IPEの果樹園2011

今週のReview

5/9-/14

 

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ドルのない世界 ・・・アラブ世界 ・・・G20の成果は? ・・・中国の挑戦 ・・・イギリス王室 ・・・債券市場と復興 ・・・ユーロ危機 ・・・US特殊部隊によるビン・ラディン殺害

 [長いReview] 

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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia そして、The Economist (London)


l         ドルのない世界

WP Wednesday, April 27, 2011

Imagining a world without the dollar

By Barry Eichengreen

近頃、ドルにはあまり魅力がない。多通貨に対して、リーマン・ショック以後、12%価値を失った。2010年末からでも5%を失った。

エコノミストたちはドルの時代の終焉を議論している。われわれの法定「不換紙幣」は、全面的に政府への信頼、信用に依拠しているのだが、その敬意はもはやない。いっそ無くした方が良いのか?

想像してみよう。あすの朝、目が覚めると、ドルは消滅している。連邦準備銀行はドルを供給していない。ではどうなるだろうか?

明らかに、人々は交換のために話し合うだろう。地元のファーマーズ・マーケットみたいに、商人たちはニンジンを売ってドルを受け取るのではなく、近くの店で玉ねぎを受け取り、あるいは、野菜のなくなったコックからナイフ・セットを受け取る。しかし、ニンジンの売り手は玉ねぎがほしくない。玉ねぎをほしいと思う人を見つけるまで、玉ねぎは要らない。

つまり、こうした意味で、貨幣は交換手段や価値保蔵手段として便利なのだ。もしアメリカに貨幣がないなら、他所の貨幣を使うという動機が生じるだろう。

アメリカがイギリスの13の植民地であったとき、貨幣の鋳造などは禁止されていた。だから入植者たちはスペイン銀貨に注目した。それは西インド諸島に干した魚や鯨油を売って手に入れた。Ron Paul氏は「連銀を廃止せよ」と言うが、この独占興行権をカナダ中央銀行に与えるだけだ、ということを彼は理解していないのだろう。

実際には、われわれの通貨が他の大きな国の通貨に代わるだろうが、カナダでは小さすぎるだろう。他の候補としては、ヨーロッパと中国だが、どちらにも欠陥がある。ヨーロッパは債務危機で身動きできないし、中国は、ある意味では、為替レートの増価を阻むために、通貨の使用を制限している。

そこで、外国の通貨を使わないとしたら、私たちはニンジンのいくらかと玉ねぎのいくらか、玉ねぎとジャガイモ、ジャガイモとナイフ・セット、その交換を決めるのは、共通の手段がないとき、非常に複雑な作業になる。だからわれわれは、すべての他の商品の価値を表す、ある基準となる商品に向かうのだ。

ヴァージニア植民地では、最初、それがタバコだった。次の段階で、取引の支払には現実のたばこではなく、タバコを預けている倉庫の受領書が使われた。これは非常に便利だが、同時に危険でもあった。倉庫業者には、実際のタバコ預かり量を超えて受領書を発行する誘因があったからだ。その結果、ヴァージニアのタバコ倉庫業は厳しく規制され、詐欺的な受領書を発行した者は死刑になった。

従って、ドルのない世界では、紙幣を発行する権利はいくつかの規制された機関だけに制限された。それらは銀行と呼ばれた。こうして、南北戦争前に、紙幣が流通するようになった。銀行は紙幣を印刷して発行し、州の法律によって、その価値に見合った金や証券を保有しておくことが求められた。

しかし、予想されるように、州によっては法律を厳格に強制しなかった。州債や鉄道債の価値が数千とのときでも、その額面価値で保有することを許す州もあった。銀行券が価値を保証するように求められると、銀行は破綻した。すべての銀行券が同じ価値とは見なされず、誰が発行したかが重要になった。集積する者や金融機関の情報に詳しい者が、異なる銀行券の取引された価格、その発行者が信用できるかどうかを、簡潔なニュースとして発行した。

21世紀なら、地元の農民でも、スマートフォンを使って各銀行券をスキャンし、ニンジンいくらに値するか調べるだろう。それはできるだろうが、おそらく、面倒なために支払が当然遅くなる。より技術を利用して、ドルのない世界を考えるなら、いずれのインターネット企業も決済のプラットフォームを提供し、価格を示し、支払や受領を処理できる電子貨幣を供給するだろう。Facebook Creditはゲームのアイテムを購入するためのものだが、もっと広く利用できる電子マネーに進化する。

そのような試みは幾つかあるが、それが確立されるには問題があった。もし一つが民間の電子マネーとして成功するなら、他にも多くの電子マネーが現れ、あなたの使う特定の電子マネーを相手が受け取るかどうかは何の保証もないのだ。さらに決済システムは各コンピューターのソフトやサーバーに依存しており、それが信頼できるかどうかは最終の利用者に判断できない。あなたの蓄えた電子マネーの価値は何も保証する物がなく、そのプラットフォームのオペレーターが自分自身のために電子マネーを発行することを誰も防げない。電子マネーの価値が疑われ、商品に交換する利用者が殺到したり、相手が受け取らなくなれば、システムは崩壊する。

だから連銀はあるのだ。連銀は貨幣を供給し、支払システムを維持し、不安定な時期に必要な流動性を供給する。連銀が銀行を審査し、預金保険機構と一緒に信用を高めるように保険を提供し、取り付けを防いでいる。

ドルの批判者たちは大いに楽しむことだ。しかし、現行の通貨制度を考えるなら、私はウィンストン・チャーチルが民主主義について述べたことをまねたくなる。

「我々の通貨システムは、他のすべての通貨システムを除いて、可能な最悪のシステムである。」


 

FP APRIL 28, 2011

Think Again: Libya

BY MICAH ZENKO

WP Thursday, April 28, 2011

A foreign policy that needs realism and pragmatism

By Robert Kagan

多くの論説が、アラブ世界に広がる革命について、オバマ政権内部の「理想主義者」と「プラグマティスト」との対立を描いている。「プラグマティスト」は、アメリカの国益を重視し、アラブ世界の長期に及ぶ独裁者から離反することに慎重であるべきだ、と考える。アメリカの外交は「戦略的な利益」の観点で考えるべきだ、と。

