IPEの果樹園2011

今週のReview

1/17-1/22

 

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IPEの想像力 1/17/11

インターネットが人間やその社会に及ぼす影響は、まだまだ計りしれません。それはアラジンのランプから現われた魔人のように「新しい世界」を招来しつつある、という記事を多く目にします。

パソコンはますます大容量で廉価になり、たとえば、子供たちにまで普及し、ますます高速になって、映像・音楽の媒体や電話などと一体化しました。グローバルな情報端末の普及、商業的・公的な社会管理と、さまざまな監視システム、リアルタイムの製品需給マッチングから、恋人探しのサイト開設まで、急速な変化を可能にしています。

「新しい世界」は、たとえば、政治的中傷や犯罪、暴力を蔓延させます。

アメリカ、アリゾナ州で、民主党のガブリエル・ギフォーズ下院議員が銃撃されました。「弾丸bulletよりも投票ballotを」と言われます。中東でも、バルカン半島でも、中央アジアでも、アメリカと国際機関は紛争地域へ介入し、民主的な投票を組織して、政府を承認してきました。しかし、アリゾナでは議員が投票で議席を得ても、弾丸によって排除されかけた?のです(議員が政治活動を再開できるなら)。余りにもひどい中傷攻撃は政治を麻痺させ、良識ある穏健な人々を遠ざけて、偏執的で攻撃的な、異常な政治権力者を増やすでしょう。

「新しい世界」は、また、異常な性表現が子供や若者の感性と知性を破壊します。

インターネットの情報交換はほとんどがエロチカだ、とかつて言われました。今は違うでしょうが、それでも異常な性表現を取り締まるルールや手段を欠いたまま、子供たちのパソコンや携帯電話にまで性・詐欺ビジネスが氾濫しています。中国や韓国の勉強熱や上昇志向に比べて、日本の若者の漫画・ゲーム熱に時代の変化が示されています。

「新しい世界」は、ビジネスにおける成長や展開に革命を起こします。

サプライ・チェーンのグローバルな展開と質的変化、インターネットによる流通・販売ネットワークの変化、利益の薄さ、安定した長期的契約の消滅、品質確認の危うさ、などが指摘されます。

しかしThe Economistは、Alibaba阿里巴巴集団・アリババの馬雲(ジャック・マー)CEOを紹介しています。「タイクーン(実業家や資産家)は大物政治家の子供ばかり、という国で、マー氏の存在は際立っている。大学受験に2度失敗し、ラジオで英語を勉強した。1970年代の半ば、通訳としてアメリカを訪れた際、インターネットに巡り合った。彼は「中国のビール」を検索し、検索結果がゼロであったとき、ここに機会を見出した。」 個人としても企業としても、インターネットが拓く、中国における社会的移動性を示すものです。

アリババ・ジャパンを見るだけでも、中国の様々な生産者が日本への製品・部品供給を用意していることがわかります。しかし記事は、アリババが電子決済だけでなく電子銀行業に慎重だ、と書いています。なぜなら、それが政府の金融統制を侵食するからです。今もアリババは、資本提携したヤフーが中国と紛争の末に撤退を表明したグーグルを支持したことに、中国政府寄りの強い批判を表明しています。

「新しい世界」では、クラウド・コンピューターのシステムが次第に成長し、安全で多様なソフトが、手軽かつ安価に利用できます。

「新しい世界」は、インターネット上で交際相手を探すサイトが拡大し、伝統的な恋愛やセックス、結婚の社会関係に革命をもたらします。

The Economistの記事によれば、SaaS (software as a service)PaaS (platform as a service)IaaS (infrastructure as a service)が誕生しつつあります。私たちはパソコンからクラウド上に、ソフトウェアを移動し、情報を移動し、さまざまな更新手続きやウィルス・チェックに悩むことなく、システムを移します。たとえそれが、マイクロソフトの独裁が終わった後、それに加えてアマゾンやグーグル、などの大豪族と、さまざまな新興勢力の戦場に変わったとしても、ユーザーたちは移動し、製品やサービス、価格も流動化します。

またThe Economistの記事は、さまざまな批判も受けているデート・サービス(出会い系サイト、online-dating agencies)について、その規模や仕組み、影響を紹介しています。多くは既知の予想されたことですが、虚偽の経歴や身体的特徴、趣味などを書き連ねる参加者を “ghosts” 「幽霊たち」と業者は呼んでいます。恋愛や結婚がますます「商品市場」の競争に似てきて、こうした「市場の失敗」が起きる、という説明を紹介します。情報の真偽をどのように判断するのか? 各サイトはその仕組みによって(あるいは幽霊であっても性犯罪者ではないことの保証を求めて)競争します。

ほかにも、まだまだ、あるでしょう。「新しい世界」は、社会革命の発生メカニズムや、独裁者の権力掌握、国際軍事介入、などの様式と実行可能性・成功率を変化させます。「新しい世界」は、貧困の解消や人口増加の抑制、あるいは、貧しい農民たちへのビジネス情報提供や融資を助け、国際移民や大陸を超えた移動労働者の契約を増やします。・・・

私たちは、この魔人をランプに戻したい、と願うけれど、それは不可能です。もはや魔人と対抗して、自分たちの怪獣(リヴァイアサン)を鍛え直すしかないのです。

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ユーロ圏の秩序 ・・・世界の通貨秩序 ・・・グロ−バル・リバランス ・・・インドの金ぴか時代 ・・・中国の金ぴか時代 ・・・ギフォーズ議員銃撃事件 ・・・北朝鮮 ・・・グローバル・ガバナンス

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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


l         ユーロ圏の秩序

Jan. 4 (Bloomberg)

Biggest Financial Decision in 2011 Is European

Matthew Lynn

2011年のヨーロッパが直面する最も重要な金融的決定とは何か? それはもちろんECBの次期総裁に誰がなるかです。有力候補は二人。ドイツ連銀のAxel Weberか、イタリア銀行のMario Draghiです。

しかし、どちらも適当ではない、とMatthew Lynnは考えます。Weberではユーロ圏の辺境が我慢できないし、Draghiではドイツが単一通貨を離脱するかもしれません。三つの解決策が考えられます。1.中間的なオランダ人にやってもらう。2.非常時だから、トリシェの任期を延長する。3.全く違う第三の候補。

多くのEUの重要ポストは名目的で、権限がない。重要なことはドイツのメルケル、フランスのサルコジ、イギリスのキャメロンなど、各国の指導者が決める。しかし、ECBだけは特別に重要だ。17カ国の共通通貨に対する政策を決める。特に、ギリシャ、アイルランドの危機を経た今年は重要だ。それゆえ、ドイツやイタリアの候補は適当でない。

