IPEの果樹園2010

今週のReview

9/27-10/2

 

*****************************

IPE研究ノート 9/27/10

尖閣諸島問題で沖縄地方検察庁に拘束されていた船長は、処分保留のまま釈放されました。「検察独自の判断」という説明が報道されています。

テレビ番組を観ながら、いくつか思ったことを記します。

l         中国側の政府やメディアは、尖閣諸島は中国の領土であり、漁は合法だ、と主張します。日本側は、そもそも領土問題を認めない、という方針でした。・・・だから交渉も必要ない? これは、中国の望むような「領土問題を認めさせる」シナリオに乗らない、という判断であったかもしれません。しかし、日本国内で国民に「日本の国内問題」という筋を通したとしても、国際社会のイメージは管理できません。明らかに「領土問題」として宣伝され(そして公認され)たのです。しかも、日本はそれに対処できていない、と。

l         政治介入はしていない。検察の判断だ。国内法に従って、「粛々と」進める。・・・このような政府の説明は、問題を内政的にも、外交的にも、正しく扱えないまま、自ら手を縛ったと思います。小沢問題との関係で、民主党内にはこのような処置(政府の不介入)を重視する流れがあったのか、とさえ思いました。その後は、自民党なども、こうした論点を繰り返しています。

l         他の事例との関連性。中国の領土問題。中国の対外姿勢。・・・レアメタルの禁輸。旅館のキャンセル。フジタの社員4人拘束。その他、中国の対外交渉圧力は、ひたすら問題の拡大・リンケージとエスカレートを加速しました。その他の対外摩擦についてもそうであれば、日本は動揺することなく、国際的な交渉のルールを関連する諸国も参加して求めるべきでしょう。周辺諸国との領土問題、企業買収、リオティント、外貨準備、為替レート、その他。

l         温家宝首相の発言とエスカレーション。中国政府の行動は何によって説明できるのか? 中国における指導体制の移行期。中国の国内秩序とその権力基盤。国内のナショナリズム。人民解放軍の影響力。・・・中国は、日本側の政治判断を期待した、と紹介する記事があります。中国政府にとって、長引き過ぎた、政治問題化した、と思うような国内事情があったかもしれません。日本に領土問題で「屈した」という印象を与えないためには、強硬な姿勢が必要です。北朝鮮と中国との関係でも、これまで国際社会の基準はあてはまりませんでした。

l         中国のパワーの増大と不均衡。ギルピンのテーマ。宥和政策。・・・中国の台頭は、数年で、日本を国際政治から消し去ったほど強烈でした。東アジアはもちろん、国際政治においても、秩序が依拠するパワーの配分を大きく変えてしまったわけです。戦争も、貿易や投資も、中国の意向を無視しては決定できないでしょう。船長の解放も、こうした「宥和政策」の一環です。突出した経済成長についての自信が、周辺の領土問題を新しいバランスで意識し直し、海上輸送の確保や海底資源など、海洋権益を重視するのも当然です。

l         中国は戦後の国際秩序を承認していない。特にアジアや周辺領域に関して、台湾の国民党政府が合意したことや、アメリカの決定したことを、受け入れたわけではない。中国は革命政府であり、それ以前の権力を継承した台湾政府や、日本やアメリカの占領地域・時期の合意を引き継ぐ意思がない。中国の視点で、正しい境界線を求めるだろう。

l         経済成長は、時間が経つほど中国に優位を与えるから、「協調」と「強制」の枠組みに急いで参加しない。中国は、アメリカと対抗して発展途上諸国に影響力を行使できる。日中の戦略的互恵関係、には中身がない。EUはもちろん、米中に比べても、交渉や利益分配・共有、危機回避のメカニズムができていない。

「最初から、外交問題として立てるべきだった。司法(の独立性を)問題としたのは間違い。」と、私も思います。国会の論争も、首相と外相が正面から日中問題を取り上げて、正しい解決に向けた方針を議論するべきでしょう。中国側からの発言や日本国内の多様な利害関係者、また、日本国内でもナショナリズムや中国系学校への嫌がらせをもっと政治指導者が取り上げて、論争を新しい合意形成に向けなければなりません。

「中国との関係は、通常と異なっている。」 歴史的に観ても、文化的に観ても、日中関係は複雑な、深い理解を要するでしょう。政権交代によって、民主党政権が新しい国際関係を目指したのは重要な転機をなすものです。他方、中国政府は日本やアメリカの姿勢を試している、と思います。少なくともアジアから、アメリカの政治的影響力を取り除き、中国が秩序を築く、という目標は外から否定できません。その目標や達成方法の正当性を問う過程がこれからも続くでしょう。

l         何が日本の国益か? 今回の紛争を評価すれば・・・中国: 内政+5、外交―2・・・日本: 内政―2、外交―3 でしょうか。日本が今後の交渉や新しい紛争において評価を高めるとすれば、もっと異なる発想や手段を準備しておくこと、日中を含むさまざまな諸国間で協力関係深め、制度を構築することです。それは、どのようなものになるでしょうか? 政府はこれを論争のテーマにしてください。

