IPEの果樹園2011

今週のReview

7/11-16

 

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脱原発vs温暖化 ・・・中国の勢力圏か? ・・・ユーロ危機への転落 ・・・リビア介入の長期化 ・・・中国共産党の不安 ・・・インラックの勝利 ・・・アメリカの覇権 ・・・「国家建設」 ・・・移民政策の自由化

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l         脱原発vs温暖化

SPIEGEL ONLINE 06/30/2011

A Revolution for Renewables

Germany Approves End to the Nuclear Era

木曜日、ドイツ議会は2022年までに原子炉の廃止と再生可能エネルギーへの転換を進める法案を513:79で成立させた。

FT July 3, 2011

Energy: Betting the wind farm

By Gerrit Wiesmann

ドイツ政府は、海上に風力発電所を大規模に建設する計画である。ただし海岸線の多くは国立公園であり、沖合に設置されるだろう。問題は、電力の貯蔵と輸送だ。たとえ技術はあっても、その建設と既存システムからの転換費用は高くなる(いくらとは書いていません)。

また、再生可能エネルギーへの転換が遅れ、供給不足が生じるときは、化石燃料による発電や輸入によって補う必要がある。

guardian.co.uk, Monday 4 July 2011

The nuclear industry stinks. But that is not a reason to ditch nuclear power

George Monbiot

「権力Powerは腐敗する。核のパワーは絶対的に腐敗する。核エネルギー産業は核兵器開発の副産物として発展した。」核兵器の生産は人々の目から隠されてきた。これら二つの産業は強制的に分離されたが、世界中で、どちらも大部分が秘密であり、説明責任を果たさず、余りにも政府と癒着している。

21世紀の発電所に40年前の原子炉を使用することは、現代の航空産業に気球船ヒンデンブルグを使用するのと同様に、危険だ。」

原子力発電所の廃止と温暖化の被害は比較できる。「原子力発電所を廃止するというドイツの約束は、年間4000万トンの二酸化炭素が追加で発生するだろう。」メルケルは、この10年で石炭・天然ガスの発電所が倍増する可能性を言及した。

反原発論には4つの論点がある。1.エネルギー需要を減らす。2.原子炉の建設には1015年もかかる。3.ウラニウムは枯渇する。4.放射性廃棄物を安全に処理できない。

反論もあるが、原子力産業への不信感がすべてを無視させる。

FT July 4, 2011

The EU risks falling behind the green century

By Nicholas Stern

ヨーロッパ議会は火曜日に、温暖化ガスの削減目標を(1990年と比べて2020年までに)20%から30%に引き上げることの承認を問われる。この決定には経済的な意味があり、気候変動の抑制に向けた重要な前進である。

現在の目標では、2050年までにEUの排出量を80-90%削減するのは難しい。しかし、景気後退により、予想外の機会が得られた。2009年の排出量は前年より7.1%も少ない。

EUがこの意欲的な目標を達成できない、という主張は間違いだ。そのコストは€81bn ($118bn), もしくはGDP0.54%である(20%削減の費用は€70bn)。しかも、これは投資である。ヨーロッパの成長戦略と民間投資に影響を与え、低炭素が他の技術やインフラに向けた転換を促す。

追加の費用負担が投資をEU外に向かわせる、という反対も間違いだ。過去数十年間の環境規制よりも、利潤に影響する他の要因、すなわち、投資環境の改善や熟練労働力の利用可能性の方が重要であった。資本逃避を主張するのは、個別の短期的な利害関係者である。

もし技術転換が遅れれば、その方がヨーロッパには重大なリスクとなる。なぜなら中国や韓国は低炭素技術に大規模に投資しているからだ。

米中の削減計画を含む、世界の温暖化ガス排出削減は、19世紀半ばに比べて摂氏2度以上の温暖化を防ぐ可能性が50-50を実現するためには、不十分だ。現状では、摂氏4度以上の温暖化が進む可能性がある。それは3000万年以上なかった水準であり、何億人もの人々に大きな損害や崩壊をもたらすだろう。深刻な紛争や破滅的な移民が起きる世界となる。

ヨーロッパ議会は、EUの統一した温暖化防止の姿勢を示して、12月の国連に参加するべきだ。技術革新の時代とは、産業革命がそうであったように、偉大な創造力、学習、革新、投資、成長の時代である。競争的な優位を得るのは、その開拓者である。

FT July 4, 2011

China risks overtaking Europe in green economic revolution

Nicholas Stern

上記の論説と同じです。Neil O’Brienの返答が付いています。

温暖化のリスクは認めるが、対策が間違っている。まず現実を理解していない。EU6大国で見れば、1990年以来、排出量を増やしている。減っていない。産業は東に移動し、国内排出量が減っただけだ。

中国との比較は適当ではない。中国に我々が消費するための工場を移しておきながら、彼らの排出量を非難することはできない。発展途上諸国の11ドルで暮らす数十億人が、我々と同じ消費水準を目指すことも非難できない。

中国が目標を設定した、と言うが、その中身は9年で排出量の倍増以上も可能である。つまり、ヨーロッパの30%削減とは、一方的な核武装の解除に等しい。

また、このコストを投資とは言えない。既存の技術から転換するための巨額の補助金を含む。海上の風力発電の見通しは暗く、電力コストの上昇による投資減少も現実に起きるだろう。

1990年のような、欧米だけが重要な世界は終わった。排出規制は、それが有害ではなく、機能するものであれば、採用できるが、それ以上を望むのは間違いだ。そして技術開発に、直接、投資を増やすことだ。


WP June 30, 2011

In Tunisia and Egypt, still waiting on real change

By Anne Applebaum

すべての言論や出版の自由が得られたことに、チュニジア、エジプトの運動家たちは喜んでいる。彼らは何でも言えるし、何でも書ける。それは根本的な革命だ。

しかし、まだ何も変わっていない。選挙があるまで、政府は同じ人々が動かしている。警察も、以前のように目立たないだけで、同じ者がそこにいる。エジプトでも政府の多くが軍隊によって支配され、旧体制の同じ人々が同じ部局を支配する。選挙法も、政党組織もない。正当な政府がないから、誰も改革を指導する権限を持たない。

新しい指導者と新しい経済秩序に向けた本当の変化が長引けば、失望、不満、反革命の機会が膨らむ。政府が面倒を見ることについて、汚職や過去について、もっと体系的な論争が必要だ。

できるだけ早く選挙するべきだ。不完全な議会でも、無いよりはましだ。ポーランドが1989年に共産主義体制後の最初の議会を成立させたとき、部分的にしか自由な選挙にならず、旧体制の多くの議員が残っていた。それでも政府は革命的な変化を感じさせ、速やかに正当性を得たのだ。


l         中国の勢力圏か?

