IPEの果樹園2011

今週のReview

6/6-11

 

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インターネットと臓器売買 ・・・中国 ・・・ユーロ危機の行方 ・・・ノルウェー ・・・エジプト ・・・インドと韓国 ・・・バルカン半島 ・・・IMFのトップ ・・・ドイツ ・・・IMS改革 ・・・ブラジル

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, SPIEGEL, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l         インターネットと臓器売買

FT May 25 2011

Why it is right to fight web pirates

By John Gapper

インターネットが情報や知識、契約や決済、ネットワークを拡大する中で、その海賊行為を取り締まる課題をフランスのサルコジ大統領は掲げています。しかし、「著作権」の法規や実施の実態は様々です。印刷術の時代に導入された「著作権」の社会的な根拠が、インターネットの登場で失われた、とは言えないでしょう。しかし、強制は困難であり、雇用や経済的利益について社会全体の評価を変えるべきだ、という主張も強まっています。

LAT May 30, 2011

The G-8 takes on the Net

インターネットは、無政府状態であるには重要すぎる。しかし、政府が管理するのは危険すぎる。「サイバースペースは、人権、法の支配、プライヴァシー、安全保障、知的所有権の保護、を促す法的な枠組みを必要としている」と、G8は主張し、協力すると宣言した。インターネットを飼いならせる、と指導者たちは願う。法律家や規制当局はインターネットをもっと管理するべきだ。なぜなら、民主主義において、政府は民衆の意志の、唯一、正当な代表であるから。

しかし、インターネットで混じり合った情報世界は、現実の国家間の違いを解消してくれない。欧米のプライヴァシーの考え方は一致しない。フランスの裁判所はアメリカのようにインターネット上の発言や対立、ネット・オークションを放置しない。

インターネットは無法地帯ではないが、国によってサイバースペースの犯罪の定義は異なる。たとえG8が一致しても、中国は無視するかもしれない。また、普段の技術変化で無効になってしまう。アメリカには、自由と開放性を世界に広める責任があり、インターネットをグローバルな行動規範で縛ることではない。

FP MAY 30, 2011

The Rise of the Red Market

BY SCOTT CARNEY

国際臓器売買の非合法取引・地下市場が発達しています。

たとえば、インターポールが捜査してきた人物、53歳の外科医、Yusuf Sonmezがトルコ警察によりイスタンブールで逮捕されました。Sonmezは、中央アジアやコソボのプリスティナなどで、貧しい人々から肝臓を集め、カナダ、ドイツ、イスラエル、ポーランドから来る医療観光者に10万ドルで売っていました。その病院は、また、コソボ首相Hashim Thaciも含む、国際的な臓器密売組織の一部です。

WHOは、推定で、臓器売買の約10%が非合法である、とみなします。しかし、この10年の医療技術の進歩とグローバリゼーションは、それを過小評価にしてしまったでしょう。新しい薬や治療法で寿命が延びるほど、臓器売買も増えています。医療関係者はその供給がどうなっているかを考えていません。肝臓、精子や卵子だけでなく、代理出産の女性もリストになります。

21世紀の、裕福で、年老いた国が求める他人の臓器は、熱帯の島で草のスカートをはいた人肉食と重なります。

国際的な法体系においては、臓器はその供与を望む人々から提供されるのであり、売買されるのではありません。しかし、これはフィクションです。そして道徳規範や医療行為、チャリティーが、容易に、利益のための犯罪、臓器密売に変わります。

アメリカの献血制度は売血に基づき、それは血液の質を悪化させ、肝炎の感染をもたらしました。1970年代に、イギリスで献血に対する支払を廃止し、血液を個人から切り離して、社会的な貢献に変えました。それはアメリカでも採用され、血液の不足を解消しただけでなく、最大の輸出国に変えました。

しかし、その他の臓器にも拡大されたこの方法は、個人ではなく、病院間においては売買を許しており、その仲介業者が利益を上げることを可能にしました。いまでは免疫抑制剤が開発され、世界中から血液を売買して市場を形成しています。ルーマニア、モルドバ、トルコ、エジプトで得た3000ドルの肝臓を、5万ドル以上で販売できます。インドのニューデリーでは、2008年、スラムの人々が誘拐され、外国の移植患者に肝臓を提供されました。


l         中国

Global Times [20:30 May 26 2011]

Chinese system swings between miracles and mistakes

John Hamreformer US deputy secretary of defense and president and CEO of the Center for Strategic and International Studies

アメリカと中国はアジアで対立するのか? 二つの覇権が平和的に交代するモデルはあるか?

多くのアメリカ人は中国で数億の人々が貧困から脱することを歓迎している。しかし、今後、10年間は米中間で多くの緊張が起きるだろう。それはアメリカが中国の台頭を拒むからではなく、中国がかつてないほどダイナミックで複雑になるからだ。アメリカ人は中国の近代化を称賛し、それに参加することを望んでいる。

経済のトップに立つ国は一つしかない。それは中国だ、という意見に、私は異論がある。

人類の歴史には、真の国際政治システムが三つだけあった。一つは、1648年以後、第二次世界大戦まで、ヨーロッパから生じた諸帝国だ。アメリカも中国もその周辺にあり、ヨーロッパは重商主義的な経済と、バランス・オブ・パワー、そして忠誠(植民地)のシステムだった。

第二次世界大戦以後、国際システムは「冷戦」になった。アメリカとソ連が対立した。それは1989年のソ連崩壊まで続いた。1990年以後、三つ目の、アメリカを超大国とし、各地域の覇権国を伴う国際システムが始まった。南米のブラジル、南アジアのインド、西アジアのイラン、ヨーロッパはEUを作った。アフリカでは南アフリカ化ナイジェリアであり、東アジアには中国と日本の二つの地域覇権国がある。この国際システムは今後20年は続くだろう。

「中国モデル」というものはない。その急速な成長は市民の個人的権利を否定して可能になった。中国はこうしたアプローチを変えるだろう。その理由は、中国の人々がそれに失望するからだ。

中国政府にはチェック・アンド・バランスがない。それは大きな決断を迅速に実行することができるけれど、大きな失敗を犯す。高速鉄道の建設がそうなりつつある。また、中国政府は技術革新を決定できると考えている。しかし、近代化が進めば、官僚制は後退し、個人の企業家に委ねるほうが良い。

中国の経済的繁栄が新しい思想を示す小物とは考えない。中国自身がバランスを見出すだろう。それはアメリカ型の民主主義ではないだろうが、今より多元主義的で、透明性の高い、法の支配による政治へと変わる。それはアメリカと対立するものでも、矛盾するものでもない。中国内部のダイナミズムはアメリカの利益と対立しない、と信じている。中国は平和的に台頭し、アメリカは超大国の地位を保つ。

アメリカは今後もダイナミックで、研究開発投資や国民のアイデンティティーも失わないだろう。アメリカには公平な機会が豊富にあると国民は信じている。

中国について特に残念に思うのは、歴史的な犠牲者であることを教育し、現在の問題でもこだわり続けることだ。確かに蹂躙された過去を忘れてはならないが、同時に、この30年間、アメリカは中国の成長を受け入れ、積極的に助けてきた。

将来の米中関係を私は楽観している。

FT May 27 2011

New clash in South China Sea

By Ben Bland in Hanoi and Kathrin Hille in Beijing

FP MAY 27, 2011

China's Port in Pakistan?

