今週のReview
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オバマの選択した多角的戦争 ・・・英米の経済成長は再生するか? ・・・日本の震災と原発事故 ・・・ドイツ政治とユーロ危機 ・・・エジプトの民主主義 ・・・ドルに代わる国際通貨 ・・・現代の国家 ⇒ [より長い従来版 Review]
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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia そして、The Economist (London)
l オバマの選択した多角的戦争
FT March 24 2011
Obama to Europe: bon courage
By Philip Stephens
アメリカは後部座席に座って、イギリスとフランスが先頭に立つ。これは珍しい光景だ。そして、居心地が悪いだろう。オバマとアメリカの将軍たちは、この新しい地政学に慣れようとしている。
アメリカは英仏に一つ条件を付けた。これは君たちの戦争だ。そのつもりで戦い、責務を果たせ。半世紀前に、スエズ危機でアイゼンハワーが英仏から地域安全保障を奪い取ったが、今や諸大国の同盟が必要だ。
アメリカの外交官たちも現実に慣れようとしている。これまで、アメリカが実効し、ヨーロッパは話すばかりだった。ワシントンはパリやロンドンの同意を待たなかった。リビアでは、英仏の行動と安保理決議を待った。それは、アメリカの将軍たちに受け入れにくいことだ。英仏が闘いの幕を切ったとしても、軍備のほとんどはアメリカが提供するからだ。戦闘機、ミサイル、特に重要な、電子的諜報、指揮、管理システム。
アメリカがすべてを解決することはできない、とオバマは語った。もちろん、そうである。マグレブは長く放置してきたヨーロッパの裏庭だ。アメリカはアフガニスタンに深く関与しており、リビアに戦略的な関心は薄い。ヨーロッパはこれまで、アメリカの無思慮な介入を非難してきたのだから。
また、アメリカの国内政治がそれを求める。オバマは再選を目指して国内経済の回復に集中したい。有権者はカダフィを罵るが、アメリカ軍を派遣する気はない。
地政学的なバランスが変化した。アメリカは軍事力以外の様々な影響(同盟、ネットワーク、連合、国際機関)を行使できる、とクリントン国務長官は述べた。つまり、パートナーたちがもっと多く負担せよ、ということだ。
ドイツが安保理決議を棄権した、というヨーロッパの不愉快な事実は無視されている。独仏の乖離は拡大した。ベルリンから見れば、サルコジは来年の大統領選挙に向けた国際的指導力を演出したかったのだ。パリから見れば、メルケルは有権者を恐れさせたくないので、ドイツを大きなスイスに転換させている。もっと皮肉な見方をすれば、ドイツは主要顧客(輸出市場)を喜ばせたのだ。中国、ロシア、インド、ブラジルは棄権した。ドイツも棄権しますよ、と。
サルコジとキャメロンの仲も難しい。NATOとヨーロッパ防衛に関する年来の論争があるからだ。フランスは、リビア作戦がNATOを超えた西側全体の使命である、と主張する。指揮・管理に関する神学論争はフランス外交の幼稚さだ。
リビアに対する軍事行動は、ヨーロッパ軍備の欠如を露見させた。イギリスもフランスも、この作戦で軍備のほとんどを利用しており、もし、たとえば湾岸地域で他の紛争が起きたら、まったく対応できない。両国とも近年は防衛予算を削り続けてきた。
かつて、NATOの経費の約半分をアメリカが負担していたが、今では75%に達している。この2年だけで、ヨーロッパが削った防衛予算450億ドルは、ドイツの財政規模に匹敵する。つまり、ヨーロッパ市民は、1989年で歴史が終わったかのようにふるまっているのだ。
スエズ危機は、英仏がアメリカのパワーを拒めないことを示した。リビア介入では、アメリカのパワーを前提できないことが示された。
SPIEGEL ONLINE 03/25/2011
