今週のReview
12/27-1/1
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IPEの想像力 12/27/10
コラムを集めるのも、本を読むのも、精神の体操、あるいは、冒険です。
クリスマスからお正月にかけて、今年の重大事件や芸能界・政界の異変、ゴシップ、スキャンダルが毎晩のように放映されます。しかし世界には、働きたくても仕事がなく、家もない人たちが、多くいる、というのです。まるで、トマス・モアが『ユートピア』で書いたような。
「土地を追われた農民たちは放浪し,家具を売り払ったわずかな金も尽きると,盗みをやって絞首刑にされるか,物乞いをして牢獄にぶち込まれる.彼らが自分たちの労働をいくら熱心に提供しても,誰もそれを用いようとはしない.」
NHK「就職難をぶっとばせ!」を観ました。期待したような鋭さや踏み込みを欠いた、視聴者参加型の番組でしたが、こんな提案をしていました。
提案@ 「就職時期を広げる。」 卒業時に就職機会が集中している。混雑回避型の、高速道路あるいは都心部の渋滞解消策が必要だ。
提案A 「企業の解雇を弾力化する。」 中の人がなかなか出ないから新しい人が入れない。公衆電話やトイレのように、時間制限をつける。
提案B 「伸びる中小企業を見つける。」 少数の優良企業だけに就職の目標を絞り過ぎている。名前を知らなくても優秀な企業はいっぱいある。ミスマッチの解消を支援する。
提案C 「増税してでも、社会保障の充実で転職や再訓練・雇用を支援する。」 オランダや北欧のように、セーフティー・ネット論とそれを受け入れる共同体意識の復権。
提案D 「教育システムのミスマッチを解消する。」 進学率50%! こんなに多くの大学生は要らない。どうして営業学部や営業大学が無いのか?
いずれも、うまくすれば、失業率を低下させるかもしれません。しかし、日本経済のデフレや、中国への工場移転を止められるでしょうか? 社会変化が全体として好循環を作り出すような、政治的意志の形成を、まだ、日本は欠いています。
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朝日新聞の特集記事、「孤族の国」を読みながら、年の瀬を迎えるのは何とも恐ろしい、悲しい気分です。
61歳、タオルで首をつって自殺した、木材加工の仕事をしていたAさん。58歳、助け合って生きる、ブラジルから来た日系人のBさん。55歳、元編集者のCさん。40歳、元出版社員のDさん。31歳、大学院卒、元塾講師のEさん。22歳、アニメ・ゲーム制作を目指したが、今は生活保護を受けているFさん。さまざまな年齢や経歴の人を取り上げた記事は、仕事が容易に得られない今の日本社会の深刻さを示すものです。
いろいろな人が、その夢や個性を否定することなく、働く場を見つけてほしい、と思います。どうすればそれができるのか? 市場で競争する限り、賃金引き上げや長期・正規雇用の促進という社会的な目標を、個別企業は支持しない・できないでしょう。職場において、必要な技能やチーム・ワークを育てることなく、必要なとき、必要な人を外部から調達する、ということが許されるなら、誰も中高齢者を雇わないし、誰も経験のない転職者や就職浪人を雇わないし、誰もさまざまな手当を支払い、解雇しにくい、組合に加入するような正規労働者を雇わない。要するに、日本で新しく投資することはないでしょう。
ロナルド・ドーアの『働くということ:グローバル化と労働の新しい意味』を思い出します。
1.「ほとんどの先進工業社会には、幸運な人びとと不運な人々がいます。もっとも能力があって、希少な技能を身に付けている、人口の30%かそこらの人々は、週60時間かそれ以上働いています。彼らの「労働」の内実は、問題解決、自己表現、エゴの主張など、チャンスにあふれた楽しい活動なのです。その一方で、一番不運であるか、学習能力とエネルギーに恵まれていない30%の人々は、お金のため以外にはだれもしようと思わないような仕事を次々と渡り歩きながら、ついにはあぶれて、まったく働かなくなることがしばしばです。」
2.「機械が人間に代わってたくさん考えてくれるようになったにもかかわらず、高度の頭脳をもつ人間が難しい勉強を何年かしてやっとこなせるような仕事も着々と増えているのです。そのような仕事ができる頭のよさがだんだん希少性の高い財産になってきます。・・・そして機械が物理的に骨の折れる作業や、単純な繰り返しの事務作業をなくしてくれるにつれて、だれでも習おうとすればできる仕事の数も同時に減っていきます。」
このような二極化した労働は、技術変化や国際競争によって、そして、社会的な合意を弱めた政治的共同体の破壊によって、急速に世界的規模で広まっています。
3.「面白くてやりがいのある、収入もよい仕事を見つけることができる幸運な人たちは、レーザーワイヤーや高度な電子機器に守られながら、犯罪だらけの危険な世界から隔絶された平和な孤島で暮らすことに満足するのだろうか。それとも、世の中が荒れていく可能性を見通して、平等と兄弟愛の重要さを再発見するのだろうか。さらに、自分たちの収入や暮らしが今より落ちることになっても、所得を再分配するような税制・福祉体制を受け入れるのだろうか。」
ドーアは、豊かな社会では、能力による仕事の配分を乗り越えるように求めています。そのほうが社会として幸せであり、また、全体としての協調や革新をもたらす社会的な友愛の感情が育つからです。
(山森先生がドーアを同志社大学に読んでくれたときの「ベーシック・インカム・シンポジウム」の紹介も見てください。 「IPEの風 11/16/09」 )
http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/ipe_notes_2009/111609note.htm
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これはおそらく、ハロルド・ジェイムズ『アメリカ<帝国>の苦境:国際秩序のルールをどう創るのか』やドミニク・リーベン『帝国の興亡』が、グローバリゼーションの時代において再現するのを見た「帝国のジレンマ」です。それは、「広大な領域と多種多様な人間たちに共通の価値体系を維持させるのは、根本的に無理がある」ということ、公正さや分配に対する政治的介入、帝国と共同体の問題、を示しているからです。
伝統的な共同体を破壊しながら、なおも政治的な秩序の安定性を維持するために形成された「市民社会」やその政治的理想は、各地で異なった資本主義システムを育てました。急速なグローバル化の中で、その社会的理想が崩壊してしまったのです。金融危機と不況が襲ったことで、それを見直すきっかけになるかどうか。それぞれの社会の政治的意志が問われています。
ある意味で、理想的なアメリカ大統領の良い面を描いた「ザ・ホワイトハウス “The West Wing” 」で、特に印象に残ったのは、大統領の演説を若い補佐官が書いていたことです。今年は、ジョン・F・ケネディー大統領の演説を書いたセオドア・ソレンセンが亡くなりました。
選挙に向けたマニフェストや国会における党首討論も良いけれど、毎年、定期的に各政党が自分たちの理念や姿勢を具体的に示すことが重要です。