BY ROBERT D. KAPLAN

パキスタン政府は、ホルムズ海峡の入り口に近いパキスタンの港Gwadarを中国が管理し、パキスタンの基地を建設することに前向きであると発表した。しかし、中国政府はこれを否定した。パキスタンは、明らかにこの港の建設に中国をもっと関与させたいのだ。

中国のエネルギーや貿易は、マラッカ海峡の安全航行に大きく依存している("Malacca dilemma")。これが危険にさらされることを恐れているから、中国から陸路でパキスタンを南下し、Gwadar港から輸送するルートが非常に重要になる。

しかし、2008年にGwadarを訪問して、その困難を実感した。それは孤立した土地で、内海や砂漠に囲まれている。しかも、内陸に広がるBaluchistanの指導者はパキスタン政府に敵対しており、イスラマバードが自分たちとの紛争を解決しなければ、道路もパイプラインも建設させない、と語った。

アフガニスタンとパキスタンが政治的に安定化しなければ、Gwadarの開発は進まない。しかも、中国が慎重であるのは、パキスタン政府が不安定で、パキスタンとインドとの対立に利用されることを嫌うからだろう。すでにインド洋において、中国はパキスタン、ビルマ、バングラデシュ、スリランカで港の建設・近代化を行っている。インドはすでに包囲されたように感じている。覇権にならないと説く中国は、これ以上対立したくないのだ。

Global Times [20:44 May 30 2011]

West bids farewell to being world center

By Jin Canrong and Liu Shiqiang

世界人口の10%でしかないアメリカと西側が、世界の富と権力の3分の2を支配する。

しかし、西側の支配体制は傲慢で、すでに衰退し、内部分裂している。今後の国際システムは、西側が新しい条件に適応する能力と、新興諸国が国内の必要に応じて改革を進める能力にかかっている。

FT May 31 2011

Fate of China property is global concern

By Jamil Anderlini in Beijing

日本が不動産バブルで失敗したように、中国の不動産市場も過熱し始めています。

「中国の不動産市場がバブルで、それがはじけ、中国の成長を阻んで世界経済に動揺を与えるかどうか、ブラジルの鉄鉱石取引業者から、ロンドンのヘッジ・ファンドのマネージャーまで、誰もが関心を持つ問題だ。」 しかも、合意がない。長期的には、この高い成長率は維持できないだろう。

中国は世界商品市場、セメント、鉄鉱石、鉄鋼、石炭など、の半分を消費し、主に中国の不動産投資がそれを需要している。

 (China Daily) 2011-05-31

Slow progress toward FTA

By Fan Ying

FP MAY 31, 2011

Revenge of the Tiger Children

BY WEN LIAO

中国の一人っ子政策が生み出した「小皇帝たち」が、その経済政策や政府の行動に影響するようになるだろう。彼らの価値観は全く異なり、マルクス、レーニン、毛沢東のイデオロギーに信頼をおかない。官製の愛国心で彼らを管理することも難しい。その言動は近隣諸国との摩擦を高め、各国は警戒心を強めている。

もう一つの影響要因は、中国の儒教だ。イギリスのゴードン・ブラウン首相が「イギリスらしさ」を主張し、フランスのサルコジ大統領が「ゴール人の価値」を語るように、中国人には儒教があるからだ。ただし、英仏には移民流入が重要な契機となっているが、中国政府の不安はインターネット世代の非伝統的な物質主義と不安定な政治意識だ。

それらは決して満足できるものではないが、指導部からは、インテリたちの「ユニバーサル・バリュー」をめぐる論争の方が危険に見える。

FT June 2 2011

China: Mao and the next generation

By Kathrin Hille and Jamil Anderlini


guardian.co.uk, Friday 27 May 2011

Bankers caused the crash and now they strangle recovery

Polly Toynbee

The Guardian, Monday 30 May 2011

Outrage at the banks is everywhere, so why aren't there riots on the streets?

Madeleine Bunting


guardian.co.uk, Friday 27 May 2011

Dubai's skyscrapers, stained by the blood of migrant workers

Nesrine Malik

世界一の高層ビル、Burj Khalifa(もとはBurj Dubaiだが、ドバイを金融破たんから救済したアブダビ国王により改名された)からインド人の清掃労働者が投身自殺をした。その理由は分からない。数日後、他のインド人労働者が別のビルから投身自殺した。

諸外国からの労働者たちは孤立していた。「それは、最悪の西側資本主義と、最悪のアラブ民族主義(人種差別)とが渦巻く場所のようだ。」

社会的、市民的な発展を欠いたまま、砂漠の上に移植された高度な資本主義文明である。すべてのものが商品として売買され、同時に、肌の色が強い差別を正当化する。


SPIEGEL ONLINE 05/27/2011

Japan's Nuclear Cartel

Atomic Industry Too Close to Government for Comfort

By Cordula Meyer

「事故の究明はいい加減で、誰も職を失ったわけではない。」

日本の政治や官僚は原子力産業と一体になって利益を拡大してきた。メディアは原発の安全性を宣伝し続けた。科学者は沈黙し、国民も関心を示さなかった。

SPIEGEL ONLINE 06/01/2011

Poisoned Fields

The Painful Evacuation of a Japanese Village

By Cordula Meyer

「飯舘村の一部では、チェルノブイリの居住禁止地区よりも放射能汚染濃度が高い。」

なぜ自分たちは退去しなければならないのか?

FT June 2 2011

The indecision of Naoto Kan

「強い、決断力のある指導者」を約束した菅直人だが、今の状態はそれからあまりにも遠い。

民主党は、自民党の政治を変える、官僚に依存せず、国民の声を聞く、と約束して政権に就いた。しかし、党内の勢力争いで首相の指導力は損なわれた。

日本の政治階級が非難されるべきだろう。311日の震災は24000人の犠牲を出し、その悲しみに耐える人々の姿は感動を呼んだ。しかし、20年の麻痺状態を打開して、国民に新しい団結と目標を与えるはずの政治家たちは何も変わらなかった。

政治の醜悪な紛争が終わる見通しはまだない。

WSJ JUNE 3, 2011

No Confidence in Tokyo


l         ユーロ危機の行方

SPIEGEL ONLINE 05/27/2011

Consequences of Debt Restructuring

What Would a Greek Haircut Mean for Germany?

By Sven Böll

ギリシャがこれ以上の融資を得られず、返済できなくなった場合、ドイツはどうなるのか? 1100億ユーロの融資のうち、3分の1IMFから、3分の2EUが支払った。しかし、アメリカIMFは返済不能と見なしつつある。もし債務の組み換えを行うとすれば、債務の半分が返ってこないかもしれない。

納税者は銀行に資金を入れる必要があるし、ECBの資産も減る。しかし、ギリシャだけなら大丈夫。とはいえ、ギリシャの銀行システムが破たんし、ユーロ危機、他の債務諸国にも波及すると。

FT May 29 2011

Orderly Greek restructuring a ‘fairytale’

By Ralph Atkins in Frankfurt

ECBBini Smaghi理事は、債務組み換えを「おとぎ話」と批判します。それはユーロ圏とEUを否定するものである、と。

この反対意見は、ドイツ連銀で2006年までOtmar Issingの警告、ギリシャは支払不能である、に対抗したものです。Smaghiは、シカゴ大学のPh.Dを持ち、Issingの意見を間違いである、と主張します。

ギリシャには売却できる資産があり、増税も支出削減もできる。そうすれば債券が発行できる。何の資産もない、低所得の発展途上国ではない。Issingの結論は、ギリシャがユーロ圏に入るべきではなかった、ということであり、今では意味がない。

ECBはギリシャの債券を450億ユーロ保有しているが、もしギリシャがデフォルトになれば損失になる。しかし、その影響はユーロ圏の各中央銀行と納税者が負担することになる。だからECBは債務組み換えに反対するのだ、と。