その前提には、「理想主義者」がアメリカの利益を重視していない、という認識がある。アメリカが原則にしたがって生きること、歴史の正しい側に立つこと、を主張する。それがどのような戦略的コストをもたらすかに関わらず。

しかし、このような主張はナンセンスだ。個人と同じように、国家も純粋に利己心だけで動くのではない。また国益はそれほど簡潔に定義できるものではない。石油の供給を確保することは重要だが、民主主義のような原則を実現することも同様に重要だ。リアリストの外交政策を説いた故Robert Osgoodも、理想主義が外交政策を決める上で不可欠だと考えた。たとえば、第二次世界大戦の前にアメリカの国益のみを重視した人々は参戦しないように求めた。他方、西側の自由社会に対するファシズムの脅威を重視した「理想主義者たち」は、アメリカの安全保障が依拠するヨーロッパの民主主義を守る必要を即座に理解した。

問題は、今、中東における「プラグマティズム」とは何か? ムバラクに固執することが、プラグマティックな、現実主義の選択肢であったのか? オバマ政権がムバラクの退陣を支持するまで、2年間も「プラグマティック」な支持を与えてきたが、ムバラクは穏健な政治改革を拒んだ。そして、アメリカではなく、エジプト民衆がムバラクの退陣を決めたのだ。それでも「プラグマティスト」はムバラクを支持するのか? それがアメリカの戦略的な利益か?

かつて、1970年代後半に、アメリカはそれを選択した。カーター政権がイラン国王の完全な体制崩壊まで支持を続けたのだ。しかし、そうした外交政策はイランが革命が激化するのを防げず、ホメイニの勝利をもたらした。それは、その後の中東におけるアメリカの困難を増す大きな戦略的後退につながった。

「理想主義者」はムバラク退陣をアメリカの戦略的な利益に反するものではなく、その一部と見なしている。民衆の支持を失った独裁者に協力するより、止めることのできない、エジプトの政治的な成長が次の局面に向かうのに準備した方が良いのだ。このことは中東地域全体にも言える。革命の時期に現状維持を続けるのは現実的でない。独裁体制の崩壊後を心配するのは正しいが、民衆を弾圧する独裁者の側にアメリカのパワーが従うことのリスクを過小評価してはならない。

エジプト民衆はムバラクを長期に支持したアメリカを嫌っている。ムバラク政権が結んだイスラエルとの和平も嫌っている。エジプトでムスリム同胞団が最も支持されているのは、ムバラクが穏健な反対派勢力を弾圧したからだ。アメリカはそれを許した。

この地域に広がる革命情勢において、「プラグマティック」な行動が最も安全なのだ、と考える罠に落ちてはならない。理性が理想に従うときである。

guardian.co.uk, Friday 29 April 2011

Who will reshape the Arab world: its people, or the US?

Tariq Ali

FP APRIL 29, 2011

Wishful Thinking

BY STEPHEN M. WALT

アメリカの外交政策を誤らせる政治的な幻想を捨てるべきだ。たとえば、10の希望的な幻想だ。

「中国は大国にならない。」「より大きな軍事力で利益が実現できる。」「長期」「同盟国」「先の戦争」「民主主義」「反米に対する広報」「覇権」「外交政策の決定」「大統領選挙」について。

LAT May 1, 2011

Arab uprising: The U.S. must take a nonviolent stance

By Andrew J. Bacevich

アラブ世界で政権がドミノ倒しになっている。どちら側につくか、アメリカ政府はジレンマに陥る。オバマ政権が独裁者の追放に向かったことで、リビア空爆の要求は強まった。しかし、バーレーンでは慎重な姿勢を取った。

こうしたアメリカの行動は偽善という批判を受ける。ダブル・スタンダードとなる。アメリカはモラルと慎重さとを合わせた原則を示せるか? プラスの結果と、自己矛盾をもたらさない良心とを、戦略として示せるか? その答えは、非暴力、である。ガンジーやマーチン・スーサー・キングがそう呼んだ。市民による抵抗は、いかなる野蛮な弾圧に対しても、最後には勝利する。

何十年も凍結されていた土地であったが、アラブ世界は雪解けが始まった。大きな変化が起きつつある。事態の推移が示すように、アメリカ政府はその過程を決める力を持っていない。アラブ諸国がリベラルになるのか、イスラム主義になるのか、それは彼らが決める。

アメリカ政府が関心を持つべきは、その目標ではなく、手段である。アラブ政治が何になるかではなく、その変化の形態である。この土地では、軍の行進やデモ、爆弾、拷問、投獄こそが政治であった。アメリカの監督がなければ、そうやって事態を決めるだろう。その意味で、アメリカは戦略的に過剰拡大する。

アメリカは模範を示すより、武器を売り、買収し、軍を駐留したり、軍事介入したりして、中東政治における暴力を支持してきた。平和を交渉しながら、戦争を助長していたのだ。

オバマのリビア介入も同じである。流血がさらなる流血を呼ぶ。アラブの春はこの循環を断つチャンスである。アメリカは三つの原則を掲げるべきだ。

1.目標に関係なく、平和的な手段で変革を目指す集団を支持する。2.武器や警棒に訴えるものを例外なく非難する。3.アラブ世界におけるアメリカの政策の道具として暴力を否定する。そして、暴力を含まない政治を促すように支援する。

WP Tuesday, May 3

Targeting Mr. Gaddafi

ビン・ラディンを殺害したのだから、カダフィも殺害するべきだ。何千という市民たちが、毎日、殺されている。この殺戮を止める最速の、そして唯一の、方法である。NATOがカダフィを空爆で標的にすることは正しい。


l         G20の成果は?

(chinadaily.com.cn) 2011-04-28

The G-20's empty gestures

By Martin Feldstein

世界の主要20カ国から財務大臣と中央銀行総裁が集まって、何も決まらない。G20には意味がない。

IMFが詳しく分析しなくても、貿易の赤字国と黒字国がどこかは簡単にわかることだ。最近の12ヶ月で6500億ドルの貿易赤字を出しているアメリカは断然1位である。経常収支で見ても約5000億ドルの赤字があり、他に1000億ドルを超える赤字国はない。GDPに対する割合も3.3%であり、他のほとんどの国より大きい。

最大の経常収支黒字国はもちろん中国であり、3000億ドルを超えている。他に1000億ドルを超える黒字国は日本とドイツしかない。GDPに対する割合は、中国の黒字が4%である。他に、産油国やアジア、ヨーロッパの国でGDP比率の大きな国がある。

G20 は、アメリカと中国、そして日本、ドイツだけを問題にした。大幅な不均衡のある国を決めるのは難しいことではない。不均衡の原因はどうか?