各党は若い数名のチームを組んで、日本社会の各地、各方面で、さまざまな境遇にある人を訪ね、政治がなすべきことを発見します。そして党首や執行部と話し合いを重ね、国民に示す方針と演説を作成してください。各党が、日本社会の現状、経済の問題点と打開策、将来の国際秩序に占める日本の役割、を国民に訴えます。
1月末に、年頭教書演説。
4月半ばに、経済戦略。
10月初めに、国際秩序構想。
日本中の人々が、たとえ非常な孤独や絶望に負けそうになっている人でも、その演説を聞いて、自分たちのことを政治はよく理解してくれている、と感じる時代が来てほしいです。
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北朝鮮との対話 ・・・中国の吐息 ・・・政治家、トニー・ブレア ・・・多極化する世界 ・・・ユーロ危機とドイツ ・・・インドの理解 ・・・理想主義と国際秩序 ・・・多文化主義と移民労働者 ・・・ベラルーシの独裁者 ・・・化粧品と防衛政策
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主要な出典 Bloomberg, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, The Times, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia
l 北朝鮮との対話
FP DECEMBER 16, 2010
How to Stop the Next Korean War
BY ANDREI LANKOV
北朝鮮からの攻撃に対して、韓国市民の80%が軍事的な報復を求めている。3か月前の調査では、哨戒艇の撃沈に対して軍事的な対抗策を支持したのが30%だった。
韓国は、過去数十年間、北からの軍事攻撃に対して、何もしないで耐える、という選択肢しかなかった。人口の約半分、2400万人が首都ソウルに居住し、北朝鮮の射程に十分入っている。韓国経済は高度に発達し、それゆえ、脆弱なインフラに依拠している。
Kim Jong Unの権力継承に成果をほしがっている北朝鮮は、もうすぐ、何かをするだろう。しかし、韓国の政府・軍は服従する意志を持たない。軍事技術における優位は、最初の数時間で、北朝鮮の海軍力の半分を失わせるだろう。しかし、北朝鮮の体制を沈めることはできない。
多数の兵士を失っても、北朝鮮のエリートたちは戦争を続ける能力がある。百万人が飢餓に陥ったという1990年代の飢饉でも反乱は起きなかった。メディアも統制されており、軍事的な損害を国民には伝えない。他方、北朝鮮はソウルに対する数時間の攻撃で数千の犠牲者を出せる。朝鮮半島の軍事衝突が世界経済の回復を脅かすことも十分にありえる。限定的な報復合戦が続くだけでも、投資家は韓国を避けるだろう。
だから、韓国の世論を信じてはいけない。軍事的報復への支持は、数時間で、報復を認めた政府への批判に変わるだろう。北朝鮮は、こうして脅迫の効果を実証するのだ。
韓国による報復は、迅速で、しかも小規模な、シンボリックなものに限られるべきだ。
FT December 21 2010
Why North Korea will inevitably strike again
Andrei Lankov
LAT December 23, 2010
Kim Jong Il: The boy who cried nuke?
By Bruce Klingner
この2年間、金正日の思ったようにはいかなかった。核実験がもたらした不安は、アメリカと韓国の政策を厳しいものにした。3回目の実験をしても、国際社会に与えるショックは小さくなり、核燃料を消費するだけだろう。「オオカミが来た」と何度も叫ぶのは愚かなことだと知るだろう。
・・・しかし、日本を巻き込めばどうなるでしょうか?
l 中国の吐息
FT December 16 2010
Indo-Chinese deal is good news
FT December 17 2010
China reveals aircraft carrier plans
By Kathrin Hille in Beijing
中国政府は、21世紀の課題に応えるため、航空母艦の建造を予告した。アメリカに対抗することはまだないとしても、記事は日本の防衛力増強と比較しています。中国の漁船は、ベトナム、マレーシア、日本との紛争海域で衝突を繰り返しています。
FT December 19 2010
Beijing must tackle economic challenges
By George Magnus
空母の建設計画や、国際政治における強硬姿勢は、中国経済の過熱を避けるマクロ経済管理と関係があります。
外国勢力(企業)の浸透やインフレーションは、グローバリゼーションの過程で多くの国を苦しめますが、中国にとって特に重要な意味があります。それは中国経済の構造を根本から変える対策を必要とするからです。「中国経済には二つのスピードしかない特急列車に似ている。すなわち、最大速度か、停止か。」
インフレを許す中国の通貨供給増大は、GDPの53%という貿易黒字の水準によって伸び続けています。これを大幅に低下させるには、政治経済の関心を輸出より消費に、都市より農村に、企業・政府部門も含めて、貯蓄より支出に、向けなければならない。それは共産党支配のスタイルにも及ぶ。
(China Daily) 2010-12-20
Japan's military ambition
中国は、日本の自衛隊や海上保安庁の増強を警戒します。歴史が示すように、中国の軍備は、侵略のためのものではなく、平和のために貢献している、と考えます。
(China Daily) 2010-12-20
East Asia calls for peace
By Li Wei
尖閣諸島問題に対して、日中の協議機関を設置するように求めています。
FT December 21 2010
China extends help to tackle euro crisis
By Jamil Anderlini in Beijing and Peter Spiegel in Brussels
中国は、その豊富な外貨準備を使って、また。ドル資産の為替リスクを抑えるために、ユーロ危機の対策・安定化(基金)に協力し、投資しようと考えています。
(chinadaily.com.cn) 2010-12-21
China to lead world into multipolar century
By Binod Singh
「ワシントン・コンセンサス」は死んだ。中国の台頭は世界政治の地殻変動である。一極世界から多極世界に移行した。
ところが、世界の旧支配国は「チャイナ・ショック」に対応できていない。アメリカは衰退し、中国とインドが「希望の土地」になる。中東でも、ラテンアメリカでも、アメリカは衰退し、急速に中国が影響力を増すだろう。
guardian.co.uk, Wednesday 22 December 2010
Is China's housing market heading for a crash?