またSmaghiは、ラテンアメリカの債務問題とギリシャが違うことを強調する。ラテンアメリカの債権はドル建で、外国人が保有していた。ブレディ・ボンドは銀行融資を保証付きの債券に転換し、アメリカの民間銀行を救済した。ここでは債券の多くはギリシャ政府のものであり、デフォルトなら、銀行システムが破綻する。それを救済するとしたら、その資金はどこから来るのか? また、EU内では資本規制もできない。

債務の組み換えは「秩序正しく」できないものだ。ギリシャ危機はギリシャ自身が財政再建することで解決できる。その間は、融資や民営化によって赤字を埋めるだろう。

FT May 29 2011

Putting Greece up for auction

FT May 30 2011

European integration is unravelling

By Peter Spiegel

戦後のヨーロッパ統合が交代しつつある。ギリシャはドラクマの再導入を議論し、フランスやデンマークは国境で人の移動を抑制し始めた。ブラッセルはシェンゲン協定の修正を検討している。

この後退は政治の風向きを変えた。半年前は財政引き締めや救済融資を受け入れた有権者たちが、それに不満を示し始めた。

オランダは、ヨーロッパ政治の将来を先取りする。啓蒙主義時代のスピノザから、17世紀のオランダ海洋帝国、アムステルダムのコーヒーショップと公娼地帯は、寛容と忍耐の象徴だった。戦後のヨーロッパ統合でも、NATOからユーロまで、オランダは主要な機関の創立メンバーであった。しかし、最近の数カ月、オランダがブラッセルの将来構想に最も強く反対している。

ユーロ圏内の救済融資、バルカン西部へのEU拡大、移民・難民政策の見直し。オランダ政府は、バローゾEU委員長のポピュリスト批判にも同調せず、もっと有権者の怒り、経済不安への関心、を聞くべきだ、と考える。

もはや左右の対立は重要ではない。計画経済を唱える社会民主派はいないし、福祉国家解体を求める保守派もいないからだ。それに代わって新しい対立、たとえばローカル派とグローバル派の対立、が生じている。左右を問わず、都市のエリートたちが支持する戦後の合意を、新しい報復派が崩している。

FT May 30 2011

Partial debt restructuring will not work

By Desmond Lachmann

流れの途中で政策転換するのは危険である。

ギリシャ債務の組み換えを唱えるのは、ルクセンブルグ首相Jean-Claude Junckerである。かれはヨーロッパ蔵相会議の議長でもある。ECBの元主任エコノミストOtmar Issingも、ドイツ首相Angela Merkelもそうだ。

ECB総裁Jean-Claude Trichetが真っ赤になって怒ったのは当然だ。彼はギリシャの債務組み換えが周辺諸国に波及すると考える。ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、1兆ドルを超える債券をフランスやドイツの銀行が保有していることを心配する。政治家たちが「ギリシャ債券を組み替えさせない」という前の約束を破ると言うなら、市場は他の債務も同様に信用しなくなるだろう。

ギリシャの債務を組み替えても、元からあるギリシャの財政赤字は減らない。この点でもTrichetが正しい。少なくともGDP8%も赤字を削減しなければならない。それは固定レートのまま、過去18カ月にGDP9%も減らした状況を悪化させるだろう。

改革の中で見通しのない政策転換を唱えても、市場の信頼は回復しない。「切下げも、債務再編もしない(“no default and no devaluation”)」という政策を転換すると言うなら、デフォルトとユーロ離脱を望むのか? それを決めてから話すべきだ。

 

SPIEGEL ONLINE 05/30/2011

The Haircut War

Tensions Worsen Between Berlin and European Central Bank

By Christian Reiermann and Michael Sauga

このままではギリシャが追加の融資を必要とする。しかし、IMFのルールにより、IMFは次の救済融資に応じられない。EUがその分も融資を増やすことになる。政治家たちは有権者を説得できないと考え始めた。

ECBの反対と、EUやドイツからのECB批判は、まるで戦争のようだ。ECBがたとえ融資を追加すると決めても、主な黒字国のドイツが誰も信用しない融資案をどうやって実現するのか? ユーロ圏の将来を、数キロしか離れていない、ECBとドイツ連銀とが争います。

SPIEGEL ONLINE 05/30/2011

Interview with EU Currency Commissioner Rehn

'There Is a Certain Aid Fatigue in Northern Europe'

欧州委員会の金融問題担当委員Olli Rehnがインタビューに応えています。ギリシャは破綻し、ドラクマに戻るのか?

 (chinadaily.com.cn) 2011-05-30

After the Greek default

By Martin Feldstein

ギリシャ政府も、欧州委員会も、IMFも、市場が認めている事実を否定する。ギリシャ債券はデフォルトだ。

ギリシャの財政を持続可能にするには、債務をデフォルトにして、財政赤字を大幅に減らす必要がある。それでも、ギリシャの貿易赤字はなくならない。ユーロ圏にとどまったまま、GDP4%に及ぶ貿易赤字を減らさねばならない。賃金と物価を引き下げるか、あるいは、ユーロ圏を離脱して切下げるしかない。そして、ユーロ圏の他の諸国に比べて、生産性の上昇と物価水準とが競争力を奪わないようにしなければならない。

すなわち、ギリシャには三つの課題がある。財政赤字を減らす。貿易赤字を減らすほど物価水準を下げる。他国より賃金上昇を抑えるか、生産性上昇をもたらす。

同じ問題に直面した世界の他の諸国は、財政引き締めと切下げによって解決した。しかし、ユーロ圏に入ったギリシャにはそれができない。マーストリヒト条約にはユーロ圏離脱の規定はない。ギリシャは一時的にユーロ圏から離脱して、切り下げるべきだ。

WP May 30

Greece’s crisis could torpedo Europe’s recovery

By Robert J. Samuelson

「債務危機」は、ますます、政治的、社会的危機になっている。債務国の経済が悪化する中で、政府に返済する能力や政治的意志があるか? 不信が強まる。ギリシャの失業率は14.1%、アイルランド、14.7%。ポルトガル、11.1%、スペインはすでに20.7%の失業率です。その上、政府支出を削減し、増税させるのか? 引締め策をいつまで続けるのか? 分かりません。

ユーロ圏が一つの経済になり、雇用を増やす、という主張は間違いでした。ユーロは金融危機を拡大したのです。住宅ブームが増幅され、財政赤字や消費ブームも拡大しました。どの国にもふさわしくない金融政策が取られたのです。金融市場はリスクを減らすはずでした。しかし、アメリカの住宅バブルと同じように、市場は失敗したのです。

しかも、バブルが破裂した後、アメリカ国内のような財政支援は容易に行われません。ユーロ圏が回復を妨げています。ユーロは、その創設において期待されたものとは逆に、対立の源になっています。

BLOOMBERG May 30, 2011

Greek Reckoning Day Looms in Ponzi Europe: Mario I. Blejer

By Mario I. Blejera former governor of Argentina’s central bank, was a senior adviser to the International Monetary Fund

何が問題なのか、政治的な論争、統計のごまかしで見えなくなっている。

ヨーロッパ周辺部の債務危機は構造的な問題である。だから一時的な流動性の不足を解消する解決策は間違いだ。それでは債務が累積するだけだ。新しい融資で財政赤字を埋めている。これは一種のポンツィ・ファイナンス(ネズミ講)だと言える。周辺諸国の債務が公的な金融機関に累積し続ける間は、ピラミッドが大きくなる。そして、最終的に瓦解するとき、ヨーロッパと世界の納税者がそのコストを支払う。

