IPEの果樹園2010

今週のReview

10/25-10/30

 

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IPE研究ノート 10/25/10

日本はいつも優れた教師です。アメリカに、デフレの恐怖と量的緩和政策を教えました。アジアには輸出による成長モデルを教え、中国にはプラザ合意のもたらすダメージを教えました。イギリスには景気回復を挫く急激な財政赤字削減の愚かさを教えるはずですし、韓国や台湾には金融危機後の銀行・産業の保護と閉鎖的市場の失敗を教えました。そして最近も、通貨安競争が広がる中で、中国とアメリカ、韓国などへ為替介入の無益さを教え、世界に対して為替レートの極端な変動を阻止するよう求めました。

・・・北朝鮮にも、政治指導者の老化について教訓を与えたでしょうか。日本崩壊は、北朝鮮や中国,ギリシャが発する危機よりも前から、世界経済の「ブラック・スワン」でした。

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G20財務省・中央銀行総裁会議の行方を確かめようと、日曜日の新聞を広げました。1930年代を呼び寄せる通貨切り下げ競争を阻止する目標は、どうやら達成できたらしい、と伝えています。しかし、その中身は不明確です。

介入を控えて市場のシグナルを反映させる。経常収支の極端な不均衡を避ける。IMFが各国のサーベイランスを行い、国際合意に向けた調整の舞台を提供する。新興諸国はIMFにおける発言力を増す。

原則は正しいと思います。これが世界の模索し始めた「プラザ合意U」であり、「新ブレトンウッズ会議」への助走、ドルから人民元への移行を円滑に進める多角的な政治交渉、さらには、「国際清算同盟」やSDR本位制への準備段階です。資本収支の不均衡が重要であるにもかかわらず、経常収支不均衡を指摘したのは、資本規制に関する合意に含みを持たせたのでしょうか?

生産や雇用が重要であるなら、資本移動を安定化するように、合意された調整のルールを経常収支不均衡に適用することが正しい方針でしょう。アメリカ政府こそが、資本市場・金融ビジネスを称賛して、こうした方針を無視し続けたのです。他方、日本や中国、アジア諸国こそ、金融不安や資本移動を恐れて、不均衡・黒字を維持するために国内の変調を招いたのです。

幸い、米中が非難の応酬を始めることは無く、新興諸国が足並みを乱すこともなく、ロシアや中国などが安全保障や地政学的な理由でルールを無視することもありませんでした。国際協調が維持されたことに、グローバリゼーションの参加者たちは安堵したでしょう。

数値目標と聞けば、かつて、クリントン政権の対日要求を嫌った日本の政府関係者が多いようです。経常収支の目標に合意することは非常に難しいし、それを政治家たちが守るとは思えない、という評価もその通りです。

数値が重要ではなく、主要国間の政策協議を制度化することこそが重要なのです。

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朝日新聞の朝刊を読んで感銘を受けたのは、G20の声明や解説ではなく、アメリカの帰還兵たちが苦しむ姿でした。

中間選挙の前でも、主な争点は財政赤字や失業、医療保険制度改革などであり、イラクやアフガニスタンではない、というのです。「世論の6割は戦争に反対し、年間十数兆円を費やす戦争を『戦う価値がない』と切り捨てる。」

「国民が平等に犠牲を払うという社会規範が脅かされている。」

あるいは、日本の中流意識や市民社会が崩壊する現実を描いた漫画(『闇金ウシジマくん』)の紹介です。

戦争の負担や社会規範・連帯感の喪失、市民階級の没落、そして、極端なイデオロギーの対立、などは、帝国の崩壊を論じ、グローバリゼーションの逆転を予想する際の重要な要因でした。もし今がグローバリゼーションという世界帝国であるなら、それらは各地で先鋭化しつつあるように見えます。

金融危機に始まった不況であり、一気に加速した国際政治の構造変化です。国際通貨制度の改革は、世界各地の社会が生気を取り戻すために必要な条件であり、グローバルな市民的秩序の骨格であると思います。

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通貨戦争による世界経済の崩壊を避けられるか? ・・・中国の国内政治と国際秩序 ・・・アメリカの金融緩和QE2 ・・・イギリスの財政赤字削減という愚行 ・・・政治システムは、崩壊する前に改革できるか?

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


l         通貨戦争による世界経済の崩壊を避けられるか?

FP OCTOBER 14, 2010

Why Do Currency Wars Start?

BY JOSHUA E. KEATING

いずれの国もインフレを抑えるために金融政策を使う。しかし、金融市場が密接に統合した世界では、ある国の金融政策が他の国に対して為替レートを動かすことになる。もしそれが貿易摩擦や為替レートの水準に関する政治論争をともなうなら、一気に、「通貨戦争」の論調が表面化する。二つの国の間で、為替レートは一つしか存在せず、両者の論争は、その動きに特別な意味を与えてしまう。

また、不況が広がって、多くの国が為替レートの減価を好むなら、そうでない国の為替レートが極端に増価し、ブラジルのように「通貨戦争」を意識することになる。ばらばらな為替市場におけるゼロサム状態が「通貨戦争」を強いるのだ。

戦争と違って、通貨戦争には明確に宣戦布告した日付は無いが、その終わり方は一種の「講和条約」を締結することである。すなわち、1936年にはイギリス・フランス・アメリカが安定化に向けて合意し、1985年には英仏独と日米がドル安に合意した。

世界経済は大きく変化し、今ではブラジル・中国・インド・韓国も大きな力を得ている。数名の財務長官がホテルの一室にこもって合意できるとは思えない。ここでも戦争と同じことが言える。始めるより終わる方が難しいのだ。

Oct. 15 (Bloomberg)

