IPEの果樹園2011

今週のReview

6/20-25

 

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ドル暴落 ・・・IMFのガバナンス ・・・NATOただ乗り ・・・救世主メルケル ・・・移民政策の行方 ・・・チェーンストアの無い世界 ・・・アメリカ経済の回復シナリオ ・・・ユーロ危機の結末 ・・・世界政治の変容 ・・・中国経済の過熱 ・・・マイケル・サンデル

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, SPIEGEL, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l         ドル暴落

Project Syndicate 2011-06-09

How to Kill a Dollar

Barry Eichengreen

ドルは変動してきたが、最近はもっぱら下げている。この10年間で、インフレ調整後の価値が4分の1以上も失われた。2011年になって5%を失った。1973年に変動して以来の最低水準だ。

明らかにアメリカ連銀の超低金利政策がその理由である。投資家たちはドルよりもっと利回りのより通貨建ての資産に移動した。そして予想通り、連銀は批判されている。中央銀行がドルの価値を破壊している。購買力を失って、生活水準を悪化させている、と言うのだ。

批判者は、連銀がドルを守れないため、投資家たちの信頼を失って危機を生じるだろう、と警告する。いつか、連銀のドル安政策では物価の安定性を守れないと見なされ、投資家たちは財務省証券を投げ売りする。利回りは急騰し、ドルは暴落するだろう。金融が困難となって深刻な不況となる。

しかし、この連銀攻撃は行き過ぎだ。歴史的に観て、10%のドル安は1%しかインフレをもたらさない。5%のドル安は0.5%のインフレを追加しただろう。アメリカのインフレ率は制御不能ではない。9%の失業率を抱える経済であるから、労働コストが抑えられているのも不思議ではない。連銀はドル安を無視して金融政策を決められる。

「強いドル」という呪文を取り除けば、バーナンキ議長はドル安傾向を歓迎しているだろう。国内需要が弱いとき、純輸出を増やすからだ。また、批判者は連銀の「インフレ・ターゲット文化」を理解していない。強い政治的な監視を受ける中で、連銀は明らかに物価安定の役目をいつでも果たすつもりだ。

もしドルへの脅威があるとしたら、それは金融政策ではなく、財政規律の問題だ。ドル暴落を招くのは、アメリカの予算が無責任な政治家たちによって決められている、という証拠が示されるときだろう。アメリカ議会は政府の債務上限をめぐって政治的紛糾を続け、技術的なデフォルトを起こしかけた。

財政に規律をもたらすため、アメリカに遺された時間は少ししかない。金融危機はいつも選挙のときに起きる。アメリカ大統領選挙は2012年の終わりに迫っているからだ。

財務省証券の投げ売りとドル暴落は同じではない、と言う批判者もいる。ドルは世界中の銀行が利用しており、資金市場からドルを借りて融資している。だから浮動性が増して流動性が枯渇すると、銀行はドルを求めて殺到する。リーマン。ショック後に起きたように、たとえアメリカから金融危機が起きても、ドル高になるのだ。

確かに、短期的にアメリカ財務省証券の危機はドル高を生じるかもしれない。しかし、アメリカの金融市場に深刻な問題があるのだから、長期的に、ドルに頼らない融資方法をグローバルな銀行は探し始めるだろう。ドル高はごく短期間で終わる。

それは連銀にとって悪夢である。高金利で経済活動が崩壊するから、連銀は流動性を供給し、金利を下げて、救済しようとするだろう。しかし、急激なドル安が、同時に、インフレを激しく加速する。それは金融引き締めを求めるのだ。このジレンマに陥った連銀は、アメリカの国内問題を解決する力も失う。

バーナンキは繰り返し財政問題を解決するよう促してきた。議会と、すべてのアメリカ人は、その警告を真剣に受け止めるべきだ。


l         IMFのガバナンス

guardian.co.uk, Friday 10 June 2011

What I would do as head of the IMF

Aurélie Trouvé

IMF議長候補の受付が最終局面となり、私はラディカルな候補者として自分を押したい。

私はフランス人で、経済学の講師、また、グローバルな正義を追求する国際組織Attacの共同議長を4年間務めた。Attacは世界の40カ国以上で活動し、数万人が参加している。1998年、市民団体や組合、オルタナティブ・メディアによって設立され、the World Social Forumの主催団体の一つだ。我々は人々に教育活動を通じて、行動を促している。ネオリベラリズムを否定し、それに代わる富の共有と地球を守る経済の構築を唱えている。

私はIMFの過去および現在の政策を批判する。それは債権者の利益を守り、債務国の社会に野蛮な緊縮策を押し付けた。2008年、ハンガリー、ウクライナ、ラトビア。2009年、アイスランド。2010年、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、アイルランド。2008年の金融危機がもたらした破壊以降、G20も、IMFも、その他の国際機関も、国際金融市場の浮動性を抑える方策を何も取ってこなかった。商品市場でも、債券市場でも、投機は今も暴れ回っている。

私がIMF専務理事になれば、以下の改革を進める。

1.緊縮策をやめる。金融取引に課税し、デリバティブを厳しく規制する。

2.国際的な経済政策の協調を促して、過度な不均衡をもたらす諸国(中国、ドイツ、日本、赤字側では、アメリカ)を是正させる(為替レートの調整、積極的な財政政策、賃金政策)。

3.ドルに代えて、主要通貨のバスケットを国際通貨として使用する。

4.グローバルな不均衡が解消される期間、また、ショックに襲われたとき、困難に陥る諸国に対してSDRで支援する。

5.IMFを国連の一部とし、加盟187カ国の一国一票制で民主的な決定に従わせる。大国による理事会の支配を終わらせる。

FP JUNE 14, 2011

Why Would Someone Hack the IMF?

BY JOSHUA E. KEATING

国務省だけでなく、IMFの情報も狙われた。国際機関は各国の代表とスタッフによる運営に互いの秘密情報を盗む機会がある。それは正確な情報提供を妨げる。

NYT June 15, 2011

After the Scandal, More of the Same at the I.M.F.

By KENNETH S. ROGOFF

IMFのガバナンスは深刻な危機にある。専務理事の選考はIMFの正統性を得る機会であった。しかし、その選考過程(ソ連型の似非選挙)を改革する機運はあったが、ストロス・カーンのスキャンダルと突然の辞任により、その後任争いでは無視されている。専務理事はヨーロッパが出し、No.2はアメリカが出す、というやり方にオバマ政権は従いそうだ。

しかし、世界市場はヨーロッパよりも中国市場の将来に関心を持っている。債務依存のアメリカ経済を支えるのは中国からの投資だから。IMFのガバナンスが改善できなければ、将来の危機に対応できないだろう。ヨーロッパの債務危機だけでなく、日本にも膨大な債務が累積しているし、中国経済の急速な成長が終わるかもしれない。次のIMF融資がアジア向けであることも大いにあり得る。アメリカでさえ、10年、15年と財政赤字を続ければ債務危機を生じるだろう。

もし急速に成長するアジアやラテンアメリカの諸国がIMFに関心を失えば、実際、アジア諸国は1997-98年のIMFに強いられた緊縮政策を今でも嫌っているが、IMFはヨーロッパや日本、そして新興市場の経済に融資する資金を得られないだろう。金融、財政や規制に関して強いメッセージを発するには、新興諸国から専務理事を出すべきだ。

次の専務理事をフランスのラガルドChristine Lagarde蔵相に充てるだけで、IMFのガバナンスに対する様々な批判はかわせない。ラガルドは法律家であり、IMFが決定を求められる経済問題の詳しい知識がない。もう一人の候補であるメキシコのAgustín G. Carstensは、シカゴ大学から経済学のPh.Dという最高の適格保証を得ているだけでなく、すでにIMFの理事として組織内でも知られている。ヨーロッパがIMF融資の最大の焦点であることも承知している。融資だけでなく、厳しい改革をIMFが要請しなければならない。

ヨーロッパに偏った理事会の構成をそのままにして、選考だけを改善することはできないだろう。No.2John P. Lipsky8月に辞任するので、アメリカが後任を決める。注目されていないが、重要なポストである。これまで3人の専務理事は任期を終えずに辞任した。ラガルドが辞任した場合、トップに就くからだ。


l         NATOただ乗り

FT June 10 2011

Gates warns Nato alliance at risk

By Peter Spiegel in Brussels

「歴史上最強の軍事同盟が、人口もまばらで装備も乏しい国に対する軍事作戦を始めてわずか11週間である。」・・・「ところが多くの同盟諸国で弾薬が不足し始め、再び、アメリカに決定的な作戦を指揮するよう求めている。」 これは何だ? アメリカの国防長官Robert Gatesはブラッセルで警告した。集団的な軍事力は無意味になっている。アメリカ政府はヨーロッパの防衛不安に財政的に耐えられないし、政治的にも支持できないだろう。

The Observer, Sunday 12 June 2011

Does Nato have a purpose any longer?

