や適応力を失うことが多い。


YaleGlobal, 12 July 2011

Water Challenges Asia’s Rising Powers – Part I

Keith Schneider

成長にともなう中国の水問題について。水不足、エネルギー不足、食糧不足は、すべて水の供給を求める。「この先10年の中国の水消費は、石炭を利用する火力発電所の増加によって進むだろう。それは年間6700億立方メートルに達し、今よりも710億立方メートル多い。」 他方で、中国は乾燥が進んでいる。水資源は世紀初めより13%減少した。農耕地は乾燥した北で増大しており、灌漑に頼っている。


l         リビア介入

BLOOMBERG Jul 8, 2011

Blame U.S. Policy for Libya’s Muddle

By John Bolton

FP Monday, July 11, 2011

Whatever happened to the war in Libya?

Posted By Stephen M. Walt

新聞のトップページを飾っていたリビア空爆はどうなったのか? 人道主義的な武力介入? 「アラブの春」? オバマの戦争大権?

短期の、安上がりの戦争、という期待は、とっくに失われた。しかし、結果的にカダフィが権力を失えば、人道主義介入のタカ派は歓喜するだろう。そして、彼らの誤算や長期的な結末を忘れてしまう。

考えておくべきことは三つ。

1.カダフィの軍隊が民衆を殺害することを防ぐべきだ、と主張された。しかし、もしカダフィが流血によって権力を維持したら、他国の独裁者たちはそれをまねるだろう。逆の意味で、「アラブの春」の弾圧が伝染する。・・・こうした考察は間違っている。「アラブの春」もその弾圧も、単純に伝染することはない。政治変動の結果は地域の政治情勢、国際関係に依存する。

2.1999年のコソボ空爆と比較された。NATOによる空爆は短期に勝利をもたらすはずだった。しかし、コソボでもリビアでも、政府は権力を維持した。・・・しかも、コソボには10年経っても平和維持軍を駐留させている。人口規模も面積も、リビアの数分の一しかない。リビアでもカダフィは政権を失うだろうが、分裂国家に長期の駐留を続けることは非常に困難だ。

3.二つの戦争"wars of necessity" and "wars of choice"は区別される。前者は「国家の生存」に関わる。しかし、もう一つの戦争があると分かった。それは、"wars of whim" だ。戦争を行える大国が、思いつきで、重大な戦略的利益と関係なく、事前に慎重な準備をすることなく、長期的な結果を十分に考えないまま、軍事力を行使する。そして、その後の戦略的な利益を制約したり、大国自身のもっと重要な課題(経済再建)から注意を奪ったりする。

もしリビアに注意が向いていないとしたら、それこそが重要ではないか?


FP JULY 8, 2011

Free At Last

BY MAGGIE FICK

WP July 10, 2011

Independence day for South Sudan

By Hillary Clinton

アフリカの54番目の国家、南スーダンが独立したことを、クリントン国務長官が祝福しています。74日に、アメリカが235回目の独立を祝ったように。

FP JULY 13, 2011

Redrawing the Map

BY JOSHUA E. KEATING

それは、世界で193番目の国家です。それは世界中に「民族自決」の波が及んでいることを示します。Parag Khannaは、この数十年で、国家の数は300に達するだろう、と考えます。しかし、国家は容易に増えないだろう。

人類史の数世紀を振り返れば、帝国の成立と崩壊によって国家が増減したけれど、1700年以来、ヨーロッパの国家は減少し続けてきた。現在のヨーロッパは、確かに通貨政策や移民政策で対立しているが、その国境は確立され、安定している。

ヨーロッパやアフリカにおける対立は将来もあるだろうが、多くの国家が独立することはないだろう。何より、領土を分割することは流血なしに行えないから。


(China Daily European Weekly) 2011-07-08

Yuan influence should cross borders

By Zhang Ming

他方、国家は独立を維持したまま、通貨の利用が広まって行く。国際的な貿易と投資で、ドルではなく、人民元の利用が増えることは中国の利益になる。中国はそのための政策を採った。金融危機を経て、その変化は明確になった。