Linda Yueh
中国は初めて金利を引き上げましたが、それでもまだ実質マイナス金利です。インフレ率は5.1%、預金金利は2.5%です。資本規制のために海外投資はできず、国内の金融市場は未発達で、人々は株式市場と不動産に投資します。
さらに、中国の高成長とインフレ、アメリカの遅い回復とデフレに近い経済の間で、為替レートを安定化する介入を続けています。しかも、中国のインフレは偏って進行しています。貿易財の価格は安く、非貿易財の価格は急激に上昇するからです。それは国内の所得分配を不平等にします。
中国には、アメリカの住宅バブルを刺激したように複雑な債務手段がありません。だから単純に住宅価格が下落するだけでしょう。しかし、中産階級が富を失い、社会不安が高まるでしょう。また、銀行の不良債権や金融不安が生じます。
その混乱をできるだけ抑えるために、金利を引き上げ、為替レートを弾力化し、資本規制を(徐々に)解除します。それは景気過熱やインフレを抑制し、他方で、人民元の急激な増価を抑えるような形で中国からの海外投資を増やすのが良いでしょう。
中国は、こうした点で、日本の経験から多くの学ぶのです。
(China Daily) 2010-12-22 08:06
DPRK at economic crossroads
By Jin Meihua
北朝鮮には1970年代後半や80年代には豊かな農業部門があった、という記事に驚きます。しかし、工業化や核開発に資源を奪われて、農業は疲弊します。
記事は、今年、北朝鮮は経済改革を進めて、コンピューターの利用や、輸出用の農産物を取り入れた、と述べ、ピョンヤンの生活改善を指摘します。ただし、開放型の経済に移行するには、まだ農業や軽工業の生産性が低い、と述べています。平和的な共存へ向けて、北朝鮮の経済改革が進むように、中国が支援・協力し、投資を引き寄せることだ、と考えます。
l 政治家、トニー・ブレア
FP DECEMBER 16, 2010
Tony Blair Looks Ahead
INTERVIEW BY ELIZABETH DICKINSON
イギリスの元首相、トニー・ブレアがインタビューに応えています。中東和平、新政権の緊縮策、世界金融危機。
2007年に特別大使となり、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、国連を代表して和平交渉にあたってきました。しかし、今や交渉には効果がない。この交渉は重要だ、本当に何事かが決まる、と双方が確信しなければなりません。交渉に信頼を付与する一つの方法は、イスラエルが入植を停止することだ、と応えています。
一方的な打開策は失望をもたらす。パレスチナ国家の独立をブラジルが承認しても、問題は解消しない。・・・
中東和平は、イランの核開発問題と結びついている、とブレアは強調します。「なぜなら、もしイランが核兵器を得たら、中東和平を阻止することができるから。」・・・これは、核兵器を得た北朝鮮を思わせます。
アメリカ政府にとって、イラクやアフガニスタンからの撤退と、イランの核開発阻止、中東和平の実現、そして北朝鮮問題や朝鮮半島情勢をめぐる中国との交渉は、やはり結びついているのでしょう。日本の役割は、その一部です。
FT December 16 2010
The perils of moral fervour in the Balkans
By Geoffrey Wheatcroft
トニー・ブレアの回顧録を読めば、彼が指摘されたような善悪の二元論を好むことが良く分かる。ブレアは、かつて、西側の政治指導者としてたった一人、コソボへの軍事介入を強く主張した。1999年4月のシカゴにおける演説で、「これは、いかなる領土を求めるものでもない、(共通の道義的)価値を求める、正義の戦争だ」と述べた。「われわれは邪悪なエスニック・クレンジングが行われるのを放置できない。」
この7月にコソボを訪問したブレアは、彼の名にちなんで名づけられた多くの子供たちに迎えられ、かつてのコソボ解放軍(KLA)指導者であり、現在の首相、Hashim Thaciに歓迎された。ブレアは自国において過小評価されているが、「コソボの歴史においてその役割は偉大な遺産となる。」
しかし、欧州評議会の調査がもし正しいとすれば、Hashim Thaci自身がマフィアのような犯罪組織を運営していた。ヘロインや覚せい剤の取引、人身売買を、暴力によって支配し、彼の軍隊は殺害したセルビア人の身体部品を販売していた、という。
1993年のモスタルで、有名な歴史遺産であった橋をふざけて破壊したのは、セルビア人ではなく、クロアチア人だった。1995年、ユーゴ内戦で最大規模のエスニック・クレンジングである、20万人以上のセルビア市民をKrajinaから連れ去ったのは、クロアチアの軍隊だった。しかし、和平交渉を進めるために、アメリカ国民はそれを知らされなかった。
オスカー・ワイルドの劇中人物が述べたように、真理はめったに「明白plain」ではないし、断じて「単純simple」ではない。歴史においては、「意図しない結果の法則」だけが真実だ。
l 多極化する世界
FT December 16 2010
On the way to a new global balance
By Philip Stephens
「長い間予想されてきた多極化した世界が、突如として到来したことを知った。2世紀に及ぶ西側のヘゲモニーは想像よりも早く終末を迎えた。」
来年の経済予測でも、中国、インド、ブラジル、トルコ、など、新興諸国の経済は8%を超える成長を示し、債務に苦しむ先進諸国は2%を超える成長を実現するのに苦しむ。世界は富裕諸国と新興諸国に分割されるのではなく、低成長圏と高成長圏に分割される。
中国とインドは強力な海軍を求めて競争を始めた。アメリカは唯一の超大国だが、WikiLeaksが示したように、常に国益を最優先し、しかも、劣った国に対しても思い通りの政策を押し付けることができなかった。