ピラミッドの膨張も不安定だ。なぜならヨーロッパの救済融資は政治的に支持されていない。また、IMF融資は(その内部のルールで)反対される。IMF融資の枠組みには基本的な欠陥がある。第一に、周辺債務国が翌年には金融市場に復帰できると前提している。ギリシャが2012年に30億ユーロの債券を市場で売却できるというのは妄想だ。第二に、債務国の厳しい緊縮財政でも成長できると仮定している。実際は、激しい不況に陥っている。持続可能な成長が実現できるとは考えられない。

こうした問題の一つの解決策は資産の売却であった。しかし、現状ではそれもfire sales(捨て値の投げ売り)になる。ギリシャ債券に需要がないのに、なぜギリシャの株式・実物資産を買う者がいるのか? ラテンアメリカの経験は、民営化が効率や生産性を高めても、構造的な財政赤字を解消するものではない、と教えている。

問題の解決とは、長期的に、財政再建と構造調整を行うことだ。それは債務免除、あるいは、デフォルトをともなう。デフォルトにもさまざまな方法があるが、債権者が債務免除する以外に出口はない。いつ、どのようにするか、だけが問題だ。

この点で、二つの問題がある。市場アクセスを得ることと、債務危機の伝染だ。前者は、秩序ある形で債務免除に成功した国では成功することを過去の経験は示している。ウルグアイがそうだし、アルゼンチンもそうなるだろう。最近の例では、金融危機の際に東欧諸国を救ったthe Vienna Initiativeがある。

また、危機が伝染する可能性はあるが、いったん伝染が起きた後は、むしろスペインなどへの圧力が解消されるだろう。デフォルトによって銀行に影響がおよぶ問題は、各国の資本増強策が必要だ。

危機管理の制度は混乱を極めている。EUはデフォルトに反対しないが、IMFは融資の審査を控えている(追加融資は無理だろう)。ECBはいかなる債務免除にも強く反対している。しかし、最もありそうなシナリオは、債券市場での破局を避けるためにECBが折れることだ。ギリシャの銀行に対してECBが流動性の保証を否定するのはあまりにも危険な、それゆえ信用できない主張だ。それは銀行への取り付けを招き、アルゼンチンで起きたような預金封鎖を含めて、銀行危機が発生する。それはいかなる信用危機よりもユーロに打撃となるだろう。

アルゼンチンの経験では、デフォルトしなければ経済が回復しない。しかし、直接の比較はできないだろう。アルゼンチンは通貨を切り下げることができたし、交易条件の改善や財政の改善があった。重要なことは、避けられない調整を遅らせれば、結果的に調整コストが膨らむ点だ。デフォルトのとき、すでにアルゼンチンのGDP10%も減少していた。時機を得た、友好的な、債務免除の交渉ができれば、その国は数年分の苦しみを免れる。

ヨーロッパの戦略は再考を延期することだ。この時間稼ぎがデフォルトの準備に使われるなら、それも有益だろう。しかし、単なる引き延ばしと矛盾した声明が繰り返されるなら、危機管理の枠組みは信頼を失い、不確実さが高まって、重大な破滅をもたらす。

FT May 31 2011

Intolerable choices for the eurozone

By Martin Wolf

ヨーロッパの危機には二つしか道がない。より緊密な連邦制に向かうのか、あるいは、部分的な解体を認めるのか。

ユーロ圏は現代版の古典的金本位制になるはずだった。「対外赤字を出した国は外から民間の融資を得る。その融資が枯渇すれば、経済活動が縮小する。失業が賃金と物価を引き下げ、『内的な切り下げ』が生じる。長期的には、対外収支と財政が均衡するはずだが、それまで何年も、苦しみが続く。しかし、ユーロ圏では銀行を通じて借り入れが行われていた。金融危機が起きて、流動性を失った銀行が破綻し始めた。信用を制限された政府には、これに対して、ほとんど何もできない。こうして金融部門のステロイドにも金本位制がおよぶ。」

現代では通貨供給に銀行が中心的な役割を担っている。ユーロ圏内の通貨(M3)の9%しか現金は使用されず、その他の銀行間での預金とその操作だ。もし完全な通貨同盟であれば、どの国の銀行預金も同じである。しかし、今や、ギリシャの銀行のユーロ預金は、ドイツの銀行のユーロ預金と同じではない。銀行への取り付けだけでなく、国家への取り付けが生じてします。アメリカでは(州間の)こうした問題を連銀が防いでいる。

先月、ミュンヘンのEUサミットで、ドイツのthe Ifo Institute for Economic Research所長であるHans-Werner Sinnが、問題をヨーロッパ中央銀行システムESCBの脅威として見事に整理した。ESCBは最後の貸し手として、間接的にしか、自国の銀行を守れない。それはそれぞれの国の政府債券を購入するのであり、それぞれの中央銀行である。その決済は、中央銀行間の資産・負債として現れ、2008年に民間信用が枯渇して以来、ドイツ連銀に膨大な資産が累積し続けている。

「政府の支払不能は、その国の中央銀行を支払不能にする。それは債券国の中央銀行に巨大な損失を生じて、債権国・ドイツの納税者にコストを強いる。すなわち、裏口から財政移転が行われるのだ。」

Sinn教授は、他に三つの問題を示している。1.銀行を通じた裏口の財政移転は2年ほどで枯渇する。このシステムは黒字国の民間銀行からの融資を引き出すが、それには限界がある。2.銀行の危機を避けるには、政府がそれを吸収しなければならない。3.その額は余りにも増大しており、民間銀行の融資に戻さねばならない。それには債務を免除・削減するしかない。

もしBini Smaghiが主張するように、ECBがデフォルトに近い国の債券を購入しなくなれば、銀行は破綻する。政府は預金を凍結し、新通貨を導入するしかない。すべての脆弱な国で、私的、公的な取り付けが発生し、ユーロ圏は解体する。それを避けるには、公的部門が資本の流出を循環させる政治的な操作を必要とする。

ユーロ圏の最初の前提が間違いだった。主要な諸国がその維持を望むなら、ユーロ圏からの離脱を認めることだ。しかし、離脱の過程を管理するのは不可能に近い。ユーロ圏が機能するには、三つの改革が避けられない。1.銀行システムは各国家から切り離し、ユーロ圏の共通の財源で銀行を保証する。あるいは、少なくとも、黒字国が反対できないような財源を得る。2.国境を超える危機には、ESCBではなく、十分な公的財源で対応する。3.政府のデフォルトを避けるには、赤字国が市場に復帰できるまで、何年も、10年以上かかっても融資を続け、そのコストを管理し、改革を求める必要がある。

それは結果的に(返済されない部分があれば)、彼らの嫌う「財政移転同盟a “transfer union”」になるかもしれないが、「財政支援同盟a “support union”」でなければならない。

ユーロ圏には二つの過酷な選択肢しかない。デフォルトして部分的に解体するか、期限を付けずに財政的な支援を行うか、である。通貨同盟が持続するためには、より深い金融統合と、より大きな財政支援が必要なのだ。しかし、それが政治的に選択できるものかどうか、私にはわからない。

FT May 31 2011

The brittle politics of Greece’s rescue

WSJ MAY 31, 2011

Back to the Drachma

By JOSEF JOFFE

ギリシャには三つの出口しかない。1.永久に赤字を融資する。2.EUがギリシャのデフォルトを受け入れる。3.ギリシャがユーロ圏を離脱する。

最もましな選択肢は何か? ほどこしではだめだ。人々の不満は高まり、ポピュリストの政治家たちが狙っている。救済が経済的に可能でも、政治的には不可能だ。

メルケル首相は、デフォルトを受け入れるのが良いと考えている。確かに、アメリカの破産法のような、債務を免除して借り手を守ることが上手く行くこともある。しかし、ギリシャは違う。ユーロ参加は毒入りのギフトだった。ユーロに参加したギリシャは、低利でたっぷり借り入れた。貯蓄はしない。クローニズム、保護主義、汚職がはびこった経済で、グローバルな市場に参加した。今や、ギリシャ政府はヨーロッパ内に3000億ユーロの債務を負っている。

