IPEの果樹園2010

今週のReview

10/18-10/23

 

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IPE研究ノート 10/18/10

ノーベル平和賞からチリ鉱山の救出劇へ、世界の関心は瞬く間に地球を移動します。チリの地底から救出された男たちは誇らしげに家族を抱きしめ、自国を称えました。他方、ノーベル平和賞を拒み、尖閣諸島紛争後の反日デモが再燃しつつある中国に、東アジアは不安の影を濃くします。

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居間で休憩していたとき、偶然、教育テレビの「ハーバード白熱教室の衝撃」を観ました。マイケル・サンデル教授の対話形式の講義に影響されて、日本でも同じような講義に挑む教師たちが増えたようです。

白熱教室の一つの場面が紹介されていました。・・・(問いかけを聞いていませんが)結婚はなぜするのか? ・・・子供を育てるためだ、とある男性は応えます。それについて、女性が反対します。・・・結婚してから子供ができないと知ったら、どうするのか? セックスにはほかにも意味がある。 ・・・高齢者の結婚にも意味がある。 ・・・あなたはマスターベーションをしますか?

しかし、サンデル教授はここで議論を止めて、彼らの貢献を称えつつ、討議の仕方に注意を与えます。第三者として(あるいは、第三者に)話すように意見を述べる。あなたは、ではなく、彼が、と。つまり、一般的な形で議論する。相手を非難しているのではない。問題は、誰が言ったかではなく、何を議論したか、である。

東大で行われた「白熱教室」の後、3者(サンデルと二人の日本人)が鼎談しました。日本人は周りの視線を気にするから、サンデル教授の講義は、アメリカ人の個人主義的な特質に依存しているのではないか、と意図的に普遍性・公共性を傷つけます。サンデル教授は、日本の学生も対話に応じてくれたから違いは無いと思う、と応えました。東大の学生は同じように自分の意見(そして自信)を示す、と。

人前で話すためには、勇気、自信、スキル、が必要です。そして、もちろん、教師の側にもスキルや準備が必要なのです。しかし私は、明確な答の無い議論を展開することに、いつも難しさを痛感しています。答がある問題を教えることとは全く異質の説得力を要するからです。それは様々な意見や考え方の違いを理解し、その意味や、違いが生じる理由・背景を説明し、つまり問題の源泉をさかのぼって(できれば正しく)組み立て直す作業が必要だ、と説得しなければなりません。

それだけでなく、道徳や価値については、常に、それが形成・変形しつつあるという難しさがあるでしょう。サンデル教授は、将来の計画、自分の夢を応えています。「グローバルな白熱教室を毎週開いて、正義、民主主義、公共善、について議論を深めたい。世界中から学生たちが参加し、討議に参加する。そして普遍的価値を見つけたい。」 なぜなら、そうすることが、ダイナミックな、「民主的な社会を築く」ことにつながるから。

ポリスの討議が行われた民主的な会場が、サンデル教授の開設したインターネット・ハーバード大学に再生します。そして、グローバル・ポリティクスや、世界市民、哲人たちが築く都市国家も。

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チリの鉱夫たちは鉱山事故から生還した英雄です。中国でも多くの鉱山事故が起きていると読んだことがあります。それを知っていたら、地上に戻った鉱夫たちのリーダーが、こうした事故が起きないように中国政府にも要求してほしい、と述べたかもしれません。

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サンデル教授の最高の技は、ジレンマを用いた講義である、と授業の後にその教師は確認しました。・・・答がない。答を出さない。答えない。

「好きな人に、自分が被差別部落の出身であることを告げるべきか?」

告げる人も、告げない人もある。ともに、その道徳的理由、功利的理由、社会規範や共同体の制約、などを考える。しかし、最終的な答えは無い。私も論考で、日本が目指すべき将来の国際通貨制度について、答を出しませんでした。

人種差別や移民問題は、さまざまな社会的軋轢や政治的特権を正当化し、不安や苦痛を間違った形で転嫁するように仕向ける社会的メカニズムです。だから、トルコ人に化けたドイツ人ジャーナリストの報告(『最底辺』)が面白いし、白人たちに支持された黒人を差別するラジオ番組の人気ディスクジョッキーが、実は、彼自身、目の見えない(つまり自分を黒人とは知らない)黒人であった、という逆説を楽しむのです。

「地球を作り変えるとしたら、どうするか?」

他の教師は学生たちにこう問いかけました。さて、学生たちは面白い答えを出してくれたのでしょうか? 番組はそれを紹介していません。この問いは、私の好きな、宇宙人や神様の目で見た社会・政治問題の解決法と同じです。また、地理的、歴史的、SF的な想像力を駆使します。

