IPEの果樹園2011

今週のReview

5/16-/21

 

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アラブの春 ・・・ビン・ラディン殺害 ・・・中国の世紀 ・・・ユーロ離脱と危機の解決策 ・・・アメリカ経済の苦境 ・・・ヨーロッパの移民排斥 ・・・国際通貨制度の現在 ・・・原発廃止 ・・・エコノミストの独裁

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia そして、The Economist (London)


l         アラブの春

FP MAY 5, 2011

Arab Spring, Turkish Fall

BY STEVEN A. COOK

トルコの政治経済が、アラブの春のモデルになる、という期待があった。しかし、トルコ政府の反応は遅く、影響は限られたものだ。トルコは全方位外交で、オスマントルコの影響力を回復すると言われたが、実際には周辺諸国(特にシリアの現政権)との関係を安定化することに固執し、アラブの春を支援することに後ろ向きであった。

NYT May 5, 2011

Stalled Mission in Libya

guardian.co.uk, Sunday 8 May 2011

There are no good answers in Libya. But war should never be the default

Gary Younge

リビア空爆はイラク侵攻とまったく違う。国連安保理決議を得た合法的な軍事力の行使である。国際社会の支持を得ている。アメリカは攻撃の前面に立たない。市民たちがカダフィの軍隊によって殺害されるのを黙って見過ごせない、体制転換を目指すものではない、とオバマは述べた。

しかし、最初から飛行禁止空域の設定や限定的な空爆だけでカダフィが権力を放棄する見込みはなかった。空爆は、地上軍の投入や占領につながる。すでに英仏はカダフィ政権が続くことを拒んで、明確に体制転換を目指している。しかし、5万フィート上空から爆撃するだけで人道的介入の目的を達成することはできない。予測できたことだ。

かつてニューハンプシャー州で、一人のアメリカ上院議員が、虐殺を防ぐためにイラクに米軍を残すべきか、と問いかけた。「もしそのような基準で米軍を展開するとしたら、エスニック間の紛争で数100万人が虐殺されたコンゴには30万人の米軍が要ることになる。しかし、われわれはそうしなかった。スーダンにも一方的に米軍を展開し、占領することになる。我々はそうしなかった。」

その議員の名は、バラク・オバマ。

FT May 9 2011

Into the thickets of the Arab spring

By Gideon Rachman

アラブの春をどう見るかで、外交官たちの間に全く逆の二つの意見がある。一方は、人生で最高の瞬間だ、というものだ。他方は、数10年間で最悪の危険な瞬間だ、と考えている。

同じ人でも同時にこれらの見解を取る。短期的見方と長期的な見方だから。それを歴史的な飛躍と見れば、現状維持は可能でないし、望ましいわけでもない。アラブ世界の独裁と貧困がこれ以上続くことを誰が望むのか? しかし、旧秩序の崩壊が各地で戦争をもたらし、国家の崩壊やイスラム武装勢力の拡大を招くかもしれない。

アメリカ人やヨーロッパ人が抱くシリアの不安定化に対する心配は愚かなものだろうか? シリアは多くのエスニック集団からなり、国家は崩壊寸前だ。「レバント地方の小ユーゴスラヴィア」と呼ばれている。トルコ政府は特にアサド大統領との関係構築に努めてきたため、隣国シリアが混乱し、内戦や難民流出に向かうことを望まない。

リビアの将来は予想できない。西側の恐れた方向へエジプトは外交政策を転換した。イランとの関係を改善し、ムスリム同胞団が議会の最大勢力になり、彼らはイスラエルとの和平条約を廃止したいと言っている。サウジアラビアはオバマ政権がエジプトのムバラク体制を見捨てたことを非難している。サウジアラビアにも改革を求めるアメリカより、多くの石油を買ってくれている中国との関係を強化する、と脅す。

確かに長期的には、ほとんどの西側諸国にとってアラブの春は歴史的な転換として素晴らしいものだ。しかし、ケインズが述べたように、「長期的には、われわれは皆、死んでいる。」

FT May 10 2011

Egypt’s revolution at the crossroads

YaleGlobal, 10 May 2011

Libyan Fallout: Does NATO Divide the Atlantic Partners? Part I

NYT May 10, 2011

Bad Bargains

By THOMAS L. FRIEDMAN

ビン・ラディンはどのように潜伏生活を続けたのか? 9・11の核心はそこにある。サウジアラビアからの資金と、パキスラン軍の保護。二つをつなぐワッハーブ派の宗教・教育ネットワーク。

両国にはショック療法が必要だ。アメリカからの莫大な軍事援助を得ているパキスタンに告げる。我々の真の敵に立ち向かうべきだ。民衆の福祉を無視し、教育を行わず、エリートたちは汚職と宗教的蒙昧に安住している。これらを打破せよ。インドの脅威に対抗するため、アフガニスタンの中の同盟者を確保する、というパキスタンの説明は受け入れられない。

サウジアラビアにも告げる。アメリカ政府と、サウジの支配層、ワッハーブ派は三すくみだ。アメリカはサウジに安全保障を提供して石油を得ている。ワッハーブ派はサウジに宗教的な正統性を提供して資金を得ている。それはサウジ支配層にとって都合のよい取引だが、アメリカには受け入れがたい。アメリカは新しいエネルギー政策を実現するしかない。

確かにビン・ラディンは死んだ。しかし、誰も安全ではない。イスラマバードとリヤドで、穏健派のイスラム教徒が勝利するまでは。

WP May 11, 2011

Egypt’s new foreign policy

国内の民主化はまだ進展しないにもかかわらず、軍事体制下で、エジプトの外交政策はすでに転換した。アメリカやイスラエルが関与しないまま、エジプトはパレスチナのファタハとハマスを和解させた。またエジプトにとっては、イスラエルの核が問題であり、その次に、イランの核だ。はっきり言って、イランは敵ではない。・・・この転換はイスラエル政府をパニックに向かわせる。

それでも、エジプト外交の転換はアメリカやイスラエルの利益にもなる。エジプトはイスラエルとの和平条約を維持すると述べている。また、2国案を支持する。そして新しく、アラブ世界の民主化を支持する国になる。アメリカは、以前のバラバラな中東政策を改善できるだろう。

エジプトは、シリアやサウジアラビアに独裁体制が残っても、中東地域の指導的な国家になるだろう。オバマはエジプトの外交政策に成果を求めている。

The Guardian, Thursday 12 May 2011

A roadmap for Libya

Ibrahim Kalin

トルコのErdogan首相は、リビアのカダフィ大佐が直ちに辞任して新しい政治交渉を始めるように求めた。解決への道roadmapは三つからなる。即時停戦。人道援助回廊の設置。新政治秩序(カダフィ辞任)。先週、ローマで開催された関係者の会合では、アメリカ、イタリア、アラブ諸国の大臣が国際支援策に支持を表明した。