これも簡単だ。経常収支の赤字国では、国内投資が国内貯蓄を超えている。それは理論でも、経験的な法則でもなく、国民所得の定義からそうなる。

アメリカには巨額の連邦政府の赤字があって、国内の貯蓄を奪っている。中国、ドイツ、日本はその逆だ。政策として何をするべきか、は明らかだ。

アメリカはGDP10%に及ぶ財政赤字を減らして国内貯蓄を増やすことだ。幸い、国内でも政治的に合意されており、2009年の財政刺激策は終了して、支出削減と成長による税収の増加を目指す政治交渉が始まった。しかし、まだオバマ大統領の約束には中身がない。

G20の財務大臣や中央銀行総裁には、アメリカや中国の政策を変える力などない。中国は最近示した5カ年計画で、国内貯蓄を減らし、国内消費と政府による健康保険などのサービスを増やすことを決めた。それは純粋に国内的な理由である。

2009年のロンドンにおけるG20サミットで中国が財政刺激策に同意した、という成果を強調することがある。それは間違いだ。中国が国内需要を刺激したいと考えたから同意したのだ。G20はそれを追認しただけだ。

アメリカと中国は政策を転換しつつある。その結果、今後数年間、不均衡は減るだろう。G20はそれを成果として示したいから、まだ集まっている。

WSJ MAY 1, 2011

Global Imbalances: The South-South Answer

By CHANGYONG RHEE

金融危機が沈静化に向かうと、グローバル・インバランスが再び注意されるようになった。不均衡の解消が必要と認められるようになったのは良いことだ。しかし、最近の主張は、アメリカの財政再建と中国人民元の増価と内需拡大を求めるものばかりだ。

それは言われるけれど実行されない。アメリカの景気回復も、中国の調整過程も、容易なものではないからだ。そして、米中が変化するとき、アジアもそれを傍観できない。不均衡の調整は二国間ではなく、他国間が望ましい。そして、アジアやラテンアメリカの新興経済は不均衡の調整に新しい要素を追加している。「南南貿易」が増加することは米中二国間の調整よりも政策協調を容易にするだろう。

世界貿易において、国境を超えた「アジア工場」の台頭が生じている。貿易収支も、為替レートも、中国はアジア諸国を含めて一緒に調整する方が合意しやすいだろう。


l         中国の挑戦

FT April 28 2011

The prize, perils and price of China’s plan

By Nicholas Stern

中国の成長モデルは転換を迫られている。1.消費を増やす。2.炭素の排出量を減らす。3.技術革新を実現する。

もはや、過去のように、輸出に頼ることはできないし、既存産業の技術水準は改善されてフロンティアに近い。これまで温暖化対策は不十分であった。こうしたことから、より国内消費に依拠した、温暖化ガスの排出を抑える産業構造や技術革新を実現していくために、中国が投資するときだ。

WP Friday, April 29, 2011

In growing Chinese dominance, a wake-up call for America

By Arvind Subramanian

米中経済戦略会議が迫っている。中国の台頭は、20年前、40年前に、ロシアや日本がアメリカを脅かすと懸念されたのと同じだ、という意見もある。しかし、むしろ想定されている以上に大きな脅威であるかもしれない。

IMFによれば、2010年のアメリカのGDP147000億ドル、中国は58000億ドルで、平均的なアメリカ人は平均的な中国人の11倍豊かである。Goldman Sachsは、中国がアメリカに追いつくのは早くても2025年以降である、と推定する。アメリカ人は、その開かれた社会、企業家精神、世界的に見て優れた大学や研究機関に自信を持っている。

しかし、それは楽天的すぎる。なぜなら、それらの予測は財とサービスを市場為替レートで計算しているからだ。市場為替レートで生活水準を比較すると、労働が豊富な貧しい国の非貿易財が安価なことを正しく評価できない。

著者が独自に行った推定では、2010年の中国経済は、購買力の違いを調整すれば、148000億ドルとなり、アメリカの経済規模を超える。平均的なアメリカ人は平均的な中国人よりたった「4倍」豊かなだけである。

この違いは、世界のパワー・バランスや経済支配力にも及ぶものだ。従来の推定値では、アメリカの軍事力が圧倒的であるが、購買力で測った値では、それが誇張されたものだとわかる。財やサービスの市場でも、アメリカの支配は誇張されている。中国の成長率はアメリカよりも高いから、2030年までに、中国経済の規模は(購買力平価ドルで)アメリカ経済の2倍を超えるだろう、とSubramanianは予測する。

中国はすでに世界最大の輸出国である。2030年までに、中国の貿易額はアメリカの2倍を超える。しかも、もちろん、中国はアメリカの最大の債券国である。

経済規模、輸出額、アメリカに対する債権国、という中国の地位は、第二次世界大戦後、40~50年の間、アメリカが享受した地位であり、19世紀の後半に帝国最盛期のイギリスが享受した地位である。

このことは二重の意味で重要だ。一つは、アメリカが中国に影響力を行使する余地は大幅に減る。すでに、アメリカが求める為替レートの調整を中国は受け入れようとしない。もう一つは、第二次世界大戦後にアメリカが作った、開放的な貿易と融資のシステムはますます中国のシステムとして維持もしくは侵食される。

この予想と現実に及ぼす意味は、アメリカの覚醒を促すものだ。アメリカは今すぐ、財政を再建し、新しい経済ダイナミズムを発見しなければならない。

NYT April 30, 2011

Where China Outpaces America

By NICHOLAS D. KRISTOF

FT May 3 2011

China risks credit-fuelled Minsky moment

By George Magnus

中国にも「ミンスキー・モーメント」は来るか? 金融的なレバレッジによって生じる不安定性について考察したミンスキーに従うような、2008年の金融崩壊が西側諸国に起きた。