ギリシャは単なる流動性危機ではない。ユーロ圏内で、長期に及ぶファンダメンタルズの改善に取り組むしかない。2005年以来、ギリシャのユニットレーバーコストは15%上昇した。ドイツでは5%である。失われた競争力を回復するために、ギリシャは新しい社会契約を結ぶことだ。市場の障壁や特権をなくし、膨張した公的部門の雇用を削る。

しかし、そのような革命を、しかも外国から命令されて、行う国があるだろうか? 昨年、もっと穏健な改革案を示されたギリシャ国民は、そのような要求を流血のデモで拒んだ。今年も、ギリシャ人は自分たちの改革を信用せず、預金を引き出してスイスやイギリスの銀行に預け、あるいは、ベッドの下に隠している。

だから三つの選択肢に向かう。それは債務のデフォルトと切り下げだ。多くのヨーロッパ市民はこれを恐れる。ユーロからの離脱はユーロ圏やヨーロッパ統合を破壊する、と思うからだ。しかも大陸全体で、銀行や年金、保険が破たんするだろう。各国の納税者は損失を補てんしなければならず、また、ギリシャのユーロ建て債務の返済コストは、新通貨で見て、さらに増えるだろう。

しかし、ユーロ圏にとどまっても同じことだ。誰がどれほどのコストを負うのか、わからないが、アルゼンチンのケースが参考になる。

アルゼンチンは多くの点でギリシャに似ていた。アルゼンチン・ペソとドルを11で固定した、一種の通貨同盟に参加したようなものだった。その後、低金利と対外赤字、対外債務が爆発的に増加した。結局、IMF融資が繰り返されたが、破局を避けることはできなかった。暴動が起き、政権が倒れ、スーツケースに詰めた現金が流出した。アルゼンチンの債権者は融資額の65%を失った。ドルとの固定制を離れたペソの価値は0.28ドルまで急落した。

しかし、切下げは教科書道理の働きをした。輸入が減り、輸出は増えた。アルゼンチンに貸す者はいなかったが、投資はすぐに回復し、今では9%で成長している。GDP3%に相当する貿易黒字、公的債務はGDP41%である。

もしユーロ圏にとどまって中央銀行が為替レートを変えることはできないとすれば、ギリシャは競争力も対外均衡も回復しないだろう。デフォルトと不況が待っている。ユーロを離脱すれば、切り下げて成長できる。アルゼンチンか、ユーロ圏か、どちらが良いか?

guardian.co.uk, Wednesday 1 June 2011

Europe's employers are having their Marie Antoinette moment

Michael Burke


l         ノルウェー

BLOOMBERG May 27, 2011

Echoes: Norway, Nigeria and the Lessons of Oil

By John Campbell

「ノルウェーにおいてアメリカ大使であったとき、私はノルウェーの外交官に単純な質問をした。『あなたの国では、誰が石油で豊かになったのか?』 彼は答えた。『誰も豊かになっていないが、皆が豊かになった。』」

石油の収入は長期的な富を増やしたのだ。「では、ノルウェーの金持ちは何をするのか?」 「もちろん、海運業、銀行業、そして木材に投資した。近代的な経済だからね。」 政府系投資信託の透明性を高めて、長期的目標に向けて投資を多様化し、ノルウェーは「石油の呪い」も「オランダ病」も防いだのです。

他方、ナイジェリアは違いました。中東、アラビア湾の諸国は、どちらから学ぶのか?


l         エジプト

NYT May 28, 2011

Pay Attention

By THOMAS L. FRIEDMAN

リビアよりも、エジプトの選挙が重要だ。オバマ政権は「政治介入」を拒むが、このままでは溝式のリベラル派が敗北し、イスラム同胞団が支配する。革命の劇的な舞台は去って、今や退屈な、しかし、より重要な局面が続いている。誰が、どのように、新しいルールを決めるのか? オバマ政権はアラブ革命の行方に最大限の注意を向けるべきだ。

NYT June 1, 2011

When the Nile Runs Dry

By LESTER R. BROWN

食糧価格の上昇が豊かな諸国や中国などから、土地利用の長期契約に向けた投資を増やしている。その影響は、食糧の多くを小麦の輸入に頼るエジプトの新しい民主政治にも影響するだろう。なぜなら、土地への投資の多くがエジプトの隣国、エチオピアやスーダンに向かっているからだ。彼らが農耕(そして農産物輸出)を増やせば、ナイル川の水を大量に利用し、下流のエジプトでは水が枯渇する。

水利用をめぐる1959年の政府間協定は、エジプトに75%(スーダンに25%、エチオピアには無し)の水の利用を認めているが、その改定は避けられない。エジプトの土地利用はすでに限界に近く、しかも、今後は人口の急増する他の2国で耕作地が拡大するからだ。エチオピアはダム建設を計画している。

3カ国は協力して、人口の抑制、灌漑の効率化と水を集約的に利用する耕作の抑制、そして、外国資本による耕作地の買収や長期契約を防ぐこと、に合意するべきだ。

FT June 2 2011

When Tahrir Square comes to Israel

By Philip Stephens


l         インドと韓国

NYT May 28, 2011

Slums Into Malls

By NICHOLAS D. KRISTOF

私が最初にKolkata(カルカッタとして知られているが)を訪れたのは1982年、学生のときだった。スラムのホテルに泊まって写真を撮った。その後、25年間に何度か訪問したが、何も変わらなかった。

それに比べて、中国は毎年急速に変化し続けた。中国の国鳥はツルだ、というジョークがあった(craneには建設用のクレーンの意味がある)。それは民主主義を信じる者にとって困惑することだった。インドは多様性を受け入れたが、同時に、その非効率性や病気、識字率の低さも受け入れた。

しかし、今年になって中国とインドを訪れたとき、それは変化していた。世界経済の減速にもかかわらず、インドは8%の成長を続け、今や「トラ経済tiger economy」だ(中国と並べて、竜虎のたとえにもなる)。

バンガロールの技術特区だけでなく、成長は国中に及んでいる。今月の選挙では、共産党が西ベンガル州で政権を失った。勝利したのは、新しい成長と女性の力を代表する政治家Mamata Banerjeeである。今や、インドの大臣の3分の1は女性である。

北部のビハールBihar州は、かつてギャングが支配する無法地帯であった。病院も、学校も、荒廃していた。私の訪れた村では、ギャングたちが気まぐれに強姦し、略奪し、支配していた。ビジネスは街から消えて、誘拐がはびこり、何の希望もなかった。

しかし、驚いたことに、ビハールは変わっていた。2005年にNitish Kumarが州長官に就任し、改革を進めた。まだ非効率はひどいが、犯罪は抑えられ、汚職も減って、地方経済が二桁で成長している。ビハールが成長に転じるなら、他の地方にも可能なはずだ。

インドは中国に大きく遅れている。パキスタンの過激派は脅威であるし、経済改革にはまだ多くの課題がある。しかし、幼児死亡率は低下し、有権者たちはガバナンスの改善を支持している。この先、中国とインドの競争は、三つの点で、インドに有利に働くだろう。1.独立したメディアと市民組織が汚職や無駄を監視する。2.中国は高齢化するが、インドは人口転換の配当(人口全体に占める労働力人口の比率が高まる)を得る。3.インドの方が宗教・エスニックの対立を上手に吸収している。たとえば、イスラム人口は大きいが過激派のテロは少ない。カシミールの軍事行動で非人道的な行為があれば市民団体がチェックする。中国は、チベットやウイグルの弾圧を改めようとしない。