この打開策を表明したことで、トルコはアラブの春における指導的役割を引き受ける意志を示した。これは、西側ジャーナリストたちが非難するような、行動を回避するための言い訳ではなく、積極的な外交的解決の模索である。

YaleGlobal, 12 May 2011

Libyan Fallout: Does NATO Divide the Atlantic Partners? Part II

Tomas Valasek


l         ビン・ラディン殺害

NYT May 5, 2011

The Quiet at Ground Zero

NYT May 7, 2011

Why We Celebrate a Killing

By JONATHAN HAIDT

ビン・ラディン殺害のニュースに歓喜した群衆は不健全で、正義の名の下に、殺害や復讐を喜ぶ邪悪な人間性を示したのか? そうではない。健全で、善良な感覚を意味している。

ビン・ラディン殺害は、10年に及ぶ苦しい戦いの成果として、アメリカの集団的な戦いが得た勝利の瞬間であった。それは攻撃的なナショナリズムとは区別される、健全な愛国心である。

問題は、個人ではなく、集団心理である。集団として生きる人々が深刻な脅威やストレスの下に暮らせば、互いに助け合い、共感する条件が生じる。宗教、戦争、チーム競技、そして、ビン・ラディン殺害に沸く群衆には共通した心理が働いている。

社会学者のエミール・デュルケームが研究したように、宗教に代わる感覚として、市民的な制度の下、集団を国民へと転換する作用を、ある種の集団的な高揚がもたらすだろう。それは健全な愛国心を形成する。

政治家やジャーナリズムは、その健全な部分を称え、悪用してはならない。

guardian.co.uk, Sunday 8 May 2011

The Osama bin Laden operation must be made transparent lest it's seen as frontier justice

Michael Mansfield

かつて、ジョージ・W・ブッシュ大統領が「生死を問わず」と述べたとき、その「フロンティア(アメリカ式西部開拓)の正義」は世界に共感を与えなかった。オバマ政権下のビン・ラディン殺害は、「法の支配」や国際的正義に関する再考を促すものだ。

最強の軍事力を持つアメリカにとって、十分な透明性と説明責任を課されないまま、力が法に代わるとしたら、アメリカの持つ「殺しのライセンス」は国際的な規範を大きく損なうだろう。オバマはこの点を意識して、声明では、テロのような、人間性に対する犯罪が続くことを阻止する意義を主張した。

しかし、法に拠る正義ではなく、暗殺を求めたことは明らかだ。ビン・ラディンは武装していなかった。テロの犠牲者とともに、いかなる者も法を超えてはいけない、と考える。

NYT May 8, 2011

Whose Foreign Policy Is It?

By ROSS DOUTHAT

FT May 9 2011

Warfare: An advancing front

By Daniel Dombey, James Blitz and Peter Spiegel

情報・軍事技術が進歩し続ければ、アルカイダのような集団がこれを利用し、国家安全保障システムはますます非国家主体、小集団や個人を、直接に、国家の脅威と見なすことになる。この新しい戦争行為では、無人偵察機や衛星による情報収集が重要になる。

アメリカの軍事戦略は、圧倒的な軍事力を投入するパウエル・ドクトリンと、特殊部隊や新技術に頼るラムズフェルドの発想とが対立してきた。実際は、その中間を進んでいる。

アメリカにとって重要な戦略課題は、超大国の地位をめぐる中国の台頭である。アメリカは過去の戦争からも逃れられない。

 (chinadaily.com.cn) 2011-05-09 13:35

American power after bin Laden

By Joseph Nye

アメリカ衰退論はいつも、事実ではなく、心理的な循環であった。今もそうだ。アメリカの軍事・政治・経済権力は絶対的な意味で低下していない。相対的な低下はまだ重要ではない。アメリカをローマ帝国の衰退期やイギリス帝国の衰退期と比較するのは間違っている。また、財政赤字の増大も問題にならないだろう。

LAT May 9, 2011

White House Situation Room: History's center stage

By Jim Rasenberger

FP MAY 9, 2011

The Age of the Manhunt

BY BENJAMIN RUNKLE

悪人を狩り出すmanhuntは、アメリカ人の自我意識に根差しており、さらに、現代の技術進歩によっても支持されている。ビン・ラディン殺害後も、国境を越えたマンハンチングは国防政策の一部を占め続けるだろう。

ただし、その成否は今も、個人を標的にする技術ではなく、より広範な領域への戦略を立てることに依存している。

LAT May 10, 2011

Why the hurry to gloat about Bin Laden?

Jonah Goldberg

WP May 12, 2011

With bin Laden gone, now’s the time to push Pakistan

By Fareed Zakaria


l         中国の世紀

SPIEGEL ONLINE 05/06/2011

Change in Russia's Far East

China's Growing Interests in Siberia

By Matthias Schepp

シベリアにおける中露国境の両側で、ロシア人は600万人しかおらず、中国人は9000万人もいる。貪欲な経済成長を続ける中国人が資源を求めて極東ロシアに対する影響力を強めることは明らかだ。モスクワは5000キロも離れており、中国の地方都市からははるかに近い。

FP MAY 6, 2011

China’s America Obsession

BY JOHN LEE

中国共産党の新聞は「ビン・ラディン後のアメリカにとって、中国が敵になるのか?」という社説を載せた。中国の台頭はアメリカとの摩擦を起こす。この事実に、アメリカだけでなく、中国の政治指導者や戦略家たちの発想は支配されている。また、中国を悩ます孤立感の本質を理解する必要がある。

彼らはネオリアリスト的な発想で米中摩擦を理解している。すなわち、世界のパワー配分が明日の対立や戦争をもたらす。ところが、アメリカは自国に有利なパワー配分を追求するだけでなく、自国の価値を広めるという意味で、特殊な超大国である。そのため、中国の成長や軍備拡大が進んでも、アメリカによる民主化要求とアジア諸国との連携が中国に孤立感をもたらしている。アメリカは、中国共産党が指導することを受け入れない。

さらに、アジア諸国との連携を組むうえで、中国に比べて、アメリカに優位がある。1.インドや東南アジアにおいて、インドなど、民主化を支持する国と連携できる。2.他のアジア諸国と領土紛争を抱えていない。3.アメリカはアジア地域に属していないから、地域に広がる連携を構築しやすい。

こうして中国は、アジアにおける構造的な劣位を意識した対米戦略に支配される。

NYT May 7, 2011

Talking to China

FT May 8 2011

Here be dragons

FP Monday, May 9, 2011

America and China can speak, but can they talk?