中国について見れば、銀行システムの不安よりも、その投資がGDPに占める割合の大きいことに問題がある。2009年に、政府が信用供与に基づく刺激策を行った。銀行システムが不良債権を抱えても、3兆ドルの外貨準備を持つ政府が資本を追加できる。しかし、問題はインフレの加速と投資の収益率が低下していることだ。

もし中国にミンスキー・モーメントが来れば、世界の成長や資源市場にショックが及び、人民元の着実な増価という合意も崩れるだろう。それはまた、中国経済が消費者の重視に転換するシナリオを破壊し、政治不安のリスクも高まる。

SPIEGEL ONLINE 05/05/2011

SPIEGEL Interview with Taiwan's President

'Sooner or Later, Beijing Will Move Toward Democracy'

台湾の大統領、Ma Ying-jeou(馬英求総統)がインタビューに応えています。いずれも興味深い質問であり、回答です。

馬総統が望むのは、軍事力の行使を回避すること、中国経済の繁栄と民主化によって統一が円滑に進むことです。そのための条件を準備するために台湾の影響力を維持したい、と考えます。中国と台湾を比べるのではなく、どちらもグローバルな生産・輸送・消費ネットワークの一部なのです。そして、市場の多様化を目指します。

台湾でも、東南アジアでも、ラテンアメリカでも、教育が普及し、経済が繁栄し、中産階級が現れれば、より多くの人が政府の政策に関心を持つ。改革に拠って貧困が減り、世界市場に開放された中国が、経済成長の結果として民主化に向かうのは当然だ。それを止めることはできない。


l         イギリス王室

NYT April 28, 2011

The Monarchy Earns Its Keep

By ANNA WHITELOCK

guardian.co.uk, Friday 29 April 2011

This royal wedding is Britain's Marie Antoinette moment

Polly Toynbee

社会の分裂を無視して行われた保守派のための行事であり、歴史的にふりかえって「マリー・アントワネット・モーメントa Marie Antoinette moment」であった、と評価されるだろう。

イギリス国民の20%しか「強い関心」を持っていない。どの調査を観ても、70%以上が歓喜するようなことを拒否している。当然だ。

過去6カ月、GDPは増加せず、政府の緊縮政策もあって、景気回復は止まってしまった。ほとんどの家計が、1920年代以来の所得の減少を経験している。何千何万もの雇用が失われ、公共サービスが削られた。授業料は引き上げられ、消費者は支出しない。

WP 04/29/2011

Snubbed by the royals

By Anne Applebaum

The Guardian, Saturday 30 April 2011

Royal wedding: A peculiarly British day

The Observer, Sunday 1 May 2011

A cheap and cruel snub to Tony Blair and Gordon Brown


l         債券市場と復興

April 29 (Bloomberg)

If Bill Gross Sees U.S. as Shaky, Check Japan

William Pesek

日本の債券市場にも最後の瞬間がやってくる。地震と津波で住宅が崩壊し、逆さまになって、街全体がサルバドール・ダリやエッシャーの絵画に変わってしまった。

アメリカの債券格付けが見直されたが、同じ基準で見て日本はなぜもっと悪化しないのか? 債券価格は安定し、株価は上昇している。まだ、国内貯蓄で国債発行が満たされるからだろう。95%が国内で保有されている。

それらを再考するときは必ず来るが、それを遅らせれば遅らせるほど、事態は悪化する。

FT April 29 2011

Haunted by stagflation fears

豊かな諸国は、デフレーションを心配すると同時に、1970年代のスタグフレーションとも似ている。景気が回復する前に、インフレが起きつつあるのだ。しかし、1970年代との重要な違いもある。生産力は余剰にあり、中国などの新興市場が現れており、商品価格の上昇は需要に支えられている。

緩やかなスタグフレーションなら耐えるべきだ。

guardian.co.uk, Monday 2 May 2011

For the US and UK economies, a lost decade looms

Dean Baker

SPIEGEL ONLINE 05/03/2011

Risks of Economic Overheating

German Boom Fuels Inflation Angst

By Katrin Elger, Peter Müller and Christian Reiermann

FT May 3 2011

Tips on jobs from Zappos for US

By Richard Florida

需要の不足や、成長に伴う雇用回復の遅れだけでなく、雇用の構造変化について。

FT May 5 2011

US needs to shed its taboo on economic planning

By Kishore Mahbubani

アメリカは、もっとアジアの政策から学ぶべきだ。世界市場において中心はアジアに移りつつあり、アメリカ企業は価格の決定者ではなく、世界価格を受け入れる側になっている。雇用不足もその対策を変えなければならない。労働者はグローバルな価格競争によって解雇され、職場は海外の工場に移転されている。

アメリカ企業の競争力が世界一だ、というイデオロギーはアメリカ政府の手を縛っている。Googleやコカ・コーラといったアメリカの多国籍企業は高い競争力を維持しているが、アメリカの労働者はそうではない。国内の景気刺激策と社会保障の改革だけで、雇用は伸びないだろう。

市場競争を信奉するアメリカと違って、輸出を伸ばす中国やドイツの政府は急速に変化するグローバル市場に積極的に応じている。中国、ドイツ、スウェーデン、シンガポールなど、製造業が繁栄する国は、新しい産業に適応した労働者を育てる特別な職業訓練システムを政府が設立している。

アメリカは政府の積極的な役割に関する考え方を変えるべきだ。


WP Friday, April 29, 2011

Obama’s Russian lessons: How the Soviets withdrew from Afghanistan

By Artemy Kalinovsky

アフガニスタンからの撤退について、侵攻、開発援助、治安回復、国家再建、国内政治における利用などについて、オバマはゴルバチョフと違う選択ができるか?


WP Friday, April 29, 2011

Will Pakistan erupt like Egypt?