******************************

アメリカと景気回復 ・・・尖閣諸島からASEANまで ・・・中国の経済政策 ・・・イギリス労働党の党首選び ・・・貧困解消に向けた国際協調 ・・・ヨーロッパの憂鬱 ・・・小麦価格の高騰

******************************

主要な出典 Bloomberg, China Daily, The Guardian, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, The Observer, SPIEGEL ONLINE, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


l         アメリカと景気回復

WP Friday, September 17, 2010; A17

What America needs is a payroll tax cut

By Nouriel Roubini

オバマ政権と連銀の刺激策と介入にもかかわらず、危機後、3年に近い時間が過ぎても、アメリカ経済は回復しません。財政赤字が増大した結果、議会は一層の刺激策を認めないでしょう。「二番底」の危険は、無いものと思われていましたが、次第に現実味を帯びています。

政府が必要としているのは、財政赤字を増やさず、需要と雇用を増やすような政策です。研究開発費に対する減税や、投資に対する一時的減税、などが、1980年代にも試みられました。

Nouriel Roubiniは、現状に対するより優れた政策として、2年に限った給与税の減税を提案します。労働コストの低下は雇用を増やすでしょう。また、被雇用者にとっては手取りが増えて、債務の返済にも役立ちます。

オバマ政権の政策は、資本を助けるばかりで、労働への需要を刺激していません。しかし、企業は資本財や海外生産拠点に投資して、なかなか労働需要を増やしません。その財源として、ブッシュ減税を25万ドル以上の所得層には廃止します。しかも、雇用を増やす見込みは中小企業に大きく、その雇用者に対する減税効果を大きくする形で設計します。

資本・大企業ではなく、雇用や支出から、景気回復を促すことが求められます。

NYT September 16, 2010

The Tax-Cut Racket

By PAUL KRUGMAN

guardian.co.uk, Saturday 18 September 2010

We're all counting on eastern promise

Liam Byrne

アメリカの中産階級が債務と過剰消費によって「成長のエンジン」であった時代は、金融危機によって終わったけれど、その後、世界経済には運転手がいません。中国は世界最初の超大国にして発展途上国なのであり、貧しい労働者たちは消費するより、まだ、貯蓄に懸命です。アジアの中産階級が育つまで、世界経済は安定した回復を期待できません。

NYT September 18, 2010

How Underwater Mortgages Can Float the Economy

By GLENN HUBBARD and CHRIS MAYER

財政赤字を増やさない景気刺激策として、GLENN HUBBARDらは住宅市場の債務を処理することを提案します。

通常であれば、モーゲージ市場は今の低金利を利用して住宅債務を借り換えることに役立つはずです。しかし、今は住宅価格の下落、債務者の所得低下、銀行の貸し出し意欲低下、がそれを妨げています。そこで、政府の支援する金融機関が新しい金融仲介を行います。

WP Monday, September 20, 2010; A15

The ritual of sound-bite economics

By Robert J. Samuelson

オバマの政策は大恐慌の再現を防いだのか、それとも景気回復を妨げているのか? しかし、右派は経済を政治が救済するとは考えません。左派は大きな政府を解決策として支持します。彼らはアナーキーに向かうのか、あるいは、高税率、規制、財政赤字に向かうのか。

「選挙は難しい問題を明確にし、社会対立の解決に役立つ、と教科書は述べる。しかし実際は、選挙が混乱と非現実的な期待をもたらす。なぜなら選挙で、政治家は出まかせの解決策を売り込み、達成不可能な約束をするから。」

「アメリカ人は重要な選択に直面している。現在の景気回復を損なわずに、どうやって長期的に予算赤字を削るか? 医療保険を損なわずに、どうやって医療支出を減らすか? 力強い経済を維持するために、どうやって高齢化する社会を調整するか? こうした難しい問題について、沈黙している者は有権者の耳に届かない。」

guardian.co.uk, Thursday 23 September 2010

Trade is vital to stimulate the economy

Leon Brittan

サッチャーが政権に就いたときの問題と今は異なる。連立政権の課題は、肥大化した政府部門や調整を受け入れない労働組合ではなく、それらが改革された結果、イギリス経済のバランスは回復し、その後のバブルで肥大化した債務や金融部門が調整を求められている。そこで、今は貿易自由化政策や投資を呼び込む政策が重要だ。