The UN Shifts Priority from Peace to People
リビア決議は、国際社会が平和よりも人権を重視し、国民を保護しない政府の主権を認めない、という姿勢を示した。その結果、国際関係がどうなるか、は分からない。
トリポリの独裁者カダフィは、国民を「血の海にしてやる」と脅し、反対派を「ドブネズミ」と呼んだ。もしカダフィが勝利すれば、われわれは皆殺される、と反対派のスポークスマンは述べた。
カダフィが勝利することは許されない。
この決議は、内政不干渉、国家主権、という伝統的な国際法を破った。
1999年、NATOによるコソボ空爆は安保理決議を行わなかった。国際法からは、外国に対する違法な攻撃と見なされる。しかし、大量虐殺や人間性に対する犯罪を、ルワンダ、コンゴ、ボスニア、ダルフールで見た国際法学者たちは、人権を無視した主権国家の犯罪を、国際法廷だけでなく、戦車やミサイルでも処罰できるようにした。それが2005年の国連総会決議である。国家には自国民を保護する責任R2P(a "responsibility to protect")が求められる。
しかし、この決議は内戦に関与することを認めていない。カダフィを排除できなければ、人権を守れないのではないか。それは、最悪の場合、国連が創設された目的である戦争の拡大を防ぐことに失敗し、地中海に紛争を拡大するのではないか?
FP MARCH 25, 2011
The Hard Part
BY JAMES TRAUB
リビア介入が、イラクのような内戦状態に向かう危険は否定できない。介入の最初から、政治システムの再建を担う必要がある。アメリカはイエメンやバーレーンに関心があり、エジプトやチュニジアが難着陸するのを助けるほうが重要だ。
イラクの重要な教訓とは、「安全保障が他のすべてを圧倒する」ということだ。アメリカなどが、リビア軍を「民主主義的な警察」に変身させる訓練を行う必要がある。国家再建は、アメリカよりも国連が上手に行っている。
FT March 28 2011
Libya, a last hurrah for the west
By Gideon Rachman
リビアの戦争はカダフィの命運以上に多くのものが懸かっている。その結果は中東地域に及び、国際政治にも及ぶ。R2Pは新しい安全保障の原理なのか?
Rachmanは明快です。これはリベラルな国際軍事介入の時代を開くというより、その最後の模索に終わるだろう。なぜなら、軍事介入に積極的なフランスやイギリスも、国内の財政赤字削減や福祉国家の要求を抱えて、介入を維持する経済力がない。アメリカでさえ、もはや、自分たちを世界の警察官とは考えていない。マレンMike Mullen統合讒謗本部議長は、アメリカの最大の脅威は何か、という問に、(テロでも、中国でもない)財政赤字だ、と答えた。
リビアへの軍事介入が成功した、と政治家たちは歓喜しているが、それは失敗をもたらすだろう。あまりにも多くの候補者が居るからだ。実際、シリアではアサド大統領の軍隊が抗議する市民たちを銃撃している。ますます多くの介入を求める声に、西側諸国はその意志も装備も不十分だ。
このギャップを埋められるのは、BRICsのような新興諸国である。しかし、彼らがリベラルな軍事介入を支持するようになるとは思えない。中国やインドやブラジルはリビアへの軍事介入によって得るものも失うものもない。自国の資金や人、影響力をリスクにさらしたいとは思わない。彼らは自国の成長に忙しいし、ベンガジは北京やブラジリアからあまりにも遠いのだ。
このギャップは埋まらないだろう。中国は天安門事変の記憶が、ロシアはチェンチェン紛争の過去がある。インド、ブラジル、南アフリカなどは、西欧諸国の軍事介入について、植民地主義の感触を嫌う。要するに、新興諸国は経済力を持つほど、世界政治に関心がなく、欧米諸国は世界政治に関わろうとするほど、経済力が伴わない。
(chinadaily.com.cn) 2011-03-28
Should Libya pay the same price as Iraq?