By David Ignatius

FP MAY 2, 2011

We Told You So

BY HENRY FOY

WP Monday, May 2

Pakistan did its part

By Asif Ali Zardari


l         ユーロ危機

FT May 1 2011

Steering a course through the eurozone’s squalls

By David Marsh

ドイツにおける政府とドイツ連銀の関係、ECBにおけるドイツ連銀と独仏関係、債務処理をめぐる政治交渉とユーロの安定性が独特の政治空間で問われます。

YaleGlobal , 2 May 2011

Advanced Economies: Minutes to Midnight? Part II

Bruce Stokes

SPIEGEL ONLINE 05/03/2011

Euro Zone in Crisis

Greece Says Debt Haircut Would Be 'a Huge Mistake'

ギリシャは債務を組み替えるしかない、という合意が専門化の間に広がっている。しかし、それは間違いだ。ギリシャ政府も欧州委員会も組み換え・削減を否定している。

FT May 3 2011

Managing the eurozone’s fragility

By Martin Wolf

なぜスペインはイギリスよりも高い金利を支払わねばならないか? それは、ユーロ圏の各国は主権国家でなく、連邦制の一部でもないからだ。ユーロ圏はこの矛盾を解く必要がある。

10年物国債で、スペインは5.3%だが、イギリスは3.5%である。この違いは債務額で説明できない。Paul de Grauweは、債券市場の流動性が重要な要因だ、という。イギリスに流動性危機は起きないが、スペインには起きるだろう。その不安が自己実現的になっている。あたかも発展途上諸国が債務危機でIMF融資に頼るときのように、流動性は返済を前提に借り入れられる。

しかも、発展途上国なら通貨価値は切り下げられるが、ユーロ圏ではそれができない。債務超過は実質額が減らず、調整は経済を破壊する。ユーロ圏は壊れやすいうえに、一国の脆さが他国に波及する。

Wolfは、三つの選択肢を考える。1.脆弱性を受け入れる。2.より同質的になる。3.より緊密な同盟になる。

最初のケースは、ユーロ圏がかつての金本位制のように機能する。政府は金融システムを支えず、財政政策は景気循環を強める形で連動し、金融的な緩和策も取らない。このような19世紀への逆転をヨーロッパ人は受け入れないだろう。

第二の選択肢は、各国がより同質的になるために、苦しい移行過程が必要になる。構造的な黒字国では大幅な物価調整が起きて苦しむだろう。

大さんの選択肢は、通貨同盟が深まることだが、ユーロ圏はそれがあまりにも遅い。緊急融資は少な過ぎる。金利は高すぎる。2013年以降の危機に対応する債券で、やっと、「集団行動条項」が入れられる。Paul de Grauweは、GDP60%までユーロ建債券を集団で発行し、同時に、金融的な行き過ぎを監視するべきだ、と主張する。

Wolfによれば、それらすべてを実現しても、危機においてアメリカ政府が行ったことを思えば、ユーロ圏は十分ではない。カリフォルニアが債務不履行になっても金融危機は回避できるだろう。社会保障や健康保険は支払われ続ける。ユーロ圏では無理だ。

ユーロ圏は第一のコースに向かうだろう。それは政治的選択であり、彼らが将来の運命を共有していると思うかどうかである。

FT May 4 2011

Portugal delays pain it knows is inevitable

By Daniel Gros

ポルトガルへの融資は時間稼ぎでしかない。財政赤字が続く限り債務は増えていく。財政赤字を減らすには、奇跡的に輸出を増やせるか、国内消費を削ることだ。

ラトビアでは、2年間で労働コストを17%も削って、輸出ブームと成長を実現した。同じことはポルトガルにできない。しかも、ECBに守られた銀行は融資を続けているから、なかなか消費が減らない。ECBが金利を引き上げるとき、それらは厳しい調整をもたらすだけだ。

たとえ政治的に支持されない政策でも、消費を抑制するために消費者信用に課税し、一時的に付加価値税も引き上げるべきだ。

FT May 4 2011

Lisbon’s surrender to its new lenders

FT May 5 2011

Europe is running a giant Ponzi scheme

By Mario Blejer

これは巨大な政府公認のポンツィ・ファイナンス(ねずみ講)だ。

財政赤字は減らず、自力で返済することができないまま、救済融資は増えてしまう。銀行は政府や赤字国の消費者に融資する。債務を組み替え、削減するには、債権を持つ銀行の損失を公的に負担するしかない。それを先延ばしにするために融資し続ける。ねずみ講は資金が枯渇して終わるが、政府公認の救済融資はいつまでも続けることができる。

その限界は政治的なものだろう。最後に負担するのは納税者である。すでに融資を増やすことに黒字国の納税者は反対している。

ねずみ講のように救済することは良いことなのか? 今すぐに債務不履行を認めることはユーロ圏の金融市場を崩壊させる。景気の回復を待って処理することになる。その判断も政治が決めことだ。遅らせるほど、将来の納税者の負担が増える。


l         US特殊部隊によるビン・ラディン殺害

NYT May 1, 2011

Death of a Failure

By ROSS DOUTHAT

あのテロから10年が経った。ビン・ラディンが死に、私たちは学んだ。飛行機は無事に離陸し、高層ビルはそこに立ち、テロ攻撃のない1日が過ぎるとき、私たちは強くなり、テロリストたちは弱くなった。

FP MAY 2, 2011

He's Dead, But How Much Does Osama’s Death Matter?

オサマ・ビン・ラディンの殺害に何を読み取るか? これほど複雑な外交ゲームは珍しいと思います。

Robert D. Kaplanの評価は興味深く、的確です。

ビン・ラディンをアメリカの特殊部隊が殺害したことは、双方の士気に影響する。神秘的な消滅や、病気や衰弱で死んだのではなく、アメリカ軍に狩り出され、殺害された。原理主義やテロへの傾斜を加速した人物が、その末路を示した。アメリカ軍の士気は高まる。

オバマ大統領は民主党政治家が安全保障に関わる姿勢を示した。これはオバマの再選に役立つし、アメリカの民主主義にとっても良いことだ。党派間の違いは緩和され、安全保障上のシンボリックな協力が可能になった。財政再建に必要な国防費の抑制にも手を付けられる。

パキスタンとの関係は悪化するかもしれない。しかし、テロ組織の重要な情報を得るためにパキスタン政府と協力する必要がある。アメリカの関与が減ることは両国の関係を正常化する意味で望ましい。

アフガニスタンにおけるアメリカ軍の地位も高まり、タリバンはカブール政府との交渉を望むだろう。2014年にアフガニスタンから米軍を撤退させる計画を進め、イエメンやソマリアのような、アルカイダと連携する組織が活動する他の地域に配置できる。