サンデル教授の目指す「公共善」というテーマは、挑戦的で、魅力的です。それこそが対話式の講義を動かすパワーになるのです。政治経済学は、物理学であるより、公共哲学だと思いました。

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中国とノーベル平和賞 ・・・アメリカと世界不況 ・・・EUとユーロ改革 ・・・世界通貨戦争か、構造調整か? ・・・アジアのガバナンス ・・・インド経済の可能性

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


l         中国とノーベル平和賞

FP OCTOBER 6, 2010

The Prize China Didn't Want to Win

BY NICHOLAS BEQUELIN

ノーベル平和賞の発表は中国のメディアに載らなかった。テレビ放送も中断された。

中国政府はほとんどの国際賞を熱望する。ただし例外もある。特に、平和賞候補に挙がったLiu Xiaoboが受賞するのは嫌っていた。彼が草案作成に参加した「憲章08」は中国の民主化を求めたからだ。そして、中国のハヴェルと呼ばれた。

中国政府はLiu Xiaoboへの平和賞授与を「完全な間違いだ」と警告していた。しかし、ハヴェル自身が選考委員会に彼の受賞を強く推薦した。

guardian.co.uk, Friday 8 October 2010

Liu Xiaobo wins Nobel, reform loses

Nick Young

WP Saturday, October 9, 2010;

Chinese dissident's Peace Prize honors all such activists

WSJ OCTOBER 8, 2010

Liu Xiaobo Wins Nobel Peace Prize

By JEREMY PAGE

NYT October 8, 2010

Nobel Prize for Dissident Is Seen as Rebuke to China

By EDWARD WONG

「ガバナンスの民主的モデルに対して中国ほど重要な挑戦者はいない。89年間も共産党が政治運動を鎮圧し続け、同時に、疑似市場経済が流星を続け、社会的安定性の見せかけを押し付けてきた。」

「チベットの精神的指導者で亡命中のダライ・ラマは1989年のノーベル平和賞を受賞した。彼はLiuの受賞を祝って、中国の草の根による改革運動に注目した。「中国の将来世代が、責任あるガバナンスを求める現在の中国市民の奮闘とその成果を享受できる。」 しかし、ダライ・ラマ自身が中国における権利の闘争で苦しみ、ノーベル平和賞を受賞したことがいかなる前進にもつながらなかったことを示している。」

FP OCTOBER 8, 2010

China's Burden of Shame

BY KWAME ANTHONY APPIAH

NYT October 8, 2010

Liu Xiaobo

WP Sunday, October 10, 2010; B02

Supporters of China's Liu Xiaobo should be wary of his Nobel Peace Prize

By Ronald R. Krebs

WSJ OCTOBER 9, 2010

A Nobel Vision of a Better China

By PERRY LINK

Oct. 11 (Bloomberg)

China Nobel Guys Shouldn’t Hold Breath

William Pesek

「中国のプロパガンダ機関がノーベル平和賞を無視し、破壊するのはもちろんだ。

ノルウェー政府から独立の委員会が決めたことなど関係ない。ちっぽけな国はすぐに中国の指導者を憤慨させたことに気づくだろう。25000億ドルの外貨準備があれば、ノルウェー経済を6個半も買える。

より重要なことは、劉の受賞など無意味なことだ。13億人の人口、世界第2位の経済規模は変えられない。

その中国の進む道を変えろと言うなら、ノーベル委員会はふざけている。1991年に、アウン・サン・スー・チーが受賞してミャンマーが変わったか? 1975年に、サハロフが受賞してソ連で何か起きたか? 1970年のソルジェニーツィンが文学賞を得たことでソ連政府は政策を再考したか? そんなことは起きなかった。

2009年にオバマ大統領が受賞したけれど、彼の国内および世界における立場は改善されなかった。2005年にエル・バラダイが受賞しても核兵器の拡散は変わらなかった。韓国の金大中が平和賞を受賞してから10年たっても、北朝鮮の金正日は軍備を増やし続けている。」

いかなる国家も急速に台頭する過程では不安定さを免れない。しかし、中国はこれを嫌う点で際立っていた。世界が望むように、外からの批判に応えるより、敵意を示し、弾圧する。それは漁船の船長を拘束した日本に対してとった極端な態度で見たばかりだが、Liuの受賞でそれを再現したのだ。米中間の為替レートをめぐる論争も続いている。