ユーロ危機ですでに不安を感じているなかで、イタリアの銀行家が決めるユーロの政策をドイツ国民が信用するとは思えない。他方、ドイツ連銀の総裁がユーロ危機に対処することが決まれば、ポルトガルやイタリアは離脱を考えるだろう。

(chinadaily.com.cn) 2011-01-06

Debt and democracy

By Harold James

EUの政府債務危機はユーロの危機であるだけでなく、民主主義の危機である。ギリシャ、アイルランド、ハンガリーなど、小国の政府は、民主的な社会契約の基本を侵している。

輪番制によってハンガリーがEU議長国になることは、勝手に憲法を改正し、報道を規制するVictor Orbán首相に対する批判を強めさせ、ハンガリーの財政破たんをも懸念させている。しかし、ハンガリーが債務危機に特別な政治的重要性を感じるのには歴史的理由がある。1940年代の史上最大のハイパーインフレーションによる破壊が共産主義的独裁体制につながったのだ。

多くのエコノミストは債務削減を支持している。しかし、それに反対する重要かつ道義的な意見を、ECBの理事であるLorenzo Bini Smaghiが示した。公的債務を反故にしないという原則は、法の確実さ、代表制の政府、近代的民主主義と深く結び付いている、というのだ。

1688年の名誉革命において、イギリスは金遣いの荒いスチュアート朝に反乱を起こし、政府債務に関する新しいアプローチを採用した。すなわち、予算には議会(代表制度)での投票が必要である、という原則だ。こうして人々は全体として政府の債務に責任を負うことにした。無駄な支出と王室の浪費(そして軍事的冒険)を削る憲法による保証は、初期の近代的君主制の大原則であった。

フランス革命とナポレオン戦争がもたらした債務について、王制復古後のフランス政府はデフォルトにせず、法の安定性を維持したことで、イギリスの産業革命に追いつく条件を得た。EU統合も、安定して通貨がその条件を成している。決定的に重要な独仏枢軸は債務の保証と民主的な政治秩序が確認されることで維持されてきた。債務によりドイツ中産階級は二世代にわたって搾取されたが、それは皇帝の戦争とヒトラーの戦争、言い換えれば、民主主義の失敗がもたらした帰結であった。フランスの政治システムを再建したド・ゴールは、安定した通貨を主張する最有力者であった。安定したフランスは強いフランとともにある、と考えた。

また、この20年間に起きた金融革命は代表制の政府と財政との結びつきを切断したように見える。デリバティブ、その他の複雑な金融手段は、市民たちが同意した支出について市民たちが責任を負うことを迂回する。言い換えれば、現代の財政はサブプライム・モーゲージに似てしまった。それは住宅を所有するという幻想をもたらす一方で、ルールや制限を無視したものだ。

金融革命はヨーロッパ市民の解体と並行して進んだ。この20年間で、あたかも権力は官僚制エリートたちに移転されてしまったように見える。ユーロ加盟の基準を満たす財政収支の改ざんは、見えないところで行われた政治的ごまかしであった。市民たちがEUを信用しなくなるのは当然だ。

20089月のアイルランド政府が行った決定は、およそ責任ある政府として考えられないものだった。国民所得の何倍もの債務を引き受け、結局、政府債務はGDP1300%に達したのだ。Brian Cowen首相の行動は、市民と納税者と政府の責任とが結びつかなくなった根本問題を示すものだ。

EU加盟諸国の既存債務の一部をヨーロッパ債券に移す意見は技術的に観て魅力がある。しかし、それはイギリス名誉革命(あるいはアメリカ独立革命)の原則に戻るときだけ、機能するだろう。すなわち、EUの全納税者が、彼ら自身の債務をコントロールできる、無責任な金融ビジネスと無責任な政府財政とのみだらな同盟関係によって、だまされたり、失敗を押し付けられることは無い、と信じることだ。

FP JANUARY 6, 2011

The Euro Is Dead

BY CHARLES CALOMIRIS

ヨーロッパの指導者たちは現状維持を望むだけで、このままでは1年か2年以内に複数の国が離脱するだろう。

確かにユーロ離脱の手続きを決めた法律は無いが、それは単純な計算で決まる。債務が余りに増えれば、政府が既存債務の利払いや返済に必要な額が将来の税収を超えてしまう、ということだ。そしてその傾向が見えた途端、投資家たちは不安になる。その場合、政府はユーロ圏を離脱し、それにより、財政赤字があっても通貨を増刷して支払うことができる。

ギリシャやアイルランドは離脱する候補であるし、スペイン、イタリアなど、財政再建が難しい国はそれに続く恐れがある。それはまた、通貨統合だけが行われて、財政的な赤字を安価に融資できることが原因の一部であり、財政権限を集中させることしか解決策は無い。

しかも、南欧諸国が競争力を回復し、成長できなければ返済できない、という意味で、彼らはもっと投資環境を改善し、汚職や参入障壁を解消しなければならない。

FT January 9 2011

Europe: Star-crossed levers

By Nikki Tait and Tony Barber

FT January 9 2011

No happy new year for the eurozone

By Wolfgang Münchau

ベルギーやイタリアも含めて、財政赤字国の債券価格が下落し、金利が上昇して、ユーロの価値が下落した。

政治家たちは、この危機を時間とともに解決する、小国の流動性危機と見なしている。だから融資が必要なだけだ、と。しかし、そうではない。これはユーロ圏全体に及ぶ支払不能危機であり、また、競争力の危機である。後者に落ちっている国は、共通通貨の下で、解決がさらに難しい。

FT January 10 2011

Parallel currencies could boost euro

By Michael Butler

ユーロ危機を避けるために、赤字国を並行通貨a parallel currency体制にする、と提案します。ユーロを離脱することなく、自国通貨を再生し、両方を使用するのです。危機の根本にある流動性の喪失を解決するには、自国通貨を再生して切下げる必要があるからです。ドイツの物価抑制と生産性上昇で、およそ20%は競争力が劣る、と。

もしドイツのインフレも赤字国のデフレも好ましくないなら、ユーロを離脱することになります。しかし、1991年にイギリス政府が提案した(the “hard ecu”)ような、並行通貨が問題を解決できるでしょう。ECBは新通貨がユーロと一定の範囲で為替レートを減価するように管理します。そして、競争力が回復し、新通貨とユーロの為替レートが等価になったら、再びユーロに統合するのです。

FT January 10 2011

Europe must look beyond Portugal

SPIEGEL ONLINE 01/11/2011

SPIEGEL Interview with Economist Nouriel Roubini

'Europe Needs Growth to Prevent a Collapse of the Euro'

同じような財政赤字があっても、カリフォルニアではなくギリシャやアイルランドが攻撃を受けたのは、彼らを守る制度がないからです。Nouriel Roubiniは、ドイツが一層の融資枠増大を認め、ECBは金融緩和するように求めます。なぜなら、そうでなければギリシャなど赤字国の改革は支持されなくなるからです。

ドイツの成長モデルは余りにも輸出に依存しており、赤字国やヨーロッパ全体がまねることはできません。むしろドイツがもっと国内のサービス産業を自由化し、消費を増やす必要がある、とNouriel Roubiniは主張します。

さらに、弱い通貨だけでユーロを続けることはあり得ない。また、ユーロからの離脱は赤字国通貨の大幅な減価をもたらし、彼らの債務返済負担を急増させる。赤字国のデフォルトになれば、それはドイツなど債券国にとっても問題だ、と指摘します。

Nouriel Roubiniの支持する解決策は、ドイツが救済融資の枠を大幅に拡大する代わりに、赤字国の財政規律を強化する権限を得ることです。

FT January 11 2011

New reforms can break Europe’s debt cycle

By Olli Rehn

NYT January 12, 2011

Can Europe Be Saved?