Posted By Clyde Prestowitz

Bloomberg May 9, 2011

Gold Trade Is Only Winner in Inflation Attack

By William Pesek

FT May 10 2011

China: A sharper focus

By Jamil Anderlini and Kathrin Hille

急速な成長にもかかわらず、中国指導部の関心は安全保障に大きな比重を置いている。国内の反政府活動や体制批判に対してはむしろ弾圧を強めており、インターネットに批判的な意見を表明した者が行方不明になっている。

インターネットなど、情報技術の革新に対する警戒感は強く、人民解放軍はサイバー警察をメディアの全域に展開し、情報収集を重ねている。温家宝首相がしばしば政治改革の必要を表明するだけで、安全保障を重視する強硬派の支配は変わらない。

 (China Daily) 2011-05-10

Is the Asian century upon us?

By Haruhiko Kuroda

アジアの世紀が実現する見込みが高いが、必ず予定されているわけではない。

不平等を緩和しなければならないし、急速な都市化と人道構成の変化を経験する地域が直面する問題が待っている。その成長モデルは資源を集約的に利用するものであり、温暖化ガスの排出量を抑える努力も後れている。成長を維持しながら、こうした問題を解決するために、生産性を改善し、気候変動を抑え、より包括的な社会の発展を目指して、技術革新のための投資を増やすべきだ。

こうしたリスクは互いに強め合い、既存の摩擦や対立が激化することにもなる。急速な成長と都市化を経た地域は、歴史が示すように、中所得水準の罠に陥ることが多い。安価な労働力と資本を利用する成長が終わって、より高い生産性と技術革新が重要になるからだ。その際、アジア経済のアキレス腱は、ガバナンスと制度の構築、である。すなわち、制度的な平等を高めて腐敗・汚職を減らすことだ。

新しい成長を実現するための効果的なガバナンスとは、平等性、医療保険、教育システムであり、輸送や移動のためのインフラ整備であり、効率的で暮らしやすい都市である。銀行システムや金融市場も安定的でなければならないし、市民の権利を守る、信頼できる公平な法システムがなければならない。

アジアはガバナンスを近代化し、情報が透明で、市民に対して説明責任を果たす、実効性の高い制度へと再編されるべきなのだ。

アジアは開放的な地域主義、地域協力によって成長した。アジアが貧しく、資本も不足していた時代に有効であった政策は、もはや役に立たないことを、指導者たちは知るべきだ。そして地域や地球レベルで協力を実現する政策に向けて、大胆に革新しなければならない。それがアジアの繁栄を支え、世界に対する指導的な役割を果たすことになる。

そのためにアジア諸国は相互に信頼し、協力を深めることだ。これはヨーロッパは実現した地域協力の歴史から学ぶものである。また、それだけでなく、ASEANやメコン川流域開発の成功からも言えることだ。自由貿易、金融システムの安定化、気候変動、安全保障など、グローバルな公共財の供給にもアジアが責任を負うことで、世界市民として認められるだろう。

アジアの世紀は、アジアが世界を支配する時代ではない。それはグローバルな繁栄を他の地域と共有する時代である。その成功はあらかじめ決まったものではなく、学びとる努力を忘れてはならない。

FT May 11 2011

China’s spending spree deserves three cheers

By David Pilling

WP May 11, 2011

China’s bad economic news is not necessarily good for the U.S.

By Harold Meyerson

一人っ子政策のせいで、いよいよ中国の労働力供給が減り始めた。中国の賃金が上昇すれば、これまで中国製品の安さに苦しめられてきたアメリカにとって良いニュースだ、とWSJは伝えた。確かに、今のところはそうだ。

では、揚子江流域とミシシッピ川流域を比較してみよう。所得水準がアメリカ国内で特に低い(どのような基準でも49番、あるいは50番の)ミシシッピ川流域は、世界市場での競争力が高いだろうか? むしろ、アメリカ経済は北欧に比べても弾力性で優れている。低賃金ではない。

鉄鋼業は労働組合との関係を良好に維持しなければならなかった。ヨーロッパや日本からも、自動車工場が南部に、労働組合のない、低賃金のミシシッピ川流域に来た。他方、ドイツは労働コストが高いにもかかわらず、高技術製品で利益を確保している。アメリカは、新興市場の消費者に向けた、低コスト製造業の基地になりつつある。

中国の賃金上昇は、アメリカにとって良いニュースから、悪いニュースになる。

WP May 11, 2011

The coming renaissance in U.S. manufacturing

FP Thursday, May 12, 2011

Chinese and American madness

Posted By Clyde Prestowitz

Bloomberg May 12, 2011

Down-Under Hypocrites Bet All on China’s Boom

By William Pesek

21世紀はアジアの世紀であり、特に、中国の世紀である、という合意が形成されている。中国の飽くことなき資源需要を満たすために、オーストラリア経済は成長し続ける。

その結果、株価も、地価も、物価も、為替レートも増価する。オーストラリア西部の「植民地化」が懸念される。企業他土地の買収を阻んでも、その効果は限られる。「オランダ病」が議論されている。労働力の輸入が問題になっている。

「チャイナ・エフェクト」は強烈だ。17世紀の成長モデルに戻るだけか? オーストラリアに「二つのスピードで拡大する経済」が誕生する。資産バブルと社会の不安定化が強まる。しかし、欧米から中国に向かう政治家たちには、この変化に身を委ねるしかない。


l         ユーロ離脱と危機の解決策

(chinadaily.com.cn) 2011-05-06

The seven-year ditch

By Harold James

債務不履行の歴史は多くの例があるけれど、いずれも、特に民主主義の下では、容易に解決しなかった。現在のユーロ危機に近いのは1980年代のラテンアメリカ債務危機であるが、何を学ぶことができるか?

ラテンアメリカでも最初は、国際機関と銀行からの融資に、政策転換が組み合わせて進められた。しかし危機の3年後、James Baker財務長官による体系的な試みは失望に終わった。ラテンアメリカの成長は回復せず、IMF融資はむしろ減った。

さらに3年後、Nicholas Bradyが新しい財務長官となって、債務処理に向けた複数の選択肢がメニューとして示された。そこには低金利や債務減額も含まれていた。債権を持つ銀行は債務組み換えを嫌って、融資増で対応しようとした。また国際機関は債権を市場で安く売却した。

それにもかかわらず債権処理計画が成功したのは、成長への期待が回復して、ラテンアメリカからの資本逃避が逆転したからであった。同じことをユーロ危機の源泉である南欧諸国にも適用できるだろうか? そして、ラテンアメリカが味わった危機後7年間の苦しみを回避できるだろうか?