FT June 30, 2011

China and Pakistan: An Alliance is built

By James Lamont and Farhan Bokhari

中央アジアでは、かつてのイギリスとロシアに代わって、アメリカと中国が勢力圏を争い、カシミールについてのインドとパキスタンの(核保有国の)領土紛争にも中国が関係している。さらに、ミャンマーや南アジア、インド洋、東南アジア、南シナ海、東シナ海・・・。

パキスタンは、アメリカからの軍事援助や核兵器、中国からのハイウェー建設、軍港建設、と経済取引を拡大し、アメリカと中国を競わせる。今や、中国はパキスタンに海軍と空軍を供給し、三峡ダムに匹敵する工事をヒマラヤに行おうとしている。

南アジアにおける各国間の対立を利用して最も利益を得るのは中国だ。中国の最大の関心は、まだ、イスラム過激派の動向である。特に、東トルクメニスタン。

Project Syndicate 2011-07-04

Should China be “Contained”?

Joseph S. Nye

今年はキッシンジャーが中国を訪問したときから40周年である。その後、ソ連は消滅し、中国が台頭した。今や、中国を封じ込めるべきだ、という主張がなされる。しかし、それは間違いだ。

冷戦下のソ連封じ込めとは、事実上、貿易を行わず、社会関係もほとんどんなかった。今は逆に、アメリカと中国が膨大な貿易をおこなっているだけでなく、社会関係も拡大している。アメリカの大学には125000人の中国からの留学生が学んでいる。

私がペンタゴンで東アジア戦略を監督したとき、二つの理由で中国封じ込めを拒んだ。一つは、それが中国を確実に敵国にしてしまうからだ。封じ込めをしないからと言って、敵国にならないとは断定できないが、少なくとも、もっと有益な関係を模索できる。第二に、中国を封じ込めることを、他の諸国に説得するのは難しかった。第二次世界大戦後のソ連と違って、中国は近隣諸国に介入していなかった。

クリントン政権は、統合すると同時にリスクを回避する(“integrate but hedge”)戦略を取った。一方で、アメリカは中国のWTO加盟を支持した。しかし他方で、日米の冷戦的な遺物ではなく、新しい意味で、安保条約を再確認した(the Clinton-Hashimoto Declaration of April 1996)。

アメリカはインドとの2国間関係を深め、またゼーリック国務副長官は、アメリカが中国の台頭を受け入れ、「責任ある利害関係者」として行動するように確認した。

新著(Future of Power)では、アジアの復興を21世紀の主要なパワー・シフトと見なした。1800年、アジアは世界人口と経済の約半分を占めた。1900年、欧米の産業革命によって、アジアの経済は世界生産の20%に減った。しかし、21世紀の半ばに、アジアは再び世界人口とGDPの半分を占めるだろう。

貧困の減少という意味で素晴らしいことだが、アメリカへの脅威と見なす者もいる。しかし、そのような不安は過剰である。なぜならアジアは一つではないから。日本、インド、ベトナムは、決して中国の支配を喜ばず、アメリカの圧力を求めている。アジアは内部のバランス・オブ・パワーで動くのだ。すなわち、中国が「ソフト・パワー」を蓄積しなければ、中国の軍事的・経済的パワーの増大は近隣諸国に恐怖をもたらし、中国と対抗する同盟化をもたらす。それはあたかも、北米でアメリカの力を抑えるために、中国がカナダやメキシコと同盟を形成するようなものだ。

2008-09年の金融危機から中国は迅速に回復し、10%の成長を維持した。その結果、中国の政府官僚・評論家たちは、この新しい力を外交政策に反映させるべきだと考えた。そして、アメリカの衰退を確信し、戦略的な機会を見たのだ。

南シナ海の紛争など、中国が近隣諸国との関係を悪化させれば、アメリカが封じ込め政策を取ることは容易になる。しかし、中国に対してヘッジング戦略を取るだけでなく、アメリカは中国とグローバルな共通の課題を多く抱えている。グローバルな金融安定化、気候変動、サイバー・テロ、地球規模の伝染病、など、協力しなければ解決できない。

21世紀の「スマート・パワー戦略」は、中国封じ込めではない。米中関係は40年を経て、冷戦が転換しただけでなく、関与も新しい時代を迎えた。

Global Times | July 05, 2011

Gun-worship sits uneasily with China's 'peaceful rise'

By James Palmer

中国はハト派でいっぱいだ。2003年に「和平演変」が唱えられてから、官僚も学者もこぞって、過去の大国のような、軍事力による権力拡大を否定した。

実際、中国は32年間も戦争をしておらず、他の大国よりもはるかに平和的だ。最後の戦争は、1979年、ベトナムと戦った。この間、アメリカはGrenada, Libya, Lebanon, Panama, Iraq, Afghanistan, Somalia, and Haitiで軍事力を行使し、ソ連は10年間もアフガニスタンで戦争し、ロシアとして昨年グルジアに侵攻した。インドでさえ、パキスタンと2度も戦争し、スリランカに軍隊を送った。

しかし中国に来る外国人は、社会生活に浸透した軍事的影響に注目する。アメリカやイギリスでも似たことはあるが、中国人の子供が遊ぶ戦争ごっこや、教科書に出てくる戦争の記録、大学生の軍事教練は、中国の主張や経験と釣り合わない。今も、インターネットでは軍事的な強硬論が流布されている。

しかし、ソ連は国境にこだわらず、アメリカも紛争より金儲けに忙しい。中国が軍事予算を増やし、ナショナリズムを強化するのは、ベトナムやフィリピン、日本と、島や資源を争うからだ。むしろ、中国は他国の不安をなだめる必要がある。

もうそろそろ、軍事力への固執はやめるべきだろう。


l         ユーロ危機への転落

Project Syndicate 2011-06-30

Farewell to the Euro?

Hans-Werner Sinn

Professor of Economics and Public Finance, University of Munich, and President of the Ifo Institute

各国の財政危機があるだけで、ユーロ危機ではないのだ、という声も強い。しかし、それは間違いだ。財政危機の国がまわす輪転機は、ユーロを印刷するのだから。

GIPS(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン)の経常赤字やアイルランドからの資本流出は、ECBからの融資によって可能になった。GIPSの商業銀行は貿易に融資し、住宅など、資産にも融資した。

2013年からthe European Stability Mechanism (ESM)が債務を処理するということは、ECBによる融資から国家の共同体による処理が始まることを意味する。アイルランドだけは物価や賃金が低く、競争力がある。他の国は債務を処理できない。市場と異なる為替レートは、1992年のイギリスのように、政府・中央銀行の力で維持できない。もはや、中国を除いて、為替レートを維持する国はない。EUも、周辺における資産価格の上昇によって、それを知るだろう。

ギリシャもポルトガルも、財政再建を行うだけでなく、競争力を回復しなければならない。20-30%も高い物価と賃金を下げるには、ユーロ圏を離脱して切下げるしかない。

Jean-Claude Junckerのように、民営化機関で債務を処理するのは間違いだ。それは競争力を回復できない。民営化の規模はそれほど大きくならない。

FT July 3, 2011

A plan to save the euro and curb speculators

By Giuliano Amato and Guy Verhofstadt

ヨーロッパは、選挙によって成立した政府が、選挙されない格付け会社との戦いに敗北しつつある。財政移転を拒む国がある、というのは、そういうことだ。そのような国、つまりドイツなどは、ユーロ安で利益を得ている。デフォルトは債務国だけでなく、銀行や年金基金を通じて黒字国も傷つける。誰も無事ではいられない。