By PAUL KRUGMAN

ユーロは失敗だったのか? ヨーロッパは第二次世界大戦の反省から、195059日、石炭鉄鋼共同体を誕生させました。ヨーロッパ連邦の理想に向けて歩み始めたのです。

しかし、共通通貨が機能できる制度的条件を欠いていました。PAUL KRUGMANは、単一市場よりも単一通貨の方が難しい、と考えます。共通通貨の採用には明らかに利益だけでなく、重大なコストが伴うのです。それをKRUGMANは、マクロ経済の弾力性を失う、と言います。そのどちらが大きいかは、状況によるでしょう。アメリカ人の多くは変動レートを支持し、ヨーロッパのエリートたちは固定レートの理想を信じました。

特に賃金を下げる問題が重要です。ユーロ圏内の赤字国は、もし独自通貨があれば、その国は切下げによって賃金水準を変更し、競争力を回復できます。それをM.フリードマンの「夏時間」のケースとして指摘し、「協調問題」と呼びます。KRUGMANは、アイスランド=ブルックリン問題として、同じような条件・人口規模の両地域が、地理的・経済的に孤立するアイスランドの場合と、周辺と緊密に統合されているブルックリンの場合として、異なる通貨のデメリットを考察します。

逆に、なぜ通貨を放棄できるのか? アイスランド=ネバダ州問題として指摘したのは、財政そして労働市場の統合化です。気候、景観、歴史を別にすれば、両地域の問題はよく似ています。周辺地域に財・サービスを販売することで経済が成立しています。どちらも好況と住宅バブルを経験し、今では14%の失業率も共通しています。しかし、その苦しみは異なります。金融機関の救済でも、失業手当の給付でも、ネバダ州はドルという共通通貨だけでなく、アメリカ合衆国という連邦財政の一部だからです。しかも、ネバダ州の失業者は急速に移動します。アイルランドからも多くの移民が流出していますが、数年で失業率が周辺諸国と等しくなるほどではありません。

財源を共有する、文化的な統一体がヨーロッパにあるでしょうか? ドイツの納税者はギリシャへの融資を嫌いますし、アイルランドの労働者はヨーロッパ諸国への移民に異なる言語を学ぶ必要があります。R.マンデルやP.B.ケネンは、労働移動や財政統合を重視して、最適通貨圏を議論しました。

それにもかかわらずヨーロッパのエリートたちは警告を無視し、ユーロによる利益によって楽観を強めました。辺境の小国は、特に財政赤字やインフレの酷い経歴を持つギリシャのような国は、ユーロに加盟したことで急速にドイツと同じ低金利を利用できるようになったのです。それが財政赤字を放置し、国民が不動産バブルに向かう条件でした。多くの小国で、金利の収れんと資本流入、好況とバブルが起きました。

金融市場の不安が生じたとき、資本流入は流出に代わり、不況と財政赤字の急増、金融機関の破綻とその救済が必要になりました。アイルランドのようにその処理を誤れば、政府が破綻しました。そして、それがユーロ危機に波及したのです。財政を共有していないユーロ諸国は、ある国の財政破綻を融資することに躊躇し、厳しい緊縮財政を求めてユーロ圏のデフレと財政破綻を悪化させています。M.フリードマンやI.フィッシャーが指摘した問題です。

KRUGMANは、アルゼンチンの結末を指摘します。スペインやギリシャもアルゼンチンのようにユーロ圏を離脱し、債務を大幅に(65%)削減にして、為替レートを切り下げるかもしれません。現状のような、緊縮策による市場の信頼回復、と、かつてのようなヨーロッパ楽観論、に加えて、債務削減論と、アルゼンチン、が予想される選択肢だ、と述べます。

緊縮策の末に競争力を回復したケースは、確かに、ラトビアにあります。しかし、ユーロ圏の官僚が支持するほど、15%も賃金を引き下げて「内的切り下げ」を行ったことが「成功」か? とKRUGMANは批判し、ツキディデスを引用します。「彼らは不毛の土地を作りだし、それを平和と呼んだ。」この場合は、「調整」がそれである、と。これもユーロ圏が生き延びる一つの方法であると認めます。

アルゼンチンと似た解決策を取ったのはアイスランドです。彼らには通貨がありました。対外債務を切り離し、損失を海外投資家に押し付けたのです。大幅な切り下げは輸出を伸ばし、金融危機の不況を緩和しています。アイルランドやラトビアよりも良いのです。

Barry Eichengreenは、債務削減を検討することは、たとえ適当な削減幅に抑える意図があっても、ただちに負担を強いられる金融機関から預金が流出し、金融システムの破たんが起きる、と予想します。そのコストは余りにも大きく、それゆえ、この選択肢を政府は避けるのです。これに対してKRUGMANは、アルゼンチンが預金封鎖をおこなった点に注目します。書記の預金流出を止めるために預金を封鎖したアルゼンチンは、それ以上の流出を恐れることなくデフォルトや切り下げを行いました。ユーロ圏でもできる、という意味です。

ユーロへの楽観を回復する試みは、ルクセンブルグとイタリアの財務大臣、Jean-Claude Juncker and Giulio Tremontiが提案したヨーロッパ債券( “E-bonds” )の発行です。それは赤字国やユーロ圏への信頼を回復し、成長を刺激するものです。ドイツ政府は即座にこれを否定していますが、アイルランド=ネバダ州問題が示すように、財政移転があるからアメリカの「ドル圏」は機能しているのです。

このまま緊縮を続け、世界景気にもデフレを及ぼすか、60年前のシューマンの理想に戻ってヨーロッパ連邦を推進するか。ユーロの破壊が地雷と有刺鉄線の時代に戻るとは言えなくとも、政治統合の終わりを意味するでしょう。