最初の数年間、債務が処理できなかったのは、銀行が損失を処理できなかったからだ。損失を償却できる準備金を蓄えるまでに、期間を要した。ブレディー・プランを成功に導いたのは、その意味で、アメリカ政府ではなく民間銀行である。アメリカではシティコープ、ヨーロッパではドイチェバンクが債権の減額を受け入れた。それは世界経済の健全性を回復するものであったが、そうすることで彼らは他の銀行に対する競争上の優位を公的に示すことができた。

ラテンアメリカには「改革疲れ」があった。特に、1982年以後のドル高が債務国の困難を増し、債務危機の解決を阻んできた。1985年以後のドル安は債務の負担を大きく緩和した。今も、ユーロ高が続くことは債務国の危機を悪化させている。世界経済の不確実性が高いままでは、ユーロ高がなかなか解消しない。

ユーロ危機でも、民間銀行の処理に向けた競争が必要であった。ところが危機回避に熱中した政治家たちは、弱い銀行への処理圧力を取り除いてしまった。現在のユーロ危機は、ラテンアメリカ危機と比べて、ヨーロッパの政治統合にまで不安を生じている。1980年代のラテンアメリカよりも豊かである分だけ、ユーロ圏の債務処理に向けた期待は高まらない。

SPIEGEL ONLINE 05/06/2011

Athens Mulls Plans for New Currency

Greece Considers Exit from Euro Zone

By Christian Reiermann

ギリシャ政府がユーロ圏からの離脱を検討している、というニュースが衝撃を生んだ。金曜日の夜、ユーロ圏各国の財務大臣と欧州委員会代表がルクセンブルグで秘密会合を開いていたからだ。ドイツ政府からの情報で、ギリシャのパパンドレウ政権がユーロ圏を離脱して、自国通貨を回復するかもしれない、というのだ。

大幅な切り下げが起きるだろう。ドイツ政府は、ギリシャへの影響があまりにも破壊的である、と説得している。50%の切下げで、政府債務のGDP比率は200%を超え、大幅な債務の減額が必要になる。それはギリシャ政府の破産を意味する。

ユーロ圏の離脱が法的に可能かどうかも分からない。それはEUからの離脱も意味する、と法律家は考える。他の加盟国がギリシャの一方的な離脱を認めるかどうか、わからない。その影響はヨーロッパ経済にとっても破滅であろう。大規模な資本逃避が起きて、ギリシャ政府は資本規制を採用するしかない。その不安はユーロ圏に波及する。

ギリシャに限らず、すでに不安定なヨーロッパの銀行システム全体が自己資本を減らし、弱い銀行は支払不能になる。ドイツの銀行もその債権に多くの損失が発生する。金融安定化のために介入してきたECBの資産も破壊されるだろう。

FT May 8 2011

The political causes of a not-so-secret meeting

By Wolfgang Münchau

ギリシャがユーロ圏離脱を検討している、というニュースは、不可能な選択肢としてすでに議論されてきたはずだ。ギリシャは離脱できないし、EUは債務組み換えに関与(ユーロ債を発行)しない。こうして、もはや容易な選択肢は尽きてしまった。

「ユーロ危機の核心は周辺諸国の政府債務が大きいことではない。それはユーロ圏のGDPに比べてわずかな額だ。ユーロ圏の債務/GDP比率はイギリス、アメリカ、日本よりも小さい。マクロ経済の観点からは、これはコップの中の嵐である。」

問題は、ユーロ圏の政治システムがこの問題を処理できず、それが危機を伝染させて銀行の担保価値を奪っていることだ。集合行為問題を解けないまま、共通通貨を利用している。どちらの側にも問題があるだろう。

特に、ポルトガルのソクラテス首相は危機を煽って政治的に利用した。このような政治家や、離脱をほのめかす財務大臣がいるような通貨同盟は運営できない。歴史家ならだれでも認めるように、政治同盟を欠いた通貨同盟は存続できない。これは債務危機ではなく、政治危機なのだ。

SPIEGEL ONLINE 05/09/2011

Greece, Ireland, Portugal, Greece

Europe Considers a New Bailout Package for Athens

政治家は強く否定するが、離脱を支持するエコノミストもいる。ドイツのHans-Werner Sinnは、ギリシャのユーロ離脱は、よりましな選択肢だ、と支持する。なぜなら、ドラクマの切下げで景気を刺激できる、と考えるからだ。

それは銀行の取り付けを発生させて、すべての銀行が倒産するだろう。しかし、ユーロ圏にとどまるなら、いわゆる「内的な切り下げ」を強いられる。ギリシャは不況を続けて賃金と物価を20%から30%も下げなければならない。それでは企業も多く倒産し、銀行も不良債権を抱えて、やはり破綻する。「社会不安が激化して、内戦も起きかねない。」

しかし、ドイツのWolfgang Schäuble蔵相はその意見に反対だ。

FT May 9 2011

Currency clubbackto square one on Athens

By David Oakley

FT May 9 2011

Athens must be put under the gun

NYT May 9, 2011

Why Greece Should Reject the Euro

By MARK WEISBROT

彼らが否定しても、ギリシャのユーロ離脱に準備しておくべきだ。たとえ短期的なコストが大きくても、EUが求める条件を受け入れて何年も苦しむより、ギリシャ政府は国民の苦痛を減らす選択肢を好むから。

2001年のアルゼンチンの経験がそれを示している。20世紀で最悪の不況から抜け出すために、アルゼンチン政府はドルとの固定制を放棄した。それはギリシャがユーロを採用している状況と似ている。アルゼンチンはIMF融資を受けて固定を維持し、貧困と失業が増す中で耐え続けたが、最後には固定制と放棄した。

多くのエコノミストや経済紙はアルゼンチン経済の崩壊を予測していたが、経済が縮小したのは切下げとデフォルトを生じた四半期だけで、その後、6年間で43%も拡大した。3900万人の国民の1100万人が貧困から抜け出せた。

アルゼンチン経済が成長できたのは、ドルとの固定制を守るために採ってきた財政・金融の引き締め政策をやめたからだ。同じことがギリシャにも言える。切下げでギリシャの債務が膨れ上がる、と警告する記事もあるが、ギリシャは債務を支払わないだろう。アルゼンチンは債務の3分の2を支払わずに済んだ。

ポルトガル政府はIMF融資の条件として2年間の不況を受け入れた。民主的な政府で、このような合意は考えられない。ギリシャに対しても、不況に対する緩和策を採用するべきであり、その資金はある。ギリシャ政府がユーロ離脱を示唆することによって有利な条件を求めるのは当然だ。