Currency War Is Solved With One Trip to Bangkok

William Pesek

通貨戦争を終わらせるために国際会議を開く・・・? しかし、1997年にタイ政府が失敗したように、いくら介入しても、ワシントン、東京、フランクフルトから通貨があふれ出ているとき、為替レートを抑制することはできません。日本の為替介入が引き金となって、韓国でもタイでもブラジルでも、為替レートの動きを抑える政策が取られ始めました。しかし、すべての国が介入するとき、為替レートの動きは不安定化し、結局、思うような水準に安定できる国はほとんどないのです。

「新プラザ合意」を求める声が出ています。為替レートの調整が必要だ、というわけです。しかし、われわれが直面している市場は、1985年からあまりにも大きく変わりました。G5が重要な役割を果たす余地はなく、日本を説得(威嚇)したように、中国を説得できる国はありません。

2兆6500億ドルの外貨準備をもっている中国を無視して、新しい為替レートを決めても無駄です。そして、中国はこのような通貨合意を嫌っています。アメリカの政治家たちが中国を非難するのは勝手ですが、人民元がたとえ20%強くなったとしても、アメリカの製造業で雇用が増えることはないでしょう。

日本の為替介入は、ワシントンではなく、北京やソウルに対する警鐘だった、とWilliam Pesekは考えます。日本の菅首相はプラザ合意の再現を願っていますが、その見込みはなさそうです。特に、今、問題になっているのは単に為替レートの不整合ではなく、経済の構造的な不均衡だからです。為替レートを合意しても、アメリカが貯蓄を増やし、中国が貯蓄を減らし、ヨーロッパ経済がにわかに成長するわけではありません。

世界経済の管理をめぐって、確かな合意ができるとは思えません。金の価格は1400ドルに達しつつあり、通貨戦争への不安を世界が共有していることだけは明白です。

(chinadaily.com.cn) 2010-10-15

How to prevent a currency war

By Barry Eichengreen and Douglas Irwin

Project Syndicateからchinadaily.comに転載される論説が増えました。これは中国が「ソフトパワー」を意識し始めたからでしょう。そして、人民元増価の理由を多くの中国人が読むようになったことを歓迎したいです。

通貨戦争から、関税の引き上げ、報復に至り、国際貿易システムが崩壊した1930年代を再現する懸念が強まっている。為替レートをめぐる論争は、不況よりも保護主義を強く刺激する。

1930年代において、保護主義の採用と不況・失業とは重なっていなかった。その理由は単純だ。不況によって輸入が急速に減り、保護主義は重要でなくなったからだ。しかし、現代では違う。世界銀行の推定では、保護主義による影響は、現代において貿易の減少額全体の約半分を占める。1930年代は2%であった。

為替レートを固定していた国ほど、保護主義に訴える国内からの要求が強かった。1931年にイギリスは金本位制を放棄し、ポンドを切下げた。しかし、金本位制にとどまった諸国は激しいデフレ圧力を受け、国内産業を守るために何かしなければならないという政治圧力の下、「為替ダンピング」に対する相殺関税や輸入割当制を導入した。

「しかし、貿易制限は国内デフレ対策のお粗末な代替策でしかない。貿易を制限しても、生産と物価との循環的な下降を止めることはできないからだ。またそれはぐらついた銀行システムを安定化することにもならなかった。逆に、金融政策を緩和し、リフレ政策を取った国は、より効果的に金融システムを安定化し、景気回復を早め、しかも、当時の悪質な保護主義を避けられたのだ。」

現代のアメリカは、1930年代のどの位置にあるのか? アメリカは中国との為替レートを一方的に調整することができない。雇用の回復は遅く、デフレ懸念は消えない。有効な対策がないまま、保護主義の要求が高まっている。

1930年代と同様に、金融を緩和して物価を引き上げ、景気回復を刺激することだ。

それゆえ悪役は、中国ではなく、連邦準備理事会である。彼らはデフレを止め、雇用を回復させるための手段をもっていながら、それを使わないのだ。日銀が進んだ道を、連銀も追うべきだ。もちろん、中国がドルに固定し続ければ、アメリカの金融緩和は中国の物価も引き上げる。経済規模からみて中国はアメリカの一部でしかなく、連銀が金融緩和する力を制限することはできない。

中国がインフレを嫌うなら、大丈夫、その解決策はある。人民元を増価させることだ。

WSJ OCTOBER 16, 2010

Currency Chaos: Where Do We Go From Here?

By JUDY SHELTON

経済学の巨人なら、世界経済の混乱を正すために何をしろ、と教えるだろうか? 幸いにも、「ユーロの父」、ロバート・マンデルがニューヨークにいた。

JUDY SHELTONのインタビューに答えて、お茶を飲みながらマンデルは説明します。

「問題は第一次世界大戦の前に始まった。金本位制はかなりうまく機能していたが、戦争と1920年代の混乱で崩壊した。その後、1930年代からドルが中心的な通貨になって、アメリカが世界の支配的地位に就いたが、それから世界経済は大きく変化した。」

問題は、アメリカ政府がドルを自国の通貨としてしか見ないことだ。為替レートを、政府も連銀も無視している。しかし貿易が拡大すれば為替レートの変動は有害になるし、急激なドル安はインフレをもたらす。中国に圧力をかけるより、多角的な通貨会議を開くべきだ。

世界には二つの重要な通貨しかない。アメリカと、日本を除くアジア諸国が属するドル圏と、その他の世界からなるユーロ圏だ。だから、ドルとユーロの合意が最も重要だ。毎日、4兆ドルも取引される国際通貨市場とは、むしろ通貨制度の病状を示しているにすぎない。諸通貨は、金本位制やブレトンウッズがそうであったように、為替レートを固定できる。不必要なノイズと不確実さが市場の価格を混乱させている。