為替レートの変動に対して、人民元を利用する企業の業績が改善する。中国の金融市場を拡大し効率化して、金融機関の競争力も高める。ドル建の外貨準備で、ドル安やインフレによる損失を強いられることもない。内外の政策に、より大きな自由を得られる。アメリカの債務累積が混乱をもたらすリスクがある。

所得の再分配を生じる政策は、既得権を失う者が反対するだろう。しかし、人民元の国際化はいかなる利益集団も損なわない。

(peopledaily.com.cn) 2011-07-12

Local governments' debt risk is controllable

(chinadaily.com.cn) 2011-07-13

A world of three reserve currencies

Paul Kennedyの論説を紹介しています。


l         マードック

The Observer, Sunday 10 July 2011

Murdoch's malign influence must die with the News of the World

WP July 11, 2011

Just another British tabloid scandal

By Anne Applebaum

イギリスの作家George Orwellは、1946年のエッセー(“Decline of the English Murder”)でNews of the Worldの失墜を予想していた。センセーショナリズムを追求して、殺害された少女、離婚しそうな有名人、悲しむ両親のtelephone voice-mail accountsを盗聴した。

しかし実際は、イギリスにおいて、こんなことは何も新しいことではない。技術とその実際のやり方が変わっただけだ。警察官を買収し、個人情報を得るためにペテンにかけ、有名人、政治家、暴力の犠牲者たちを追跡した。これが余りにも昔からある、イギリス、タブロイド紙の世界である。

そして今まで、誰もそのことに驚かなかった。1990年代の初めに、ダイアナ妃の交際が暴露され、激しく追跡された。私的な電話の内容が公表され、報酬を餌に非合法な録音が行われた。今回のスキャンダルと何も変わらない。

つまり、こういうことだ。「イギリスの新聞は、スキャンダルの記事のために警察を買収する。なぜなら新聞の読者たちは、そのようなスキャンダルを強く求めているから。特に、大金持ちや尊敬される地位にある人々が転落するようなスキャンダルだ。」

マードックもそうだ。

guardian.co.uk, Wednesday 13 July 2011

Phone hacking scandal: Britain should seize this chance to break the culture of fear at its heart

Timothy Garton Ash

これは、イギリスのジャーナリズムが病気になっていることを示す心臓まひである。この病気の原因は、イギリスの新聞が余りにも協力で、無慈悲で、制御できない権力を握ってしまったことだ。

この力の正しい使い方を学ぶ機会になるかもしれない。

FT July 13, 2011

Murdoch, like Napoleon, is a great bad man

By Conrad Black

FT July 13, 2011

News Corp is all about the family

By John Gapper


NYT July 10, 2011

How Seawater Can Power the World

By STEWART C. PRAGER

NYT July 11, 2011

Chernobyl’s Lingering Scars

By JOE NOCERA

SPIEGEL ONLINE 07/13/2011 02:25 PM

Phase-Out Hurdle

Germany Could Restart Nuclear Plant to Plug Energy Gap


WSJ JULY 11, 2011

The Necessity of U.S. Naval Power

By GORDON ENGLAND, JAMES L. JONES, AND VERN CLARK

国際政治は、合意された国家主権を尊重するだろう。今後、長期にわたって、地上軍による大規模介入を行うことは限られている。むしろ国外・海上の拠点から抑止を行い、国益を守ることになる。その場合、アメリカの海軍力は同盟国を守り、平和時に繁栄を促すための、第一の重要性を帯びる。

海上における行動には大きな自由がある。


LAT July 11, 2011

Hope for humane conditions for egg-laying hens

Project Syndicate 2011-07-13

Moral Progress and Animal Welfare

Peter Singer


l         雇用問題

FP Monday, July 11, 2011

Where the jobs went

Posted By Clyde Prestowitz

クルーグマンやタイソンが雇用を増やすために追加の刺激策を主張しているが、それだけでは雇用は増えないだろう。アメリカ経済は、この30年間の貿易赤字、ドット・コム・バブル、不動産バブルで、金融と建設業ばかりが膨張してしまった。金融危機でこの二つが縮小するのは当然だが、景気刺激策に応じて雇用が拡大する部門が国内にない。それは貿易赤字と対外債務を増やしてしまう。