EUが明らかに採用している債権者の視点では、債務を累積し過ぎた政府は処罰されねばならない。『悪癖』を奨励しないためだ。しかし、指導者の過去の失敗を理由に国全体を処罰すると言うのは、一部のものが道義的な満足を得るだけで、まともな経済政策ではない。」

要するに、ギリシャ政府に不況の中の引き締め政策を求めるほうが違っている。そのような要求に対しては、ユーロを離脱する、ということだ。

WSJ MAY 10, 2011

Greece's Unsustainable Burden

SPIEGEL ONLINE 05/10/2011

The World from Berlin

'Greece Needs a Kind of Marshall Plan'

FT May 10 2011

The eurozone’s journey to defaults

By Martin Wolf

「王様に死刑を宣告された男の話。王様は彼に、もし1年以内に、王様の馬が彼の教える話を覚えたら、彼の命を救うと約束した。彼はこれに同意した。なぜそんなことをしたのか、と訊かれて、彼は答えた。何が起こるかなんてわからない。王様が死ぬかもしれない。彼が死ぬかもしれない。馬だって、話を覚えるかもしれないから。」

同じ理由で、ユーロ圏は財政危機の国と合意してきた。時間が経てば、赤字国が市場で融資を受けられるようになるかもしれない。しかし、最初に同意したギリシャの借り入れコストはますます増えて、民間市場に復帰する見込みはまるでない。この方針を変えないまま時間が経てば、債務を組み替えるコストがさらに大きくなる。

もしいかなる債務の組み換えをも拒むなら、ECBLorenzo Bini Smaghi理事が指摘したように、永久に融資するしかない。しかも十分に有利な条件を認めれば、ギリシャ政府は長期的に負担を軽減できるだろう。しかし、それは政治的な悪夢になる。赤字国の深刻なモラル・ハザードをもたらし、他方で、ギリシャは財政的な主権をほぼ永久に失ってしまう。双方の不満はいつか爆発するだろう。ヨーロッパ以外の加盟国は、IMFがそのような融資に協力することを拒む。ヨーロッパ市民の負担は増し、合意が達成できるとは思えない。

それに代わる政策とは、おそらく来年、先制的に債務を組み替えることだ。それは市場が予想していることであり、ショックをもたらすものではない。債務を組み替えて負担を減らし、信用を高めて、改革を進める動機を与える。同時に、ギリシャやヨーロッパ諸国における銀行の損失処理を公的に支援する。

それでも債務の組み換えは混乱した過程であり、ギリシャの競争力を改善するわけでもなく、成長が回復する保証はない。不況が長引くかもしれない。他方、それに代わる融資の無制限な拡大は、裏口から、アメリカ国内の州財政を維持するメカニズムをもっと極端な形で実行するものである。

自国通貨で債務を増やし過ぎた国はインフレになる。外貨建で債務が増えすぎた国はデフォルトになる。ユーロを採用した国は、前者から後者のパターンに移行する。もし組み換えを拒むなら、ユーロ圏の国は互いに融資し、返済を強制しなければならない。実際は、より強い大国が、小国や弱い国に融資し、強制する。

彼らの馬が話を覚えるまでには、そうするだろう。

 (chinadaily.com.cn) 2011-05-11

The full brady

By Barry Eichengreen

ギリシャの債務組み換えはリーマン・ショックの再現になる、と警告される。しかし、銀行システムを破壊することなく、債務を組み替える方法はある。

最も単純な方法は、南欧諸国の債券を保有する銀行が償却できるだけの資本を準備することである。この点を考慮して、資産テストを厳格に行えばよい。しかし、これまでの経過から見て、コストのかかる処理よりも、問題を隠そうとするだろう。

次の方法は、債務を削減することなく、満期を長期化することで負担を軽減することだ。この場合、銀行は損失を回避できるが、ギリシャの債務負担はそれほど減らない。その水準は返済が不可能なままである。

そこで、より望ましい方法は、ブレディー・プランを再現することだ。1980年代の末に、東欧やラテンアメリカ諸国の債務が削減された。そのためには、1.債務削減による銀行の損失を緩和するために税を抑える。2.ECBが返済を保証する。3.債務を削減しても銀行のバランス・シートが悪化しないよう、規制を緩和する。4.銀行と公的機関が債権返済の条件を債務国の成長と結び付けるような手段を開発する。

こうした手段によって、債務削減はリーマン・ショックの再現を免れる。しかも、ECBのトリシェ総裁はプレディ・プランの下でポーランドの債務を50%減額したときのパリ・クラブ議長であった。その経験をユーロ債務危機の解決に生かすべきだ。

The Guardian, Wednesday 11 May 2011

Greece and the eurozone: Kicking the can along

FT May 12 2011

Greece and Portugal should both go gracefully

By Simon Tilford

FT May 12 2011

Portugal’s painful road to recovery


YaleGlobal , 6 May 2011

WTO Doha Round: Do or Die

Richard Baldwin, Simon Evenett

このままではドーハ・ラウンドが再開されないまま交渉時間が尽きてしまう。しかし、合意のチャンスが失われれば、来年の選挙でアメリカにはもっと保護主義的な議員が増え、中国も新しい指導部が難しい合意を受け入れにくくなる。指導的な大国の合意がなければ、加盟する153カ国が合意することは不可能だ。

自由化に合意することは、国際的な政治対立を回避する最も効果的な方法である。米中が妥協する余地を多く持つためには、彼らの国内的な制約を緩和する方法を見出さねばならない。多角的な貿易システムを維持することで、そのような妥協の余地を増やすだろう。それは重大な地政学上の摩擦を回避するのに有効だ。


LAT May 8, 2011

Mexico's drug war: Crossing borders

By Rubén Martínez


l         アメリカ経済の苦境

NYT May 8, 2011

The Unwisdom of Elites

By PAUL KRUGMAN

過去3年は西側経済にとって大災害の時だった。アメリカは大恐慌以来の長期大量失業を抱え、ヨーロッパは単一通貨が分裂寸前である。

それらを有権者の愚かさによって説明する者もいるが、それは間違いだ。これは指導層が犯した間違いである。政策は常に少数の影響力を持つ集団が支配しており、失敗すれば大衆のせいにして我慢するように説く。

アメリカでは、財政赤字を削減することが強調される。雇用を増やすことが必要なのに、間違った主張をする。たとえ財政赤字に焦点を絞っても、2000年に財政が黒字であったことを考えるべきだ。その後、ブッシュは減税によって財政に2兆ドルの債務を増やし、イラク戦争とアフガニスタン戦争で約1.1兆ドルの債務を追加した。最後に、金融危機と不況が赤字を膨張させたのだ。