残念ながらJUDY SHELTONは結論を急ぎます。最高の解決策を示してほしい、と。マンデルは応えています。「成長を促す税制と、安定した為替レート」。

FT October 17 2010

Both China and US are at fault in currency war

By Felipe Larraín

米中間の為替レートをめぐる争いは、二国間の問題ではなく、アジアやラテンアメリカの諸国に通貨危機を波及させるだろう。

アメリカと新興諸国の間で、成長率や金利の差が広がっている。アメリカにはドル安が必要だ。それはそうだろう。しかし、ドル安とは、何に対してのドル安か? もし米中間で為替レートの調整がほとんど進まないなら、ブラジル、チリ、コロンビア、ペルーなどが、あるいは、高成長のオーストラリアや韓国などが、大幅な通貨高に苦しむことになる。それは輸出産業と輸入競争産業、すなわち、農業と製造業に影響する。

さらに、中国とメキシコはアメリカ市場への輸出を伸ばしており、それが他の諸国の輸出を奪っている。その結果、各国は増価に対して為替介入を増やし、資本規制を導入するだろう。

日米の金融緩和が再開され、中国の人民元レートは調整されないままであれば、グローバルな不均衡の調整は不当に新興諸国を苦しめる。米中間で政策を調整して、新興諸国への為替レート変動や市場介入、保護主義を回避し、将来の成長を維持することが重要だ。

SPIEGEL ONLINE 10/18/2010

Economist Warns against Blaming China

Yuan Revaluation 'Won't Allow the Americans to Export More Goods'

Rolf Langhammer the Kiel Institute for the World Economy)がインタビューに答えます。人民元レートを調整しても、それはアメリカの貿易赤字を減らさないだろう、と警告します。

アメリカの貿易赤字はアメリカ企業の失敗によって強められた。Rolf Langhammerは、ドイツ企業とは逆に、アメリカ企業が高度な技術に特化することに失敗してきた、と考えます。

FT October 19 2010

Capital controls will follow the weak dollar

By Michael Hudson

アメリカの金融緩和とドル安が進む中、新興諸国への通貨投機が強まって、どこでも資本規制が検討されている。まるで1997年のアジア通貨危機を逆さまにしたようだ。当時はマレーシアが資本流出を規制した。今は中国が資本流入規制を強めている。

資本流入を不胎化するにしても、将来のドル安は中央銀行に多大の損失を与えてしまう。このままアメリカが第二の「量的緩和政策」(QE2)を続けるなら、通貨戦争だけでなく、ついには世界の通貨をドル圏とそれ以外の通貨圏に分割してしまうだろう。上海協力機構(the Shanghai Co-operation Organisation)は通貨取引に関する会合を開いて、ドルを介してではなく、相互の通貨を直接に取引する準備を始めている。中国は、ロシアとの人民元・ルーブル通貨取引を始め、ブラジル、トルコにも同様の合意を進めている。

アメリカや日本は、たとえ成長率が低下するとしても、量的緩和政策を中止し、世界通貨市場の分裂を回避するべきだ。

WSJ OCTOBER 19, 2010

Dollar Gains Sharply on China Rate Hike

By BRADLEY DAVIS

WSJ OCTOBER 19, 2010

China Shifts Course, Raises Rates

By ANDREW BATSON

中国の金利引き上げは、世界不況への投資家の不安を一気に高め、金融資産の避難地として、ドルへの資本流入を強めました。それはまた、中国や世界の高成長を前提に買われていた、オーストラリアのような資源輸出国から資本流出を生じています。これらは将来の不安定な国際資本移動を予感させます。

中国の金利引き上げ(日米では極端な金融緩和)は、世界経済が、いかに不況地域と好況地域とに分裂しているかを示すものです。その発表はソウルにおけるG20の直前でした。人民元への圧力が強まるはずですが、国内のインフレを抑えるための決定です。インドやタイでも、世界金融危機による影響を早くも脱し、金融引き締めに転じていました。

中国の金融当局は融資規制のようなインフレ抑制策を早期に実施してきましたが、市場に依拠した金融政策が必要だ、と世界銀行は提言しています。為替レートについても同様です。この程度の金融引き締めで住宅の購入を減らすか、他方、資本流入がどの程度強まるのか、まだ分かりません。

Oct. 20 (Bloomberg)

China Hides Rampant Inflation in Money Binge

Patrick Chovanec

「カネ、カネ、カネ。中国のいたるところに金が満ちている。」 自動車、マンション、高価な宝石が売れて、好況はとどまるところを知らない。

しかし、通貨供給量が50%以上も増える中で好況を続けることに、中国の成長の基礎が危ぶまれる。資産価格が上昇し続けているからだ。都市の住宅価格は上昇し、金価格もこの1カ月で50%上昇して、オンス3000ドルに達した。絵画やワインのオークションも記録的な高値を示し続ける。

いよいよ消費者物価も上昇し始めた。景気刺激策として国営の銀行システムが融資を増やしたからだ。2009年に、過去に比べて2倍の、およそ10兆元が新規融資された。これは中国式の「量的緩和政策」だった。貿易黒字とともに、インフレは蓄積されてきたのだ。

住宅価格が上昇するとき、購入者は自分が優秀だと考える。金融バブルを挫くのは難しい。

 WSJ OCTOBER 20, 2010

Israel's Bank Chief Defends Interventions

By CHARLES LEVINSON

イスラエルの中央銀行総裁になったフィッシャーStanley Fischerは、元IMF理事でした。しかし、IMFがそれを好まないとしても、今はイスラエルの通貨shekelの為替レートについて大規模に介入しています。そして、世界金融危機・不況にもかかわらず、それがイスラエル経済の長期の繁栄を維持している、と主張します。イスラエル経済は小規模であることから、介入は正当化できる、とも。