世界は今の中国が自国の銀行や株主になるのを好まない。ステークホルダー(責任ある受益者)になってほしいのだ。ともに国際システムを再建できる中国を求めている。

SPIEGEL ONLINE 10/11/2010 03:37 PM

Wife of Nobel Peace Prize Winner

'Government Officials Like to Make People Suffer'

Liu Xia

guardian.co.uk, Tuesday 12 October 2010

Keeping the pressure on China

Wu'er Kaixi

guardian.co.uk, Wednesday 13 October 2010

This Nobel prize was bold and right – but hits China's most sensitive nerve

Timothy Garton Ash Stanford, California

この決定は受賞者にとっても良くなかったのではないか? かつて、サハロフ、ワレサ、ハヴェルについても言われたことだ。いずれの国でも、反体制派たちは受賞を恐れる。それが新しい弾圧の始まりになる、と。

「知っておかねばならないことは、中国が前例のない権威主義的資本主義であり、多くの人々を貧困から救い出し、市民に満足な暮らしを提供していることだ。ビルマや、アパルトヘイト時代の南アフリカと違って、中国の国家は人民から多くの支持を得ている。問題が起きるのは、経済成長が減速するときだ。」

中国政府は、民主化や自由という、「西側の価値」を認めない。中国からの脅迫に屈するか、文化的な分断を認めるか、真の普遍的な価値について議論するか。

FT October 13 2010

Chinese whispers on political reform

YaleGlobal , 13 October 2010

Once a Winner, China Sees Globalization’s Downside – Part II

Jeffrey Wasserstrom

FT October 14 2010

Political stasis is China’s Achilles heel

By Jonathan Fenby

19896月に抗議運動を暴力的に弾圧して以来、中国本土で政治は重要でない、という前提ができている。しかし、政治的自由化を避けたことは、中国社会がより流動的になり、その経済がより複雑になるとき、中国にとってのアキレス腱になるだろう。」

中国国内で、改革派と保守派との勢力争いが続いています。また、個人レベルでは自由が大幅に許容されており、体制レベルで反対派を弾圧する姿勢と全く異なります。貿易と経済規模の急速な成長にもかかわらず、経済を国家が管理する結果、さまざまな非効率が生じています。

改革派は、その限界を知り、問題を克服するために、説明能力の高い、責任ある政府を求めています。改革を拒み、中国の変化を硬直的なシステムに閉じ込めようとすることこそ、いったん、物質的な問題(輸出の落ち込み、インフレ、食糧不足、など)に直面したとき、危険なのです。


l         アメリカと世界不況

FT October 7 2010

Stalled post-crisis reforms must be restarted

By Mohamed El-Erian

20による国際協調で世界恐慌は回避された、と安心するのはまだ早い。特にアメリカ経済が減速する中では。協調の姿勢にも陰りが見える。

工業諸国は景気循環だけでなく構造調整に立ち向かうべきだ。金融財政の刺激策も十分ではないが、もっと税制改革やインフラ投資、住宅金融の改革、教育・研究開発の促進、社会保障、雇用促進、中期の財政再建、などで成果を示すことが必要だ。

新興諸国は、中国に代表されるように、もっと生産者より消費者を重視しなければならない。年金制度や医療・教育システムを整備し、中産階級の購買力を高めるべきだ。

FP OCTOBER 8, 2010

Divided We Fall

BY CHARLES DALLARA

WP Sunday, October 10, 2010; B03

Treasury Secretary Timothy Geithner tackles five myths about TARP

By Timothy F. Geithner

FT October 11 2010

Bernanke needs inflation for QE2 to set sail

By Michael Woodford

FT October 11 2010

The unfinished business of reform

FT October 12 2010

America should open its vaults and sell gold

By Edwin Truman

さまざまな不確実性やインフレに対して、世界の金需要は増加し、金価格は上昇している。さまざまな改革が唱えられる一方で、アメリカ政府の立場で考えれば、金を売るチャンスだ。アメリカの財政赤字を減らし、刺激策の余裕と政治的合意を得る。

アメリカは26000万トロイオンス余りを保有し、1300ドルで換算すれば3400億ドルに相当する。その問題点や売り方はどうか。

FT October 13 2010

The Fed feels compelled to experiment

By Mohamed El-Erian


l         EUとユーロ改革

Foreign Affairs, September 29, 2010

Eurozone Crisis as Historical Legacy

The Enduring Impact of German Unification, 20 Years On

Mary Elise Sarotte

よく知られているように、ユーロ誕生はドイツ再統一の一部であった。20年経って、その問題がユーロ危機に影響している。マーストリヒト条約には欠陥があったし、ドイツ再統一は、ドイツのユーロ圏に対する政治的関与を低下させた。