第二次世界大戦後、ソ連からの軍事的脅威から守る、という明確な目標も失われた。その後のNATOの作戦は、1999年のベオグラード空爆のように、常に論争になっている。

今も、NATOはアフガニスタンでタリバンと戦っているが、その負担をめぐって不満が強く、有志国しか参加していない。リビアでも作戦を続けるが、ゲーツ国防長官はヨーロッパに強い不満を述べている。

もし他の地域で軍事作戦の必要が生じたら、たとえば、加盟国を東に拡大することでロシアが隣接諸国への干渉を始めたら、グルジアで5日間の戦争が起きたように、NATOはどうするのか?

NYT June 15, 2011

Can the Europeans Defend Themselves?

Josef Joffe: ヨーロッパは、最初から、NATOにただ乗りしてきた。全部アメリカ製だ。世界最大の経済規模を持つ、人口5億人のEUがあるのだから、62年経っても矛盾は増すばかりだ。しかもアメリカは、小皇帝、サルコジに従い、出撃を繰り返している。第4次世界大戦のヨーロッパに宇宙基地からの情報を提供する、というわけではない。オバマ政権は三つの戦争(イラクもまだ終わっていない)を戦っている。ヨーロッパ諸国は軍事費を分担するべきだが、最大の経済規模であるドイツはその情報も公開していない。

Kori Schake: NATOはヨーロッパの外で発生する軍事的緊張にアメリカを関与させるため、ヨーロッパに準備がないことを考慮して設定された。しかし今やアメリカ軍はNATOを中心に展開していない。NATO司令部より、地域の作戦本部が重要だ。ヨーロッパ安全保障に対するアメリカの関与が低下すれば、ヨーロッパは自分でロシアとの境界地域を管理し、ヨーロッパ周辺部の「凍結された紛争」を解決しなければならない。ポーランド、スウェーデン、そしてドイツにも、その意志は存在する。核抑止についても、軍事行動の分担についても、アメリカは協力しつつ、ヨーロッパ側に解決を求めるだろう。

James Goldgeier: ヨーロッパ市民は軍事負担の必要を認めていない。また、財政危機が続いて財源を損なっている。長期的な解決には、ヨーロッパが共通の安全保障・外交政策を示すことだ。昨年、軍事資源の共通利用について、英仏は画期的な合意に達した。ヨーロッパ規模にまで拡大するべきだ。21世紀にもNATOが維持されるとしたら、テロや大量破壊兵器(核兵器)のような、欧米の安全保障に影響する域外の問題に対応する能力を高める軍事同盟を確立しなければならない。そこには他の地域から、オーストラリア、日本、韓国、など、民主主義諸国の参加が求められる。

Lawrence S. Kaplan NATOは、1949年に、ヨーロッパ側の軍事力が不十分であることを認めた不均等な「大西洋間取引」を受け入れた。それはヨーロッパ側が経済改革と、ソ連に脅威に対する防衛協力を約束することで成立した。ソ連崩壊は、当然、この同盟関係を損なった。ヨーロッパは1990年代にユーゴスラビア解体に対処できず、また、2003年のアメリカによるイラク侵攻というユニラテラリズムを否定して、同盟を終わらせたはずだった。しかし、どの加盟国も離脱していない。欧米双方が2世代にわたる同盟関係の利益を認めている。これに代わるものはない。

FT June 15 2011

Gates was far too nice about Nato’s failings

By Constanze Stelzenmüller

真の問題は、米欧双方がNATOというクラブ自体の目的が変化したにもかかわらず、それを認めようとしないことだ。

NATOはいつも2重構造だった。アメリカは軍事力を行使し、ヨーロッパはそれに理由(隠れ蓑)を提供する。ソ連の脅威があるときは、双方の対立は重要でなかった。しかし、今では軍事的な抑止力に代わって、多くの危機を共同で管理している。内戦から無秩序な移民流入まで、米欧間で、また、ヨーロッパ内部で、何が安全保障にとってのリスクであり、軍事力行使の問題か、意見が対立している。リビアは例外ではなく、新しい現実なのだ。

しかも、リビア攻撃において、ヨーロッパの弱さが明白になった。意志決定は遅く、外国文化の理解に乏しく、最も親しい同盟国を信頼できない。それはNATOを破壊するものだ。

アメリカが関与を低下させるとき、ヨーロッパはその軍事負担を引き受ける。しかし、情報収集や監視、軍備の拡充・更新、高度で複雑な技術に関しては、アメリカでさえ負担しきれないほどの防衛予算が必要だ。フランスやドイツにも手が届かない。アメリカの軍事力にただ乗りを続けるか、あるいは、EU全体で合意しなければならない。


FT June 10 2011

Lessons from Kosovo for Nato in Libya

By Christopher Caldwell

12年前、NATOはセルビアが支配するコソボ地域を解放するために空爆を開始した。その目的は、コソボの自律と、セルビアのテロ掃討作戦(NATO諸国はジェノサイドと呼んだ)を終わらせることだった。しかし、セルビア側の抵抗は予想以上に強く、NATO諸国は軍事介入の失敗を懸念した。介入の重大な結果の一つは、ロシアがNATOを信用しなくなり、プーチンの敵対的な政権を生んだことだ。また第二に、主権国家の支配者が住民を不当に扱ったとしても戦争の理由にならない、という原則を終わらせたことだった。それはイラク戦争につながった。

コソボ空爆は、現在のリビアに対するNATO軍の介入とよく似ている。ともに人道的な悲劇が起きるのを防ぐと言う理由で始まったし、内戦をもたらし反政府軍を支持することになった。ともに地上の軍隊を空爆したが、市街地も空爆するようになった。オバマは、クリントンと同様に、あらかじめ地上軍の派遣を排除した。ともに3月半ばに始まり、数日もしくは数週間という短期の作戦を予想していた。しかしコソボは3カ月近く続いたし、リビアもまだ終わっていない。

西側の支持は曖昧だ。アメリカ国民は空爆を支持しているが、これ以上の関与には反対だ。軍事的な手段が効果的でないことではなく、戦争目的に十分な合意がないことに、有権者は不安を感じている。NATO軍はトリポリにも白昼の空爆を始めた。それはコソボの転換点となったベオグラード空爆に似ている。1999年、NATO軍はクラスター爆弾を使用し、歴史的な橋や、中国大使館を誤爆した。KLAをテロ組織から改名し、NATOの同盟軍とした。

カダフィはラジオ放送で問いかけた。「われわれが地中海を超えて、お前たちの国を攻撃したとでも言うのか?」 これはミロシェビッチなら正しい反論だ。しかしカダフィは、ベルリン、ロカビリー、スイスで、テロ攻撃を指令した。この作戦が失敗に終われば、人道主義は無視されるだろう。西側はカダフィを、旧い意味での「敵」とみなす。

LAT June 12, 2011

The West is still waiting for its Libya gamble to pay off

Doyle McManus

 (China Daily) 2011-06-13

Bleak outlook for resolving Libyan crisis

By Cang Lide

キッシンジャーは、これが民主化出るとも認めていない。民主主義の成長を促すために何ができるか。5幕物の劇の、まだ、第1幕に過ぎない。NATOのミサイルは多くのクレーターを作っている。リビアの空白を埋めるものは何か、後に来る重大な結果に対して責任がある。

The Guardian, Wednesday 15 June 2011

Defence policy: Learning from Libya

イギリス海軍やゲーツ長官の警告に対して、ヨーロッパの防衛計画が長期の答えである。しかし、実際、ヨーロッパには集団的意志も財源もない。多くのヨーロッパ市民はイラクとアフガニスタンが終わればホッとしている。それもまた、ヨーロッパの衰退を示す一つの兆候だ。