新興諸国は、国際的な責任を押し付けられないまま、大国の地位を望んでいる。中国は大人と同じ物理的な力を持ったことに気付いた思春期の子供である。インドは非同盟諸国の指導者というタイトルを失いたくない。トルコは東西の両方をにらみ、イスラム圏と欧米との統合に指導力を示したい。
ヨーロッパの苦境は政治に由来する。台頭するアジアに対抗しなければならないが、政治はまだベルリンの壁崩壊後の現実に動揺し続けているからだ。再統合し、より明確なナショナリズムを示すドイツはEUの政治的均衡になじまず、その枠組みの修正を求めている。しかし、イギリスの新首相は外交政策で歩み寄ることなど考えていない。
日本は、半永久的な自己否定に沈んでいるようだ。東シナ海において中国と衝突しても、3年間に5人も首相を代える国が東アジアの不安定性を抑える戦略的な決断に及ぶとは思えない。政治の椅子取りゲームに忙しい。ロシアも過去に囚われた国だ。慢性的な汚職、人口の減少、石油・炭素資源に依存した経済。イスラム過激派の脅威や、中国、インドとの領土紛争を抱える。
新しい政治地理学を、西側とそれ以外の対抗(a contest between the west and rest)、あるいは、西側の自由民主主義と東側の市場経済型専制国家との対抗、と描くのは怠慢だろう。インドが安保理の常任国になることを最も嫌っているのは中国とロシアだ。中国の軍事力拡大を最も懸念しているのはインドである。
安全保障や外交と違って、世界経済管理の展望をG20は示している。しかし、新興諸国が求めるのは国際的ルールや多国間の協調よりも、大国としての優位や主権である。相互依存の現実は変わらないが、それゆえ、西側の嘆きをよそに、将来の混乱は深まるしかない。
FP Friday, December 17, 2010
The zombie war in Afghanistan
Posted By Stephen M. Walt
アメリカはパキスタン内にまで武装勢力を掃討に向かい、他方、ドイツ軍はアフガニスタンからの撤退を開始するだろう。
アメリカは何のために中央アジアの戦争に深入りするのか? 批判論が広まっている。その理由は、政府が明確な見通しを示さず、そのコストとベネフィットに関する説明を避けていることだ。
アルカイダを掃討し、テロリストの「避難場所」を許さないことが、アメリカ政府の最大の目標だ。そのために財源と人命を費やしている。作戦の「成功」はそれに値するのか? この地域を放棄するコストは何か? 政府は答えなければならない。
特に、戦闘をパキスタンにまで拡大することは非常に問題だ。アフガニスタンのような長期の不安定化を拡大するかもしれない。1970年に、ニクソン大統領はベトコンの基地を掃討するためにカンボジアへの侵攻を決断した。
増派しても、戦闘を拡大しても、結果は満足できない。戦争の仕方を変えて、ミサイルや遠隔操作の無人偵察機を利用する。それでも戦争は拡大していく。カンボジアでは国家が崩壊し、クメールルージュが支配を広げた。
「今から数十年後に、歴史家たちはこの時代を振り返って不思議に思うだろう。アメリカはどうして大陸の奥地の国に、そのGNPはニューヨーク市の4分の1しかない土地で、政治的運命を決めた、長期の、費用のかかる戦争にはまり込んだのか? しかも、重大な金融崩壊を経験した後、財政赤字やマクロ経済の不均衡を続けていたときに。彼らは驚嘆して頭を振るだろう。」
WSJ DECEMBER 20, 2010
Let's Un-Surge in Afghanistan
By RICHARD N. HAASS
Stephen M. Waltの不満と一致した論説です。Petraeus将軍がより一層の物資や兵員を要求するのは戦場の指揮官として当然ですが、アメリカの安全保障上の脅威に対して限られた資源で応じるオバマ大統領はその要求を拒むべきときです。
「(アフガニスタンに)10万人に近いアメリカ兵が駐留し、今年だけでも500人近くが死亡した。負傷者はその10倍だ。納税者の負担は年間1000億〜1250億ドルに達する。アメリカの軍事・情報能力、内外のアメリカ政府職員の貴重な時間とエネルギーを費やしている。」
テロリストの基地になることは防いだし、もし再生されたらテロ対策が実施できる。パキスタンの安定化の方が重要であり、非常に危険なテロ組織が活動し、100個以上の核兵器がある。しかし、インドとの関係が根本的に変わらない限り、パキスタンはアフガニスタンへの影響力(テロ組織)を保持しようとする。
今やアメリカの財政赤字は最も深刻な危機であり、軍備の近代化と削減が求められている。同時に、アフガニスタン以外にも、北朝鮮やイランの核武装にも対抗しなければならない。米軍の規模を3万人に戻すことだ。
guardian.co.uk, Tuesday 21 December 2010
Brazil: a new face in the Middle East
Nima Khorrami Assl
ブラジルが、南アフリカ、インド、そして中東における貿易や経済協力、対話の仲介を果たそうとしています。ブラジルの外交政策の基本には、世界の非対称的な政治経済関係を是正する、という目標がありました。その一つが地域主義のアプローチです。ブラジルを中心としたメルコスールがイスラエルとの自由貿易協定を結び、ヨルダンにも拡大すること、また、パレスチナ国家を承認したことは、中東地域の平和に貢献するでしょう。アメリカが中東における支配的な地位をブラジルにも分かち合うつもりがあれば、ブラジルの新しい外交政策は次第に重要になるでしょう。
FP DECEMBER 21, 2010
The Guns of December
BY EDWARD LUTTWAK
WP Thursday, December 23, 2010
The Senate passed New START. What's next?