FT September 23 2010

Guzzle for the sake of the world economy

By Samuel Brittan

要するに、貯蓄と投資のバランスを回復すれば景気は良くなるはずです。Charles Dumas, Globalisation Fracturesに言及しながら、Samuel Brittanは、その政策による是正策が現実的なものかどうか、考察します。

経常黒字国(貯蓄過剰)があるのだから、@彼らが支出を増やせばよいでしょう。中国、ドイツ、日本、・・・「ユーラシア過剰貯蓄圏」。しかし、ドイツ人は消費したがらない。性分に合わないから、という理由で、支出を刺激する政策を拒んでいます。

Aそれは、「ユーロ圏の終わり」でしょう。ドイツ率いる中欧諸国と分離して、消費を好む地中海諸国は通貨・経済圏を分離するべきだ、という話になります。

3の可能な選択肢は、Bアメリカ中産階級の過剰消費(そして財政赤字や対外赤字)を再生し、西側の過剰貯蓄国が(市場を介さずに)支えることです。

過剰貯蓄の利用として、A中国が西側諸国の優良企業を買収することは、各国政府が拒んでいます。西側は、中国がもっと消費し、自分たちの製品をもっと輸入してほしいのです。あるいは、過剰貯蓄を減らすために、かつてMax Stampが提案したように、発展途上諸国に対してSDRsを発行することも考えます。

いずれにせよ、中国に限らず政府の行動は市場で予測できず、個人や企業はその決定を政策で変えさせることが望ましいとは限りません。


l         尖閣諸島からASEANまで

FP SEPTEMBER 17, 2010

This Week at War: Japan Gets Tough

BY ROBERT HADDICK

周辺諸国の中国に対する意識がどうなるか? 日本の防衛政策はどうなるか?

財政破綻を恐れ、長期政権を欠き、アメリカとの関係は沖縄基地問題で悪化した。このようなときに、中国の軍備拡張を重視する防衛白書を出し、ASEANまで含めて中国との紛争を強調する。東京で日本の防衛政策を、中国に対して転換したタカ派はだれか?

FT September 19 2010

Beijing steps up dispute with Tokyo

By Jamil Anderlini in Beijing and Mure Dickie in Tokyo

FT September 20 2010

Tensions surface after clash at sea

By Mure Dickie in Tokyo and Geoff Dyer in Beijing

船員を解放したが、日本は中国人船長を拘束し、中国政府の発言と対応はエスカレートした。中国は日本の大使を深夜も含めて繰り返し召喚し、東シナ海の海底油田共同開発の交渉も、その他の予定されていた政府高官の交流も止められている。国連総会では日中の会談が見送られ、米中は長時間のトップ会談を行った。中国国内の反日運動には抑制を求めている。

中国政府は日中間の経済関係が損なわれることを望まないだろうが、それと同時に、国内の反日運動家から対日姿勢が弱腰であると非難されることを恐れている。他方、日本政府は中国の軍備増強と公海における活動拡大を嫌っていた。日本の関係者は、2005年の反日デモから中国政府は学んでいるだろう、と中国の強硬姿勢が後退する、船長の釈放で解決を予想する。

WSJ SEPTEMBER 20, 2010

Japan's Growing Assertiveness at Sea

By JAMES MANICOM

日本近海における潜水艦の行動、尖閣諸島周辺における漁業の合意、日本側の海洋資源を保護する法の制定、海底資源の共同開発の交渉、などが、今日の日中紛争に至った経緯を伝えています。以前は一部のナショナリストによる示威行動であったけれど、今回は、紛争を避けてきた両国が、国境線をめぐる紛争に強制的に介入する姿勢を示している点で、共同開発を可能にする法的な解決策を見出す努力を深めるしかない、と見ています。

FP Monday, September 20, 2010

China's maritime aggression should be wake-up call to Japan

Posted By Dan Twining

中国の成長と軍事的な重要性に刺激されて、日本は近隣諸国を巻き込んだ安全保障を積極的に構想し始めたのかもしれません。

「日本は、世界第三位の経済規模、高度な技術力、世界でも最大級の海軍、優れた地理上の位置、豊かで結束した社会、国際システムの最有力国・アメリカと継続してきた同盟、を誇っている。しかし、西側やアジアの指導者たちは、中国にばかり注意を向けて、日本との緊密な連携がもたらす可能性を忘れることがある。同時に、多くの日本人は、高齢化し、経済的な臆病さにとらわれて、自国に対する期待を引き下げることに余りにも慣れてしまっているようだ。中国がますます近隣諸国に強硬な姿勢を示すことを思えば、新しい、そして一層の危険が伴う時代に向けた菅首相の改革と日本再生の計画が成功することを、日本の国民だけでなく、より広く世界が期待している。」