民主主義を求めるインドは、困惑の源でなく、我々の誇りとなるだろう。

FT May 29 2011

South Korea: An economy divided

By Christian Oliver and Song Jung-a

35歳の男性が債務に苦しみ、自動車の中で練炭自殺しました。韓国の自殺率は世界でも最高水準です。特に、経済的な繁栄の中で、貧富の格差が広がっています。チェボルによる輸出型の成長はドイツに並びます。三星電機、現代自動車など、金融危機後の不況にもかかわらず、先進諸国市場で躍進しています。ウォン安と円高も、一部は、それに影響しています。

しかし、その陰では中小企業や家計が債務の過重負担で疲弊し、破綻するケースが増えています。社会的なセーフティー・ネットは乏しく、若者の失業増大が自殺を増やしています。

チェボルの利益を重視した市場介入によるウォン安政策は、日本からの抗議を無視するだけでなく、国内市場向けの中小企業、消費者を犠牲にしたものです。

韓国は、日本よりはるかに若い民主主義国家です。しかも、南北分断や米軍基地、中国との関係は今も重大な影響を持っています。経済成長・貿易構造、政治システムなど、共通した面も多い日本と比べて、韓国の改革や模索から学ぶことができるでしょう。


l         バルカン半島

FT May 29 2011

A page has turned in the Balkans

By Misha Glenny

セルビア政府はGeneral Ratko Mladicを犯罪者として逮捕し、国際刑事裁判所の法廷に送りました。EUとの関係を改善するためです。

guardian.co.uk, Wednesday 1 June 2011

Ratko Mladic's extradition is a great day for international justice

Timothy Garton Ash

政治や軍事においても、より大きな説明責任を求めるグローバルな運動にとって、これは重要な前進である。

guardian.co.uk, Thursday 2 June 2011

A moral leadership is emerging in the Balkans

Catherine Ashton

Ratko Mladicを逮捕し、裁判にかけることは、バルカン諸国に流血ではなく平和的な交渉で問題を解決することを可能にする。

「われわれはこの地域を理想化してはならない。違いは残っている。政治は失敗することもある。暴力が戻ってくるかもしれない。しかし、われわれはペシミズムに呑み込まれてはならない。事実上、すべてのものが私に、EUはもっと積極的な役割を果たすべきだ、と言った。私は彼らに、そうできれば幸せだ、と述べた。しかしまた、我々にはできないことがある、と私は述べた。将来に向けた構想と、そのためにリスクを冒す用意は、指導力を必要とし、その中身は外国人が供給できない神秘的なものである、と。」

「アリストテレスは、国家を道義的な存在(a moral entity)と述べた。それが変化するには道義的な指導力が必要だ。EUに加盟することで、そのような指導力が発揮され始めて、バルカン諸国が変化するという大きな希望がある。我々の課題は、それがたとえどれほど困難であっても、この動きを助けることである。」


l         IMFのトップ

FT May 29 2011

Soft options are no longer viable options

By Wolfgang Münchau

FT May 30 2011

A manifesto for the fund’s new supremo

By Jeffrey Sachs

IMFのトップは、国際通貨制度の設計を炊ける能力を持った、天才的な経済建築家a genuine economic architectでなければならない。

「アメリカの政治家たちは90%の時間を選挙と資金集めに奔走し、10%の時間で統治する。」

「ドルの役割が低下するのを管理することがその重要な任務である。」・・・「新しい国際通貨システムは、各地域で重要ないくつかの通貨に依拠して成立するだろう。すなわち、ドル、ユーロ、人民元、そして、ブラジルのレアルや、インドのルピー、その他、12の通貨も可能性がある。」

IMFは、メルケル首相がドイツの国内政治で抱える問題を解決するのにふさわしい機関ではない。」

「中国、韓国、日本は、東南アジアの弱い経済を助けるのにふさわしい位置にある。もし東アジアが過去の不満をぶつけ合うのではなく、政治グループとして行動しようと思うなら、特にそうである。」

「わたしは、IMFに必要な指導力の質を問題にしている。それは金融技術者や政治家ではない。金融の専門家であり、同時に、グローバルな変化の重要な過程でそれを案内する構想と能力をもった人物であるべきだ。」

FT May 31 2011

Emerging economies are ready to lead

By Agustín Carstens

WP June 1, 2011

The wrong choice to head the IMF

By Sebastian Mallaby,

もしオバマがF.D.ルーズベルトのような胆力を持っていたら、フランスのラガルド蔵相Christine LagardeIMF専務理事になるのを阻止するだろう。IMFは重要な機関であり、ヨーロッパの政治に翻弄させてはならない。

IMFは、正統性と独立性とのバランスを得なければならない。それは支配的な諸国や経済主体に支持されなければならないが、同時に、政治的に独立していなければならない。Lagardeの指名は、そのどちらも損なうものだ。

世界経済の成長は、今や、新興経済に大きく依存している。その人口動態、債務累積、識字率、政治的・経済的自由が変化する点で、新興経済は成熟経済よりもはるかにダイナミックな成長を実現できる。もし彼らが既存のグローバルな機関を指導できないのであれば、かつてアメリカがそうしたように、自分たちの価値観や利害を反映する別のシステムを構築するだろう。

フランスの蔵相であったストロス・カーン(DSK)がIMF専務理事であったから、ユーロ圏の債務危機に応じてIMFは間違った巨額融資をしてしまった。DSKがフランス大統領選挙を目指していたから、厳しい融資条件は求めなかったのだ。それはIMFの独立性を損なった。

Lagarde は法律家である。MIT教授、イスラエル中央銀行総裁であったStanley Fischer、スイス中央銀行とヘッジファンドで働いたPhilipp Hildebrand、メキシコのAgustin CarstensLagardeより優れている。アメリカはLagardeの就任を阻むだろう。

FP Wednesday, June 1, 2011

Could the emerging powers set up their own IMF?

Posted By David Bosco

David Boscoは、アメリカが第二次世界大戦後に別のシステムを作った、という上述の指摘を批判します。既存の機関が反対するときに、新しい国際システムを成立させることは非常に難しい。IMFトップへの競争でも、新興諸国はそれに加わる準備や結束力がない。金融的な資源を頼る場合も、新興諸国にとってはIMFである。


l         ドイツ

WSJ MAY 31, 2011

Germany's Nuclear Panic

福島の原発事故から2ヶ月経って、原発廃止を決めたのは、重要な活断層もない、中欧のドイツであった。

メルケルは左派やグリーンから票を奪うために、2022年までに原発を廃止することを提唱した。1979年のスリーマイル島事故、1986年のチェルノブイリ事故に続いたヒステリックな反応を利用できると考えたのだ。

FP Tuesday, May 31, 2011

Germany's denuclearization shot in Russia's arm

Posted By Steve LeVine

ドイツやEUに対するロシアの影響力が強まるだろう。

FP JUNE 1, 2011

Frau Flip-Flop

BY PAUL HOCKENOS

メルケルの政治姿勢を批判する論説です。(不思議と、菅直人の批判に似ています。)

「まるでローマ法王が、突然、産児制限のために経口避妊薬の使用を提唱したようなものだ。」と、ドイツの雑誌、Der Spiegelは書いた。メルケルの原発廃止声明はそれほど唐突で、ご都合主義の、信念を欠くものだった。

ヨーロッパにおいて、ドイツが原子力エネルギーから手を引くことは、世界第4位の経済大国であり、その政治的な重要性において、冷戦終焉に際して東西ドイツが再統一したことにも匹敵するほどだ。かつてのコール首相が周到な外交政策によって実現したような歴史的決断を、不人気を気にするメルケルは投票箱とメディアに対する影響だけで決めた。