198911月にベルリンの壁が倒れてから、ユーロに向けた合意がIGC(政府間会議)で決まるまで、1年しかなかった。それは西ドイツのコール首相とフランスのミッテラン大統領が取引したからだ。ドイツ統一に対するヨーロッパの支持と、西ドイツの中央銀行・ドイツマルクの独立性を放棄すること、が交換された。ユーロ誕生は世界の通貨史における最大の事件である。皮肉なことに、その政治的影響を重視しただけで、二人は経済や通貨の専門家ではなかった。

1992年に承認されたマーストリヒト条約は、あまりにも金融市場を過信し、政治的な協力の重要性を無視したものだった。しかし、今回の危機は、マーストリヒト条約が示した参加条件が間違っていたことを示した。ユーロの成功を参加する国を増やすことに求め、基準を甘くした。そして、いったん参加できた国では金利が低下して、ギリシャなど、信用拡大による経済の膨張が生じた。他方、加盟国の増加は政治的な意思決定を麻痺させた。

さらに、ドイツはヨーロッパ統合への関与を弱めたし、マーストリヒト条約にはユーロ圏の金融危機に応じた救済融資・市場介入が含まれていなかった。最後に、ドイツを含めて、ユーロ圏の経済ガバナンスが欠如していた。それはドイツが東西マルクを11で統一するという失敗のために、競争力を失った東側のために莫大な再建費用を要し、財政赤字とデフレを続けたからだ。結局、安定協定は無視されてしまった。

危機はユーロの終わりではない。欠陥を含んだマーストリヒト条約の改革が必要だ。

NYT October 7, 2010

Europe! Europe! Europe!

By ROGER COHEN

ベルリンの壁が倒されたとき、人々は熱狂的に叫んだ。Europe! Europe! Europe! しかし、それ以後は、誰もヨーロッパを望まない。ヨーロッパ合衆国の理想主義は単一通貨で一時的な高揚をもたらしたけれど、慢性的な偏狭さが対立を生じて、消滅に向かった。ヨーロッパの中枢であるべきベルギーが分裂寸前であり、オランダでも極右政党が反移民政策で支持を集めた。

「根本的な政治的シフトが起きたのだ。左派と右派という旧対立は、リベラルな社会的価値とグローバル資本主義が支配的な中心部で曖昧になった。それ以外の地域では、反移民、反イスラムのポピュリズム政党が、経済崩壊、アウトソーシング、大規模移民への不安によって支持を広げている。」

ヨーロッパは自由な議論を抑え、官僚たちによって計画されたものだ。Europe! Europe! Europe! ・・・彼らの叫びは人種主義的な情念と合致しない。それは、アメリカを倒すぞ、という願望であった。

Oct. 8 (Bloomberg)

Boom-to-Bust Blame Lies With Europe’s Watchdogs

Paul De Grauwe

ユーロ圏に属する国は、その経済についてヨーロッパの金融当局が責任をもつべきだ。ユーロ債務危機の原因は、この10年に加盟国間で生じたマクロ経済状態の乖離である。南欧とアイルランドではバブルが生じているのに、北欧では低成長になっていた。ブームが終わり、バブルが破裂したとき、いくつかの政府が財政赤字と債務危機に直面した。

それはユーロ圏内の金利が一つになったため、実質金利が低下した国でバブルを生じたのだ、と説明されるが、イタリアでは起きなかった。もう一つの説明は、アニマル・スピリッツ、楽観と悲観の波、である。ユーロ圏は統合されておらず、こうした変動が地域によって大きく異なっている。その結果、地域によって競争力が大きく損なわれた。過度の楽観的な地域は信用の膨張と賃金・物価上昇が生じたからだ。

金融政策によって対処するべきだが、ユーロ圏内の地域的な差をECBは考慮できない。景気循環を抑える財政政策で対応できるはずだが、EU財政は意思決定が硬直的で機能しない。またユーロ圏の合意が各国政府の政策を縛っている。

しかし、ECBは物価の安定を唯一の目標にしており、独立性を保障されているから、それはできない、という答えは間違っている。ECBは物価の安定だけでなく、金融秩序の安定化にも責任がある。それは各国の経済条件を監視しなければ実現できない。信用の膨張を抑える各国ごとの政策が必要である。