独裁体制を倒す民衆デモの広がりと、アルカイダのNo.1、ビン・ラディンの殺害は、アラブ世界の政治を変えるだろう。それは不安定さと過激派を抑える治癒過程の一部であり、アメリカが軍隊を送らねばならなかった地域の病根を断つことになる。

イラクから撤退し、2014年にはアフガニスタンからも撤退し、ビン・ラディンを殺害し、イランとは戦争を回避した。そして、より創造的で力を込めたアジア外交に注意を向ける。特に、南シナ海での紛争では同盟諸国を安心させた。こうしてオバマ外交は、その批判にもかかわらず、ジョージ・HW・ブッシュ以来、もっとも一貫した外交政策を実現した。

William McCantsは、ビン・ラディンの重要性を指摘します。テレビに登場し、アメリカを悪魔として非難した人物はいなくなる。聖戦を呼びかけ、メンバーを増やし、殉教を求め、活動資金を集めた。しかし、ビン・ラディンが組織で果たした役割はよくわかっていない。他方、アメリカの反テロ活動は、軍の撤退と一緒に進められる。

David Rothkopfは、ビン・ラディン殺害を重視しません。何も変わらないだろう。テロの脅威は今もある。不安定な国家も各地にある。パキスタン軍との関係は悪化する。パキスタンの核兵器は大幅に増えている。アメリカと敵対する多くのパキスタン国民もいる。

Adam Lankfordは、ビン・ラディンの支持者が何を考えたか、と推測します。ビン・ラディンはアメリカ軍に捕まるより、死を選んだ。それは自殺ではなく、殉教だ。これは単なるプロパガンダではない。しかし、逮捕できても、その解放を求めるテロが世界中で続いただろう。

FP MAY 2, 2011

Was killing bin Laden legal?

Posted By Joshua Keating

FP MAY 2, 2011

Declare victory, wind down the war, and turn to real interests

Posted By Steve LeVine

FT May 2 2011

Declare victory and end the ‘global war on terror’

By Gideon Rachman

FT May 2 2011

Making the world a safer, better place

3000人近い市民を殺害したテロリストたちの指導者を野放しにはできない、とアメリカ政府は作戦を続けてきた。9年半に及ぶ作戦が成功したことを、彼らが喜ぶのは当然だ。

それはアメリカの軍事力が及ぶ範囲、情報収集の力、しばしば批判される短期的な政治関心を持続してきたこと、がその勝利をもたらした。これは、「テロとの戦い」に縛られたアメリカ外交を組み直す機会でもある。アルカイダのテロより、アラブ世界の民主化革命が重要だ。アフガニスタンのNATO軍は関与を減らし、パキスタンとの関係も修正できる。

guardian.co.uk, Monday 2 May 2011

After Osama Bin Laden, is the world a safer place?

guardian.co.uk, Monday 2 May 2011

How Osama bin Laden perverted US justice

Karen Greenberg

guardian.co.uk, Monday 2 May 2011

Al-Qaida already looked irrelevant after Arab Spring

Ian Black, Middle East editor

SPIEGEL ONLINE 05/02/2011

Reactions to Bin Laden's Death

A Victory For the US, Justice and the War on Terror

WP Monday 2, May

How the U.S. found and finished Bin Laden

By David Ignatius

テロを抑えるのは諜報機関CIAの情報収集能力と、特殊部隊の戦闘能力である。それは軍の高度秘密機関、Joint Special Operations CommandJSOC)が実行した。

WP Monday 2, May

In bin Laden’s death, a smart security lesson

By Anne Applebaum

脅威の性格が変わった。この10年間を再検討し、アメリカは軍事力の構成、予算の配分、外公政策を変えるべきだ。

WP Monday 2, May

Author of the earthquake

By Michael Gerson

WP Monday 2, May

Does death of bin Laden signal a new Obama?

By Richard Cohen

オバマは、ときに、右派にからかわれた左派の大統領であった。イデオロギーで感化できるかのように、独裁者にも語りかけ、説得できるとする。しかし、結局は軍を増派し、テロリストを殺害する。リビア空爆もその一つだ。

NYT May 2, 2011

The Post-Bin Laden World

By ROGER COHEN

NYT May 2, 2011

After Osama Bin Laden

By NICHOLAS KRISTOF

NYT May 2, 2011

4 Questions He Leaves Behind

By JOE NOCERA

NYT May 2, 2011

What Drives History

By DAVID BROOKS

なぜビン・ラディンはテロリストになったか? その詳しい伝記が示すもの。

NYT May 2, 2011

The End of the Jihadist Dream

By ALI H. SOUFAN

取り調べ、諜報活動、軍事的勝利は戦いの半分でしかない。他の半分は、アイデアにおける戦争、メンバーを増やすレトリックや方法に対抗することだ。

我々の最大の武器は、アメリカそのものだ。ビン・ラディンのアイデアがアメリカを屈服させるとアルカイダは信じた。しかし、アメリカ社会はその価値観や自由を失わなかった。

guardian.co.uk, Tuesday 3 May 2011

For 10 years, Osama bin Laden filled a gap left by the Soviet Union. Who will be the baddie now?

Adam Curtis

ビン・ラディンとテロ組織は、世界中で多くの人を殺したが、同時に、西側政治家にとって有用な、ある種の天の賜物であった。1989年に共産主義は崩壊し、西側諸国の市民たちを鉄線で囲い込んだ、大きな物語が突如として終わった。それは遠く離れた暗黒の、邪悪な勢力に対する、グローバルな闘いであった。世界を理解することは非常に複雑になった。1998年のグローバルな経済危機や、モニカ・ルインスキーをめぐる政治スキャンダルが起きた。そして、ビン・ラディンが東アフリカのアメリカ大使館を爆破した首謀者として登場した。

クリントン大統領は即座に巡航ミサイルを発射させた。誰もが、スキャンダルから関心をそらせるためにビン・ラディンを利用した、とクリントンを非難した。しかし当時のビデオを見れば、その混乱した過程には、海の底から残骸が浮かび上がってくるような、旧い物語の再現を観るだろう。