Stanley FischerがIMFのナンバー2であったとき、アジア通貨危機が起きました。当時、IMFは各国の融資に条件を付け、為替レートの変動を許して(通貨価値を急落させ)ておくこと、高金利政策によって資本流出を抑えること、を求めたのです。

イスラエル政府・中央銀行は、世界の投資家がイスラエルの輸出産業に高い競争力があると信じるほどに為替レートを低く維持し、同時に、国内の住宅バブルを抑制しようとしました。介入の規模は一日に1億ドルに及び、アメリカの金利が下がる中でも外貨準備を増やし続け、介入のコストを内外から非難されました。

しかし、GDPの40-45%を占める輸出部門が好調で、景気を維持できた、と考えます。

 (China Daily) 2010-10-20

US-waged war of currencies

By Zhang Monan

「世界最大の債務国が、ドルの支配と債務を利用して、新興経済から富を奪っている。」

アメリカは中国を標的にした通貨戦争で世界の富の再分配を狙っている。世界通貨の発行国として有利な立場を利用しているのだ。

ドルの供給と政府の借金とは、アメリカの二つの成長のエンジンだった。その結果、ドル本位制はアメリカの優位を前提した一種の「ドル債務本位制」になってしまった。それは財政赤字に顕著に示されている。財政赤字の爆発は、2009年にGDPの82.5%12兆ドルに達している。他方、連銀は量的緩和政策を採用し、債務の貨幣化に邁進した。ワシントンはインフレに驚かない。むしろ財政赤字戦争による最大の受益者になるのだ。

中国と新興諸国は、アメリカの作ったこのゼロサム・ゲームの犠牲者である。世界経済が減速する中でも成長した新興諸国には、危機前を越えるスピードで資本流入が起きている。それは新興諸国に通貨の増価とインフレをもたらすものだ。

人民元の増価を求めるアメリカの意図はいくつもある。それはアメリカの輸出を増やし、アメリカ経済の構造改革を助ける。アメリカの国内需要はまだ乏しく、景気回復を助けることも意図されている。さらに、中国はアメリカ国債の最大の保有者であるから、人民元の急激な増価は、ドル建の債務を消滅させるのであり、債権者から債務者への富の再分配が起きる。

自国通貨の増価を許せば輸出産業が苦しみ、資本流入を許せばバブルとインフレーションが起きる。中国は国内のインフレから目を離さないし、1980年代の日本の教訓を忘れることもない。

急速に成長する新興国の通貨は国際化する。中国がアメリカの通貨戦争に勝つには、短期と長期の国益を見失わないことだ。

FT October 21 2010

G20 finance chiefs face currency struggle

By Christian Oliver in Seoul and Alan Beattie in Washington

Oct. 21 (Bloomberg)

Hedge Funds Short Plaza Accord Deal With China

William Pesek

中国政府はG20に先立って金利を引き上げ、日本に続いてアメリカやヨーロッパにもレアメタルの輸出を阻止した。その行動は、中国を含むプラザ合意の再現を目指した者たちに失望をもたらしただろう。人民元は動かさない。そんな話はやめておけ。それが中国のメッセージである。

ワシントンから東京まで、世界中に人民元を増価させるプラザ合意の議論が流れている。それが世界経済を均衡に戻す必要な手順なのだ、と。しかし、中国はこれを支持しない。貧しい労働者を大量に抱えた発展途上国として、中国の通貨安政策は次善の策である、と。しかも、レアメタルが顕著に示したように、中国は世界市場の支配を地政学的に利用することをためらわない。

「世界は選択に直面している。中国の方針を逆転させようとして自分の足を踏みつけるような無駄な試みに終わるのか? 新しい世界秩序を受け入れてそれに適応するのか?」

William Pesekは、中国のこうした行動は地球温暖化についても適用され、ドルと雇用をめぐる新しい戦争を始めるだろう、と予想します。なぜなら、世界中で風力発電の急激な建設計画が立てられていますが、それに必要なレアメタルを中国が支配しているからです。グリーン・ビジネスの雇用拡大も中国が支配する。

アメリカやヘッジファンドはすでに中国からの融資に依存し、次の時代の工業化も中国の目指す世界的調整に向かうのです。


l         中国の国内政治と国際秩序

Foreign Affairs, October 14, 2010

China's Dilemma: Social Change and Political Reform

George J. Gilboy and Eric Heginbotham

中国の国内政治改革を扱った、バランスのとれた考察です。

成長に伴って、中国社会はますます複雑になり、政治的要求が強まり、共産党の命令にも屈しないようになるでしょう。中国共産党の内部改革は進んでおり、激しい労働争議や社会紛争の鎮静化のため、すなわち、共産党が権力を維持するために、その法律や制度を作り変えねばならないという責任を自覚しています。しかし同時に、民主化を要求したLiu Xiaoboノーベル平和賞受賞を激しく非難したような対応もなくなりません。

急増する紛争の処理を誤れば、中国の成長も脅かされるでしょう。The Chinese Academy of Social Sciences (CASS)の推定によれば、社会争議は2001年の4万件から2009年は9万件に増加しました。特に、土地収用、分配の不平等、汚職問題で、激しい抗議が起きています。政治家や官僚の操る企業が違法に収容した土地は年に4000平方マイル、ジニ計数は0.48に達してラテンアメリカ並み、中国のGDPに対して30%にも相当する1兆3000億ドルの富が行方不明になります。その60%以上が人口の最富裕層10%に流れ、その多数が共産党の幹部とその家族です。最近の景気刺激策も、政治的なコネのある国営企業や独占企業に流れ、消費や効率化を妨げ、軽工業やサービス業、個人企業の技術革新や雇用を抑えています。また、共産党は中国社会に育つ市民組織を信用せず、弾圧してしますが、それらをくぐりぬけてそのような組織が増えています。