カリフォルニアがオークランド・ベイ・ブリッジの建造を中国に発注するというニュースは、この問題の深刻さを示している。これによってカリフォルニア州政府は建造費を節約する。しかし、それは介入で人民元が大幅に過小評価され、補助金を得ているからだ。インフラ建設は時間もかかり、雇用創出にふさわしい。オバマ政権は「インフラ投資銀行」を提唱しているが、それが中国の雇用と貿易赤字を増やすだけかもしれない。

WSJ JULY 12, 2011

Our National Jobs Emergency

By ALAN S. BLINDER

6月に増えた雇用は、わずか18000人なのか? もっと悪化したはずだ。しかし、雇用を増やすための支出を考えるべきだ。


FT July 13, 2011

Low calibre leadership leading Japan astray

By Mure Dickie

政治が主導権を確立できないのは日本だけではない。ベルギーは総選挙後、13ヶ月も政府が決まらない。

日本の国会では復興のための予算も決まらない。しかし、アメリカ議会はさらに莫大な予算でチキン・ゲームに耽っている。

しかし、復興に向かう国民の意志と政治家とはつながらない。さらに、日本の政治が無視しているのは、震災に加えて、その前から長期の構造的な問題があることだ。

FP JULY 14, 2011

Hot Air Zone

BY ROBERT DUJARRIC

******************************

The Economist July 2nd 2011

Libya: Keep calm, keep going

Conflict mediation: Privatising peace

Greece and the euro: The abuses of austerity

Greece’s agony: What have we become?

China abroad: Welcome, bienvenue, willkommen

Chinese investment in Europe: Streaks of red

Thailand’s election: Hands off the result

Lexington: Bargaining and blackmail

The IMF’s new head: Wanted: a French revolution

Regulating finance: Patchwork planet

Economics focus: Some like it hot

(コメント) スペースシャトルの終わりについて特集記事があります。しかし、関心なし。リビアへの介入はどうなったのか? 悲観と楽観を報告しています。そして、結果を引き受ける覚悟があれば、カダフィ退陣は近い、と考えます。その関連で、民間の外交機関が長い記事になっています。これは面白い。

ギリシャの二回目の救済融資に反対する社会運動・政治勢力が、新しい政治的均衡を生みだすのでしょうか? パパンドレウ首相が憲法改正を目指すか? 注目です。

中国の海外投資がユーロ危機や内部分裂のヨーロッパに向かいます。タイの選挙ではタクシンの妹が勝利し、アメリカ議会共和党は、デフォルトを脅迫の材料にして、オバマの改革を潰します。

フランス財務省からストラス・カーンに続くIMF専務理事が出ました。ラガルドの課題は、ユーロ改革、新興諸国の支持取り付け、IMF改革のためのEU説得。他方、主要な金融センターで規制改革がゆっくりと進み、そのパズルの中で新しい「ゲームのルール」が誕生します。@自己資本比率、A主要金融機関への金融危機コスト分担、Bデリバティブ規制、C資産の流動性、D報酬、E金融機関の整理・破産処理。

最後の記事は、新興諸国の「過熱」に関して、6つの基準で危険性を判定します。最悪は6点満点のアルゼンチン。ブラジル、香港、インド、インドネシア、トルコ、ベトナム、が5点で続きます。

******************************

IPEの想像力 7/18/11

机上は混乱の極みに達し、堆積した書籍やコピーを取り除く作業中、鈴木輝二「戦時体制の実態とその崩壊」(外国為替貿易研究会『国際金融』1220号、201111日)を読みました。戦時体制や敗戦の前後について、体験記が印象的です。(震災前の記事です。)

言葉だけ知っていたはずのものが、突然、目の前で動き出すような感覚に襲われました。・・・皇国史観。大政翼賛選挙。強制移住させられた朝鮮人工員。学徒動員。岸伸介。靖国神社。大東亜会議。空襲。肉眼の監視。強制疎開。焼夷弾。原爆投下。間接占領。ホームレスと失業。農地改革。