FT September 22 2010

Japan: Inventive intervener

By Mure Dickie

China Daily 2010-09-22

China, the US and ASEAN

By Pang Zhongying

ブッシュ政権はASEANを無視してきましたが、オバマは違います。積極的にアメリカの関与を制度化しています。これはASEANの側にも「中国の台頭」に対するバランスをアメリカに期待する気持があるからです。

他方、中国も開発援助を増やし、ASEANとの緊密な協力関係を築いています。アメリカの指導する地域協力組織としてではなく、中国もASEANによる地域協力・地域統合を支援しています。地域の協力関係を通じて、大国が国際会議にその声を反映させることは多角主義に向かう正しい道筋だ、と主張します。

「アジア太平洋地域では、これまで中国・日本・アメリカの間で、事実上の三極関係が重要だった。しかし新しい三角形が今や形成された。中国とアメリカがASEANで出会う、という関係だ。」

WSJ SEPTEMBER 22, 2010

U.S., Asean to Push Back Against China

By JEREMY PAGE, PATRICK BARTA and JAY SOLOMON

アメリカとアジアの同盟諸国は中国の膨張する強硬姿勢を押し戻すために、安全保障や領土保全に関する協力を深めるべきだ。

ASEANとアメリカの会合で、シンガポールのLee Hsien Loong首相は、アメリカがこの地域に今後もとどまることを明確にするべきだ、と主張しました。「アメリカは、平和の維持を含む、中国に代わることができない役割をアジアで果たしている」と。

しかも記事は、現在、中国との紛争の前面に立っている日本と尖閣諸島問題を積極的に取り上げています。注目すべきことは、この問題が中国の関わる紛争全体の一部でしかないことです。中国政府はトヨタ自動車にも圧力をかけている疑念があり、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ブルネイとも紛争を抱えています。韓国は、特に、北朝鮮による哨戒艦の撃沈に対して、中国が取った対応に不満を持っています。

東南アジアへの援助や投資が増え、世界金融危機で欧米の混乱を観て、近隣地域へのパワーを拡大する意図が強まったかもしれない、と。

むしろ、尖閣諸島の前には、ベトナムとの協力を深めたクリントン国務長官のハノイ訪問における発言によって中国政府が刺激され、中国とアメリカが東南アジアから東シナ海における領土紛争にアメリカの関与を排除しようとした強硬な発言がありました。中国政府はその後、一定の撤回・冷却化を受け入れたけれど、アメリカの姿勢を牽制する過程で起きた尖閣問題においては、日本への不満を逆にエスカレートさせた、という紛争事例なのです。

FP Thursday, September 23, 2010

China has a longer learning curve than I had anticipated

Posted By Daniel W. Drezner

FP Thursday, September 23, 2010

Is China making a rare earth power play?

Posted By Blake Hounshell

これもパワー・ゲームである。中東に石油があるように、中国にも資源がある。世界のレアメタル市場の97%を中国が供給するのは、まさにサウジアラビアとロシアだ。


l         中国の経済政策

NYT September 17, 2010

Mr. Geithner and China

LAT September 19, 2010

China -- economic juggernaut, running scared

Doyle McManus

中国はまだまだ貧しい発展途上国であり、共産党の約束は今後20年間に15000万人の新しい雇用を必要とします。アメリカが人民元の過小評価を理由に相殺関税を課しても、中国は即座に激しく報復し、両国の貿易戦争は世界経済に悪影響を及ぼすだろう。

安価な人民元は中国自身の利益にならない、とガイトナーは人民元の増価を求めます。しかし、中国の政治的支配者は共産党のエリートたちであり、彼らは国民に雇用や所得の増大を約束しました。人民元を強くするまでには、まだもっと多くの雇用と輸出が必要だ、と考えます。

FT September 19 2010

Malaysian bond boost for renminbi

By Kevin Brown in Singapore, Robert Cookson in Hong Kong and Geoff Dyer in Beijing

FT September 19 2010

Beijing is right to ignore the currency pleas

Stephen King

貿易不均衡に対して人民元の増価を求めるアメリカは間違っている、と主張します。1.中国はアメリカよりもはるかに貧しい。未利用の労働力と低賃金が続くうちは、輸出超過が続くだろう。(賛成できませんが。) 2.日本は円高を受け入れたが、黒字が増えた。金融緩和も行って、バブルを生じ、その破裂後は停滞した。