しかし共産党も、社会の変化に応じて政治システムを適応させねばならないことを理解しています。権力の濫用を抑制し、個人の自由を拡大し、社会活動のスペースを許すようになりました。1999年以来、所有権を保護し、資本家の入党も正式に認めています。指導部は集団的に意思決定を行い、指導部の交代や幹部の昇進を決める評価システムに経済運営の評価が加えられました。政治改革の可能性についても、共産党内部の学校で幅広い討論を行っています。

ただし、政治改革は地方に限定され、それでも、競争と開放度の拡大は政治的なリスクを生じます。共産党の団結を脅かし、自由が党内抗争に至る、と幹部たちは警戒します。他方、法体系・裁判所の整備は、労働者の権利を守る法律が労働争議を刺激しましたし、汚職を暴露する報道も支持されており、公衆の意見を反映する形でさまざまな制度の改革が推進されています。

中国の民主化は、西側が求めるような形を取らないでしょう。その過程は、台湾やユーゴスラビア、ロシア、メキシコの例から考察した方が良い、と論説は指摘します。そして、政治改革の次の段階へ進むにはシステムが耐えられない、と共産党の指導者たちが考える恐れもあります。民主化が進んでも、その結果、中国が平和的な国際的地位の要求から、もっとナショナリズムと敵対的な外交姿勢に変わるかもしれません。

アメリカには、世界貿易や金融、地域安全保障に関して、中国と協力する基礎を探す必要が以前にも増してあるのです。アメリカはアジアの安全保障に関与し続け、平和的な中国の成長を妨げる意図がないこと、同時に、中国は自制的な責任ある姿勢を保つべきこと、を要求しなければなりません。

FP OCTOBER 14, 2010

The Power Struggle Among China's Elite

BY KERRY BROWN

人民元、南シナ海、ノーベル賞・・・。中国の国内政治には何が起きているのか?

中国の海軍増強は、太平洋を中国の湖に変えてしまうかもしれません。また、人権、通貨問題、地球環境、いずれも中国の台頭が重要な意味を持っています。しかし、見過ごされているのは、中国の外交が共産党の国内政治を反映、特に9名の中央政治局員が支配する、という事実です。

FT October 15 2010

China: View from the inside

By Geoff Dyer in Beijing

南シナ海、ノーベル賞、人民元。これらが中国政府の対応によって不利益をもたらしていること、また、中国にとっては、どのような意味を持ったのか、解説しています。

中国の対応は、それが国内政治において十分な事情を反映しているとしても、対外的に、不利益を強めたかもしれません。Liu Xiaoboを長期に投獄したことが、彼を民主化運動の指導者にしてしまいました。南シナ海の紛争は各国にアメリカの関与を要望する声を上げさせました。人民元レートの調整も、固定を放棄した初期に数%の幅で勧めておけば紛糾する事態を回避できたでしょう。

中国の新しい指導部が、政治的な意志を欠いたまま、困難な改革を先送りしつつ、対外的には強硬な姿勢を見せるだけであれば、今後も、こうした紛争が多発するかもしれません。

NYT October 16, 2010

Going Long Liberty in China

By THOMAS L. FRIEDMAN

WSJ OCTOBER 18, 2010

China Tests New Political Model in Shenzhen

By JEREMY PAGE

FP NOVEMBER 2010

Lie of the Tiger

BY CLYDE V. PRESTOWITZ

アメリカは真珠湾よりも日本の自動車に憤慨していた。日本が1980年代の初めにアメリカの自動車会社、半導体産業、そして雇用や経済をいかに苦しめたか、しかも日本政府は計画的に重要産業を育成し、外国資本の参入を拒んだか、それを知らねばならない。日本のモデルは韓国から今や中国、アジア経済全体に広まり、アメリカの不満が再現している、とCLYDE V. PRESTOWITZは主張します。アメリカが日本を倒したのは、市場の神話によってではなかった。真実の話を知っておくべきだ。すなわち、日本が受け入れた「輸出自主規制」、そして「プラザ合意」である。

中国に同じ政略が取れるだろうか? 中国の高官は、「われわれは日本人ほど愚かではない」と言う。アメリカ政府は、当時の日本に対して持っていた効果的な交渉のテコを、中国に対して持っていない。他方、一人当たり所得や生産性の変化で見て、プラザ合意により日本は敗北し、アメリカは勝ったか? CLYDE V. PRESTOWITZはその答えが不明確だ、と考えます。

だから中国に対して、市場の神話でも、1980年代の再現でもない、新しい戦略が必要だ。

FT October 20 2010

China’s business elite is free enough

By John Gapper

WP Thursday, October 21, 2010; A21

In China, it's all about prosperity, not freedom

By David Ignatius

中国の都市の若者が求めているのは経済的繁栄であり、自由ではない。彼らは自由や開放度が少し落ちても、社会の安定性を重視する。彼らは、中国革命を導いたのが貧しい農民たちであったことを恐れている。

中国の高官は、たとえ沿岸部の都市がヨーロッパのように見えるとしても、中国の内陸部はアフリカに近い、と述べた。「安定性」という言葉を繰り返すとき、それは彼らの信条のように聞こえる。その反政治的ムードは、革命によって生まれた国家の特徴である。


NYT October 17, 2010

Rare and Foolish

By PAUL KRUGMAN

この事件では、重要な戦略物資を信頼できない政治体制の下に委ねてしまうアメリカ政府の軽率さと、容易に弾丸を撃ちたがる中国政府の好戦性に驚かされた。ブッシュ政権が石油を独裁者から解放すると主張して戦争したとき、同時に、レアメタルのアメリカにおける生産は放棄され、中国の市場独占が固まった。

中国の禁輸措置は国際法に違反している。それゆえアメリカは、1.中国以外の生産者を育て、2.中国が国際的なルールに基づく「責任ある国家」になっていないことを理解しなければならない。中国を、むしろ、「無法・経済・超大国」と呼ぶべきだ。

NYT October 17, 2010

For Our China Trade Emergency, Dial Section 301

By SHERROD BROWN

FP Wednesday, October 20, 2010

Who's the rogue superpower?