By Huang Xiangyang
西側の軍事介入で支援を受けた反政府勢力が、石油利権を添えて、西側に親密な政権を作るのはもちろんだ。これが介入の目的だった。あっという間に帝国の支配に衣替えだ。
安保理決議は欺瞞であった。市民たちを保護するという無意味なおしゃべり。空爆によって少なくとも10名が死亡し、35万人以上の国外難民が発生している。民主主義を築くという名目でイラクに侵攻し、WHOによれば、たった3年間で10万4000人とも22万3000人ともいう市民を死亡させた。
リビアで再現するのを、われわれは見るのか?
WP Wednesday, March 30
Does the U.S. really want to own Libya?
By Fareed Zakaria
オバマの軍事介入を支持するレトリックが大義を掲げることに、Zakariaは不安を感じます。限定された目的で、限定された作戦に関与したはずが、カダフィの追放に傾いた主張は一層の軍事力を必要とするでしょう。
アメリカ政府は、外交と軍事力行使との関係を常に模索してきましたが、答を出せないままです。リビア介入はわれわれの軍事力が行った、われわれの戦争です。クリントン政権は、セルビアの体制転換にともなうコストを支払わないために交渉を選択し、ボスニアやコソボでの虐殺行為にもかかわらず、ミロシェビッチの権力は維持され、その後、自国民によって退けられたのです。
オバマは、自我の膨張に任せて近隣諸国を支配するに及んだナポレオンが、周辺国や自国において多くの兵士を犠牲にし、不名誉な敗北と島流しに終わったことをモデルにしてはならない。
l 英米の経済成長は再生するか?
(chinadaily.com.cn) 2011-03-25
'Real victims' of global imbalances
By Hua Xiuping
アメリカの経常収支の赤字は経済の弱さを示すのか? 逆に、中国の黒字は経済の健全性や富を示すのか? しかし、アメリカの経常赤字は海外投資家からの贈り物であり、たとえば、アメリカは世界中からの資本流入で大量の石油を消費できている。
不均衡の性質、誰がリスクにさらされ、誰がコストを負担するのか、正しく理解することが非常に重要だ。アメリカから見れば、リスクもコストもアメリカの普通の労働者たちが負っている。工場が閉鎖され、海外に移転されて、仕事を失っているからだ。中国から見れば、最大の関心は中国政府が保有する莫大なアメリカ政府債券であり、アメリカ政府が返済できるのか、という問題だ。
それゆえ、米中両国は不均衡の犠牲者である、と言える。さらに、両国が政策を調整するとき、各国内のどの社会集団がコストを負担するのか、という問題になる。調整は対照的に進められるべきだ。
FT March 28 2011
Stop this race to the bottom on corporate tax
By Jeffrey Sachs
イギリスでもアメリカでも、財政赤字とその緊縮策、インフラの劣悪化や社会的給付の削減に怒った群衆が政府に抗議の声を挙げている。英米が急激な所得分配の不平等化を遂げてきたからだ。国民に対する社会契約は破られた。
富裕層は献金して減税ばかり主張する。税率は最低レベルに向かう競争を始めた。アメリカの選挙には莫大な資金が必要で、献金問題はこの点を重視する。
財政赤字は膨張しており、アメリカの左派も右派も事態を正しく理解していない。左派は財政赤字を軽視し、右派は富裕層への増税を嫌う。グローバリゼーションが進む中では、一国で増税することが、多国籍企業や富裕層の国外移転・流出をもたらすと懸念される。
WSJ MARCH 31, 2011
Handicapping the Economic Recovery
By ALAN S. BLINDER
アメリカ経済は、病み上がりの状態で障害物の多いコースを走るスポーツ選手のようなものだ。回復を邪魔する4つの重要な障害がある。