WP June 15, 2011

In Libya, a minefield of NATO miscues and tribal politics

By David Ignatius

LAT June 15, 2011

Legalizing the Libya mission

オバマ大統領は、ブッシュ政権と同じような大統領の戦争大権によらず、議会でリビア軍事介入を承認させるべきだ。


l         救世主メルケル

FT June 10 2011

A deepened disillusion with Germany

By Quentin Peel

ヨーロッパ最強の指導者であり、最大にして最強の経済を監督するドイツのメルケル首相が、今までにない攻撃にさらされている。国際的な評価、国内の支持率、地方選挙で、その地位は後退している。

ユーロ危機から原子力政策といった重大問題で、ドイツの指導者は国内目標を優先してEUの連帯を犠牲にした、と非難されている。NATOのリビア介入では同盟国の忠誠を損なった。腸管出血性大腸菌の感染源でも、消費者のパニックとスペイン政府からの抗議を受けている。

ドイツは1990年の東西再統一によって国民の態度に政策決定が偏るようになった、と言われる。ユーロ危機で、怠惰な赤字国への「財政移転」を非難するドイツ財務相の言葉は、1980年代にEU財政を非難したマーガレット・サッチャーにそっくりだ。ドイツ人は、救済を制度化することがどれほど大きな間違いであるか、よく知っている、とあるエコノミストは述べる。ECBやフランスに反対して、ドイツは債務組み換えによる債権者の負担を拒んだ。

日本の大地震と原発事故に驚き、原子力エネルギーの政策を逆転させる決定についても、メルケルはその影響を受けるEU諸国に何も相談しなかった。ベルリンでは、こうした政策転換をEUからの逸脱ではなく、自分たちがEUを指導すると感じている。しかし、そうは思えない。メルケルは余りにもドイツの有権者を意識している。

リスクを嫌うメルケルが、支持を失い、ドイツの安全を損なう。

guardian.co.uk, Wednesday 15 June 2011

Everywhere, the European project is stalling. It needs a new German engine

Timothy Garton Ash

荷物を積み過ぎたトラックが上り坂で停止しようとするように、ヨーロッパのプロジェクトは停止しつつある。もし停止すれば、緊急のブレーキでも斜面を滑り落ちるのを止められないだろう。トラックは制御できなくなって、道路から急角度で飛び出す。警告を発する者はいるが、他の者は意識を失い、後部座席で眠っている。我々を救いだす一人の女性を呼ぶしかない。その名は、メルケル。

ギリシャとユーロ圏の存続が最も差し迫った危機だ。アテネの騒乱と、ブラッセル、ベルリン、フランクフルト、ルクセンブルグ、ユーロ加盟諸国は集まって議論したが分裂したままだ。アイルランド、ポルトガル、スペインでも、若者や失業者たちは将来を見ない利己的な政治家への不満を強めている。そして融資をやめるべきときでも融資を拡大したフランスやドイツの銀行家だ。

ユーロ圏だけでなく、ヨーロッパの主要プロジェクトがすべて崩壊し始めている。国境管理を廃止したシェンゲン協定も、北アフリカからイタリアのLampedusa島へ移民が急増したことで逸脱した。多くのEU諸国でイスラム教徒の移民を統合化する問題でパニックが起きている。連帯と社会正義は1945年にヨーロッパのプロジェクトが始まったときの中心的価値であったが、政府支出カットや公的債務の制限で不平等が広がり、どこでも後退しつつある。

アラブの春は、21世紀のもっとも大きな希望であり、1989年の民主化を連想させた。しかし、集団的・制度的な反応はわずかなのもである。このままでは、アラブの春が秋になり、失望に変わるだろう。リビアの軍事介入も、決定は遅く、合意に達せず、ヨーロッパでは慢性的に、軍事力がうまく集中できない。

最も成功したプロジェクトであるEU拡大も停止しつつある。EU加盟はセルビアのような国を改革する力になる。しかし、トルコの最近の選挙で勝利した首相はEUに全く触れなかった。それに代わって描かれたのは、オスマントルコ帝国だ。

ヨーロッパのプロジェクトが動揺しているのは指導力が失われたからだ。Helmut Kohl, François Mitterrand and Jacques Delorsの時代、そして創立者たちの時代は、今や色あせてしまった。彼らは戦争や占領、ホロコースト、ファシストや共産主義の独裁体制を個人として体験していた。ソ連の脅威はヨーロッパの連帯を強めた。ヨーロッパの統一を支持する寛大でエネルギーに満ちたアメリカがいた。西ドイツはヨーロッパ統合の強力なエンジンであり、フランスは運転席にいた。

ドイツが国家目標であった再統一を実現し、ソ連ではなく、中国のような西側以外の新興国から挑戦を受けている。それらは統一への感情的な動機を失わせる。鍵を握るドイツには、不完全な設計のまま拡大したユーロ圏を建て直すために、例外的な政治的関与が求められる。

ここでアンジェラ・メルケルが登場する。外交や安全保障でドイツが特別に寄与することはないだろう。しかし、EUの経済面と通貨面に関しては、ドイツこそ欠かせない国である。ドイツとECBが同盟するときだけ、強力な市場の反乱を鎮静化するチャンスがある。

1年以上も、メルケルはユーロ圏の周辺諸国を救済する最小レベルと、ドイツの世論に耐えうる最大レベルとを一致させる努力を続けてきた。そしてユーロ圏の他の諸国にその方針を受け入れさせてきたが、それは危機を解消できていない。メルケルは方針を変えるときだ。

ECBや他のユーロ圏加盟国といっしょに、何が最善で、利用可能な、最も信用できる解決策であるのか? そして、長期的に、ドイツの国益を実現する者なのか、決めるべきだ。ユーロ圏の解体から、ヨーロッパ大陸の中心勢力であるドイツ以上に大きな損失を被る国はない。その決断が手遅れになる前に。

SPIEGEL ONLINE 06/15/2011

Germany's Waning Influence

An Outsider on the Global Stage

A Commentary by Dirk Kurbjuweit

インド、シンガポール、アメリカを訪問したメルケル首相は、世界の指導者が耳を傾けるリーダーなのか?

世界的国家であるアメリカに比べて、メルケルが帰国するドイツは、世界政治の中で、小さな、地方国家である。壮大なベルリンではなく、眠りを誘うボンにメルケルの飛行機が帰着したとしても、何も驚くことはないだろう。


l         移民政策の行方

NYT June 11, 2011

Europe’s Arizona Problem

By CHRISTOPHER CALDWELL

ギリシャの債務危機やリビアへの軍事介入と並んで、EU諸国が論争している問題がある。移民とEU内の境界問題だ。

中東と北アフリカからの新しい移民が増加することに、EU諸国は不安を強めている。1985年と1990年にできたシェンゲン協定によって、どこかの国に入国すれば移民は他の国(イギリスとアイルランドを除くEU22カ国とその他の条約批准国)にも来る。ユーロ圏と並んでシェンゲン協定はヨーロッパ統合のシンボルである。

しかし、イタリア政府と国民は大規模な移民流入を嫌っている。ベルルスコーニ首相は、8000人に6カ月の滞在を許すビザの発給を、政治交渉のカードとして利用した。チュニジアはフランス語を使用するから、ベルルスコーニの苦しみはサルコジのものになる。フランスがイタリアとの国境を数時間封鎖したことはヨーロッパの指導者たちを驚かせた。二人は共同書簡を発表し、大規模な難民流入に対して、一時的にシェンゲン協定を停止する措置を求めている。

ヨーロッパが外部との境界に大きな穴をあけたままであることは、各国を不安にさせる。特に、デンマークのLars Lokke Rasmussen首相は、ドイツやスウェーデンとの境界を再封鎖できるよう要求している。デンマークはヨーロッパのアリゾナだ。ヨーロッパ諸国の中でも移民に対して最も敵対的である。他国でも、ポピュリスト政党や移民排斥の主張が強まっている。既存の支配政党は、明らかに経済的な利益の点で、シェンゲン協定に対する国民の不信を疑っている。しかし、ポピュリスト政治家たちは、シェンゲン協定を悪用して、移民たちは簡単に入国し、仕事や福祉を盗もうとしている、と主張する。

唯一の対応は、EUが共同で境界を守ること、すなわちFrontexの拡充だ。サルコジとベルルスコーニの要求に対して、欧州委員会はユニラテラルな境界管理の導入ではなく、EUレベルのメカニズムを築くことを望んでいる。しかし、ユーロ圏が財政危機に揺れ、緊縮策で政治は動かない。