ヨーロッパを避けるのではなく、もっとヨーロッパを引き受けることだ。ユーロ債を主張したJean-Claude JunckerGiulio Tremontiに賛成だ。

ユーロ債は救済融資でも、財政移転でもない。ユーロ債は全会一致ではなく、自発的な参加で誕生する。ユーロ債はグローバルに売買され、新興経済や政府系投資信託SWFなどからも資金を集める。債務国の債券はEUが保有し、市場で売買しない。それゆえ格付けの対象にしない。

F.D.ルーズベルトが1930年代に行った「ニュー・ディール」は債券発行で賄われた。ユーロ債はヨーロッパ投資銀行が発行する。それはEU諸国がGDPに応じて保証する。ユーロの安定化と、ヨーロッパの「ニュー・ディール」が賄える。

FT July 3, 2011

A Brady plan to end Europe’s crisis

ラテンアメリカが債務危機の処理で行ったブレディー・プランが最も望ましい。

ギリシャの財政再建は明らかに成功している。融資を受けながら赤字を減らした。緊縮政策を非難する者は、融資も支援も受けずに財政赤字を減らすべきだろう。

しかし、市場はギリシャに投資しないし、EUは危機の波及を阻止しなければならない。そこで、ブレディー・プランだ。アメリカ財務省証券でブレディー債を保証した。銀行の融資はさまざまな債券に交換された。債務国は負担を軽減され、債権者は返済保証と流動性を得た。

財政移転ではなく、債券との交換で民間部門もコスト分担する。

SPIEGEL ONLINE 07/04/2011

German Finance Minister on the Euro Crisis

'We Can't Allow a Second Lehman Brothers'

FT July 4, 2011

Greece has no future within the eurozone

By Sir Martin Jacomb

ギリシャ議会は承認したが、危機は止まらない。EUの将来は、最も貧しい周辺諸国が競争力を回復できるかどうかにかかっている。

それは融資を増やして債務負担を増やすことではない。デフォルトによって危機が波及することでもない。人々は融資が続くことを期待して、ギリシャ債で投機的に高金利を得ている。

しかし、周辺諸国の苦しみは現実に続いている。特に若者の失業問題だ。社会不安は高まるが、ギリシャ政府はユーロに縛られて何もできない。ユーロ圏の欠陥は指摘されていた。周辺国はユーロの低金利を利用して生活水準を高め、その結果、競争力を失ったが、同時に、競争力を回復する切下げもできなくなった。

1830年代に始まったイタリアの鉄道建設が、法王の介入で拡大できず、南北格差を拡大した。その後、リラの導入は南イタリアが競争力を回復して工業化する手段を奪った。人々は北部に移住し、格差は残った。

銀行システムを守るECBの試みは、周辺の競争力を損ない、ユーロ圏全体の繁栄をもたらさない点で、同様の失敗をもたらしている。それは、最近のイギリスの経験でも示された。

たとえ混乱をともなうとしても、ユーロ圏を離脱するべきだ。

guardian.co.uk, Tuesday 5 July 2011

Any new Marshall plan will founder in the minds of Europe's hesitant leaders

Mark Mazower

1947年、アメリカはマーシャル・プランでヨーロッパの景気回復を始動させた。今、ヨーロッパに同じことが求められる。ギリシャ政府と有権者にこれ以上の緊縮策を求めるには、政治危機を避けて、新しい成長を実現する希望が必要だ。

トルーマン大統領とジョージ・マーシャル将軍は、ヨーロッパの政治的危機を恐れていた。1947年、ギリシャ内戦にアメリカ軍が介入したと同時に、平和時においては史上空前のヨーロッパ経済救出作戦を実行した。

ヨーロッパ経済のエンジンであったドイツは占領下にあり、食糧不足で飢餓寸前であった。国民所得や工業生産は10年前の3分の1の水準であった。アメリカは1948年の国民所得の5%にあたる130億ドル(現在のGDPであれば8000億ドル)を援助した。アメリカはフランスに対する債権を放棄し、数年後、まだ戦争の処理が続く中で、ドイツに対しても放棄した。

その心理的な重要性をマーシャルは理解していた。強力な政府の行動だけが、信頼を回復し、市場を確立できるのだ。それは正しかった。ヨーロッパ経済は回復し、成長と民間投資が復活した。今もそうだ。ギリシャ、ポルトガル、アイルランドのGDPは、EU経済の5%でしかない。ドイツ経済は好況である。

その救済方法も明白だ。ラテンアメリカ諸国が行ったように(the Brady plan)、EU債券とギリシャなどの債券を交換すれば、金利負担を大きく軽減できる。ギリシャ政府は財政再建や制度改革、民営化を進め、EUがこれを監視すればよい。

当時との違いは、問題が金融部門の救済に偏っていることだ。為替管理や資本移動の無い時代には、考えなくて良かったことだが、2008年の金融危機以後、制度の安定性は金融救済にかかっている。しかし、それに対する解決策は政治的な分裂が阻んでいる。1940年代には、戦後再建に向けた準軍事作戦としてすべての政府が取り組んだ。しかし、1970年代、80年代を経て、国家の能力に対する楽観は消滅し、今の指導者たちはマーシャル将軍ではなく、マーガレット・サッチャーの末裔だ。

しかし今こそ、長期的なビジョンにより、ヨーロッパ規模の再分配政策を指導するときである。アメリカ軍は助けに来ない。

guardian.co.uk, Tuesday 5 July 2011

Restructuring Greece's debt crisis

Kevin Gallagher

ここには、グローバル・エコノミック・ガバナンスの欠如が示されている。何千もの貿易や投資に関する条約が結ばれているが、政府債務の処理についても法的にはそれらに従うだけで、国際的な合意がない。

アルゼンチンとギリシャの違いは、確かに重要だ。ギリシャがデフォルトしても、1.ユーロに制約されて、競争力は回復しない。2.アルゼンチンのような国際商品ブームと輸出産品がない。

しかし、アルゼンチンは債務の67%を放棄させた。これに対して、18万人の債券保有者が全額支払要求の訴訟を起こしている。その結論はまだ出ない。しかし、ある国の経済を正常に戻し、グローバルな金融危機の波及を阻止することは、債務削減の十分に正当な理由である。

問題は、政府債務の組み換えを貿易や投資の条約が支配していることだ。民間の投資をめぐる裁判が政府債務の組み換えや金融危機の波及を決めるのは間違っている。もし政府債務を変更するとしたら、それは国家間で、社会や経済の全体に及ぼす影響を考慮して交渉するべきだ。