FT October 10 2010

The euro: Dinner on the edge of the abyss

By Tony Barber

FT October 10 2010

The eurozone is wrong to look for the exit

By Wolfgang Münchau

FT October 12 2010

Making eurozone safe from failure

ユーロ圏の解体を懸念するのは間違いだ。ユーロ圏は参加した国を追いだす決まりをもたないし、離脱を望む国もない。その後も加盟を希望する国は続いている。

むしろ、ユーロ圏で金融システムが崩壊し、その後の経済不況が緩和されない、という問題が重要だ。「ユーロ圏の問題は非対称的なマクロ経済状態にあるのではなく、黒字国の貯蓄が消費ブーム(ギリシャ)や非生産的な過剰投資(スペイン、アイルランド)に浪費されたことにあった。それゆえ課題とは、こうした国境を越えた貯蓄の移動を真の経済的機会に結びつけることである。金融的な移動を制限することではない。」

経済的ガバナンスが議論されている。ルールを正しく決めることは重要だ。赤字国への規律だけでなく、黒字国の無責任な政策を是正し、金融過熱で破綻する国への救済融資や債務削減を行う仕組みが必要である。

SPIEGEL ONLINE 10/13/2010 06:11 PM

Silver Lining of EU's Woes

Euro-Zone Crisis Presents Opportunity for Greater Unity

A Commentary by Stewart Patrick

WSJ OCTOBER 14, 2010

An EU Recipe for Contagion

ユーロ圏に預金保険を導入しても、金融監督は十分に行えず、むしろ危機を感染させるだろう。


FT October 7 2010

Caught between bombing Iran and an Iranian bomb

By Philip Stephens


l         世界通貨戦争か、構造調整か?

 (chinadaily.com.cn) 2010-10-02

Troubling currency interventions

By Harold James

日本の為替介入は欧米の反発を招き、あるいは、アジアに追随国を見出した。1980年代は、こうした介入が行われた実例である。1982年のヴェルサイユ・サミットでこの問題が初めて国際外交の議論に付された。

結局、フランスのPhilippe Jurgensenが報告書を作成した。「貿易を損なうような浮動性に対しては有効な手段である」と合意した。それは、個別の国や国際的な調整過程に「過度」の浮動性が「有害な結果」をもたらすと認めたのだ。何が過度の浮動性か、合意はなく、アメリカもヨーロッパ諸国も自分たちが正しいと考えた。

プラザ合意にはマクロ政策の言及は無かったが、ドル安が進んだ時点のルーブル合意で「目標相場圏」や「参考レンジ」が議論された。それは政策協調に関する新しい明確な合意であったが、合意された為替レートは続かなかった。

ルーブル合意は、単に効果がなかっただけでなく、今から見れば、為替レートを高度な政治論争にする引き金を引いたものだった。どの国も自国の利益を優先したアプローチを提案した。アメリカは特に、国際システムへの圧力を緩和するために拡大政策を取れ、という強い圧力を日本にかけた。その結果、金融緩和が80年代後半に行われ、日本の資産価格のバブルが膨張した。バブル崩壊は、日本の「失われた10年」という停滞を直接に導いたように見える。日本は、外圧が危険な、破滅的な政策を強いた、と考えている。

この話は米中の論争に影響を及ぼしている。中国側はアメリカが、日本と同じような経済的「ハラキリ(切腹)」を敷いている、と反発する。

しかし、正しい教訓とは、為替レートをマクロ政策で動かすことはできない、ということだ。中国は、すでに当時の日本と同じく大幅な財政赤字を出しているから、これは重要だ。為替市場を動かす民間取引額は大幅に増大し、もはや中央銀行が効果的な介入を行うことは無くなった。

中国の人為的な固定為替レートを観て、日本の菅首相やフランスのサルコジ大統領は、来年フランスで予定されるG20において、「より良い」為替レート制度を議論するというが、それは銀行家たちに為替市場で儲ける賭けを増やすだけだ。

FT October 7 2010

China’s unbalanced growth has served it well

By Yukon Huang

「為替レートの調整は解決への道ではない。」と温家宝首相は警告しました。中国にそれを強制することは、「世界にとって破滅を意味する。」

「定義により、経済成長派消費、投資、純輸出によって決まる。消費主導の方法で長期にわたって急速な成長を実現した国は一つもない。中国の場合、通常の見方とは逆に、純輸出はこの10年間の成長のわずか10-15%しか説明しない。実際、中国ほどの規模であれば、異常な高投資率なしに、30年間も2ケタの成長を維持することはできないだろう。」

つまり、問題は貿易不均衡ではなく、この投資依存から消費依存に成長モデルを転換していく、中国国内の問題なのです。それを決めるのは、Yukon Huangによれば、非効率な投資より、現在の工業化戦略がもたらす環境破壊や所得分配の不平等に対する不満です。