緊急の国境警備を各国に委ねる結果、ヨーロッパ建設は一歩後退する。

FT June 14 2011

Fortress Europe: A line to hold

By Tony Barber

「東のギリシャ=トルコ国境から、アフリカ西海岸沖のスペイン領化なり諸島まで」 エリトリア、イラク、アフガニスタン、バングラデシュから、数万人の難民がヨーロッパの原則を試しにやってくる。すなわち、連帯、負担の共有、人権。北欧、西欧、中欧の諸国は南部や南東部の境界から非合法に入り込む移民たちの一部受け入れを嫌っている。

「ユーロ危機はヨーロッパ統合の進化で対応し、移民危機はヨーロッパ統合の後退で対応する。」

公式統計では、2010年初めから2011年の初めまで、EUへの非合法移民は約10万人であった。それは人口5億人のわずか0.02%である。しかし、エジプトやチュニジアの蜂起、リビアの内戦、サブサハラ諸国における慢性的な不安定化は、とめどない移民流入を予感させる。それがポピュリストや右翼政治家の選挙材料になっている。

共同の国境警備は成果の点で曖昧だ。他方で、人口減少と高齢化の進むヨーロッパは移民を求めている。北アフリカからヨーロッパへの移民を合法化し、貿易体制の自由化と教育や職業訓練の拡充をも必要としている。

YaleGlobal Online 14 June 2011

People on the Move – Part I

Joseph Chamie

半世紀前、世界人口の中で7700万人が移民であった。現在は約21400万人に達し、年間2%で増加してきたことになる。このままの傾向が続けば、21世紀半ばには5億人の移民がいるだろう。

信仰やエスニシティ、政治的反対は、社会集団への帰属などを理由に弾圧され、移民となる者もいた。しかし、主要な理由は彼らの生まれた土地が余りにも貧しく、働く機会の乏しいことが移民の理由である。

移民に対する不安を反映してEUは境界の規制を強化しているが、それは非合法移民を増やすだろう。たとえ受入国が移民を抑制しようとしても、これほど大きな生活水準の格差と人口増加の不均衡があるため、移民の強力な動機をなくすことはできない。

「すべての政府は移民を管理したいと願っている。健康、所得、年齢、教育、出身国、などによって注意深く選択し、非合法な移民を受け入れたくない。しかし、非合法移民の増大に比べて、こうした政策は遅すぎるし、小さすぎる。倫理的、人道主義的な視点で、資本や財の国際移動と同じく、移民を自由化するよう求める意見もある。しかし、非合法移民に効果的に対処できないなら、非合法に入国する者の生存を危険にさらし、ルールや法の実効性を損ない、ローカルなサービスや国境・国内の監視コストが増大するだろう。そして合法移民への政治的支持が失われ、大衆の間に反移民感情が高まるだろう。」

FT June 15 2011

The masses huddle at Europe’s doors

国際機関とも協力して、ヨーロッパへの移民を合法化し、均衡のとれた形で実現するべきだ。特に、非合法な移民組織を取り締まる必要がある。

YaleGlobal, 16 June 2011

People on the Move – Part II

Immigration policies that promote inequality and restrict integration weaken South Korea

Steven Borowiec

5月、韓国の新聞は殺人事件を伝えた。19日前に主産したばかりのベトナム人の妻を韓国人の農夫が殺害したのだ。この事件は、韓国の人口変化と、グローバルな多文化社会への移行に生じた問題を示すものだ。2010年にも、ベトナム人の妻が結婚して1週間で殺害された。2008年には、ベトナム人女性が、夫と義母の虐待を苦にして、アパートから投身自殺した。

韓国の人口は減少し、高齢化が進んでいる。日本による占領支配を受ける以前は、多くの移民が流入して発展した。男尊女卑の文化は女性の不足をもたらし、花嫁を輸入しなければならない。特に農民は、WTO加盟後の農産物輸入自由化によって急速に減少した。首都ソウルに集中した人口が求める大量の食糧を、大企業はアフリカなどで土地契約による耕作地を拡大して輸入している。

韓国は労働者を輸入することで大きな利益を得られる。しかし、雇用許可制度は韓国企業の申請による3年間の許可証であり、労働者は移動できないため、賃金不払いや不当な雇用関係を強いられる事件も起きている。さらに、2008年の金融危機など、不況に際して移民たちは政治的なスケープゴートにされる。

競争力と満足を高めるためには、韓国がその政策をエスニックの純粋さによって決める姿勢を変えるべきだ。


l         チェーンストアの無い世界

WP June 11, 2011

Imagining a world without chain stores

By Marc Levinson

大安売りを求めて、毎日のようにアメリカ人はチェーンストアに通う。チェーンストアの無い世界なんて想像できない。だが、もしチェーンストアがなければ、世界はどうなるか?

それは少し1930年代に似ている。大恐慌のさなか、割引販売が批判された。多くのアメリカ人が家族経営の小売店で働いていたが、チェーンストアはその抜群の購買力で納入業者にディスカウントを要求した。それが個人商店(mom-and-pop shops)の価格も下げたのだ。チェーンストアの利潤を奪うために様々な課税を行われた。

75年前に反チェーンストア感情が高まり、F.D.ルーズベルトは、ディスカウントセールを禁止するthe Robinson-Patman Actを成立させた。チェーンストアは、詳しい広告を求められ、生産者からの直接仕入れや大量購入を禁止され、小規模な商店と同じ価格で買わなければならなかった。その優位はほとんど失われたのだ。

しかし、チェーンストアの無い世界はユートピアではないだろう。必ずしも、良い報酬を得て、ユニークな商品を、地元で生産したわけではないだろう。また、明らかに独立した商店が多くなったが、すべてが繁盛した店ではないだろう。高い報酬で働く組合労働者が増える、ということもないだろう。チェーンストアが少なく、独立の商店が多かった頃は、顧客がユニークな商品や個性的なサービスを求めたのではなく、商店の信用買を利用した。それは商店に損失をもたらすこともあり、倒産につながった。多くの店が数年しかもたなかった。

そして、チェーンストアの無い世界では製造業者が、今以上に、価格を支配するだろう。小規模の商店には価格交渉力がない。生産者の言いなりで売るしかない。他方、ウォル・マートのようなチェーンストアは、価格を引き下げ、ブランド間の競争を促す力がある。何より、チェーンストアの無い世界は非効率であろう。生産、輸送、保管、販売のすべての面で、チェーンストアの大量注文は効率を高めている。

議会がチェーンストアを縛り上げようとしてから4半世紀後、1962年にKマート、TargetWal-Mart1号店が開店した。1962年、ディスカウント革命が起きたのだ。チェーンストアは今も人気がある。


l         アメリカ経済の回復シナリオ

FT June 12 2011

How to avoid our own lost decade

By Lawrence Summers

2008-09年の金融崩壊は回避したけれど、アメリカ経済は今も失われた10年の途中にある。労働人口の割合は63.1%から58.4%に低下し、1000万人以上の雇用が失われた。経済成長が潜在能力を下回る時期が長引くと将来にも影響する。大学の新卒者が仕事を見つけられない。教育水準が低下する。税収が減って財政赤字が増える。

人々は仕事を変わることが亡くなり、すべての人口グループで雇用されない割合が増えている。雇用者側がすべての面で市場を支配力を得ている。

需要に制約された経済は通常の経済と異なる。さまざまな経済政策が成長や雇用をもたらさないか、逆効果になる。不況によって人々は借入を減らし、貯蓄を増やす。それは需要を減らし、それゆえ雇用がさらに減る。職業訓練も需要を増やすことにはならない。生産性を改善する政策は、需要の制約によって、むしろ雇用を減らすだろう。

伝統的に、アメリカ経済はすぐに需要が回復し、不況から確実に回復した。第一次世界大戦後の深刻な不況は二つだけであるが、2年以内で6%以上の成長を回復した。戦後のアメリカの成長はインフレによって実現していたからだ。インフレが加速すると連銀が金融を引き締めた。インフレが減速すると金利は急速に低下し、延期されていた投資が一斉に現れた。