1.日本の震災。地震、津波、原発事故。その失われ人命と経済的コストは莫大だ。しかし、歴史は発達した経済がそのような震災を短期的な後退で克服することを示している。
2.ヨーロッパにおける国家債務の破綻危機。次々と危機に陥る政府が現れ、債務の組み換えや削減はヨーロッパの銀行システムを脅かす。しかし、危機は回避されるだろう。
3.アメリカの財政赤字。しかも、@経済状態が回復しないまま赤字削減を急いでいる。A2011年度予算が承認されず、政府機能が一時的に停止する恐れがある。B政府と共和党は債務上限をめぐるチキン・ゲームを始めた。アメリカの財政破綻が危ぶまれる。それは起きないとしても、金利上昇と株価暴落や、財政支出の急激な削減が起きる。
4.世界石油市場における価格高騰。アラブの騒乱は続き、新興諸国の石油需要も続く。
l 日本の震災と原発事故
FT March 24 2011
Japan must dip into its rainy day fund
By Carmen Reinhart and Vincent Reinhart
震災からの復興を行うには、健全な経済でも耐えがたいような財政負担が生じる。日本経済は健全であると言えない。
日本には回復力が欠けている。この20年間、最近の世界金融危機に対しても、そうだった。実際、1992年に株価と地価が暴落して以来、日本経済と金融システムは完全に回復していない。成長率は大きく低下したままであり、株価も1989年のピークを回復していない。政府債務はGDPの226%で、先進諸国中の抜きん出たトップである。高齢化する日本経済に震災からの復興は重荷になる。しかし、銀行危機の後や、災害の後、多くのケースで成長が減速し、停滞している。
日本には非常時に備えて政府が行った貯蓄がある。すなわち、外貨準備だ。GDPの20%に近い、1兆ドル以上の外貨準備が主にアメリカの財務省証券として保有されている。エコノミストは、なぜ諸国が外貨準備を減らさないのか、説明できないでいる。その理由の一つは、こうした非常時の支出に応じることだ。あるいは、中央銀行が自国通貨の増価を嫌って介入することも挙げられる。
今こそその非常時だ。
FP MARCH 24, 2011
The Island Nation
BY PETER TASKER
巨大な地震は日本列島を6フィートも動かしたが、日本人の並はずれた結束力や忍耐心をほんの僅かでも損なうものではなかった。
日本経済は再生できるか? と、外国のメディアは特集するが、それは日本経済の興隆を恐れた1980年代や、その衰退を論じた1990年代の発想を引き継ぐものだ。日本は必ず復活する。そして、日本は変わらない。
日本経済の戦後の奇跡は、競争力の改善や官僚の優秀さと関係なかった。それは何よりも市井の日本人が示す回復力であり、日本に形成された社会資本の豊かさであった。日本経済の「失われた10年」が騒がれたけれど、それは成長モデルが時代遅れだとか、官僚たちが改革を恐れたからではない。外国の研究者は日本の改革があまりにも遅いと不満を述べ立てたが、経済効率は日本人の究極の目的ではなかった。日本人は経済が衰退しても成長しても、社会的な安定性を求めたのだ。
震災からも日本は急速に回復するだろう。しかし、日本にアメリカや中国のような超資産家が誕生することはない。企業の敵対的買収や、サッチャー=レーガンのサプライサイドの改革や、ネオリベラルな改革が実現することもないだろう。日本人は再び、敗戦後にそうしたように、それ自身の価値を深める形で、21世紀の日本を「焼け野原から復興する」。
日本人の価値観は、バブル経済によっても失われていないし、外国のエコノミストがしばしば解決策として推奨する大規模な移民受け入れも支持しない。バブルの処理は、世界金融危機を経た今、日本だけでなく誰にもできなかったことだとわかる。アメリカは日本に要求した解決策をウォール街に適用できなかったのだ。