SPIEGEL ONLINE 07/05/2011

SPIEGEL Interview with Allianz CEO

'Greece Has an Opportunity to Attract Investment'

SPIEGEL ONLINE 07/05/2011

Generations of Pork

How Greece's Political Elite Ruined the Country

ギリシャを滅ぼした政治エリート階級、特に、三大家族(the Papandreou, Karamanlis and Mitsotakis families)が支配する限り、国民は政党にかかわらず改革を信用できない。ギリシャ経済は彼らのpatronage(引き立て、縁故)によって支配されている。彼らの友人や親せきでなければ雇用を得られない。国家は彼らのための怪物的な官僚制度であり、政治システムは封建主義的な民主制(a feudal democracy)だ。

ギリシャには、オリーブの木と、青空と、美しい海岸しかない。4人に1人は政府に雇用されている。汚職と退職・年金のシステムは攻撃されている。しかし、緊縮策だけでは経済崩壊が始まる。

FT July 5, 2011

Moment of truth for the eurozone

By Martin Wolf

債務を返済できるのか? もしできないなら、債務の組換はどのくらいの規模になるか? 誰がそれを負担するのか? 債務の組換だけで成長できるのか?

Citigroupの分析結果を基に、ギリシャなどの債務規模を予測し(2014年にギリシャ180%、アイルランド145%、ポルトガル135%)、債務削減の規模を予想します(€224bn、€107bn、€92bn)。

もしそれがすべて民間部門の負担であれば(ギリシャ国債の97%を保有する)、その損失を銀行に「財政移転」してやるしかない。さらに、中期的な財政負担は大きなものになる。あるいは市場価格による債権買い戻しやブレディー・プランのような債券交換が考えられる。債務の組換は早い方が良い。愚かな融資者、無能な金融監督、いい加減な政治家が、過去の失敗を隠して処理を遅らせる。

債務組換によっても、ギリシャの成長は回復しないだろう。ユーロ圏にとどまって成長を回復するには、ラトビアのケース(内的な切下げに成功した)が参考になる。ラトビアのGDPは危機前よりも23%減少し、コストを削ったが、債務負担は増した。

債務組換は危機脱出の必要条件でしかない。短期的なコストを無視して、ユーロ圏離脱も検討されている。それを避けるためには、現実を受け入れることだ。それを遅らせれば、ユーロ圏も危険だ。

SPIEGEL ONLINE 07/06/2011

Fear of Junk Status

Europe Seeks to Free Itself from Rating Agencies' Grip

By David Böcking

NYT July 6, 2011

Fumbling Toward Default

SPIEGEL ONLINE 07/07/2011

Auf Wiedersehen, Spain

Learning German to Escape the Crisis

By Juan Moreno in Espera, Spain

高い失業率が続く中で、スペインの若者たちは外国で仕事を探している。ある村は、その答えを見つけた。住民たちがドイツ語を学ぶことだ。ヨーロッパ最大の経済に生活のチャンスがある。

 (chinadaily.com.cn) 2011-07-07

The Greek debt crisis and China

By John Ross

まるで動く財政刺激策です。温家宝首相が訪れるところに、中国との巨額の契約が成立します。3兆ドルの外貨準備がドル安で削られるのを待つより、消費した方が良いでしょう。しかも中国の利益を増し、感謝される形で。

ギリシャの国債やユーロ建資産を購入するのもそうです。中国は、債務処理に関する銀行と納税者との対立を緩和できる。中国にとって大きな機会がある。

Project Syndicate 2011-07-07

A Tale of Two Defaults

Daniel Gros

その国は、巨額の対外赤字、インフレ、経済停滞に苦しんでいた。とうとう指導者たちは経済を安定化する革新的な方法を実行する。新しい通貨を導入して、11でドルと固定したのだ。法律によって通貨同盟を永久に維持し、経済を開放・民営化した。地域の貿易協定に参加する。

通貨秩序への信頼は急速に回復した。特に銀行部門へ資本が流入し、成長が始まった。しかし、10年後、地域の主要貿易国が切下げ、ドル高が続く。その国は輸出が減り、対外赤字と成長の減速が続く。財政赤字も管理できず、債務が増大し、外国投資家に頼る。

新興市場のデフォルトに国際資本市場が関心を強めて、リスク回避の傾向からプレミアムの支払が増え、IMFと友好国の融資に助けを求めた。しかし、財政赤字を減らすことも、成長を回復することもなく、構造改革は失敗した。景気は悪化し続けたが、賃金引き下げで輸出を伸ばすこともできなかった。

二度目の救済融資と「自発的な」債務削減を行った。しかし外国投資家の信頼は回復せず、さらに、自国の預金者も通貨を信頼しなくなって資本逃避に走った。社会不安から政治体制は崩壊し、対外債務の支払は停止され、通貨同盟も終わった。

これがアルゼンチンだ。1991年のドル固定制から、2001-02年のデフォルトまで、10年で経過した。ギリシャもこれを繰り返しているようだ。

ギリシャはすでに二度の救済融資(2300億ユーロ)を受けた。他にも、ギリシャの銀行が破たんしないように、ECB900億ユーロを融資している(アルゼンチンにはなかった)。もしギリシャの預金者が自分たちの預金の半分を外国に逃避させたら、さらに1000億ユーロが必要になる。

こうしてギリシャは4000億ユーロの公的な融資を必要とするだろう。現在のGDP200%だ。もし無秩序なデフォルトとユーロ離脱になれば、新通貨の価値は半減し、GDP400%のユーロ建債務が残る。返済は不可能だ。

アルゼンチンを繰り返すだけでなく、より大規模に再現する。


l         リビア介入の長期化

NYT June 30, 2011

The Libya Campaign

NATOによるリビア空爆が4カ月目に入る。カダフィは権力を失わず、傭兵たちに守られている。アメリカは戦争に疲れ、ヨーロッパも我慢できなくなっている。しかし、NATOは戦いをあきらめてはならない。

カダフィが勝利すれば、さらに数千人のリビア人を殺害するだろう。NATOとアメリカの信頼も失われる。カダフィによる国際テロの支援を忘れてはならない。

反政府軍の組織は改善されている。カダフィに対する禁輸や制裁は次第に効果を発揮する。トリポリのガソリン・スタンドには長い列ができ、パンの価格は上昇している。

カダフィの仲間はNATOの撤退を待っている。イタリアやアラブ連盟の元議長のような、間違ったシグナルを送ってはならない。リビアの体制を転換できるのはリビア民衆だけだ。彼らを軍事的。財政的に支援することだ。また、カダフィ後の混乱を避けるために、市民組織を育てておくべきだ。