今では、より慎重な金融政策により、成長はもはや、インフレ加速とそれを止める連銀のブレーキで決まらない。1980年代にボルカーがインフレを抑制してから、これまでの景気拡大はより長期間続いた。そして自信過剰から資産価格が上昇し過ぎ、富の増大から過大な借入と貸付、支出が行われた。バブル崩壊後、延期された投資はないし、むしろ過大な投資(住宅や工場)が残された。消費者は富が予想外に少なく、担保価値も失い、債権者による返済要求が強まったことを知る。

民間支出の減少は構造変化によっても強める。たとえば、町の書店はメガストアに代わり、さらにインターネット書店に代わり、e-booksに代わる。経済の生産能力は高まるが、同時に、その需要をもたらす力は、小売りの中産階級や卸売り段階の支出性向の高い労働者から、支出性向のはるかに低い人々に、資源が移転されることで、その折り合いによって決まる。

金融危機は、皮肉なことに、過剰な自信と借入、貸出によって起きるのだが、自信と借入、貸出によってのみ解決されるのだ。

財政再建の論争は、財政の信頼を損なう最大の脅威が低成長の長期化であることを認めねばならない。中期の緊縮策を議論するときも、この数年の成長に注意するべきだ。今もデフレ傾向が続いており、刺激策をやめることは間違いだ。

インフラの維持と更新を延期するのは経済を損なうものであり、10年でも3%以下の低金利を利用して投資するべきだ。Dodd-Frank法案による金融市場の改革も正しい。需要不足によって制約される経済において、オバマ政権は正しい政策を行ったし、さまざまな改革を進めるべきだ。

現実を直視し、アメリカ経済はその回復力によって強さを示すだろう。

WP 06/15/2011

Are we stumbling into another recession?

By Robert J. Samuelson

FT June 15, 2011

Teetering US economy needs more stimulus first

Roger Altman

オバマは議会共和党と有意義に合意を得た。財政再建に取り組みつつ、それゆえ、当面の景気回復が弱いことに対しては刺激策を続けるべきだ。

WSJ JUNE 15, 2011

A Welfare State or a Start-Up Nation?

By ALLAN H. MELTZER

大きな福祉国家を維持するために増税することは、資源の非効率的な利用を増やすことになる。政府支出を減らし、特に医療保険を減らすことが、資源の効率的な利用と成長をもたらす。

所得を財政的に再分配しても、アジア、ラテンアメリカ、アフリカは貧困を減らせなかった。資本主義的な発展と開放経済が、50年間で福祉政策が実現した以上に、この10年で大幅に貧困を減らした。1950年代に日本が生産者を世界市場の競争に向かわせた。それが資源の効率的な利用をもたらした。韓国、台湾、香港シンガポール、そしてついには中国が、この成長モデルを採用した。チリも早く採用したし、今ではブラジルやアフリカにまで広がっている。

アメリカも教訓を学ぶべきだ。

オバマ政権は政府が行動しなければ景気はもっと悪化した、と主張する。しかし、政府がケネディーやレーガンの政策をまねていたら、もっと成果があっただろう。規制緩和し、所得に対する限界税率を下げることだ。オバマ政権は増税し、規制を増やし、恣意的に行い、将来の不確実性によって投資と生産性を損なった。

オバマとその支持者は「公平さ」を求める。しかし、成長率を低めるような再分配政策は、将来世代を犠牲にして現在の有権者に多くの福祉を与えるものだ。子供たちが投票できないからと言って、このような不公平は許すべきではない。成長率が1%低くなれば、1世代で一人当たり所得水準が25%も失われる。

「より効率的な資源の利用」こそ、合理的な政策選択の見失われた基準だ。われわれは社会支出を減らし、押しつけがましい規制を減らし、公的部門でも民間部門でも、資源のより効率的な利用を増やすべきだ。

WP June 16, 2011

Using German ingenuity to fix our economy

By Harold Meyerson

世界の他の諸国(Germany, China, Turkey, Singaporeなど、9カ国)に学べば、住宅融資の審査を厳しくし、企業に労働者の訓練を求め、消費税を導入することで、アメリカ経済は回復できる。他方、共和党員は議会で、単純に、企業への規制緩和と税をなくせば良い、と主張している。アメリカはアジアの低賃金地域とも競争できる、と。

より多くのエコノミストや政策評論家はドイツの教訓を学んでいる。先進的な経済がグローバルな競争において成功し、所得水準を下げることなく、上昇させたからだ。

ドイツの成功のカギは、経済に占める割合がおよそ2倍もある製造業の繁栄にある。経営者、労働者、政府の3者が、国内の高付加価値生産を維持して賃金を競争的にすることで合意している。外交評議会の元議長、Leslie Gelbは、貿易黒字と相対的な低失業率を、ドイツの3者体制によるものと考える。グローバリゼーションにおいて競争力を維持するドイツの政策は、アメリカと全く逆である。住宅の所有は限られ、教育(職業訓練や技術教育も含む)を改善し、労働組合を強く維持して、それゆえ、経営トップの所得上昇と中間層の賃金上昇とはほぼ比例している。

何十年間もアメリカのグローバリゼーション政策を支配した自由放任は見直されつつある。しかし、ドイツのシェアホルダー資本主義を決定的に他のモデルと区別しているのは、二つの点である。1.ドイツの製造業、特に優れた製品で世界市場を支配するような中小企業は、資金調達を資本市場に頼らず、株主に従わない。2.製造業を維持し、改善を支持してきたのは、法律によって求められた、経営者と被雇用者の代表が同数を占める経営陣である。

アメリカ企業の経営陣もドイツに従って再編し、海外生産拠点や国内の低賃金を見直すときだ。


l         ユーロ危機の結末

FT June 12 2011

Why debt rescues will boost the scenario of a closer union

By Wolfgang Münchau

EU諸国は第二次のギリシャ融資に合意した。これは最終的な解決、すなわち、ヨーロッパ財務長官、中央集権化した銀行処理、ユーロ債の発行、への前進であり、長期的にはより緊密な政治統合に向けた進展を予想させる。

なぜなら、救済融資が増大するほど、債権国側がデフォルトを避ける必要も強まるからだ。

統合化を進めるには、EU諸国が政府間協力に頼って失敗してきた歴史を繰り返してはならない。救済融資を欧州安定化基金ESMとして決めたのは閣僚会議であった。それは新しい条約ではなく、政府間合意として協力する形を取った。官僚や法律に縛られることなく、政治家たちは協議できるからだ。

しかし、条約の外で合意しても何も進まない。むしろ、欧州委員会の金融担当委員(Olli Rehn)とユーロ圏の財務大臣会議議長(Jean-Claude Juncker)の地位を統一して、欧州財務長官を設けるのが良い。そのような統一はリスボン条約で外交と安全保障に関する先例がある。欧州財務長官は、ユーロ圏に参加している国の特権濫用を監視し、ユーロ圏内の危機の波及を抑える。

Dani Rodrikが述べたように、グローバリゼーションには「不可能性定理」がある。国民国家による完全な支配、国境を超える経済統合の深化、完全な民主的支配。これら三つは同時に完全に実現できないから、選択するか、妥協しなければならない。

今、一層の統合化を支持する者は少ないだろう。しかし、救済融資を繰り返すことで、将来の政治統合を有権者も受け入れる。

SPIEGEL ONLINE 06/13/2011

Complaints Against Rescue Fund

By Dietmar Hipp

FT June 13 2011

The eurozone heads for break up

Nouriel Roubini

危機回避のための救済を繰り返しても、経済的に、また競争力の点で、EU加盟国間の差は解決できないから、混乱したデフォルトによるユーロ圏の崩壊、もしくは、弱い国の離脱は迫っている。

ユーロ圏は最適通貨圏の条件を満たす諸国ではなく、金融・財政・為替レート政策を失うことで、参加国は構造改革を加速する、と期待された。生産性と成長とが収斂するはずだった。

しかし、参加国はユーロの威光によって金利が収斂し、財政政策の違いが大きくなった。財政規律を欠く国や不動産バブルに酔う国が出て、低金利を享受できた諸国の構造改革は先送りされた。そして生産性上昇に比べた賃金上昇率はますます乖離して、周辺諸国では競争力が失われ、た。

すべての成功した通貨同盟は最終的に財政統合と政治統合を実現した。しかしヨーロッパは政治統合を嫌い、財政統合についても中枢諸国の財政によって周辺諸国の債務も支払うことになる。中枢の納税者たちがそれを受け入れる見込みはないだろう。たとえ債務を再編し、「リプロファイリング」しても、競争力の不足が解決できない。