By Robert Kagan
l ユーロ危機とドイツ
Dec. 17 (Bloomberg)
Euro Defaults Need to Be Carried Out Quickly
Elena Carletti
ギリシャ政府債券のデフォルトより、ユーロからの離脱が良い。なぜなら、独仏政府の指導でユーロ建債券に集団行動条項を導入しても、それは債務切り捨てに反対する一部の債権者が拒否することを抑えるだけである。現在の銀行規制では、政府債券のリスクはゼロと考えられており、自己資本規制を受けない。また、リスクを分散する対策も、危機の波及により銀行システム全体を崩壊させる。
政府債券のデフォルトは、迅速に処理できなければ、弱い政府債券から強い政府債券へ、膨大な規模の資本移動が発生する。破産処理や返済の優先権、預金保険、銀行のその他の債務処理、などが時間を要する。デフォルトするより、単純にユーロ圏を(一時的に)離脱して、1対1で新通貨の債券にする方が良いだろう。政府は金融政策を取り戻し、銀行システムを保証できる。為替レートは市場で決まるが、大幅な減価が輸出を刺激するだろう。
数年で財政赤字と政府債券を抑えた後、ユーロ圏に再加入することだ。
SPIEGEL ONLINE 12/17/2010
Saving the Euro
Merkel's Ironic Victory in Brussels
By Carsten Volkery in Brussels
FT December 17 2010
Expect adventures in euroland until leaders craft a plan
By Tony Barber
政治指導者たちはユーロを維持するために必要なことは何でもする、ということを示した。
ドイツの黒字はユーロ圏の赤字国に対する輸出で形成されたものではない。ギリシャ、アイルランド、ポルトガル向けは輸出の2%に満たない。中国やアメリカの景気が悪化すると影響が大きい。ドイツの景気が良ければユーロ圏の赤字国にもプラスになる。
EUは問題国の債券に流動性を維持し、債務危機の処理メカニズムに合意した。必要なことはECBも含めて何でもするだろう。しかし安定化ファシリティーの規模はそのままで、ユーロ圏全体の債券発行で資金調達することはメルケル首相が拒んだ。EUの政治家たちが何を目指すのかはまだ分からない。次の危機が来るまで、現状が続く。
FT December 17 2010
EU moves to avoid future crises
政治指導者たちは二つの制度的な欠陥をふさいだ。流動性危機を債券市場のパニックから隔離し、債務返済条件の再交渉、赤字国の引き締め政策が市場によって要求されるだろう。
しかし、この仕組みが動き出すのは2013年であり、今すぐにも債券市場や銀行の危機が発生する不安があります。アイルランドやスペインを苦しめるような、民間資本の不安定な移動に関する合意もできなかった。
FT December 19 2010
Berlin’s goal is limited liability
By Wolfgang Münchau
メルケルが主張したリスボン条約の改正が受け入れられた。メルケルは基金の上限を引き上げることに反対し、債券保有者のコスト分担を目指す集団行動条項を発行条件に入れさせた。最後の選択肢として、危機管理メカニズムを動かすことに拒否権を要求した。
こうしたドイツの望む危機管理、すなわち、赤字国のデフレ的な緊縮政策が採用された結果、EUは窒息していくだろう、とWolfgang Münchauは予想する。これは部外者には異常であり、部内者には当然のことだ。
ユーロ圏の経済ガバナンスは三つの原則に依拠している。物価の安定性、財政の安定性、労働市場の弾力性、である。それがうまく行くときは良かったが、今は危機を深めている。欧州員会のバローゾ委員長は、物価の安定化、財政の安定化、構造改革、を求めたが、Münchauはユーロ圏内の民間部門が拡大した不均衡を強調する。構造改革や緊縮財政では解決できないだろう。急激な緊縮策は不況をもたらし、税収を減らしてしまう。
確かに、ラトビアはデフォルトも切下げもせずに危機を脱出した。しかし、同じことをギリシャやアイルランド、さらにスペインがすれば、ヨーロッパ経済はどうなるか? 国民はユーロ圏にとどまりたいと思うか? 不可能とは言えないが、想像することは難しい。
むしろリアル・アジャストメント(実物経済の調整)を実行したモデルとして、東西ドイツの再統合がある。その際、ある推定によれば、ドイツは統一後、20年間で、1兆6000億ユーロを財政移転してきた。もし実物経済の調整が巨額の財政移転を必要とすることを理解している国があるとしたら、それはドイツであるはずだ。
しかし、現在のドイツは「財政移転同盟」を拒んでいる。
WSJ DECEMBER 20, 2010
Europe's Single Bailout Zone
guardian.co.uk, Monday 20 December 2010
Latvia provides no magic solution for indebted economies
Michael Hudson and Jeffrey Sommers
ラトビアが緊縮策による物価・賃金の引き下げで実質切り下げを行い、景気の回復に成功した。それは政府の再選につながった、と理解されているが、選挙を支配したのは経済政策ではない。むしろ民族集団間の対立やオリガークへの攻撃が重要だった。ロシア人の国外脱出で経済危機が拡大じ、労働組合は政治的に重要でなく、労働者の大規模な海外出稼ぎと孤児の急増などが起きたラトビアを、ギリシャやアイルランド、スペインで再現することが正しいか?
ラトビアの採用したIMF型緊縮政策をEU諸国も採用できる、と主張するのは間違いだ。
SPIEGEL ONLINE 12/20/2010
'The Threat of Insolvency'
Bond Leader Pimco Sees Euro Zone in Danger
SPIEGEL ONLINE 12/20/2010
Berlin's Lack of Vision
Europe Turns against Germany
ルイ14世の料理人であったFrançois Vatelは、国王においしい料理が出せないと悩んで自殺した。先週のサミットで、EUの指導者たちは料理人のリストから、そのようなリスクを排除しておいた。明らかに地中海風味だが、他の26人のコックはメルケルの味付けに従った。安定化基金を恒久化する。安定化メカニズムを導入する。財政破綻の政府債券に民間投資家もコスト分担する。
メルケルはユーロ債の発行を、それは放漫財政を助長し、ドイツのような堅実な財政の国を罰する考え方だ、と拒否した。Niall Ferguson もTimothy Garton Ashも、厳しい評価だ。ヨーロッパ統合は、ドイツというエンジンを失ったのだ。欧州議会の緑の党議員であるCohn-Benditは、ドイツの政策はタブロイド紙に振り回されている、と批判する。「もしメルケルが首相だったら、欧州統合がなかっただろう。」
FT December 20 2010
Ireland has to shed Tweedledum politics
By David Lynch
FT December 20 2010
The fiscal future of the eurozone
FT December 21 2010
The eurozone needs more than discipline from Germany
By Martin Wolf
「ドイツが支配する。それがユーロ圏がどれほど繁栄するかを決定し、その生き残りを決める。地理的、政治的、経済的に、ドイツは中欧の権力だ。フランスはこのことを知っている。問題は、ドイツがそのパワーをどう使うかである。その答えは、ドイツが自分の利益をどのように観ているか、事件をどのように理解するか、によって決まる。」
危機の原因は政府の放漫財政ではなかった。マクロ経済の大きな違い、民間融資や投資の無責任な増大、資産市場のバブル、競争力の低下、これらが放置された場合、最後に、市場の逆転を諸政府が対処しなければならない。人々はユーロの規律として、各国の金融管監督を黒字国のドイツに委ねた。ドイツがそれを拒めば、ユーロ圏は失われる。