中国が保有する外貨準備も人民元レートの調整を求める理由にならない。なぜなら、中国政府はアメリカなどで企業を買収従っているが、それを阻止された。むしろ、アメリカが進めているのは、ドル安政策である。外貨準備の価値が失われているのだから、中国は急いでドルから逃げ出そうとしている。

結局、アメリカ政府は中国を非難するのではなく、ましてや保護主義に訴えてはならない。むしろ中国の改革に協力するべきだ。社会保障制度を整備し、消費者金融のサービスを普及させることで、中国人の消費が増えるだろう。

China Daily 2010-09-18

Unreasonable demand

アメリカ政府が人民元を非難するのは間違いだ。アメリカは90カ国に対して貿易赤字を出している。人民元が問題ではない。また、アメリカはもっと中国にハイテク製品を輸出すればよい。ところが、それを規制している。

これはアメリカが中間選挙の前に人民元を自分たちの政争に利用しているのだ。

China Daily 2010-09-18

Debtor has edge over creditor

By Zhang Monan

経常収支ではなく、資本収支の不均衡を問題にしなければならない。中国は世界最大の債権国であり、アメリカは世界最大の債務国である。

しかも、中国の資産はその多くが外貨準備であり、他方債務はその多くが直接投資の受け入れである。結果として、中国は巨額の国富を失い、その国際投資は非常に利回りが低いのである。他方、アメリカ政府はその莫大な債務に依拠して世界金融の覇権をいまだに握っている。

こうした条件を逆転させるために、中国は積極的に金融を改革し、国際通貨制度の再編にも参加するべきだ。

FT September 20 2010

China must have the courage to save less

By George Magnus

George Magnusは、米中対立の背後には「金融危機後の世界経済システムの機能に関する」論争があり、誰が是正のための行動をとるべきか、という問題がある、と指摘する。

金融危機の意味は欧米諸国にとって明白であった。彼らは消費を減らし、貯蓄に励む。もし世界経済が円滑に機能するとすれば、それは他の誰かが消費を増やすときだけだ。欧米諸国はそれが中国の役割だ、と考えた。

しかし、中国はそれを嫌っている。人民元を増価させてもアメリカの貿易赤字は減らない、と主張する理由があるし、アメリカは日本が円安を促す市場介入を行っても何も言わなかった。すなわち、中国の人民元を非難するのはアメリカが中国を敵視しているからだ、と反発する。

それにもかかわらず、人民元が強くなることは中国の利益になる。ドルは高すぎるし、中国がドル資産を減らし、もっと消費を重視した経済に転換することは望ましい。この転換を遅らせるほど、将来、転換のショックは大きくなる。それには、制度、企業、労働市場、社会保障の改革が必要だ。

「通貨論争は歴史的に観て、世界経済システムに根ざしており、その調整には債務国・債権国双方の協力が必要だ。これは、ブレトン・ウッズの時代に行われたし、プラザ合意の後にも短期間行われた。今週はその25周年である。しかし、それらは例外であることを、私たちはよく知っている。」

協調型の改革にはグローバルな指導力が必要だ。しかし、アメリカ政府も中国政府も、国内の支持基盤に困惑させられている。アメリカが長期的な財政再建を示すことで、中国の改革と消費拡大を促すよう、指導力を発揮するべきだろう。

それは当面難しく、2012年の米中における指導者交代を待たねばならないだろう。

FT September 21 2010

Wen is right to worry about China’s growth

By Martin Wolf

中国の急成長を止める理由として、Michael Pettisの議論に注目します。すなわち、中国の成長はあまりにも投資に依存し過ぎている、と。

1997年から2009年の間に、GDPに占める総投資の比率は32%から46%に増大した。他方、家計消費は45%からたった36%に減少した。」 これほど多くの貧しい国民がいるにもかかわらず、こうした変化が起きている。それは生産性を上昇させたが、それも衰えつつある。

Michael Pettisはこれを、日本や韓国が示したアジア型の輸出依存成長モデルをさらに強力にしたものだ、という。「低金利、低賃金、低為替レートで、家計部門から工業化に資源を移転した。そして、高率の投資、急速な輸出の増加、膨大な対外黒字をもたらした。」 すなわち、中国は“Japan plus”「強化された日本」なのである。

このモデルは大成功したが、同時に、過剰投資と資源配分の悪化につきあたる。そして、余りにも多くの補助金に依存しているために、この経済モデルを転換することは難しい。中国の場合、輸入資源の価格上昇は利潤を吹き飛ばす。

いつか投資の拡大は終わり、成長が減速するだけでなく、激しい不況に見舞われる。この日本(成長モデル)問題に対して、政府が投資を増やすことも考えられる。金融危機後の刺激策のように。しかし、より好ましいのは消費を増やすことだ。その転換過程には、投資率の低下と不況が待っている。

史上かつてない「キャッチ・アップ」型成長経済が、これほど不均衡を拡大し続ける先には、(日本という)難問が待っている。

LAT September 22, 2010

Confronting China on trade

By Peter Navarro

NYT September 21, 2010

Too Many Hamburgers?