周辺諸国の競争力を回復する選択肢は限られている。1.大幅なユーロ安の促進(ドイツの競争力がさらに強まる。ECBが強く反対する)。2.ドイツ型の生産性改善と賃金抑制(ドイツでさえ10年以上かかった。周辺国は今すぐ成長を必要としている)。3.長期の物価下落と不況(アルゼンチンが試みて耐えられず、放棄した。ECBは今も主張している)。

遺された最後の道は、ユーロ圏を離脱して自国通貨を回復し、切り下げることだ。結局、すべての新興市場で危機に陥った国は、成長を回復するために変動レートに変えたのだ。デフォルトによって債務負担を減らす。その影響は大きいが、アルゼンチンが「ペソ化」したように、可能である。

問題は、その時期と、秩序正しく行えるかどうか、だけである。

FT June 13 2011

A plan to rescue Greece and save the euro

By Sony Kapoor

EUIMFによる融資と改革促進は失敗した。ヨーロッパは信用できる救済案を示すことだ。その条件は、ギリシャ政府債務の削減、債務者によって異なる負担を求める、ギリシャの銀行を破たんさせない、減額して新債券に交換し、フランスとドイツの銀行など、民間債権者が損失を受ける。機関投資家はすでに市場で50%の割引した取引を行っている。アイルランドやポルトガルへの伝染を防ぐように、ESMが債務削減の条件を明確に規定する。

SPIEGEL ONLINE 06/14/2011

Bundesbank Sounds Warning

EU Holding Fresh Talks on Greek Bailout

guardian.co.uk, Wednesday 15 June 2011

In Greece, we see democracy in action

Costas Douzinas

FT June 16 2011

Greek deal fails to ease contagion fears

By David Oakley in London, Peter Spiegel in Brussels, Quentin Peel in Berlin and Kerin Hope in Athens

FT June 16 2011

The evaporating reform of Greece

これはギリシャを改革するチャンスでもある。政治家、ビジネス界、労働組合、大衆は、腐敗した部分を一掃して、ギリシャを近代国家に変えるこの機会をつかむべきだ。

しかし、13か月に及ぶ闘いは改革の失敗に終わった。機会は失われたのだ。確かに、George Papandreou首相は改革の必要を認めて大いに努力した。しかし、近代国家の考え方は、公正な競争、透明な政府、納税の義務、など、どれも好まれなかった。政治的な支持を失い、議会の多数もわずかな差であった。公務員の給与を20%カットし、4年間で15万人を解雇する案は実現しなかった。それを試みることは、1974年に、首相の父Andreas Papandreouがギリシャに民主主義を回復した政治システムを破壊しただろう。

ギリシャの政治家階級や社会全体に、破局を避ける改革の意志と資源が残されているか、分からない。しかし、ユーロ圏との結び付き、銀行システム、ECBは、ギリシャの改革を必要としている。まだチャンスはある。

FT June 16 2011

ECB banker urges doubling of EU bail-out fund

By Ralph Atkins and Matt Steinglass in Amsterdam

FT June 16, 2011

Greece and Europe must prepare for the worst

Ian Bremmer

George Papandreou首相の弾は尽きた。緊縮政策に憤慨した人々が街頭に抗議デモを展開した。ギリシャの政治家の多くが、新内閣と新しい予算案に賛成する条件として、首相の辞任を求めている。

WSJ JUNE 17, 2011

Release the ECB's Greek Files

By MATTHEW WINKLER


BLOOMBERG Jun 12, 2011

Is Biggest Short Sale Hiding in Plain Sight?: William Pesek

By William Pesek

ギリシャやポルトガルではなく、日本国債が暴落する機会に賭ける投資家もします。日本政府は国債の半分をその利払いと償還に充てているのです。それは、いつ、急速に参加者を呼ぶでしょうか? 日本人が国債以外に、例えば、アメリカのドル建資産に投資する気があれば、その賭けにも意味はあります。

そして、日本の政治麻痺が問題になります。国民は、いつ、日本の政治システムの無能さに驚愕するのか? 日本は次のギリシャではない。しかし、デフォルトは近付く。

WSJ JUNE 15, 2011

An Immigration Stimulus for Japan

By HIDENORI SAKANAKA

日本が取り組むべき論争がある。移民政策の改革だ。日本の産業を復活させるために若い労働力が必要だ。イギリス、フランス、ドイツで、人口の10%は移民が占める。確かな移民政策は外国からの投資も促す。日本の米作地帯でも労働力不足は深刻だ。移民政策の核心は、高度な技術を持つ者を引き寄せ、日本社会への統合化を明確に示すことだ。

WSJ JUNE 16, 2011

Two Cheers for the Bank of Japan


WP June 13, 2011

Hunkered-down America

By Robert J. Samuelson

アメリカの景気回復と失業に関する論争は、近代的な経済学への失望をもたらしている。経済学者は自分が知っていること以上に知っているふりをする病気“the pretense-of-knowledge syndrome”に冒されているようだ。


l         世界政治の変容

FT June 13 2011

Time to put the southern Silk Road on the map

By Stephen King

地球上で起きている最も重要な出来事は、ユーロ危機だろうか? アメリカの成長減速だろうか? そうではない。それは新しいシルクロードの成立だ。アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカで、南南貿易の新しいネットワークが誕生している。

先月、ブラジルと中国は付加価値の高い分野で市場開放に合意した。また、ブラジルへの直接投資国で71億ドルを投資した昨年第二位の国はシンガポールだ。

現在の中国の行動は、19世紀のイギリスの行動とそれほど異なっていない。中国と同様に、当時のイギリスは経常収支の巨額の黒字を出し、国内貯蓄を使って世界中に投資した。中国が同じ帝国の野心を持つわけではないが、経済的な帰結は同じだろう。

しかしながら、これは一方通行ではない。中国自身が世界最大の投資受け入れ国である。中国の消費者はアメリカの消費者と同様に世界市場に重要な貢献をしている。多くの南の諸国は、ヨーロッパやアメリカとの貿易より、中国との貿易に大きな機会があると感じている。

南南貿易には障壁も多く、エスニックや宗教、文化、領土による分割もある。それらは低下しつつあり、第二次世界大戦後に貿易が開発諸国の成長をもたらしたように、南南貿易の増大が成長の原動力になる。ヨーロッパにおけるIMF融資やアメリカの量的緩和策はサイドショーに過ぎず、世界の舞台の中心は南の側のニュー・シルクロードである。

FT June 14 2011

The global order fractures as American power declines

By Alan Beattie in Washington

アメリカは世界貿易でも金融でも新興諸国の移行を無視して何もできなくなっている。IMFのトップがどうなるかに関わらず、すでに国際機関の主要な幹部は新興諸国の出身者が埋めている。アメリカの覇権は衰退するが、それに代わる組織された勢力は現れていない。

WSJ JUNE 14, 2011

Turbulent Waters in the South China Sea

By MICHAEL AUSLIN

FP Wednesday, June 15, 2011

New wind blowing: American decline becomes the new conventional wisdom

Posted By Clyde Prestowitz

さまざまな論者による新しいアメリカ衰退論を整理し、Larry Summersによる(彼も含めてエコノミストが非難してきた)「輸出促進策・産業振興政策」の主張を紹介します。

FT June 16 2011

Round two: the rest versus the rest

By Philip Stephens

西側の既得権と新興勢力とが衝突する、という話ではなく、新興勢力間の対立the rest versus the restが興味深い。つまり、日中間の領土紛争やNATOSCOではなく、今や中国とベトナムの間の領土紛争、極東地域におけるロシアと中国、インドと中国のように、新興勢力間で対立が過熱してきた。

新興諸国は貿易などで多くの利益を共有しているが、だからと言って、ラテンアメリカやアフリカの諸国がアジアに対する資源や食糧の供給に永久に満足していることはないだろう。グローバルな政治は、新興諸国間の競争、対立、地域連携、そして危機回避によって、西側と新興勢力の対立図式を変えてしまう。ヨーロッパは変化の周辺に位置するが、アメリカは欠かせないグローバルなバランス国家になる。