Posted By Stephen M. Walt

Stephen M. Walt PAUL KRUGMANに反対します。中国を「無法・経済・超大国」と定義するのは間違っているからです。中国が無視するルールは、アメリカが作ったものであり、しかも、アメリカも、ルールが自国の利益に合わなくなれば無視するのです。


NYT October 14, 2010

The Mortgage Morass

By PAUL KRUGMAN

NYT October 14, 2010

The Foreclosure Crises


FP OCTOBER 15, 2010

Five Zombie Economic Ideas That Refuse to Die

BY JOHN QUIGGIN


l         アメリカの金融緩和QE2

FT October 15 2010

The new threat to the global economy

アメリカの貿易赤字や通貨戦争が問題になっても、アメリカの金融政策は国内の景気回復や失業しか考慮しません。量的緩和QEがドル安を招いていても、バーナンキはわざと無視しているのでしょうか。QEの効果は疑わしく、しかも、新興諸国の不満が強まっています。さらに、それは将来のバブルやインフレを予感させます。

WSJ OCTOBER 16, 2010

Fed's Evans: U.S. in 'Bona Fide Liquidity Trap' .

By MICHAEL S. DERBY

NYT October 16, 2010

The Fed’s Next Move

FT October 17 2010

Few silver linings when gold bubble bursts

By Mark Williams

Oct. 18 (Bloomberg)

Scary IPOs Are Price We Will Pay for Zero Rates

William Pesek

WP Monday, October 18, 2010; A19

Can the Fed still rejuvenate the economy?

By Robert J. Samuelson

この政策は景気回復を促す他の手段がもうないということを示すものだ。その効果は不確かだ。何もしないよりはいい、と。他方、インフレの危険は避けがたい。

FT October 18 2010

It is folly to place all our trust in the Fed

By Joseph Stiglitz

アメリカでは金融緩和、ヨーロッパでは財政引き締めのデフレ効果を相殺する金融緩和が議論されています。しかし、経済の現状を考えれば、金融政策の効果は限られる、とJoseph Stiglitzは警告します。

Joseph Stiglitzは、失業手当など、財政刺激策を重視します。

WSJ OCTOBER 20, 2010

Bernanke's Inflation Target Misses the Mark

By HENRY KAUFMAN

Oct. 21 (Bloomberg)

Japan’s Toxic Cocktail Fails U.S. Taste Test

Caroline Baum

「日本は老人の国だ。」 アメリカはデフレ回避のために行動する。

人口の20%65歳以上である。日本の出生率は40年間も人口維持のラインを切っている。平均寿命は82歳だ。それに加えて、日本が支払不能の金融機関を整理せず、生産性の低い企業の倒産させない国であることを考えれば、それは毒性を帯びてくる。

デフレは日本の最大の問題ではない。それは病状であって、根源ではない。老人の国ではお金を長く持つ。特に、10年間も賃金が下がっているのだから。他方、アメリカは若く、成長率が低いことや、失業者が多いことに我慢できないから、政府は何かしなければならない。


l         イギリスの財政赤字削減という愚行

guardian.co.uk, Sunday 17 October 2010

Shock and awe finances

Mark Serwotka

われわれはたびたび言われてきた。「財政引き締めは避けられない。」「経済は混乱し、財政は制御不能だ。」・・・これは政治的な「衝撃と恐怖」作戦である。オズボーンは、これを好機として利用し、福祉国家解体の念願を実現しようとしている。

労働組合は自分たちの利益だけ主張する、と言われる。しかし、この財政緊縮策はさらに多くの仲間を団結させるだろう。年金生活者も、慈善家も、失職を恐れる者たちも加わって、反政府デモを計画している。保守党は「大きな家族」を掲げた。その通り。彼らはすぐに観るだろう。彼らに抗議する大家族が迫るのを。

The Observer, Sunday 17 October 2010

History will see these cuts as one of the great acts of political folly

Will Hutton

George Osborne蔵相は世界の通貨情勢を無視している。アメリカは中国を非難し、中国はアメリカを非難している。米中が独自に政策を決めれば、つまり、アメリカの金融緩和と中国の為替レート固定化とは、その影響を避けるため、他の諸国が為替介入や保護主義、資本規制に向けて動くしかない。

そんな中で、オズボーン蔵相は史上空前の緊縮予算を示した。しかし今は、米中が協調する時間を稼ぐために財政刺激策を用意するべきだ。同時に、通貨や貿易の近隣窮乏化政策にも柔軟対抗しなければならない。財政均衡を称えるのは間違っている。

The Observer, Sunday 17 October 2010

Think globally before you cut, Mr Osborne

guardian.co.uk, Tuesday 19 October 2010

To choose austerity is to bet it all on the confidence fairy

Joseph Stiglitz

リーマン・ショック後の不況回避はケインズ主義の勝利である。イギリス政府の財政赤字削減は、不況を招くだけでなく、長期的な技術革新や教育にもマイナスだ。財政赤字は刺激策の結果ではなく、不況の結果である。ポンドの減価は、ドル安が進む中では有効でない。政府の無駄遣いを批判するが、技術開発支援やインフラ整備は効果的だ。財政赤字が小さいほど投資が増えるという魔法を信じるより、今は次の財政刺激策を用意するときだ。

guardian.co.uk, Tuesday 19 October 2010

Time to broaden the debate on spending cuts

Ha-Joon Chang

FT October 19 2010

Britain and America seek different paths from disaster

By Martin Wolf

英米の財政政策に違いをもたらすものは何か? その影響は? 財政緊縮策を金融の量的緩和で相殺できるのか? 金融政策と財政政策の役割をどう考えるべきか?