FT October 7 2010

Global economy: Going head to head

By Alan Beattie

WSJ OCTOBER 8, 2010

The U.S. Will Lose a China Trade War

By DEE WOO

FP Friday, October 8, 2010

The currency war starts not with a bang, but with buckpassing

Posted By Daniel W. Drezner

WSJ OCTOBER 9, 2010

Financial Leaders Discuss Currency Rules

By IAN TALLEY AND TOM BARKLEY

関係者たちが合意したことは、IMFが世界の通貨政策に対する監視と判定のため、ルールの明確化に取り組む、ということです。

NYT October 8, 2010, 2:30 pm

Euphemisms for China

By JUSTIN WOLFERS

FT October 10 2010

Time to get tough with China

By Clive Crook

FT October 10 2010

Battle lines drawn over currency war

By Chris Giles and Alan Beattie in Washington

WP Sunday, October 10, 2010; A15

What to do about China's currency?

Topic A

C. Fred Bergsten, はアメリカが三つの方法で人民元の調整を求めることを主張します。1.ガイトナーは中国を、為替レートを人為的に操作する国、と認定する。2.他の諸国と一緒に、中国をWTOに訴える。3.中国の為替介入を相殺する通貨介入を行う(人民元資産を購入する)。

ほかにも、Mark Zandi, Douglas Holtz-Eakin, Kenneth Lieberthal and Rep. Sander M. Levinが応えています。

WSJ OCTOBER 10, 2010

IMF Meeting Fails to Resolve Conflict Over Currencies

By BOB DAVIS

FT October 11 2010

The genie of global finance is out of the bottle

By Sebastian Mallaby

国際不均衡、通貨摩擦、為替レートの不安定化、など、各国は為替介入を求め、それができるように資本移動を規制し始めています。しかし、どうやって? とSebastian Mallabyは批判します。いったん資本市場が世界統合し始めれば、2度とそれを逆転できない。政府が市場を管理する、というアイデアは実現しない。

YaleGlobal , 11 October 2010

Once a Winner, China Sees Globalization’s Downside – Part I

David Dapice

FT October 12 2010

Why America is going to win the global currency battle

By Martin Wolf

世界経済は「力強い、均衡のとれた、持続的な回復」を求めています。しかし、その調整は困難な二つの問題を協力して解決しなければ実現できません。Martin Wolfは、内的リバランスと外的リバランスに分けて考えます。

まず、内的リバランスとは、金融危機後の財政赤字から、民間需要によって経済が成長することです。外的リバランスとは、アメリカや先進諸国が輸出によって成長し、中国など、新興諸国の国内需要が増えることです。つまり、先進諸国は債務を減らし、新興諸国は投資を増やし、輸出より国内需要を増やすのです。

問題は、Martin Wolfが注目するように、これをアメリカの一方的な金融緩和によって実現しつつあることです。アメリカは日本の停滞をもたらしたデフレ・スパイラルに向かっていることを心配しています。しかし、アメリカがドルを供給し続ければ必ずドル安と世界インフレを実現でき、この点で、負けることはあり得ません。他方、黒字国は通貨の増価やインフレを強いられるのであり、それら嫌う中国は資本流入を阻止し、人民元レートを管理しています。

世界は、人民元レートの適切な水準について論争しているのではなく、この調整過程をめぐって論争しているのです。単純化すれば、世界リフレを求めるアメリカと、赤字国のデフレ調整を求める中国です(そしてギリシャに求めたドイツ)。

Martin Wolfは、この点で、中国は間違っている、と考えます。アメリカの景気回復が失敗すれば、それは中国の成長も破壊するからです。次のソウルG20で、双方(そして主要諸国)が協力して調整を進める「相互監視システム」に合意することです。

Oct. 12 (Bloomberg)

China Needs to Move Slowly on Yuan Revaluation

Michael Pettis

「世界は中国に対して忍耐強くあらねばならない。数年にわたって、この13億人の国民は自国のバランス回復に苦労するのであり、それが世界中に不満を巻き起こすだろう。」 しかし、だからこそ今、国際協調が必要だ、とMichael Pettisは主張します。

温家宝首相はブラッセルでヨーロッパの実業界に訴えました。アメリカの人民元非難に同調しないように、と。ユーロは最近も動揺を経験したが、「その原因はドルにある。人民元ではない。」