(chinadaily.com.cn) 2011-06-16

US creates the storm over South China Sea

By Wang Hui

南シナ海の境界をめぐる中国との紛争と、アメリカ海軍の役割について。中国とベトナム、あるいは、フィリピンとの対立がエスカレートすれば、アジアの繁栄の条件は失われます。

これに関して、アメリカ海軍が介入し、アメリカ政府が威嚇するから紛争が激化している、と中国はアメリカを非難します。


FT June 13 2011

The heat rises in Turkey’s economy

WSJ JUNE 14, 2011

Turkish Lessons for the Arab Spring

By SONER CAGAPTAY


l         中国経済の過熱

FP Monday, June 13, 2011

The sounds of Chinese boilerplate

Posted By Daniel W. Drezner

FT June 14, 2011

The myth of China’s unbalanced growth

Yukon Huang

中国がインフレの加速で成長を損なう、という意見がある。また、少なくとも、西側との貿易不均衡に示されるように、中国の成長には大きな不均衡がある。消費はGDP35%しかないのに、投資は45%を超えている。しかし、こうした意見は間違いだ。

成長は不均衡をともなう。静態的な見方では理解できない。中国の民間消費は過去15年間で15%も減少した。しかし、多くのアジア経済がそうであったし、アメリカも20世紀の工業化の過程では同じパターンを示した。家計の貯蓄率が低下するか、所得分配が改善するまで続く。

社会福祉が不十分であるから、貯蓄はなかなか減らない。また、労働の分配率は、農業部門(90%)から工業部門(50%)へ労働者が移動することによって低下する。労働者はより高い生産性とより多くの収入を得るが、分配率は低下するのだ。工業化は中国経済がより効率的になっていることを意味している。

時間とともに、地方の労働者は減り、都市や民間部門の労働者は比率が安定するし、GDPに対する消費の割合も増大する。他の高所得国もそうであった。しかし、それには数年かかる。

中国の投資が多いのは、資本ストックの不足を取り戻す過程であるからだ。アジア諸国と比べてもGDPに占める資本ストックの割合はまだ低い。特に、この10年間に投資が増大したのは住宅建設によるものだ。中国はまだ毛沢東時代の住宅不足を解消する過程にある。

それゆえ、投資を減らして消費を増やせ、というのは容易でないし、望ましくもない。中国の高投資による高成長モデルは、そのまま、持続可能な高消費レベルに向かっている。中国の消費は8から9%で増大し、実質賃金も10%で上昇する。

西側との貿易不均衡は、常に、摩擦を生じている。しかし、GDP2-3%の不均衡を解消するには、消費、投資、政府支出がそれぞれ1%増えればよい。それを達成する近道は、消費ではなく、政府支出が増えることだ。国営企業の税引き前の利潤はGDP7%以上に達している。課税によって余剰の一部を社会サービスに支出すること、すなわち、投機的な消費を減らして低所得者向けの公共住宅を建設することは、政治的にも支持されるだろう。

社会インフラへの投資を増やすことで、貿易不均衡は速やかに解消する。その間に、社会福祉や消費者信用を整備することで、家計は貯蓄を減らして支出するようになる。投資が減り始めるだろうが、こうして消費が増えれば貿易黒字が再現することはない。グローバルな均衡のために、中国の成長やその世界に向けた需要を抑制するのは間違いだ。

中国経済の不均衡という神話を破壊するべきだ。

FT June 14 2011

How China could yet fail like Japan

By Martin Wolf

1990年まで、日本は世界で最も成功した経済だった。ほとんど誰も、その後の数十年に起きたことを予測できなかった。今日、人々は中国の成長を畏怖している。この巨人が、目覚ましい成功は驚愕の崩壊に至る前兆だ、ということを学ぶだろうか?  私は、YES、と答えよう。」

日本の一人当たりGDP(購買力平価)をアメリカと比較すると、1950年の5分の1から1990年には90%にまで飛躍した。しかし、その後は逆転し、2010年に76%へ低下した。中国は1978年、ケ小平が改革開放を始めたとき、アメリカの3%であった。今は5分の1だ。もし中国が日本と同様に収斂に成功し、25年間で70%の水準まで達するとしたら、その経済規模はアメリカとEUを合わせたものより大きくなる。

しかし、中国の経済規模は資源への需要をそれだけ増やすから、成長は制約されるだろう。また成長に伴う政治的な効果は破壊的なものがある。成長モデルそれ自体が急激に失速するかもしれない。それはエコノミストたちが注目する「中所得国の罠」“middle-income trap”とも関係する。生産性の急速な上昇を維持するには構造改革が必要だ。日本、韓国、台湾、香港、シンガポールが、この60年間にそれを経験した。

中国は東アジア諸国と文化的、経済的に似ており、しかも投資による高度成長モデルは日本より極端なものだ。温家宝首相も、「不安定、不均衡、協調を欠いて、究極的には持続可能でない」と指摘した。そこで、第125カ年計画が大きな転換を示したことに注目したい。成長率は7%に低下し、投資から消費に比重を移して均衡に向かい、製造業からサービスに移行する。

問題は、この移行が円滑に進むか、である。Michael Pettisは投資による高成長モデルは、家計所得を抑制し、さまざまな投資奨励策が制度化されており、これを解体することは難しい、と考える。それらが失われたら、投資は急激に落ち込むだろう。2000-2010年に、固定投資は年平均13.3%で増加し、民間消費は7.8%だった。GDPに占める民間消費のシェアは低下し、固定投資が逆に34%から46%に増大した。低利融資と人民元レートの増価抑制は、こうした企業部門への所得移転を促した。

このパターンを変えるには、GDPに占める投資の割合を減らすことだが、1990年代の日本で深刻な結果をともなった。Pettisは、強制投資戦略は急激に停止する、と考える。中国の成長が融資の急増に依存していることは、日本の1980年代に似ている。投資の奨励策が亡くなり、消費への移転が促されると、投資は成長のエンジンではなく、衰退の源泉となる。

私の予測では、中国が低成長と消費に依存するまでにはでこぼこ道がある。中国政府は高い政策能力を持つが、水の上は歩けない。

WSJ JUNE 15, 2011

The Yuan's Reckoning

By ESWAR PRASAD

中国の消費者物価上昇率が5%を超えた。中でも食料品価格は11%も上昇している。これは賃金上昇を求める圧力になる。また、都市の貧しい労働者層が二重に苦しむ。一方では支出に占める食料品の割合が高い。他方で、政府のインフレ対策による雇用の減少に強く影響されるからだ。

政府は金利を引き上げるべきなのに融資の抑制を求めている。それは人民元をドルに対して安定化するための介入を続けているからだ。急速な増価を抑えるためにドルを買い、それを不胎化するため債券を売るが、金利負担を嫌うから金利は上げたくない。また、アメリカの超低金利に対して、中国が利上げすることは問題を生じる。

ドル自体が他の主要通貨に対して減価しているのに、人民元をドルに対して安定化することはもはや利益よりコストの方が目立っている。人民元の変動を高めれば金融政策の自由が拡大する。一時的に輸出部門は損失を受けるが、インフレが加速するままにして将来の引き締めを待てば、そのコストはさらに大きくなる。ドル安が進む中でドルに対して増価しても、中国は国際競争力をそれほど失わない。人民元の増価は消費による成長を促すだろう。

WSJ JUNE 15, 2011

The Three Contradictions of China's Miracle

By DAVID WESSEL

中国経済の成長を支える基礎には三つの亀裂が生じている。

1.中国指導部はインフレ抑制のために成長を減速し、消費を増やそうとしている。しかし、賃金上昇は輸出を減らし、生産拠点の海外移転が始まっている。いずれにせよ政府は市場を管理できない。

2.中国指導部は「人民元の国際化」を唱えている。国家の威信のため、貿易取引による支配のため、次の金融危機をアメリカのように自国通貨で回避するため。そのためには低金利政策を止めることになる。経済政策に透明性も求められる。

3.年10%で成長しているときは、政府が政治的な抑圧に依拠しても許容されやすい。成長に急激な減速を生じれば、国民を信用しない政府と、政府を信用しない国民が衝突する。北京の60マイル北にある万里の長城に行くと、一つだけ3階建ての新しい邸宅が見える。共産党書記長が建てた家だ。