FT January 12 2011

Euro looks set to win the race to the bottom

By Kenneth Rogoff


l         世界の通貨秩序

 (chinadaily.com.cn) 2011-01-04

Armageddon can wait

By Kenneth Rogoff

2011年の世界通貨システムはどこに向かうのか? 世界には通貨戦争、通貨崩壊、通貨混乱、が増えるだろうが、それは世界景気の回復を終わらせることや、まして世界の終末を意味するものではない。

現代の変動レート制は優れた成果を示している。さまざまなリスクと特異な政策の広がりにもかかわらず、それは維持されるだろう。いわゆる通貨戦争や通貨崩壊、混乱は続くだろう。新興諸国とユーロ圏はその震源だ。

世界に単一政府がない以上、世界は単一通貨・固定レートにもならない。アメリカ連銀の「量的緩和」に対するアメリカ議会や新興諸国の反発を見ても、ドルから逃避した資金による金価格高騰を見ても、世界通貨への進展は期待できない。人民元は、まだあまりにも政治的な通貨体制を続けている。

Jan. 6 (Bloomberg)

Bubbles Galore Will Make 2011 Year to Remember

William Pesek

2011年、バブル新年。おめでとう! アジアにも世界にも、8つのバブル要因があふれます。

1.ホット・マネー。超低金利で株価が上昇しています。円キャリー・トレードは以前から問題を興していますが、アメリカ連銀も次第に似たような資本供給を始めました。2.デカップリング論。アメリカもユーロ圏も日本も以前ほど成長しない。それでもアジアだけは成長し続ける。そんなはずは無いのに。

3.食糧価格。需要が増えても供給は追い付かず、地域の輸送インフラはお粗末です。新興勢力の登場は飢餓をもたらすでしょう。4.不平等の拡大。インフレになっても平気な人々も増えましたが、所得の3分の2を食糧に支払う貧しい人びとも数十億人いるのです。彼らは苦しみ、暴動を興します。5.気候変動。干ばつに苦しんでいたオーストラリアですが、今は大洪水で町ごと流されています。石炭や小麦の輸出ができなくなって、オーストラリア・ドルが売られています。

6.外貨準備の無駄。2兆7000億ドルも外貨準備が必要な国など異常です。ところが、日本も1兆ドル、台湾、韓国、香港、シンガポール、タイも、合わせて13000億ドル、保有しています。7.それは地政学的なリスクを意識するからです。金正日は核兵器を誇示し、各国は領土紛争で国民に政治ショーを演じなければならず、その半面で金価格が高騰します。8.G20が危機や不均衡を解消できる。財政破綻を抱えるEUも、二桁成長率の持続を目指す中国も、デフレ回避やGDP比200%の債務を背負う日本も、G20があれば、何事もなく過ごせると信じている。

この1年で、いくつのバブルがはじけるのか?

WSJ JANUARY 8, 2011

Developing Nations Fight Inflation

Price Jumps, Especially on Food, Threaten Growth Engines ; A Contrast With West

By ALEX FRANGOS, JOHN LYONS And VIBHUTI AGARWAL

FT January 9 2011

Tensions rise in currency wars

By Alan Beattie in Washington

FT January 10 2011

Inflation: A high price to pay

発展途上諸国や新興諸国におけるインフレ抑制、為替レートの急激な増価や通貨戦争、資本規制、などについて、従来の合意は失われ、論争が起きています。


FP JANUARY 5, 2011

Remembering Samuel Huntington

BY FAREED ZAKARIA

Huntingtonと言えば、保守派の、WASPの、アメリカによる軍事介入を支持する政治的知識人を思い浮かべます。そして、そうだ、と書いてあります。面白いのは、社会科学とは何か、という姿勢と、FAREED ZAKARIAのような後の世代を育てた個性です。

「社会科学は二つの大きな変数を結びつける。従属変数と独立変数として。」・・・「説明するべき何か重大なことから始める必要がある。しかも、もしフランス革命を取り上げるなら、それを説明する強力な理由を示すべきだ。19の理由を挙げても誰も注目しない。」

「世界は複雑です、などと説明しても、そんなことは誰でも知っている。社会科学者の仕事は、それを抽出し、単純化し、重大な現象を説明する、単一、もしくは、二つの強力な要因がある、と彼らに示すことだ。」


SPIEGEL ONLINE 01/06/2011

Riding the Wave of Islamophobia

The German Geert Wilders

By Jochen-Martin Gutsch

WP Thursday, January 6, 2011

Is it time to reconsider birthright citizenship?

By Edward Schumacher-Matos

SPIEGEL ONLINE 01/13/2011

Illegal Immigration

Shutting the Back Door to Fortress Europe

By Manfred Ertel and Walter Mayr


FT January 6 2011

Sudan is a warning to all of Africa

By Mo Ibrahim

FP JANUARY 7, 2011

Making a Country

BY ROBERT KLITGAARD

FP JANUARY 7, 2011

Africa's Hour

BY JAMES TRAUB

NYT January 8, 2011

In Sudan, an Election and a Beginning

By BARACK OBAMA

NYT January 8, 2011

A Civil Ending to a Civil War

By MURITHI MUTIGA

The Observer, Sunday 9 January 2011

All of Africa celebrates to see this peaceful referendum

Thabo Mbeki

スーダン、象牙海岸、アフリカ連合、国際社会。国際的な圧力や選挙があっても、権力者を屈服させることは容易にできません。


l         グロ−バル・リバランス

FT January 6 2011

Look behind the myth of global imbalances

By Samuel Brittan

FT January 11 2011

East and west converge on a problem

By Martin Wolf

Samuel Brittanは、グローバル・りバランス論を批判します。国際収支のフン均衡は悪くない、と。巨額の黒字を累積する国は、それを投資しなければならず、資産を分散しなければなりません。ノルウェーが最初の政府系投資信託を設けた国であるように、こうした国は政治的な理由であれ、何であれ、効率的な形で国際投資を担うでしょう。

大収斂の時代を、Martin Wolfはさらに考察します。Ian Morris の研究(Why the West Rules – For Now)に従って、独立に農業革命が起きた東西の優位は所得水準で見て歴史的に交代してきた、と紹介します。西ローマ帝国が崩壊する以前は西が優れ、その後は18世紀まで東が優れて、近代の西側の優位が続きました。しかし21世紀に向けて、新しい交代(東の優位)が起きつつあるのです。

「社会の発展」は、1.エネルギー利用、2.都市化、3.軍事力、4.情報技術、によって実現します。エネルギーとアイデアがわれわれの文明の基礎にあるのです。この二つの面で東は西側を追い上げてきました。東西の収斂は、たとえば、中国とインド、旧ソ連圏の世界市場への統合が開放型経済の労働者人口を倍増させ、未熟練労働者の賃金を低下させたことに示されます。また、中国とインドの成長が資源の価格を引き上げ、労働集約財の価格を引き下げた結果、資源輸出国の所得を増やし、他方、旧工業国の脱工業化を加速しています。