戦争を終わらせる政治交渉が議論されている。しかし、アメリカ政府もNATOも、カダフィの即時退陣とリビア国民の自由をともなわない解決案を認めてはならない。

guardian.co.uk, Sunday 3 July 2011

Libya: Wishing the way to victory

guardian.co.uk, Monday 4 July 2011

Nato's real plan for Libya

Tom Dale

guardian.co.uk, Wednesday 6 July 2011

The US must end its illegal war in Libya now

Dennis Kucinich

私は、アメリカがリビアへの軍事介入を終わらせる法案を支持する。その理由は、1.リビアでの戦争がアメリカの法律に反している。2.戦争はこう着状態にた圧しており、NATOの地上軍を投入しなければ勝利できない。3.アメリカはそれを負担できない。

この戦争は正しく管理できていない。国連が認めた人民を保護する権限を逸脱している。フランスが主張するように反乱軍に武器を補給すれば、内戦に参加することになる。


l         中国共産党の不安

FT July 1, 2011

China’s political anniversary: a long cycle nears its end

By Jamil Anderlini

上海の複合商業施設、高級レストランやグッチの広告が並ぶ一角に、小さな、古い、石造りの建物がある。中国共産党は、90年前、ここで13人の党員から始まった。

高級な複合商業施設Xintiandiの入り口で警備員に追い払われた行商人が、実は彼のような人々によって共産党は創られたと知っているだろうか? しかし、今では裕福なエリートたちの利益を擁護する機関と見なされている。つまり、Xintiandiにおける一回の食事で、行商人たちが1年間に稼ぐ所得を使ってしまうような金持ちだ。

共産党は10年に1度の指導部交代を控えている。世界最悪の所得格差を示し、30年間成長を支えてきたモデルが終わろうとしているが、8000万人の共産党員に解決に向けた合意は何もない。マルクス・レーニン主義と毛沢東の遺産に忠実であると言うが、実際は、世界最大の商工会議所である。現在、「労働者」に分類されるのは党員の9%以下であり、70%以上は政府職員、専門職、大卒者、軍人からなる。

13人の党員は、離脱したり、病没したり、トロツキストとして追放されたりした。1949年の中華人民共和国建国に参加できたのは、毛沢東ともう一人だけだった。最初の30年間は、労働者の楽園を作るという計画が何度も失敗し、大きな犠牲をもたらした。1976年、毛沢東の死後、権力を握ったケ小平が改革に成功する。その後、1989年の天安門事件で改革を加速し、国民は政治権力の共産党による独占を認めて、経済的な繁栄を求めることになる。

指導部は世代が交代するごとに弱くなっている。共産党の権力の正統性は高成長を維持することにある。90周年を祝う演説も、むなしい修辞と脆弱な支配と見なされている。成長の減速と中産階級の政治的要求が高まることで、共産党は死活的な危機を意識している。

SPIEGEL ONLINE 07/06/2011

SPIEGEL Interview with Henry Kissinger

'Mao Might Consider Modern China to Be Too Materialistic'

FT July 6, 2011

It is time to act on Mao’s call for democracy

By Jamil Anderlini

中国は家族経営a “family-run business”だった。政治エリートを形成した革命家族たちの周りに、注意深く、社会の均衡を保つメカニズムを構築してきた。彼らはしばしば、政治、軍事、そして経済の管制高地における権力を握る100家族について語る。しかし、党は次第に、汚職と内紛の犠牲になりつつある。エリートたちは、重大問題を解決する柔軟さや創造力を失ったのだ。

政治エリートたちは、どのような変化もダムの決壊となり、大洪水をもたらす、と恐れている。たとえば、チベットの少数民族やウィグルのイスラム教徒を認めず、厳しく弾圧する。中国人には西側の民主主義が文化的・性格的にふさわしくない。もし今、民主的な選挙を行えば、民族主義的な独裁者が権力を握るだろう、と警告する。しかし、台湾や香港では民主主義が(一部でも)成功していることを見ようとしない。

むしろ今の中国には、辛亥革命の100周年がふさわしい。王朝による帝国の支配が打倒された。若いころ、毛沢東は鄭観応Zheng Guanyingの思想に共感した。1949年、権力を握った毛沢東は、王朝の支配が交代することを終わらせるのは民主主義だ、と主張した。

共産党が、それを今、実行するときだ。

NYT July 7, 2011

China's Debt Monster

中国の経済ブームは政府や銀行の債務危機に終わるのか? 専門家たちが意見を述べています。

Yasheng Huang:景気刺激策の成功、都市化による投資の必要、といった説明は間違いだ。すでに都市インフラは過剰にある。

Yang Yao:成長をもたらすから、債務問題は解決できる。

Michael Pettis:債務を増やしながら高成長を続けるが、いつか、急激に減速する。

Shuanglin Lin:投資の効率が問われてくる。

Lina Song:地方の公共投資が減り、貧困層への支援がなくなる。それは時限爆弾だ。

Derek Scissors:大規模公共投資、補助金は、日本でも、どこでも、無駄になる。

Albert Keidel:中国の銀行融資は社会投資だ。効率が悪くても必要だ。


WP July 1, 2011

Did the Fed’s QE2 work?

2009年、金融危機と不況の最中に行われた第1回の量的緩和策(QE)は1兆ドル、そして、二番底やデフレを回避するために20108月後半から行われたQE28000億ドル。それらは有効だったのか?

デフレを回避するのに役だったかもしれないが、商品価格の高騰を招いている。失業者は減らない。その効果は限られる。

Project Syndicate 2011-07-07

Seeing Double at Central Banks

Linda Yueh


FT July 1, 2011

Strauss-Kahn – from Rikers Island to the Elysee?

by Gideon Rachman

guardian.co.uk, Wednesday 6 July 2011

The Dominique Strauss-Kahn affair shines a troubling light on French society – and US justice

Timothy Garton Ash


l         インラックの勝利

FP JULY 1, 2011

Family Matters

BY SEBASTIAN STRANGIO

BBC 3 July 2011

Thailand: Yingluck Shinawatra faces many challenges

By Rachel Harvey

FT July 3, 2011

Thailand’s opposition sweeps to victory

By Tim Johnston in Bangkok and agencies

WSJ JULY 3, 2011

Thailand and Mass Politics

guardian.co.uk, Monday 4 July 2011

Thailand elections: military crackdown rejected

SPIEGEL ONLINE 07/04/2011

Yingluck's Challenge

Thailand's New Leader Must Step out of Brother's Shadow

FT July 4, 2011

Yingluck’s Thai dilemma

タクシンThaksin Shinawatra の妹・インラックYingluck Shinawatra が率いるPuea Thai党は、500議席中の265議席を得て勝利した。インラックの今後の課題は、その支持者たちと、タイの保守派とを和解させることだ。20105月の騒乱では、軍の介入によって、タクシン支持の赤シャツ派が91人も死亡した。こうした衝突を繰り返さないように、今後の政治的な論争が注目される。

タクシンの帰国にも慎重さが求められる。なぜならそれは軍を刺激するからだ。タクシンが汚職によって有罪判決を受けているから、この問題で改革を急ぐことも難しい。むしろインラックは、貧困を緩和し、インフレを抑制する経済改革によって、都市や農村の貧困層における政治的支持基盤を固めるべきだろう。