Dec. 21 (Bloomberg)
Five Ways to Start the Euro Rescue Operation
Matthew Lynn
ユーロを救うために何でもする、とは、何をすることか? 1.ドイツなど黒字国で財政刺激策を取る。それは周辺諸国の輸出を増やす。2.救済融資のための安定化基金を倍増する。3.必要な資金を調達するために、EU全体によるユーを債を発行する。4.ユーロ圏の参加国は課税と政府支出に対する究極の管理をブラッセルに委ねる。5.財政再建のために、赤字国は緊縮政策を受け入れる。
SPIEGEL ONLINE 12/22/2010
Top Economists Debate the Crisis
'Clinging to the Euro Will Only Prolong the Agony'
Peter Bofinger and Stefan Homburg
ユーロ債は必要か? ドイツが離脱すればどうなるか? ユーロ圏の分割を支持するStefan Homburgと、より一層の統合化を求めるPeter Bofingerが討論しています。
共通のユーロ債券を発行して赤字国が金利を引き下げ、財政再建を容易に行えることが望ましい、という意見に、Homburgは、マーストリヒト条約の枠組みを破壊する、と反対します。共通通貨を利用する資格のない国がユーロ圏に参加していることは経済運営を困難にし、対立を増すばかりだ。増税や財政移転を増やすより、通貨圏を離脱するか、分割するべきだ。
Bofingerは、共通通貨を維持することの利益は大きく、ドイツ国民は財政負担を受け入れるだろう、と考えます。イタリアが債務を支払えないと言えば、ドイツ人が支払うこともあるだろう。なぜなら、それはドイツの銀行の資産を守ることにもなるから。ユーロ圏の貿易・金融システムを安定化することはドイツ国民にとって重要だ。
それは脅しだ、とBofingerは反対します。歴史上、多くの政府がデフォルトになった。すべてを救済することなど必要ない。金融業者はそれだけのプレミアムを得てきたし、デフォルトになってもシステムは崩壊しない。ドイツの銀行を助けるのとイタリア政府の借金をドイツ人が支払うこととは別問題だ。
二人の違いは、Homburg が財政赤字の国に債務累積の責任があると考え、Bofingerは金融危機とユーロ解体を問題にしていることです。Bofingerはユーロ債市場をドル債に対抗する新しい準備通貨と考え、新しい需要を引き付ける、と主張します。しかしHomburgはそれを夢物語と否定し、ドイツがより高い金利を強いられるだけ、と理解します。
ドイツのユーロ圏離脱について、ある朝、目が覚めたらラジオのニュースでマルクが再登場したのを知るだけだ、とHomburg は主張しますが、Bofingerは悪夢になるだろう、と考えます。ドイツの金融機関が保有する資産は大幅に価値を失い、破たんの恐れがある。資本逃避はドイツに向かい、マルクの増価が止められない。Homburg は、資本移動はいつでも可能であり、名にも異常な事態ではない、また、マルクの増価はドイツの消費者にとって利益だ、と反論します。「財政移転」を強く嫌うHomburg に対して、結局、黒字国はユーロ圏がなくても赤字国に融資しなければならない、とBofingerは指摘します。
通貨同盟は最初から間違いだったのか? という問いに、Bofingerは応えます。
「通貨同盟は、経済的にも、政治的にも、意味がある。われわれは共通通貨から利益を得てきた。もしユーロがなければ、ドイツは日本のようになっただろう。成長は弱く、常にデフレの間際にさ迷う。日本と同様に、競争力を再生するために、ドル安が起きるたびに賃金をと梅津しなければならなかっただろう。ユーロのおかげで、われわれはそれを免れた。」
guardian.co.uk, Friday 17 December 2010
The death of universities
Terry Eagleton
大学から人文学が消えてしまう? もし大学から歴史学や哲学が消えて、その代わりに技術訓練所や企業調査機関ができても、それは古典的な意味での大学ではない。
人文学が他の学問から孤立してしまえば、その場合も、大学や人文学は生き残れない。教育や人間性の全体を扱うことができなくなる。批判・批評の中心としての大学が死んでしまったことが、人文学を衰退させた。それはマーガレット・サッチャーの時代以降、現状維持の学問にしか予算を認めなかったからだ。未来に対する異なる思考を許さない。人文学が労務管理の技術に代わってしまった。
l インドの理解
FT December 17 2010
India: Squeezed out
By Joe Leahy and James Fontanella-Khan
インドの巨大都市、ムンバイMumbaiについての記事です。人々が仕事や夢を求めて農村から移住します。しかし、スラムが拡大し、インフレなお整備が追いつきません。McKinsey Global Instituteの予測では、今後20年間に、道路、鉄道、住宅、下水などに1兆2000億ドルを投資しなければなりません。それは公的部門にマーシャル・プラン型の投資を求めます。
インドの農民の生産性はアメリカの1.5%でしかありません。1980年代に都市の繊維産業が衰退してから、ムンバイではサービス部門が拡大しました。建設業、スラムの零細工場、ガードマン、運転手、メイド。1平方マイルに100万人が住むことの圧力は、都市の生活をゲリラ戦のような苦しみに変える、と指摘します。それにもかかわらず、労働集約型の軽工業を拡大した東アジア、中国の成長と異なり、インドの成長はハイテクや情報産業に偏っています。
農村そのものを工業化するためにインフラ整備する方がコストはかかりません。しかし、夢を求めて、人々は都市に移住し続けます。
WSJ DECEMBER 19, 2010
Delhi Trades While Kashmir Burns
By BRAHMA CHELLANEY
中印経済対話に大きな進展があった、と伝える記事もありますが、BRAHMA CHELLANEYは否定的です。「貿易額が増えても、地政学的に対抗関係を強める二国にとって、万能薬ではない。」 原材料の輸出と製品輸入によって貿易赤字は増大し、中国の利益が増えるとインドは感じている。インドを抑え込むという中国の地域戦略は変わらないだろう。
米印関係の深まりやチベット問題で、インドと中国の関係は悪化していた。2009年、政府や人民解放軍のホームページは、インドに対する心理戦争を展開した。パキスタンと協力して、インドとの紛争になっているカシミールへの関与を強めた。中国は、インド周辺諸国に港湾や輸送網を拡大している。パキスタンの支配するカシミールに中国軍も展開しており、直接の武力衝突も起きる可能性がある。
それでも、欧米が金融危機後に成長率を低下させる中で、中国はインド市場を求めた。
l 理想主義と国際秩序
guardian.co.uk, Saturday 18 December 2010
Let's hope the WikiLeaks cables move us closer to open diplomacy
Peter Singer
WikiLeaksの25万件に及ぶ外交電信情報公開に際して、Peter Singerはウッドロー・ウィルソンの1918年の演説を思い出します。それは第一次大戦で荒廃したヨーロッパに、平和な秩序を回復させるための原則を示したものです。その第1条が、ヨーロッパの秘密外交・秘密条約を廃止するよう要求していました。
"Open covenants of peace must be arrived at, after which there will surely be no private international action or rulings of any kind, but diplomacy shall proceed always frankly and in the public view."