漸く日本企業は復活してきた。新興市場への輸出は欧米企業より伸びている。日本経済の成果も、一人当たりの実質で見れば欧米諸国に劣らない。アメリカの成長が優れているように見えるのは、移民流入による人口増加やドル安政策が見かけ上の成果を示すだけだ。「失われた10年」などと言われる事実はない。
日本人は、震災に遭っても、苦しみを分かち合う。この「島国根性"island nation spirit"」を失わない限り、どのような災害や危機が襲っても、日本は復活するだろう。
April 1 (Bloomberg)
‘Lehman Shock’ Is Kid Stuff Next to Fukushima
William Pesek
日銀の前川総裁は震災と原発事故に対する非常時の対応を採った。つまり、1930年代に戻った。
日本が回復する道は三つある。1.国債の発行。しかし、それは金利を上昇させ、増税に至る。2.8860億ドルのアメリカ国債を売却する。それは世界最大のアメリカ経済を不安定化し、同盟関係を危うくする。3.日銀による国債の貨幣化。政治家たちは大いに求めるだろうが、日本国債の格下げや資本逃避を招く。
日銀はリーマン・ショックに対して金融緩和を行った。しかし、福島原発事故には金融政策が十分な効果を期待できない。原発事故が放射能物質を大気中にばらまくことで消費を抑制する効果は計量できないし、日本からの貨物が海外で拒否されたり、寿司メニューが取り下げられたりする心理的な波及は予想できない。アメリカの低成長、ポルトガルの債務危機、中国のインフレ、リビアの軍事介入など、国際情勢の不透明化を増すだけだ。
l ドイツ政治とユーロ危機
FP MARCH 25, 2011
Stage Fright
BY CAMERON ABADI
ドイツ人の性癖として、常に、不安がある。「ドイツ人はいつも怖がる。オーバーヒートを怖がる。地下鉄の駅を怖がる。朝食の卵にダイオキシンが入っているかと怖がる。」と、ある作家は言う。
メルケルの外交政策は、ヨーロッパでも、NATOでも、中東でも、グローバルな危機に動じなかった。物理学博士として計算しつくして、安定性を重視するドイツ人の性向を重視した政策を決定する。ユーロ危機では、小出しの救済によって、危機が波及する結果になった。漸く得た安保理の席も、リビア決議で棄権した。外交的な孤立を嘆く政治家、「恥だ」という軍人もいる。
ドイツにグローバルな指導の能力がないのではなく、それを発揮しないことを選択しているのだ。ある政府高官は、メルケルが日本の原発事故に驚いて、それ以外の問題を考える余裕はないのだ、と言い訳する。9・11、ベルリンの壁、ケネディー暗殺、そして、福島こそが歴史に残る事件だ、と。しかし、それこそが近視眼であり、知恵ではない。
リビアの群衆の一人は、「メルケルは恥を知れ!」、「われわれはドイツとビジネスしないぞ。」と語った。ユーロ危機でも、メルケルは救済融資の条件として赤字国の財政に注文を付ける。ヨーロッパ周辺部の政府はどうしようもなく放漫財政で、罰則が要る、とドイツの有権者は考えているから。少なくとも、メルケルはそう思っている。しかし、危機は財政赤字よりも、ドイツなどの大銀行にある。ドイツは銀行の健全性をチェックしなければならない。
メルケルの個性に加えて、ドイツの歴史には、指導力を発揮することが称賛されたケースは少ない。だから試行錯誤は仕方ない。しかし、ヨーロッパは共通の船に乗っている。ドイツ政府が好きなだけ船を降りるとしたら、一緒に船が沈むことを知るだろう。
FT March 29 2011
The ‘grand bargain’ is just a start
By Martin Wolf
ユーロ圏は生き残れるか? Wolfは、政治的・制度的な改革がなければ困難だ、を考えます。つまり、一層の危機が必要なのです。