財政赤字削減は長期金利を下げるから景気刺激になる。しかし、今は金利が安いから重要ではない。財政政策より金融政策の効果が迅速で正確だ、と言われるが、今はそうではない。量的緩和の効果は不確実であり、金融危機後の銀行システムが融資を増やす保証はない。金融緩和の長期的な結果として、混乱やバブルも再現しかねない。

SPIEGEL ONLINE 10/20/2010

Budget Cuts in Britain

Cameron's Risky Shock Therapy

By Carsten Volkery in London

FT October 20 2010

Chancellor spells out austerity gamble

FT October 21 2010

The end of Britain’s post-imperial ambition

By Philip Stephens


l         政治システムは、崩壊する前に改革できるか?

WP Monday, October 18, 2010; A19

When North Korea falls . . .

By Fareed Zakaria

北朝鮮。金融危機の教訓が「ブラック・スワン」であったように、地政学上の「ブラック・スワン」が北朝鮮の体制崩壊である。

北朝鮮は、まるで中世のヨーロッパです。年老いた王様から若い王子が権力を継承する。不安定な情勢を安定化させるための継承です。通貨デノミの失敗、食糧不足、内部抗争、韓国哨戒艇の撃沈。何よりも北朝鮮社会に外からの情報が流れ込んでいることは不安定化を加速するでしょう。20万台の携帯電話、やみ市場で買われるDVD、北朝鮮の貧しさ(一人当たりGDP1900ドル)と韓国の豊かさ(28100ドル)を多くの者が知っています。

ある点を越えれば、北朝鮮の人々は仕事、金、機械、自由を求めて、南に殺到するでしょう。

韓国の人々は誰も北朝鮮の崩壊と南北再統一を話題にしません。20年前の東西ドイツ再統一を知ったからです。西ドイツがGDPの5%を10年間も財政移転した結果、まだ東西の格差は残っていました。北朝鮮は韓国と比べて、人口比率がより大きく、経済格差もより大きいのです。

しかも、朝鮮半島が統一した後の国には、北の核兵器や南の米軍が残るのでしょうか? それを中国は座視するでしょうか? 北朝鮮の体制が崩壊し、朝鮮半島でカオスが広がるとなれば、北京とワシントンの激しい応酬が敵対的な主張をエスカレートさせます。人民元の為替レートをめぐる紳士的な論争など、忘れてしまうでしょう。

今すぐ、この「ブラック・スワン」について相談しておくことです。

NYT October 18, 2010

France, the Unions and Fiscal Reality

guardian.co.uk, Wednesday 20 October 2010

Sarkozy risks breaking the spirit of 1968

Lucy Wadham

フランス。なぜパリの若者たちは街頭を占拠するのか? 革命の伝統を否定するサルコジ大統領に、彼らは簡単に屈するだろうか? 19685月の街頭占拠が、あのド・ゴール大統領を倒した。政府が街頭デモに屈したことは何度もあった。ミッテランもシラクも、その改革案を取り下げた。

しかし、サルコジの政治スタイル、個性は、街頭デモを粉砕するだろう、とLucy Wadhamは考えます。それはフランスの政治を終わらせる、と。

LAT October 20, 2010

Reform must, and will, come to Russia

By Mikhail B. Khodorkovsky

ロシア。1985年生まれのMikhail B. Khodorkovskyが、獄中で7年目を迎えて、ロシア国民に改革を訴えます。彼が子供の頃、誰もがソ連は永久に存在し、何かが変わるとは信じていなかった、と。

1998年の金融危機によって、15万人の雇用者と、2ダースを越える町や入植地がユコスの経営に依存して生活していた、と。Khodorkovskyは、ユコスの経営を改善し、効率化・専門化を進めます。そして、ユコスの改革とロシアの将来を重ねて見ていたのです。民主的な、ヨーロッパの価値を共有するロシア。非営利の人権団体を支援し、反政府の政党にも資金援助しました。

ウラジミール・プーチンと彼の秘密警察の仲間たちは、権力構造のすべてを支配し、独立した反対政党も、独立したメディアも、法案の審議も必要ない、と考えたのです。

マッケイン、バイデン、オバマが協同署名した上院の決議も含めて、ロシアの外からも多大の支援を得たし、でたらめな告発と審理はロシアの裁判所も認めるほどだ。それでも2度目の判決は私を釈放しないだろう。

私は権力者たちの考えを知っている。それはソ連を死に至らせたものだ。現実を見る新しい世代の政治家たちが育っている。グローバリゼーションとそのダイナミズムに期待する。

guardian.co.uk, Wednesday 20 October 2010

In its rows about Islam, the US must avoid catching a European disease

Timothy Garton Ash

アメリカ。グラウンド・ゼロの近くにイスラム教徒の文化センターを建設する計画があり、それに反対する言葉が、近くのストリップ・バーに描かれている。全身でエロティシズムを発散するポール・ダンサーの店の外で、Timothy Garton Ashはドアマンに尋ねた。反対派の人を見かけますか? 彼女や彼はここで生活するために働いているが、そうした反対派はほとんど見かけない。そして、ストリップ・バーの存在も、テロ現場の神聖さを冒涜するわけではない。