FT July 5, 2011

Thaksin’s dreams can end Thai democracy

By Joshua Kurlantzick

「タイの自由、開放性、強さ、他国に比べた繁栄は、アジアのモデルにふさわしい」と2002年にアメリカの国務次官補であったJames Kellyは称賛した。しかし、中産階級と上層、そして貧困層との格差が拡大し、次第にタイ社会を両極化して、ついにはバンコックの騒乱と、その鎮圧による90人の犠牲者を出した。

タクシンはこの社会対立の頂点にいた。2001年に当選し、再選に向けて、彼は貧困層への支持拡大を目指したタイで最初の政治家になった。しかし、当選を重ねるにつれて、プーチンやチャベスと同様に、タクシンも法の支配を損ない、家族企業に有利な政策を進めるようになった。それはタイの中産階級や、軍人、王室などのエリート層に警戒感を生んだ。

ベネズエラやフィリピンでは独裁を倒したのは街頭のデモ隊であったが、タイでは軍のクーデタだった。しかし、貧困層は納得しなかった。彼らは治安部隊と何度も衝突した。今回の選挙で、インラックはエリート層の最悪の結末を示した。タイで最初の女性首相として民主主義を回復したのは、彼らの恐れるタクシンの妹、インラックである。

しかし、彼女は同じ姓であっても、その支持層を超えた人気があり、兄と違って妥協の重要さを知っている。昨年の流血事件について軍の幹部を訴えることはないだろう。しかし、両者の和解は難しく、他国で民主体制が崩壊したときに起きたような、内戦状態に転化する危険はある。今のところ、インラックが国家の統一と和解を求め、軍は政治に介入しない、と表明している。

Puea Thai党はタクシンの恩赦と帰国を計画している。長期的には、バンコックの中産階級やエリートも苦しい改革を受け入れるだろう。しかし、タイ民主主義の確立にとって、早期の帰国は望ましくない。

guardian.co.uk, Tuesday 5 July 2011

Yingluck Shinawatra must distance herself from her brother

Thitinan Pongsudhirak

WSJ JULY 5, 2011

Puea Thai's Choice

By PAVIN CHACHAVALPONGPUN

Global Times | July 05, 2011

Charting proper path to democracy

BLOOMBERG Jul 5, 2011

Billionaire’s Return May Put Riot Police to Work: William Pesek

By William Pesek

アジアの民主主義は、なぜこれほど騒がしい、ときに、暴力的衝突をもたらすのか? 国連の報告書(the United Nations Development Program, “Understanding Electoral Violence in Asia.”)を紹介します。

自由、公正、平和的な選挙が成功する条件とは、選挙によって、透明な形で、能力のある人物が、権力のともなうポストを交代するように、それを保証する制度を確立することです。それには、たとえば、政治腐敗や汚職をチェックする市民組織が必要です。汚職を告発するジャーナリストが暗殺される国で、民主主義は育ちません。

タクシンの人気は今も衰えません。それは彼が貧困層に対して手厚い支援策を示し、今のアビシット政権やエリートたちが貧困層を無視してきたからです。他方で、タクシンが大富豪として、大臣や官僚、裁判所や軍部を、自分のビジネスに利用したことを、人々は忘れています。他方、タクシンを追放した軍部や、その後のアビシット政権も、こうした事態を改善する明確な方針を持たなかったのです。

インラックへの期待は、2008年にオバマが当選したときの期待と同じものです。・・・政治的な暗黒をぬぐい去って、タイを次のフィリピンではなく、次の韓国にしてほしい。

しかし、タクシンが政府を後ろから操縦すれば、治安部隊と街頭デモが瞬時に再現するだろう。それを忘れてはならない。

FT July 6, 2011

Thailand: A divisive dynasty

By Tim Johnston

勝利を祝う赤シャツ派の期待が、インラックの障害になるだろう。政治対立の和解は困難であり、民主主義と社会進歩ではなく、タイは再び街頭での衝突と政治麻痺に向かう、と予想する者が多い。5年に及ぶ政治的分裂を経ても、両者をつなぐ手段は選挙戦で見いだされなかった。

インドと中国の間に立って、ASEANを指導する国としても、タイは国際政治で重要性を増している。しかし、それは国内の混乱を解決した場合だけ意味がある。タクシンのビジネス拡大と蓄財は、中産階級と旧エリートに憎まれた。

インラックは、タクシンの恩赦や帰国には慎重である。他方、ポピュリスト的な政策を多く宣伝してきた。これが生産コストを引き揚げ、インフレや景気にとっては逆効果かもしれない、と警告する者もいる。タイには今までも政治的混乱が繰り返されたから、投資家たちは驚かないだろう。しかし、政治混乱は明らかに投資の障害を増している。

500議席中の過半数、265議席を取ったが、タクシンが追放されたとき、彼は377議席を支配していた。王室や軍部など、エリート層が当時よりもタクシンを受容するような変化はない。

WP Friday, July 8, 2011

New hope in Thailand’s peaceful change of government


l         アメリカの覇権

WSJ JULY 2, 2011

The Future Still Belongs to America

By WALTER RUSSELL MEAD

金融危機、財政赤字、中東の紛争長期化、アメリカは覇権を失うのか? そんな多くの議論をよそに、MEAD21世紀もアメリカの世紀だ、と主張します。

なぜなら、アメリカにも多くの課題があるが、他の主要国が直面している課題の方がもっと困難だからです。いずれの国も、予想される21世紀の混乱を克服する点で、アメリカよりも優れた国はない、と。

地政学的に観て、中国は世界中でアメリカの指導力を脅かす。それは正しいかもしれない。しかし、中国とアメリカとを単純に比較するのではなく、アメリカが張り巡らせた利害とそれらを共有する諸国を考えるべきだ。

中国はイギリスに挑戦したドイツではないし、アメリカはイギリスと異なる。2011年は1910年と違うのだ。1910年のドイツは衰退する勢力に囲まれていた。フランス、ロシア、オスマントルコ、オーストリア=ハンガリー帝国。ヨーロッパの支配体制は不安定化して行った。

現在のアジアは異なる。中国が台頭するアジアは、当時のヨーロッパと違って、核武装して中国以上の人口を抱えるインドも成長している。ベトナム、韓国、台湾、インドネシア、オーストラリアも成長する。日本もまだ重要な存在だ。それは新興の多極地域システムであり、いずれか一国が支配することはできないだろう。それはアメリカの利益を実現するのに容易な条件だ。

世界中で、アメリカに匹敵する勢力は現れていない。EUもロシアも、経済的に、戦略的に、はるかに貧しい。また、世界のアイデアにおいても、アメリカの構想が21世紀をも支配するだろう。中国共産党も、イスラム過激派も、その思想は力を失って転換を模索している。ファシズムも、共産主義も、再生しないだろう。