重要なことは、こうした市場における変化の多くがプラス・サムであることと、同時に、資源と国際政治の相対的パワーという二つの点ではゼロ・サムとなることです。後者における権力政治の側面を克服できなければ、マルサスの悪夢や、聖書の描く古来の災厄に似た、4つの不幸、気候変動、飢饉、破綻国家、移民・難民、疫病、がやって来るだろう、とIan Morrisは予想します。


FT January 6 2011

America: Riveting prospects

By Ed Crooks

アメリカ再工業化論です。金融ビジネスや債務による消費拡大に依拠した成長から、危機を経て、もっと製造業への投資や輸出による成長へと転換することをアメリカは願っています。

しかし、アメリカ製造業には難点(世界最大の国内市場に依拠してきた、貿易に対する用意がない、熟練・高度技術労働者の不足、新興諸国の追い上げ)もあり、製造業を重視する政策にはエコノミストの反対意見があります。なにより、アメリカの大企業が生産拠点をアメリカ国内ではなく、主要な成長の見込める新興市場に立地させることを選択します。

FT January 7 2011

Jobs data show America stuck in low gear

By Mohamed El-Erian


l         インドの金ぴか時代

FT January 6 2011

It is time for India to rein in its robber barons

By Jayant Sinha and Ashutosh Varshney

インドの経済ブームはアメリカの「金ぴか時代」Gilded Age (1865-1900)を再現している。1901年に大統領になったセオドア・ルーズベルトによれば、それは強欲な新興資本家たちが不当に繁栄し、支配する、政治にも産業にも腐敗が満ちた、不健全な状態であった。

インドとの共通点として、この記事は4つを挙げる。1.急激な都市化。2.騒がしい、参加型の民主主義に変わる。インドでも下位カーストの政治的覚醒が起きている。3.カーネギー、ヴァンダービルド、ロックフェラー、モルガンなど、超産業・資産家の誕生。インドの超資産家たちはGDP5分の1を得ており、それに匹敵するのはロシアだけだ。4.アメリカの金ぴか時代と同じく、インドでも彼らが自分たちに有利な市場を作っている。そのための三つの道具は、自然資源、有利な規制、外国からの競争者の排除、である。

それは政治家の協力、あるいは共謀を育てる。19世紀のアメリカには選挙の集票マシーンを支配するボスが登場した。現代のインドでも、携帯電話の周波数使用許可に莫大な利益が生じ、それは政府の財源にならず民間に渡った。パワー・権力に近付くことで、大臣の家族や政府官庁のトップは、その党派に関わらず、土地や住宅を市場価格より大幅に安く不当に購入し、有力な産業支配層が鉱山の採掘権を手に入れた。「成長とともに、インドの道徳世界は委縮しつつある」と、ソニア・ガンジーは述べた。

金ぴか時代の後、アメリカは20世紀にはいって進歩主義の時代が来る。政治浄化、腐敗に対する超党派の闘い、より正直なビジネス慣行が尊重され、社会事業活動が盛んになった。インドはどうだろうか? 政党や中産階級の腐敗追及、社会事業活動が重要になるか? より透明な入札制度の導入や、富を地区制下資産家たちの正当性をめぐる考え方が問われている。

WSJ JANUARY 13, 2011

India's Political Elites Close Ranks

ソニア。ガンジーが唱えた改善策は、選挙資金の国家補助です。WSJは、インドのビジネスが政治に関与することではなく、政治がビジネスに介入することが問題だ、と主張します。


l         中国の金ぴか時代

FP JANUARY 7, 2011

This Week at War: Gates's China Syndrome

BY ROBERT HADDICK

YaleGlobal , 7 January 2011

A Tale of Two Ports

Christophe Jaffrelot

NYT January 8, 2011

China Rises, and Checkmates

By NICHOLAS D. KRISTOF

中国の台頭を象徴する人物、Hou Yifanについて。

ナポレオンの有名な言葉、「中国が目覚めれば、世界を震撼させるだろう。」というのは正しい。チェス、バスケットボール、レアメタル、サイバー・ウォー、宇宙開発、核技術、など、かつて中国が世界と切り離されていた分野に参入するや、世界が震撼したのだ。

Hou Yifanも、16歳の少女だが、世界のチェス・チャンピオンになった。中国の台頭は、人によっては人民元を捜査した結果であるというが、そうではないだろう。中国は多くの分野で優れた人材に投資し、成功している。しかも、おそらく儒教の伝統により、人々は教育や才能を磨くことに非常に熱心だ。すなわち、「刻苦勉励」を尊ぶ文化がある。

その上、中国は「男尊女卑」の社会を脱し、女性たちに大きな機会を与えようとしている。それらはアメリカ社会への教訓だ。

FT January 9 2011

The world should not fear a growing China

By Li Keqiang

台頭する中国を長折れることは無い。苦しい労働の後の満足は、休息と平和をもたらす。それは中国にも世界にも言えることだ。

WP Monday, January 10, 2011

Patching up our alliance with Japan

By Fred Hiatt

「オバマ政権が始めて見たアジアには、大きな機会を提供する中国と、管理するべき問題である韓国、そして、せいぜい良くて、衰退する同盟国である日本が、当然のように存在した。」

2年経って、韓国は改善され、オバマのアジアにおける最良の友人になった。中国は失望に変わり、日本は後知恵から頭痛のタネに、そして少なくとも、再び有益な同盟国になった。」

FT January 10 2011

Rising wages will burst China’s bubble

By Peter Tasker

周恩来が「フランス革命を評価するのは、まだ、早すぎる」と述べたように、世界金融危機の後に誰が生き残るのか、まだ分かりません。中国が勝者で、アメリカとG7が敗者、と決まったわけではないのです。

実際、上海の株価は最高値の半分しかなく、収益率はBRICsの中で最低だ。驚くことに、20078月の危機以後、ドルで見た収益率は、中国の株がアメリカやイギリスの株より低く、日本の株よりもまだ低い。これは何を意味するのか?

Peter Taskerは断言します。「世界中に余りにも巧妙に売り込まれた中国の成功物語は、南海泡沫事件からドットコム・バブルの熱病にまで至る、「新時代」思考の単なるニュー・バージョンである。」 中国の株価はまだ高すぎるし、中国の資本分配率は高く、労働分配率はあまりにも低い。この関係は、今後、逆転していくだろう、と。

なぜそう言えるのか? 40年前、1960年代の日本がそうだったからです。そして、その後の変化を中国もたどるとすれば、労働争議とインフレを抑えるために、中国は極端な金融緩和を改めるでしょう。それは急速な成長率の低下と人民元の増価を招くのです。もちろん、これらは共産党政府が最も嫌っている二つの変化です。

その結末を評価するのは早すぎるでしょう。

NYT January 10, 2011

Not So Cheap for China

(chinadaily.com.cn) 2011-01-11

Asia in the balance

By Joseph Nye

中国とインドは同盟して国際秩序を作り変えるだろうか?