こうした赤字は、誰のせいか? 市井の人々が決めたのではない。ブッシュ大統領やグリーンスパン議長だ。エリートたちの失政で、庶民は苦しんでいる。ヨーロッパも同じだ。

ヨーロッパの財政赤字国は国民に支出し過ぎた、と公式の説明は強調している。大き過ぎた約束と、少ない税収だ。ギリシャについてはそうかもしれないが、アイルランドやスペインはそうではなかった。危機の前には、両国の債務は少なく、財政は黒字だったのだ。

本当の理由は、ヨーロッパが単一通貨を導入したにもかかわらず、それに見合ったユーロ圏内の信用膨張や破裂を処理する制度を欠いていたことだ。ユーロ圏がエリートのトップ・ダウン式計画であった以上、ユーロ危機を有権者のせいにするのは間違いだ。

政策エリートたちが危機から学ばないとき、将来の破壊はさらに強められる。

WP May 9, 2011

For the young, there’s a silver lining in the housing bust

By Robert J. Samuelson

高齢者を扶養し、年金や医療保険を支払い、道路や橋を修復する。財政再建のための支払は増え、所得は減るばかりだ。何一つ良いことはなかった。・・・しかし、一つある。

住宅価格が下落したことだ。それは景気回復を遅らせ、債務を負う住宅所有者にとって最悪のことだろう。しかし、若い世代はこれから安い住宅を購入する。ここに膨大な富の移転が起きている。また、住宅の規模は社会的な競争によって無用な大きさにまで達していた。こうした無駄は解消され、増税や医療保険の負担増を緩和するだろう。

LAT May 9, 2011

Immigration: A better farm worker fix

FT May 11 2011

US immigration

移民政策についても、オバマ政権は改正に向けて動き出した。


FP MAY 9, 2011

The Myth of 9 Billion

BY MALCOLM POTTS, MARTHA CAMPBELL

国連人口局は世界人口の予測を大きく変えた。かつて世界人口は2050年までに90億人で上限に達し、その後は減少する、と予測していた。すべてが変わった今、世界人口は90億人を超えて増加し続ける、と予測している。

その最大の理由は、アフリカの出生率が予測ほど低下しなかったことだ。家族の規模は減少せず、女性たちに家族計画は利用できない。エイズの感染率は人口を減らすと予想されたが、サハラ以南のエイズ感染率が最も高いウガンダでさえ、2050年までに人口が3倍になるだろう。

人口の急増はアフリカ大陸にとって悪いニュースだ。これまでの成長の成果を失わせる。家族計画に対する国際的な取り組みが強く求められる。


l         ヨーロッパの移民排斥

guardian.co.uk, Tuesday 10 May 2011

Europe's north Africa policy drowns in a flood of migrants

Daniel Korski

中東で波及する革命を1989年の東欧と比較するのは重大な違いを無視している。

中東においては、多くの若者や女性たちに仕事がない。彼らは政治的自由だけでなく、正義と平等を求めた。それは単に投票するだけでなく、より多くの雇用である。自国の変化を期待できない彼らは、ヨーロッパの海岸に向かっている。

1989年は、ヨーロッパの指導者たちにとって民主主義確立への挑戦だった。ポスト共産主義体制の安定化を支援した。今、EU諸国が直面する挑戦とは、主に人口である。ヨーロッパの指導者たちは中東の民主化を祝うが、自国の有権者に目を向ければ、ヨーロッパでより良い生活を望む非業移民の流れを阻止することばかり考えている。特に地中海に面する諸国だ。

政治家たちは移民に関する政策転換を模索する。

FT May 10 2011

Europe’s battle for diversity and freedom

By Edward Mortimer

人口移動を認めたシェンゲン協定に参加する諸国で、一時的な移民流入規制が復活しつつある。多様性と自由を求めた、ヨーロッパのアイデンティティーが問われている。

ヨーロッパ的な価値において、これら二つは互いに強め合うものだった。EU加盟国を超えて、47カ国が人権に関するヨーロッパ議定書を受け入れた。しかし、今、多くのヨーロッパ人が新しい移民の増加を恐れている。彼らは民主主義の機能を脅かし、自分たちの価値を受け入れていない、と。ヨーロッパ内でも、外からでも、自分たちの生活や民主主義を脅かす移民への不安がある。

各国政府は移民流入を規制し、自国民の「価値」を定めて移民を限定しようとする。その意図しない結果は、非合法移民の増加だ。移民たちは常に国外追放の不安の下で、何の権利も認められない。居住を認められる移民たちにも、投票の権利はなく、国籍を得ることもない。もう一つの結果は外国人嫌悪の蔓延と、ポピュリスト的な、移民排斥を唱える右派の政治活動が国内政治を動揺させていることだ。

メルケル、キャメロン、サルコジのようなヨーロッパの政治指導者たちが、「多文化主義は失敗だった」と述べている。それが何を意味するのか、明らかではないが、ヨーロッパに広がる統合化の麻痺を表現している。

他方、元ドイツ外相Joschka Fischerが議長を務める欧州評議会the Council of Europeは、混乱した論争を招く「多文化主義」という表現を避けて、個人の権利と責任を強調する。「移民や最近その国に来た人々は、法に従い、その国の言葉を学ぶべきである。・・・そして、仲間の市民たちにとって有益な何事かをすることだ。しかし、彼らの信仰やアイデンティティーは否定されないし、イスラム教であれ、何であれ、宗教がヨーロッパの価値と両立できないことはない。」

それは強制的な法律を作る問題ではなく、個人のボランティアや市民運動の問題だ。

The Guardian, Thursday 12 May 2011

To fight the xenophobic populists, we need more free speech, not less

Timothy Garton Ash

移民排斥や反イスラムを説くヘルト・ウィルダースGeert Wildersのようなポピュリスト政治家を、どのように扱うべきだろうか? ウィルダースの率いる自由党はオランダの総選挙で15%以上の支持を得た。

しかし、民主主義は表現の自由を必要としており、政治家の発言を法律で規制するのは間違いだ。社会を代表する政治家、知識人、ジャーナリスト、実業家、スポーツ界のスターたちは、不安を感じているヨーロッパの大衆を説得するべきだ。人々が自由な社会の原理を受け入れている限り、誰もが完全な、他者と同じ市民の権利を有している。イスラム教徒も、キリスト教徒も、無神論者も、ゾロアスター教徒も、同じである。

ウィルダースがコーランをファシスト的と言うのは自由だ。同様に、女性がブルカを被るのも自由だ。ヨーロッパの政治家たちは法定の陰に隠れているべきではない。表に出て、自由な言論を駆使し、堂々と戦え。