By THOMAS L. FRIEDMAN

最も優れた中国ウォッチャーの一人、Orville Schell the Asia Society)は指摘します。

「中国政府のシステムを理想化することはない。権威主義システムに住みたいとも思わない。しかし、客観的に中国を見つめて、そのシステムの成功を理解する必要を感じている。」

それは、われわれが中国人のようになることを推奨するのではない。われわれが直面している挑戦に向き合い、中国と協力する方法を見出すことを意味する。

WSJ SEPTEMBER 22, 2010

How to Level the Capital Playing Field

By DANIEL GROS

中国が日本の国債を購入し始めた。日本は円高に反発して単独介入を行った。欧米金融当局は日本を非難している。中国がアメリカの財務省証券を買っても、日本が買っても、結果は同じである。アメリカの対外債務が増え、ドル安は妨げられる。中国そして日本の政府は、一層の為替リスクを負った。

中国に人民元の変動を許すよう強制する手段は無い。中国政府は資本規制によってアメリカや日本が中国の金融市場に及ぼす影響を阻止している。アメリカ議会が求めているような報復的な保護関税はWTOで禁止されている。

しかし、一つ解決策がある。IMFは資本規制を認めており、自由化は各国に委ねられているから、アメリカと日本は資本取引の自由化に「互恵性」 reciprocityを求めればよい。すなわち、今後、国債を購入できるのは、その国の国債を日米の居住者にも購入できることを許す国に限る、と宣言するのだ。

資本規制は漏れを生じるが、中国の為替介入の規模を考えれば、十分に意味がある。仲介する西側の金融機関は、その取引を隠せない。中国がすでに保有する25000億ドルの外貨準備を使って報復するだろうか? たとえ中国が憤慨しても、それは難しい。アメリカの財務省証券を売って、何に使うのか? ユーロを買えば、同じ要求を招くだろう。報復の影響は、世界に開かれたアメリカ金融市場にとって限られたものだろう。

それゆえ、決断はアメリカ政府にかかっている。アメリカは人民元の変動を求めるのか、それとも、財政赤字を今後も中国が融資してくれることを望むのか? 両方を望むことはできない。

LAT September 23, 2010

China's 'green economy' will have to wait

Doyle McManus

FT September 23 2010

Patriot games and currency wars

China Daily 2010-09-23

Yuan caught in a US political tangle

By Zhang Zhouxiang


l         イギリス労働党の党首選び

The Observer, Sunday 19 September 2010

David Miliband is the man best placed for leadership

Will Hutton

イギリスでは労働党が新しい党首を選ぶ論争を繰り広げています。ブレア後の労働党をどう見るかは、自民党後の日本政治をどう見るかと、似ていると思います。

Made in Dagenhamという映画を紹介して、左派の労働組合が政治や社会を前進させた時代は過ぎ去った、と指摘します。そして、デイヴィッドとエド、二人のミリバンド兄弟について、ブレアが得た政治的正当性を全く放棄するのではなく、新しい労働党を指導するにふさわしいのはデイヴィッドだ、と考えます。

トニー・ブレアは労働党の社会主義が完全に行き詰まりだと認める勇気があった。それは経済の管制高地を支配し、税制、組合、無条件の社会保障を目指すものだった。」 「労働党は資本主義と国家について全く新しい立場を採るにいたった。資本主義の中で、有効なチェック・アンド・バランスを国家が創り出すこと。市場経済のメリットは、起業家精神を引き出し、厳しい労働に公平な報酬を支払うことだと認めた。

「公平さ」Fairnessこそ、労働党の中心的な価値だ。ところが、ブレアもブラウンも、実際的な政治家だった。イギリス資本主義の改革を行わず、実行可能な福祉国家や公平な社会を示すこともなかった。

彼らは信用膨張の持続できない歳入を使って公的サービスを改善し、タブロイド紙のポピュリズムに追随し、ジョージ・ブッシュとイラクで連携した。大量破壊兵器は見つからず、信用逼迫が起きて、ニュー・レイバーの政策は底が浅いとわかったのだ。