こうして地政学的にも、イデオロギー的にも、アメリカの優勢は揺るがない。しかし、さらに深層を見れば、グローバルなゲームの行方はアメリカ国内の動向によって決まる。世界のすべての側面が、科学者や経営者の不断の努力、発明や革新で急激に変化し続けている。金融市場はこれらを刺激し、その世界化を支援する。それは経済的、社会的、政治的な激動をともなう。工業力の移転や人口移動は息をのむスピードで世界を変えている。

新しい思想が現れて、かつての安定した社会秩序を破壊するだろう。若者たちは変化の可能性をつかみ、保守的な老人たちの体制に革命をもたらす。変化はすべての社会を呑み込み、多くの国の政治も、国際環境も動揺し続ける。この激動を制御し、乗り越え、利用することが、政治家と政治体制の生き残りを決める条件なのだ。すべての企業や家族にとっても、そうである。

誰もが強烈なストレスを感じるだろう。しかし、アメリカは他のどの国よりも、この激動を克服できる。変化することこそアメリカの得意分野である。我々がしていること、我々そのものだ。ブラジルは未来の国かもしれないが、アメリカは変化の母国だ。

アメリカ独立、おめでとう。

FT July 4, 2011

America and Europe sinking together

By Gideon Rachman

EUの危機は、アメリカの危機でもある。両者は同じ船に乗っている。景気回復は遅く、政治の分解が進む。弾力的な労働市場、火星人と金星人 “Mars and Venus”、・・・欧米を対比する議論は誇張であった。

もし欧米が双子の危機を克服できなければ、世界は保護主義や資本規制によって分割される。そのとき、中国自身も経済的・政治的危機の一部であるとわかるだろう。

FP Tuesday, July 5, 2011

Diagnosing the American decline: a guest post

Posted By Clyde Prestowitz

Project Syndicate 2011-07-06

The Ideological Crisis of Western Capitalism

Joseph E. Stiglitz

アメリカ型の規制のない資本主義というモデルは影響力を失った。アメリカは規制の必要性、平等や市場と政府の正しい関係を学ぶべきだろう。しかし、そうなっていない。右派の経済学が復活し、イデオロギーや特集利益が支配的だ。

アメリカが財政赤字を克服する処方箋は明白だ。景気を刺激して人々を雇用する。戦争を止める。軍事費や医薬品コストを抑える。少なくとも富裕層には増税する。

しかし、右派はこうしたことを行わず、企業や富裕層に減税を繰り返す。他方、公共投資や社会福祉の支出は削ってしまう。ギリシャやアイルランド、ラトビアを見ても、ヨーロッパがアメリカより優れていると言えない。もっと成長戦略を取るべきなのに、右派のエコノミストと金融市場がそれを阻む。

欧米のどちらかが失敗すれば世界経済は悪化し、両者が失敗すれば破滅的である。


FT July 4, 2011

Brazil risks tumbling from boom to bust

By Paul Marshall and Amit Rajpal

NYT July 4, 2011

Brazil’s Giddy Convergence

By ROGER COHEN

FT July 7, 2011

Brazil’s currency war wounds


l         「国家建設」

LAT July 5, 2011

U.S. foreign policy: In praise of nation-building

By Max Boot

オバマ大統領は、アフガニスタンからの撤退に関して、外国ではなく自国で「国家建設nation-building」を再開しよう、と呼び掛けた。

しかし、アメリカが国際的な関与から国内に転換するとき、それは破滅的な結果をもたらした。歴史上、最も孤立主義が強かった1930年代は第二次世界大戦。1970年代には、"Come Home, America"を唱えたが、南ベトナム陥落、カンボジア虐殺、イラン大使館の人質事件、ソ連のアフガン侵攻があった。1990年代、冷戦終結で平和の配当を求めたが、アルカイダの危険を見過ごした。

イラン、パキスタン、北朝鮮、中東、アルカイダ、中国。それらが抱える危険を知ったうえでも、われわれは孤立主義を採用するのか? アメリカと西側諸国が安全保障を得るためには、国際的な「国家建設」に関与し続けなければならない。

ソマリアやボスニアは、その困難さを示しているが、同時に、その必要性を示している。アメリカが去ったソマリアはテロリストの温床になった。イラクもそうだ。ブッシュ政権は、最初、「国家建設」を嫌った。

効果的な「国家建設」とは大規模な軍隊の派遣ではない。友好的な政治体制が国内の秩序を維持するように支援することだ。「国家建設」に関与したのが問題ではなく、「国家建設」に失敗したことが問題である。

オバマ大統領は「国家建設」を悪者にするのではなく、その改善を目指すことだ。「国家建設」に変わる現実とは、われわれが受け入れがたいものだから。


WSJ JULY 5, 2011

The Economic Case for Supporting Israel

By GEORGE GILDER

イスラエルの経済成果を優れた技術力に見ます。しかし、同じく、パレスチナの紛争についてもイスラエルが正しいのか?


FP Tuesday, July 5, 2011

Is human rights just the latest utopia?

Posted By David Bosco


l         移民政策の自由化

Project Syndicate 2011-07-05

Why More Migration Makes Sense

Ian Goldin and Geoffrey Cameron

ほとんどすべての富裕諸国では反移民政策が取られている。しかし、こうした国が繁栄を続け、また発展途上諸国が貧困を解消するために、移民を受け入れることが望ましい。

グローバルな移民は、1.革新やダイナミズムをもたらす、2.労働力不足を解消する、3.高齢化の問題を緩和する、4.貧困や虐待から自由になれる。逆に移民を制限する国は、成長や競争力を損ない、経済停滞や不平等、分割された世界をもたらす。

確かに高率の移民は短期的に多大の社会的コストをもたらすが、それ以上に大きな長期的利益をもたらすだろう。また、強い反対があっても、過去25年で移民は倍増したし、2030年までにさらに倍増するだろう。急激な経済的・政治的な変化、そして、ますます環境の変化が、人々を土地から切り離して、新しい機会を求めて移民にする。

19世紀までに、蒸気船の発達などが、スカンジナビア、アイルランド、イタリアの人口の3分の1を移民にした。数百万人規模のヨーロッパからの移民が、貧困や虐待からの解放をもたらし、アメリカやイギリス連邦、その植民地にダイナミズムと発展をもたらした。

確かに第一次世界大戦前のナショナリズムや人種差別は移民を減少させた。しかし、第二次世界大戦後、貿易、金融、通信技術の発達は人々の移動性を高めた。今も移民は新興ビジネスに多くの富をもたらし、成長する国で輸送や建設に関わる労働力を供給し、高齢化社会にとっての解決策をもたらしている。

移民は、貿易や経済援助よりも有効な貧困解消策である。ドーハ・ラウンドで貿易の自由化が議論されるように、移民の自由化も推進するべきだ。国内の政治家たちだけに委ねておくには重要過ぎる問題だ。

NYT July 6, 2011

IMMIGRATION UPENDED | CHANGES AT HOME

Better Lives for Mexicans Cut Allure of Going North

By DAMIEN CAVE

FP Thursday, July 7, 2011

The most interesting international political economy news story I have read this year

Posted By Daniel W. Drezner


NYT July 6, 2011

Taxes and Billionaires

By NICHOLAS D. KRISTOF


YaleGlobal , 7 July 2011

South China Sea: A Commons for China Only?