中国が消費を増やすことは容易でない。なぜなら投資を続けなければ成長が減速し、消費も破壊するからだ。この成長パターンを破壊することは難しい。

失業率を気にしながら、中国は緩やかに成長を転換させるだろう。

SPIEGEL ONLINE 10/12/2010 12:13 PM

'Matters Could Escalate'

Economist Raghuram Rajan Warns of Currency Conflict

Raghuram Rajanへのインタビューです。・・・工業諸国は金融緩和を進め、これに対して新興経済は資本規制や為替介入で対抗する。そのどちらも市場に歪みをもたらし歪みを拡大する。為替レートが低すぎれば貿易戦争を招く。

Raghuram Rajanは、中国には保護政策が必要ない、と考えます。人民元を低く抑える時期は過ぎたのです。今では不要であり、非効率で好ましくない。・・・ところが中国の姿勢では、まだ、これを受け入れるのに時間がかかる。アメリカ議会は待てない。

この対立を緩和するために、Raghuram Rajanは、アジアの新興諸国が中国にそれを説得し、一緒に増価することだ、と考えます。また、為替レートだけの問題ではない。アメリカの住宅バブルや金融危機にも不均衡の原因はある。金融革新を貧しい人々の消費や住宅購入に結び付けた。今では、世界の需要を奪い合うゼロサム・ゲームだ。

それから大恐慌の教訓を考察し、超金融緩和とバブル再来や持続可能でない財政刺激策に頼る姿勢を批判します。・・・ではどうするのか?

需要はある、とRaghuram Rajanは考えます。それは中国(そして新興市場の成長)にあるのです。今までと違って、われわれの企業に、国内市場ではなく新興市場に売るだけの力があるか?

FT October 13 2010

Currency warning to S Korea and China

By Mure Dickie and Lindsay Whipp in Tokyo and Christian Oliver in Seoul

WSJ OCTOBER 13, 2010

The U.S. Will Lose a Currency War

By YIPING HUANG

ドルが価値を失う中で、新しい通貨戦争の気配が強まっている。G20は、通貨介入の一方的な非難ではなく、双方の構造改革を議論するべきだ。そのほうが、アメリカの一方的な通貨政策よりも、はるかに持続的な利益につながる。

ところがG20の方針はそうなっていない。間違った先例があるからだ。1985年のプラザ合意はドル安に協力したが、それは失敗だった。円は1ドル=250円から80円まで強くなって、それでも経常収支黒字はなくならなかった。次のG20がプラザ合意を再現する政治的条件は無い。

アメリカの貿易制裁や相殺的な為替介入は無駄だろう。中国には資本規制があり、アメリカには財政赤字がある。為替レートが不均衡のすべてではないことを認めるべきだ。アメリカはもっと貯蓄しなければならないし、中国はもっと国内消費を抑えている政策や制度を変えるべきだ。

guardian.co.uk, Thursday 14 October 2010

The currency war is phoney

John Ross


SPIEGEL ONLINE 10/08/2010

SPIEGEL Central Asia Special

The New Great Game

SPIEGEL ONLINE 10/08/2010

'A Completely Lawless Place'

Kyrgyzstan Has Become an Ungovernable Country

By Erich Follath and Christian Neef in Osh, Kyrgyzstan

WSJ OCTOBER 4, 2010

Kyrgyzstan's Hopes, and Fears

By BAKTYBEK BESHIMOV AND SAM PATTEN

FT October 11 2010

The Kyrgyz test

議院内閣制を採用したのは、強力な大統領が独裁政治を復活させないようにするためです。それは民衆の反政府デモで倒され、5年後に再び倒されました。また、多様な人種を含む国家では、代表を正しく議会に送ることで政治的な正当性を得られる、と考えたのです。旧ソ連圏では、ほとんどが大統領制です。アメリカとロシアがともに軍事基地を置くキルギスタンの実験に、関心が集まります。


FP NOVEMBER 2010

Avoid the Double Dip

BY NOURIEL ROUBINI, MICHAEL MORAN

(chinadaily.com.cn) 2010-10-12

Can developing countries carry the world economy?