SPIEGEL ONLINE 05/12/2011 09:26 AM

Schengen Zone Dispute

EU Slams Denmark over Plans to Reintroduce Border Checks

SPIEGEL ONLINE 05/12/2011 05:59 PM

German Voters and the Virus of the Right

By Jakob Augstein


l         国際通貨制度の現在

SPIEGEL ONLINE 05/10/2011

Rise of the Rupee, Real and Renminbi

Rival Currencies Take Aim at Dollar's Dominance

By Christian Reiermann

世界の金融市場でドルの支配が衰え、ユーロだけでなく、5つの通貨が勢力を得るだろう。

98年の歴史を持つアメリカ連銀で、初めての記者会見において、バーナンキ議長は人々が聞きたいと願っていた意見を述べた。「強いドルは、アメリカの利益であるとともに、世界経済の利益でもある、と連銀は確信する。」 こうした意見は、いつも、ドルにとって事情が悪化しているときに述べられる。

実際は、世界の金融市場でアメリカ通貨の価値と支配力は下落してきた。「世界経済型強化するにつれて、論理の必然として、通貨も多極化するだろう。」と、アイケングリーンは述べる。ユーロは安定化(インフレ抑制)に向けた国際競争で優位を得るチャンスがある、とドイツ財務省の意見をAnsgar Belkeは代弁する。ユーロの国際的な成功は、ユーロ圏として債券を発行するときに来る。ただし、それは各国が財政赤字をコントロールできた後の話だ。

他にもAnsgar Belkeは、中国の人民元、インドのルピー、ブラジルのレアルを、新興諸国からの各地域における国際通貨候補として重視する。その経済が急速に拡大し、人口規模も増大する国の通貨だから。しかし、その通貨の国際的な利用と、それが有利になる発達した金融市場を築くまでには、まだ時間を要する。

G20が新興諸国を加えて議論しているのは、こうした国際通貨制度の移行である。ドルが急速に衰退することはないが、その傾向は変えられない。国際通貨の複数候補間で競争が起きることは、制度の欠陥ではなく、利点になる。それは各通貨の改革を促す力を生じる。たとえば人民元がドルとの固定制を離脱し、国際取引を始めているように。

国際通貨制度の改革の第一歩は、IMFSDRに人民元を含めることだ。

FT May 11 2011

The growing risks of our four-speed world

By Uri Dadush and Moisés Naím

金融危機が最悪のときに、デカップリング論が注目された。それは新興市場と裕福な諸国との異なる成長率を前提した議論であり、追い上げと逆転を意味した。今や世界はもっと複雑な、5つのスピードで拡大することを予想するべきだろう。それが世界経済を撹乱する。

すでに、新興諸国ではインフレ率が高まっている。ここには、世界経済をめぐる高インフレ国と低インフレ(大量失業を抱えるデフレ国)との分裂がある。さらに、イデオロギー的な論争をともなう、財政赤字削減論が支配するアメリカのような国がある。

もう一つの注目を集めた主張は、グローバル・リバランス論だ。新興の黒字国は成長を維持し、しかも通貨価値の上昇(そして輸入増)を受け入れる。彼らが集団として、世界経済の新しい「機関車」になるのだ。この点でも、主要国やIMFの議論は迷走している。インフレが加速する新興国は通貨の増価によって物価を鎮静化できるのか、成長を損なう前に資本規制を導入してもよいのか。

4つの異なるスピードを示す世界経済は問題を悪化させるだろう。中国などの成長を期待するときもあれば、その過熱が世界にインフレをもたらすと非難するときもある。

問題は、ヨーロッパの銀行システムが脆弱であることや、アメリカが世界の金利水準をあまりにも低くしてしまったことだ。その意味で、先進諸国は自分たちが招いた不均衡の調整を、新興諸国の助けに期待するのではなく、自分たちで解決することから始めなければならない。まず、財政を健全化せよ。


l         原発廃止

FT May 10 2011

Only an ‘energy internet’ can ward off disaster

By Jeremy Rifkin

リビアの内戦と福島原発の事故は、化石燃料に依存した世界のエネルギー供給を危険な転換局面に導いている。長期的に見れば、世界はインターネットと結び付いた新しいエネルギー・インフラを実現する、第三の産業革命に向かうだろう。

FT May 10 2011

Fukushima boosts green case for nuclear

By Ted Nordhaus and Michael Shellenberger

反原発感情が強まり、他方では、地球温暖化が心配でもある。人々は間違った選択に向かうだろう。環境学者の眼で見れば、原発事故の発生リスクは、気候変動のもたらす危機や大気汚染によって毎年死亡する200万人に比べて、圧倒的に支持できる。

再生可能なエネルギー源を支持する環境保護論者の意見は、いわゆるthe “soft energy path”だが、どの国でもエネルギー供給の数%にとどまり、成功していない。

福島の事故を受けて原発を廃止すると宣言したドイツは、その結果、温暖化ガスの排出を10%増やすだろう。それはチェコからの石炭による火力発電所から電力を輸入するからだ。

世界人口は60億人から90億人か、それ以上に増加しつつある。エネルギー需要はすぐに2倍、そして3倍になるだろう。さらに多く、さらに安全な原子力エネルギーを開発しなければならない。

guardian.co.uk, Thursday 12 May 2011 17.30 BST

Is Japan really winding back on nuclear?

Martin Dusinberre

日本の原子力開発をめぐる不透明な議論は、菅首相の曖昧な転換によって、ますます見通しが失われていく。

The Guardian, Thursday 12 May 2011

Japan: Seeking higher ground

東京電力による補償、仮設住宅の建設、原子力産業の見直し。対照的に、イギリスの気候変動委員会は温暖化対策として原発建設の拡大を進言した。日本が反対に向かった理由は、明らかに、帰宅できる時期も分からないまま、8万人の住民を強制退去させたことだ。

復興構想会議の五百旗頭真議長は、創造的な復興を唱えている。東京への権力集中を改め、税制改革、都市と農村の所得格差是正、グリーン・エネルギーへの転換、など。革新的な構想には反対が予想されるが、論争を起こすことだ。


l         エコノミストの独裁

(chinadaily.com.cn) 2011-05-12

Economists and democracy

By Dani Rodrik

私が民主主義に反対している、という批判は間違いだ。

グローバリゼーションは単に市場によって誕生したのではない。市場が機能するには、様々な集合行為が必要であり、社会制度がなければならない。輸送、移動、通信のインフラに投資し、契約の履行や所有権を保護するシステムが要る。情報、外部性、市場支配力も、規制しなければならない。金融市場の不安や景気変動に対応する中央銀行、財政制度が必要だ。社会的な保護やセーフティーネットも要る。