「メルケルの政策転換は、彼女が望んだ保守連立を終わらせ、特に、南ドイツで強力な原発ロビーを切り捨てた。」

1990年代にコール首相がメルケルを庇護したのは、カソリックで、男性中心の、西ドイツにしか基盤がない政党を近代化するためだった。メルケルはあらゆる面で目立つ存在だった。東ドイツ出身、女性、プロテスタント、専門家、2度の結婚、子供のいない物理学者。その味気ないスタイルや直截的な話し方、気取らない行動が安心感を呼んだ。

しかし、その後、2005年に首相となってから、彼女は何度も政策を転換した。その軌跡を追うのが不可能なほど。

最近のユーロ危機でも、メルケルはタブロイド紙と同じような南欧への蔑視(早期退職、長期休暇を好む怠け者)を公言した。それは、ドイツにおける反EU感情を煽っただけだ。ドイツ経済がブームであるのは南欧に輸出し、EUの枠組みがあるからだが、メルケルはEUを守る役割を支持するのではなく、ヨーロッパをドイツの敵にしてしまった。

その政策転換の無責任さは、福祉国家を支持したときや、外交や安全保障の面でも示された。野党として、イラク戦争では政府に参戦を拒ませ、首相としてリビアへの軍事介入を棄権した。安保理常任理事国になることなど、考えられないだろう。このまま2013年にドイツ史上初のグリーン(緑の党)政権が登場すれば、メルケルは歴史の本に載るかもしれない。

SPIEGEL ONLINE 06/02/2011

Merkel's Dearth of Conviction

The Faintheartedness of Germany's Politicians

A Commentary by Klaus Brinkbäumer

「アメリカ政治ではレトリックは政治家の技量である。それは活気あるディベートと刺激的な政治活動をもたらす。しかし、ドイツではそれは違う。不安や軽薄さは、ビジョンに欠けた、個性の不足につながる。アンジェラ・メルケル首相は、自分に自信が持てないようだ。」

痛烈なメルケル批判です。

WP June 2, 2011

Germany’s nuclear energy blunder


l         IMS改革

(China Daily) 2011-05-30

Over-reliance on US dollar

By Niu Tiehang

「世界経済の不均衡を均衡に向かわせるには、国際通貨システムの改革が必要だ。」

その原因はアメリカが得るシニョレッジであり、トリフィンのジレンマだ。アメリカはドルを大規模に供給して輸入を増やすことでシニョレッジを得ている。それは長期的な国際通貨システムの安定性と矛盾する。このことを「トリフィンのジレンマ」と見なす。

シニョレッジはアメリカが国際通貨を独占的に供給でき、しかも、主要な貿易赤字国であることから生じる。この二つの条件をなくせば、国際通貨システムはより健全になるだろう。世界は複数の通貨に依拠して貿易や投資をするようになるし、中国の人民銀行総裁が求めたようにSDRの利用を増やすだろう。

 (China Daily) 2011-06-02

RMB's bumpy road ahead

By Yu Yongding

人民元の国際化にはメリットがある。国際通貨システムへの不満が国際化への関心に向けられた。しかし、国際化においても資本規制の一部は撤廃せず、投機的な変動に関する警戒が必要だ。人民元建資産に対する長期的な需要と、ホットマネーを区別することはできる。


l         ブラジル

FT May 30 2011

Latin lessons

ラテンアメリカ諸国は、国際商品市場の活況だけでなく、経済政策や制度の改善においても成長を持続できるプラグマティズムを確立したようだ。

FT June 1 2011

End the party before Brazil’s bubble bursts

By Moisés Naím

ブラジル経済は過熱している。今まで融資を得たことがない人々が信用で住宅を建て、消費を増やしている。それは多くの人が雇用され、賃金が上昇し、貧困を脱出したからだ。また、その背景には鉱物や農産物に対する世界需要の増大と輸出の伸びがある。

しかし、国際的な投資も重要だ。それは輸出増と合わせて通貨を増価させている。インフレ調整後、この10年でブラジル通貨レアルは47%も増価した。通貨の増価、外国投資家の強気、ユーフォリア、消費の拡大、それらはボトルネックによって物価を上昇させている。ブラジルのように貧しい国で、リオデジャネイロやサンパウロの住宅価格は2008年以後に倍増した。インフレはDilma Rousseff大統領の主要な関心となっている。

さらに心配なのは、バブルが生じつつあることだ。ブラジル経済の前進は事実だが、それは持続的な基礎にない。前大統領Lula da Silvaは多くの改革を先送りした。それゆえ、10%成長する中国と違い、年率4.5%の成長でもブラジルは過熱状態なのだ。バブルが膨れる前に、経済を安定化し、改革を進めるべきだ。

今、抑制しなければ、ブームは突然停止する。そして、破壊的な調整による将来のコストは非常に重くなる。


YaleGlobal , 31 May 2011

Bound to Fail

Bo Ekman

Global Times [18:57 May 31 2011]

Diminished but powerful G8 still wants to rule the world

By Ding Chun


WP June 1, 2011

A rescue worth fueling

By Timothy Geithner

200961日に、GMは破産し、連邦政府から300億ドルの支援を得た。同じ日、ニューヨークの法廷はクライスラーとフィアットの合併を認め、彼らは復活のためにビジネスを再編した。

2年後、3大自動車会社は利益を出し、115000人の雇用をもたらし、GMとクライスラーは政府による投資の半分以上を返した。」

クライスラーの救済はより困難であった。しかし、オバマ大統領は知っていた。それは、もしクライスラーが倒産すれば、何万人もが仕事を失い、すでに苦境にあったアメリカ経済が深刻な打撃を受けることだ。

アメリカ自動車産業の救済は、反対も多く、確実でもなかったが、正しい選択であった。

FT June 1 2011

Back towards a US double-dip

By Robert Reich

失業者や賃金、住宅価格、どれを見ても経済状態は悪化しているのに、それを改善するための連邦政府の刺激策は、2013年の大統領選挙を意識して動き始めた両党の対立で、実現する見込みはない。まるでワシントンだけは違う惑星にあるかのように。


Global Times [19:59 June 01 2011]

Religious harmony only way out for Middle East

Tony Blair

冷戦終了後の世界で起きている宗教対立を背景に持つ戦争やテロに対して、イギリスの元首相、トニー・ブレアが中国紙のインタビューに応えています。

宗教心は社会にとっても重要だが、異なる信仰を否定する姿勢は改めるべきだ。繁栄は一部のものが独占してはならないし、人間には経済的な繁栄以外にも重要な目標がある。

中国にもさまざまな宗教がある。そして、9・11や、北アイルランド紛争についても。

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The Economist May 21st 2011

The world’s most dangerous border

Pakistan and India: A rivalry that threatens the world

Dominique Strauss-Kahn: Damned

Charlemagne: Decoding DSK

Japan’s economy: On a mission

Japan’s post-quake economy: Casting about for a future

China and Tibet: Go back to law school

Europe’s diverging economies: Northern lights, southern cross

The euro’s problems: Tomorrow and tomorrow

Responsibility to protect: The lessons of Libya

Economics focus: The service elevator

(コメント) パキスタンの政治的不安定性とインドへの警戒心は、核戦争や次の世界戦争にも発展するほど大きな危険です。しかしそれは緩和できるし、世界経済の回復をもたらす希望にもなります。