Carlyle A. Thayer

Global Times | July 07, 2011

US walking a tightrope over South China Sea issues

By Zhou Fangyin

国連と国際法によって解決するか、中国とアメリカの軍事力が解決するか?

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The Economist June st 2011

Rising power, anxious state

Rising power, anxious state: Special Report China

Barack Obama and Afghanistan: A gamble that may not pay off

The economics of Arab spring: Open for business?

Thailand’s general election: Lucky Yingluck

Japan’s energy crisis: A matter of trust

(コメント) ユーロ危機の記事がいくつかありましたが、目を惹く内容ではないと思いました。アメリカのアフガニスタン撤退やアラブの春のその後について、語られています。しかし、重要な内容を含むのは、中国の特集記事と、タイの選挙です。

中国共産党に関する他の記事に比べて、この特集記事は、「中所得の罠」について十分な考察があります。それは、言いかえれば、ルイス・モデルと政治改革の遅れを組み合わせたような内容です。また、都市化にともなう底辺労働者の問題を、必ずしも都市戸籍や社会福祉の問題で終わらせず、農村の改革と結び付けています。一部の農村では土地の権利を失うことなく、近代的な集合住宅への転換と土地利用の改善を進めています。

中国の指導部は「中国モデル」を喧伝しなかった、と記事は指摘します。しかし、共産党の内外で、西側のような民主主義や人権を次第に取り入れるジェネラリストuniversalistsと、中国の固有の歴史や文化を重視して収斂を否定する例外主義者exceptionalistsとが対立しています。後者であれば、中国は近代化されたアジアのローマ帝国になるわけです。

タイの選挙で面白いのは、インラックとアビシットの選挙戦略です。タイの民主主義を促す過程なのか、政治的危機とポピュリスト的な競争選挙によって財政破綻に向かうのか?

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IPEの想像力 7/11/11

書くことが思いつかないので、末っ子に頼みました。・・・「何か、最近気になったことを三つ、質問してほしい。」

しばらく考えていましたが、出してくれました。彼の質問は以下の三つです。

1.首相はころころ辞めるけれど、辞めて何の意味があるのか?

2.関西電力は電気を売る商売のはずなのに、なぜ節電するようにテレビで宣伝しているのか?

3.ローマ法王がTwitterを始めたと聞いたけれど、なぜか?

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確かに変です。変な国(弱い国)だ、と思われているでしょう。

政治指導者は権力を得て自分の理想を実現するはずです。しかし、日本では首相がころころ辞める。それは、日本の権力が首相ではなく、もっとほかの形でも行使されるからでしょう。特に、首相は表の顔として「責任を取る」立場にある。日本の政治文化には、「潔く辞める」ことが、マイナスではなく、プラスになるから、辞めることを交渉材料に使いやすい。

むしろ影の(本当の)実力者は、重要な政策(転換や実現)を条件に首相を辞めさせて、次の首相を決める。大派閥や資金力でキング・メイカーとなる人物がいた。それも地方の利害や産業政策を実現するメカニズムとして機能した間は、権力を安定的に行使できたのでしょう。問題は、国民にとって政治が分かりにくく、首相は明確な政治的信念を示さず、はっきり答えられない。政策の細部を官僚に依存した(それゆえ、政治家ではなく官僚が内外の交渉をリードした)、と思います。

外国の指導者は、これほど短命ではない。アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、などは4年から10年の権力行使を担って、初めて尊敬されると思う。良く言われるように、国際交渉で、日本の首相や大臣とは話しても無駄だと思われている。前の会議には参加していないし、次の会議には来ないのだから。官僚が交渉の責任を担うのだ、と言っても、通用しない。

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関西電力は、なぜ電気を売らないために宣伝するのか? The Economistの記事にもありましたが、原子力発電に関東よりも大きく依存する関西が、原発再開に向けて駆け引きをしているのではないか。つまり、福井県の老朽化した原発が廃止されるのを嫌って、関東と同じような節電を呼び掛け、その苦しみを味わうとき、現金な(?)関西人なら原発再開を支持するはずだ。

ところが、ここに橋下大阪府知事の政治的野心がぶつかった。関西地域連合で大阪を副首都にし、石原都知事とも組んで中央権力(財源)の地方分割を狙い、さらに、原発事故で産業が衰退する首都圏から優良企業や工場を移転させ、人材や投資を引き抜きたい。それが、関東と同じ15%の節電を求めるのでは意味がない。・・・関電はアホだ。

もちろん、これらは想像上の理由です。原子力エネルギーの長期的な社会選択を意識した真摯な論争とは思えません。

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「アラブの春」では、経済の衰退、汚職、長期の失業に苦しむ若者たちが、新しい通信手段によって反政府デモを組織した、と言われます。「東欧民主化」では、ポーランド出身のローマ法王が重要な役割を果たしました。

わずかな文字しか伝えないTwitterで、人々の信仰心を高めるのは難しいでしょう。それぞれの宗教が唱える深奥の真理に到達するより、安直な宗教戦争を刺激しないでしょうか? それでも若者の宗教離れが伝統社会の解体とともに進むのであれば、インターネットやTwitterによって関心をつかみ、インターネット上の社会ネットワークで信仰を高める集団に出会う若者は増えるでしょう。すでにアメリカでは、新しいメディアを駆使する宗教右派が政治を動かし始めています。

野球、サッカー、バスケットボール、テニス、などが激しく争う中で、不祥事の続く大相撲は消えてしまうでしょう。同様に、アメリカ国務省も、アルカイダも、中国共産党も、ローマ法王も、インターネット上で、人々の信仰を奪い合っています。

ローマ法王が「アラブの春」で大きな影響を及ぼすとは思えません。イスラム圏ならアルジャジーラです。しかし、無宗教が広がる最大の領域は、アジアかもしれません。既存のイデオロギーや秩序が崩壊し、むき出しの金銭欲や権力闘争が人々の理想を貶めるなら、正義や宗教が求められるでしょう。

Twitterで囁かれる信者との応答は、アジアの数十億にも届きます。

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子供たちに恥ずかしくないような政治を実現するために、私からの提案が一つあります。

首相の孤立化を防ぎ、短期的政争からの距離を置き、国民の長期的利益になるように、首相を補佐する識者を任命する。任期は5年。首相官邸に常勤し、再任は3期まで。政党や政策を支持するのではなく、首相を助け、指導力を高める。在任中は一切口外しない。任期終了後、5年以内に報告書を公表し、補佐した首相(おそらく複数)の権力執行を国民に対して解説し、日本の政治文化を改善する。なぜ、どのような動機で、何が圧力や契機となって、日本の政策は変わったのか? 何が障害や制約、懸念材料となっていたのか?

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