冷戦下のレーガン大統領によって権力の味を覚えたネオコン政治家たちは、ビン・ラディンやザワヒリについて事実を少ししか知らなかったが、それを自分たちのよく知っている構図に当てはめた。邪悪な敵が、潜伏した細胞と世界中に張り巡らせた「大タコtentacles」を用いて、西側文明の破壊を狙っている。アルカイダは新しいソ連であり、ビン・ラディンは世界中の組織を使って洞窟から指令を発する、悪魔のような、恐るべき強力な敵である。このような形で、テロの脅威は大幅に誇張された。

政治家とジャーナリスタオたちは、世界を単純化して示す機能を果たす。ビン・ラディンの氏は、善玉と悪玉との単純化された物語を終わらせるだろう。それは第二次世界大戦の終わりに英米で生まれた「良い戦争」であった。オバマはこの物語をすでに拒みつつあるようだ。

何より、アフガニスタンはこの物語の破滅であった。我々が戦う現実にとって、単純化は全く非現実的な幻想である。我々がそこにいることを正統化するために、幻想は維持されている。アメリカと同盟諸国は、テロリストの訓練キャンプを破壊し、良い人々が支配する民主主義を樹立するはずだった。しかし、10年を経て、そこにあるのは既得権の複雑な網の目だ。汚職にまみれた国家では、誰が「良い人」か、知ることもできない。

ビン・ラディンの死は、世界を観る目を変えるだろう。しかし、次の物語はどこから現れるのか? 誰を悪者にするのか? 物語はいつも権力を握る者たちによって作られる。

guardian.co.uk, Tuesday 3 May 2011

Osama bin Laden's death: The US patriot reflex

Gary Younge

アメリカ各地で群衆が勝利を祝い、「アメリカ!  アメリカ!」と連呼した。

イギリスの王室婚礼や、サッカーのワールド・カップに群衆が集まるのと同じ、愛国心の表現だろう。国旗を振りまわし、裸で筋肉を見せる若者がいつもいる。911の直後のように、アメリカ国民は団結を喜ぶ。

しかし、彼らがそれほど喜ぶのは、911に対するアメリカの反応は、その一部、あるいはすべてが間違っていた、と見なされているからだ。国民の3分の2がイラク戦争を間違いだったと考え、アフガニスタン侵攻をめぐっても世論が分裂している。

911テロの性質から見て、アメリカ国民が報復を望んだことは十分に理解できるし、正当な情状の根拠である。しかし、それは外交政策ではない。

アメリカ人が911で亡くなった人を追悼するのは正しい。しかし、記憶や悲しみ、怒りは、彼らが独占するものではない。911への反撃としてアメリカが行ったことは、罪のないイラク人、アフガニスタン人、パキスタン人を何千、何万も殺害した。もし彼らが報復を正義と信じるなら、アメリカ人はその標的となる。幸い、そのような競争はないが、そこには苦悩が満ちている。

もしビン・ラディン殺害がアメリカの軍事力の優秀さを示すと思うなら、アメリカ軍が行った多くの失敗も知るべきだ。アフガニスタンでは多くの婚礼を爆撃した。Hadithaでは24人のイラク市民を殺した。その中の14歳の少女は殺される前に強姦された。彼女の6歳の妹と彼女たちの両親はMahmudiyahで殺害された。もしアメリカ人がこうした惨劇と関わりたくないなら、ビン・ラディン殺害を祝う以上のことが必要だ。

報復は彼らをここに導いた。しかし、報復からの出口はない。

SPIEGEL ONLINE 05/03/2011

America's Lost Decade

Bin Laden's Death Comes 10 Years Too Late

A Commentary by Gregor Peter Schmitz

SPIEGEL ONLINE 05/03/2011

Justice, American Style

Was Bin Laden's Killing Legal?

An Analysis by Thomas Darnstädt

これが正義か? アメリカ軍の秘密作戦でビン・ラディンは殺害された。アメリカ人は祝っているが、この殺害は合法的なのか? 国際法や戦争行為に関して疑問が残る。

法定もなく、他国の領土で行われた殺害を、911の報復として勝利と呼べるか?

FT May 3 2011

Bin Laden killing buries the trauma of 911

By Philip Zelikow

NYT May 3, 2011

Farewell to Geronimo

By THOMAS L. FRIEDMAN

ビン・ラディンは、彼が考えたような暴力によってではなく、平和的なデモでチュニジアやエジプトの尊厳、正義、自治が回復されたことを観たはずだ。911から10年近く彼が生き延びて、唯一のよいことだろう。銃弾で殺された彼を、今こそアラブの民衆が思想としても葬ることだ。

FP MAY 3, 2011

Escaping from Afghanistan's Mad-Max Present

BY ANNE-MARIE SLAUGHTER

アフガニスタンで勝利する、とはどういうことか? 

治安の回復が最優先だ。アフガニスタンの軍と警察を確立するだけでなく、彼らが国を守る理由を必要とする。それができればアメリカ軍の役割を引き下げ、米軍へのテロ攻撃を減らし、撤退を可能にする。すなわち、正直な政府、国民にとって優れた統治がおこなわれることだ。

新しい憲法では、地域の指導者を住民が選挙で決める。アフガニスタンにも正直で有能な役人は居る。しかし、彼らは報われることなく殺害され、あるいは、知事や警察署長には中央政府の仲間が指名された。

アフガニスタン政府が協力するためには、資金援助や軍事力ではなく、予測できる形で、真の安定性を実現することだ。そのためにはすべての政治勢力の長期的な均衡を必要とする。ビン・ラディンの死は、そのための外交を可能にする。内政、外交において、幅広い合意と支援を組織しなければならない。

 (China Daily) 2011-05-04

Only short-term gain for real economy

By Mei Xinyu

FP MAY 4, 2011

Did the United States murder bin Laden?

Posted By Stephen M. Walt

guardian.co.uk, Wednesday 4 May 2011

Bin Laden's death: 'Why kill the goose?