By Dani Rodrik

NYT October 13, 2010

The Next Bubble


l         アジアのガバナンス

Foreign Affairs, September 27, 2010

Keeping the Pacific Pacific

The Looming U.S.-Chinese Naval Rivalry

Seth Cropsey

中国が開発した「対艦弾道ミサイル(ASBM)」をめぐって、アジアの安全保障をアメリカに変わって中国が担う時代を考察します。黄海の米韓合同軍事演習、日本の尖閣諸島、東シナ海の島の領有、など、アメリカが予想する軍事的コストが増えれば、紛争の性格が変化します。

アメリカがこれにどう応えるかが重要です。

guardian.co.uk, Monday 11 October 2010

China's global quarrels

Simon Tisdall

FT October 11 2010

US warning to China on maritime rows

By Ben Bland in Hanoi, Geoff Dyer in Beijing and Mure Dickie in Tokyo

 (chinadaily.com.cn) 2010-10-12

The future of power

By Joseph S. Nye

世界政府は無いが、グローバル・ガバナンスはすでにある。

さまざまな国際機関と主要国の指導力が重要だ。問題ごとに多くの組織化が行われている。しかし、余りに多くの国が難しい意思決定に参加することはできない。ネットワークが発達することで政策への影響力はさらに広まった。

重要なのは、主要諸国の協調行動だ。

 (People's Daily Online) 2010-10-13

Can the US slow down the rise of China?

By Han Xudong

WSJ OCTOBER 13, 2010

Japan's Rare-Earth Jolt

By MICHAEL AUSLIN

WSJ OCTOBER 14, 2010

Where China Is Headed

By EDWARD STEINFELD


FP NOVEMBER 2010

A Plan B for Obama

オバマ外交には新しい発想が必要だ。前任者が残した二つの戦争と経済危機によって、オバマと支持者たちの楽天主義が失われてしまわないために。残りの2年間をオバマが活動するにふさわしい野心的計画を特集する。

WP Tuesday, October 12, 2010; A17

Obama's Carter problem

By Richard Cohen


FT October 13 2010

Britain’s austerity apostles duck the debate

By Robert Skidelsky

イギリス政府は今後5年間にわたって政府支出を5%も削減する方針です。それは、「クラウディング・アウト」や「リカードの等価命題」で正当化されますが、現在のような失業と余剰資源がある状態では間違いです。

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The Economist October 2nd 2010

India’s surprising economic miracle

Business in India: A bumpier but freer road

(コメント) インド経済の可能性に注目した記事がおもしろいです。治安も悪く、交通も混乱して、ボロボロの印象があるインド経済に、中国の成長を凌駕するほどの、どんな可能性があるのか?

記事は、一つは人口、もう一つは民主主義だ、と考えます。一人っ子政策を実施した中国と違って、インドはそのような人口管理に失敗したおかげで、まだこれから若い労働者が増え続けます。アジアの奇跡を次々に導いた条件を、今度は、インドが手に入れます。中国では、長期的な利益のバランスを取る政府が支配しているので、開発がスムーズに行えると言われます。しかし、インドは国家が弱く、むしろ民間部門が強いのです。無数の中小企業が経済機会を求めています。さまざまな要求に合わせて新しい商品を作り、英語を話す実業家たちが世界クラスの企業を育てています。中国の経済成長は、人民元レートの変更や次の独裁者によるリスクを免れません。

もちろん、インドの可能性を阻む問題も多くあります。成長できなければ人口増加も無意味です。インフラの未整備、例えば交通渋滞、熟練労働者の不足、それは賃金を上昇させる、政治的不安定性、過激派や政治家たちのポピュリズム、政治・官僚層の腐敗。中央政府が決定したことに、裁判所や世論が反対し、政策が阻まれます。


The Economist October 2nd 2010

Cyberwar: The meaning of Stuxnet

China: The debate over universal values

Banyan: A half-pike up the nostril

Charlemagne: Economic sanctions? Yes, please

Innovation in Asia: Trading places

Buttonwood: The last great hope

情報世界における標的を絞ったミサイルが開発されたようです。その背後には豊富な資金や技術者を集めた政府組織がいます。また、中国ではノーベル平和賞の候補の段階で政治的圧力を行使し、国内では改革派が保守派と「ルニヴァーサル・ヴァリュー」について論争していました。その中国の姿勢を、日本や東南アジアなど、周辺諸国は警戒し、協力しつつあります。

ユーロ圏の財政赤字を削減する目標は、経済ガバナンスを制度化する試みに向かっています。しかし、ブラッセルが余りにも大きな権力を与えられれば、たとえば、「競争力」を監視する明確な基準を決めることも難しく、偏った判断や処罰を非難されるだけです。

新興市場向けの投資に過度の期待を煽ることは危険でしょう。しかし、日本の技術革新が衰え、中国に追い抜かれるという予想には、GDPで抜かれる以上に深刻な「衰退」を感じます。「わずか5年前に、アップル社のi-Podを分解すれば、日本製の部品がいっぱい出てきた。今では、重要な部品のほとんどが韓国製や台湾製だ。」