エドのように左派の連携を広げるのか、デイヴィッドのようにニュー・レイバーの正当性を引き継いで資本主義の改革に向かうのか。報酬やシティ、「良い社会」、社会的給付、地域社会、公的介入と社会制度、不動産税も含む財政赤字の削減、をデイヴィッドは説く。


The Observer, Sunday 19 September 2010

We mustn't let the lure of trade blind us to Russia's failings

The west still needs to be wary of Moscow's abuses of power


SPIEGEL ONLINE 09/19/2010

Interview with ISAF Commander Petraeus

We're Not Going 'To Turn Afghanistan Into Any Sort of Switzerland'


l         貧困解消に向けた国際協調

NYT September 18, 2010

Unicef’s Idea

FT September 20 2010

Pool resources and reinvent global aid

By Jeffrey Sachs

最も貧しいものが集まる地域へ、もっと効率的な援助を行うべきだ。あるいは、2国間援助ではなく、国際基金による多角的アプローチが必要だ。援助資金をプールし、その利用はモニターされ、審査される。

FT September 21 2010

Only trade-fuelled growth can help the world’s poor

By William Easterly

FT September 21 2010

Millennium goals

guardian.co.uk, Thursday 23 September 2010

Millennium development goals in an age of fear and loathing

Jeffrey Sachs

NYT September 22, 2010

Boast, Build and Sell

By NICHOLAS D. KRISTOF

世界から極端な貧困をなくすことはできるだろうか? かつて私は、「できると思う」、と答えたことがあります。国連のミレニアム開発目標には、それ(極端な貧困や飢餓をなくす。初等教育を普及させる。など)がうたわれているのですが、実現は難しいということです。NICHOLAS D. KRISTOFの記事を読みました。

「貧しい人々を支援するのは、思うよりも難しい。」・・・たとえば、学校を建てても、それだけで教育は普及しない。都市から何百マイルも離れた村で、教師を雇用し、給与を支払わねばならない。農作業が忙しくても、子供たちは学校に来て、教科書や文房具もない教室で、十分な栄養もない食事、寄生虫に苦しみながら、勉強を続けるだろうか? 援助はしばしば資金提供するだけで、それが実際には武器の購入に使われても分からない。・・・

NICHOLAS D. KRISTOFは、また、貧困の解消だけでなく、富の創造に努力するべきだ、と主張します。貧困を減らすのは慈善ではなく経済成長であり、援助ではなく貿易の増大なのです。アフリカと東アジアの違いが示すように。

NICHOLAS D. KRISTOFが強調する最後の点は、もっと目標を宣伝せよ、ということです。裕福な国が真剣に参加するとしたら、たとえば、世界の貧困問題が彼らの安全保障と関係している、と宣伝することです。さまざまな予算が削られていますが、同時に、各国はテロ対策やアフガニスタンでの戦闘に軍事予算を割いているからです。

NYT September 22, 2010

Missed Goals

FT September 23 2010

We need a Tobin tax to fund development

By Pete Stark


FT September 19 2010

Tea with little sympathy for US

By Clive Crook

WP Thursday, September 23, 2010; A27

The Tea Party: Tempest in a very small teapot

By E.J. Dionne Jr.

WP Thursday, September 23, 2010;

The real un-Americans

By Harold Meyerson


l         ヨーロッパの憂鬱

FT September 19 2010

Thinking the unthinkable

WSJ SEPTEMBER 20, 2010

The Perils of a Schizophrenic Euro Zone

By MARCO ANNUNZIATA

FT September 21 2010

Ireland’s dilemma

7500億ユーロの安定化基金でギリシャ危機を回避したかに見えたヨーロッパが、早くも危機を再現しつつあります。金融市場はヨーロッパの政策決定が硬化症に陥っていることを悲観しているのでしょうか。破綻の危機を完全に払しょくするには、EUがすべての政府債務を保証することでしょう。その一方で、ドイツは、モラル・ハザードを許すような処理を認めません。投資家たちは、IMFが新興市場で行うような、債務の削減や組み換えメカニズムが適用されることを恐れています。

その中間案として、EUは財政支援を延長し、IMFが赤字国の財政を監視する、という可能性があります。ギリシャが財政規律を守るか?

FT September 20 2010

A European turn for Sweden

guardian.co.uk, Tuesday 21 September 2010

Swedish politics pays the price for ignoring immigration

Ola Tedin

The Guardian, Tuesday 21 September 2010

Social democracy: Stockholm syndrome

スウェーデンでも、ヨーロッパに広まる移民論争が強まり、移民排斥を唱える保守政党が与党の勝利を阻む力を発揮しました。

WSJ SEPTEMBER 22, 2010

A Scandinavian Model

YaleGlobal , 22 September 2010

Challenges for a Squabbling Europe – Part I

Katinka Barysch

FT September 23 2010

Europe must make way for a modern IMF

By Paulo Nogueira Batista

ヨーロッパ諸国はIMF改革を阻止しています。


l         クルーグマンと金融危機

FP SEPTEMBER 20, 2010

Why Is Paul Krugman Blaming Foreigners for the Financial Crisis?