Tariq Ali

LAT May 5, 2011

With Afghanistan, a moment of opportunity for Obama

By Tom Hayden

NYT May 5, 2011

Thinking Through Assassination

By JIM RASENBERGER

この戦争は暴力的なイデオロギーを倒すことが目的であり、個人を殺害することではない。もし世界に、正義を行うのは法であって、冷酷な暗殺ではない、と信じてほしいなら、正義の名の下に殺害することは非常にまれな例外であって、ルールではないと理解されるように、アメリカ政府は慎重であるべきだ。

FT May 5 2011

The promise of a post-jihad world

By Philip Stephens

世界は、暴力的なイスラム主義の拡大と、それを食い止めるリベラルな民主主義とに分割されていた。その地図は、中東における責任ある政府を求める街頭デモによって変化しつつある。イスラムの真の声は、グランド・ゼロではなく、タハリール広場にある。

中東和平でも、2国案を支持して、ダブル・スタンダードを止めるときだ。ウィリアム・ヘイグはEUが自由貿易協定や関税同盟を提供するよう提案した。イラクとアフガニスタンに侵攻するため西側が費やした戦費の10分の1でもアラブ世界に投資をすれば、彼らの生活を改善し、民主化を支援できる。

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The Economist April 23rd 2011

Crunch time in Libya

Lessons from California: The perils of extreme democracy

Direct democracy: Vox populi or hoi polloi?

Africa and China: Rumble in the jungle

The euro area’s debt crisis: Latin lessons

Economics focus: A question of maturity

Japan’s disaster and business reform: A good place to start

(コメント) 体調不良で、詳しく読めませんでした。特集記事(The people’s will: Democracy in California)も紹介できません。

記事は安保理決議とカダフィ軍への攻撃をアメリカが指導するよう求めています。直接民主主義に関する考察は、日本でも、大阪や名古屋に当てはまりつつあります。中国はどこでも西側と違って歓迎されている、という時期は終わったようです。アメリカの債務危機はまだ先の話ですが、ユーロ圏はなかなか債務組み換えを認めません。ラテンアメリカの「失われた10年」や、ラトビアの例が検討されます。

日本の被災地を復興するために、もっと安価な外国産木材を利用するべきだ。さまざまな規制や関税を取り除いて、開発復興特区を設けるべきだ。震災前に検討されながら延期された法人税引き下げやTPP参加を東北地方で実験してみるべきだ。若者が流出する東北地方に必要な、外国からの若い移民労働者を受け入れるべきだ。放射能汚染が問題になっている地域は、原発停止で必要な代替エネルギーとしての太陽発電を行う用地に転換するべきだ。

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IPEの想像力 5/911

アメリカの債券格付けが低下する、という警告を市場は受けました。中国の台頭を真剣に受け止め、アメリカ財政再建・経済復興に向けた刺激にするべきだ、という主張もあります。ビン・ラディン殺害によってアメリカの軍事・外交政策は本格的にアジアに向かいます。ユーロ危機の中で、ヨーロッパの政治的力量が問われています。

・・・日本はどうでしょうか? 震災復興において、日本の政治経済秩序に革新を起こすため、ボランティアの力をもっと生かす条件を与えてください。

連休中、往復で数万円の交通費、毎日1万円以上の宿泊費、食糧や移動手段を現地で探すこともいとわず、多くの人がボランティアとして被災地に向かいました。しかし、受け入れ準備のない被災地に着けば、彼らは作業を待つだけで、双方とも残念な思いを残したでしょう。

復興のために参加を促す社会的な条件・制度を創り出すことを考えました。

募金や義捐金の案内はありますが、その使途は詳細に報告されているでしょうか? 最初から使途が明確であれば、もっと募金しやすいと思います。ボランティアに参加できないけれど、彼らを助けたい、と思う人は多いでしょう。基金の利用は、会計報告や方針説明について、独立の機関としてください。

そこで、義捐金の募集と区別して、ボランティア賛助基金を設立します。これは、主に、移動費用と宿泊施設を提供するための基金です。ボランティアに参加する人は、日本中どこからでも、片道1000円、宿泊費1000円で参加できるようにします。

たとえば、日本中にボランティアの駅を設けます。ここに集まる人を、より大きな拠点・宿泊施設まで移動する手段を用意します。バスでもいいし、鉄道でもいいでしょう。インターネットで参加者を確認し、必要な被災地の情報を照合してください。

ボランティアは、被災地域の需要に応えて、心から感謝される役割を担えるように、受入側で準備します。そのためのアレンジを担うネットワークを整備してください。

全く性格の異なる、短期から数年に及ぶボランティアへの需要があるでしょう。複数の機関・NGONPOが個性を生かして協力し、競い合うことです。複雑になり過ぎないよう、各種の団体が衝突しないよう、また、詐欺を防ぐために、公的な関与と調整が必要です。ボランティア登録を促して、各人の貢献を一括管理し、社会参加の新しい基準にしてください。

自衛隊が震災支援で活躍し、高い評価を受けました。これまで論説を集めながら、スイスやマレーシアなどで、徴兵制が優れた社会的機能を果たしていると知りました。年齢・階層・民族を超えて仲間を作り、政府・民間企業の採用や人材交流を促す場ともなっているのです。平和のための徴兵制を、日本に整備してください。

災害や貧困に対して国際支援を迅速に提供することは、犠牲者や難民を減らし、その後の戦争や民族間の紛争が拡大するのを予防する意味で、軍隊に代わる重要な安全保障上の役割を果たしています。もし日本の若者が国内の閉塞感に苛まれているとしたら、自ら活躍できる、戦争ではない内外の救援活動を組織してはどうでしょうか?

多くのボランティア活動は民間市場・政府機能の回復を待って撤退します。たとえば、政府の雇用促進や貧困対策、経済政策・社会福祉事業や病院・学校などが交代できると思います。

しかし、今、最も必要なことは、被災地域の住民が再開発の計画を具体的に話し合う機関を設置することです。国が専門家に委嘱して計画を作ることは、各地の被災者と独立に行えるし、その方が良いでしょう。公共施設の配置や住宅地の集合的な再編を可能にする法整備、社会環境を用意して、住民自身が希望を実現する機会を広げることが政府の役割です。復興債や公共投資と、民間投資の誘致を組み合わせて、さまざまな財源の可能性を示すことも重要です。

企業、実務家、専門家、研究者のボランティアが、住民の希望を具体化するために助言します。その記録を必ず残して、さまざまな社会貢献と再生のプロセスを歴史として検証できるようにしてください。

日本中でボランティアと被災者による新しい社会の建設が結び付き、政治経済秩序の革新を求めて意見を交換し、自ら行動する精神が鍛えられる。ここに大災害の不幸を克服する条件があると思います。

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