アメリカ、イギリス、フランスはインドを訪問し、国連常任理事国として支持する旨、伝えた。しかし、中国の胡錦濤主席が訪問したけれど、この問題は言及しなかった。

中国とインドは、将来、アメリカと並んで三つの大国になるかもしれません。しかし、当面、インドが中国の経済力に並ぶ可能性はなく、両国間の国境紛争とともに、インドは中国を戦略的な敵対国と見なすでしょう。

WSJ JANUARY 11, 2011

The $6.50 Trade War

米中貿易摩擦は、共和党の支配する新しい議会において高まるでしょう。しかし、アップルの178.96ドルの iPhone を組み立てる中国の工場は、そのうちのわずか6.50ドルしか価値を追加していません。ごろーバル・サプライ・チェーンがアメリカの貿易赤字を増やすのです。

ところが、アメリカの統計は178.96ドルを中国からの輸入額として計算しています。

Jan. 12 (Bloomberg)

World’s ATMs Pump Billions Into Wrong Places

William Pesek

世界は逆さまになっている。なぜヨーロッパは、発展途上国である中国や、経済の衰退する日本に資本を分けてもらわなければならないのか? 中国は貧しい国民のために、日本はデフレ解消のために、自分で消費するべきだろう。

日本は、中国がヨーロッパ救済に投資すると聞いて、自分も戦略的に投資しようと考えたのだ。そもそもヨーロッパへの投資は安全か? 中国は新興勢力へのパワーシフトを示し、日本は国内債務累積の終末を意味する。もっと自分たちのために使うべきだが。

FT January 12 2011

List of US concerns with China grows

By Alan Beattie in Washington

WSJ JANUARY 12, 2011

New Move to Make Yuan a Global Currency

By LINGLING WEI

WP Thursday, January 13, 2011

Political reform: China's next modernization?

By Daniel Twining

世界第二の経済規模、二桁の成長率、軍備の近代化、国境を超える影響力拡大、世界最大の鉄鋼生産量、世界最大の自動車市場、世界最大の消費と輸出。中国の成長は誰にも止めることができないように見える。しかもそれは、国際情勢におけるアメリカの影響力を失わせる、権威主義体制による経済発展モデルを広めている。

しかし、中国の成長もすぐに限界を知るだろう。高齢化、資源の枯渇、環境破壊、そして中国の台頭を恐れる周辺諸国。特に、中国の政治モデルこそが、その経済の近代化を妨げる、ということこそ重要だ。

増大する社会的不平等、法の平等に向けた民衆の要求、汚職や腐敗への不満。政府はそれが共産党支配の正当性を脅かすことを知っている。中国は政治体制と経済発展の関係について、逆立ちした理解を変えなければならない。

すでにWen Jiabao首相など、官僚たちの一部から、近代化のために、革新を促す政治の開放、より広範な社会福祉、市場の基礎を強化する制度、を求める声が上がっている。中国人民銀行の幹部、Yu Yongdingも、将来世代のために、中国のアキレス腱である政治改革を進めて、政府幹部とビジネスエリートとの「汚れた同盟関係」を終わらせるべきだ、と主張した。

胡錦濤主席のアメリカ訪問において、オバマ政権は中国の政策に普遍的な価値を要求するのをためらうべきではない。自由や法の支配を実現することは、中国人民の利益であり、21世紀の世界秩序のためになる。それを促すために、アメリカは中国との人的交流を強め、メディア、労働者の権利、地方選挙を助けるだろう。アメリカは興隆するインドやインドネシアとの関係を深め、アジアの民主主義運動家と協力して政治改革を進めるだろう。

中国の多くの作家たちがLiu Xiaoboの解放を求めたように、世界において積極的な、責任ある役割を果たす「偉大な国」を目指すとは、そういうことだ。

WSJ JANUARY 13, 2011

China Loosens Yuan's Overseas Limits

By SHEN HONG


l         ギフォーズ議員銃撃事件

guardian.co.uk, Sunday 9 January 2011

In the US, where hate rules at the ballot box, this tragedy has been coming for a long time

Michael Tomasky

ガブリエル・ギフォーズGabrielle Giffords銃撃事件に関して、Michael Tomasky保守派の政治家たちが多用するようになった「暴力表現」を批判します。

「銃はアメリカの右派にとって余りにも重要な神話である。それは独裁者から自由を守るのは銃口だけだ、という信念だ。アメリカの右派が武装反乱について語るのをやめるのは、アメリカのリベラル派が人種やジェンダーを語らないのと同じくらい、ありえない。それは保守派のDNAに組み込まれている。」

「現代のアメリカ保守主義は、われわれの政府は独裁政治だ、という愚かしい狂信にまったく取りつかれている。」

右派の神話を、共和党は選挙運動の中心に据えてしまった。「人々にリベラルを憎ませよう。彼らが単にリベラル派がこの国にとって間違った考え方だ思うだけでなく、リベラル派はこの国を軽蔑しており、アメリカの没落を積極的に早めている、と思うように仕向けるのだ。進歩主義は単に無価値で危険なものであるだけでなく、「邪悪」であり「この国にとっての癌」なのだ、と言え。恐怖や不安によって人々を投票所へ行かすのだ。」

NYT January 9, 2011

Climate of Hate

By PAUL KRUGMAN

この惨劇は予想されたことでした。PAUL KRUGMANは、このような銃撃事件を2008年の大統領選挙以来、ずっと恐れていたのです。1992年、クリントンの大統領選挙でも、右派の言動はオクラホマ・シティの爆弾テロに至る風潮を準備した。マッケインとペイリンの選挙運動に集まる群衆の中に、右派の同じ風潮が強まっていた。国土安全保障省も極右の台頭を警告した。

「民主主義には、人々が自分と意見の違う者たちを嘲笑し、罵声を浴びせる余地がある。しかし、敵をせん滅するような表現、議論の相手側をいかなる手段でも使って議論から排除してしまおうと示唆することは許されない。」 われわれの政治表現を満たす、特に、電波放送にあふれるせん滅主義の表現こそ、暴力事件の増勢を支えている。

NYT January 9, 2011

Tombstone Politics

By TIMOTHY EGAN

「われわれはサラ・ペイリンの標的リストに載っている。」と、ギフォーズは述べていた。「(銃撃の照準を示す)十字の電子線がわれわれの選挙区の上にある。そのような行為は、重大な結果をもたらすことを理解しておかねばならない。」

・・・ユダヤ人だから? 女性だから? 民主党員? 政治家? 医療保険制度を支持したから? 反政府の機運が強まる州で政府を代表する人物? 本当の理由は分からない。

FT January 10 2011

Paranoia disfigures the Tea Party

By Gideon Rachman

NYT January 10, 2011

The Politicized Mind

By DAVID BROOKS

NYT January 10, 2011

A Flood Tide of Murder

By BOB HERBERT

WP Monday, January 10, 2011;

Gabby Giffords, a tragic prophet

By E.J. Dionne Jr.