ユーロは加盟諸国の連帯と規律によって機能します。加盟国間の差異が拡大し、経済成果にも格差が生じれば、より大きな連帯が必要であるけれど、その供給は減少します。それゆえ、政治的な統合化と経済的な弾力性を強化することが必要なのです。
すでに政治指導者たちは制度的な革新を実現してきた。しかし、将来の危機を防ぐ制度的な準備は無い。特に、ユーロ圏内の不均衡が周辺における脆弱性と銀行危機を生じている、という関連性を見ようとしない。債務国は厳しい緊縮策を採ることで成長を回復するという確かな見通しがなく、政治的に支持できなくなっている。銀行の債券は傷つけない。そのために政府の債務を融資して支払わせる。こうした関係では、ドイツの嫌う「財政移転同盟」a “transfer union”が避けられない。
ドイツ政府は、銀行を救うために、債務国を救済するのだ、という関係を有権者に告げて、銀行の債権放棄や資本増強を直接に行うべきだ。
SPIEGEL ONLINE 03/30/2011
Castles in the Sky
The Fundamental Problem with Efforts to Save the Euro
An Essay by Michael Sauga
マンデルRobert Mundellがノーベル賞を受賞し、彼の最適通貨圏論が出版されて50周年になる。マンデルは、労働者と資本が自由に移動すれば通貨同盟は機能する、と考えた。しかしドイツのコール元首相は、政治同盟がないまま通貨同盟を長期的に維持することを、愚かな考えだと主張した。
禁煙すると年末には言うけれど、新年になれば、さっさとタバコに火を付ける。悪習を断てない喫煙者の話は誰でも知っている。ユーロ圏も同じだ。
1970年から74年まで欧州委員であった政治社会学者のラルフ・ダーレンドルフは、当時の10カ国ほどでも経済・財政政策を統合することに強く反対した。各国の経済文化は余りにも違いすぎる、と考えたのだ。
メルケルの提案した「競争力協定」はすっかり骨抜きになり、元欧州委員長のJacques Delors and Romano Prodiと、元ベルギー首相のGuy Verhofstadtは、収斂を目指して、退職年齢や法人税、賃金やR&Dなどを含めた別の案を示した。しかし、こんな計画経済みたいな、各国民のEU嫌いを刺激するだけの案が機能するはずはない。
危機を回避するだけではコストが増すとわかっている。債務削減は必要になるだろう。そのためには、債務諸国の政策を監視する機関が必要だ。
l エジプトの民主主義
NYT March 26, 2011
Hoping for Arab Mandelas
By THOMAS L. FRIEDMAN
「民主主義には三つのものが必要だ。市民。彼らは自分を無差別な国民的共同体の一部であるとみなす。そこにおいては誰もが支配し、支配される。自決。すなわち、投票だ。そして、Mandelbaumのいう「自由」だ。」
自分たちの支配者を投票によって決める人々は、政府が何をし、何はできないか、そして、自分たちの自由を決めるのだ。自由はすべてのルールを包囲し、政治、正義、経済、宗教の限界を決める。こうした自由を創り出すことこそ、最も難しい。中東地域の人々は、部族、エスニック、宗派によって分裂し、内戦の脅威がそこにある。イラクがそうだった。
中東において、市民はあり得るのか? 政治体制は市民を認めなかった。しかし、シリアの非暴力的なデモは、人々が自由を求めていることを示した。抑圧する政治体制を破壊すれば、内戦の危機と自由な市民の可能性が、ともに現れる。
内戦を抑えるには、彼ら自身が共にどのように生きるのか、選挙をどのように行い、中立の仲裁者としてアメリカがどうかかわるのか、憲法に定めることだろう。アメリカはイラクで、常に完全ではなかったが、その途方もないコストを担った。リビア、シリア、イエメンでは、誰が担うのか?