アメリカに広がる反イスラムの熱病を危惧しつつも、アメリカ社会ではヨーロッパよりもイスラム教徒の統合化が進んでいることを称賛します。アメリカには信仰の自由があり、しかも、それを非難する自由まである。

SPIEGEL ONLINE 10/20/2010

The EU Debt Crisis

Why Europe's Avoidance of Automatic Penalties Is a Mistake

By Anne Seith in Frankfurt

FT October 20 2010

We need new rules for a multipolar Europe

By Ivan Krastev and Mark Leonard

ヨーロッパ。サルコジ、メルケル、メドヴェージェフが安全保障の会合を持ちます。国民国家が安全保障を担う時代は終わった、という「ポストモダンの理想」、統一ヨーロッパは消えました。ロシアはNATOとEUの拡大を望みません。EUの中でもトルコ加盟に反対する声はなくなりません。アメリカとの関係、イラク、アフガニスタン、中国の台頭について、外交方針はまとまりません。バルカン、東欧、コーカサス、近隣地域への影響力をめぐっても対応はさまざまです。

ヨーロッパ内で戦争は起きないでしょう。しかし、競争は続きます。重要問題でEUは機能しませんでした。彼らは多極的なヨーロッパに生きています。戦争を回避し、周辺地域や小国に生きる者のために、三つの大国が支配するのではなく、三極による合意を形成するメカニズムが必要です。

NYT October 20, 2010

Dr. Greg and Afghanistan

By NICHOLAS D. KRISTOF

アフガニスタン。オバマの増派は双方の死者を増やしただけです。むしろ、アフガニスタンで学校を建設してきたGreg Mortensonに助言を得るべきでしょう。彼の学校がタリバンの支配地区でも生存し続けたのは、それがアメリカの「占領」ではなく、住民たち自身の学校であったから(「所有権」)です。

Greg Mortensonたちに学校を建ててほしいという要望が、毎月、50の村からあります。アメリカ兵一人がアフガニスタンに駐留する年間費用で、学校を20校建設できます。「アメリカは記者会見を開き、兵士243名を帰還させる。そして、その駐留費用をアフガニスタンの大学に寄付する、と発表する。」・・・これはナイーブな提案か? 否、プラグマティックな考えだ。

FT October 21 2010

Overhaul the G20 for the sake of the G172

By Robert Wade and Jakob Vestergaard

20。彼らは正当性・正統性の問題に答えていません。世界金融危機が不況を拡大しないために、G7が行動するだけでは不十分でした。アメリカとドイツの財務省が中心になって決めたG20は、「世界人口とGDPにおいて高い比率」を占めます。しかし、それから除かれた国連加盟国は172カ国あり、彼らから見て十分な説明にはなっていません。

Robert Wade and Jakob Vestergaardは、4つの基準で、新しい世界経済会議(GEC)を提案します。1.世界人口(2%超)、2.世界GDP(購買力平価)、3.地域のバランス(選挙)、4.信頼関係を築ける小グループ、です。これらの基準を満たす23カ国によるGCEは、新興諸国の参加や地域のバランス、経済力の変化を正当に反映します。

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The Economist October 9th 2010

The quest for growth

How to grow: A special report on the world economy

(コメント) 世界経済の均衡と成長を求めて、各国はそれぞれの役割を果たす国際協調に参加しなければなりません。アメリカと中国が為替レートで激しく論争するより、豊かな諸国の問題と、新興諸国の問題が、互いに他国の均衡回復を妨げることなく、順調に調整できる余地を見いだせるでしょうか? 特集記事は、主要国や主要問題を指摘して、アメリカの刺激策とユーロ圏の緊縮策など、対立を緩和し、合意するための条件を示します。

それは結局、各国の制度改革(そして、ガバナンスの革新)による生産性の改善なのです。「ヨーロッパは必ずしもアメリカのようにならなくてよい。ヨーロッパでもっとも優れた成果を示す国からそのモデルを取り入れればよい。・・・ギリシャの労働市場改革。スペインの非常に穏健な改革。」

スウェーデンでは、25歳から54歳までの女性の88%が働いており、子供への手厚いデイ・ケアの提供や、夫婦が別に納税するため、どちらかが新たに働く場合の高い限界税率を回避している。また、高齢者のより多くが労働市場にとどまっている。「ヨーロッパは、デンマークの失業対策、若者の就労からも学ぶことができる。」そして、日本とスウェーデンとを比較して、規制緩和を支持し、競争を取りこんで流通・銀行サービス部門の生産性を高めることを求めています。


The Economist October 9th 2010

Zimbabwe: Call Robert Mugabe’s bluff

Zimbabwe: Can Robert Mugabe ever be persuaded to give up?

Latvia’s election: Guts and glory

Aquifers: Deep waters, slowly drying up

Buttonwood: The magic bullet

Economics focus: Flood barriers

(コメント) ジンバブエの連立政権がムガベの支配を解体できなかったことを認めつつ、それでも経済危機の末に、周辺諸国の監視による公正な選挙や制裁の解除、支援策を基に、いよいよムガベの権力が終わりに向かう見通しを述べています。他方、通貨・金融危機から激しい経済不況に陥りながら、それでもユーロ加盟を目指して緊縮策を選択した政府が、常識を覆して、選挙に勝ちました。

「共有地の悲劇」として、国境を越えて広がる地下水の枯渇は深刻な影響を及ぼしており、国際条約が必要です。金価格、国債、株価が、同時に、すべて上昇する謎を考えています。それは量的拡大策の不安定さも示します。