FT January 11 2011

Drawing the poison from America’s politics

By Jacob Weisberg

オバマはこの惨劇を国民がどのように受け取るべきか、その演説の調子を通じて、この1年の政治交渉過程を準備する機会を得た。

オバマは明らかに19954月のオクラホマ・シティにおける爆破テロをクリントン大統領がどのように扱ったかを学んでいるだろう。その事件は168人の無辜の市民を犠牲にした。

当時のクリントンと今のオバマとは驚くほどよく似た状況にある。クリントンは国民健康保険制度の導入を試みて議会で共和党に攻撃された。そして実際以上にリベラルとして非難され、議会の多数派を失ったときだった。クリントンは「三角測量」戦略で、自分を中道派として演出し直した。そして予想に反して、あるときは共和党と組み、またあるときは共和党に逆らって、多くの成果を上げたのだ。

オバマは同じ戦略を採用する。次の一般教書演説も含めて、ギフォーズがそうであったように、オバマも中道派の方針を示すだろう。財政赤字削減、税制改革、教育や意味に関して穏健な改革案を示す。さらに重要なことは、次の大統領選挙を目指すゼロ・サム戦略を取るよりも、両党が協力することで多くを得られる、と示せるだろう。

Jan. 11 (Bloomberg)

Arizona Massacre Must Mark End of Hate-Talk Era

Amity Shlaes

guardian.co.uk, Tuesday 11 January 2011

Sarah Palin's presidential hopes surely can't survive this assassin's bullet

Jonathan Freedland

WP Tuesday, January 11, 2011;

America, armed and dangerous

By Richard Cohen

Jan. 11 (Bloomberg)

Shots Give Obama Chance to Make Better Nation

Michael Waldman

NYT January 12, 2011

As We Mourn

オバマには惨劇に傷ついた国民の気持ちを癒す責任がある。亡くなった者たちの人生に焦点を当て、殺戮を止めるために戦った人々、犠牲者たちを救おうとした人々の献身を称えた。

方向を変えるべきだ。なぜなら「単に市民としての道義をわれわれが欠いていたから悲劇が起きたのではなく、むしろ唯一、市民の道義に従う、正直な公共の対話だけが、われわれ国民の挑戦に応じられるから。」

おまえはこの国を愛していない、などと非難されることなく、他者の意見に反対することができる国であってほしい。

WP Wednesday, January 12, 2011;

Dangerous outcomes from a culture of paranoia

By Harold Meyerson

guardian.co.uk, Thursday 13 January 2011

Barack Obama's Tucson speech rose to the moment and transcended it

Jonathan Freedland


FP JANUARY 10, 2011

The Great Food Crisis of 2011

BY LESTER BROWN

世界各地で、食糧価格は上昇し、食糧輸入が増え、インフレや暴動を刺激し、海外の耕地を探し求め、先物価格も上昇しています。

LESTER BROWNは、その長期的な理由を挙げます。需要面では、世界人口が増加し続け、穀物を食べる家禽や牛、豚の飼育が増え、穀物から燃料を作るアメリカの政策が大規模な新しい需要をもたらした。

供給面では、土壌の浸食が加速し、考察を放棄して都市に移住する農民が増え、灌漑されていた農地が減り、農業技術の改善が限界に達し、都市が急速に拡大し、水の利用を支配し、気温が上昇し、氷河が溶けている。

温暖化の防止にもっと投資し、水利用を効率化し、土壌を保存し、世界人口を安定化しなければならない。


l         北朝鮮

YaleGlobal , 10 January 2011

Dealing With Nuclear North Korea

Bennett Ramberg

WSJ JANUARY 12, 2011

North Korea's Imminent Threat

By BRUCE KLINGNER

核保有した北朝鮮を国家として承認し、外交関係を通じて経済的に関与を強めれば、その統治能力を改善できる、という意見があります。それは世界中の独裁者に核拡散を促す、と反対する者もいます。

北朝鮮がさらに長距離の大陸間弾道弾ミサイルの開発に成功すれば、アメリカの戦略が変わります。アメリカが日本(集団防衛を認めていないが)や韓国と協力して、地域のミサイル防衛網を築くべきだ、とBRUCE KLINGNERは考えます。


l         グローバル・ガバナンス

FP JANUARY/FEBRUARY 2011

Running the World, After the Crash

BY RICHARD SAMANS, KLAUS SCHWAB, MARK MALLOCH-BROWN

国際協調は、その始まりを見る前に、すでに行き詰まったのか? 温暖化、自由貿易、核拡散、国連改革、マクロ経済のグローバルな均衡回復、開発融資、など。

相互連結され、相互依存した世界の現実と、既存のガバナンスがもたらす分断状態とは、世界金融危機後の改革を制約しています。クリントン政権の政策立案や、ダヴォスの世界経済フォーラム、国連事務総長を補佐したスタッフたちが今後の展望を示します。すなわち、

・・・近代の国際システムは三つの構成要素からなる。国民国家、大国の同盟、国際機関・国連、である。国民国家が消えることは無いが、国家以外の主体が重要になっている。グローバルな問題を解決するグローバルな信頼を、国民国家は十分に担保できない。それゆえ、国際システムはこれら三つの構造的関係を見直す必要がある。

国際協調のためには、高度なレベルの政治的関与・目標設定が必要だ。指導者たち自身がその政治家としての信用を賭けて宣言を持ちかえるべきだ。実行可能で、重要な分野を見出し、情報を共有するメカニズムがなければならない。こうした専門領域を横断する、他次元の接近方法を実現するうえで、G20は様々な問題の焦点となることができる。・・・

そして、ダンバートン・オークス会談とブレトンウッズ会議によって国際秩序を築いた1944年の指導者たちと、ヴェルサイユ条約と国際連盟の実現において歴史的な教訓を学べなかった1919年の指導者たちを比較します。国際安全保障と経済アーキテクチャーの構築において重要な役割を果たしたのは、諸政府、諸機関の専門スタッフたちでした。彼らは高度な知性と非公式な性格のチームにおいて新しい構想を生み出し、それが後に公式の制度や政府の政策を動かしました。