FP Wednesday, June 15, 2011

Coal, batteries, and China's long, hot summer of protests

Posted By Steve LeVine

BLOOMBERG Jun 16, 2011

Beware China's Political Bubble: Business Class

By Brian Barry


l         マイケル・サンデル

NYT June 14, 2011

Justice Goes Global

By THOMAS L. FRIEDMAN

中国のChina Newsweekで今年の人に選ばれたのは「白熱教室」のサンデル教授Michael J. Sandelでした。サンデルは身近な例を挙げて古典的な哲学の問題を印象的に教えます。ハーヴァード大学で15000人が受講しました。新著『正義について:正しいことをするとは』は東アジアだけで100万部以上が売れました。

中国における特別講義には、何時間も前から学生たちが教室で彼を待ちました。サンデルがアジアで広く支持された理由は三つある。1.オンライン教育の普及、2.より創造的な、討論に基づく講義により、創造的で革新的な学生を育てようとしている、3.若者たちが技術ではなく道徳を求めている。

「大雪の後で雪かきショベルの価格を上げるのは正しいことか? 大学の入学資格をオークションにかけて最高価格で落札させるべきか? ・・・」 このようにサンデルは中国で正義について問いかけました。「自由市場を支持する気持ちは驚くほど強い。」「しかし、学生たちは放任された市場が不平等や社会対立をもたらすと主張した。」

中国人の教授はサンデルの教授法が新鮮だったと考えます。中国における教育は道具主義的で、物質的である。中国は余りにも経済発展に熱中してきた。ボストンでも北京でも、サンデルは学生たちの何か深いものに訴えた。彼らは日常生活で直面する道徳的問題を議論することに飢えていたのだ。しかし、経済問題が道徳や共通の善という問題を締め出してきた。

GDPや市場価値ではなく、幸福や、良い社会を作ることが重要だ。世界中の教室をビデオで結んで、文化や国境を越えた教室を開きたい。一緒に道徳の問題を考え、互いから学ぶのだ。

サンデルの夢は実現したようだ。

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The Economist June 4st 2011

Brazil’s economy: Too hot

Turkey’s election: One for the opposition

The Turkish election: Erdogan’s last hurrah (possibly)

Banyan: The great wave

Japanese stocks: Welcome, buyjin

Latvia’s politics: Time enough

German energy: Nuclear? Nein, danke

Textiles in South-East Asia: Good darning, Vietnam

Chinese public debt: Coming clean

(コメント) ブラジルについてはインフレ抑制の決断をRousseff新大統領に求めています。トルコの選挙で勝利するだろう(した)Erdogan首相には、憲法改正を悪用せず、むしろ野党とも協力して政治の近代化を促すように求めます。

日本はどうか? 地震と津波の後、荒々しい自然に向き合って生きてきた日本人が、狭隘な土地よりも開かれた海を再発見し、また災厄を経済復興へのチャンスに変える意志を求めます。日本株を買う外国の機関投資家たちは、それを助けるかもしれません。

ヨーロッパではグルジア、ラトビアの政治的動揺が紹介され、大国ドイツのエネルギー政策を翻弄し続けるメルケル首相に不満を示します。

中国製造業の規模、スピード、弾力性に勝つ国はないけれど、賃金上昇は東南アジア企業の連携にチャンスをもたらすでしょう。他方、不況対策がもたらす不良債権の規模に記事は注目しますが、日本と違って、早速、その処理を始めた中国政府の姿勢に私は驚きました。

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IPEの想像力 6/20/11

アメリカでも金融バブルが崩壊した後の不況は長引き、失業者がなかなか減らず、日本と同じ「失われた10年」だ、と心配されています。大学を卒業しても仕事がないため、両親と暮らすしかない若者たちの話は、まるで日本のようです。

もし能力で仕事に就けるなら、所得によって配置が決まるのではないか、と思いました。高所得であれば、それは需要が高いか、特別な技能や修練、才能が要るのだろう、と。

インターネットで「職業別年収ランキング(男性篇)」を観ると、1位はパイロット(1485万円)、2位が大学教授(1305万円)、そして、5位に医師(967万円)があります。ただし平均年齢は、それぞれ39.2歳、56.6歳、38.3歳です。

他にも、私が勝手に興味を持った職業(平均所得、平均年齢)を並べます。7位、記者(933万円、37歳)、9位、一級建築士(723万円、38.8歳)、18位、電車運転士(631万円、38.8歳)、23位、旋盤工(619万円、42.1歳)、44位、鋳物工(571万円、38.2歳)、54位、半導体チップ製造工(549万円、35.5歳)、63位、自動車外交販売員(518万円、34.9歳)、69位、プログラマー(498万円、30.5歳)、77位、パン・洋生菓子製造工(476万円、36歳)、86位、建具工(456万円、40.5歳)、102位、タクシー運転手(383万円、51.1歳)、106位、ビル清掃員(302万円、52.4歳)、など。

さらに女性篇を見ると、なかなか厳しいです。「先生」と呼ばれる職業以外は「負け組」である、とこの画面の記事は指摘します。職業によっては、女性に年齢による昇給の制度がなく、男性と大きな格差が生じます。そうなると、職業と所得との関係は、女性であることの性差別や、特殊な保護された地位が重要なのだ、と思います。

1位、大学教授(1026万円、47.6歳)、7位、スチュワーデス(635.1万円、33.3歳)、12位、歯科技工士(529.5万円、34.5歳)、しかし、23位、化学分析員(454.8万円、33.8歳)、27位、保母(442万円、36.5歳)、43位、観光バスガイド(388.3万円、25.8歳)、61位、百貨店店員(353.2万円、34.9歳)、74位、理容・美容師(306.6万円、30.2歳)、96位、洋裁工(177.9万円、40.3歳)、などです。

インターネット上に公開されたこうした情報があるから、「大学教授」になりたい、という学生から(つまり、高所得、という意味で、以前は聞いたこともないような)質問を受けるのでしょう。情報は確かに競争を促し、より優れた能力と才能、実績を要求し、あるいは、所得を分散させ始めています(つまり、高所得のスター教授以外は、安い非常勤講師を増やす)。

しかし、本当に高所得の人は、職業の示す平均所得と余り関係ない人たちだと思います。いわゆる長者番付などを見ると、いつも、土地による資産家が相続の際に高額納税者として並びました。最近、特にバブル以後、金融資産(創業者、ストック・オプション)やグローバル・ビジネスの展開によって、新しい資産家が現れました。また、以前からそうでしたが、自由業(スポーツ選手、タレントなど)や投資家・トレーダーも、成功した者の高所得と失敗した場合の低所得には、ますます大きな差があるでしょう。

個人資産では、アメリカの雑誌フォーブズの番付が有名です。これもインターネットに載っています。2010年、日本の1位は、ファーストリテイリング(ユニクロ)社長の柳井正(資産8372億円、60歳)です。さらに、2位、佐治信忠(サントリー社長、資産7826億円、64歳)、3位、森章(森トラスト社長、資産5551億円、73歳)、4位、孫正義(ソフトバンク創業者、資産5096億円、52歳)、など。不動産は減って、ITや金融、娯楽関係が多いです。若い、という点で目を引くのは、18位、田中良和(グリー創業者、資産1456億円、32歳)、33位、笠原健治(ミクシィ創業者、資産655億円、34歳)、です。

こんなことを調べたのは、もちろん、学生たちの就職難について心配しているからであり、自分の子供たちのことだからです。パイロットか大学教授になれ、と言うのも少し時代遅れ(?)だし、イチロウみたいに大リーグで活躍しろ、と言うのは難しい注文です。アメリカや中国に行って、ITや金融、ゲームなどで企業を起こせ、と言うべきか? 所得や資産によって目指す職業を決めるのは、それらが何の結果なのか、と理解するなら、必ずしも適当な基準ではないでしょう。

「劇的ビフォー・アフター」、「綾小路きみまろ」、「マイケル・サンデル」、「諸田玲子」。これらに共通するのは何でしょうか? たまたま私が最近目にした優れた人たちです。涙を流して感謝するお母さん。5秒に1回はハンカチを握って大笑いするオバサンたち。世界中で公開授業に参加するため何時間も前から教室で待った学生たち。直木賞の候補者選考で厳しく批評された作家たちとその読者。

町の小さなケーキ屋さんにも、ユニクロの社長に劣らぬ情熱と才覚で生きてきた人たちがいはずです。仕事や作品で感動を与える人たちがいます。すごいよな。若いうちに努力してなるべきだ。頑張れよ。 ・・・[長いReview]

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