BY RAGHURAM G. RAJAN

2008年の金融危機をめぐって論争は続いています。Paul Krugman and Robin Wells は、the New York Review of Booksにおいて RAGHURAM G. RAJAN の新著Fault Linesを批判したようです。これはその反論です。

Krugmanは、住宅バブルをファニーメイやフレディーマックと結びつけず、アメリカの金融政策の失敗とも考えません。そして、中国やドイツのような対外黒字国が、その過剰貯蓄をアメリカに押し付けたことを重視します。RAJANは、こうした金融危機の原因を間違って理解しているから、刺激策を繰り返す標準的な対策が十分に機能していないことを理解できないのだ、と批判します。


l         サマーズ辞任と経済政策

FP Tuesday, September 21, 2010

Summers's end: the White House exodus continues

Posted By David Rothkopf

FT September 22 2010

Obama must use Summers’ exit to chart new course

By William Galston

夏の終わりに、サマーズも辞任します。オバマはこの機会に経済政策を立て直せるでしょうか?

これは、サマーズが率いた経済チームが崩壊を防いだけれども再生をもたらせなかったこと、11月の中間選挙でオバマは共和党との対話を求めるしかなくなること、を意味しています。つまり、正統派のケインズ主義はふさわしくない。

FT September 22 2010

Advisers advise but the president must lead

By David Rothkopf

FT September 22 2010

Summers leaves Obama’s team

WP Wednesday, September 22, 2010;

What Obamanomics is missing: Disruptive innovation

By Matt Miller

既得権による政治の停滞や政策の無効化を抜け出すには、戦争や不況が必要かもしれません。しかし、それなしにも、企業家精神や資本主義の制度的な柔軟性を政府が刺激して、アメリカ経済に新しい成長を呼び込むことです。オバマ政権・バージョン2.0は、こうした"disruptive innovation"を必要としています。


FT September 23 2010

Nato’s long drift towards irrelevance

By Philip Stephens


WSJ SEPTEMBER 23, 2010

The Decline of the Left

By EMMA-KATE SYMONS

******************************

The Economist September 11th 2010

Britain’s defence review: Defending the realm

Agriculture: Don’t starve thy neighbour

Riots in Mozambique: The angry poor

Wheat prices: Field events

Japan’s leadership challenge: The dark side

The Hispanicisation of America: The law of large numbers

Lexington: 9/11 plus nine

Charlemagne: Rules of the Brussels club

Siemens: A giant awakens

Buttonwood The cycle lane

Economics focus: Automatic reaction

(コメント) 財政赤字の削減を急務と認めつつも、防衛予算は急激にカットしてはならない、と主張します。「貿易に依拠した島国であるイギリスは、国際的なルールの強制に誰よりも関心を持つ。」 イギリスの軍事力(軍事的な行動力)は、イギリスにとっても世界にとっても利益である、と。これは、日本についても言えるのではないでしょうか? あるいは、島国ではなくても、貿易に依存した中国も?

小麦価格の高騰に対するThe Economistの意見は興味深いです。ロシアなど、小麦輸出国が禁輸したり、小麦輸入国が自給政策を推進したりするのは、結局、世界の黒麦供給を減らすでしょう。それは「近隣窮乏化(飢餓化)政策」なのです。

小麦価格の上昇に、市場を非難するより、新興市場の中産階級や気候変動など、長期的な需要の増大を考慮するなら、技術革新や世界的な食糧市場と投資の促進を重視するべきだ、と考えます。そして、他方で消費国が農業保護を撤廃して自由化し、国際市場を信頼できるように、禁輸などに対する報復措置を国際合意し、食糧の国際備蓄制度を構築して管理するべきだ、と考えます。また、国債市場だけでなく、モザンビークが食糧不足に陥る様々な理由を解決する必要があるでしょう。

アメリカにおけるヒスパニック系人口の増大が政治的な変化を意味するのは当然であり、そのスピードは予想を越えるかもしれません。非合法移民をめぐる論争は、すでに政治の潮流を動かしています。他方、オバマの外交方針や、EUの改革圧力が、その意図された成果をもたらしていないことを考察しています。

経済変動について、長期波動の分析や、労働市場の「空洞化」(中間的な労働者の減少)が関心を集めます。