こうした集合的なガバナンスはどこから来るのか? エコノミストの理想は、プラトン的な哲人王だ。つまり、エコノミストたちである。しかし、それは現実に意味を持たないし、望ましくもない。

政治システムが透明性を欠き、代表制や説明責任を欠けば、特集利益がルールを決める。ルールを決めるには対立する社会的な価値や分配の問題が含まれる。エコノミストたちはその答を知らない。確かに、中央銀行のように、専門家の準独立機関がルールを決めることはある。その場合も、問題は純粋に技術的に扱われるだけで、近視眼的な、長期的に望ましくない結果をもたらす危険がある。

同様に、国際機関に決定を委ねることも正しいとは言えない。関税率の引き下げや有害物の規制は正しいが、エコノミストたちはしばしば各国の国内政治を無視する。たとえば、バーゼル委員会の自己資本規制は、国際金融で支配的な大銀行の利益に偏り、各国の政治過程や他の社会的な利益関係者を無視している。また、WTOの多くの規制はグローバルな経済的厚生を改善するものではなく、ハリウッドや製薬会社の利益のために、貧しい国の企業や人々の利益を無視して知的所有権を強制する。規制は、しばしば、内外の不労所得を奪い合っているにすぎない。

問題は、各国が決めるか、外から制約を受けるか、ではなく、良い政策か、悪い政策か、である。国内政治過程が不十分であるように、国際機関がより優れた政治過程を持つ保証はない。

問題は、市場が機能するために必要なルールを作ることで、誰がパワーを得るのか、である。私は民主的な政治家が住みやすい世界を望んでいる。


FT May 12 2011

Tarp shows that US can break political deadlock

By Gillian Tett

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The Economist April 30th 2011

What’s wrong with America’s economy?

The revolt in Syria: Not so easy

Germany’s labour market: Across the Oder

Charlemagne: Another project in trouble

The Doha round: Dead man talking

(コメント) 絶対にこれはお薦め、という記事はないですね。アメリカ経済について、The Economistはかなり批判的です。その視点は、エコノミズム? という雰囲気で、私は楽しめません。オバマが「競争力」を強調した産業振興やグリーン・エネルギーを説くのを批判し、成人男性の労働者が労働市場で需要を失い、特に黒人成人は学歴が低く、しばしば刑務所で過ごしており、アメリカ経済に大きな負担となっている。それを助長するような社会政策が行われ、労働政策は不十分だ、と指摘します。

リビアには空爆したのに、シリアは放任するのか? という批判に、純粋に、軍事・地政学・地域政治の問題だ、と支持します。

EU各地では極右政党が移民排斥を唱えますが、好景気のドイツで労働者流入が今後どうなるのか。イタリアやフランスが労働者の移動を制限できるように、シェンゲン条約を修正しようと提案しているのも、アラブ各国の民主化や経済開発支援、貿易、投資の促進と並べて、EUの将来に深く関わります。

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IPEの想像力 5/16/11

体調が回復せず、思いつくことも限られます。そこで、紹介した論説からアイデアを得て、世界の変化を解釈する自由を広げてみましょう。私も一人の読者として、考える楽しみを書いておきます。

THOMAS L. FRIEDMANは、ビン・ラディン殺害を機に、9・11とその社会的・政治的な土壌を変えるように求めます。それは、アメリカが軍事援助や米軍駐留で守っているサウジアラビア、パキスタン、という「国家」であり、その支配を正当化する保守派のイスラム教集団です。

The EconomistBooks of the Monthは、パキスタンに関する3冊の本を紹介しています。膨大な貧困人口を抱え、核兵器を保有し、国内で多くのテロリストグループが競争している、破綻国家寸前の統治能力しかないパキスタン政府。世界で最も危険な国家と呼ばれます。しかし、Crisis Stateを恐れるだけでなく、パキスタンという「国家」の政治プロセスとnational identityを、繊細な感性によって多面的に分析することが重要です。

あまりにも税収が少ないWeak Stateであり、部族による緊密な拘束が政治を縛り、理解することが非常に難しいHard Stateです。誰も「国家(公共)」のことを考えていない。豊富な資源を支配する軍が、国家の中の「国家」です。アジア諸国を比較すると、インドネシアは国家予算の20%を教育に支出します。軍事予算は6%です。他方、パキスタンは国家予算の20%を軍事費に支出します。教育には(GDPではなく)政府予算の1.6%しか支出しません。

国家は戦争し、学校を建て、年金・医療保険を支払います。その割合と財源確保の優劣によって、破綻国家や、財政・通貨危機が生じます。

ユーロ危機の解決策として、Harold JamesBarry Eichengreenは、ラテンアメリカの債務危機を解決したBrady Planを検討します。MARK WEISBROTは、アルゼンチン型の、ユーロ離脱を支持します。またMartin Wolfは、債務処理を有権者に説明し、解決する能力がない政治家たちに、不満を示します。

Dani Rodrikが指摘するように、グローバリゼーションは、市場が機能するガバナンスの革新を必要としています。それは必ずしも貧しい国に民主主義が不足しているとか、国家主権を国際機関に移譲しないとか、エコノミストたちが主張する正しい政策を実行する政府の理解力や支持基盤が不足している、という問題ではないのです。誰の利益か、誰が支配する秩序か、という問題に、エコノミストは答えません。

Uri Dadush and Moisés Naímは、デカップリング論とグローバル・リバランス論が、新しい「機関車論」であると指摘しています。新興諸国が高い成長を維持することで、裕福な諸国のデフレを緩和します。為替レートを調整し、国際収支不均衡を是正できれば、世界経済は健全な成長を回復する、と期待されました。IPEの王道、国際政策協調論です。

しかし、すでに新興諸国ではインフレやバブルが懸念され、資本規制が始まっています。不均衡を調整するような為替レートや金利を監視する国際機関、指導的諸国はなく、むしろ内部の不均衡と脆弱性、不安定さを積極的に解決できなければ、国際的な危機の震源として批判されます。新興諸国はこうした旧世界からの指導を嫌っています。

Christian Reiermannが予想する国際通貨の競争は、ドル、円、ユーロではなく、5つの通貨間で行われます。すなわち、ドル、ユーロ、人民元、ルピー、レアル、です。

アジア開発銀行ADBの黒田東彦総裁が、アジアは地域協力と政策転換、制度構築によって世界経済の繁栄を実現せよ、という見通しを示し、各国政府に共通の課題を掲げています。アジアの世紀、中国の世紀は、繁栄ではなく戦争の時代であるのかもしれません。

・・・どうでしょう? 難しい時代に生きる私たちが,内外にすぐれた秩序を求め,新しい構想力を育てるヒントになったでしょうか?

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