今、震災の避難生活を、戦争の体験と比べて耐える老人たちもいます。もし一部でも、当時の激しい困窮と政治の転換が再現しているのであれば、そこにはむしろ希望があります。

ギリシャ危機について、トルコの経済改革を指導した優れたエコノミストKemal Dervisは、成長と投資(太陽光・風力発電、医療観光、北欧年金生活者コミュニティー)が必要だ、と考えます。また、B.アイケングリーンは、戦後の混乱・窮乏期にギリシャと同様の苦しみを味わったEUが、ギリシャに対する経済復興計画、すなわち、マーシャル・プランを実施せよ、と主張しています。

ラインハート&ロゴフは、債務のGDP比率が90%を超えるとその国の成長を損なう、とアメリカ政府に警告しています。もちろん、日本はそれをはるかに超える水準なのです。EUやアメリカの財政緊縮論議に比べて、日本の政治家たちは震災の復興財源を議論することにも十分な熱意と尖鋭な分析を欠いています。それでいいのでしょうか?

増税が難しいのであれば、当然、インフレによって債務比率を減少させることでしょう。しかし、インフレで金利が上昇すれば、債務は爆発的に累積するのではないか? あるいは、まだ当分、日本経済に激しいインフレは起きないし、金利も上昇しないのでしょうか? 私は、リフレ政策に賛成です。

何よりも、正規・非正規の賃金格差を減らしていくことで消費を増やし(さらに、結婚や子供を増やし)、デフレを解消してください。労働者の権利を高め、非正規労働者も労働組合に参加させる法律を定めてはどうでしょうか? 金融緩和で投資や輸出が伸びる中であれば、企業は優れた労働者を確保したいと願い、改革を受け入れるでしょう。

そのためにも、私はTPPや金融緩和を支持します。東北地方の復興計画において、そのためにアレンジしたTPPと国内制度があれば、アジアの企業が積極的に復興に参加するでしょう。中国も含めて、タイやベトナム、インドなど、アジア新興諸国の優良企業を、日本の生産拠点で、グローバル・サプライ・チェーンに参加してもらうのです。国際競争力を維持するような、アジア諸国間で安定的な為替レート調整を前提に、TPPは日本経済の構造変化をもたらすでしょう。

そうして初めて、(大幅ではなく、適度な)円安によって、日本は輸出を伸ばせるでしょう。R.N.クーパーと浜田宏一は、大震災に対して金融緩和と円安を求め、それが競争的な為替切り下げではなく、競争的な金融緩和をグローバルに実現するのであり、世界の景気回復にとっても望ましい、と主張しています(620日、日経新聞「経済教室」)。

しかし、ドイツのように、激しいインフレが債務を消滅させることほど、政治や社会秩序を破壊する選択はないのです。それゆえ債務を抑制し、大幅に減らす努力が必要です。社会福祉や年金制度、医療保険制度の在り方を、その基本的な方針から、実際の運用まで、国民に開かれた形で大いに議論しなければなりません。

将来、私たちはある程度の年齢に達したら、健康状態も勘案して、社会福祉の包括的なプランを選択できるようになります。それは透明な収支報告と、すでに支払った社会保険に見合って条件が与えられ、また、その後、本人の健康管理や就労継続によって条件を改善できます。社会的コストを抑えるため、限界集落から駅に近い集合住宅に転居してもらい、医療情報の電子化で病院や医師を減らします。

債務を削減するのに、日本政府はギリシャの改革案を真摯に学ぶべきでしょう。改革を阻む既得権、土地所有・利用の制約、金融機関の脆弱性などを、債務危機が起きるまでに、明確な方針で改善します。

ギリシャ、EU、アメリカが、政治的均衡を模索しています。日本の国債が外国投資家の避難所となってしまうことで、円高とデフレが進み、景気は悪化し、南シナ海で軍事衝突が起きたとき、日本の債務危機は始まります。

******************************