そして、アメリカはいずれ去り、イラクの民主主義はイラク人が担う。彼らには自分たちの仲裁者にして採決する権威者が必要だ。すなわち、アラブのネルソン・マンデラだ。
l ドルに代わる国際通貨
FT March 31 2011
The best alternative to a new global currency
By Joseph Stiglitz
ケインズがかつてバンコールBancorを考えたように、ドルではなくSDRを国際通貨にするべきだ。
ドルを中心とした国際通貨制度には欠陥がある。第一に、金融危機の後、不況をもたらす。なぜならドルを得るには厳しい調整の条件があるから。第二に、ドルを供給するアメリカの経常収支が赤字になる。第三に、金融不安を恐れて発展途上諸国はドル準備を増やす。それが国際収支不均衡を拡大する。
こうした問題は、IMFがSDRを発行すれば回避できることだ。G20は今後3年間、毎年、3900億ドルの価値を上限として、IMFがSDRを発行するのを認めるべきだ。SDRはIMF融資として金融危機のケースに使用され、他の通貨に交換して支払うことができる。また、アジア危機のように、複数の国が危機を生じたケースには、IMFが無制限にSDRを融資できる。
それは既存の金融制度を変えずに、グローバルな金融システムの安定性を維持し、また世界のインフレやデフレを回避することにも役立つ。
(China Daily) 2011-03-31
All eyes on currency changes
By Lu Chenxi
中国による人民元の国際化に関する積極的な提案です。ドル、円、ユーロの経験から学んで、人民元は世界貿易における利用と地域通貨としての地位を手に入れ、最後に国際通貨ドルに対抗します。アメリカがマーシャル・プランでポンド・スターリングを追い払ったように。今も、アメリカドルは信用供与システムを支配して、国際通貨の地位を維持しています。オフショア市場におけるドルとの競争に注意します。
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The Economist March 19th 2011
The fallout
Japan’s catastrophes: Nature strikes back
Japan’s nuclear industry: The risks exposed
Banyan: Japan and the uses of adversity
Economics focus: The cost of calamity
(コメント) 日本の震災と津波の被災者、日本政府の対応や経済のコストと復興の刺激、福島原発事故の不確実さが議論されています。
興味深い指摘としては、原発事故への対応策と影響を重視していること、日本の原発管理に欠けていた点や中国の原発建設に対する懸念、原子力エネルギーの世界的な見直しが始まることを指摘しています。
日本政府と経済に与える衝撃が、今後、どのような再建を迅速に組織するのか、危ぶむとともに歴史を振り返ります。災害の短期的なコストは政策によって抑制できるけれど、日本はすでに政治・経済の停滞を引き継いでおり、GDPの2倍を超える国債累積もあります。
この震災に耐える日本人の姿に対する同情や共感・称賛、アジア・中国における反日感情・外交摩擦の柔軟化が注目されます。そして、国際支援を受け入れ、自衛隊を積極的に展開した政府の対応に、新しい内外のガバナンスを予感させる要素があります。
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The Economist March 19th 2011
Intervention in Arab awakening: No illusions
The ever-growing state: Taming Leviathan
Taming Leviathan: A special report on the future of the state
Failed states: Where life is cheap and talk is loose
Europe’s far right: Pause and engage
Indonesia: Power to the people! No, wait…
(コメント) これらの記事に共通しているテーマは、現代の国家、です。
リビアの政府軍に空爆を加えた英仏とアメリカは、人道主義と軍事介入との関係を正しく示せるでしょうか? 他にも多くの国で同じような問題が起きています。「破綻国家」というルーズな言葉の出現と使用法を批判しています。