ストロス・カーン(DSK)の逮捕、拘留をめぐって、フランスのメディアは憤慨し、陰謀説も流れます。2006年に、「夫の評判を気にしないのか?」と聞かれた妻は、「いいえ。むしろ魅力ある政治家であることは誇りです。彼が私を誘惑するように、私も彼を誘惑する。それでいいじゃない。」と答えたそうです。イタリアのベルルスコーニに至っては、未成年の少女を買ったことにも悪びれた様子はない。「わたしは人生を愛し、女性を愛する。」と、元気に宣言したとか。アメリカのニューヨーク司法当局は、世界屈指の権力ある国際機関でトップを示す人物であっても、迷いませんでした。これは大西洋をはさむ歴史や文化の違いであり、政治家の秘密と特権を許してきたヨーロッパに対する奴隷解放宣言かもしれません。

日本が震災によって経済や政治にどのような影響を受け、反応を示すのか? まだ、このときは、チベットの政治指導者が宗教でも共産党でもなく、民主的な代表として登場することより注目していたのです。

東北の大震災に匹敵しうるショックは、同時に起きた、リビア空爆とユーロ危機の拡大です。後者は「メルトダウン」と呼ばれつつあります。世界の変化に応じた人類の集団的競争において、知性を代表する人々は、内閣不信任のドタバタ劇さえ収拾できない日本に、いつまで注目してくれるのか?

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IPEの想像力 6/6/11

山本一力の小説、『銀しゃり』を読みました。『だいこん』も面白いけれど、これもいい。働く姿が。

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アイスランド、アイルランド、そして東欧やラトビアも危機を懸念されましたが、今やギリシャ、ポルトガル、そしてスペインやイタリアへの波及が恐れられています。他方、「救済融資」についてオランダ、ドイツ、フランスでも不満が高まり、ユーロ危機が深刻な政治対立を広めています。

借金を返さないのは許せない、怠慢だ、無責任だ、放埓だ、詐欺だ、・・・と<北欧>市民は憤慨します。他方、<南欧>市民は、金融政策を決めたのも、金融危機を起こしたのも、自分たちではない、と思うでしょう。それは<北欧>に合わせた金利やインフレ率であったし、それにともなう為替レートでした。投資や融資を主導したのも、<北欧>の大銀行ではなかったか?

解決策はあるのか? もし融資を続けることで、債務国の経済改革が進み、つまり、社会制度や生産システムの改善が行われて、財政赤字や貿易赤字が解消されるようなら、長期的に見て解決されるでしょう。これはEUIMFが支持する解決策です。[現状維持]

問題は、国際金融が民間市場での債券売却に依存するようになったために、赤字が続く間、民間投資家が赤字国の債券を購入(そして保有)してくれるのか、わからないことです。債券市場は様々な理由で不安定化します。IMFのトップが性的暴行容疑で逮捕されることは珍しいけれど、もっと頻繁に、投資家の不安は起きるでしょう。

もし、その不安が根も葉もない、単なる一時的な心理状態で、長期的な条件を変えないと分かれば、いずれ危機は収束するし、民間市場が止まっても、それを政府間で融資すればよいでしょう。しかし、金融危機が示すのは、市場が心理的な要因で拡大し(実際、長期にわたって過剰に拡大し)、その後、崩壊することです。

流動性危機と支払不能とは、概念的に区別でき、重要な違いですが、実際には結びついてしまいます。特に、ユーロ圏のように金融秩序がバラバラで、政治的関与や信頼性に欠ける情報を基に投資が行われていれば。

解決策はあるのか? それは類型化すれば(理念型)、アイスランド型、アイルランド型、ラトビア型、アルゼンチン型、です。

[アイスランド型]・・・対外債務を国内債務から切り離し、対外資産に応じて返済する(売却による大幅な損失を海外投資家が被る)。国内債務(預金)は別の銀行にして公的資金で再建する。IMFが融資して介入し、資本流出を止め(資本規制)、為替レートを切り下げ、金利を引き上げ、財政赤字を抑える。バブルが消えて不況になるが、その後は輸出が増えるから、不況を緩和できる。

[アイルランド型]・・・民間の対外債務を政府がすべて肩代わりする。それにともなう政府の債務危機はEU(そしてIMF)が融資する。ECBが預金・資本流出から銀行を守る。しかし、バブル崩壊と政府債務の返済負担は重く、財政赤字と長期の不況をもたらす(高失業率と移民流出)。為替レートも金利も自国で決められない。賃金や物価を引き下げて、以前の成長モデル(直接投資を誘致する)に戻りたいが、外資誘致をめぐりEU諸国が反対している。

 

[長いReview

 

[ラトビア型]・・・為替レートは固定を守る。急激な不況に耐えて、財政赤字の削減、公務員給与の引き下げ、物価を大きく下げる。こうした「内的な切下げ」策を、ソ連(ロシア)圏から離脱した後、今も西側の政治経済体制へ統合化することを強く願う国民は、政治的に支持する。

[アルゼンチン型]・・・IMF融資も含めて、対外債務を支払わない。ドル圏(アルゼンチンはドルと固定していた)を離脱して、為替レートを大幅に切り下げる。世界市場の活況で輸出が伸び、国内の政治的・経済的危機が収束すれば、逃避していた資本も戻って、高い成長率が実現する。対外債務の大幅削減は数年に及ぶ国際交渉で実現する。

[ユーロ圏U]・・・より緊密に市場統合したユーロ圏です。政治統合はしないけれど、金融秩序の統合化と自律的な金融安定化基金を設ける。貿易だけでなく、投資や移民を積極的に支援し、市場統合によって地域間で技術水準や社会制度が収斂し、長期的に、生活水準を北西欧レベルに引き上げる。

[ユーロ圏V]・・・一部もしくは一時的なユーロ圏離脱を認める。あるいは、ユーロ版ブレトン・ウッズ体制(為替レートの調整ルールと資本規制)とマーシャル・プラン。

[ブレディ・プラン型]・・・債権を保有する銀行・金融機関の経営が改善し(政府支援も)、債務削減を受け入れる。債務国が債務の証券化・株式化に積極的になる。旧債務を、アメリカ政府債などで保証した新証券に交換する。黒字国の民間投資家が高利回りを求めて投資を増やす。

正解は何ですか? ユーロは正しかったのですか? ユーロは続きますか? ・・・当然、学生たちは質問します。

私の返答は、どれも正解(そして不確実)である、というものです。アイスランド、アイルランド、ラトビア、アルゼンチン、いずれのケースでも、国内市場(規模・構造)と貿易や国際投資との関係は異なります。それぞれの政府が描く解決策は、国民を説得するために政治家たちが利用できる法的・制度的な手段、国際的制約、歴史的背景、心理的要因、そして安全保障などによって大きく異なります。危機が深刻であるほど、指導者たちは既存のガバナンスを革新して、新しい解決策へ国民を導くでしょう。

C.P.キンドルバーガーのアメリカ経済学会会長講演(“International Public Goods without International Government”)を読むと、「最適通貨圏OCA」が労働移動(リカード=マンデル)か貿易パターン(マッキノン)か、という議論を超えて、「最適経済圏OEA」、「最適政治単位OPU」、「最適社会単位OSU」にまで言及しています。また、それはそのメンバーの政治的な野心にもよる、と指摘します。ビスマルクやド・ゴールのように栄光を求め、領土や影響圏の拡大を望む国民か、それともデンマークのように、問題を避けて小さな国に暮らしたい人々か?

メルケル首相は、2013年まではギリシャ債務の組み換えを拒み、安保理決議によるリビア空爆を避け、2022年までにドイツの原発をすべて廃止すると決めました。確かに、ロシアはドイツの好む条件でいずれEUに加盟するかもしれません。しかし、中国はどうでしょうか?

日本の針路が問われます。

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