NYTに載ったPaul Schroeterの論説は、秘密交渉のおかげでヴェルサイユ条約は成立した、と主張しました。しかし、その条約がドイツのナショナリズムを刺激し、ヒトラーの台頭や第二次世界大戦を招いたことを考えれば、秘密交渉の及ぼした人類史上最悪の成果である、とPeter Singerは考えます。
民主主義においては市民が政府を判断しなければなりません。情報を秘密にできる政府は、それを認めないのです。情報公開と戦争廃止とは、理想として似ているでしょう。完全な実現は難しいとしても、その理想に近づく努力を支持しなければなりません。
NYT December 18, 2010
The Gifts of Hope
By NICHOLAS D. KRISTOF
クリスマスにマライア・キャリーのCDを買うよりも、ハイチの少女を1年間学校に通わせる募金を好む人のために、Humanitarian Gift Guideを載せています。
Arzu (ArzuStudioHope.org) ・・・アフガニスタンで、輸出向けのカーペット・絨毯を生産する女性の雇用に役立つ募金です。子供は学校に通えるし、女性たちは文字や衛生の知識を学ぶことができる。
First Book (firstbook.org) ・・・アメリカの貧しい家庭の子供たちには、本がない。これは、子どもたちが本を読めるように、児童書を配る募金です。
Fonkoze (fonkoze.org) ・・・地震後のハイチにおける貧困と闘うために、子供たちを学校へ通わせる、妊娠したヤギを家族に贈る、ビジネスを始めた家族を13週間支援する、募金です。
Partners in Health, (pih.org)もハイチの食糧事情を改善する活動。Panzi Hospital (panzifoundation.org)は、コンゴ東部で、性的暴力の犠牲者に対する救援活動。Camfed (camfed.org)はアフリカの女性に教育を受ける機会を増やす。The Nurse-Family Partnership program (nursefamilypartnership.org)は最初の出産によって女性や子供が貧困の循環に落ち込むのを防ぐ活動です。Edna Hospital (ednahospital.org)は世界最悪のソマリア出産死亡率を改善する看護婦や助産婦の育成活動です。The Somaly Mam Foundation(somaly.org)はカンボジアの売春宿に売られた少女Somaly Mamが数年後に救出されてから始めた、人身売買組織に捕えられた子供たちを救出して、スカーフやネックレスを生産する団体です。
「豊かな国に暮らすことの矛盾の一つは、われわれが驚くほどの購買力をもつようになっても、友人や家族を喜ばせるような意味のあるプレゼントが見つけられない、ということだ。」このクリスマス休暇に、買春で生活してきた少女がスカーフを織る工場で働けるように、そのスカーフを買って友人にプレゼントしたら、あるいはザンビアの子供たちのために奨学金をプレゼントしたら、多くの人の心を温める素晴らしいギフトになるだろう。
l 多文化主義と移民労働者
The Observer, Sunday 19 December 2010
Why did multiculturalism become a dirty word? It made me who I am
Anushka Asthana
「わたしは子供の頃、自分の茶色の肌が大嫌いで、白くなればよいのにと願った。私はずっとそう思っていた。私の変な名前Anushkaも嫌だった。もっとNatalieとか、Joannaだったら良いのに。Asthanaなんてやめて、Smithとか、Jonesにできたら良いのに。」
彼女は母親の足を蹴飛ばしたそうです。母はもっとありのままの自分を愛するように、と言ったけれど。・・・なぜ、多文化主義は否定されるようになったのか? それが失敗したと、原理主義者の犯罪があったことで、証明されたと言うのか? 多文化主義は「差異」を強調し、「分離・隔離」をもたらす、と政府は言うようになった。さまざまな異なった文化が集まって調和ある社会を創る、という考えに代わって、「統合」政策を推進する。
彼女は子供時代を嘆いているのではなく、むしろ楽しかった、と書いています。人種差別を受けた記憶もない、と。「ただ、アイデンティティーには苦しんだ。インド人になりたくなかった。」 しかし、あるときから、彼女は、マンチェスター、イギリス、パンジャブ、インドのアイデンティティーを4つとも愛せるようになります。自分の中で多文化的な個性を調和させることができたから。
多文化主義を危険な隔離としか理解しないthe Equality and Human Rights Commission の新委員長David Goodhartを批判します。Anushka Asthanaは、Oldamのような人種暴動を避けることができたのはなぜか、とRochdale選出の議員に尋ねたそうです。「人々が他所から来た、という事実ではなく、彼らが着いたとき、どのように受け入れられたかが重要だ」と議員は応えました。
YaleGlobal , 20 December 2010
Calls Mount Everywhere for Deportation of Illegal Immigrants
Joseph Chamie, Barry Mirkin
失業率が高まると、政府は各地で非合法移民を攻撃し始めます。彼らが、農場、建設業、低賃金の製造業や食品加工業、子供の養育や老人介護に、主要な労働力を供給しているにもかかわらず。アメリカだけでなく、南アフリカ、ギリシャ、イギリス、リビア、など、強制的な国外退去の増加は、こうした分野で労働力不足を生じ、コストを引き上げます。
The Observer, Sunday 19 December 2010
If we don't rein in Big Finance, the economy will never recover
Will Hutton
巨大な金融機関のボーナスを規制し、銀行の規模を縮小するべきだ、とWill Huttonは考えます。世界の資産を集めるヘッジファンドの香港での設立と、イギリスの若者5人に1人が失業する現実とのギャップを、どうすれば変えられるでしょうか?