特集では、歴史的に続く国家の肥大化を抑え、逆転するため、国家構造の革命を求めています。カリフォルニアは肥大化の背景を示し、シンガポールは新しい国家構造のヒントを、そしてイギリスの保守党が示す空虚な提案よりも、具体的・実践的な改善策(というほどの答は無い)を示します。技術変化やグローバリゼーションで国家構造が革新される、というテーマに共感します。
ヨーロッパの極右、インドネシアの地方分権は、世界政治のコアと新興諸国に起きている重要な展開です。
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IPEの想像力 4/4/11
The Economistの表紙は、斜面を転げ落ちようとする巨大な太陽を支える、防護服や作業着に身を包んだ小さな人間を描いています。その落日は日本の国旗のようであり、原子炉の熱エネルギーのようにも見えます。支える人々の力がいつまでもつのか。
アメリカの失業者や金融改革ではなく、ユーロ危機やドルに代わる国際通貨の提案でもなく、日本の震災とリビアへの空爆が世界の関心を集め続けました。
空爆の効果は限られており、軍事力以外の方法で戦うことを考えるべきでしょう。もしリビアのケースで介入が成功すれば、無防備の市民を組織的に虐殺する政府は国際的な軍事介入を招くでしょう。リビアを東西に分断する状態が続くかもしれません。それは小さな冷戦でしょうか? 世界中の原子力発電所で、地震や津波だけでなく、テロやハイジャック、サイバー攻撃への警戒を一気に強化する必要があります。
論説を読めば、日本の復興には、増税、国債発行、外貨準備の取り崩し、などが挙げられています。しかし、復興債が良いと思います。復興債は、震災によって消費や投資が落ち込む部分を、被災者への救援、被災地域のインフラ再建・復興のために利用する、という重要な大義名分と、社会の連帯感を刺激する意味があります。それはデフレを回避し、政府の無責任な国債発行や、日銀による国債の直接購入、円への不信感と投機的な為替レートの変動を避ける意味もあります。
金融緩和よりも、復興庁を設けてインフラ整備や被災者の雇用、都市設計や住宅建設、産業誘致を迅速かつ計画的に進める方が重要で、効果的です。ソ連型の社会主義は消滅しても、戦後復興や発展途上諸国の開発は、重要な知識と経験を提供してくれるはずです。
津波の心配がある土地に、以前と同じような木造の住宅地を再建することは、政府が説得的な改善案を示すことで転換できるでしょう。高台に住宅地を拓いて漁港に通う、という提案をニュースは伝えています。しかし、港の近くに市場や水産業が集まり、住居も必要になります。住宅の高層化と避難施設を確保することが重要でしょう。
たとえば、街全体が破壊されたケースでは、旧所有地に再建するのではなく、土地の評価額に応じた証券を発行して、新住宅の購入に充てる方が良いと思います。自力で住宅を再建できない高齢者や家族は、高層化した公共住宅に入ります。その1,2,3階は役場や公共スペースにして、4階以上に避難できれば、周辺の職場も津波を避けられます。逆に、高架の道路や高層施設に避難できないような土地には、低層の家屋や施設を建設させません。高層化によって空いたスペースは住民が描く新しい開発構想に委ね、復興による利益を共有します。
原子炉に依存しないで生きることを考えるべきでしょう。日本政府は、原子爆弾を世界からなくす外交を指導できるはずです。新技術によって、国際政治からの独立を保証されたIAEAがいつでも完全に停止でき、しかも、放射性物質を永久に密封した、小型原子炉を開発することでしょう。
EUは政治的な分裂を克服できず、各国政府は、移民政策を批判する極右勢力の台頭と、原発事故に活気づいた緑の党に圧倒されて、次第に政策判断が制約され、財政赤字や共通通貨についても、長期的解決策や制度改革を合意するのが難しくなっています。
「新興諸国は経済力を持つほど、世界政治に関心がなく、欧米諸国は世界政治に関わろうとするほど、経済力がともなわない。」というRachmanの指摘は、まるでKindlebergerの『大不況下の世界』です。
幸い、日本には政治的統一があり、深刻な反政府組織もなく、地域的な利害に偏って中央政府から離反する運動もありません。震災に対しても、原発事故に対しても、社会的な結束と協働(もしくは苦しみを分かち合う)精神を美徳として再生する可能性があると思います。政府はそれを形にする努力を続けなければなりません。
震災や原発事故に関するアジア諸国や欧米からの同情と支援にもっと明確に感謝し、日本の社会や外交に活かすべきでしょう。危機が深刻なときほど、政府や政治家を常套句で批判するよりも、優れた政策や政治家を見出して激励する視点が必要です。たとえ粗末でも、私たちの政府だから。
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