「諸政府がまだ戦争の遂行に忙殺されているときから、すでに彼らはその政府や学術研究や実業における知識と経験を持ちより、戦前の国際協力が失敗したことから教訓を学び、新しい、より頑健な、国際安全保障と国際経済機構の設計を議論し続けたのである。」

FT January 11 2011

Only global action can curb bonuses

Philip Augar

(chinadaily.com.cn) 2011-01-11

New rules for the global economy

By Dani Rodrik

もう一度、ブレトンウッズ会議が開かれたら、彼らはどんな国際経済秩序を21世紀に向けて合意するだろうか? 世界経済全体の健全性を重視するなら、以下のような教訓が重要だ。

1.市場はガバナンスのシステムに深く埋め込むべきだ。市場は社会制度によって支えられている。裁判所、法律、規制・監督当局。中央銀行や、景気変動を緩和する財政支出も必要だ。再分配のための課税、セーフティー・ネット、社会保険制度。こうした者はすべてグローバルな市場にも必要だ。

2.予想される将来において、民主的ガバナンスは国民的な政治的共同体の中で概ね組織されるだろう。各国の民主的なガバナンスを支持することにより、それを挫くのではなく、グローバリゼーションの効率と正当性は高められる。

3.各国におけるグローバルエコノミーのインフラは多様性が認められるべきだ。各国はそれに最もふさわしい制度を民主的に選択できる。

4.すべての国が、自分たちの規制や制度を保護する権利をもつ。グローバリゼーションがそれを奪うべきではない。それゆえ、課税制度や金融規制、労働基準、健康や衛生、などのルールは維持され、必要なら障壁を設けることができる。それがグローバリゼーションの過程を妨げることで富を減らすという場合、時間とともに支持されなくなるだろう。障壁にもかかわらず繁栄するなら、社会的価値を守ることができる。その判断は公的な討論に委ねるべきだ。

5.いかなる国にも、自分たちの制度を他国に押し付ける権利は無い。

6.国際経済制度は、各国の制度間で生じる相互作用を管理しなければならない。ブレトンウッズ体制は、各国の範囲や深度(scope and depth)を制限した。さまざまなサイズ、形、スピードの車が走る道路で、たった一つの自動車とスピードを強制するのではなく、異なった自動車が安全に走れるような交通規則を定めて、誘導するのである。各国の制度の多様性を維持することと両立可能な、グローバリゼーションの速度を最大にするべきだ。

7.非民主的な諸国は、民主的な諸国と同じ権利や特権を持たない。その制度は市民たちの好みを反映していない。非民主的な諸国が従うルールは異なっており、より制限されている。

要約すれば、「グローバリゼーションは、過度に実現されないとき、最もうまく機能する。」

guardian.co.uk, Wednesday 12 January 2011

We've seen America's vitriol. Now let's salute Wikipedia, a US pioneer of global civility

Timothy Garton Ash

Wikipediaが誕生から10年経ちました。毎月の利用者は4億人です。そこには1700項目の解説が並び、270カ国語以上で利用できます。それを書いて、校正するのは、ほとんどが無報酬のボランティアです。

他方、Facebookは営利目的の利用で莫大な資本をもたらしました。シリコンバレーのGoogleも超資本家の城塞です。その幹部たちは、あるときは国連事務総長のように人権を語り、またあるときは自動車会社のセールスマンのように新製品を宣伝します。

Wikipediaは、営利活動を選択せず、国家を否定するジョン・レノンの理想主義を継承しました。インターネットの悪罵の末に、議員を銃撃するアメリカ文化の中でも、こうした理想、知識、市民的価値が拡大していることを、Timothy Garton Ashは祝福します。

FT January 12 2011

Tax havens: In a sea of troubles

By Michael Peel

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The Economist January 1st 2011

Please, not again

India and Kashmir: K is for complacency

Thailand’s red-shirt opposition: Beware the watermelons

Economics focus: Parallel economies

Buttonwood: In a spin

Charlemagne: Baltic bet

(コメント) 意外と面白い記事が多くありました。中東和平の行き詰まりを憂慮する記事も、インドのカシミール地方に大幅な自治を与える提案も、タイの政権が農民たちとの政治対立を克服できていないと指摘する記事も、考えさせる重い内容があります。

朝鮮半島の南北統一を扱った記事は、特に目新しい内容はありませんが、東西ドイツ再統一との比較を整理しています。より貧しく、より人口の多い北を南が吸収するためには、その後の財政移転や移民がどうなるのか、ドイツを基礎に計算します。

そのうえで、中国だけが成功裏に体制移行を実現しつつある、として、朝鮮半島統一のモデルとしています。すなわち、中欧計画型の管理を基本的な生活財に残したまま、市場自由化を少しずつ進めるのです。それは、すでに生産性ギャップや低賃金に注目した中国企業・韓国企業の北朝鮮進出において始まっているとさえ考えます。

世界経済の底に流れる緊張と不安は去りません。主要諸国の中央銀行が金融緩和によって市場の崩壊を押し戻しているに過ぎず、長期に及ぶなら、必ず大災害をもたらします。ECBが支えるユーロ圏の財政破綻も解決策は何ら合意を得ていません。アメリカの金融緩和が続けば、国際商品価格は上昇し、新興市場のインフレや通貨政策の対立、資本規制が避けられません。世界経済の成長を支えると期待される中国やアジアも、それ自体、こうした不均衡の一部なのです。どれほど政策的な支援が繰り返されても「重力の法則」には逆らえない、とButtonwoodは結びます。

アジアからヨーロッパに目を転じれば、バルチック諸国の記事が興味深いです。エストニアの貨幣博物館を見ればわかるように、小国としてドイツに侵略され、ロシアに侵略され、短い独立の期間を捨てて、ユーロ圏への厳しい参加を自ら準備しています。エストニアの示す成果は二つです。1.貧しい、ソ連邦から分離した、人口の減少する小国の移行経済が、強大なドイツ経済と事実上の通貨同盟を結んできたが、生き延びただけでなく、繁栄を実現した。2.大胆な緊縮財政によって、たとえ不況を経たとしても、財政を再建した。

しかし、他の財政破綻に近い諸国がエストニアをまねることはできないでしょう。そして独仏の示す解決策より、中国が債券を購入してくれることに期待します。


The Economist January 1st 2011

Information technology goes global: Tanks in the cloud

Online dating: Love at first byte

Alibaba: China’s king of e-commerce

(コメント) いずれもインターネットに関わる記事です。クラウド・コンピューティングの世界はまだ雲の中ですが、ウィンドーズやインターネットの技術変化に縛られた農奴のような私たちには新しい空気となりそうです。

他方、インターネットによる交際相手の検索、紹介システムは、アリババが中国を変身させる世界市場への衝撃と同様に、伝統的な婚姻制度や精神世界を激変させるかもしれません。