グローバリゼーションの過程で「二重経済」を批判するWill Huttonの主張は、今の日本について述べているように思えます。一方には巨額のボーナスが支払われ、他方には持続する雇用も得られない。未来の知識産業で雇用する、と言っても、携帯電話のゲームを開発するような場合、その内容は急速に変化し、コスト競争は過酷です。かつての巨大製造業でも、低成長で需要は増えず、さまざまな部分で外注が増え、製造拠点はコストの安い発展途上諸国へ移りました。
地方の中小企業と小規模の銀行業をもっと重視するべきだ。
l ベラルーシの独裁者
guardian.co.uk, Sunday 19 December 2010
Ivory Coast crisis exposes hollowness of west's fine words
Simon Tisdall
WP Tuesday, December 21, 2010;
In Belarus, a slide toward Eastern aggression
By Anne Applebaum
「日曜日に、ベラルーシの大統領選挙が行われた。その晩、警察官たちはその結果を配った。真夜中まで、多くの人々が首都ミンスクMinskの中心にある広場から追われた。多くが逮捕され、多くが殴られた。若者たちは腕を折られ、血だらけの顔で、デモから連れ去られた。ベラルーシの大統領候補9人のうち、7人が投獄された。その中の一人、Vladimir Neklyayevは意識を失うまで殴られ、その後、毛布にくるまれて病院から連れ去られた。今もその行方は知れず、幽閉されたままだ。」
FP DECEMBER 21, 2010
Our Time Is Now
BY MOHAMMED ABDULLAHI MOHAMMED
guardian.co.uk, Wednesday 22 December 2010
Belarus may seem a far away country, but we have to confront Europe's Mugabe
Timothy Garton Ash
ヨーロッパのムガベと呼ばれる、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、選挙の10日前、ロシアと予想外に合意した。安価な条件で石油を輸入できる。ルカシェンコはこれを売って利益を手にする。そしてベラルーシはロシアとカザフスタンが属する「単一経済圏」に帰属する、と表明した。
NYT December 19, 2010
When Zombies Win
By PAUL KRUGMAN
FT December 19 2010
Drama needed to jolt Americans into tackling debt
By Gillian Tett in New York
Dec. 20 (Bloomberg)
Debt Pyramid Scheme Now the Norm in America
Roger Lowenstein
guardian.co.uk, Tuesday 21 December 2010
Obama's tax deal: read the small print
Dean Baker
WSJ DECEMBER 20, 2010
The Case Against Floating Currencies
By MANUEL HINDS
「変動相場制に反論―急がれる国際通貨システムの再構築」という日本語訳が載りました。
国際通貨制度は、中央銀行が自由に貨幣を発行できるから成長や雇用を自由に創り出し、バブルや危機の無い、景気循環の平準化を実現する、という「最適通貨圏」で成り立っている。少なくとも、「中央銀行の独立性」を重視する議論はそうでした。
しかし、世界に通貨圏は多すぎる、と論説は考えます。MANUEL HINDSは、金融危機になれば独立性など無視して、中央銀行が財政赤字を融資すると考えているのですが、結局、人為的な通貨管理は失敗した、と結論したようです。つまり、国際(世界)金本位制しかない。
l 化粧品と防衛政策
WSJ DECEMBER 22, 2010
Japan Blushes With Success
By KENJI GOVAERS AND HIROSHI MAKIOKA
日本経済の低成長や衰退を見るのではなく、化粧品産業の成長を見ます。しかし、WSJらしく、その要因は「規制緩和」で始まります。そして、価格競争と技術革新が進み、競争的な市場で消費者が大きな利益を得た、と。
しかし、それはどうかな? 不安や美容の意識を高め、化粧品の消費を刺激したとは思います。
WSJ DECEMBER 22, 2010
Japan's Posture Against Chinese Posturing
By MICHAEL AUSLIN
中国の空・海軍における装備の拡大・近代化に対して、日本の防衛大綱見直しは不十分だ、とアメリカは思っているようです。東アジアの安全保障を維持するために、いつまでアメリカに頼るつもりか? アメリカでも財政赤字削減を迫られているときです。日米は協力して、中国との対話を通じて、安全を確保するルールを合意しなければなりません。
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The Economist December 11th 2010
Three-way split
Taxes, benefits and the deficit: Kicking the can down the road
(コメント) 世界経済は三つの異なる経済に分かれています。アメリカ、ユーロ圏、新興市場です。2011年は、以外に好調だった2010年を引き継いで、消費や投資が拡大する、と期待します。ただし、アメリカが大統領選挙に向けて政治的な混乱を深め、ユーロ圏が解体寸前の危機を繰り返し、新興市場が景気過熱から急ブレーキをかける、というようなことがなければ。
その条件は、2010年と違って、各地域の異なった対策を必要とします。政策協調は難しいでしょう。むしろ、アメリカが財政政策の行き詰まりから金融緩和に頼り過ぎ、新興市場のバブルを刺激するかもしれません。そんなとき、ユーロ危機によって国際資本移動が不安定な短期的変動を為替レートや金利に及ぼすなら、世界経済の前途は極めて危険な状態です。アメリカは財政赤字の抑制に合意し、ユーロは金融不安を払しょくする新しい制度を導入し、新興市場は金融引き締めと為替レートの増価を許してインフレやバブルを早期に鎮静化することで、結果的に、素晴らしい協調を実現できるはずです。
The Economist December 11th 2010
Saudi Arabia and China: Looking east
France loses ground to Germany: Power shift
Europe’s resilient economy: Little triggers
Charlemagne: Fighting fire with fire
Chinese business: Where are the profits?
Economics focus: All pain, no gain?
(コメント) 中東の石油と中国・アジアの工業力。これが新しいシルクロードである、という記事を何度か見ました。これもそうです。中国の国営石油会社SinopecがサウジアラビアやアメリカのExxonMobilと合弁企業を作って、石油化学コンビナートを建設します。ますます多くの学生や研究者が中国の大学へ向かい、サウジアラビアの富裕層はロンドンやニューヨークのグッチだけでなく、中国の家具店で買い物します。
確かにアメリカはまだ中東の安全保障や兵器市場を握っていますが、同時に、そのイスラエル寄りの姿勢を嫌われています。・・・しかし、鉄道建設を受注して労働者をメッカで働かせるためイスラム教に改宗させて連れて行ったとか、コストを超過し、労働者が暴動を起こしたとか、サウジアラビアには起きたこともない紛糾事例となっているようです。
ユーロ危機に関する、独仏関係の変容、財政危機の周辺を抱えながらも成長を達成、という記事があります。ユーロ圏には十分な消防体制ができていない、という中世さながらの時代錯誤と、内的な通貨切り下げという机上の空論を信じることの怪しさ、を批判しています。